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[5916] Ratio in Lyrical (×ガオガイガー)
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/04/17 12:43
こちらは気分転換に書いたゆめうつつの物語です。

リリカルの世界にガオガイガーの護くん(only&原作10年後)がやってきます。

護くんの設定はかなり改変されております。どちらかというと魔改造?

・・・さておき、気に入らない方はどうぞこのままお戻り下さい。

少しでも面白そうだと思った方は、次へお進み下さい。

ちなみに超不定期更新です。


何でもいいので批評お待ちしております。


(戒道幾巳の出演が決定しました)



[5916] 第一章 序章
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/05/16 14:19
         降り注ぐ雪は輝くように白く――


 「・・・・・・本当にやる気かい?天海」
 「ああ・・・もう、嫌なんだ」
 考え直してくれないかという問いに、親友は疲れ切った声と表情で答えた。
 「僕はこの世界が嫌いだ。何度も何度も、絶望を希望に変えてきた僕を裏切るこの世界が。・・・・・・僕等が、どれだけこの世界に尽くしてきたか、戒道なら分かるだろ?」 
 「・・・・・・」
 言葉にこそしなかったが、伝わるはずだ。親友を始めて10年以上の時が過ぎている。付き合いは、長い。
 「だから僕は、この世界から【消える】。知識と技術の全てを道連れに、ね」
 そう言って笑う彼の渇いた瞳には、おそらくもう、何も映っていない。彼にとっても親友である、自分以外は。
 「・・・・・・直接手を下すなら、この世界にもまだ改善の余地はある」
 「僕は勇者の誇りを忘れたことは一度もないよ。殺しは・・・禁忌だ」
 「そう・・・だな。すまない、おかしなことを言った」
 「よしてよ、気にしてないから」
 それは【最後】を迎える前の他愛ない、楽しささえ覚える会話。しかし楽しい時間は、すぐに過ぎ去る。
 「そろそろ逝くね。もっとも、これで死ぬことになるのか全然分かんないけど」
 「宇宙を代表する頭脳が何を言う」
 「【消滅】するのは確かなんだけど、いや確かなはずなんだけど・・・・・・なんかこう、漠然と生き残りそうな気が」
 「・・・・・・ここに来て弱音を聞くとは思わなかった」
 「酷いな。弱音じゃなくて直感だよ」
 「じゃあ消えはしても死なないんじゃないか?なんにせよ、実験しなければ分からないが」
 「結局は出たとこ勝負か・・・・・・勇気で補える可能性なんて当てにならないのに」
 やれやれと溜息して、天海が目を閉じる。――時間が、来たのだ。
 「予定通りでいいか?」
 「問題ない。・・・ん、全Gストーンの同時励起を確認。戒道」
 「能力の譲渡を開始する」
 二人の身体が緑と赤に、それぞれ輝く。
 やがて赤い光は形を変え、相対する親友、その右手へと収束した。
 「譲渡終了・・・・・・」
 「これで僕はなんの力も持たないただの人間というわけだ」
 「身体強化はしてるから、早々困ることはないと思うけど・・・・・・」
 「気にするな。エネルギーの充填はどうだ?」
 「ん・・・・・・予想値の約1.6倍。十分すぎるかな」
 今ごろ世界中のGストーンが異常稼働して大混乱に陥っているだろう。所詮は低レベルな劣化模造品。事が終わる頃には、全て砕け散っている。データの破壊も万全だ。複製は二度とかなうまい。
 「じゃ、始める。・・・・・・さよなら、戒道幾巳。僕の親友。赤の星のアルマ」
 「さよなら、天海護。僕の親友。緑の星の末裔、救世主ラティオ」
 くすり、と微笑んで、僕は緑のメシアに背を向けた。
 ざくっ、ざくっ。雪が潰れる音の中。
 緑と赤と、紫の閃光が、白銀の夜空を数瞬、照らした。
 背後の気配は既になく。
 僕はそうして【消える】しかなかった親友を思い、涙した。
 「・・・・・・っ」
 自らの無力を、嘆いて。








消えル――――消エル――――キエル――――・・・・・・・・・

 ・・・・・・1つのプログラムとして、それは必然だったのだろう。
 自己の存在が曖昧模糊として希薄になりつつある中、体内に取り込んだZの力が作動したのは。
 機界31原種が1つ、肝臓原種。
 消滅の危機を感じ取った完全復元機能が、己の意思と関係なく発動。
 しかし半ば【消えて】しまった肉体を復元することは叶わず、次善策に移る。
 残った半身を分解、再構成し、身体及びエネルギー規模を縮小することで、連鎖反応のように【消える】現象から宿主を救った。
 ――宿主の意向を、無視して。





 「つ・・・!」
 走った痛みに、護は覚醒を余儀なくされた。
 霞む視界を、開く。
 満天の星空が、瞬いていた。
 「・・・・・・僕・・・は・・・・・・?」
 生きている・・・・・・?
 何故・・・?
 思考をそこまで回したところで、力が抜けた。純粋な疲労だ。
 推測は後にして、まず自分の現状を把握する。
 五体満足。内蔵機能欠損なし。能力異常なし。エネルギー出力・・・・・・縮小?
 「・・・・・・まあ、いいか。それでここは――」
 地面に横たわったまま、見上げて、溜息。
 銀砂をばらまいた夜空に、煌々と輝く月が覗いていた。
 地球と見て、間違いない。しかも星の配置とこの辺りの植生から日本ではないかと疑う。
 もう一度溜息を吐き、上手く動かない身を少しずつ起こしながら、実験は上手くいったのか気になった。 
 成功を収めたのなら、世界はいくらか平和になるだろう。たとえ最初は混乱したとしても。
 外宇宙のテクノロジーが、なくなれば。
 どうにか身を起こし、一息。GやJ、Zに関わらずエネルギーはほぼエンプティ。回復もままならない。
 疲労を押して、ゆっくりと護は立ち上がる。ともすれば寝てしまいそうだが、せめて夜露を逃れる所に行きたい。
 そうして一歩踏み出した時、頭にノイズが、
 《――――・・・》
 ・・・・・・?何かおかしい・・・
 《・・・・・・か》
 ・・・・・・!
 《だれ・・・・・・か》
 ――テレパシー!?
 自らとその親友の間にしかなかった技能。それを目の当たりにし、動揺と疲労から足がもつれ木の幹に片手を付く。
 《聞いて・・・・・・力を・・・・・・・・・魔法の、ちか、ラ――》
 最後は雑音のようになって、途切れる。・・・・・・魔法?
 聞き間違いだろうか。それとも、本当に?
 「・・・・・・会えば分かるか」
 思考もほどほどに、護は足を進める。思念の届いた方へと。
 今のは一種のSOSだ。不特定多数に思念をばら撒いたことからもそれは明らか。自分をはめる罠だというのは考えすぎの自意識過剰。ありえない。
 不幸中の幸いか、泣きっ面に蜂か、ここは山の中。当然暗い。が、それに怯えるような軟弱な精神は持ち合わせていない。そもそも、今の自分にとって暗闇とはあってないようなものなのだから。
 1歩1歩、確かめるように。護は道なき山を下る。
 助けを求められちゃ、助けないわけにはいかないから。・・・・・・ね、ガイ兄ちゃん。





 




 歩いて、歩いて、歩き続けて。
 獣道から山道へ山道からさらに下り、農村らしき場所に出た。
 「・・・・・・ついてるね」
 夜明けも近くなって、護は電柱に手を付き、ふっと笑みを漏らした。
 残ってるなけなしのエネルギーを消費し、跳躍。ふわり、まるで一枚の羽毛のように電線へ足をつける。
 (ちょっと停電になるかもだけど・・・ごめんなさい)
 身勝手な謝罪と分かった上で、ただ自己満足のためにそう告げた。
 左手の甲から紫の光が溢れZの文字が浮かび上がり――



 この土地一帯の電力全てが、強奪された。



 「・・・・・・五分にも、届かなかったな。都市部ならもっと獲れるけど・・・ここじゃ、これが限度だね」
 そう口にしてはみたものの、手っ取り早く原発ぐらい行った方が良いかもしれない。
 ともあれそんなことは後回しだ。一刻も早くあの声の主の所へ行かないと。
 SOSとは、緊急信号なのだから。
 (ESウィンドウ繋げられるほどのエネルギーはないし・・・人に見つからないようにしながらの移動か)
 ――間に合わないかもしれない。
 一瞬、そんな思考が脳裏をよぎるが、即座に振り払う。
 勇者とは、決して諦めない者なのだ。
 「・・・・・・ふふっ」
 自嘲の、笑み。
 一度諦めた奴が何を考えるのかと。
 それでも・・・・・・救えるのなら、救いたい。
 だから僕は、自分でも好きじゃないZの力を使って、電柱に同化した。
 有機体が無機物と半合一化されるこの感覚も・・・大嫌いだ。
 でも、誰にも知られず高速で移動するには、この方法が一番なのも確か。
 決して慣れたくもない感触を肌にしながら、僕はテレパシーの聞こえた方へ、進んだ。







 その日の夜。

 魔法の力を手にした少女は少年と出会う。

 強く優しく、けれどどこか陰のある少年と。

 本来の道行きを外れ、物語は歩き出す。



[5916] 第一幕 第一話 少女と少年+一匹
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/02/07 12:47


 変な夢を見たけど、その日の朝も普段と変わりなかった。
 バスに乗って、すずかちゃんとアリサちゃん、他にたくさんの人と一緒に学校に行った。
 ちょっとだけ、将来のこととか考えちゃったけど、いつもと同じような一日。
 でも違ったのは、帰り道。アリサちゃんに誘われて海浜公園の近道を通った時のこと。
 怪我をしたフェレットさんを偶然見つけて、三人で動物病院に連れて行って。
 当然、誰が飼うかって話になったけど、二人とも家にはたくさんのペットがいるから、うちでどうにかできないかって話になった。うちは飲食店だったけど、家に帰って聞いてみたら、しっかりお世話するならって条件付きで許可してもらえた。
 明日迎えに行くことをワクワクしていたら、夢で聞こえた声が、また。
 そして、誘われるようにフェレットさんの所に行ってみたのはいいんだけど、

 
 ・・・・・・真っ黒い何かに襲われるなんて、思ってもみなかった。


 魔法とか、よくわからないことを色々言われてやってみたら、なんかいきなり変身しちゃったり。
 でも、突然言われたって魔法の使い方なんてわからないよ。
 だから、真っ黒で、赤い目をしたソレに襲いかかられた時も、ただ呆然と立ちすくんでるだけで。
 でもそのおかげで、その時何が起きたのか、この目ではっきり見ることができた。
 ソレがこっちに向かってくる直前。
 綺麗な緑色の輝きが、体当たりをしようとした真っ黒いソレを簡単に吹き飛ばした。
 悲鳴のようなものを上げながら、地面を転がっていくソレ。
 思わず振り返った私が見たのは、同い年くらいの男の子。
 エメラルド色の瞳は優しそうだけど、どこか暗い陰のような印象があった。

 「・・・・・・だれ?」

 私の問いに、男の子は少し驚いたような顔をしたけど、すぐに微笑って答えてくれた。

 「天海、護。・・・キミは?」
 「・・・なのは。高町なのはだよ」

 それが、私と護くんの、長い付き合いになる最初の会話だった。 








 初めに反応があった所には、既に何もなかった。けど、どうにも見過ごせない気配で溢れていたのも確か。僕は電力をつまみ食いしながら街中を探し回ることにした。
 ・・・・・・結局、また反応があるまで何の成果も出なかったわけだけど。
 夜。人目を忍んでビルの屋上で一息吐いてたら、テレパシーが届いた。距離も近いこともあって、すぐには動かず発信源を探る。そして気づいた。
 僕以外にも、この声を受信してる人間がいることに。
 さすがに、何かおかしいと思った。テレパシーは、自分と戒道にしか使えないものだ。世界に二人だけの力のはず。
 だが、現にこうして存在している。ならば認めるしかない。

 「・・・確かめないとね」

 呟いて、護は地面を蹴る。重力などないかのように隣のビルへ、そしてまた隣のビルへ。海鳴というらしいこの街の、住宅街の方へと凄まじい速さで跳び往く。
 時刻は深夜。人目を気にする必要はない。
 そうして向かった先でまたも電柱の上に立ちながら、取り敢えず護は目をこすった。

 「・・・・・・何あれ?」

 自問してはみたものの、真っ黒い何かとしか言いようがない。そもそも流動体なのか固形体なのかすら定かではない上、生物かどうかも怪しいという意味不明なモノ。
 そしてソレが狙っているのは、どうやらあの茶色い髪の少女と・・・フェレット?のようだ。

 「・・・よくわかんないけど、先ずはアレを倒すべ・・・き・・・・・・?」

 言葉が尻すぼみに消えていく。耳に届いたのは、呪文。・・・・・・何?

「風は空に 星は天に」

 1人と1匹が、祈るように紡ぐ妙なる文言。

「輝く光は、この腕に」

 少女の手の中から、溢れる桜色の光――未知のエネルギー。

「不屈の心はこの胸に!」

 感知したエネルギーが、出口を求めて膨れ上がる。

「この手に魔法を!」

 ・・・・・・本気?

「レイジング・ハート セット、アップ!」

 最後の結びと同時、極光が天を貫いた。
 変化してゆく、少女の衣服。白を基調とし、蒼いラインを引いた衣装。手には黄金と桜、そして白金で象られた杖。

 「エネルギーが・・・物質化した?」

 フツヌシ・・・・・・とは仕組みが違うようだ。よく見るとエネルギーが服の形をしているだけらしい。が、それにしても見たこともない技術だ。・・・杖の方は、物理的におかしなコトになってるし。
 とはいえそれを成した少女の方が現状に戸惑っているのはどういうことか。あの喋るオコジョだかフェレットだかの方は・・・驚いていても、戸惑ってはいない。事情を聞くならあちらだろう。・・・・・・何故喋れるのかはともかくとして。
 とその時、ソレが動いた。怯えたように様子を窺っていた真っ黒いソイツは、突然飛び跳ね変身した少女へと突撃していった。杖持つ少女は、ただ呆然とソレを見つめるだけ。明らかに場慣れしていない。
 だから護は、人差し指を真っ黒なソレに向けた。
 翠緑の輝きが指先に集い――放たれる。
 集束されたGパワーの攻性エネルギーが直撃し、着弾音と共にソレを大きく吹き飛ばす。
 トン、と軽く地面へ降り立つ護。少女が、振り返った。
 完全な黒ではなく、僅かに藍が滲む瞳。茶系のツインテール。顔立ちは可愛い部類だろう。

 「・・・・・・だれ?」

 その問いに、僕は驚いて軽く目を瞠った。この日本で、自分の顔を知らない人間がいるとは、思いもしなかった。
 けど、それならそれで面倒がなくていい。僕は少し微笑むと、こうなってはもう隠すことではないので、素直に答えた。

 「天海、護。・・・キミは?」
 「・・・なのは。高町なのはだよ」
 
 それが彼女との、馴れ初めだった。





 


 「テレパシーが聞こえたから来てみたけど・・・正直、僕は何が起きてるのかを理解できてない」

 天海護と名乗った特徴的な前髪をした少年は、そう言ってボクの方へ視線を向けた。
 それを、ボクは若干の警戒心を持って受け止める。
 テレパシー・・・念話のことだろうか?それが聞こえたということは、彼もなのはみたいな魔力資質のある人間と見て間違いない。
 でも・・・・・・今の攻撃は、魔力を使ってなかった。たとえて言うなら、純粋エネルギーの弾。・・・・・・魔力もエネルギーの一種だから、同じと言えば同じだけど。
 彼は、内心はともかくとして、表面上友好的な笑顔で口を開いた。

 「そこの・・・・・・オコジョ?フェレット?」
 「・・・・・・ユーノです」
 「ユーノ?そんな名前の動物いたっけ?」

 余りに的外れな言葉に、ずるっとなのはと二人して滑りかける。

 「――じゃなくて、名前だよ!ユーノ・スクライアくんっていうの!」
 「・・・スクライアが種族名?」
 「部族名だっ!なんで動物みたいに言われないといけないのさ!!」
 「・・・・・・え?ってことは、人間?」
 「それ以外の何があるんだ!?」
 「オコジョかフェレット」
 「・・・・・・・・・・・・」

 即答され、ボクは二の句が継げなくなってしまった。
 そこへ続く、なのはの叫声。

 「え?えぇ~っ!?ユーノくん人間だったの!?」
 「なのは・・・キミまで何だと思ってたの・・・・・・?」
 「えっと・・・・・・フェレットさん」
 「・・・・・・」

 ボクは、誰を信じたらいいの・・・?

 「信じる信じないは個人の自由」
 「地の文を読むなっ!」
 「あ、あははは・・・」

 なのはの乾いた笑い声が耳に痛い。

 「GURRRR・・・・・・」

 獰猛な唸り声にはっと我に返る。こんな問答してる場合じゃなかった。

 「天海さん――」
 「護でいい。さんとか無しでね」
 「じゃあ、護。さっきの攻撃で、足留めお願いできる?」
 「・・・足留めすればいいんだね?」
 「うん。高町さんは――」
 「あ、私もなのはでいいよ。護くんもね?」
 「・・・うん、解った」
 「それじゃ、なのは。今から封印の手順説明するから、よく聞いて」
 「う、うん」








 封印・・・とやらをするらしい。本格的に魔法らしくなってきた。
 で、僕の役割は封印する間になのはの邪魔にならないよう、アレを足留めすることか。

 「GuOOOOOOOッ!!」
 「うるさいな・・・」

 再び突進してきたソレに向けて、右手の平をかざす。まだあまり回復してないけど、この程度を相手にするには十分すぎる。
 思念をそのまま力に変えて、対象に干渉。
 ――念動力サイコキネシス

 「GuRッ!?」

 飛び上がったまま、不可視の力で中空に縫い止められる。

 「・・・よし。足留め・・・っていうか、捕まえたよー?」
 「・・・・・・何をしたのか解らないけど、後できっちり説明してもらうからね。なのは!」
 「うん!行くよ、レイジングハート!」
 『了解しました、マスター。Sealing mode』
 
 なのはの持つ杖から女性の機会音声が聞こえた。AIだろうか。それに赤い宝玉と柄の境目から出ているのは・・・桜色の、翼?

 「リリカル・マジカル!」

 ・・・抒情的な魔法?不思議な呪文だね。

 「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード!」

 ユーノの合いの手が入る。・・・ジュエルシードっていうのか、あの黒いのは。っていうか、合いの手要らないよね?

 「ジュエルシード、シリアル21、封印!!」

 詠唱の締めと共に桜色の帯が幾重にも放たれ、ジュエルシードに絡みついた。
 苦悶の咆吼を上げる獣。額に赤く、ⅩⅩⅠのマークが浮かび上がる。
 杖先から延びた桜色の光条がジュエルシードを撃ち抜き、閃光が溢れて――決着。
 黒い獣が掻き消えたそこには、青く輝く菱形の宝石が。
 ・・・・・・あ、もしかしてジュエルシードってあれのこと?宝石の種・・・確かに、それっぽい形だね。
 だけど、そんな綺麗な名前とは裏腹に、とてつもなく物騒な代物のようだ。僕が普段扱うのとは種類が違うけど、感じられるエネルギーが半端じゃない。GストーンやJジュエルみたいな、力持つ宝玉・・・か。

 「なのは、レイジングハートでジュエルシードに触れて」
 
 ユーノに言われた通りなのはが杖を近づけると、その先の赤い宝石の部分にジュエルシードが吸い込まれた。
 つくづく、物理現象を無視しているように思う。まだゾンダーの方が科学的だ。

 「・・・これで、終わり?」
 「うん。ありがとう、手伝ってくれて」

 なのはの白い服が消えて、一般人と変わりない私服が現れる。手の中には、小さくなった赤い宝石、レイジングハート。
 一仕事終えた雰囲気で、一息吐く2人。でも、そんな暇ないから。

 「・・・余韻に浸ってるところ悪いけど、ここ早く離れた方が良いよ」
 「え?」

 きょとん、とするなのは。だけどすぐに気づいたみたいだ。
 ・・・・・・どんどん近づいてくる、パトカーのサイレンに。

 「あの光とか、破壊音とか、聞いた誰かが通報したんだろうね」
 「って護くん何落ち着いてるの!?これってすっごくマズいよ!」
 「う~ん・・・僕的にはいつものことなんだけど」
 「えぇぇ!!何それっ!?」
 「な、なのは、落ち着いて」

 そんな掛け合いしてる間に、パトカーはすぐそこに迫っていた。

 「あぁぁどうしようどうしようっ!?もう逃げられないよ!」
 「なんて速い出動なんだ・・・・・・!」
 
 感心してどうするんだユーノ。・・・・・・やれやれ。
 溜息して、ユーノの襟首(皮)をひっつかみ、オロオロするなのはの腰に手を回して、抱き寄せた。
 なのはの頬に、朱が上る。

 「まっ、護くん!?」
 「しっかり捕まっててね。跳ぶよ」
 「ふぇ――?」

 なのはの返事も聞かず、一蹴り。
 重力などまるで無視して、ふわり。
 跳び上がる。

 「ふぇええええええええっ!?」

 足下を過ぎ去る街の灯り。そして耳元で唸る風切り音に、なのはの絶叫が上がる。
 けど無視。警察と関わり合いたくないし。

 「そんな・・・魔力も使わずに・・・・・・!?」

 ・・・僕としては、その魔力とかいうエネルギーの質問がしたいけどね。
 とりあえず、細々としたことは後回しだ。まずは落ち着ける場所を探さないと。






[5916]       第二話 平行世界から
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/03/06 17:37
 「・・・護くん」
 「何?」
 「確かに人がいなくてパトカーに追っかけられることもないけど、ここはないと思うの」
 「・・・・・・落ち着ける場所だよ?」
 「どこがっ!?今の状態じゃ飛行魔法も満足に使えないのに――」

 一息。ユーノは大きく息を吸い込んで、叫んだ。


 「なんでこんな危なっかしいビルの屋上な訳!?」


 海鳴市郊外にほど近く立つ、廃ビル。老朽化が進んでいつ崩れてもおかしくない様相。
 ・・・・・・というか実際、さっき一部が崩れて落下したばかりだ。あの背筋が震えるような崩壊音は耳に新しい。

 「・・・僕の見立てじゃ、ちょっとした地震がこない限りは大丈夫だよ?」
 「そんな地震が来ても安全な場所はあっただろ!?」
 「ゆ、ユーノくん落ち着いて」
 「僕にとっては、こういった場所の方が安全なの」
 「「・・・・・・?」」

 首を傾げるなのはとユーノに、溜息。本当に僕のことは知らないらしい。

 「・・・元GGG機動隊所属特別隊員兼、研究開発部副部長、天海護」

 スラスラと出てくる肩書きに2人は目を丸くしていた。

 「それが、僕。いくら何でも、GGGと機界大戦ぐらい知ってるでしょ?」

 実際地球が滅び掛かったのだ。10年も前の話とは言え、知らないはずがない。歴史の教科書にも出てくるし、勇者達の逸話は子供に大人気だ。今や常識と呼べるものである。

 「だから、こういう人気のない所の方が都合が――」
 「ねえ、護くん」
 「・・・何?」

 遮られ、護はなのはを見た。なのはは、微妙に居心地が悪そうに、言う。

 「スリージーとかキカイ大戦とかって・・・なんの話?」



 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



 完っ全に思考が停止する。・・・・・・この子は、今、一体、何を言った・・・?
 ユーノを見てみるが、こちらもこちらでまったく分かってないらしい。無言で首を振っている。

 「なんだか常識みたいだけど・・・・・・そんなの、なのはは聞いたことないよ?」








 視線の先で、護の表情が凍り付くのを、ボクは見た。でまかせとか、作り話じゃなく、本当にそういう物が常識・・・のはずらしい。
 あの魔法とは違うエネルギー行使と合わせて考えると・・・・・・彼は、もしかして――

 「え、でも、ここ地球だよね?全然違う惑星だったりしないよね!?」
 「う、うん。普通に、地球だけど・・・?」
 「じゃあ、時間!今、西暦何年!?」
 「え、えと・・・・・・確か西暦2005年の4月――」
 「2005年!?それに、4月!?」

 それがどういった時期なのか、この世界を知らないボクには分からないけど・・・彼には、驚くべきことだったらしい。
 護は、難しい顔をして、途端に考え込みはじめた。何事かぶつぶつ呟いてるけど、声が小さくて聞き取れない。
 そしてすぐに彼は顔を上げて、こう言った。

 「ゴメン、魔法とか色々聞きたいこともあるんだけど、急用ができた!」

 ――は?
 そのまま身を翻しビルから飛び立とうとする護に、ボクは慌てる。

 「ちょ、ちょっと護!まだなんにも聞かせてもらってないよ!?突然どこ行く気なのさ!」
 「Gアイランドシティ!東京湾上の埋め立て地にある、宇宙開発公団がある街!」

 居ても立ってもいられない。そんな雰囲気漂わす彼に、しかしなのはは慌てて、

 「ね、ねえ!Gアイランドシティっていうのも、聞いたことないよ!?」



 「――――――――――――――――――え?」



 ピタッ、と言う擬音が相応しい動作で、護が止まり、振り返る。
 その顔は驚愕に彩られていて、例えて言うなら、絶対に有り得ないことを聞いたような。

 「Gアイランドシティを・・・知らない?」
 「えっと、少なくともなのはは聞いたことないよ」
 「・・・・・・ちょっと待って」

 言って、護は空を見上げ、

 「「――!?」」

 僕等が見てる目の前で、夜空を仰ぐ翠緑の瞳が深い紫に染まった。・・・・・・これは、一体・・・?

 「・・・・・・ない」
 「?」
 「建設途中のはずのオービットベースが・・・ない」
 「オービット、ベース・・・?」
 「ということは、時間を超えたんじゃなくて・・・・・・」

 はあ・・・・・・と、見てるこちらが沈痛になるような、重い溜息が。

 「ま、護くん?何が、どうしたの?」
 「・・・・・・ちょっと、ね。早とちりして、ぬか喜びしてただけ」
 「・・・あのさ、解るように説明してくれない?」
 「んー・・・なんて言ったらいいかな。・・・・・・とある実験をしたら、何故か平行世界に来たみたい」

 ・・・・・・平行、世界?

