2010年5月29日0時33分
「法人税を引き下げるべきだ」との議論がようやく政治や政策の場で聞こえてくるようになった。しかし、この議論はいかにも遅すぎる。
国内製造業で、新規工場の立ち上げや、新しい工業団地の旗揚げは、聞かなくなって久しい。精密機器、電子部品・半導体、電機、自動車、いずれも企業規模や生産の規模は拡大しているが、大きくなったのは海外の拠点工場だ。
逆に、海外から、我が国へ拠点を移して生産する企業はないに等しい。証券市場への投資はあっても、雇用を伴い生産活動を行う投資には魅力がない。法人実効税率が40%を超える国をわざわざ選ぶ国際企業はないのだ。
産業の空洞化は、生産拠点の移転にとどまらない。技術開発や研究部門も例外でなくなっている。革新的な中小企業では、税負担を嫌って経営者の海外移住も静かに始まっている。恐ろしいことに、最先端産業ほど空洞化は進む。
そして、いったん海外に移転したら、設備も技術も資産も、この国には帰ってこない。輸出立国の基盤が失われかねないのだ。
そこで産業活性化の国家戦略として以下を提案したい。(1)大学及び研究機関へ十分な予算の提供(2)企業の研究開発投資に対する税の優遇処置(3)法人実効税率を他国並み(25〜30%)に引き下げ(4)製造設備に対する減価償却期間の短縮(5年以下)(5)相続税を廃止する――。
高速道路の無料化や子ども手当といった消費刺激策は、選挙の票にはつながるだろうが、産業の活性化にはほど遠い。産業空洞化を放置して輸出立国をあきらめれば、経常赤字と財政赤字を抱え込み、危機に陥ったギリシャの二の舞いとなりかねない。(樹)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。