1 本年5月14日、わたしは、外国特派員協会で、
「日本における改善の動きが見られない児童ポルノ問題-特に政権与党とマスメディアの取組み姿勢について」
という演題でスピーチを行いました。 概要は次のとおりです。
児童ポルノは「諸悪の中の最大の悪」です。児童ポルノの多くは子どもに対するおぞましい性的虐待を映したものであり、そこに映っているのは犯罪そのものです。その対象は今や乳幼児にまで拡大しています。親が自分の子供の写真を送り、金儲けをするという事件が複数検挙されました。また、ポルノというよりも虐待そのものの画像を増えています。幼児を裸にして縛ったり、拘束具をつけたり、目を覆うようなものが増えています。事態は悪化の一途をたどっています。
犠牲となった(写真を撮られた)子供の大部分は、その顔を画像の中でさらされ、その画像はインターネットを通じてほとんど永久に流通します。幼いころに(子供時代に)性的虐待を受けた者は、永久に心の傷を負って生きなければなりません。誰が「児童ポルノを楽しむだけなら誰も傷つけない」などと言えるでしょうか?我々は、児童ポルノの存在を許す社会を決して容認できません(すべきではありません)。子供たちは抵抗できません。彼らは苦しみ、明るい未来を奪われてしまいます。
児童ポルノの単純所持は、たとえ提供(譲渡)の目的がなくても、世界的に犯罪行為とみなされています。大多数の西側諸国ではこれを禁じています。G8の中ではロシアと日本だけが例外です。さらに、多くの国ではCGや漫画の形をとった児童ポルノが禁じられています。2009年8月には、国連女性差別撤廃委員会が日本にビデオゲームや漫画の形をとったポルノの販売を禁止するよう要請しています。
2007年に内閣府が行った調査は、90%以上の日本の人々が児童ポルノの単純所持を禁止する考えを支持していることを示しています。90%近くが、児童ポルノを描いたCGや漫画を規制することに賛成しています。
2009年、自民党と公明党は、提供目的のない児童ポルノの単純所持禁止を含む児童買春・児童ポルノ禁止法の改正案を国会に提出しました。しかし、民主党はこの法案に反対しました。彼らは、児童ポルノの定義を狭め、禁止の範囲を有償取得又は複数回の取得に限った対案を提出しました。結果として、今日に至るまで、法の修正は行われていません。
この問題に対する民主党の対応は圧倒的多数の世論に反し、現状を放置し、或いは悪化させるもので、嘆かわしいものです。
わたくしどもは、「児童ポルノを許さない社会を実現するための弁護士フォーラム」を設立し、本年3月31日に、日本のメディアを通じて緊急アピールを行う機会を得ました。
わたくしどもは、各政党、特に民主党に対して、今国会での法改正により、児童ポルノの単純所持を禁止するよう働きかけました。民主党については、4月6日に副幹事長の一人である樋高氏に会い、法改正を行うよう要請しました。彼は、検討すると言いましたが、それ以降、何のアクションも起こされていません。民主党の国会議員の多くは法改正に反対であると感じております。民主党のこの問題に関する見解は変わっていないか、むしろ悪化しています。
民主党が昨年国会に提出した案では、単純所持をそのまま認めるのみならず、児童ポルノの定義を狭くしており、それによると、性器を殊更に強調せずに幼児を裸にして縛るなどの虐待画像が、規制される児童ポルノの対象から外れることとなります。明らかな後退です。残虐な児童ポルノ愛好者が喜ぶだけの改正です。なぜこのような案を提出するのか信じられません。
わたくしどもは、インターネット・サービス・プロバイダにブロッキングを実行するよう要請しました。いまだどこからも回答はなく、何のアクションも起こされていません。彼らは、動きたくないように見えます。我々は、総務省にも働きかけました。何の回答もありません。報道によると、原口大臣が、ブロッキングを政府の児童ポルノ対策に含める意図を表明しています。何が行われるかを確認していきたいと思います。しかし、私は楽観していません。一部の人々は、ブロッキングの手法が通信の秘密を侵害するかもしれないと論じています。もし、政府が正しい方向に進むのなら、あまり多くの限定をつけたりあまりに重い手続きを課すことなく、本当に効果的なブロッキングの手法を導入することを望んでいます。