 「それは、次元世界とは違うの?」
 「・・・まるでこことは違う世界があるみたいな口振りだね」
 「なのはには言ったけど・・・ボクは、異世界から来たんだ」
 「・・・・・・なるほど、ここはそういう世界なのか」
 「え、え?」

 ・・・・・・なのは、話に付いて来れてない。
 やれやれといった感じで、護が肩をすくめた。

 「一名理解できてないようなので簡単にまとめます」
 「うぅ・・・お願いします」
 「ユーノが言うには、ここには次元世界、いくつあるかは知らないけど、とにかく空間に分かたれた世界がいくつも存在して、方法はともかく行き来が可能。・・・これでいい?ユーノ」
 「うん。行き来ができるたくさんの世界、これを一括りにして次元世界って言うんだ」

 ふむふむ、となのはが頷く。

 「そして、ここに平行世界というもう一つの要素が加わる。なのは、地層、って言って解る?」
 「そ、そのぐらい解るよ!」
 「言うなればね、次元世界は同じ層の中にあって、平行世界は違う層にある」
 「・・・・・・?」
 「例えばジュラ紀の地層と白亜紀の地層は、上下に重なっていても実際は何千万年っていう開きがある。絶対に超えられない溝が、2つの層の間に横たわってるわけだ。壁でもいいけど」
 「それって――」
 「解った?ジュラ紀とジュラ紀なら同じ時間が流れていて、距離があっても行ったり来たりできるけど、」
 「ジュラ紀と白亜紀だと、時間が違いすぎて行き来できない・・・?」
 「That's right. 理解できた?」
 「え、でもそれじゃあ、なんで護くんはここにいるの?」
 「・・・何故か、って言ったでしょ?原因は・・・あるにはあるけど、何がどうしてこんな結果になったのか、まったく解らない」
 「じゃ、護くん帰れないの?」

 なのはのふとした問いかけに、護は黙った。言ってしまってなのはも失言だと気づいたみたいだけど、もう、遅い。今までの説明から考えれば、そんなの解りきっている。
 ・・・・・・護が、元いた世界に、帰る術がないことが。

 「・・・・・・帰ることが可能か否か、で答えるなら、不可能としか言いようがない。平行世界に渡る技術があったりするなら別だけど」
 「・・・残念だけど、そんな技術は聞いたことがない」
 「ふーん・・・まあ、どうでもいいけどね」
 「「え!?」」
 「はっきり言って、僕は前の世界に未練がない。それはもう壊滅的に」
 「か、壊滅なんだ・・・」
 「そ。だから気に病む必要はないよ。この世界の方が、楽しそうだ」
 「楽しいって・・・・・・」

 娯楽みたいに言われても、余りいい気はしない。・・・・・・口調が軽いから、呆れた、ぐらいで済んでるけど。

 「さて、僕的には魔法とかのこと聞きたいんだけど・・・なのは、時間大丈夫?」
 「ふぇ?・・・・・・にゃああああああ~~~っ!?」

 通信機らしき物で時刻を確認したなのはが、素っ頓狂な声を上げた。

 「ど、どうしよう!?もう12時軽く回っちゃってるよ!!」

 明日学校なのに~!と悶えるなのは。・・・これは、ボクのせい?

 「お願い護くん!なのはの家まで大急ぎで連れてって!!」
 「あ、うん、解った。・・・背負われるのと、さっきのと、抱き上げられるの。どれがいい?」
 「せ、背負うのでいいよ!」

 心なしか顔を赤くしてなのはが叫ぶ。
 背中を向けた護の背に、なのはがちょっと恥ずかしそうに負ぶさった。

 「なのは、ユーノ持ってて。物扱いでいいから」
 「良くない!」
 「にゃはは・・・あ、家はあっちだよ」

 三者三様の遣り取りしながら、護が屋上を蹴った。
 魔力を伴わない、不可思議な飛行が、始まる。

 「そうだ。ユーノくんのことお母さん達に話したらね、しっかりお世話するんだったら、うちに来てもいいって。・・・どうかな?」
 「え・・・・・・いいの?」
 「ユーノくんがいいなら、うちは全然問題ないよ」
 「じゃあ・・・お言葉に甘えて――」
 「ダメだよなのは。ユーノは男でフェレットだけど狼なんだから」
 「ふぇ・・・?」
 「・・・・・・護、絶対面白がって言ってるでしょ」
 「あれ、バレた?」

 溜息でそれに答える。こちらからは護の頭の後ろしか見えないけど、唇を吊り上げてるだろうことが嫌でも解った。・・・・・・なのはは、言葉の意味が解ってないみたいだ。
 なのはの指示に従って、方角を調整する護。そうかからず庭に道場が建つ一軒家上空にたどり着いた。

 「・・・・・・なのは、2人玄関で待ち構えてるよ?」
 「えぇ!?ど、どうしよう・・・」
 「結界を張ってその隙に部屋にはいるのは、どうかな」

 なのはをこんな遅くに出歩いたたのは自分に責任があるため、そう提案してみる。
 玄関も通らず部屋に入り込めれば、どうとでも誤魔化せるのではないかと思ったのだ。
 ・・・・・・ボクが原因で、なのはが叱られるのは嫌だし。

 「ど、どうって言われても・・・」
 「いいね。それじゃこっそり侵入しよう」
 「ま、護くん!?」
 「なのはは叱られたい?」
 「そ、そういうわけじゃないけど、」
 「じゃあ問題ないない。・・・ところでユーノ、結界・・・だっけ?張る余力有るの?」
 「・・・・・・ごめん、魔力が足りなかった」

 やれやれと護が呆れたように首を振った。・・・・・・うう、ボクにもっと力が有れば。

 「・・・仕方ない。貯めてたエネルギーがパーだけど、慌てる必要もないみたいだし」
 「何をするつもり?」
 「並列空間沿いに移動する」
 「「・・・へ?」」
 「取り敢えず、目つぶった方が良いよ。気分悪くなるかもだから」

 ・・・?よく分からないが、言われた通りに目を閉じる。数秒、そのままでいると、

 「はい、着いたよ」
 「にゃ!?」

 気が付いたら、外から見えていた部屋の中に僕等はいた。・・・・・・転移魔法、じゃあ、ない?

 「い、いつの間に私の部屋?」
 「驚くのは後でいいから、靴脱いで。こっそり靴箱に戻すから」
 「あ、うん」

 なのはから靴を受け取って、護はボクとなのはを床に降ろした。玄関で待ち構えてる人が居るのにどうやって戻すか疑問に思ったけど、どうせ今みたいな、ボク達の知らない力を使うのだろう。

 「それじゃ、また明日――、っ!!」

 何かに気付いたように、護が突然浮き上がってその姿を掻き消した。
 直後、

 「なのは!!」
 「お、お兄ちゃん・・・?」

 木刀を持った若い男の人が、凄い形相で部屋に飛び込んできた。











 ・・・・・・突然なのはが家を出て、もう3時間近く経つ。何をしに行ったのか知らないが、さすがに心配な時間だ。

 「・・・・・・なのは、遅いね」
 「ああ、そうだな・・・」

 隣で美由希も心配している。なのはがこんな遅くに、それも黙って外出するなど今までなかったことだけに、心配も一入だ。
 いいかげん、帰ってきてもいい頃だが・・・・・・

 「――む?」
 「どしたの、恭ちゃん」
 「なのはの部屋に、誰か居る・・・!」
 「え!?」

 美由希の驚く声が聞こえるが、それどころではない。この気配は・・・なのはか?いつの間に帰ってきた?それに・・・・・・気配がもう一つ!?

 「ちぃ・・・・・・行くぞ、美由希!」
 「え。あ待ってよ恭ちゃん!」

 悪いが待てん!
 すぐさま部屋にとって返し、既に気付いていたらしい父さんとアイコンタクト。隅に立て掛けてあった木刀をひっつかみ、二階まで一気に駆け上がる。
 なのはの部屋の扉を、蹴破る勢いで開け放った。

 「なのは!!」
 「お、お兄ちゃん・・・?」

 ・・・・・・無事か。というか、その肩に居るのは例のフェレットか?

 「なのは、どこに行ってたんだ?心配したぞ」
 「え、え~っと・・・なのは、ずっと家に居たよ?」

 ・・・・・・無理に嘘を吐くな。目が泳いでるからバレバレだ。

 「なら、そのフェレットはどうした?」
 「そ、それは、その・・・・・・気付いたら窓の外に居たの!」

 なのは、はっきり言って苦しい言い訳だぞ・・・・・・?
 それに――

 「・・・・・・はっ!」
 「っ!」

 天井に向けて投擲した木刀が、天井にはぶつからず鈍い音と苦悶の声を響かせた。ドサリ、と見えない何かが落ちてくる。

 「どうやって姿を消してるか知らないが、覗き見は感心しないな」

 ノエルやファリンという機械人形の例もある。世界のどこかに透明になる技術があってもおかしくはない。そしてあったところで、自分達御神の剣士には通用しない。
 床の上で、人の形に歪みが生まれ――・・・思ったより、小さい?
 隠れていた姿が露わとなった。

 「――こ、子供!?」
 「ああっ!?護くんしっかりして!」
 「な、なのは知り合い――」
 「お兄ちゃん護くんにいきなり何するの!?」
 「い、いや俺はただ!」
 「恭也、何があった?」
 「お父さん!護くんをお兄ちゃんがっ!」
 「護くん?その子は一体――血を吐いてるじゃないか!?」
 「み、美由希!救急車をっ!」
 「え、ええっと119番119番・・・」
 「桃子、救急箱を頼む!」
 「もう持ってきてるわ!」
 「ゲホッ、ゴホッ・・・・・・だ、大丈夫ですから」
 「「「「大丈夫じゃない!!」」」」
 「ま、護くん~っ!」








 ・・・その後本当に大丈夫だと知った高町家の人々は、やってきた救急車に平謝りして帰ってもらったとか。
 ちなみに木刀は速度が速すぎたためガードが間に合わず、胸を直撃したしたらしい。
 なけなしのエネルギーを回復に回して、事なきを得たそうな。

 





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どうも、ゆめうつつです。次元世界と平行世界は別物としてお考えください。

ヒーヌさん、感想ありがとうございます。戒道以外の話は・・・おいおい載せますのでいずれ。

今後も一応更新はして行きますが、メインはナルトなのでやはり遅いと思います。



[5916]       第三話 高町家深夜会議
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/04/03 21:47
 「えー、色々とその、お騒がせしました。ケホッ」
 「・・・・・・本当に、大丈夫なのかい?恭也の一撃を受けて」
 「もうほぼ完治しました。後は寝れば、なんとか」

 高町士郎さんはまだ疑わしそうだったが、手当の最中に目の前で青あざが消えていく様子を見てしまったため、信じざるを得ないようだ。
 現在、高町家のリビング、ソファ。なのはは明日も学校があるとかで、母親の桃子さんに寝かしつけられていた。ユーノについても明日の朝話すそうだ。
 それと、ユーノから次元世界のことは秘密にして欲しいとテレパシー・・・念話だっけ?で、頼まれた。そういう法律があるらしい。
 まあそのことは別に考えるとして、問題は僕。ユーノは人間だけどフェレットだから、何事もなく高町家に飼われるだろう。けど僕はきちんと話しておかないと、このまま帰してくれそうにもない。エネルギーなんて、もうホントにゼロだし・・・今だったらそのへんの一般人にも負けそう。
 説明のため、僕は今桃子さんとなのはを除いた高町一家に囲まれている。そして気になるのは、なのはの兄の恭也さんと姉の美由希さんが携えている、刀。士郎さんも、隣に木刀置いてるし。・・・・・・まだ警戒されてるのは、確かかな。

 「気になるかい?」

 武装に視線が向いていたことに気付いた士郎さんが、穏やかだけどどこか笑ってない目でそう言った。

 「・・・ええ。思いっきり、銃刀法違反な気が」
 「そういう仕事だからね」
 「・・・・・・そうですか」
 「そろそろ聞いていいかな。君は何故、なのはの部屋の天井に、それも姿を消して侵入していたのか」
 「・・・・・・」

 困った。激しく困った。真実を話したところで、大人をバカにするなと言われてしまいそうだ。
 子供の発言力は、往々にして低いのだから。
 かといって嘘が許される場でもないし、言い逃れができない状況でもある。
 どうしたものか。

 「黙秘は良くないぞ」

 そう言って脅しを掛けてくるのは恭也さん。視覚的に透明になっていたはずなのに見破った、とんでもない人。
 なんというか、無性に泣きたい気分だった。いっそ家の中の電力吸収して逃げようかとも思うが、そうなったらなのはに迷惑かかりそうだからパス。
 結局話すほかない訳だ。

 「・・・・・・信じないと、思いますよ?」
 「聞こうか」
 「なのはにはもう説明したんですけど・・・・・・僕はこことは違う、もう一つの地球からやって来ました」
 「「「・・・・・・は?」」」

 予想すらしなかっただろう話の流れに、皆さんもう目が点。

 「・・・ま、待って待って!それって、パラレルワールドのこと?」
 「話が早くて助かります。僕は事故でこの世界に流れ着いたみたいなんですけど・・・」
 「信じられるか。嘘を吐くならもっとましな嘘を、」
 「やめなさい恭也。ひとまず、最後まで聞こう」

 ・・・聞くんだ。というか、聞いてくれるんだ。
 どっちかって言うと、恭也さんの反応が普通なんだけど。

 「すまないね。続きをお願いできるかい?」
 「えっと・・・ここに漂着した時、僕はここが平行世界だなんて思ってもみなくて、SOSを発信したんです。そうしたら、何故か知りませんけどなのはがそれを感じ取ったらしくて・・・」
 「? 意味が、よく分からないのだが」
 「・・・・・・SOS、テレパシーで流したんです」
 「・・・・・・なんだって?」
 「ですから、テレパシー。精神遠隔感応」
 「いや、それは分かるが・・・何故なのはが?」
 「知りません。僕の世界には超能力を扱える人が居ましたけど、調べてみてもなのはにはその才能はないみたいですし」

 何か別の能力が有るのかもしれませんね、と取り敢えず締めくくる。
 話を理解するための沈黙がリビングを覆い、その間に考えを纏める。
 次元世界の話を出さないためには、ある程度僕の正体をばらした方がいい。でないと、何故なのはが出ていったかの説明が付かなくなる。
 それに明日――というか今日だけど、なのはに確認を取ればテレパシー云々も本当だと分かるし、そうなると平行世界の話についても信憑性が増すし。

 「えと・・・てことは・・・・・・護くんって超能力者?」
 「そうなります」
 「じゃあさ、テレパシー以外に何かできるの?」

 目をキラキラさせて期待の眼差しを向けて来る美由希さん。僕のことを知った人間がたいてい見せる反応だ。

 「一応できますけど、今はできません」
 「え、なんで?」
 「・・・・・・丸一日寝てないのもあるんですが、こっちの世界に来た際に死にかけまして・・・その治療に、力を使い果たしてるんです。もう眠くて眠くて」
 「それでさっきから半眼なのか・・・睨まれているのかと思っていたが」

 そんな元気はありませんよ、恭也さん。

 「話を戻しますけど、なのはの部屋にいたのは、なのはを部屋まで送ったからです。・・・僕のSOSを受け取ったせいで親に怒られるのは可哀相だったので、窓からこっそり入れてあげたんです」

 正確には、並列空間を通って外からバレないように入ったんだけどね。

 「あの姿を消していたのは?」
 「あれは超能力じゃなくて、僕の世界の科学技術です。ホログラフィックカモフラージュって言うんですけど・・・まあ光学迷彩ですね」
 「そうか・・・・・・いや、すまなかったね。なのはを送り届けてくれた子を尋問するような真似して」
 「父さんっ、信じるのか!?」
 「明日の朝、なのはにも話を聞けば分かることだ」
 「しかし・・・」
 「恭也」
 「恭ちゃん」
 「・・・・・・」

 二対一では勝てないらしい。まだ不満そうではあったけれど、ひとまず引いてくれた。
 三人のうち二人が折れてくれていると言っても、ここまで警戒されるということは、この家には何か秘密があるみたいだ。見えないはずの僕に向かって木刀ぶつけるぐらいだし・・・・・・一般人とは言い難いかも。

 「それじゃあ、僕はもう行きますね。いいかげん眠りたいので」
 「って、寝る場所あるの?異世界から来たのに」
 「いえ、ありませんけど。財布も何も持ってませんし・・・まあ、野宿ですね」
 「とーさん?」
 「うん。それがいいだろう」
 「・・・俺は反対だ」
 「恭ちゃんまだそんなこと言って・・・」
 「あのー・・・皆さん何を・・・」

 首を傾げる僕に、士郎さんは人好きのする笑顔を向けた。

 「護くん、今日はうちに泊まっていきなさい」
 「・・・・・・はい?」
 「もう夜も遅い。それに君みたいな子供が公園なんかで寝ていたら、いらぬ犯罪に巻き込まれるかもしれない。そうでなくとも、警察の厄介になりそうだからね」
 「いえあの・・・・・・僕これでも二十歳なので」
 「「「二十歳っ!?」」」

 綺麗に声がハモった。
 しかし三人は、ハハハハ、と笑いながら。

 「・・・いやいや、護くん嘘は良くない」
 「どう見てもなのはと同じくらいだって」
 「それに二十歳だとしたら、俺の一個上だぞ」
 「大真面目なんですが」
 「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 更に数秒、空白を挟んで。

 「え、あれ?ちょっと待って!超能力者って寿命なんかも違うの!?」
 「いや、さっきの光学迷彩みたいな科学がある世界だ。きっと俺達と違って平均寿命が高いんだろう」
 「しかし平均寿命が高くても、成長速度は変わらないと思うが・・・」
 「どれも大ハズレですよ?」
 「「「・・・・・・」」」

 僕の指摘に沈黙が降りる。いささか、ばつが悪そうだった。

 「・・・先ほど、事故でこの世界に飛ばされた時、大怪我したって言いましたよね?」
 「ああ・・・死にかけたらしいな」
 「実際はエネルギーの爆発か何かで身体が半分近く消滅したんです」
 「・・・・・・何?」
 「それでまあ、僕の持ってた自動再生能力がちょっと暴走しまして・・・・・・残った部分から新たに身体が造り直されたみたいなんです」
 「うわあ・・・・・・凄いね。よく生きてたね」
 「突拍子もないどころか、荒唐無稽に過ぎる話だ」

 切り捨てるような口調にムッと来た。

 「・・・恭也さんがあんまり信じてないようなので、一つ具体例を見せます」
 「具体例だと?」

 訝しむ恭也さんに向かって人差し指を向けた。途端に警戒態勢に入られたが、意味はない。
 そのまま、向けた指を折り畳み、弾く。

 「痛っ!?」

 衝撃を受けて恭也さんは額を押さえ、驚愕の表情で護を見た。

 「テレキネシスの応用です。物体を動かすための力を瞬間的かつ過剰に放出する。・・・・・・今のは、抑えましたけどね」

 言って、持ち上げた腕を下ろし、

 「それと、非常に申し訳ないんですけど」
 「あ・・・ああ。なんだい?」
 「後、お願いします」

 呆気に取られたような士郎さんの顔を最後に、パタリとソファに倒れ込んだ。
 限界状態で無理した結果であった。










 「くー・・・・・・」
 「えっと、寝ちゃった?」

 不用心にもつんつん美由希は頬をつついている。起きる様子は見られないが、何かあったらどうする気だ。
 ・・・・・・完全に熟睡してるようだが。

 「・・・取り敢えず、刺客の類ではないな」
 「こんな子が刺客だったら逆に困るって」
 「自称二十歳らしいが?」
 「あら、可愛いからいいじゃないの」

 実は結構前から階段に待機していた桃子がどこか嬉しそうに言う。

 「そうだよねかーさん。どこからどう見てもなのはと同じくらいだし」

 そりゃそりゃ、ぷにぷにと。最早遊んでいる美由希。そこへ桃子も参戦して寝顔がどうの着替えがどうのと。完全におもちゃ扱いだ。
 ・・・・・・不憫な。
 何となく見えた未来に、哀れみの視線を向ける恭也だった。

 「それにしても超能力か。・・・実際受けた恭也はどう思う?」
 「・・・・・・信じるしかないな。少なくとも俺の目には、何かを弾いたようには見えなかった」

 仮に見ることもできないような速度で放たれていたとすると、あの程度の衝撃で済む方がおかしい。確実に出血ぐらいはするはず。
 それがないということは、つまりはそういう訳だ。
 だが超能力が真実となれば、その他の話も連鎖的に信憑性が高くなる。
 平行世界、事故、半身の消滅と再生。
 そして・・・・・・なのはがテレパシーに反応したこと。

 「・・・・・・また明日、目が覚めてから話を聞かないといけないな」
 「そうだな、父さん。なのはのためにも」

 男二人がそうやって決意を新たにしていると、ふと、美由希が疑問の声を上げる。

 「ねえとーさん、護くんが平行世界から流れ着いたって言ってたけど、帰る方法とかあるのかな?」
 「聞かれてもな・・・」

 平行世界への移動など、門外漢以前の問題である。
 それに答えたのは桃子だった。
 
 「なのはに少しだけお話聞いたんだけど・・・その元の世界に帰る方法、ないらしいのよ」
 「え・・・ないって、かーさん!?」
 「でも本人は・・・護くんは、元の世界に全然未練がないそうよ。・・・壊滅的に」
 「え・・・えぇ!?」
 「壊滅って・・・なのはがそう言ったのか?」
 「この子自身がそう言ってたらしいわ。・・・・・・本音かどうかは、分からないけれど」

 寝入る護を膝枕して、子供にするように桃子は手櫛で髪をすく。
 それはまさしく母という存在の、慈愛に溢れる姿だった。
 しばし、その様子を見つめて。決断するように士郎は言った。

 「別の世界から来て帰る手段がないとなれば、どうあってもここで生きなければならないな」
 「忍に戸籍を用意してもらおう。無国籍はさすがにまずい」
 「年は・・・二十歳ってのも問題だから、なのはと同じで良いんじゃない?」
 「そうだな。恭也、頼む」

 夜も遅いが、緊急案件として連絡を取るため席を立つ恭也。それを見送り、美由希が聞く。

 「とーさん、うちで預かるの?」
 「見た目九歳でも実際は二十歳らしいからなあ・・・。本人の意向も聞かなきゃならんし、ひとまず遠縁の子を一時的に預かっているという形が最良だな」
 「・・・恭ちゃんに説明した?」
 「恭也なら言わなくてもそのくらい解るだろう。さて桃子、そろそろ客間に連れて行こうか」
 「ええ。着替えは、もう今日はしょうがないとして・・・」

 寝るのに邪魔だろうと、護の首に掛かる大きな宝石――Gストーンを外そうと手を伸ばした。しかし、

 「・・・・・・あら?」
 「かーさん、どうしたの?」
 「この宝石・・・触れないのよ」
 「・・・・・・へ?」

 首を傾げる桃子につられて、美由希も手を伸ばしてみた。が、言葉通り触れない。いや、触れないと言うよりもこれは――

 「・・・押し戻されてる?」

 美由希の推測は正しかった。Gストーンはそれ自体が無限情報集積回路と呼ばれる物であり、特に護の首に掛かったこれはGストーンの中でも特異な機能を持っていた。
 そのためできる限り肌身離さず持ち歩き、更には万一の事態に備え、Gストーンのエネルギーを用いた極小の空間的反発力場(レプリションフィールド)を形成しているのである。これにより護自身が力場を解除しない限り空間的に接触が不可能となっているのだが、もちろんそんなことを高町家のみんなは知らないので超能力の一種だろうと思ったのだった。
 触れないならどうしようもない。ネックレスを外すのを諦め、護は客間に敷かれた布団に寝かされた。
 深夜の家族会議はこれにて終了。翌朝寝るのが遅くなったため寝坊した美由希が恭也に怒られたのは、全くもって余談の話である。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
オリ設定が多々あるのをお許しください。謝罪はしませんが。


謎の食通さま ロボですか・・・いえ、出すのは可能です。でもこの場合機体だけで、ガイやJは出せないんですよね。キャラの倫理的な問題で。

E.Bさま はい、予測通り居候方針です。まあこれは二次創作の代表方針ですが。デバイスには一案がありまして、これを予想できたら凄いと思います。無印終了しないと出せませんが、楽しみにしててください。

(修正しました。ふぇんりるさん報告どうもです)



[5916]       第四話 朝、起きて
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/04/03 19:21

 ・・・・・・昨日は大変でした。
 実際は夕方からだけど、今までにないことが立て続けに起きて、頭がパンクしそうだったり。
 出会った二人の男の子、護くんとユーノくん。一見フェレットなユーノくんだけど、本当は人間らしいのですが・・・見た目が見た目だけに、まだそんな実感はありません。
 そして普通の男の子に見える護くんは、本物の超能力者。あんなに大きな獣みたいなのを簡単に動けなくしたり、ふわふわ空を飛んだり、綺麗な翡翠の目を紫に変えたり。・・・・・・最後のは何だったのかよく分からないけど、とにかく凄い子です。
 お兄ちゃんが護くんは二十歳なんだって言ってたけど、きっと冗談。どこから見たって、私と同じくらい。
 でもこの世界の人じゃないから、学校に行かなくていいのは少しうらやましいと思ったり。
 ・・・・・・なのはは今朝寝坊して大急ぎでご飯食べてたのに、護くんはぐっすり眠ってた。何だか不公平に感じちゃったけど・・・・・・護くんは、帰る家がない。この広い世界に、なのは達以外誰も知ってる人が居ない。
 そう、お父さんに諭されて・・・眠ってる護くんにごめんなさいって謝った。誰も居ない、独りぼっちの寂しさを、私は知ってるはずだったのに・・・・・・。

 ・・・そうだ。

 学校で、アリサちゃんとすずかちゃんに護くんの話をしよう。もちろん超能力は秘密にして。お話だけでも知ってる人が増えたら、その分護くんは一人じゃなくなるから。
 なのはの新しいお友達・・・・・・二人はなんて言うかなぁ。




 家を出る直前、慌てたようなユーノの念話が来るまで、もう一人のお友達の存在を忘れ去っていたなのは。
 レイジングハートも新しいマスターに危うく忘れ去られるところであり、哀しそうに瞬いていたとか。
 なのはが平謝りしたのは当然の成り行きである。










 「ん・・・・・・」
 「お、目が覚めたか。丁度いいタイミングだな」

 閉じていた瞼を開けると、お盆を持った青年が部屋に入ってきたところだった。

 「・・・恭也さん?」
 「昼食を持ってきた。胃に入るなら食べるといい」

 床に置いたお盆の上には体調を考えたのか、消化の良いお粥だ。
 というか、もうお昼?時計を見るともう三時近かった。

 「・・・・・・そっか、寝ちゃったんだっけ。ありがとうございます、わざわざ作ってくれて」
 「別にいいさ、困った時はお互い様だからな。昨日の時点で君に対する警戒は解けている。毒なんて入ってないから安心して食べてくれ」
 「あはは・・・」

 お言葉に甘えることにして、護はさじを取り口へ運ぶ。・・・・・・美味しい。
 ほぼ二日ぶりの食事に、思わず頬がゆるんだ。暖かい家庭の味に十年前を思い出す。
 あの頃は良かった。平和で、家族が居て、友達が居て、――ちゃんが居た。自分も、ただの小学生だった。
 それが崩れたのは、ゴミの島でゾンダーに遭遇した日――ではない。
 遊星主との戦いが終わって、地球の復興にも片が付いた頃のこと。
 とある人物が、天海家の戸を叩いた。




