これは異なことを聞く。沖縄の民意を踏みにじった首相が28日夜、民意を大切にするよう進言してきた閣僚の1人を罷免した。どういう了見だろうか。県民はとても納得できまい。
日米両政府はこの日午前、宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設先を、名護市辺野古崎地区などとする共同声明を発表した。
これを受けた政府方針への署名を社民党党首の福島瑞穂消費者行政担当相が拒んだことから、鳩山由紀夫首相が罷免を決めたというが、おかしいだろう。
非は沖縄を切り捨てた側にあるのであって、首相こそ責任を問われてしかるべきだ。
■日米声明で決着せず
日米の外務、防衛4閣僚で発表した共同声明は、海兵隊ヘリ基地である普天間飛行場の機能を名護市辺野古崎地区とこれに隣接する水域に移し、1800メートルの滑走路を建設する内容だ。鹿児島県徳之島など県外への一部訓練移転拡充を盛り込んではいるが、現行計画と大筋で変わらない。
普天間飛行場は市街地のど真ん中に位置し、世界一危険とも言われる。その機能を辺野古に移設するということは、危険の県内たらい回しにほかならず、何ら問題の解決につながらない。そのことを県民は、選挙結果や県議会決議、県民大会開催など、あらゆる機会をとらえて訴えてきた。
にもかかわらず、鳩山政権が過去の政権の「負の遺産」を無批判に受け継ぐとはどういうことだろう。「変革」「政治主導」を旗印に誕生した政権の取るべき道ではあるまい。
首相は、普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」「辺野古の海を埋め立てることは自然に対する冒涜(ぼうとく)」と発言してきた。今回の日米の再確認は、これらの発言に明らかに反しており、政治責任は避けられない。
共同声明の発表にこぎ着けたことで、5月末決着の約束を果たしたと考えているなら、認識違いも甚だしい。
連立を組む政党の党首でありながら罷免された福島氏は、会見で「犠牲を払ってきた沖縄の人たちに、これ以上の負担を強いるわけにはいかない」と話した。
「米軍再編や在日米軍基地の在り方について見直しの方向で臨む」とした連立合意を踏まえれば、譲れない一線であったろう。
一方の首相は、福島氏を罷免した後の会見で「国民の安全と生活にかかわる」と強調した。沖縄の人々を切り捨てておきながら、安全や生活を説く神経が知れない。政権トップの感覚、政治家としての資質さえ疑う。
普天間全面返還で日米が合意した1996年、橋本龍太郎首相が出した沖縄問題についての首相談話は冒頭、こう記されている。
「大戦で沖縄県民が受けた大きな犠牲と、県勢の実情、今日まで県民が耐えてきた苦しみと負担の大きさを思うとき、努力が十分なものであったか謙虚に省みるとともに、沖縄の痛みを国民全体で分かち合うことがいかに大切であるかを痛感している」
■民意無視合意は破綻
侵略と植民地支配を認めて謝罪した95年の「村山談話」もそうだが、首相談話は政権が代わろうとも脈々と生きる、いわば普遍性を帯びたものだ。代々の政権は談話を踏まえた対応が基本的には求められる。
橋本談話から14年。今回の日米共同声明はどうか。冒頭に日米同盟の意義を「抑止力の提供」など軍事的観点から長々と記し、二つ目の文脈でやっと「沖縄の負担」のことが出てくる。
それも「閣僚は、沖縄を含む地元への影響を軽減するとの決意を再確認し、日本での米軍の持続的なプレゼンスを確保していく」とあっさり。後段で「過重な負担」の記述はあるが、全体として軍事優先の色合いが濃い。
橋本談話にある「謙虚に省みる」姿勢や、痛みを「国民全体で分かち合う」大切さは忘れ去られた格好だ。
そもそも、沖縄の積年の痛みを「負担の軽減」などという常套(じょうとう)句で片付けてほしくない。県民の切なる願いは「耐え難い苦痛の解消」であり、痛みを「再発させない抜本策」なのである。
民意無視の合意はいずれ破綻(はたん)しよう。日米両政府は国外移設を軸に、実現性のある移設策を探るほうが賢明と知るべきだ。
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