民意無視「屈辱」 辺野古移設声明

翻弄14年 名護憤り「首相、どこ見ている」

2010年5月29日 09時53分この記事をつぶやくこのエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(58分前に更新)

 【名護】「沖縄はまた捨てられた」「怒り、マグマに」―。日米両政府が米軍普天間飛行場の移設先を名護市辺野古とする共同声明を発表した28日、市役所中庭で開かれた「『辺野古合意』を認めない緊急市民集会」(主催・同実行委員会)には約1200人(主催者発表)が参加し、降りしきる雨の中、合意撤回を求めてこぶしを上げた。「最低でも県外」を翻し、地元より対米交渉を優先した鳩山政権に、基地問題で翻弄(ほんろう)され続ける14年のうっせきした怒りが爆発した。(1面参照)

 「今日わたしたちは屈辱の日を迎えた」

 稲嶺進市長が声を振り絞ると会場は一瞬、静まった。稲嶺市長は「雨の中、思いを込めてみんなが集まってくれた。わたしを後押しする大きな力」と参加者に結集を呼び掛けた。

 「(移設と引き替えに)政府から莫大(ばくだい)な金や感謝状を受け取るのか」と問い掛けたのは、辺野古移設反対を訴え座り込みを続けてきた嘉陽宗義さん(87)。「おじい、おばあたちは頑張った、ありがとうと言われる方が価値がある。難関を吹き飛ばして、万歳の日が来るのを信じて頑張ろう」と呼び掛けた。

 13年前、辺野古でヘリポート反対の横断幕を掲げて住民運動の流れをつくった比嘉盛順さん(70)は怒りを吐き出した。「政府はあの手、この手で迫ってくる。稲嶺市長を支え、絶対に基地は造らせない」

 市瀬嵩に住む渡具知武清さん(53)は妻の智佳子さん(48)、息子の武龍君(中1)、娘の和紀ちゃん(8)、和奏ちゃん(8)と壇上に立った。

 武龍君は「鳩山総理の大きな目はどこを見ているのだろう。沖縄はまた捨てられた。子どもはちゃんと見ている」と訴え、約束を守らなかった首相に憤りを隠さなかった。

 集会の最後には、辺野古移設反対を訴えるアピール文を採択し、市議の音頭によるガンバロー三唱で気勢を上げた。

「政治の道具」警戒
訓練海域一部解放・基地立ち入り
県漁連とNGO

 日米共同声明には、沖縄本島東側のホテル・ホテル訓練区域の使用制限一部解除や米軍施設・区域への立ち入りなどの環境に関する合意の検討も盛り込まれたが、具体的な内容や実効性は不透明で、関係者からは「政治的なアピール」との声があがった。

 県漁業協同組合連合会(県漁連)の國吉眞孝会長は「これまでの再三の要請でもなしのつぶてだった。一歩前進とは思うが、このタイミングでの決定は政治の道具にされそうで、素直に喜べない」と複雑な表情を見せた。

 同訓練区域は本島東海上に設定された2万843平方キロで、県漁連は本島に近い海域3600平方キロの一部解除を求めていた。同海域はマグロ漁やパヤオ漁の好漁場となっている。使用制限解除の具体的内容は不明。今後も引き続き要請活動を行うが、普天間代替移設問題とは切り離して求める考えだ。

 日米地位協定改定を実現するNGO理事を務める沖縄国際大学の砂川かおり専任講師は「『合理的な立ち入り』とされているが、誰がどういう手続きで判断するのか非常にあいまい。米側の裁量であれば、今と全く変わらない」と指摘。

 その上で「日米地位協定を改定するため日米間の組織をつくるべきだが『地位協定』の言葉も入っておらず、聞き心地のいい政治的なアピールだ」と批判した。

容認派 手法へ批判
「拳降ろせなくなった」

 【名護】日米共同声明の発表を、条件付きで移設を容認してきた市民はそれぞれの立場で受け止めた。

 皮肉にもこの日は、辺野古移設に伴う事業の地元優先受注などを目指す一般社団法人キャンプ・シュワブ・サポート事業協会(CSS)が、休眠状態が続いていることを理由に一時休業を決めた。

 市商工会長の荻堂盛秀理事長は「共同声明が出たとはいえ、まだひっくり返るかも分からない。首相が『最低でも県外』と地元をあおったせいで、市長も移設反対の拳を下げることができなくなった。地元はみんな怒っている」と話した。

 辺野古区出身の島袋権勇市議会議長は「『県外』と約束した首相が辺野古に戻したことは苦渋の選択だったのだろう。想定内だ」と淡々と受け止め、「沖合に出すなど地元の意向がどれだけ反映されるか注視していく。交渉はそれからだ」と話した。

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