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 『・・・楊博士?』
 『覚えていてくれたか・・・』

 中国科学院航空星際部所属、楊龍里ヤンロンリー博士。風竜、雷竜を開発した科学者であり、国連宇宙軍の司令もこなす有能者。
 一年以上前の原種大戦にて、中国に現れた脊椎原種にゾンダー化された人々の救助のため護は中国へと渡っていた。・・・・・・緊急故にパスポート無しでだが(特別隊員なので罪に問われることはなかったけれど)。
 楊はその際に一度顔を合わせていたとは言え、それっきりだったので覚えているかいささか不安であったのだが、杞憂に終わったらしい。自己紹介の手間が省けた。
 天海勇は仕事、愛は丁度買い物に出かけており、家には護一人だった。
 ひとまず招き入れ、お茶をどうかと聞いたら首を振られた。少々残念に思いつつも、話に入る。

 『どうしたんですか、突然』
 『・・・GGG特別隊員天海護。君は、国連が今何を求めているか知っているか?』
 『???』

 寝耳に水以前に話が急すぎた。疑問符を浮かべて首を傾げる護に、楊は残酷な一言を告げる。

 『ザ・パワーだ』
 『っ・・・!』

 木星に眠る脅威のエネルギー、ザ・パワー。その力は時間をも捻じ曲げ過去、未来への移動を可能とする程。
 だが、しかし。

 『・・・・・・あれは、ザ・パワーは、人の力でどうにかできる物じゃありません!』

 原種との最終決戦に向け木星へと赴き、直にその力を浴びた護には解る。まさしくあれは滅びの力。
 人間を、地球の科学を遥かに超えるZマスターですら、一度暴走の坂を転がったザ・パワーを止めることはできなかった。
 勇者達が無事生還できたのは、ザ・パワーの超エネルギー全てを、キングジェイダーとZマスターが身代わりとなり受け止めたからに過ぎない。
 過剰なエネルギーをJジュエルの戦士達が吸収してくれなければ・・・・・・あそこで、滅んでいた可能性もある。
 限りない幸運と奇跡が重なって、今の地球は存在する。だと、言うのに・・・

 『国連は・・・地球を滅ぼす気ですか!?』
 『何度諭しても、どれだけ説明しても、奴らの耳には届かん。頭の固い連中だ。地球のためという題目で、そこから得られる利益しか頭にないのだろう』
 『そんな・・・』
 『だから、私がここに来た。木星開発計画反対派の筆頭である、私が』
 『え・・・・・・?』
 『ザ・パワーをエネルギーとして用いるなと言うのであれば、代わりの物を見つけてからにしろと、言われたのだ』
 『代わりの・・・エネルギー?』
 『君がGGGに提出した報告書・・・と言うより、あれは最早物語だが』
 『う・・・』

 まだ中学生にもなっていない護が報告書の書き方など知っている訳がない。しかしギャレオリア彗星の向こうで何が起きたのか、三重連太陽系での決着はどのように着いたのか。そして勇者達はどうなったのか・・・・・・護は、帰ってきた者の責務として伝えなければならかった。
 そこで作成したのが、作文形式での報告書。四百字詰め原稿用紙を公式書類として提出するというシュールな光景に、誰も二の句が継げないでいたそうだ。

 『まあ、解りやすい内容ではあった』
 『・・・今ならもっとまともに書けます』

 後になって失笑を買い、悔しい思いをした護はそれら文書の書き方を徹底的に習ったのだ。オービットベースに残ったGGG首脳部に師事したため、その辺りは完璧である。

 『話を戻そう。私は君が上げた報告書の中で、ラウドGストーンという単語に目を付けた』

 ラウドGストーン。それは、持つ者の勇気に比例して上下動の激しいGストーンに、安定性を備え付けた物。勇者達が稀に出すような圧倒的なエネルギーは得られないものの、誰であろうと扱えるという利便性を持つ物質。

 『単刀直入に聞く。ラウドGストーンを造ることができるか?』
 『・・・・・・』

 楊の問いに、護は、咄嗟に答えることができなかった。
 知識は、ある。護がマザーと呼んでいたGクリスタルに宿る人格に、その構造、仕組みは教わっている。二つの結晶の違いは何かと護が聞いたところ、詳細に至るまで説明された。
 そもそもGストーンにせよラウドGストーンにせよ、原型は護の持つ力なのだ。よって理屈ではなく、感覚的に理解できた。
 つまるところ、製造は可能。ただ、それに心が反発する。
 ラウドGストーンは遊星主の使っていた力。幾度となく自身を脅かしたその力を、広め、使うことに抵抗を覚える。

 『・・・・・・戒道に、相談してみます』

 それで、その日の突発的な会談は終わった。
 後日また訪れると言い残し、楊竜里博士は天海家を後にした。




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 「・・・どうした?味が薄いなら、お茶漬けの袋でも持ってくるが」
 「あ、いえ・・・・・・ちょっとぼうっとしてました」

 手が止まっていたらしい。怪訝そうな恭也さんを笑ってごまかしながら、さっさと粥を片付ける。

 「ごちそうさまでした。美味しかったです」
 「それは良かった。料理の腕は余り自信がないんだ」

 ・・・・・・お粥に調理技術が関係するのだろうか?

 「ところで・・・なのはや、他の方は?」
 「なのはと美由希は学校だな。うちは喫茶店を経営していて、父さんも母さんも翠屋に行っている。ちなみに俺は自主休校だ」
 「不良学生?」
 「誰かさんのせいで夜遅くまで起きていたからな」
 「すいません・・・」
 「もっとも今朝五時過ぎにはランニングをしていたが」
 「あれ?今僕が謝った意味は?」
 「ないな」
 「・・・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ。
 さておき目も覚めたので布団を畳む。恭也さんは手伝ってくれようとしたが、このくらい自分でしないと申し訳が立たない。

 「さて・・・俺は翠屋に戻るが、護はどうする?」
 「・・・小学校はそろそろ終わる時間ですよね。なのはが気になるので、散歩ついでに迎えに行こうかと」

 これからどうするかはまだ不明。決めてない。目的もないし、生活の基盤もない。

 「そうか。帰ってきたら、今度はなのはも混ぜてもっと詳しい話を聞かせてくれ。しばらくうちに滞在するといい」

 ならしばらくは、流れに任せてみよう。あるがままを受け入れて、それから考えよう。

 「・・・すいません。お世話かけます」

 まずは・・・情報を集めないとね。

 「いちいち謝らなくていい。怪我させたのは俺だしな。・・・なのはが通ってるのは私立聖祥大学付属小学校だ。道は分かるか?」
 「分からなくなったらテレパシーで聞きますから、大丈夫です」
 「そうか・・・いや、そうだな。ああそれと――」
 「?」

 これまでの温和さが嘘のように、抜き身の刀のような鋭さを漂わせる恭也。
 その真剣さに何事かと護も表情を改めて聞く姿勢を取り、

 「――なのははやらんからな」
 「は、はあ・・・・・・」

 一字一句聞き逃さない心構えの元、恭也のシスコン具合を思い知る護であった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
少しずつ過去の話も盛り込んでいこうと画策中。上手い具合に話が被るのが目標。

LG2112/9/3さん 戒道ですか・・・・・・考えてませんでしたが組み込むのは可能ですね。にしてもデバイスの名前がこんがらかってきた。・・・どうしましょうか。

E.Bさん 戒道・・・ふむ。その案採用。と、言う訳で、

お二人の希望により戒道幾巳再登場をお約束いたします!!楽しみにお待ちください!!


ゆめうつつは何の理由もない結果というものが苦手なので、話には一応論理的説明が付くようにしています。理由や原因は話の中で明らかにしていきますので、気長にお待ちいただけますようお願い申し上げます。

(感想随時募集というか是非ともください!)



[5916]       第五話 平和な街
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/06/08 21:50
 海鳴市。
 街の中心部にはビルも建ち並ぶが、周辺を海と山に囲まれ自然も多い。
 適度に近代化した都市。護の目にはそう映った。

 「ふぁ・・・ん!なんか・・・・・・平和ボケしそう」

 込み上げてきた欠伸と一緒に伸びをして、またのんびりと歩き出す。
 
 「ここまでリラックスできたのは、いつ以来かな・・・?」

 暖かな日差しを浴びて、襲撃の心配をすることもなく、平和な世界を歩く。
 それがどれだけ素晴らしくてかけがえのないことか、解っている人は果たして何人居るだろうか。
 異文明との大戦をくぐり抜け、長い隠匿生活も行った護には解る。
 この脆く儚い日常の大切さが、ちょっとしたことで崩れてしまう平和のありがたさが。
 だから、平行世界の人間だとしても、この居心地の良い日常を護らなければ――

 「聞きました奥さん?動物病院の話」
 「トラックがぶつかったんですって」
 「近くの道路や電柱もなぎ倒されてたそうですし」
 「怖いですねぇ・・・」

 (・・・・・・・・・・・・)

 耳に入ってきた主婦達の噂話に、いたたまれなくなった護は、すぐ側の電柱から電子回線に侵入ハック
 地図情報を取得し、さっさとなのはの学校を目指した。










 校庭を囲む壁に背を預けながら、護はしばし感慨に胸を暖めた。
 初めて見る建物だ。
 記憶にあるはずが無い。
 それでもそこは学舎であり。
 学校という空間が放つ独特な空気を作り上げていた。

 (・・・・・・懐かしい)

 最後に登校したのはいつだったか。中学は中退したから、およそ六年前?

 「っ・・・・・・」

 刹那、割れるような頭痛が脳髄を掻き回した。
 顔が苦渋に歪み、思索を振り払う。
 空白。
 記憶の中、蛇がとぐろを巻くように横たわる、欠損。
 ノイズや霞ではなく、まるっきり・・・無い。
 思い出せない?いいや違う。思い出さない’’’’’’
 それは、必要なことだから。
 それを覚えていたままでは、何もできなかったから。
 だから――

 「・・・護くん?」
 「あっ・・・・・・なのは?」

 ふと顔を上げれば、昨日知り合ったばかりの少女――なのはが目の前で、心配そうに見つめていた。
 魔力という、護の知らないエネルギーを使える女の子。
 ・・・魔法少女というファンタスティックな単語が浮かんだが、頭の隅に追いやった。

 「大丈夫?顔色悪いよ?」
 「ちょっと立ち眩みしちゃって・・・・・・うん、もう何ともないから、大丈夫」
 「そうなんだ?よかったぁ」

 心底安心したように笑顔を見せる、なのは。
 少女が着るのは真っ白な制服。動き回るのが常のこの年代には、いささか不適当な気もする色合い。
 けど、なのはの純粋さには、ひどく似合ってる感じがする。イメージ的に。

 「可愛い制服だね。よく似合ってるよ」
 「にゃ、にゃあぁ~っ!?」

 ぼんっ、となのはの顔が湯気が出るほど真っ赤に染まる。
 ・・・なんで?
 未だ大人の気分が抜けきらない護は、心から首を傾げた。

 「ふーん・・・あんたがなのはの言ってた護くん?」
 「うん。天海護。初めまして」

 今まで静観していたなのはの後ろに立つ二人の内の片方が、痺れを切らしたように話しかけた。気の強そうな金色の髪の少女と、おっとりした雰囲気を持つ紫がかった髪の少女。・・・何だろう。可愛い子同士って集まりやすいのかな?・・・・・・偶然?

 「こちらこそ初めまして。私はアリサ・バニングスよ。こっちはすずか」
 「月村すずかです。なのはちゃんからお話は聞いてるよ?」
 「・・・ちなみになんて?」
 「事故に遭いかけたところを助けてもらって、そのまま別れようとしたら突然倒れて、慌てたなのはが家に運んだら実はただの睡眠不足だったらしいじゃない」
 「・・・・・・」
 「おまけに親戚も誰もいなくて着の身着のまま行く当てもなくふらついてたそうね」
 「ちょ、ちょっとアリサちゃん、言い過ぎ・・・」

 すずかが罵倒に近い言葉を諫めているが、それより気になることが護にはあった。
 妙に引きつった顔のなのはを横目にしつつ、頭の中でテレパシーの回線を繋ぐ。

 《・・・・・・さて。なのは、申し開きはある?》
 《うぅ・・・すみません・・・》
 《辛うじて矛盾はないカバーストーリーだけど、下手したら僕のこと全部話さなきゃならなくなってたよ?》
 《待って護!この話を考えたのは僕で!》
 《誰・・・?ああ、ユーノか。忘れてた》
 《ひどっ?!》
 《・・・・・・なら小動物には小動物に相応しい刑罰を考えておくとして、》
 《な、ちょっ!何する気なんだ!?》

 多大どころではすまない危機感を感じたユーノであるが、それに対する護の返事はなかった。
 思わせぶりなこと言っといて不安にさせる手法である。ある意味これが刑罰と言えなくもない。
 そして目の前の少女への刑罰を脳内リストから吟味して、選択する。

 「なのは」
 「は、はい!」

 バチィッ!

 「――ったぁああ~・・・」

 強烈なデコピンが炸裂してしゃがみ込むなのは。
 護の指から煙が上がってるように見えるのは、目の錯覚に違いない。
 突然の護の暴行(?)に食って掛かるのはアリサだ。

 「あ、あんたなのはに何してんのよ!」
 「これに懲りたらみだりに人のことを話さないように」
 「はい・・・」

 スルーをかます二人だったが。

 「人の話を聞きなさいっ!なのはも納得してんじゃないわよ!」
 「まあ落ち着いてバーニングさん」
 「バニングスよっ!」
 「ああ、ゴメン。でもそれよりね」

 言葉を区切り、アリサの前にピッと人差し指を立てる。

 「な、何よ」

 そのままスゥーっと横にずらし、つられてそれを追ったアリサは、その先を見て硬まった。

 「どうにも目立ちすぎてるから、場所を移したいんだけど・・・」

 今は下校途中である。当然ながら校門には多くの生徒が集まる。
 ならばそこで騒いでいた彼らに、視線が集中するのはやむないことであったと言える。
 こちらもこちらで、赤くなるアリサ。しかしそれも僅かなこと。
 一つ深呼吸したアリサの目つきが、凶悪化したのを護は見た。

 ――ギンッ!

 凄まじい威圧、迫力、貫禄。
 九歳の女の子が放つ物ではない。
 ほとんど殺気に近いアリサの眼力が見るもの全てを怯えさせ、
 一般大衆に過ぎない者達は、そそくさと逃げ出すのだった。

 「うわっはー・・・」

 最早呆れた声しか出せない護である。
 まさか、ただ睨み付けただけで散らすとは。

 「ふふん、どうよ。何か文句ある?」
 「凄いね。とんでもない迫力だよ。・・・ライオンも裸足で逃げ出しそう」
 「なんですって・・・・・・!」

 ボソリと付け足した最後のセリフにアリサの眉が急角度につり上がる。
 爆発寸前に高まっていく気勢に護は失態を悟った。一言余計だったらしい。つい言ってしまっただけなのだが。
 その遣り取りを見守っていたなのはとすずかは付き合いの長さから即座にアイコンタクト。

 (すずかちゃんお願い!)
 (任せて!)

 テレパシーでもないそれはまさに以心伝心。
 阿吽の呼吸を以て即座に行動へ。

 「ほ、ほら護くん!朝ね、お母さんが是非翠屋に連れてきてって言ってたの!」
 「ごめんね、私たちこれからお稽古だから、一緒には行けないんだ。行こう、アリサちゃん!」
 「ま、待ちなさいすずか!私にはなんとしてもこいつに言ってやらなきゃならないことがモガモガ・・・!」

 未だ何か言いたそうに睨み付けるアリサだが、すずかに抱えられてはそうも行かない。
 激突を避けるため、口を塞がれ連れて行かれてしまったのであった。
 回避できたいざこざになのはは安堵の息を吐く。

 「喧嘩にならなくて良かった・・・」
 「短気だね、バニングスさんって」
 「護くんが挑発するからだよ!」
 「でも、ホントに逃げ出しそうだと思わない?」
 「そ、それは、その・・・・・・ええと」

 サバンナでライオン相手に仁王立つアリサの勇姿を想像して・・・・・・想像、して・・・・・・・・・

 「どう?」
 「・・・・・・・・・・・・の、ノーコメントで!!」

 親友との友情と想像の現実感に板挟みにされ、最後の最後まで葛藤した挙げ句になのはが取った第三の選択肢は、盛大なる自爆の道だった。

 「――く、くく、っは、ぁははははっ!」
 「な、何でそこで笑うの!?」
 「ご、ごめん。でも・・・ふふっ、すっごい、自爆だったから」
 「???」

 理解してないと一目で分かるなのはの表情に、また笑いが込み上げてくる。

 (こ、こんなに笑ったの・・・・・・いつぶりかな・・・)

 《ねえ!結局何がどうなったのさ!?》

 空気を読まないユーノのテレパシーに、護は無理して笑いを抑えた。

 「あー笑った笑った!ふふふ・・・。ユーノもこう言ってるし、バニングスさん超獣議論は置いといて、帰ろうか」
 「な、何か釈然としないけど・・・そうだね・・・――っ!」

 突如表情を一変させるなのは。同時に、護も気付いて、本当に笑顔を引っ込める。
 遠くでもなく、かと言って近くでもない山中の方角に、エネルギー反応。・・・昨日よりも反応が大きい?

 「これって、昨日と同じ?」
 《なのは、護!ジュエルシードが発動した!》
 《昨日の宝石?そう言えば21番とか何とか・・・》
 《僕もすぐ行くから、二人もお願い!》

 それきりユーノからのテレパシーは途切れてしまった。家からの脱出と走るのとに全力を傾けているのだろう。

 「・・・まだ手伝うとか一言も言ってないんだけど」
 「護くん、手伝ってくれないの?」

 上目遣いで見上げてくるなのは。・・・目尻は下がり、ともすれば潤みそうな気さえしてくる表情に、護は視線を逸らした。
 
 (身長は若干、僕の方が高いからそれは良いとして)

 「・・・・・・あんまりその表情、男に見せない方が良いよ?」
 「?」

 ダメだ、この顔は分かってない。・・・・・・恭也さんの心配もある意味当然、か?

 「・・・とにかく僕も手伝うから、急ごう」
 「うん!」










 「ひぃ、はぁ、ひぃ、はぁ」
 「・・・なのは、大丈夫?」
 「だ、だいひょうぶ・・・」

 とても大丈夫そうになかった。息も絶え絶えのバテバテだ。余り普段から運動してないようだけど、学校からこの階段の途中まで保ったんだから身体の素地としては凄いと思う。
 まるで活かせてないようだが。

 「なのは、頑張って」

 途中で合流したユーノが応援しているが(小動物だけに身体機能は抜群か)、さすがに走った距離が距離である。・・・仕方ない。

 「僕が先に行って捕まえておくから、二人はゆっくり来て」
 「で、でも」
 「なのは、そんなに息切らしてたら何にもできないよ?僕じゃあの封印とかいうのできないから、フィニッシュを任せたいんだ。・・・ダメかな?」
 「ううん、そんなことないよ!けど・・・」
 「じゃあユーノ、なのは頼んだよ」
 「あ、ちょっと護!」

 ユーノが呼び止めるが、悪いけど答える暇はない。
 ここまで近づかないと気付かなかったが、人間と思わしき生体反応が1つ。階段の先、神社の境内に確認。
 そしてそのすぐ側にいる、高エネルギー体。
 時間的余裕――無し。
 なのはを置いて、一気に終点へ至る。
 そこに、居たのは。

 「・・・・・・犬?」

 真っ黒な、四つ足の獣。見た限りでは犬か狼だが、目が四つもあるのはいかがなものか。
 ・・・・・・昨日は不定型な、液体に近い身体だったのに。・・・21個の中にも、個体差があるのか?

 「GuOooo・・・」

 獣――ユーノの言葉を借りるなら、ジュエルシードの発動体。それの足元に女性が居るが・・・良し。気絶してるだけみたいだ。
 思索は後。まずは、捕まえる。

 「なのはが来るまでもう少しかかるからね。相手させてもらうよ」
 「GaAAAA!」

 言葉を理解したとは思えないが、それに応えるように吠え、獣は地を蹴った。

 「!」

 バヂヂヂヂヂヂ・・・!
 予想外に速かった獣が、護の張った翠緑のバリアに阻まれる。髪の色も変えておらず、全開には程遠い出力だが、獣にはそれすら破くことは適わず、押し返される。

 「GuaOッ!?」
 「・・・誰が聞いてるか分かんないんだから、静かにして欲しいな」

 昨夜と同じようにサイコキネシスで動きを止める。力のイメージは、巻き付いた蛇。
 全身を捻られるような感触に獣は苦悶を響かせた。
 見事拘束した形になるが、捕らえた当人たる護は、困惑を胸によぎらせる。

 (・・・おかしい)

 昨日もそうだったが、威力が小さい’’’’’’。これだけの力を放てば、鋼鉄だろうととっくに砕いてるはず。そして手応えからしても、この獣にそこまでの頑丈さはないように感じられる。
 ならば、力が何かに遮られていると考えるのが自然・・・・・・?

 「護っ!」
 「護くんっ!」

 疑問に首を傾げていると、ようやく階段を上り終わったらしい二人が息を切らせてやって来た。

 「Good timing!捕まえたよー!」
 「げ、現住生物を取り込んだ発動体を、そんなにあっさり!?」
 「ユーノくん、どういうこと?」
 「・・・ジュエルシードは願いを叶える石。だからそれ単体じゃなくて、何らかの生物が発動させた場合の方がより強い現象が起きるんだ」
 「え?それじゃ、ユーノ、これの中に他の生物が居るってこと?」
 「そうだけど・・・」

 今もミシミシ言ってる獣に目をやり、護は今更ながら呟いた。

 「・・・死んでないよね?」

 力を緩めると、ぐったり倒れ伏す四つ目の獣。・・・・・・うん。やりすぎた感は否めないけど、生きてることを祈ろう。

 「二人とも、封印任せたよ」
 「あ、うん。なのは、レイジングハートを起動して」
 「分かった!・・・・・・えっと、どうするのかな?」

 可愛らしく小首を傾げたなのはに、ユーノと二人してこけかける。やはり、置いてきて正解だったらしい。
 これ見よがしに溜息すると、むぅっ、となのはが頬を膨らませた。・・・・・・可愛いけど、アリサと違って迫力無いね。・・・あれを真似しろ言う方が無理か。

 「パスワードを唱えるんだ。昨日言ったやつだよ」
 「えぇ~?あんな長いの、覚えてないよ!」
 「・・・もう一回言うから、繰り返して」

 風は空に・・・と言い始めたユーノ達に、苦笑を向ける護。・・・パスワードか。僕のも、そうなのかな?
 連想に伴う意識のズレ。それは無力化した獣への注意を、逸らすこととなった。
 ――獣の本能。
 生き残るためにより弱い獲物を狙う、それはさが
 故に自らを打ち倒した目の前の強者ではなく、少し離れた獲物へと・・・・・・その牙を向けた。

 「っ!?」

 ゴゥッ!と耳元で風が吹き抜け、真っ黒な獣が脇を過ぎ、なのは達へと踊りかかっていた。
 油断・・・・・・慢心。
 まだ動けるとは思っていなかった。それだけのダメージは与えていた。
 だがそれは思い込み。隙でしか――なかった。

 (回復力を見誤ってた!?くっ・・・止ま・・・・・・らない?!)

 原因不明の威力減衰。本来なら時速百キロのトラックすら止め得るそれが、緩いブレーキ程度の役割しか果たさない。
 獣の爪がなのは達へ迫る。恐怖か、驚愕か。青みがかった瞳を見開き、ぎゅっと閉じるなのはを見、
 ことここに至って、獣を物理的’’’に抑える決断を下した。



 獣に向けた左の手の平に、丸みを帯びたZの文字が浮かび上がる――










 思わず目を閉じた、その時。

 『起動します』

 突然レイジングハートから声が聞こえて、独りでに杖になってしまった。・・・ふぇ?私まだ、パスワード言ってないよ!?
 頭は混乱したままだが、はっと、目の前に迫った発動体へと、反射的に杖を向けた。

 『protec・・・?』

 が、バリアを張る途中でレイジングハートが何故か魔法を途切らせた。何が起こったのかと、思う間もなく。
 ビタッ。――発動体の動きが、止まっていた。

 「・・・・・・え?」

 その光景を、呆然と、見つめる。
 ジュエルシードの発動体は動きを止めたんじゃなくて、止められていた。
 その身に絡まる、機械的な幾重もの太いコード’’’’’によって。
 そして、コードの先は、

 「護・・・くん?」

 妖しい紫色に瞳を輝かせた天海護の、左腕。
 長袖を食い破って、十以上に及ぶコードが生えていた’’’’’
 ・・・・・・あれは、何?
 何で、護くんの身体からあんな物が?
 ・・・何で?

 「なっ・・・護!?それは一体――」
 「そんなことより、なのは!僕が動きを止めてる間に、封印して!」
 「で、でも――」
 「いいから早く!!」
 「あっ、うん!」

 そうだ。何がどうなってるのか何も分からないけど、護くんが私を助けるためにあれを使ってくれてるのは確かなこと。
 だったら私も、それに応えないといけない!

 「行くよ、レイジングハート!」
 『了解しました、マスター。barrier jacket』

 身体が光に包まれて、魔力で編まれた衣服が私の身体に纏いつく。
 聖祥の制服をイメージしたバリアジャケット。そして魔法の杖レイジングハート。

 『sealing mode』

 桃色の羽が一対、翻り。
 なのはの生まれ持つ膨大な魔力を注がれて、プログラムは魔法となる。

 「リリカル・マジカル!ジュエルシード、シリアル16。――封印!」

 そうして、光の鎖が撃ち放たれた。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自分で書いた小説って、面白いかどうかイマイチ解りにくいです。
ナルトの次話が上手く行ってないのでこちらを投稿したゆめうつつです。


ルファイトさん ありがとうございます。心情描写って妙に書きにくくて、これでいいのかと迷っておりました。これからも精進します。

道家さん ・・・いや、ソリタリーウェーブのコスモロボ部隊は、国連直轄の治安維持部隊なのですが。向けろと言われましてもはい。

ニッコウさん こちらでも感想どうもです。水鏡はプロットというか、展開ある程度決まってるのに何故か進みません。・・・どうした物でしょうね。

ふぇんりるさん 報告どうもです。すぐに修正いたしました。

E.Bさん そ、そのデバイスは何とも凄まじいチートですね。鎚型だけで圧勝してしまいそうな気がします。

sinさん ああ確かに。あの無茶苦茶やる人なら何とかなったかも知れませんね。


デバイスの名前が決定しました。その名前になった理由も書くつもりです。
ヒントは三重連太陽系と、カイン、アベルです。しっかり護と戒道の心情部分にも引っかけてるので、お楽しみにどうぞ。
まあ考えたのはいいんですが、無印終わるのが一体いつになるやら・・・。

(修正しました。俊さん、報告どうもです!)



