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天声人語

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2010年5月28日(金)付

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 「国技」の二文字には、どこか背筋の伸びる響きがある。相撲を国技と呼ぶ習わしは、明治の末に「両国国技館」が開館して広まったらしい。その命名は難産だったといい、やれ相撲館だ武道館だと議論百出した▼そうするうち、ある親方が言った「国技館」に、命名の委員長だった板垣退助が飛びついたという。華々しく開館したものの、「国技という新熟語も妙だが、角力(すもう)ばかりが国技でもあるまい」と書く新聞もあったそうだ。以上のことは、作家半藤一利さんの著作に教えられた▼その国技に何度目の汚点だろう。ここ数年、リンチまがいの力士死亡、度重なる大麻事件、元横綱朝青龍の暴行騒動と続き、先ごろは野球賭博の疑いを週刊誌が報じた。何度もため息をつかせて、今度は暴力団との黒い関係である▼土俵を囲む上席を暴力団幹部らに都合していたという。一般には買えない席で、テレビ中継では正面に映る。延べ約50人がここから、刑務所で観戦する組長らに「顔」を見せていたらしい。現役親方2人が処分を受けた▼「大師は弘法に奪わる」と古い諺(ことわざ)に言う。大師はもともと高僧の称号だが、ただ「大師」とだけ言えば空海(弘法大師)をさす、という意味だ。明治の国技館から1世紀、「国技」と言われて思うのはまず相撲である▼「国技は相撲に奪わる」とでも言うべきか。だが、こうも黒星続きでは、日本古来の他の武道に申し訳が立つまい。黒い関係は浅くないと聞く。断ち切るまでは「国技」を名乗るのを禁じたいものだ。それが一番、薬になろう。

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