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社説:交通格差の解消 移動の権利の確立急げ
大型連休中とあって、街中や行楽地がにぎわいを見せている。人口減少や市街地の衰退など、ややもすると元気を喪失しつつある日々の光景とは違って、心が躍る。こうした活気をどう日常の空間の中に取り戻していくか、今地方に問われている課題である。
そのにぎわいを演出しているのは紛れもなく車だということが、連休中の秋田市内の道路の混雑ぶり、大型商業地の駐車場にあふれている車を見ているとよく分かる。同市のみならず、車移動に合致した生活基盤が県内では隅々まで出来上がっている。
そこで危惧(きぐ)されるのが、車を使えないお年寄りや体の不自由な人が今後ますます増えるというのに、そうした生活基盤だけで果たして社会を維持していけるかどうかという点である。
「移動の権利」という耳慣れない言葉がある。健康で文化的な最低限度の生活を営むのに必要な移動をすべての国民に保障することだ。いわば交通憲法である。政府が来年の通常国会への提出を目指す交通基本法案の根幹に位置付けている。
バスや鉄道、路面電車などの地域の足は、生活や文化、経済活動を支える重要な基盤。だが人口減少や、マイカーの普及、都市が無秩序に郊外に拡大していくスプロール化現象などを背景に、こうした地域公共交通が本県をはじめ全国各地で岐路に立たされている。
基本法案の理念は、車を運転できないお年寄りや体の不自由な人でも、自転車やバスなどを使って町に出やすい環境をつくろうというもの。交通格差がない社会を目指す狙いがある。
地域交通の衰退はコミュニティーの崩壊も招く。人口減少率や高齢化率が全国屈指の高さの本県が、持続可能な社会を維持していくためには「移動の権利」をどう確保するかが重要である。法整備に合わせて、自治体や地域住民、交通業者一体で、地域にふさわしい交通政策は何かを早急に考える必要がある。
また交通政策は人の流れをつくり出す観点から街の活性化策の要にもなる。本県は各地で中心市街地の衰退ぶりが顕著だ。基本法制定を待つまでもなく、地域ごとの交通政策議論を本格化させるべきであろう。
地域の足を守る新たな試みはすでに各地で始まっている。青森県鰺ケ沢町では、集落、町、バス会社の3者による協議会をつくり、住民参加方式でバス路線を支えている。富山市では環境にも配慮して電車を公共交通のメーンに据えた。赤字に悩むJRのローカル線と路面電車を接続し、運行間隔の短縮と低料金設定といった利便性の追求で、利用客増につなげている。
そうした取り組みも地域だけでは限界がある。社会全体で支える仕組みが欠かせない。地方の政策をどう後押しできるのか。法案づくりと併行して、国は支援メニューを示すべきだ。
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