[5916]       第六話 ちょっとしたすれ違い
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/04/07 15:04




 必要に駆られて作成し、得ることとなったZの力。
 その理由は、今は思い出せない。カインによって施されていた記憶封印を、今度は戒道にしてもらったから。
 悪いことをしたと思う。親友に記憶をいじらせるなんて、戒道はどう思っただろうか。
 Zの力は強大だ。下手に扱えば星一つ簡単に滅ぼせるほどに。だから普段は、左腕だけを影響下に置いてある。
 本来のエネルギー源であるストレスから切り離して。電力だけを使用して。
 試行錯誤の末にGストーンとの反物質性は失わせることができた。元々暴走によるバグが原因だったので、当初の予想よりはとても楽だったけど、それでも1年近くかかってしまった。
 予想外だったのは、Zの力を使うと瞳の色が紫になること。・・・そういう色素かと思っていたら、僕の目の色はGパワーの色だったらしい。これにはちょっと驚いた。
 多分Jの力を使ったら赤くなるんだと思う。
 それはさておいて、今目の前の状況。
 サイコキネシスが何故かあまり効果がなかったため、他に手段もなくやむを得ず使ったZの力。
 既にGと対消滅することはないとは言え、自分と対極に位置するこの力は、心情的にどうしても好きになれない。
 特に、他の人に見られるような状況では。
 けど僕の気持ちと誰かの安全を天秤にかけたら、後者に傾くのは絶対だ。
 だから、僕は使った。
 怖がられるかもしれないことを、覚悟して。










 「リリカル・マジカル!ジュエルシード、シリアル16。――封印!」

 私の呪文に応えて桜色の鎖が獣へと絡みつき、護くんの伸ばした雑多なコードもまとめて縛り上げる。
 神社の空へ悲鳴を響かせて、獣の巨体が消えていった。
 後に残されたのは、ジュエルシードと一匹の子犬。
 すぐにジュエルシードは回収したけど・・・子犬は少し怪我をしてるみたい。

 「ああ・・・!すぐに動物病院に連れて行かないと!」
 「必要ないよ」

 私が子犬を抱く側で、紫色の目をした護くんが覗き込んでいた。
 左手から生えてたコードはもうどこにも見えなくて、破れたはずの服も元に戻ってた。
 でも必要ないって・・・どういう意味?

 「護くんは、この子をこのまま放っておくつもりなの!?」
 「そういうこと言ってるんじゃなくて・・・」

 私の詰問に溜息する護くん。・・・な、なんだかすっごく馬鹿にされた気が。
 ていうより、この子が怪我してるのって護くんが無茶したからなんだよ!?その態度はひどいと思う!

 「・・・睨まれる覚えが無い訳でもないけど、まあいいや」
 「良くないよっ!それに病院に連れてかないならどうする気なの!?」
 「・・・こうするの」

 片膝を付いた護くんが、左手を子犬にかざし、

 紫の光が、溢れ出し――

 目を瞠る私の前で、子犬の傷が瞬く間に癒えていった。
 ・・・・・・凄い。
 こんなことができるから、護くんは必要ないって言ったんだ。

 「な・・・!回復魔法!?それもこんな高レベルな・・・」
 「違うから、ユーノ。僕は魔法は使えない。これは僕の『故郷』の、科学技術」

 科学・・・・・・技術?
 今のが?
 ・・・全然イメージが浮かばない。

 「平行世界の?だとしたら・・・凄い技術だ」
 「うん。でも、これ嫌いなんだ」
 「「え?」」

 ユーノくんが驚いてる。私だって驚いた。こんな風に怪我をあっという間に治せる技術なのに、護くんはこれが嫌いだって言って。
 どうして?世界中のみんなが喜ぶような、とても凄い技術なのに。
 
 「護、それはどういう意味なんだ?」
 「・・・詳しく話す気はない。けど、一つだけ言っておくと・・・この技術のオリジナルは、宇宙を滅ぼしかけた」
 「「っ!?」」

 護くんの口からサラッと出てきた、破滅の言葉。
 顔は、冗談を言ってるように見えない、とても真剣な物で、
 ・・・・・・凄く、寂しそうな目をしてた。

 「昨日も見せたサイコキネシスは僕が生まれつき持ってた力だけど・・・今のは、後天的に付与した物なんだ」
 「後天的って・・・人体改造!?」
 「そんな大したこと・・・・・・したね。うん」
 「ええぇーっ?!か、改造ってそんな・・・大丈夫なの護くん!?」
 「ん、大丈夫だよ。身体に取り込んで結構経つけど、異常が出たことは一度もないから」

 左手を右手で握って、護くんは笑いながらそう言うけど。
 ・・・でも、でも何で、そんなことを・・・

 「・・・護。その、君に付与された力は・・・危ない物、なんだよね?」

 ユーノくん?

 「そう・・・だね。さっきも言ったけど、この技術は僕の居た宇宙を滅ぼしかけた。そんな危険すぎる技術だから、こうして僕が護ってる」

 ・・・え。
 護くんが?

 「間違った使い方をする人間に奪われないように。二度とあんな事が起きないように」

 ・・・とても、決意に溢れた顔。
 でも・・・

 「なら、何で君は使ってるんだ?」
 「・・・今見せたのが、理由だよ。怪我を一瞬で治した力は、いくつもある力のほんの一部なんだ。でもそれらの力は切っても切り離せない・・・例えば、パズルのピースみたいな関係にある。必要な一部を手に入れるには、全体を取り込むしかなかったんだ」
 「・・・何となくだけど、護くんの言ってること、解ったと思う」

 怪我を治す力を護くんが求めて、そのために要らない物もまとめて身体に入れちゃって。

 「でも、何で護くんがそんなことしなきゃいけないの?」

 解らないのは、そこ。
 今のを聞いただけだと、身体に入れるのは護くんじゃなくてもいいと思う。
 私と、そんなに変わらない年なのに。
 ずっと前に身体を改造して、護り続けて。

 「怪我を治すための力だけじゃなくて、危ない力も一緒に入れるなんて・・・それしか方法がなかったのかも知れないけど、そんな、護くんの身体の中に封印するみたいなこと、何で・・・」

 ・・・何を言ってるのか、自分でも解らなくなってきちゃったけど。

 「家族とか、周りの人は、何も言わなかったの?」
 「・・・・・・」
 「辛く・・・ないの?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「護く――」
 「うるさいっ!」

 ダンッ!って音がして。
 護くんの踏みつけた石畳が・・・砕けた。
 怒鳴ったことを後悔するみたいに、顔を歪めた護くんが、またさっきの光を出して地面はすぐに直ったけど。
 顔をうつむけて、噛んだ唇だけが見えた。

 「・・・ごめん。先に、帰る」

 結局、私の質問に何も答えないまま、背を向けて行ってしまった。
 追いかけようとしたけど、空間に溶けるように消えちゃったから・・・どうにも、できなかった。

 「・・・怒らせ、ちゃった」
 「聞かれたくないことだったみたいだ。・・・ボク達も早く帰ろう、なのは」
 「・・・うん」

 ・・・聞いた私が馬鹿だった。
 家族にも、友達にも。もう、会えないのに。
 辛くないはずが、ないよね。
 また、謝らなきゃ・・・










 世界を滅ぼしかけた科学技術。
 ・・・分類的には、間違いなくロストロギア扱いになる。
 護自身には、悪用するつもりが無いみたいだけど。それにしても、生物の治癒だけじゃなくて、無機物の修復までできるなんて・・・一体どんな原理なんだろうか。
 あの様子を見た限りじゃ、護の中に埋め込んだ科学技術の関係で、過去に何かあったんだろうとは解る。・・・出会ってまだ二日も経たないけど、護は普段から声を荒げるような人間じゃないことは、知ってるつもりだ。
 そして、そんな大それた物を身体に埋め込んでるなんて、管理局が知ったら・・・

 「ユーノくん、どうかした?」
 「う、ううん。何でもないよ」

 ・・・なのはは、ボクを手伝うって言ってくれてる。
 だったら、この問題は僕一人で片付けよう。
 なのはには、何も心配しないで、全力でやってもらいたいから。





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 夜。
 自宅でそろそろ寝ようかと思っていたら、突然天海からテレパシーがあった。
 一体何事かと思ったが、内容を聞いて得心がいった。
 確かにこれなら傍受や立ち聞きの心配はないし、内緒話には打ってつけだ。

 『ラウドGストーンか・・・』
 『戒道は、どう思う?』

 突然テレパシーを繋げたのも、解る話だ。
 ラウドGストーン。ソール11遊星主のエネルギー源。
 原子力発電や火力発電に比べれば、とてもクリーンなエネルギーには違いない。
 だが、不足分のエネルギーを補うには、強すぎるように思う。
 けれど、

 『・・・ザ・パワーを使われるよりはいい』
 『やっぱり・・・そうだよね』

 ザ・パワー。
 木星に眠る滅びの力。
 あの力を使われるよりは、遥かにマシだ。
 しかし、天海の声は暗い。
 当然だ。遊星主と最も長く戦ったのは、他ならぬ天海だ。
 その恐ろしさは身に染みているはず。
 心理的な反発も、大きいだろう。

 『これはあくまで、僕の意見だ。最終的にどうするかは君に委ねる。・・・ラウドGストーンはザ・パワーよりはエネルギー源として有効だ。だけど強すぎることも確かだ。だから、劣化版を造って渡せばいいと思う』
 『劣化版・・・?あ・・・そっか。そういう手もあるんだ』
 『あくまで一意見に過ぎない。僕にはラウドGストーンは作れないからね』
 『・・・うん。ありがとう、戒道』

 ベストはザ・パワーの開発を止めさせることだが・・・僕達のような子供の言う事なんて、聞く耳持たないだろう。遊星主の時のように。なら、よりベターな選択をするしかない。

 『設計図は君のGストーンの中に入ってるだろう?だからそれを上手く利用して、組み上げればいい』
 『・・・え?設計図?』

 キョトンとした声が脳に届いた。
 数秒、僕はその声の意味を考えることに費やして。
 それに思い至った時、あまりの有り得なさに頭を抱えてしまった。

 『天海・・・まさかと思うけど、知らないのか?』
 『何が?』

 ・・・呆れた。いくら僕でもこれには溜息が出る。

 『・・・君のGストーンが特別製だって事は知ってるね』
 『うん。麗王博士から聞いたよ』

 麗王博士・・・エヴォリュダー・ガイの父親か。
 そうか、カインに聞いた訳じゃなかったのか。
 そうであれば・・・多少は、納得できる。

 『・・・そもそもGストーンは、天海の能力を元に生みだされた物質だ。そのほとんどは単なる対ゾンダーのエネルギー源と、情報処理の意味合いしか持っていない。が、君が首に下げてるそれは、君専用に造られている』
 『それって・・・どういうこと?』
 『説明しにくいが・・・それの機能は、通常のGストーンの力に加えて、君が理解した技術を記憶する情報記憶媒体と考えてくれればいい。トモロから聞いた話だと、機界文明のデータを収集するためらしいが』
 『機界文明のデータを収集・・・?どうやってそんなことを?』

 (・・・・・・・・・・・・)

 これは、まさか。
 いやいくら天海でもさすがにそれはない・・・はず。

 『一つ聞くが・・・天海。君は核を浄解する時、何を考えている?』
 『何って・・・何も。何となく、こんな感じかなーって』
 『・・・なるほど。君の非常識さがよく解ったよ』
 『ひ、非常識って・・・戒道には言われたくない!』

 ・・・恐らく、僕が東京タワーで雲隠れしたことを言っているのだと思うが。
 非常識なのは君の方だよ、天海。
 浄解は、見かけほど簡単なシステムではない。
 核の構成を分析し、そのプログラムを理解し。
 エネルギーだけでなくロジックからも、核を解体していかなければならない。
 ただGやJのエネルギーをぶつけるだけであれば、ゾンダーなら素体の人間ごと、原種ならクリスタルごと。消滅させることになる。
 対象がゾンダーならまだいい。しかしそれが原種ならば、エネルギー的な総量の問題で、こちらも対消滅する可能性が高い。

 しかし天海はそんなことを全く知らず・・・感覚だけで、全てを理解し終わらせていた。呆れて物も言えない。
 アルマである自分は、元々そういう能力を強化されて造られている。破壊マシンの所以だ。
 だが天海は――ラティオは、違う。三重連太陽系緑の星の指導者、カインの実の息子。後天的な脳機能の操作などされているはずがない。

 ・・・待てよ。
 そう考えると、逆に辻褄が合うのか?
 Gストーン、ギャレオン、ジェネシックマシン。それらのマシンを設計し開発したのはいずれもカインだ。
 そして天海は、カインの血を引いている。
 天才的技術者の、遺伝子を。

 『・・・戒道?』
 『詳しくはまた今度説明するが、通常僕達が浄解する際、その核のプログラムを理解しなければならない』
 『え、そうなの!?』

 全くこいつは・・・

 『君がどう思っていようと、プログラムの理解は必要過程だ。そして君のGストーンは、確か・・・共鳴型情報記憶システム、だったと思う。Gストーンの共鳴を利用して、情報を収集、保存してるんだ』
 『そ、そうなんだ。・・・あれ?でも何でそんなことを?』
 『弱点を探るためだと思う。ソリタリーウェーブは物質の構成が解ってないと、使えないだろう?』
 『あ、そっか。そうだね』

 ・・・適当にごまかしたが、真実は解らない。
 カインが本当に、ただデータを取りたいがために造ったのか。
 それとも・・・紫の星の技術を得ようとしていたのか。
 ・・・今更な疑問だな。真実がどちらであれ、現在には何の影響もない。
 故人の思惑など、知りようもないんだ。

 『君ももう解ってると思うが、僕達は身体自体が一種のコンピューターだ』

 Jのライバル、エヴォリュダー・ガイが、オービットベースのコントロールを取り戻したように。
 僕自身が、生体コンピューターとしてアベルに利用されたように。
 天海が、ギャレオンをジェネシック用に改修したように。

 『・・・うん』
 『三重連太陽系の物だけじゃない。地球のコンピューターも同じように扱える』

 触れただけで電子回線に侵入することなど、造作もない。

 『必要な情報だけを、Gストーンから移せばいい』
 『解った。夜遅くにごめんね、助かったよ』
 『・・・情報の移し替えは気を付けてやった方が良い。君のGストーンの中には、Zマスターのデータが全て入っている』
 『っ!!』

 テレパシー越しにも、驚愕の気配が伝わってきた。
 無理もない。僕達にしてみれば、生まれながらの仇敵。対極の存在。
 天海は特に、本能的な嫌悪があるのかも知れない。

 『・・・解った。気を付けるよ』
 『このことは誰にも教えない方が良い』
 『うん・・・・・・色々ありがとう』

 それを境に、テレパシーは途切れた。
 思いの外長く繋がっていたらしい。少し、疲れた。

 『幾巳、まだ起きていたのかい?』

 母さん?

 『今、寝るところだから』
 『あんまり夜更かししないようにね』

 ・・・これまで、母さんにはたくさん心配をかけてきた。
 こういうことは、なるべく無いようにしないと。
 まずは・・・テレパシーの際に、身体を光らせないでできないか、試してみよう。
 加えて母さんに気付かれないようにするには・・・テレパシーと普通の会話が、同時にできるようになればいい。
 明日から、早速やってみるとしよう。
 天海にも手伝ってもらわないと。










 天海からラウドGストーンの技術提供をすると連絡があったのは、それから三日後のことだった。



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連続投稿二日目。いろんな情報暴露です。これで納得していただければ幸い。

俊さん 誤字報告ありがとうございます。管理局との話は早く書きたいです。

ガガガスキーさん あらら、お気に召しませんでしたか?でも護って意外に暴言吐いたりしてるんですよね。心をグサッと抉るような。

ハイン2さん ゴルディオンクラッシャー→地球光子化
       Jフェニックス→自爆技
       と言う訳でまず使えない気がするのですがどうでしょう?

sinさん どうやって忘れたかの説明を載せました。そこに至った理由は、まあいずれまた。


なのはと微妙に険悪になってしまった。プロット?いいえ、ノリです。



[5916]       第七話 仲直り そして折檻?
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/04/10 17:38

 「ごちそうさまでした。美味しかったですよ、桃子さん」
 「ふふふ、腕によりをかけて作った甲斐があるわ」
 「お皿洗いますね」
 「あら、気にしなくてもいいのに」
 「ここにいる間ぐらいは手伝わせてください。働かざる物食うべからずです」
 「そうね・・・。それで護くんの気が済むなら、お願いするわ」
 「ありがとうございます」

 そんな会話をこなしながら、流しに向かう護くん。
 ・・・会話を聞く限りじゃ、何も変わってない。
 でも、なのはは少し気まずそうにしてるし・・・護くん、帰ってきてから一度もなのはに話しかけてない。喧嘩でも、したのかな?
 ・・・ううん。それなら空気がもっと、こう、ギスギスしてるはず。そうじゃなくて、なのはが話しかけるのを躊躇ってるみたい。

 「・・・何かあったのは確かだが」

 恭ちゃん・・・

 「これでは、どうにもできんな」
 「・・・そうだね」
 「ああ。せめて護に非があると分かれば、後は斬るなり裂くなり好きにできるんだが・・・」

 ・・・恭ちゃん、それじゃただの斬殺魔だから。しかも煮るなり焼くなりだから。
 最近、恭ちゃんの過保護っぷりに磨きがかかってるような・・・

 こういうのは結局、本人同士が解決するしかないんだよね。
 はあ・・・。御神の剣も揉め事調停には役立たずだ。
 何もできない自分が歯がゆいよ・・・










 ・・・いつもはなのはのお仕事だけど、今日は護くんが代わりにやってる。
 リビングのソファでじっと座って、護くんの手が空くのを待ってた。
 帰ってきて謝ろうとしたら、さりげなく距離を取られて話せなかったけど。
 後片づけが終わって、今がチャンスだと思ったから、勇気を出して話しかけた。

 「ま、護くん!」
 「何?なのは」

 まるで私が呼び止めるのが解ってたみたいに、振り返った。
 笑顔も、疑問も、何もない表情にくじけそうになったけど、耐えて、続きを口にする。

 「お話が・・・あるの。なのはの部屋で、話さない?」
 「うん、いいよ」

 一秒の停滞もない、機械みたいな返事。・・・なんだか護くんが機械になったみたいで、少し怖かった。
 階段を上って、私の部屋へ。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、気にしてくれてるのは解ってたけど、これは私がやらなきゃいけないこと。
 部屋に入って、座布団に座って。ユーノくんも交えて、向かい合った。
 紫から戻った翠の目は、今は何の感情も映してない。
 だから、最初に言わなきゃいけないことは。

 「護くん」
 「何?」
 「ごめんなさい!」

 真っ向からの、謝罪。頭を下げてるせいで、護くんの顔は見えない。

 「無神経なこと聞いちゃって、ごめんなさい!」

 一秒、二秒・・・・・・十秒ぐらい数えると、溜息が聞こえた。

 「別に、いいよ。僕もちょっと、大人気なかったから」

 気まずそうに視線を逸らしての言葉だったけど、さっきまでと違ってちゃんと表情が解る。

 「昔のことはあんまり話したくないんだ。・・・たくさん、色んなことがあったから」
 「・・・解った。もう聞かない。でも護くんが話したくなったら、ちゃんとお話聞くよ」
 「・・・ありがと、なのは。それと大声出したりして、ごめんね」

 良かった・・・仲直り、できた。










 全く・・・なのはみたいな子供に怒鳴るなんて、さっきはどうかしてた。
 いくら今僕の外見が小学生のそれだとしても、僕は二十歳なんだから。二十歳二十歳二十歳!初めてガイ兄ちゃんと会った時と同じ歳!

 って、なんだか凄い偶然。年齢的にあの時のガイ兄ちゃんと僕の位置に、今の僕となのはが被ってるよ。どうでもいいことだけど。

 ・・・何で怒鳴ったりしたんだろう?そんなこと、この数年間でも片手の指で足りるぐらいなのに。身体と一緒に心まで子供になってるとか・・・無いよね?若返ったんじゃなくて、身体の再構成だし。

 ・・・答えが出ないことを悩んでもしょうがない。なのはとも仲直りできたし、直面している問題から片付けていかないと。

 「――という訳で、ジュエルシードが散らばってしまったのはボクのせいなんだ」

 で、タイミングが悪くてなかなか聞けなかった話を、今ようやく聞き終わったところ。
 魔法、魔力、次元世界、そしてユーノが発掘したジュエルシード。
 なのはとの出会いと、協力関係に至った過程。

 魔法か・・・確かにただのエネルギーにしては汎用性が大きすぎるし、それを使った力を魔法って呼びたくなるのも分かる。なかなか面白そう。

 「だからボクが、ボク自身の手でジュエルシードを回収しようと思って、」
 「なのはを巻き込んだんだ」

 魔法への関心は置いといて、今回の問題はそれ。

 「・・・べ、弁解のしようもないけど、そんなつもりじゃなくて、」
 「やる気や責任感だけで何とかなると思ってるんだったら、それは大きな大間違いだよ。しかも聞いてる限りだと、どこにユーノの責任があるか全然分からない」
 「・・・・・・なのはにも同じこと言われたけど、でも!」
 「本当の意味で責任を取るんなら、一刻も早い回収、解決のために全ての手段を用いないといけない。ユーノが自分だけで何とかしたいって思ってるのは、悪いけど、自己満足としか言い様がない」
 「・・・・・・」

 反論をことごとく粉砕され、フェレットはうなだれた。なのはが何か言いたそうにしてたけど、目線で黙ってもらう。なのはは気がいいから庇おうとしたんだろうね。でも間違いは間違いだとはっきり解らせなくちゃいけない。次があった時に(ない方がいいに決まってるけど)、致命的なミスをしてからじゃ遅い。

 今回は知人、友人として指摘させてもらったけど・・・・・・もし二度も同じことしたら、ラティオ’’’’として徹底的に叩いてあげよう。

 「それで、そういう次元世界の治安維持機関とかないの?」
 「・・・時空管理局っていう司法機関がある。ジュエルシードの回収も、管理局の仕事なんだ」
 「だったら早く連絡して、回収しに来てもらおう」
 「それがその・・・通信機、持ってなくて・・・」

 ・・・ふーん。

 「なのは、近くの動物園に電話して」
 「動物園?」
 「うん。この役立たずだけど人並みに知性があるフェレットならきっと高く売れる」

 なのはと小動物に、雷の落ちた様な戦慄が奔った。

 「や、止めてよ護!僕これでも人間だよっ!」
 「そ、そうだよ護くん!ユーノくんはフェレットだけど人間だから売れないよ!」
 「大丈夫、なのは。この世界に変身魔法なんてないから」

 まるでなのはを見ている様な純真無垢な笑顔の護に、ユーノはその本気具合を悟った。

 「で、でもでも護くんっ!」
 「喋れるフェレット・・・一体いくらで売れるのかな?百万円は堅いけど」
 「ひゃっ・・・百万円・・・・・・?」

 ピクピクッ、となのはのツインテールが反応!これに慌てるのはユーノだ。

 「ちょっ!なのは!?」
 「この部屋見たらなのはがパソコン好きなのが解るよ。でもこういうのってお金かかるけど・・・百万円あったら何でもできるよ?」
 「な、何でも・・・・・・」
 「聞いちゃダメだなのは!正気を保ってっ!!」
 「百万え~ん百万え~ん」
 「護は洗脳しないでっ!」

 ユーノは必死に説得を繰り返すが、金の魔力は凄まじい。

 「大丈夫だよユーノくん」
 「なのは?よかった、正気に――」
 「百万円じゃなくて、二百万円で買ってもらうから!」
 「なのはぁぁぁぁっ?!」

 二日に満たない友情などかくの如しである。
 どこからか虫取り網を取り出したなのはを見て、ユーノは本気で逃げ出した。
 それを追う魔法少女。逃げるお喋りフェレット。
 ・・・シュールだ。

 そしてこの状況を作り上げた当人は、何食わぬ顔で家中から聞こえてくるドタバタ劇に耳を澄ましていた。日本茶をすすっている辺り用意周到と言える。

 何度か止めようかと思った高町家の面々だが、こんなにも嬉々としたなのはを見るのは久し振りでついつい観賞してしまったのだった。どこぞのシスコンがちゃっかりホームビデオで録画していたので、幼き頃のよき思い出として大切に保管されることだろう。

 「良きかな良きかな。うん、お茶が美味しい」

 これにて昼間の罰は終了。残るは悲鳴と、歓声のみ。





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 『天海護特別隊員、ラウドGストーンの技術提供、感謝する』
 『完全には再現できませんでしたけど、それでも安定したエネルギー供給はできます』

 そういうことにしておいた。が、仮に護が完全なラウドGストーンを作ろうとしても、材料がどうしても地球製になるため出力の低下は避けられなかっただろう。
 GGGダイアルで楊博士に連絡を取ってもらい、電子データに纏めた設計図を渡す。

 『・・・よく一週間で形になったな』
 『大体の仕組みは頭の中にありましたから、後は日本語に置き換えるだけでした。・・・さすがに三重連太陽系の言葉じゃ、どうにもならないですし』
 『成程・・・だが助かった。これでザ・パワーを求める動きも沈静化するだろう』
 『ザ・パワーのこと・・・よろしく頼みます』
 『ああ、勇者達の名に賭けても』
 『それと、できれば僕の名前は出さないでもらえませんか?』
 『・・・・・・解った。君にも君の生活があるからな。約束しよう』
 『ありがとうございます』

 GSライド という従来のGストーンを用いた動力源と、ほぼ完成された設計図により新型GSライド は僅か一月の稼働実験を経て実用化された。
 区分としてGSライド βと命名されたそれは、国連の手により各国主要都市へと配布され(無償ではないだろうけど)世界のエネルギー問題を瞬く間に解決していった。

 自分の提供した技術で一部の人間が丸儲けしているというのは虚しい感覚だったが、それでもエネルギー事情の打開によりたくさんの人間が救われたのは事実なため、護はこういうものだと割り切ることにした。
 木星開発運動もなりを潜めたという連絡もあり、時折報道されるニュースでもあちこちで感謝の言葉が口にされ、とても幸せな気分だった。

 『護ちゃん、最近よくニュース見るわねぇ』
 『そうだねママ。でも、悪いことじゃないね』
 『そうよね、パパ。いいことよね』

 そんな会話があったことも、護は知らなかったが。

 しかしながら良いことというのは得てして続かないもの。

 世界最大の犯罪者集団が、そんな格好の獲物に目を付けないはずがなかったのだ。

 毎朝ニュースを見る習慣の付いた護がその速報を目にしたのは、GSライド βが世界中で稼働を始めた半年後のことであった。


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今回短めのゆめうつつです。護は精神が身体に引きずられることを知らなかったりします。別にオタクじゃないですし、精神科医でもありませんし。

ルファイトさん ・・・?あれ、未だどっちとも付かない様に書いたつもりだったのですが。何故か他の皆様もそう思ってらっしゃるようですし・・・はて?