わたくしどもは、日本のメディアの関心の無さに失望しています。わたくしどものアピールについて毎日新聞と読売新聞は報じましたが、他は沈黙したままです。反対に、朝日新聞は、大きなスペースを割いて、東京都が児童ポルノを描いた漫画の販売を規制する条例案を都議会に提出したことを報じています。児童ポルノが描かれた漫画を子どもに販売することを禁止することは当然でしょう。朝日新聞はそれを「監視の目 マンガにも」と見出しをつけるなどさも問題であるかのように報道しています。この記事では、「表現の自由」を理由に規制に反対する漫画家の意見を詳細に紹介していました。しかし、朝日新聞がわたくしどものアピールを報道したことはありません。
先ほども触れたように、90%の日本人は単純所持を禁止する考えに賛成しています。自民党と公明党も賛成しています。民主党がこれを支持すれば、必要な法改正は実現するのです。しかし、民主党は規制に反対する姿勢を維持しています。単純所持を禁止する法改正の提案に反対することは、結果として児童ポルノを楽しむ行為を容認することです。政府を構成する与党がこのような見解を打ち出していることは信じがたいことです。残念ながら、日本のメディアは、この問題に対する民主党の反応に疑問を表明していません。私は、日本メディアの奇妙な静けさと無関心も問われるべきだと思います。
私が、本日ここに来たのは、皆さんに、この問題の最近の展開をお知らせするためです。状況はあまり改善していません。それは、日本国民が嫌がっているからではなく、変化を起こすことのできる人たちがこの問題の深刻さに背をむけてしまっているからです。メディアの関心の無さ、熱意の無さによって、問題は一層深刻になります。
日本社会の一員として、外国特派員の前でこのような問題をあげつらうのは、恥ずかしいことです。しかし、我々が沈黙していては何も変わりません。児童ポルノの犠牲にならないよう子どもたちを守るのは我々の義務です。少しでも早く動けば一人でも多くの子を救えます。皆さんの声が日本の国会議員、特に民主党員を、そして日本のメディアを動かすことを希望しています。私は、日本のメディアがこの問題を大きく取り上げることを期待していましたが、ほとんど報道されませんでした。皆さんのご理解をお願いしたいと思います。
2 わたしがスピーチで最も強調したのは、児童ポルノの単純所持の禁止に反対する民主党の異常さとそれを問題視しない日本のマスメディアの異常さです。
民主党は野党時代から反対していましたが、わたしは、さすがに政権党になれば、野党当時のような無責任な主張はできないだろうと思っており、政権交代によりこれでて単純所持の禁止は実現するだろうと確信しておりました。いくらなんでも、政府を構成する政権党が子どもに対するすさまじい性的虐待を放置することはないだろうと思っておりましたが、甘かったです。放置し続けているんですね。信じられないことです。
さらに、信じられないのは、このことを日本のマスメディアが何ら問題視しないことです。民主党に気兼ねしているのか、それとも、日本の新聞社、テレビ局は単純所持の禁止に反対なのか。前者であれば、マスコミが政権党に対して委縮していることになり、民主主義の危機でありますし、後者であれば、これまたマスコミの「人権感覚」が信じられないということになります(日本のマスコミ各社の姿勢については別で触れることにします。)。
外国の記者からは「なぜ国連に訴え出ないのか」と問われました。日本人にはできないだろうと思っているようでした。情けない限りなのですが、そうかもしれません。欧米諸国では常識で、日本人の90%が賛成している規制をなぜ民主党は無視し続けるのか。それをなぜマスコミも当然のことのように問題視しないのか。海外のマスコミはわたしのスピーチについて報道してくれました。しかし、日本のマスコミはまたもや無視です。一体、この国はどうなるのか・・・。