事件が一日早かったら山口県岩国市長選もどうなっていたか分からない。住民に不安を増大させる米兵の少女暴行事件が沖縄でまた起きた。再発防止は何度も聞いた。政府は根絶へ本腰を入れよ。
米空母艦載機の移転容認派が当選した岩国市長選投票日の十日夜、事件は起きた。米海兵隊キャンプ・コートニーの二等軍曹が沖縄市内で三人連れの少女に声を掛け、一人を自宅へ誘い込んだ。少女が泣きだすと車で連れ出し、車内で暴行したとして沖縄署が逮捕した。米兵は容疑を否認している。
沖縄県の仲井真弘多知事は「女性の人権を蹂躙(じゅうりん)する重大な犯罪だ」と非難、怒りの渦が広がっている。国民の平和と安全を守るはずの日米同盟が、国民に恐怖感を与える事態を招くことなど、本来あってはならない。なのに、私たちは何度米兵の野卑の報に接してきたのか。
一九九五年、米海兵隊員三人が小学生女児を暴行した事件は国内外に衝撃を与えた。事件を機に日米両政府は米軍普天間飛行場の返還で合意し、米軍の特権などを定めた日米地位協定の運用改善で一致したが、米兵の不祥事は後を絶たない。
その度に政府は米側に綱紀粛正と再発防止を求めてきたにもかかわらず、である。一連の事件が同盟の根幹にかかわる問題との認識が両政府ともに希薄ではなかったか。
事件は普天間飛行場の移設問題にも影響を与えよう。移設先の名護市などが滑走路建設に向けた環境影響評価(アセスメント)の調査開始に基本合意したことを受け、政府は米軍再編交付金を支給する意向だ。手詰まり状態から一歩前進しつつあったが、事件で住民が移設に反発を強めるのは必至。米軍基地を抱える全国自治体への影響も大きい。
政府に求められるのは、カネにものをいわせて押し切る政策ではない。米側に毅然(きぜん)とした態度で臨む一方、住民と丁寧に対話することが基本だ。福田康夫首相は「大変大きな問題だ。しっかり対応してほしい」と指示した。これまで目についた人ごとのような姿勢は許されまい。
日米地位協定の見直しを検討すべきときだ。米側が容疑者を逮捕した場合、日本の検察が起訴するまで米側が身柄拘束するため、十分な捜査が阻まれるなど不平等な点が多い。運用改善で米側も柔軟に対応するようになったが、あくまで米側の裁量に委ねられる。
今回はこのケースを免れたが、改定も視野に入れる強い態度で臨むことが事件根絶への近道ではないか。繰り返される悲劇に終止符を打つような具体策づくりを急げ。
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