ハイン2さん ・・・いや、無人惑星でも資源はある訳ですし。使うにしてもハンマーが限界かと。敵のサイズ的にも。本編ではなくIfなフルボッコ展開を書くのも面白いかも知れませんが。タツノオトシゴさんのように。

sinさん ・・・何故だろう。ユーノがぼろくそ言われてる。この第七話を書いたゆめうつつが言うのも何ですが。・・・不思議だ。

4.Vさん・・・E.Bさん? 一応過去編は本編と同時進行、かつ無印内で終わらそうかと思っております。

・・・本当に何故か、皆さんユーノボコがいいようですね。まあ大概淫獣扱いでアンチなのですけど。原作でいい思いしすぎてるからでしょうか?
さて、なのはとあっさり仲直りさせてみました。ちょっとコメディ混ざった今回です。コメディはギャグなのです。よって本編には”余り”、影響はありません。モウマンタイです。・・・ホントですよ?
後、文体は常に試行錯誤していますので一定ではないことを遅まきながらご了承ください。



[5916]       第八話 護の理由 ユーノの考え
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:81ce07a8
Date: 2009/04/15 18:02
 「リリカル・マジカル!」

 夜の校庭に響き渡るは魔法の詠声。浮かび上がった魔方陣から生じた鎖が対象を捕らえ、どれだけもがこうと逃さない。

 「ジュエルシードシリアル20――封印!」

 紡がれるフィニッシュワードは宝石の魔力を削ぎ落とし強制的に安定をもたらす。
 これが封印の大まかな流れ。安定させるという点は、アジャストと大差ないように思う。

 「・・・むしろ、浄解に近い?」

 観測を基にさして意味のない遊び心の感想をつぶやいた護は、何はともあれ明日は休みだと決めつける。
 ユーノに労われているなのはは、誰がどう見ても疲労困憊の域にあった。










 「ごめんね護くん。重くない?」
 「重いって言ってほしい?」

 ・・・護くんは時々意地悪なの。
 毎日毎晩頑張ってたんだけど、ついさっき帰る途中で倒れかけてしまい、それからずっと護くんに負ぶわれてるの。問答無用で。・・・これで護くんに運ばれるのは、もう三回目。な、何だかなのはって、迷惑掛けてばっかり?
 考えてみると、何度も助けてもらってるのに一度もお返しできてないような・・・

 「冗談だよ。もしなのはが二百キロあっても、普通に運べるから」

 笑顔で善意の言葉をかけてくれる護くんですが・・・・・・その例え方は女心としては非常に微妙なのですが・・・
 軽いから大丈夫だって言いたいらしいのは、解るけど。
 ・・・あ、急に眠くなってきちゃった・・・ってダメだよ!これじゃ護くんに、お世話になりっ・・・放し・・・・・・せめて、帰り着くまで・・・










 スゥ、と寝息を立ててなのはの身体から力が抜けて、少しだけ重く感じた。・・・少しだけ。

 「・・・なのは、疲れてたみたいだ」
 「昼は学校、夜はジュエルシード。一日中動いてる上に、遅寝早起きだからね」
 「・・・・・・護は元気そうだね」
 「僕は学校行ってないし、鍛えてるから。それにただでさえなのはは、普段あまり動かないみたいだし」

 前方から人の気配を感じたので、道を曲がる。自分はまだしも、補導なんてされたらなのはが困ることになる。

 「護」
 「なに?」
 「護は、何でボク達を手伝ってくれるの?」

 とことこ四足歩行をしながら、首だけ振り向いたユーノが、そんな疑問を投げかけた。

 「・・・・・・」
 「あ、答えたくないなら、それでいいんだ。でもなのはからは聞いたし、できれば教えてほしいな・・・なんて・・・」

 こちらが黙っていると、何か勘違いしたらしく、尻すぼみにユーノの言葉が消えていった。

 「う、ううん、ごめん護!やっぱり忘れて――」
 「話せないんじゃないよ」
 「・・・・・・」

 中途で遮られて、ユーノは黙った。護のものよりも濃い、新緑の瞳が見上げてくる。

 「ただ・・・なんて言うべきか、ちょっと考えてた。ややこしいから」
 「ややこしい・・・?」

 苦笑を浮かべて、護は頷く。

 「僕がなのはとユーノを手伝ってる理由は三つあってね」
 「三つも?」
 「うん。一つは、なのはと一緒。あんな危ない物放っといたら何が起こるか分からない。この街は、いま僕が住んでる街だからね。二つ目は・・・笑われるかもしれないけど、僕がこの世界に迷い込んだことに、運命を感じたから、かな」
 「・・・・・・は?運命?」

 ・・・だから、笑いたいなら笑え、って言ったんだよ。

 「そう、運命。この世界の暦で、今が2005年の四月ってことは知ってるよね?」
 「・・・たしか、なのはの部屋のカレンダーにそう書いてあったと思う」
 「僕がきた平行世界は西暦2016年。それから11年前の四月・・・つまり僕の世界で2005の四月に、僕は地球外の文明と出会ったんだ」
 「異世界のこと?ってそれより、11年前!?」

 ・・・何を驚いてるんだろう。

 「恭也さんから聞かなかった?僕はこれでも二十歳だって」
 「な、なのはに言ってたのは聞いてたけど、てっきり冗談とばかり・・・」

 ・・・ユーノがこの調子じゃ、なのはも勘違いしてるかも。

 「話を戻すよ?地球外の文明っていうのは異世界じゃなくて、同一世界の異なる星系の文明のこと。平たく言えば宇宙人かな。ユーノが異世界人だから、目新しくも思わないけど」
 「確かにボク達からすれば今更なことだね。でも護の世界にしてみれば大変なことだったんじゃない?」
 「うん。言葉では言い表せないくらい大変だった。そもそもの目的が侵略だったからね」
 「・・・そっか、それが護の左手にある技術なんだね?」
 「正解。地球人が力を合わせて辛くも勝利した、異星人の技術」
 「何でそんなものを護が――って、これは聞いちゃまずい・・・かな?」
 「まずいね。プライベートだから秘密ってことで」
 「分かったよ。それで、いったい何が運命なんだ?」

 ああ、そう言えばまた話がずれてた。

 「なのはが異文明、つまりユーノと出会ったのは、2005年の四月で9歳の時。それじゃ、僕が異文明と出会ったのは?」
 「えっと・・・2005年の四月で、20から11引いて9歳の時・・・・・・ああっ!ピッタリ一致してる!!」

 ユーノの驚きようが面白くて、護は唇を緩やかに笑ませた。

 「ね、運命を感じない?」










 とんでもない偶然・・・ううん、こんな天文学的な確率、ただの偶然で片付けられない。非科学的だけど、護が言うみたいな、超自然的な何かが働いたように思えてしまう。

 「しかも、僕が飛ばされた世界でまた’’大きな事件が起きてる。これはもう、神様が意図的に僕を放りこんだんじゃないかって気がするんだ」
 「神の存在を、護は信じてるの?」
 「元の世界で僕は・・・いや、僕達はたくさんの奇跡に助けられた。どれもできる限りのことを最大限やった後で、神様がご褒美くれるみたいに」

 懐かしむかのような、護の表情。多分護の頭の中には、その奇跡が再現されてるんだと思う。それを省いてるってことは、それも、話せないことなのかな・・・

 「ただの偶然だって言われたらそれまでだけどね。でも僕は、僕達を巡り合わせてくれたカインの導きを信じたい」

 懐かしさはそのまま、そこに寂しさが混じって。護が胸元のペンダントに視線を落とした。・・・いつも大事そうに下げてる首飾り。その神様の、祭具か何かかな?

 「カイン・・・それが、護の信じてる神様の名前?」

 そう聞くと、護の表情が何とも言えない微妙なものに変化した。・・・ボク、何か変なこと聞いた?

 「・・・・・・いや・・・うーん・・・・・・どうなんだろ?守護神って呼ばれてたのは確かだけど、神様とはちょっと・・・いや全然、違うかな」

 護り神なのに神じゃない?

 「それって、どういうこと?」
 「えっと・・・簡単に言うと、カインは実在の人物で、カインが居たおかげで僕の世界は救われたってこと」
 「あ、それで守護神なんだ」

 納得がいった。そういう意味なら、人間が護り神みたいに言われるのも頷ける。
 世界を滅ぼす様な地球外のテクノロジーから、地球を救った人物。・・・考えれば考えるほど、納得できる。

 「――そうだ、最後の三つ目は?」

 まだ聞いてない理由を聞くと、護は照れくさそうに笑った。

 「大したことじゃないけど、聞きたい?」
 「聞いて大丈夫なことだったら、是非」
 「じゃ、教えてあげよう。――なのは女の子が頑張ってるのに、が頑張らない訳にはいかないでしょ?」

 ・・・護の言う通り大したことじゃないけど、とっても解りやすい理屈だった。なるほど、とユーノも頷いてしまう。
 それにしても、護の考え方や行動原理は、どこまでも悪とかけ離れてる。むしろ善と言ってしまってもいいぐらいに。
 ・・・これなら、管理局が来ても何とかなりそうだ。護の左手のことも、個人じゃなくて組織に任せればいい。そうすれば護も重荷から解放されて、何の気兼ねもなく平穏な生活ができる。
 自分の考えを纏めたユーノは、帰り着いた高町家の専用ベッドで満足げな眠りに入った。





 ユーノは知らない。相手がたとえ本物の神であろうと、護にZの力を明け渡す気がないことを。

 ユーノは知らない。護の首飾りこそが、異文明のテクノロジー全てが詰まった、正真正銘のロストロギアであることを。

 そしてまた、その首飾りは世界で唯一、護と故郷を繋ぐ形見であることを。

 ユーノは、知らない。










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 その速報が目に飛び込んできたのは、ある日曜日のことだった。
 遊星主との一年を越える戦いの中で、体を鍛えることが日課となっていた護は、いつものジョギングの後にシャワーで汗を流してテレビをつけたのだ。

 吹き上がる黒煙。垣間見える炎。崩れ落ちた外壁・・・

 ――バイオネットによりGSライドβ強奪される――

 『・・・・・・え?』

 ようよう、言葉になったのは、それだけ。
 画面の中でアナウンサーが何か言っているが、凍り付いた頭は声の一切を拒否した。

 『そん・・・・・・な・・・』

 バイオネット。幾つかの国では、非公式ながら政府首脳部とも通じる世界最大の犯罪組織。
 倫理的かつ人道的に反した異端の研究者が集う、死の商人達。
 GSライドβは、決して無防備な体制の元置かれていた訳ではない。充分な自衛能力を備えた大国にのみ配分され、更にその周りの小国家群から防衛力を募り、パイプラインの様にエネルギーを各国へと送り届けていたのだ。
 その鉄壁の防護体制はしかし、本気となったバイオネットの前に呆気なく崩れ去った。
 防壁は破られ、兵は蹂躙され、GSライドβは奪われた。
 獣人やバイオネットボーグを使い捨ての駒のように造り出す奴らが、こんな出来のいいおもちゃを手に入れて、何をするか。
 GSライドの紛い物フェイクを人間に組み込むような連中が、何に使うか。

 『・・・・・・っ』

 碌でもないことになるのは目に見えていた。
 居ても立っても居られず、自室に駆け込みつい最近買ってもらったばかりの携帯電話を手にした。










 プライベートの携帯が鳴り、楊龍里はこの忙しい時に一体誰だと舌打ちし、映された番号を見て顔色を変える。とうとう、耳に入ってしまったらしい。やはりこれほどの大事件ではマスコミを抑えきれなかったか。

 『楊博士!』
 『・・・言いたいことも聞きたいことも解っている。だがその上で私からも言わせてもらう。何があっても動くな』
 『なっ・・・何故ですか!?』
 『君は知らないだろうが、君の立場は今極めて不安定なものとなっている。これ以上は仮にも秘匿回線とはいえ、話すことはできん』
 『そんな・・・』
 『君の勇気も能力も、行動力も十二分に理解している。その私が言う。絶対に動くな!いいな?』
 『・・・・・・』

 まだ納得できないか・・・やむを得ん。

 『下手に動くと君の周りに飛び火するが・・・それでもいいのか?』
 『っ!!・・・・・・解り、ました』
 『脅すようなこと言ってすまない。今度はこちらから連絡する』

 通話を終えて、楊は深々と嘆息を漏らした。彼のような正義感の塊は、こんな脅しでもしないと止まってくれない。
 本人には知らされていないが、天海護少年の立場は極めて微妙なバランスの上に成り立っている。
 クローンである戒道幾巳を除いて、地球の科学者にしてみれば真実地球外の知性体。そんな垂涎の研究材料を前にして、知的好奇心を押し留められる人間がどれだけ居るだろうか。表だって違法行為に手を染める者こそいないが、新生されたGGGには連日研究の協力要請が迷惑電話の如くかかっているのだ。
 無論正式に日本国籍を有する少年に打診することなく断っているが、いつ強硬な手段に訴える輩が出てくるか分かったものではない。地球上にただ一人しか存在しない要人なだけに、国連の承認のもと四六時中諜報部の護衛が張り付いている。本人がGGGに対し友好的なのも、その一因ではあるだろうが。

 『・・・動いてくれるなよ』

 ここで下手に天海護がその責任感と正義の心のままに動くと、GGG研究開発部が独力で開発に成功したことになっているGSライドβに、彼が関わっていたことを匂わせてしまう。楊龍里自身護との会合は極秘としているだけに、それはどうしても避けねばならない事態だった。
 何より、楊は護とした約束を守りたかったのだ。我が子を得た楊にとって、子供とは須らく庇護の対象であり、決して矢面に立たせて良い存在ではない。

 『麗雄博士・・・貴方も同じ考えだろう・・・?』

 楊はかつて自分の考えを正した尊敬すべき科学者を思い浮かべるが、その科学者の子は自ら先陣に踊り出ていたことを思い出し、遅まきながらその心中を悟った。
 さぞ、心労に悩まされていたことだろう。





 楊龍里は天海護を巻き込まぬよう最大限の手を尽くした。だがその努力も虚しく、少年の責任感、そして罪悪感は許容量を越えてしまう。
 研究のためか、実験のためか。バイオネットは半年もの間、嘘のようにその姿を隠していた。 
 かの組織が再び動き出したのは、新年も過ぎたある寒い冬の日。
 護が、中学に入学する前のことだった。



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 「・・・ふう」

 なのはを無事部屋に送り届けた護は、扉を閉めて吐息を漏らした。

 「お帰り、護くん」
 「あ・・・士朗さん」

 階段を降りた先で家主である高町士郎と出くわし、バツの悪そうな笑みを浮かべる。

 「毎晩のように出かけてたら、さすがに気付きますよね」
 「初日から気づいてはいたんだがね。一応、君の口から説明されるのを待っていたんだが・・・」

 疲労の度合いを見て、これ以上は待てないと判断したのだろう。

 「すみません・・・僕の口から、答えられることじゃないんです」
 「・・・君が、なのはを連れまわしていたんじゃないのかい?」
 「状況から見ればそう取られてしまうでしょうが・・・違います。僕とは関係ありません」

 護の返事に、士郎は困ったように眉を下げた。

 「そう・・・か。となると、なのはが自分から言い出すのを待つしかないか・・・」
 「心中お察ししますが・・・危険はないよう、僕も目を光らせておきます。無理はさせません」
 「・・・助かる。どうも、なのはは私達を頼ってくれないみたいだからね」

 これが親離れか・・・と呟いた士郎の表情は、何とも言えない寂しさに満ちていた。

 「・・・僕にも経験があるから解るんですけど」
 「何だい?」
 「なのはの態度は別に親離れでも何でもなくて、ただ心配かけたくないから、何も話さないんだと思います」

 直接聞いたわけではない。けれど、同じような思いを護も抱いていただけに、その心中は手に取るように理解できた。

 「ですから、待ってあげてください。なのはが自分から言い出すのを。自分の心に折り合いをつけて、なのはが話そうと思うまで」
 「・・・・・・ああ、もちろんそのつもりだ。それまで、なのはのことをよろしく頼むよ」
 「はい。任せてください」

 心配は心配だが、幾分肩の荷の降りた士郎は、思い出したように言葉を継いだ。

 「そうそう、明日はうちのサッカーチームが試合をするんだ。良ければ見に来てくれないかい?」
 「そうですね・・・どっちにしろ明日はお休みするつもりだったので、暇ですし・・・それじゃ、お言葉に甘えて」
 「分かった。なのはの他に、すずかちゃんやアリサちゃんも応援に来てくれるそうだ。二人とは、もう会ったかな?」
 「ええ。初日に、なのはを迎えに行った時に」
 「そうかそうか。祝勝パーティは翠屋でする予定だから、楽しみにしてるといい」
 「祝勝パーティって・・・気が早いですね」
 「こういうものは勢いだ、勢い」

 そういうわけで、明日はサッカー観戦と決まってしまった。何だかんだでまだ翠屋というのも行けてないし・・・楽しい休日になりそうだね。
 自分にあてがわれた客間の布団で、護はくすりと笑みを浮かべて、明日は久しぶりに早起きすることにした。
 エネルギーの回復に努めていたため、おざなりになっていた自己鍛錬を再開するために。
 明日という日を楽しみにしながら、護は眠りに落ちた。







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また伏線が増えた第八話です。こんにちは。

ハイン2さん ふむ・・・それはこのSSを書き始めた当初からゆめうつつも思っていたことですね。話の中で書けるかどうか分かりませんので、ここでゆめうつつの考えを書いておこうと思います。
 ハイン2さんのおっしゃる通り、一つの次元には一つの宇宙があり、その中で知的生命体が複数存在していることも十分考えられます。思うに、管理局は一つの宇宙を○○世界としているのではなく、一つの惑星、もしくは一つの星系を世界として定義しているのではないかとゆめうつつは考えます。次元航行艦が進むのは宇宙空間ではなく、世界と世界の隙間の次元空間です。個人単位でも座標の選択によって移動は簡単ですし、そうなるとわざわざ宇宙空間を移動する必要もありません。よって宇宙ではなく、次元の先で見つけた星系を○○世界としているのでは・・・と、夢うつつは愚考します。いかがでしたでしょうか?

謎の食通さん 確かに、そんな気もします。物語として面白くないので、多少捻りますが。

E.Bさん 結局ユーノはそんな扱いになりそうです。残念ながら(笑)。それと魔力は・・・あります。もちろんバランスは考えますよ?

sinさん 是非ともドキドキしてください。この調子で続きます。


ちなみにゆめうつつはとらハをよく知りませんので、さざなみ寮関係はなしで行きます。
次回をお楽しみに。

(修正しました。俊さん、ありがとうございます)



[5916]       第九話 死闘にならなかった戦い
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:81ce07a8
Date: 2009/04/17 12:35
 一夜明けて、日曜の朝。
 天海護は、日の出の前に目を覚ました。
 当然ながら外は暗く、しかし夜明け前の薄明りは言葉に表せない清涼な空気を漂わせている。

 「いい天気ですね」
 「ああ、まさに今日は試合日よりだ」

 タッタッ、と走る護の傍には士郎、美由希、恭也の姿が。
 ジョギングに行こうとしたら丁度鉢合わせてしまい、どうせだからと一緒に走ることに。
 護は気付かなかったが、この三人は毎朝走ってるらしい。ここ数日はずっと寝こけてたせいでそんなことも知らなかった。
 ちなみに、護の服装は新品ということを除けば何の変哲もないジャージだ。いつの間にか枕元に置かれていた衣服の一つで、何故かサイズがぴったりだったことに漠然と不安を感じてしまったのは仕方のないことだと思われる。
 そして護は知らないのだが、そのジャージは聖祥の冬用体育着だったりする。
 外堀は順調に埋められつつあった。





 「・・・意外に体力があるな」

 コースを一周し、家に帰りついての恭也の一言。つまりそれはあれだろうか。超能力に頼り切ったもやしっ子のごとく思われていたのだろうか。

 「色々あって、体力作りが日課になってましたから」
 「でもさ、私たちのペースに付いて来て息切れしてないのは凄いよ」
 「あはは・・・ありがとうございます」

 美由希の言う通り、かなりの距離を相当なペースで走っていた。普通の人ならその半分で倒れるようなジョギングである。
 ・・・ジョギングやランニングという言葉で片付けていい距離じゃない気が。
 Gパワーで肉体強化した護が思うのだから、その異常さは推して知るべし。

 「・・・で、僕は何故道場に呼ばれたんでしょうか?」
 「お前の超能力でなのはを守れるのかが知りたくてな」

 ・・・士郎さんが話したのか。
 まあ、それはいい。家族のことに部外者が口を挟むべきではない。それで超能力の程を知りたくなったというのも良しとしよう。
 だが、

 「真剣を向けるってどういう了見で?」
 「そうだよ恭ちゃん!木刀ならともかく何で小太刀抜いてるの!?」
 「む、不味かったか?」

 ・・・これを本気で聞いてるんだったら一度脳の検査を勧めたい。真面目に。

 「はあ・・・それじゃ、もうそれでいいですよ」
 「そうそう・・・って護くん!?」
 「大丈夫です。溶鉱炉でドロドロに溶かされても死なない自信があります」
 「自信とかそういう問題じゃなくて、こう倫理というか道徳的に不味いから!」
 「本人がいいと言ってるんだ。美由希、下がってろ」
 「ああもう・・・後でとーさん達に怒られても知らないからね!」

 つまり、士郎さんの許可を取ってということではないらしい。・・・独断専行はあまり褒められた行いじゃないんだけど・・・怒られるにしても、恭也さんだからいっか。
 道場の中ほどで、向かい合う。銃やナイフを相手にしたことはあっても、刀というのは初めてである。しかも二刀流。
 どちらにせよ、やることは変わらないが。

 「――始め!」

 美由希が手を振りおろし、超能力者と剣士の戦いが始まる。
 様子見とばかりに恭也が軽く斬りかかり、

 バチチッ。

 「っ!?」

 奇妙な擦過音が鳴り、阻まれる。

 「言い忘れてましたが・・・」

 淡く輪郭を浮かばせた翠に煌めくフィールドの向こうで、護が微笑を浮かべた。

 「このバリア、対戦車砲でも破れませんから」
 「「はあっ!?」」

 解りやすい例を護は上げたが、全力を出した場合は深海1万メートルの水圧1001気圧(1平方センチメートルに1001キロの荷重)にも耐えうる強度を誇る。それも全高31.5メートルのロボットを包み込むサイズで。
 相手が機界文明だとエネルギーの対消滅で格段に弱体化するが、通常の物理的な作用で護のバリアを破るのは容易でない。

 ((・・・どう攻めろと?))

 このバリアに徹が効くのかも定かでない上、貫を使おうにもバリアは全周を隙間なく覆っている。御神流の奥義にしろ結局は対人技であり、純粋破壊力で大砲に勝るはずもない。
 となれば小技でチマチマと攻撃しバリアの薄い部分を探しながら、護の隙が生まれるというのを待つという消極的手法しかない。時間はかかるがその手を使う他ないと考えた恭也は実行に移すべく一歩踏み出し、

 (な――)

 足が地に着く前に横向きの力が加えられ即座に体勢を立て直そうとして残りの足も引っ張られ倒れかけた身体を支えようと手を伸ばしたら手が着く前に全身を持ち上げられた。

 「地面を踏めなければ、何もできませんよね?」
 「「・・・・・・」」

 最早言葉もない剣士二名。一名は不自然な体勢で人類初の空中浮遊を体験しているのだが、感動よりも何もさせてもらえなかった結果に呆然。

 「じゃ、これも勝負ですので・・・覚悟してください」
 「な、何を覚悟しろと――どわぁああああーっ!!」

 情けない絶叫だと、美由希は兄をけなすことができなかった。
 道場の中を右に左に上に下にそして斜めに所狭しと竜巻のごとく振り回される恭也。
 ひもなしバンジーならぬ、席なしジェットコースターと言ったところか。
 その恐怖は、体験しなければ解らない。


 超能力VS御神の剣。
 結果は、惨敗に終わった。










 「お姉ちゃん。お兄ちゃんなんか元気ないけど、何かあったの?」
 「え、えっとね・・・・・・自分が今まで築き上げたものの意味を、考えてるんだと、思う、よ・・・?」
 「よく解らないけど・・・頑張ってね、お兄ちゃん!」
 「・・・ありがとう、なのは。その一言で、俺は救われた・・・」
 「や、やだなあ大げさだよ!」
 (・・・ちょっとやりすぎたかな?)

 高町家波乱の朝は、これにて終了。


 







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 ――その日、GGGオービットベースには護の姿があった。
 護の力が必要な事件があったわけではないが、最近では特に珍しい光景ではなくなっている。
 GGGは対バイオネットにおける主力と言っても過言ではないので、世界中からいち早く情報が送られており、護の目的もそれだった。
 ディビジョン艦が日本近郊を通る度に便乗し、帰りはCR部隊に送ってもらったりしたのだが、以前毎回送ってもらうのも悪いからと危険な大気圏突入を敢行し、GGG及び各国首脳部を震え上がらせたことがある(結果的に無傷で済んだが)。
 その後護専用の直通便が提案され、一も二もなく可決されたのは皆の記憶に新しい。これほど宇宙が身近な小学生は地球のどこを探しても護以外いないだろう(次点で戒道か)。
 長官職を続投した八木沼範行などは、護に見せてもいい範囲で書類整理を手伝わせ、わざわざオービットベースに来る理由付けまでしてくれている。
 かつて共に戦った者のほとんどが残っていないとは言え、紛れもない仲間の配慮に護は感動で言葉にならなかったそうだ。
 また猿頭寺耕助の永遠のライバル、犬吠埼実いぬぼうざきみのる(EI-15・ガオガイガー型ゾンダー素体)は護の生体コンピューターとしての一面を知ってからというもの、事あるごとにプログラミングのノウハウを教授していた。浄解の恩返しだという噂も流れたが、真実は本人のみぞ知る。
 バイオネットも強奪事件から鳴りを潜めていたが、世間から忘れ去られた頃になってようやくその姿を現した。
 考えられえる限り、最悪の形で。










 例によって例のごとく、長官の執務室で護は書類整理を手伝っていた。基本日本語で統一されているが、一部英訳しなければならないものはネットの和英辞典に脳内接続して、この年代にしては驚くべき速度で翻訳を行っていた。
 必然的に、高校程度の英語はマスターしてしまった護である。怪我の功名とは少し違うが、似たような結果になったことには違いない。良いことだが。
 八木沼長官は、求められる仕事はこなそうと必死に作業を進める護を眺めながら、温和な表情を殊更に緩めていた。一生懸命な孫を見る祖父の心境である。
 そんな穏やかな時間が流れていた時のことだった。

 『八木沼長官っ!!』

 突然開いたスクリーンから猿頭寺の後を継いだ現オペレーターチーフ、犬吠埼の切羽詰まった声が部屋に轟いた。

 『犬吠埼くん、そんなに慌ててどうしたね』
 『これが落ち着いてられますかっ!――とにかく、映像を送りますのでまずはご覧を!』

 一方的にまくしたてるという全くもって彼らしくない態度に護も八木沼も戸惑ったが、メインオーダールームを経由しサテライトビューから回された映像を一目見て、言葉をなくした。
 中東地域だろうか。彫りの深いアジア系の人間が、銃を手に手に争っている。恐らくは紛争の光景。これだけなら――酷い言い方だが――珍しいことではない。しかしながら、犬吠埼が取り乱したのはそんなことではなかった。
 彼らの持つ、銃。その口から撃ち出される、光の色’’’
 GGGに所属する者、特に護にとっては、見覚えのありすぎる色’’’’’’’’’’だった。

 『これは・・・!』
 『気付きましたか!?奴らはGSライドβを小型化量産した上に、世界中の紛争地域に売り捌くつもりです!』

 絶望の一言。
 この事実が何をもたらすか、察しのいい者はすぐに思い当たることだろう。
 バイオネットが半年というもの表舞台に立たなかったのは、完成されたエネルギー炉の小型化に全力を注いでいたからに違いない。これによって紛争が激化するだけなら、まだいい。だが、あの組織は非情にして狡猾。相争う両軍に売るような真似はせず、片方にだけ肩入れし、紛争終結後の国家に多大な影響力を持つ人間を纏めて取り込もうとしているのだ。
 現に、スクリーンに映る争いは、戦いとも呼べぬ蹂躙の様相を呈している。
 密売されたのは半永久的な動力源を持つ、携行型ビームガン。――これまでは、大型のロボットやバイオネットボーグなどしか持ち得なかった、重武装。
 弾切れなく連射され、かつ威力は対物ライフルを遥かに凌ぐ。慈悲もなく降り注がれる翠緑の光。反撃すら許さない虐殺。

 ――カタッ。

 脳裏に浮かぶ最悪のビジョンを振り払えず、映像に見入っていた八木沼がその微かな音に気付けたのは、心のどこかで少年を案じていたからに他ならない。
 とっさに目をやった護の表情は――悔恨と恐怖と混乱と悲哀をごちゃ混ぜにした、蒼白を通り越した死人のような――貌。

 カタッ・・・タッ、タッ・・・・・・

 『ああ・・・・・・あ、あ・・・』

 手から滑り落ちたボールペンの転がる乾いた音が、余韻のように聞こえる静けさが、天海護という少年の精神状態をこれ以上なく表す指標のように聞こえて。

 『天海護特別隊員!!』

 犬吠埼どころか出した本人すら驚くような声量が、裡に沈みかけた護の鼓膜を殴りつけた。

 『命令です。現業務を一時中断し犬吠埼オペレーターと共に事態の解決に向け全力を尽くしなさい。良いですか!?』
 『あ――は、はい!了解しました!』

 慌てふためいた護が荷物を片づけるのももどかしく、長官室を出たのはそれから一分後のことである。
 取り敢えずは錯乱を避けられた特別隊員の精神状態に、二人はどちらからともなく息を吐いた。

 『・・・相当、参ってるようですね。私の所へ来るには、長官室の直通エレベーターが一番早いことも忘れている』
 『無理もないねぇ・・・。人々を助けるために造った装置が、逆にその人々を苦しめているのだから』
 『護隊員に一片たりとも責はないのですが・・・今言ったところで無駄ですか』
 『責任感が強いことは美徳だよ。しかし、それに押し潰されてはいけません、と、何度かは言ったのだがが・・・ふう』
 『今の所は、長官のショック療法が功を奏したようですね。驚きましたよ』

 言葉にからかうような色を感じて、八木沼は照れくさそうに頭をかいた。
 実際、犬吠埼が同じことをしても、八木沼がしたのとと同様の結果にはならなかったと思われる。普段温和で決して大声を出さない人物が怒鳴るというギャップが、大きなショックを与える要因の一つだったのだ。

 『ところで・・・護くんとの授業はどうだね』

 急を要する事態ではあるが、紛争に国連直轄のGGGが許可なく介入することは許されないので、諜報部主任も兼任する犬吠埼に、今だからこそ聞く。
 聞かれた犬吠埼は、そこに含まれた意味はさておき、周りからすれば似合わないこと甚だしい教育者の顔で、誇らしげに笑った。

 『はっきり言って、才能の塊を地で行くような子供です。感覚的に電子制御ができることを差し引いても、常人の理解力とは雲泥の差がありますよ』

 ――血筋。
 戒道幾巳が推測していたように、遺伝子に刻み込まれた才能が今まさに花開こうとしていた。
 自身教師には向いていないと思っている犬吠埼が、教えることに喜びを抱くほどに。

 『では・・・君の所で、使えるかい’’’’’?』

 八木沼の長官としての意図を明確に理解した上で、護の専属(?)教師は不承不承な風に首肯を返す。

 『・・・不本意ですが、使えます。ハードで言えば、スサノオやタケハヤと同レベルの性能を持っていますから』
 『そこまで・・・か。でしたら君の所で、気の済むまでやらせてあげるように』
 『彼は一応、機動部隊の所属ですが』
 『それに縛られないからこそ、特別隊員なんだよ』
 『・・・・・・』

 屁理屈だ、というのは互いに承知している。元々そういう意味で特別隊員の枠が作られたわけではない。
 しかし現状、ラウドGストーンの提供では研究者、犬吠埼との授業ではハッキングを含めた技術を習うプログラマー、長官室では半ば秘書のような役割をこなし、所属は機動部隊の特別隊員という、誰に説明しても納得できないようなあやふやな役職が、今の護の立ち位置である。

 『何より・・・・・・これ以上何もやらせないでおくと、どうなるか解らないからねぇ・・・』

 八木沼にしてもこの決断は苦渋を伴っている。鬼才と呼ばれた犬吠埼をして使えると言わしめる能力を持ってはいても、護はまだ中学にも入っていない12歳なのだ。護られるべき子供なのだ。――普通なら。
 だが、GSライドβ強奪事件から半年、楊博士のみならずGGGの全員に動くことを止められていた護の割り切ることを知らない精神は、徐々に、ゆっくりと、亀の歩みほどの速度であろうと、確実に追い詰められていた。表面上は、そうは見えなくとも。
 そして今回起きた事件でその精神の許容量は、呆気なく限界を越えてしまった。これ以上動くなと言い続ければ、近いうちに壊れる’’’
 ならばこそのこの決断。

 ――天海護特別隊員を諜報部の預かりとし、犬吠埼諜報部主任の元電子的な捜査を行ってもらう――

 『頼まれてくれるね・・・?』
 『長官命令ですから』

 仏頂面を隠しもせずに犬吠埼は回線を切った。ままならない事態の推移に、八木沼は深々と椅子にもたれかかる。
 ・・・なんだかんだで、長官を続けてるけどねぇ・・・
 大河長官・・・貴方なら、どんな決断をしただろうねぇ・・・・・・










 ――天海護という生きたスーパーコンピューターがその能力をフルに発揮したことで、バイオネットの武器生産工場は順次所在を明らかにされていった。
 後天的なGストーンとの生機融合によりエヴォリュダーとなったガイですら、オービットベースの稼働停止プログラムを解除し、遊星主の一人パルパレーパの電子汚染を跳ね除けるほどの力があった。生まれつき同様の力を持つ護の電子制御能力はその比ではなく、形見のGストーンの処理能力も手伝った結果、地球人にはどうやっても不可能なハッキングを成し遂げたのだ。
 だが護の懸命な電子捜査も、世界中にばらまかれたGS兵器の浸透を食い止めることはできなかった。
 金に目が眩んだ強欲者による、武器の横流し。
 撃ち撃たれ。殺し殺され。引き鉄に引き鉄を返し。僅かな時で血の雨と死肉と悲嘆と絶望が量産されていった。
 あまりに酷い惨状に国連は平和維持軍を差し向けるも、従来の武装では歯が立たず逆に返り討ちにされそうになり、各国はGS兵器の導入を決定。
 そうでなければ、止められないのだ。
 そして止めるために、より大きな力を求める。
 ――これぞ有史以来続く、人の業。

 『僕は・・・こんな未来のために、ラウドGストーンを再現したんじゃないのに・・・・・・』

 人々の幸せを願った少年の想いは、踏みにじられた。
 止められない、そして止まらない戦乱は続き。
 2010年、秋。
 天海護、14歳。

 とある少女と出会う、6年前のこと――
 




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何やら筆が進むので書きまくってるゆめうつつです。
オリ展開にも程があるというのに、限度を知らず書いてます。
謝りませんが。楽しいので。穴もあるような気はするのに。
今回の感想は数が多いので感想掲示板にて。

現在の時間軸がおかしいぐらい進まない。まあのんびり行きます。



[5916]       第十話 終わらないものは存在せず
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/05/10 20:45

 「はい、いち・にの・さん!」
 「「「がんばれ~っ!!」」」

 オォオオオーッ!と返ってくる絶叫。

 「・・・・・・男ってのは何でこう・・・」
 「生物学的な性だから大目に見てあげて」
 「音頭ばっか取ってないであんたも応援しなさいっ!」
 「黄色い歓声の方がやる気でるでしょ?」
 「屁理屈こねるな!」

 漫才に等しいやりとりになのはとすずかは顔を見合わせ、苦笑を漏らす。
 美少女三人の熱心(?)な応援も手伝い、翠屋FCは大奮闘を見せる。
 異性に良いところを見せようというのは雄の本能。それが美少女なら尚更。護の機転のようなものでチームのモチベーションは大幅上昇だ。
 実力以上のものが出たため試合は大勝利に終わる。
 しかしながら、それは一人の控え目な少女に不安を与え、その思いを一層強くすることとなった。
 歴史はまた、少しだけその姿を変える。










 「それでは、翠屋FCの勝利を祝って――乾杯!」
 「「「かんぱ~いっ!!」」」

 店の外で陽気に照らされながら、護は店内の賑やかさに目を細めた。
 高町士郎がオーナーを務める翠屋FCの試合は、4-0で見事こちらの勝利に終わり、今は士郎の宣言通り翠屋にて祝勝会だ。
 喫茶翠屋。洋菓子と、それに合うコーヒーや紅茶が売りのお店。パティシエ兼コックが桃子さんで、マスターは士郎さん。美由希さんと恭也さんがウェイター。なのはも、料理を手伝ったりするらしい。
 そして気になる味の方は、絶品の一言。下手な高級洋菓子店より余程美味しい。

 「ごちそうさま。すごく美味しかったよ」
 「えへへ、後でお母さんに言ってあげて。きっとすごく喜ぶから」
 「そろそろ一週間だっけ?あんたがなのはの家に来て」
 「それだけ長く居るのに、まだ食べてなかったんだ。・・・逆に珍しいかも」

 通りに置いたテーブルに座るのは四人。アリサは勝気そうに、すずかはおしとやかに、会話に加わっていた。

 (・・・いや、加わってるのは僕の方か)

 気心の知れたなのは達三人に、つい最近現れた護という四人目が合わさって、この席が作られている。

 「きゅうぅ~!」

 護の思考を読んだわけではないだろうが、鳴き声を上げるユーノ。・・・小動物なだけに、時々存在を忘れてしまうが、別にどうでもいいことだ。
 元は人間らしいが今はフェレットなのでこの扱いで無問題である。

 「ほーら、お手!」
 「きゅ」
 「お座り!」
 「きゅう」
 「三回回ってワンと鳴け!」
 「きゅ~、ワ・・・きゅうっ!」
 「・・・?今、ワンって言わなかった?」
 「えと・・・私もそんな気が」
 「そうだね。僕もそんな気がした」

 タラリ、となのはとユーノに冷や汗が。そして何肯定してるんだと非難の目が。

 「き、気のせいだよ気のせい!ユーノくんフェレットなんだから、吠えたりできないよ!」
 「それもそうね。もしワンなんて吠えるフェレットがいたら、そこらの動物園に売れそうね」

 ビクッ、とテーブルのフェレットが過去の恐怖を思い出し震える。
 既にトラウマと化していた。

 「あ、でもアリサちゃん、動物園より動物研究所の方が高く買ってくれそうじゃないかな」

 続くすずかの追い打ちに、ユーノは即座になのはの肩へと逃亡。

 「二人は幾らぐらいで売れると思う?」←護
 「そうね・・・希少価値は、かなり高いわね」←アリサ
 「そういうのが好きな好事家だったら、人によっては何百万円も出すかも」←すずか

 悪のりした護の質問に二人は律義に答え、冷や汗で毛皮をぐっしょり濡らしたユーノは、恐る恐るなのはの表情を伺い、

 「何百万円・・・何百万円・・・」

 ――味方はいないと知り絶望した。

 《なのは・・・ホントに、ホントに売ったりしないでね?》
 《やだなあユーノくん、いきなり売ったりしないよ》
 《そう、良かった・・・・・・いきなり?》
 《うん。まずはテレビに出て、出演料ふんだくらなきゃ!》
 《・・・ああ・・・・・・なのはが、護に毒されていく・・・》

 おいおいと、自分の未来を嘆き滂沱の涙を流すユーノ。
 最初から管理局に連絡していればよかったと、こんなことで後悔するとは夢にも思わなかっただろう。
 哀れ、なのはの金づる。

 「・・・そうそう、こないだから言おうと思ってたのよ」

 ユーノいじめ(無自覚)を終えたアリサは、思い出した様に護へと顔を向けてそう切り出した。

 「あんたのそのペンダント・・・それ、自慢かなんかのつもり?」

 ビシッ、となのはとすずかが、暖かい日射しにも関わらず凍り付く。

 「・・・は?」
 「そんな馬鹿みたいに大きなエメラルドぶら下げて、誰かに見せびらかしたいわけ?」

 付き合いの長い二人は、“そんな見栄っ張りなこと止めた方が良いよ”、という遠回しに過ぎるアリサなりの思いやりだと理解していたが、会ったばかりの人にはただの皮肉、非難、罵倒の類にしか受け取られないという不思議。
 そこらへんを解ったがための硬直であり、ユーノはと言えば護と同じく後者だが、それどころではなく己の危機をどう切り抜けるかで頭が一杯だった。
 そして、当の皮肉(に見える)を受け取った護は、

 「――――」

 数秒の沈黙を挟み・・・・・・苦笑を浮かべた。

 「「!?」」

 驚いたのはハラハラしながら見守っていた親友二人である。

 「あ、あれ?護くん、怒らないの?」
 「怒らないよ」
 「・・・てっきり、喧嘩しちゃうかもって、思ったけど」
 「安心していいよ、二人とも。バニングスさんが今言ったことは、今までに何度も言われたことがあってね、怒ったこともあるけど・・・今は、まずこう言うことにしてる」

 一つ呼吸を置いて、護は胸元のペンダントに片手を添え、触れた。

 「このペンダントは、僕を産んでくれた両親の・・・・・・形見なんだ」
 「「「っ!?」」」

 自分の中で考えにふけっていたユーノまでもが、色を失う。
 そしてアリサは、

 (っ・・・!)

 顔を歪めて、己の胸を占める後悔と向き合っていた。
 されど口に出した言葉は戻らない。
 後になって悔いるからこそ、それは先に立たないのだ。

 「・・・悪、かったわ。あんたのこと何も知らないで、勝手なこと言って」

 プイッと顔を背けながらの言葉は、罪悪感の表れ。
 勝ち気な性格の彼女にとって、精一杯の謝罪。
 それを護は、

 「――とまあこんな感じで人には思いも寄らない過去があったりするから、二人とも気をつけてね」

 見事にスルーした。
 え、そこでこっちに振るの?と言った風に固まる二人と一匹を護はにこにことして見やっている。正確には、二人と一匹だけを。
 自分にできる最大限の謝罪を聞いたかも疑わしい態度に、アリサは我慢ならず両手でバンッ、とテーブルを叩いた。

 「ちょっとあんた!人が謝ってるんだから返事ぐらいしなさい!」
 「怒ってないって言ったよ?」
 「だからそうじゃなくて・・・ああもうっ、この馬鹿っ!」
 「・・・・・・僕って結構、頭いいねって言われる方なんだけど」
 「そのへんが馬鹿って言ってんのよ!」
 「・・・怒ると美人が台無しだよ?」
 「なっ・・・」

 絶句したアリサの隙を突き、護は席を立つ。

 「それじゃ、僕紅茶のお代わりもらってくるから」
 「まっ、待ちなさい!こら、待てって言ってんでしょうがーっ!」

 聞く耳持たず護は逃走。息を荒げたアリサと、口の応酬に付いていけなかった三名が残される。

 「まったく・・・何なのよあの態度!人がせっかく謝ってあげたって言うのに!」

 あげたと言うのもおかしな話だが、問題となっているのはそこではない。

 「・・・アリサちゃん」
 「何よすずか。そりゃあたしだって悪いこと言ったって思ってるわよ。だから謝ったのにそれに答えもしないなんてどういうわけ!?」
 「でも・・・空気は、軽くなったよね」
 「・・・・・・そんなこと、百も承知よ」

 だから気に入らないのよーっ!と吠えるアリサに、すずかとなのはの二人は苦笑を交わす。要は、逆に気を遣われたことが腹立たしいのだ、この親友は。

 「たまにからかったり、口が悪かったりするけど・・・・・・護くんは、優しいよ」

 ポツリ、と口にされたなのはの言葉に、二人は黙った。それは三人共が感じていたこと。

 「・・・色々謎で、変な奴だけど、そこだけは認めてやるわ。・・・・・・なんか、負けた気がして悔しいけど」
 「そうだね・・・さっきの、護くんのお母さんたちのこともだけど、まだ他にもたくさん隠してることがあるみたい」
 「にゃ、にゃはは・・・そうかもしれないね」

 鋭い親友の洞察になのはは乾いた声で笑うが、すずかとアリサにジト目で見られ口をつぐむ。
 カバーストーリーは早くも瓦解しようとしていた。
 翠屋の扉が開かれて、士郎に本日の解散が告げられたのはそんな時。
 途端サッカーのメンバーで賑やかになる翠屋前。それぞれが帰宅の途に就く。

 「・・・あれ、お父さん護くんは?」
 「護くんなら、中で母さんの片づけを手伝っているよ」

 士郎の返事に三人は顔を見合わせた。

 「逃げたわね」
 「逃げたね」
 「じゃ、じゃあなのはもこれで」

 と席を立とうとしたところですずかにがっしり腕を掴まれる。親友の見た目からはとても信じられない握力に、冷や汗。

 「ねぇすずか。なのはも、あたしたちに何か隠してると思わない?」
 「奇遇だねアリサちゃん。私もそう思ってたところなんだ」

 にこやかな笑顔でなされる会話に、なのはは恐々として応援を呼ぶ。

 《護くん!アリサちゃんとすずかちゃんがっ!》
 《大丈夫、ばっちり把握してるから。安心して身を任せるといい》
 《何に!?ああっ、アリサちゃんが笑顔なのに怖いよっ!》
 《親友を怖がるなんて・・・・・・バニングスさんも可哀そうだね》
 《悠長なこと言ってないで助けて~っ!》

 「さてなのは。覚悟はいいわね?」
 「逃げちゃだめだよ?」
 「あうぅ・・・。・・・・・・?」

 ・・・今、ジュエルシードの気配がした気が。・・・・・・あの男の子?
 でも、発動した様子はないし・・・

 「さあきりきり吐いてよね、な・の・は?」
 「ふにゃぁぁぁぁぁ~!?」

 (それに・・・今はそれどころじゃないの~!?)

 どうにかこうにか時間切れまで追及をはぐらかすことに成功したなのは。
 だが、今しがた“それどころではない”と判じた己の甘さを。
 なのはは身をもって悔いることとなる。










 食器洗いが終わって三人のところへ戻って来てみれば、既になのはしか残っておらず、そのなのははテーブルの上にぐったりと身を投げ出していた。

 ・・・休みなのに疲れてる。

 「大丈夫?なのは」
 「そ、そう聞くんだったら最初から助けてよ~・・・」

 ・・・うん。今更ながら助けてあげた方が良かったかも、なんて思ってる。
 ずっと”視て”いたため何があったのかは逐一把握している。もしもの時は乱入する予定だったが、なのはは最後まで口を割らなかった。拍手したくなる口の堅さ。

 「えらいえらい。よくあの尋問に耐えたね」
 「逃げた護くんに言われても、全然ありがたみがない・・・」

 ・・・それは、そうかも。というか、あの二人は本当に小学三年生?
 かつて諜報部にいた頃目にした尋問術に勝るとも劣らない技法だった。なのはでさえ後五分あったら陥落していたかもしれないほどに。

 「・・・取り敢えず、この後は家でゆっくりしたら?」
 「そうさせてもらいますー・・・」

 のろのろ、ふらふら。なのはもまた帰宅する。見送り、護はふと気付いた。

 「・・・・・・何をしよう」

 この世界にやってきてからというもの、ジュエルシードの探索ぐらいしかしていない。そして今現在予定している用事もない。初めての休暇、もとい自由時間だ。
 問題は、その余暇を潰す方法が思いつかないということ。

 「探索でもいいけど・・・・・・それが終わったら何をするかって話だし。・・・・・・何か、趣味を見つけないと」

 趣味が見つからなくて困るなど、贅沢な悩みであった。










 「はふぅ・・・」

 呻く、というか溜息に近い声。それは、疲れているだけが原因ではない。

 「・・・・・・護くん、孤児・・・だったんだね」

 孤児、と言ってしまった言葉がなのはの心に重くのしかかる。
 独り言の様な言葉に答えるのは、フェレットのままのユーノだ。

 「孤児だからって、必ずしも不幸だってわけじゃないよ。現に、ボクがそうだったみたいに」
 「! それって、」
 「ボクはスクライアのみんなに育てられたんだ。でも、それが不幸だなんて思ったことはない。親の顔は知らないけど、族長さまがボクの親代わりだったから」
 「そうなんだ・・・・・・。うん、そうだよね」
 「護だって、今はあんなに笑ってるんだ。自分で冗談にしてるし、なのはが悩むことじゃないよ、きっと、多分」

 断言しないあたりユーノの慎重さが伺える。
 なのははちょっとばかり不安を覚えたが、いやいやそれじゃダメなの!とブンブン首を振って不安を追い払った。
 とにかく懸念も拭えたのでようやく休む体勢になのはは入る。
 異性として見られていないユーノがなのはの着替えに慌てて後ろを向いたが、チラッと目に入った純白のナニカが脳裏から離れず、どういう原理か毛皮が赤く染まった。

 ・・・・・・淫獣め。

 「??」

 何かこう世界中から罵られた気がして、ユーノは首を傾げた。
 毛皮はまだ赤い。が、護にこれを知られれば、真面目な話、何をされるか解らないことに思い至り、一気に青ざめる。
 微笑ましいんだか同情を誘うんだか不明な空気(傍目)が流れ、
 しかし突如、破られる。

 「「――っっ!!」」

 膨大な魔力。エネルギーの奔流。

 「ユーノくんっ!」
 「ジュエルシードだ!規模が・・・大きい!」










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 ――誰でもよかった。
   この怒りを、悲しみを、空虚を埋められるなら、誰でも――




















 スースーと寝息を立てる天海護の隣で、初野華は物憂げに溜息を吐いた。

 『せっかくの修学旅行なのにずっと寝てるなんて・・・』

 そう、彼らは今中学三年間のなかでも最大の行事、修学旅行の真っ最中なのだ。東京から関西へ移動する新幹線を貸し切り、現在出席番号順の班決めを無視して仲良しグループでそれぞれ集まっている。
 数納、牛山、狐森の三名は、最初こそ同じコンパートメントに詰めていたが、護が寝息を立て始めたのを見て別の場所で騒いでいた。
 よって、今この場にいるのはかつての仲良し五人組に一名を加えた計六人の、残り半分。
 初野華、天海護、そして新たに加わった――加えられた――戒道幾巳。

 『昨日も徹夜だったらしい。せめて移動中は寝かせてやるべきだ』

 その華の斜め前の席でアメジストの瞳を伏せた戒道が、独り言に近い不満に答えた。

 『護くんは働きすぎだよ!バイオネットとか、大変なのは知ってるけど、でも・・・・・・』
 『本人に言ってやれ。僕も何度注意したか分からない』

 早退遅刻は当たり前。ひどい時は一週間丸々来なかったりする。出席日数は一応足りているらしいが、それも怪しいものだ。しかしながらテストの点はほぼオール百に近いので、教師陣も文句を付けにくい。
 数学と理科は言うに及ばず、英語は仕事で必要に駆られて専門会話をこなせるほど。国語は書類関係を学ぶうちに自然とできるようになり、テスト勉強が必要なのは社会ぐらいだ。その社会も公民になればほとんど勉強する必要がないと思われる。地理の一部や、歴史を除いて。
 そしてそれらの要素を除去したとしても、電子の海で勉強すれば僅かな時間で膨大な量をこなすこと可能だ。故に、勉強面は何ら心配していない。戒道が案じるのは身体面である。

 『僕も手伝うと言ったが、これは自分の問題だからと、取り付く島もない』
 『・・・私が、手伝えればいいのに』

 華はそう言って唇をかんだが、仮に手伝える能力を持っていても天海は関わらせる気はないだろうと、戒道は考える。

 (・・・君が責任を感じる必要はない。力を求めたのは世界だ。そのつけが今、回ってきているだけ)

 これも、既に伝えた。しかし護の考えを改めさせることはできなかった。
 諜報部に勤めている影響か、最近は周囲をけむに巻いたり演技で疲労を解りにくくしたりと、一般的な中学生が持つには不似合いな小技を身に付けつつある。自分を騙すにはまだまだだが、それでもだんだんと上達しているため、手に負えなくなる日も近い。
 Jアークと比べて亀のような速度で過ぎ去る車窓(当たり前だが)を眺めやり、戒道はやりきれなさから微かに息を吐く。
 何にせよこれから一週間は護も仕事とおさらばだ。その確約を、戒道は護に秘密でGGGから取っていた。やはり向こうも働きすぎだと常々思っていたらしく、渡りに船と合意してくれたのだ。
 自分の周りが平和であれば、世界がどうなろうと戒道にさしたる興味はない。使命が終わったとはいえ、自分が戦士であることに変わりないのを重々承知している彼は、自分の手の平が小さいことを知っている。自分が関わることのできる限界を知っている。
 故に、天海護がするように、救える限りを救おうなどと思うことはない。護自身が、故郷を共にする唯一の親友が頼ってくれば、また違うだろうが。
 戦士はあくまで一兵卒。命令に従い、敵を討つことがその存在意義。
 しかし天海護の在り方は、その行動が行き着く終着点は、戦士のそれではない。

 (・・・君の戦火に焼かれる人々を救おうとする思いは、正しいものだと思う。だがそれは、民衆の上に立ち庇護する者――指導者の考え方だと、気づいているか?天海)

 『・・・・・・子は親に似る、か』
 『戒道くん、何か言った?』
 『・・・別に、何も』




















 ――元凶を知った。
   奴さえ、奴さえいなければ、妻は、子供たちは――




















 『ふぁ・・・・・・あ・・・・・・ん!』
 『護くん、まだ眠いの?』
 『・・・・・・陽射しが気持ちよくて』

 曇天の空を見上げての言葉は説得力がないにも程があった。無論それを信じる華ではない。
 じとっとした目で見上げられ、護は空笑いする。

 『あはは・・・・・・さっき寝たから大丈夫だよ、華ちゃん』
 『・・・うん、分かった。――あ、護くん鹿だよ!』
 『えっと、さっきあっちで鹿煎餅売ってた気が』
 『え~!?何で教えてくれなかったの!?』
 『・・・・・・眠くて』
 『もうっ、護くんったら。・・・・・・それじゃ、買いに行こっ、護くん!』
 『あっ、待ってよ華ちゃん!』

 見ていて思わず頬が緩むようなやりとり。しかしながら、そこに余人の入る隙間はない。クラスメイトどころか戒道さえ近寄り難いと感じてしまう始末。
 人はそれをストロベリーフィールドと呼ぶ。
 しかしながら、狐森の脳内では前衛的とも取れる流行の最先端に変換されてしまうらしい。

 『はあ・・・・・・憎たらしいぐらいにチョベリラクロワーねぇ・・・』
 『チョベリ・・・・・・何?』

 傍らからの物憂げな呟きに聞き返す戒道。
 それに答えたのは、数納と牛山だ。

 『あー・・・・・・超ベリーラブラブな二人っきりの世界クローズドワールドじゃないかなぁ・・・?』
 『最近まともな英語も混ざってっから、解読も一苦労だぜ・・・・・・』
 『お黙り下僕二人。そんなことより戒道くん、明日の自由行動は二人っきりで過ごさない?』
 『・・・・・・遠慮しておくよ』

 しなを作る孤森からさりげなく距離を取り、戒道は断った。最近、どうにもこの手の対象として見られているらしく、寡黙な彼は前より一層彼女が苦手になっていた。
 ツン、ツン。
 と、つつかれたので振り返ったそこに、小鹿が一匹。鹿公園だから居ておかしくなくとも、周りに人はたくさん居るのに何故自分に興味を持つのかが解らない。

 『・・・・・・』

 手を伸ばしても逃げることなく、円らな瞳を向けてくる。
 頭に触れてみた。まだ逃げない。

 『・・・・・・』

 なで、なで。
 小鹿は気持ち良さそうに瞳を細めている。

 『・・・・・・』

 しばらくなで続け、ふと気付くとすっかり取り囲まれていた。鹿に。

 『・・・・・・・・・・・・懐かれた』

 眉根を下げた困った表情で、破壊マシンは呟いた。




















 ――俺は地獄に堕ちるだろう。
   ならばお前も、地獄に堕ちるべきだ――




















 少し離れたところで華が鹿に煎餅をやっているのを眺める。その向こうでは、戒道が鹿に取り囲まれていた。笑みを誘う光景。なんだかんだで、戒道は動物に好かれやすかったりするのだ。

 『・・・・・・平和だなー・・・』

 青い空。そこに幾条か流れる白い雲。こんなにも平和な空の下で、戦争をしている場所もある。血が流れ、殺される人がある。
 それが自分の責任だけでないことは、誰に言われなくとも解っているつもりだ。けれど、その一端ぐらいは、自分が背負うべきものだと思っている。ラウドGストーンを造って、戦争をここまで酷くしてしまった原因は自分なのだから。

 ・・・・・・造らなかった方が良かったのかな。

 でもその場合は、ザ・パワーが使用されることになっていた。どちらが危険か、考えるまでもない代物。核さえまともに扱えていない人類がそんな手に負えないおもちゃを手に入れればどうなるか。悲惨な未来は予想の必要もないほど明らかだ。
 だから自分がラウドGストーンを造ったのは正しい。でもそのせいで、たくさんの人が死んでいる。たくさんの人が、涙を流している。これは、正しくない。
 ベターな選択でしかなかった。結局はそれだけのこと。ベストの選択は、選ぶことさえさせてもらえなかった。
 思考ループ。ぐるぐる、ぐるぐる。頭の中で、どう結論しても悪い結果ばかりが浮かび、良い結果を選ぶ機会は元から存在しない。
 これが何の意味もない思考だと頭では解っていた。だが心は、何とかできなかったのかと、過去の選択を悔やみ答えのでない思考を続けさせる。

 ・・・・・・やめよう。少なくとも、この旅行中くらいは。

 『この時間を、楽しまないとね』

 くすりと笑って、ベンチから立ち上げる。軽く伸びをしてしつこい眠気を追い払い、華たちの方へと足を向ける。
 フラッと、背の高い人影が行く手に立ったのは、その時だった。




















 ――とうとう見つけた。
   貴様は、この星にあってはならない――




















 『・・・あの、何か用ですか?』

 見上げる様な身長は恐らく百九十センチ程度。これと言って代わり映えのないコートで冬も近い寒さを防ぎ、まるで軍人がする様な遮光性のミラーグラスをつけている、中近東だと思われる浅黒い肌の大男。

 ・・・って、軍人!?

 反射的に身構え、目の前の立ち居姿に隙が――たくさんあったので、本格的に警戒すべきか悩む護に低い声で男が話しかけた。

 『・・・マモル・アマミだな』

 アラビアなまりの英語。中近東という推測は、当たっていたらしい。

 『・・・・・・誰ですか?』
 『すぐに消える男の名など、聞いたところで意味はないだろう』

 思いがけず理知的な口調。少しだけ、警戒を解く。

 『最初の質問だが、それは俺の用事と、俺にお前のことを教えた奴からのと、二件ある』

 そう言ってポケットに手を突っ込んだので、いつでもサイコキネシスを放てる様にし、取り出された物体を見て息を吐く。
 小綺麗で高級そうな、便箋だった。

 『今、ここで読んでくれ』

 渡された手紙を、中に危険物がないか精査してから封を開ける。取り出した手紙の一番上、差出人の欄に目を留め、硬直した。

 『ドクター・・・タナトス・・・・・・!』

 現バイオネット最高司令官。ギリシア神話に置ける、死を擬人化した神の名を持つ男の名が、そこにあった。



 [拝啓 天海護殿

  この度は我らバイオネットに多大な利益を頂き感謝のしようもありません。幾つかの工房は貴殿に潰されましたが、やはり収入の方が多く、大きな黒字収支を出すことができました。これも偏に貴殿の一人芝居によるもの。宇宙を救いし勇者とは言え、名声に目が眩みましたか。地球人でなくとも人の欲望に変わりがないと知り大変安心いたした次第にございます。今後とも末永くお付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。  敬具

 バイオネット総帥 Dr.タナトス]



 『っ・・・!』

 例えようもない侮辱に視界が赤く染まり、グシャリと手紙にしわが寄る。一人芝居?ラウドGストーンを造ったのが、人々を助け出す状況を生むため?利益に貢献して頂き感謝する?

 『ふざけるな・・・・・・っ!』

 わざわざ日本語で書いてある辺り、嫌みったらしさが増している。

 『それと、言伝も預かっていたな』

 怒り心頭の中話しかけられ、険を帯びた眼差しを護は向けた。タナトスからの手紙を預かってきたと言うことは、こいつもバイオネットに違いない。最早油断する気は欠片もなかった。
 だがそこに、投げかけられた言葉は。

 『そのまま伝えるぞ。「我らは加入者を拒まない。それが例え、【親殺し】であっても」』

 ――全身が凍った気がした。

 『あ・・・・・・ぅ・・・・・・ぁ』

 (――ラティオーッ!)

 耳の奥で蘇る声。自分の放ったエネルギーに押し負け、千切れ飛ぶカインの身体。断末魔の叫び。消し飛ばされる苦悶に満ちた表情。
 生みの親を手にかけた感触が、残っている。
 あのカインが敵で、自分を殺そうとして、意思も記憶もなくて、レプリジンであったとしても。
 殺したのは、自分だ。
 それが正当防衛だから、何だと言うのか。
 罪の意識は、誰に知られることもなく。
 心の奥底でわだかまり、澱み、腐敗していた。
 忘れようとして、忘れられるはずもない。

 『親殺し・・・・・・虐殺者が・・・・・・』

 ギリギリと螺子に穿たれ心が切り刻まれる。耳から入ってくる言葉が頭の中で反響して責め立てる。
 視界が揺れる、回る。三半規管が異常を訴え平衡感を失い後ろのベンチに倒れるように座り、震えが止まらない。

 『俺の家族は、お前に殺されたも同然だ』

 GSライド βラウドGストーンから造ったものそれを造ったのは自分公表したのは自分世界に教えたのは自分改造したのはバイオネット武器にしたのはバイオネット武器が殺して武器が壊して造ったのは自分で殺したのはバイオネットで壊したのは自分で殺されたのは人間で造ったのは自分で原因は自分で殺したのは自分で殺した殺したころしたコロしたころした殺シタ――――ッ!

 『だから・・・・・・お前も死んでくれ』

 言葉が、終わって。
 途方もない爆音が、平和な空に轟いた。







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いささか遅れ気味の投稿です。宣言通りの不定期ですが。

ブラックメタルさん 竜系ビークルを造るためのGストーンが残ってないと思うのですよ。で、ラウドGストーンは開発されて今ようやく二年ですし。

ハイン2さん いやパルパレーパやピサ・ソールは行きすぎでしょう。オーバーテク過ぎます。無理です。テロに関しては次回多少の説明を入れようと思っています。

LG2112/9/3さん う~ん・・・電波ですね。そこまで単純じゃないでしょう。・・・多分、いや恐らく。

E.Bさん そうですね。魔導師とか結局は生身なわけですけど、この護はその生身が強いので基本手に負えません。色々制限とか、一応あったりしますが、それもまたいずれ。

a-23さん 恐らく次回で過去編は一段落します。捻くれ最大の原因に迫ります。

かんぱちさん ゆめうつつも良く知りません。上辺の設定だけしかなく、現状では放棄されてる感じなので無視しました。そのうち企画が復活して放送される可能性もなきにしもあらずですが。

謎の食通さん ベターマンは何だか気が乗らなかったので1話で見るのをやめてるゆめうつつです。華の従兄弟って、あやめちゃんでしょうか?とまあその程度の認識なので、出しません。出せません。ディスクMの再現は可能だと考えますが、バリアジャケットで遮断されると思われます。フィールド系でも良いですが。



[5916]       終幕 破滅と救済
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:81ce07a8
Date: 2009/05/16 15:34




 ジュエルシードは願いを叶えるロストロギア。その力の大小は使用者の願い、その大きさに左右される。
 今回の発動者は、異邦人の行動により正史より一層強い思いを抱いていた。
 故に、本来なら巻き込まれることのなかったとある少女にも、その被害は及んだ。










 「――はわわわわっ!」

 ・・・・・・な、なんや?
 突然ズゴゴゴゴー!!って地面が揺れた思うたら、道路の真ん中を根っこみたいなもんが走り抜けてったんや。地震とか地割れとかとちゃうで。ほんまに木の根っこ。何であんなもんがいきなり出てきたんか知らんけど、成長期にも程があるやろ。
 幸い車椅子は倒れとらんし、歩道は無事やから帰るに支障はないんやけど、まだ買い物が済んでないねん。このまま帰っても冷蔵庫空やから晩ご飯抜きになってまう。・・・・・・外食っつー手もあるけど、人生何が起きるか解らんから節約はしときたいんや。・・・・・・もうすぐタイムサービスやし。
 とか何とか考えとったら今度はズガガガガーンッ!!ってさっきより酷い揺れやないか!・・・・・・痛ぅ~・・・・・・車椅子転げたやないか・・・あー!打った肘から血が出とる!最悪や・・・・・・って、なんやこの影。さっきまでここ影やなかったで?
 ・・・・・・ってアホか!なんでビルからあんなでっかい木が生えとるんや!夢か?私は起きたまま夢見とるんか?

 (ビシィ!!)

 ・・・・・・な、なんや不吉な音が聞こえたなぁ(汗)。ほら、ちょうどこの真上の辺りから、コンクリートにひびでも入るような音が。
 で、勇気出して見上げたんやけど・・・・・・あかん。死んだわ。だってビルのこっち側がほとんど落ちてきとるんやもん。あー・・・・・・これが走馬灯かなぁ?別に昔の映像とかは見えへんけど、壁の落下がえらいゆっくりに見えるわ。
 ・・・・・・どう考えても死ぬやろなぁ、これ。今初めて思ったんやけど、走馬灯ってある意味拷問やな。死ぬ前に人生思い出すとか、苦しいだけやっちゅうねん。私、まだ九年も生きてないんやで?友達も親戚もおらへんけど、この足治ったら絶対遊びまくったろって・・・思う、とったのに・・・・・・こんなのって、あんまりや・・・・・・
 ・・・・・・天国、行けるんかなぁ?やっぱり三途の川やろか?不可抗力なんやから、閻魔の大王さんも情状酌量してくれへんかなぁ・・・?
 せめて、恋の一つでもしてから死にたかったなぁ・・・・・・










 少女は、諦めていた。悟っていた。何があろうと、自分の人生はここで終わる、と。
 人はそれを潔いと言うだろうか。未練がましく足掻けと叫ぶだろうか。
 まだ幼い少女だ。それが泣き喚かず、取り乱さず、あるがままを、非情なる現実を、受け入れていた。
 偏にそれは、十年にも満たない人生から少女が学んだこと。悲運の中にあった少女は、世界の冷酷さを、無慈悲さを、良く知っていた。
 故に、今目の前に迫る死をも、少女は受け入れようとしていた。
 生きたい。その思いは絶えることなく。それがために悲しみを感じて。
 悲嘆。諦観。絶望。無念。
 多種多様な負の感情を瞳に揺らして。
 マイナス思念に染まった少女の前に。
 メシアは、その手を差し伸ばす。










 死神に等しい落下物が、その動きの一切を止める。
 引き延ばされた時間の中で、え?と。少女――八神はやては、胸中で疑問の呟きを漏らす。
 音もなく一斉に重力とは異なる加重を受けた落下群は、見えざる巨人の手が払いのけるように、纏めて通りの一区画へと積み上がった。
 開けた空は蒼穹。どこまでも高く青い空にたなびく白い雲。その中に一点、青でも白でもない輝きを、少女は認める。
 翠緑の光球。宙へ佇む、翠の人影。
 多分、目が合ったように思った。
 瞬き一つ。終えた頃にはその姿は影もなく。
 さながら一瞬の白昼夢の如くとして、しかしはやての脳裏に焼き付いた、その姿。
 余りに印象的な、四対八枚の薄く輝く、羽。
 非現実で幻想的な風貌は、現実。証拠は山と積まれたコンクリの塊。

 「・・・・・・妖精さんや・・・・・・」

 実際の時間にすれば三秒にも満たない偶然がもたらした邂逅。だがこの出逢いは、後に必然となって結実することになる。










 ・・・・・・見られたかも。
 今にも押し潰されようとしている少女を天海護という人間が見捨てられるはずもなく、エネルギー出力の関係で必要不可欠的に完全な浄解モードを使ったわけだが、早まった気がしないでもない。
 なら他の手段を使えば良かったのかと言えば、否である。より目立つような代物(具体的には消し飛ばすとかブラックホールとか)しか思い当たらなかったし、第一に貯蔵電力が足りないからどだい無理な話だ。
 ・・・・・・まあせいぜい、都市伝説で終わるだろうけど。
 悩んだところで過去は変わらず、それより今はジュエルシードが先決だった。
 恐らくはなのはの魔法だろう桜色のスフィアが街中を駆け抜けていくのを眺めて、護は一人思案に暮れる。

 「封印はなのはとユーノに任せるとして、この状況・・・・・・どうやって収集つけようか」

 光学迷彩を身に纏い紫を宿した瞳で見下ろす先は、海鳴の街。
 平和を謳歌していたはずの人々は、突然現れた理解不能の事態にパニックへ陥っていた。
 元凶は、言うなれば木である。ただサイズが桁違いで、ビルとほとんど変わらない高さに胴回り。根は車ほどもあってアスファルトを押し砕き、大樹の成長直下にあったビルは、さっきのように外壁が崩れるなど被害は甚大だ。

 「・・・倒壊してないのが唯一の救いだね。ちまちま救助活動しても埒が開かないし・・・・・・」

 これがかつての世界なら、とっくにカナヤゴが出動しているのだけれど。無い物ねだりはしてもしょうがない。この大樹の群れさえ消えれば、自分にもできることがある。
 ・・・・・・あれ?消える?

 「マズっ・・・!」

 推測の呼んだ結末に、護はテレパシーの回線を開いた。










 「探して、災厄の根元を!」

 即興の呪文が同じく即興の魔法を起動する。数十もの光球が宙を駆け、爆発的な速度と広がりで町中を隈無く探査していった。
 やっぱり、なのはは凄い。魔力量だけじゃなくて、魔法に対するセンスがずば抜けている。思いつきで組んだ構成で、広域探査を成功させるなんて・・・・・・凄い。
 護が救助活動に専念するって念話を届けた時は、なのはとボクだけで大丈夫かなって少し不安だったけど、杞憂みたいだ。

 「――見つけた!封印するよ、ユーノくん!」
 「ってここから?近づかなきゃ無理だよ!」
 「大丈夫。護くんだって頑張ってるんだから、私も頑張らないと。――レイジングハート!」
 『了解です、マスター。shooting mode』

 ガチャガチャ、とレイジングハートの機構が一瞬で組み変わる。
 杖そのものな形態から、二又に分かたれた矛を象る。
 その先になのはを表す魔力の光、桜色が、灯る。

 ――まさか、この距離から?

 護からの念話があったのは、その時だ。

 《封印中止ーー!!》

 へ?と思ったのも束の間。
 封印の魔法が、目標を貫いた。

 《・・・遅かったか》
 《え?え?封印しちゃ、ダメだったの!?》
 《中止って・・・・・・もうしちゃったけど、何で?》
 《そんなの後だよ後!とにかく二人は動かないで、始末は僕に任せて。いい?絶対動かないでよ!?》

 言うだけ言って回線が途切れる。

 「・・・・・・な、何だったのかな?」
 「解らない。・・・でも、何だか凄く慌ててたような・・・・・・」

 言いかけ、気づいた。遅れてなのはも。
 ジュエルシードの魔力が紐解かれ、街を覆うように広がっていた大樹がその姿を消す。
 残ったのは、“大穴を穿たれた”ビル群。滅茶苦茶な数の“地下トンネル”。
 幹と根の、名残。

 「あ・・・・・・あ・・・・・・っ」
 「護は、これを予見して・・・・・・」

 支柱を無くしたビルと、スポンジのようにスカスカな地盤。
 発動体たる巨樹の残した、空白。欠損。
 支えなき穴は、崩落するのみ。
 例えそれが、街一つ呑み込むサイズだとしても。
 物理法則には抗えない。


 地響きが聞こえる。
 崩壊の序章。
 未来が見える。
 災害の結末。


 全てはジュエルシードが招いた厄災。
 ユーノ・スクライアが己に求めた身勝手な責任感の賜物。
 天海護が自己満足と断じた、行動の結果。


 海鳴という街の破滅が訪れる。
 神秘なき魔法に止める術はない。
 魔法という名の科学は何の役にも立たない。


 過去の悔恨がユーノを。
 未来の絶望がなのはを。
 狂わそうと。
 堕とそうと。
 牙を剥き。


 紫の光が、爆ぜた。










 「マスタープログラム回路起動・原種乖離・十三番限定解放」

 広げた左の手にZの文字が浮かび上がる。
 それは忌むべき機界の象徴。
 人類の敵の力。
 あらゆる生命の天敵を示す物。

 (キィワードによるロック解除終了・即効再生復元能力・発動シークエンス開始)

 手の平から紫に煌めく小さな水晶が現れる。
 自らを表す存在の反転。
 物質に対する反物質。
 本来なら相容れるはずのない物。

 (不足エネルギー簒奪・ライン展開)

 妖しく光る真球の紫水晶から、爆発的に有象無象のコードが伸び、足元のビルへ突き刺さって同化。
 都市の電線へとその身を繋げ、街中の電力を文字通り喰らう。

 (規定エネルギー収奪完了)

 莫大なエネルギーを蓄え、Zの十三番は鈍く瞬き、
 ――タリナイ、タリナイ、キカイショウカ、フノウ、えねるぎーシュウシュウ――

 「っ・・・!」

 勝手に更なる電力を喰らおうとしたプログラムをねじ伏せる。

 「っ・・・・・・司りしは、再生の力。肝臓Liver!!」

 最後の声紋パスを入力し。

 紫の極光が、街を照らし上げた。










 空間そのものが光を放っているかのような光景。
 なのはが、ユーノが、見ている先で。
 再生の光が、その力を発揮する。
 穴が塞がれ、壁が建てられ、ひびが寄り合わされ。
 修復し、修繕し。
 癒し、癒され。
 崩壊は歩みを止め、破滅は回避され。
 巻き戻るように、巻き戻すように。
 一切の損害と負傷を。
 その光は消し去った。

 「あ、え・・・・・・?」
 「何・・・が・・・・・・」

 起きたの?と、ユーノは口の中で呟いた。
 だが彼の優秀な頭脳は、同時にその解をも得ていた。
 生体のみならず、無機物までも完全修復する光。
 規模は大違いだが、先日神社で護が使った物と同じ。
 ・・・・・・こんなに、広範囲の物質を、完璧に復元できるなんて・・・・・・
 護が欲したのもよく解る力。
 とてもじゃないが、危険だとは思えなかった。
 もし護の世界では危険物なんだとしても、技術体系の違う魔法なら、何とかできるかもしれない。
 管理局では、危険度の少ないロストロギアが公的に使われることがある。
 それと同じように、あの力も使えるかもしれない。
 色は何だか変な感じだけど、あの全てを癒す光は、上手く使えばまさしく世界中の人を救える力だ。
 ・・・・・・多少は、護の機嫌を損ねることを覚悟しとくべきかも。
 思いつくデメリットを差し引いても、あの再生の光を有効利用すべきだと、ユーノは考えた。
 時空管理局に何を話し、どう護を説得してもらうか、考えを纏めながら。
 空に護の姿を見つけて、なのはが手を振る。
 振り返した護が、こちらに向かって近づいてくる。
 いつかのように、右手で反対の二の腕を押さえた護の姿を、ふと奇異に感じ。
 しかしこれといった変化は見当たらず、気のせいだとユーノは判断した。
 街を救った救世主の胸に、感極まったなのはが飛び込んでゆく。慌てたように、護が抱き留めた。
 何度も、何度も、お礼を言う声が聞こえて。それが逆に、自分への罵声に聞こえて。
 苦渋を溜息として、ユーノは吐き出した。
 見上げた空は青くて、ぷかぷかと呑気に白い雲が漂っていた。










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 沈んでいた意識が浮き上がり、無意識に起きあがろうとする。

 『ぁ・・・・・・くっ・・・・・・』

 途端走った痛みに呻いて、力を抜いた。
 ・・・・・・何が・・・あったんだっけ・・・・・・
 頭に靄がかかったみたいで、まともに動いてくれない。身体はまるで鉛を流し込んだようだ。
 少しの間そのままの体勢で回復に努めて、ようやく上体を起こすことができた。
 そうして、周りを見た護は、

 『・・・・・・何、これ』

 呆然と掠れた声が、耳を突いて。それが自分の声だと気づくのに、数秒を要した。
 石畳は焼けこげ、近くの建物は窓ガラスを全損させ、黒煙が漂っている。
 そこは、一言で言うなら、爆心地だった。サークル状に焦げ痕は残り、およそ五十メートルもの広範囲に渡って被害をもたらしている。
 更に数秒後。自分がその爆心地の中心に居ることと、手元の紙切れに気がついた。――思い出す。
 タナトスからの、刺客。文面を見る限りこれで自分がどうにかなると思っていたわけではないらしい。いや、あの自爆はむしろ、独断だったように思う。
 自爆――そう、自爆だ。何を仕込んでいたのかは知らないが、コートの裏に隠していた。
 その結果が、周囲の惨状。
 条件反射で張ったバリアが爆発の大部分を防ぎ、殺しきれなかった衝撃が護を貫いた。
 制服が強化繊維で編まれた特注品だったおかげか、軽い打撲程度で済んでいる。
 だが、護れたのは自分だけ。
 今頃になって、悲鳴が聞こえてくる。
 爆発は、広範囲に及んだ。
 巻き添えになった人が、いる。

 『っ・・・!』

 もう大丈夫だと思っていた。夢に見ることも少なくなっていた。乗り越えたと、思っていた。
 ――甘かった。
 トラウマは、PTSDは、そんな生易しいものではなかった。
 少なくとも、数秒の心神喪失をもたらす程には。

 《天海!!》

 切羽詰まった戒道の声が脳裏に響く。制御訓練の成果、完全に秘匿されたテレパシー。

 《・・・僕の失態だ。バイオネットが、》
 《それは後だ!早く来てくれ――初野が!》
 『華ちゃん?!』

 口調に只ならぬ気配を感じ、痛みも忘れて立ち上がる。Jのエネルギー波動を追って走り出し、黒煙の向こうへ。
 さして距離もない場所だった。――爆破圏内に、容易く収まるくらいに。
 そして、見た。
 見てしまった。
 腹部、胸部の制服を赤く染めた、愛する少女の姿を。

 『・・・・・・はな、ちゃん・・・』
 『まだ息がある!』

 呆と立ち尽くしかけた護を戒道の叱咤が叩く。我に返って、顔を悲痛に歪めた護は、応急処置に取り掛かった。
 パイプ爆弾。爆発のみならず破片による殺傷力を増したもの。
 諜報部で否応なく頭に入った爆薬と医療の知識から、容態の深刻さが知れてしまう。

 『右肺貫通・・・・・・腹部、胃の横に破片残留・・・・・・その他出血多数、火傷、全身打撲、熱傷性ショックの危険あり・・・・・・』

 機材も技術もない現状、大したことはできない、止血や冷却がせいぜいだ。
 ・・・・・・いや。
 華の身体に掲げた左手を、戒道が掴んだ。

 『戒道っ!』
 『駄目だ、天海。・・・人目が、多すぎる』
 『だけどっ・・・・・・華ちゃんが・・・!』
 『気持ちは解る。人命最優先というのも理解できる。・・・・・・だが、これまでの生活を捨てる覚悟はあるのか?』
 『それはっ・・・・・・!』
 『仮に助かっても、初野を巻き込むぞ』
 『っ・・・・・・!!』

 噛み締めた口の端から、血が流れ落ちる。
 見つめて、戒道は目を逸らした。
 ・・・・・・Gパワーの回復力程度じゃ、どうにもならない。
 冷酷だがそれが現実だと、マシンとしての側面が告げる。
 感情を殺す術は、生まれつき頭の中にあった。
 それを行使して尚、この光景は辛い。
 ――辛いという言葉では、済まない。

 『・・・・・・天海、その紙は、何だ?』

 既に救急車が呼ばれている現状、見守るぐらいしかできない戒道は、せめてもの意識の転換をと、話題を作る。

 『・・・タナトスからの、手紙』
 『・・・・・・読んでも?』
 『好きにして』

 受け取った手紙の内容に目を走らせ、その悪辣さに舌打ちしたくなるのをこらえる。裏返し、ふとその文章が目に留まった。

 『天海、これは・・・どういう意味だ?』

 “訃報、心よりお悔やみ申し上げる”

 護自身、さっきは気がつかなかったものだ。最初の文章に気を取られて、裏まで意識が回らなかった。
 読んで、数秒思考の淵に沈み、仕事柄慣れている推測に至って、総毛だった。

 『・・・・・・殺害予告・・・いや、殺害通知・・・!?』
 『何?』
 『damnくそ・・・!犬吠埼さんに知らせないと――』

 “タイミングを計ったように”、護の携帯が鳴った。
 鳴ってから、気がついた。
 ――遅すぎる。
 爆発物の連絡は、とっくにGGGへ届いているはずなのに、このタイムラグは何だ。
 幾度か付いて行った戦場で味わった嫌な予感が、胸を突く。

 『・・・・・・護です』
 《・・・そちらの状況は把握している》

 犬吠埼諜報部長の低い声が、携帯を通じて鼓膜を揺らす。

 《医療班は既に送った。数分内に着くだろう》

 護は、答えない。その程度のことで連絡してくるとは思えない。
 続く沈黙へ観念したように、上司は告げた。

 《凶報だ。・・・・・・君の家が、爆破された》
 『・・・・・・被害、は』
 《・・・・・・・・・・・・病院に運ばれている途中だ》
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 《天海諜報部員?》
 『・・・・・・進展があれば、お知らせください』
 『天海――』

 ピッ、と通話を切った護に話しかけようとして、戒道は口をつぐむ。――否、つぐまされた。
 護の表情から、情感と呼べるもの全てが失せていた。
 ひどい、寒気が。
 背を這い上り、粟立つ。
 指一本。
 微動だに、できなかった。





 親友に恐怖したのは、初めてだった。




















 翌日。


 死亡者のテレビ報道に、よく見知った三人の名前が乗った。




















 天海護は、独りになった。











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 本流から外れた支流は新たな本流と交わりその嵩を増す。
 歴史の交流に綴られる魔法の物語は終わりを見せず、新たな出会いが生じる。
 運命との巡り合いは世界に何をもたらすのか。
 勝利の鍵は、定まらない。










 第一章 第一幕  了










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これで完結です。――って言ったら怒られそうだ。や、嘘ですよ?続きますよ?ご安心を。続けます。
前話でカインはペイ・ラ・カインだー!という突っ込みを頂きました。言いたいことはわかります。そんな貴方にFinal小説版の設定をプレゼント。
最終話で護がギャレオンと一緒に旅立ったのって、実は新種のゾンダ―関係なくて、カインに会いに行ったんです。呼ばれたので。細かいことは省きますが、生みの親に呼ばれた護がカインに会いたくなって、でも天海夫妻にそれを言うのは心苦しくて、ゾンダ―がどうのって嘘ついてまで三重連太陽系に行ったわけです。小説の中では、向こうについた護がカインに抱きつく描写もありました。レプリジンだったというオチはつきますが。
とまあそういう経緯があったので、ゆめうつつ的にはトラウマになりそうだな―、と思った次第です。書き直す気はありません。護に隙ができなくなるので。
さて、珍しく長々とあとがきしましたが、感想返信に移ります。

sinさん まさしくどうしようもない現実を書いてしまいました。次も過去編を中に入れていくかはまだ決めていません。途中から入るような気はしていますが。

トッポさん ・・・べジータの方ですか?いつも拝読させていただいています。今回捻くれの最大の要因に至ったわけですが、どうだったでしょう?ゴルディオンクラッシャー・・・皆さん好きですね。や、ゆめうつつも大好きですが。・・・そうですね、詳しくは下をどうぞ。

俊さん いつもいつも誤字報告ありがとうございます。すぐに修正しました。期待されてるお話は、次回になります。ユーノの値段は・・・想像しづらいですね。書いといて何ですが。

a-23さん 手直しいたしました。メモ帳からの貼り付けで少し失敗していたのに、報告されてから気づきました。ありがとうございます。

ノリさん&ハイン2さん おっしゃる通りなのですが、上記の理由によりトラウマも致し方ばいとゆめうつつは判断しました。納得していただければ幸いです。

謎の食通さん ・・・停止コード。思いつきませんでしたね、それは。GGG公文書館によると作ったのはアベルじゃないようなので、もともとその機能がなかったんじゃないかと考えます。そんなものがあれば、GGG側に利用される可能性も無きにしも非ずですし。・・・こじつけかな?



クラッシャークラッシャーと、皆さんの熱意に押されました。登場を前提に構成を練っていきます。お楽しみにどうぞ。



[5916] 第二幕 第一話 日常は追憶と共に
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:81ce07a8
Date: 2009/10/31 11:38
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 風が吹いた。頬をくすぐって背後へ抜ける。
 慟哭が聞こえた。死者を悼む生者の声。
 葬儀の一団がいなくなってから、天海護は密やかにその姿を現した。
 無言のまま、墓石を見下ろす。幼き頃に教えられた名前が、そこに刻まれていた。

 『・・・・・・』

 ジャリを踏む音が背後に。自身と近い気配を感じ取って、振り返りはしなかった。
 五秒、十秒、一分。二分、三分。五分。
 それだけの時間じっと立ち尽くしていた護が、花束を持たない手を握り締めた。

 『天海・・・』

 名を呼んで、しかし続く言葉が見当たらず、戒道は口を閉ざす。
 墓石に花束を捧げ、それからまた、数分。手を合わせていた護が、ようやく振り返った。

 『バイオネットは、潰す』

 短く告げられた一言に、戒道は息を呑む。

 『みんなに任された、平和のために』

 言い残して、立ち去った親友の背を、戒道は見送る他なかった。
 平和のため。復讐ではなく、託された平和こそを望んで。
 復讐に身を堕とす方が、楽だろうに。
 激情を押し隠し、押し潰し、心は摩耗する。
 悲しみを、怒りを。蓋をして、前に進もうと。
 だが、

 『敵がいなくなった時・・・・・・君は、何もできなくなる』

 心の行き場を無くして、歩みが止まる様子。
 手に取るように、思い描ける。
 その時、親友が自分に何を頼むであろうかも。

 『別にいいさ・・・そのぐらい。君は一人で、背負いすぎなんだ』

 風が吹いた。空を駆け上る風が。未来へと続く風が。
 憎らしいまでの青空。それを眺めて、今日ぐらいは雨が降って欲しい、などと思った。
 僅かでも、悲しみが流されるだろうに、と。

 『・・・・・・後一年半、待ってくれ』

 義務教育が終わるまでは、子の務めを果たすまでは。
 そうすれば、僕も――










 奈良で起きた自爆テロより、一月。
 中東、紛争地帯。
 とあるゲリラの、活動拠点にて。

 『撃て!撃ちまくれっ!』
 『駄目です!効果ありませんっ!』
 『畜生・・・なんだあの化け物は!!』
 『GS兵器だぞ・・・・・・それが何故、効かんっ!!』

 物陰から、何十もの武装したゲリラが、手に手にGSマシンガンやライフルを持って、ひたすら連射に明け暮れている。
 その銃口は、ただ一人の人間に向けられていた。
 逸れたエネルギー弾がその足元や背後へ着弾し、爆発し、硬い地面や石壁が削り抉られていく。
 だが、歩みは止まらない。
 一定のペースを保って近づき、段々と大きくなる人影に、命知らずの荒くれ兵が恐怖する。

 『これでも・・・食らいやがれーっ!!』

 一際巨大なエネルギー弾が宙を奔り、直撃する。
 大枚はたいて手に入れた、虎の子のGS砲だ。間違っても一個人に向ける物ではなく、本来の用途は拠点攻撃である。
 轟音が鼓膜を嬲り、衝撃が突き抜ける。

 『・・・・・・や、やったか?』

 立ち込める土煙に視界を遮られ、銃撃が止む。嘘のような静寂が、一帯を包んだ。
 ゲリラたちは固唾を飲んでそれを見つめる。これで終わってくれと、願って。――――だが、
 ザクッ、と。
 嘲笑うように、砂を噛む音が。

 『『『っっっっっ!!!』』』

 死を恐れないゲリラたちの顔が、引きつる。彼らの理想のため、積み重ねてきた準備が、夢が、踏みにじられる。
 ザクッ・・・・・・ザクッ・・・・・・ザクッ・・・・・・
 銃を構えたまま突っ立つ指揮官の前で、遮光ゴーグルをかけたそいつが、足を止めた。
 自分の、胸ほどにしかない身長。そこまで近づかれて、男は初めてそれが、アンダーティーンの子供だと解った。
 そこまで近づかれなければ、解らなかった。

 『あ・・・・・・あ、あ・・・・・・!』

 カタカタと指が震え、銃口が定まらない。冷や汗が止めどなく、頬を伝う。
 この道に入った時から死を恐れたことはなかった。いつ死のうと未練を残すつもりはなかった。
 だが、これは違う。恐怖の質が違う。
 ぞわぞわと皮膚の裏に潜り込むような途方もない怖気。鉄の心臓を凍らせるような極北の寒気。
 人が生まれながらに持つ得る種的存在の格差に、ガチガチと、男の歯が鳴る。
 少年の背後に、男は牙剥く巨大な獅子の姿を、幻視していた。
 
 『――投降、してください』

 静かに場を圧する声に、逆らえる人間はいなかった。










 『お疲れ様です天海特尉殿!』
 『・・・・・・お疲れさま』

 若年の国連軍兵士――それでも護より十は上のはず――が、待機用のトラックに戻ってきた護に尊敬の眼差しで敬礼してくる。居心地が悪い。
 GGG“特務隊”所属国連平和維持軍出向特別尉官。
 それが今の、護の肩書きだ。
 テロを防ぐことのできなかったことを犬吠埼が詫びた際、謝るぐらいなら前線へ出られるよう強く主張した結果である。押し通したと言っても過言ではない。
 特務隊と言いつつ護しかおらず、前線へ出るのに何故PKOへ出向しなければならないのか疑問だったが、GGGを含める各国上層部での政治的駆け引きと法律の穴を縫うための必要措置らしい。はっきり言って意味不明だ。
 ・・・・・・前線に出られるなら、どうでもいい。
 故に、護は深く考えていなかった。頭にあるのは、バイオネットを潰すことだけ。これまでの電子戦と平行して、今日のようなGS兵器保有の武装集団を迅速に制圧するのが護の仕事だった。GS兵器の後ろには、いつもバイオネットの影が見え隠れしているからだ。
 既に、超能力を隠すことは止めている。人目は気にならない。気にする必要が、なくなった。先のように、単純な憧れを持って接する兵がいれば、瞳に恐怖や苦みを浮かべる者もいる。前者は若く、後者はそれなりに年を食った者が多いのが、特徴だろうか。
 本当に、どうでもいいことだけれど。
 待機用の車両に戻って、次の電子戦に備えて、護は目を閉じた。










 火が燃えている。
 心の深奥で焼け爛れて、疼きを上げる。
 熱い・・・・・・痛い・・・・・・苦しい・・・・・・
 追い立てられる。駆り立てられる。
 爛れ落ちたグジュグジュとした塊が、熱を持って苛む。
 声なき悲鳴と絶叫が、耳の奥で合唱し不協和音を掻き鳴らす。
 煩い・・・・・・やめろ・・・・・・やめて・・・・・・
 苦悶が、苦鳴が、途絶えることなく、責め立てる。
 滾る炎が、じっとしていることを許してくれない。
 走れ、動け、奴の元へ・・・・・・!
 マグマの持つドロドロとした灼熱が、身を焦がす。
 最近よく見る、夢だった。
 この夢しか、見なかった。
 ・・・・・・火が、燃えている。
 悲しみと怒りの火が。





>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>








 「護くん!空の飛び方教えて!」
 「・・・い、いきなりどうしたの?」

 森に化けたジュエルシードを封印した翌日。廃棄されたノートパソコンを幾つか見繕い、持って帰って修理と改造を施していた護は、帰宅早々駆け足でやってきたなのはに頼み込まれていた。

 「私、決めたの。ユーノくんのお手伝いなんかじゃなくって、私の意志でジュエルシードを集めるって!」

 ぐぐぐっ、と胸の前で拳を握り締めるその様は、やる気満々。勇ましいまでに。

 《・・・何かあったの?》
 《それが・・・・・・》

 念話で求めたユーノの説明によると、昨日のジュエルシード――危うく大災害となりかけた発動の前兆を、なのはは微かに感じていたらしい。だがユーノも気づかないほどに微弱な反応で、気のせいだと思ってしまったそうだ。
 自分がもっと真剣に取り組んでいれば、本当の意味で被害を零にできたかもしれない――と。

 「・・・・・・」

 何だか、凄く身に覚えのある話だった。十一年も前のことだが、あの後悔は忘れていない。

 「・・・なのは、ちょっと座って」
 「え、うん・・・」

 指差した座布団の上、膝を突き合わせて座る。
 ・・・・・・どこから話そうかな。










 ・・・・・・うぅ。
 真正面からじっと見つめられると、凄く気まずいものがある。
 思い出すのは昨日のこと。自分の失敗を帳消しにしてくれた護に、感情のまま抱きついてしまったこと。
 家に帰ってふとそれを思い出したとき、余りの恥ずかしさに枕をユーノに投げてしまったが、そんな些事はどうでもいいのだ。(治癒魔法を必要とされたが、割愛)
 ・・・・・・護くんは、この街を救ってくれた。
 壊れゆく街並みは、引っ越しを経験していないなのはにとって、世界そのものだった。
 生まれて、育って、歩いて、笑って、偶に泣いて、友達と出会って。
 全てだった。
 なのはの全てが、海鳴にあった。
 その海鳴がボロボロになって傷ついていく悲しみは、言葉では言い表せられない。
 それを、天海護という名の少年が、止めてくれた。救って、くれた。
 ・・・・・・嬉しかった。ちょっぴり泣いてしまうくらいに。
 同時に情けなかった。いつもいつも、護に助けられる自分が。
 だから頑張ろうと決めた。護に頼らなくてもいいように。
 なのはが一晩かけて固めた、想いだ。

 「・・・・・・十一年前、戦いがあってね」

 静かに、護が語り始めた。クラスの男子とは似ても似つかない、穏やかな声音。自然と、傾聴する姿勢を取らされてしまう。

 「悪者と、それに立ち向かっていくヒーローの戦い。悪と正義に分かれた、本当に簡単な仕組みの戦いが。でも悪者は神出鬼没で、次はどこに現れるのか、誰にも解らなかった。けどね、たった一人だけ、悪者が使う特殊なエネルギーを感じ取れる子供がいたんだ」

 どこに現れるか解らない敵と、普通の人が気づかないエネルギー。
 ・・・・・・私たちと、似てる。
 見れば、ユーノまた神妙な表情で聞き入っていた。

 「その子供はヒーローと一緒に戦うことになるんだけど、ある時遊びに夢中になってて、反応を見逃してしまったんだ」

 今の自分と瓜二つな境遇に、息を呑む。滔々と、護は話し続ける。

 「死傷者が出た」
 「っ!」
 「子供は、僕が今持ってるような再生能力を、持っていなかった。後悔して、子供は泣いちゃったんだ。自分がもっと、しっかりしていれば・・・・・・」
 「・・・・・・!」

 もし昨日、護がいなかったら。
 自分は、泣くぐらいで済んでいただろうか?

 「でもね、その子にヒーローは言ったんだ」
 「なん、て・・・?」
 「“失敗は誰にでもある。お互いの失敗は、お互いで助け合えばいい。俺たちは一人で戦っているんじゃない”・・・ってね」
 「お互い、で・・・・・・?」
 「子供はそれから何度も助けられたし、同じようにヒーローを助けることもあった。持ちつ持たれつ。助け合いながら、最後には悪者をやっつけた。決して一人じゃ、成し遂げられなかった」

 何処か暗い、けれど懐かしげな微笑を向けられて、訳も解らず、心臓が跳ねた。

 「強くなろうと努力するのはいいことだよ。でも絶対に、人に頼ることをやめちゃいけない」

 ポン、と頭に手を乗せられる。家族以外にそんなことをされるのは初めてだったが、嫌では、ない。

 「なのはには僕もユーノも付いてるんだからね。それに、僕は封印なんてできないんだ。頼りにしてるよ、なのは?」
 「!・・・・・・は、はいっ!」

 思わず、先生に答えるように返してしまったが・・・・・・不思議と、違和感はなかった。
 返事を聞いて、よしよしと頷く護の表情は、既になのはが見慣れたもの。
 ・・・・・・何なのかな。
 釈然としない、胸にしこりが残ったような感覚。
 その違いが何であるのか、確と掴むまでには、至らなかった。










 「魔法のことはまだあんまり解ってないから、ユーノに習った方が良いと思うよ」
 「そ、そう・・・?」
 「任せて。これでも魔法学院では首席だったから」
 「それじゃお願い、ユーノくん。私着替えてくる」

 ドタドタと、駆けてくなのはを見送って、ユーノが護を振り返った。

 「今の子供の話だけど・・・・・・それってもしかして・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・なのはには、黙っとくね」

 若干しかめた表情の裏に苦渋を見て取り、そう言い残してユーノは部屋から出ていった。

 「・・・・・・」

 誰もいなくなったのを確かめて、護の身体が、グラリと傾ぐ。

 「っ・・・・・・、は!」

 脳髄を掻きむしるに等しい苦痛が、襲う。
 記憶の空白が異常を訴え、激烈な頭痛と化して牙を突き立てる。
 この頭痛は、予想されたものだった。その上で施した、封印だった。
 記憶領域の、余りの広範囲に及ぶ部分的な封印。前後する記憶の矛盾から生じる幻痛。
 一分ほど、そうして。ようやく頭痛が引いた。脂汗を拭い、転がっていた体勢から身を起こす。

 「それは病気か何かか?」
 「!!」

 いつの間にか、高町恭也が扉の前で、背を壁に預けていた。気づかなかったことに舌打ちし、自然と語調が荒くなる。

 「大学はどうしたんですか。翠屋は?」
 「今日の講義は終わったし、翠屋ならこの後行く予定だ。一度帰ってきて正解だったようだな」

 むすっとした不機嫌顔に、恭也は軽く息を吐いた。あの様子はどう見ても尋常でなく、後一秒おさまるのが遅ければ、すぐ側に駆け寄っていたところだ。

 「今のが病気なら、知り合いの医者を紹介するが」
 「結構です。原因は解ってるので気にしないでください」
 「だったら早く治すんだな。俺に心配されたくないんだったら」
 「もう治りました」
 「・・・・・・強がりも程々にな」
 「そんなのじゃありません!」

 一層不機嫌さを増す護に、恭也は内心で苦笑し、同時に溜息する。原因が解っていると護は言った。だが本当に治ったわけではあるまい。

 「次見かけたら病院に担ぎ込むぞ」
 「大きなお世話です。精神性のものなので放っといてください」
 「その時次第だな」

 しかめっ面する護の部屋から出て、恭也は心底から安堵の息を吐く。
 本気で心配したのだ。一先ずは大丈夫そうだが、頻発するようなら忍にでも相談しなければならない。

 「精神性の頭痛、か」

 何か、トラウマでも持っているのだろうか?
 背後でバタン!と扉が閉められた。あれだけ元気なら、当分は大丈夫だろう。










 一人残された部屋で、護は憤懣をぶつけていた。枕に。

 「ああもうっ・・・!何で気付かなかったんだ!?」

 ぼすっ、ぼすっ。ほこりが舞う。
 この世界にやってきてから最大級の失態だ。あんな無様な姿を、よりにもよって高町家の人に見せてしまった。
 見ず知らずの見た目子供を無償で養うような人たちが、心配しないだろうか?いや、心配する。きっとさせてしまう。反語を使いたくなるぐらいには。

 「う~~~っ!」

 自己嫌悪。頭抱えてじたばたと。
 こうなっては、一刻も早く恩返ししてここを出るべきだろうか。なら住居はどうする?月の裏側にでも建てるか?

 「いやいや、それじゃダメだ。いつかは人目が来る。じゃあ海底や地下世界とか・・・・・・見つかる可能性は零じゃないし、地震が来たら地下じゃ一巻の終わりだし・・・・・・」

 やはり必要なのは戸籍とお金か、と護はどんよりと沈み込んだ。打開案が浮かばない。

 《護くん、今から外で飛行魔法の練習に行くんだけど、護くんも行かない?》
 《・・・・・・ああ、うん。解った》

 何にせよジュエルシードを放ってはおけないのだからしばらくはこのままだと、投げやりに護は思うのだった。










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゆめうつつです。比較的早い投稿。ナルトの方は難航。
前話を書いた時はかなり苦しいものがあったりしましたが、まだまだ続けます。続きます。続けないといけません。
感想返信は感想掲示板にて。



[5916]       第二話 月村家での出来事
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/06/04 10:04
 「……護くん、それ、直ったの?」
 「直りました。ちょっと改造して、市販品よりもグレードアップです」

 ……それ改造ってレベル?
 しかもそのパソコンって、不法投棄されてたの持って帰ったんじゃなかったっけ?

 美由希が腰を曲げて覗き込むテーブルの上には、三つのノートPCがケーブルで一つに繋がり並べられ、ウィンドウに光を灯していた。
 様式美はどうでもいいのか、ひどく無骨なデスクトップに幾つもファイルが浮かんで、右から左へ訳の解らないアルファベットがものすごいスピードで流れている。

 ……ごめん、お姉さん理解不能。

 「あーっ!直ってる。護くんすごい!」
 「それほどでもないよ」

 階段から下りてきたなのはが歓声を上げて、にこやかに護がそれに応える。

 う~ん、満更でもなさそうな顔。なのはもパソコンが解る知り合いが増えて嬉しそう。
 ……私も恭ちゃんも、そんな詳しくないからね。

 護がこの家にやってきてからもう二週間にもなっていた。最初の頃は喧嘩もしたらしい二人だが、今ではすっかり仲良しこよしの様相を呈している。特に、一週間前の休み明けからその傾向は強いように、高町家の長女は思っていた。

 「あの状態からどうやって直したの?」
 「教えてもいいけど、裏技使っちゃったから僕にしかできないよ?」
 「にゃ~!?そんなのずるいよ、でも教えて?」
 「後でね」

 ……具体的には、このような感じで。

 賑やかだなぁ、と美由希は相好を崩す。今や弟のような気さえしてくる少年は、初めに出会った頃と比べて明らかに笑顔が増えていた。取り繕った交渉に浮かべる愛想笑いではなく、純粋な“楽しさ”に起因する自然な笑顔が。

 ……裏技ってやっぱり超能力関係かな?

 知れば知るほど、天海護は不思議な子供だった。ゴミ同然のパソコンを綺麗に修復し、身体もすごく鍛えてあり、偶に格闘訓練をしているのも見かける。二十歳だそうだが……向こうの世界では何やってたのだろうか?

 …………超能力者です、って言われたらそれまでだなぁ。

 「二人とも、そろそろ時間だぞ」

 自分には未知の話を始めた二人を眺めていると、出かける準備を整えた恭也が居間に姿を見せた。

 「あれ、三人そろってお出かけ?」
 「ああ……忍のところにな」

 そういえば、美由希は記憶をさらう。なのはと護は、すずかにお呼ばれされていた筈。

 ……忍さんにはお願いしてることもあるし、そうでなくても恭ちゃんが行く理由はあるもんね。

 「じゃあ、行って来る」
 「「行ってきま~す!」」
 「行ってらっしゃーい」

 ……今更だが、護が二十歳なのが疑わしくなってきた美由希である。

 最初はそうでもなかったけど、ここのところ、子供っぽい仕草をよく見るし。
 ……そう言えば前に読んだ本で、精神は肉体に影響されるとか書いてあった気がする。魂だっけ?

 なんて事を考えながらリビングに戻ると、テーブルの上に出しっ放しにされたノートを見つけた。

 「誰のかな……あ、護くんのか。名前書いてる」

 んふふ……何が書いてあるんだろう。表紙は…………consideration……熟考、あ、考察か。……何の?

 「ってこれ何語?」

 気になって開いてみたはいいが、そこにあったのは一分の隙間もなく埋められた膨大な文字の羅列。何かの幾何学模様にしか見えない記号の数々。

 ………アルファベットじゃないよね。アラビア語やハングルとも違うし、どこの文字だろう?見たことがない。

 「……あ、ここだけ日本語だ。えっと……結界内におけるディバイディングフィールドの空間的観点から見る欠点……?」

 ……分割領域Dividing Fieldって、ナニ?










 「…………」
 「護くん……その、目眩がする~みたいなポーズは、何なのかな?」
 「……そのまんま受け取ってくれると嬉しいかも」
 
 護たち一行三人の前には立ち塞がるように左右へと延びる高い外壁があり、侵入者を阻む役割を十全に果たしている。
 正門に当たる入口も、どこの監獄かと言うような太い鉄柱で構成され、監視カメラの数も尋常ではなかった。

 ……あはは、ちょっと郊外だけど町中に要塞がある。
 どうやったら落とせるか考えてしまうのは、もう職業病だね、これは。

 「これが月村家……うん、お屋敷だとは聞いてたけど、正直侮ってた」
 「忍が聞いたら喜びそうだな……」

 ……今のセリフで喜ぶってどんな人なんですか?
 月村忍さん……すずかのお姉さんか。恭也さんの恋人でもあるらしいけど。っ……ちょっと、ズキッときた。
 表情には出さないで、我慢する。……救急車呼ばれるの嫌だし。それでなくても、恭也さん勘いいし。

 玄関のインターフォンを押すと、待っていたように大きな正面扉が開かれる。
 出迎えてくれたのは、ラベンダー色のショートカットにヘッドドレスとエプロンで武装した……メイド。

 ……うわっはー、本物のメイドさんだ。初めて見た。

 思わず目を丸くしてしまったのは仕方がないと自己弁護してみる。

 「お待ちしておりました。恭也様、なのはお嬢様、護様」
 「こんにちは、ノエルさん」
 「えっと……初めまして」
 「こちらこそ初めまして。ノエルと言います」

 綺麗な笑顔を見せる、ノエルというらしき女性。なのはが綺麗な人だって言うのも頷ける話だった。

 ……………ィ。

 「……あれ?」
 「どうかなさいましたか?」

 小首を傾げ、ノエルは落ち着いた声で問いかける。

 「……いえ、何でもないです」
 「そうですか。……では、こちらへ。既にアリサお嬢様も到着されています」

 先に立って先導するノエルに着いていく。
 護が耳を澄ますと、微か、あるかないかのレベルで駆動音が。

 「…………」

 …………この家、何かあるのかな?










 歓談を目的とする茶会の部屋そのままなところに通された。

 「こんにちはなのはちゃん、護くん。今日は来てくれてありがとう」
 「お招きありがとうすずかちゃん」
 「こんにちは、月村さん」

 自分的には何故呼ばれたのか解んない護だったが、当たり障りなく返しておく。

 ……なのはとセットにされてたのかな?

 まあ、今更考える事ではない。
 奥に座っていたなのはのもう一人の親友にも、挨拶を向ける。

 「バーニングさんもこんにちは」
 「……あんたこないだからわざと言ってるでしょう」
 「うん」
 「うんじゃないっ!」
 「「あははは……」」

 既に恒例となりつつある遣り取りに、なのはとすずかの二人は乾いた声で笑っていた。

 だって、ねぇ……バニングスさん反応が一々面白いから。
 こういう性格の人は、僕の周りにはいなかったなー…………良く知らないけど、ルネさんが一番近いかも。

 「……君が恭也の言ってた護くんね?」

 ひとしきり護がアリサで遊び終わるのを見計らい、椅子に座って待っていた女性が話しかけた。

 ……忍さん、かな。月村さんとよく似てる。

 「忍さんですね?初めまして、天海護と言います」
 「あら、丁寧な挨拶をありがとう。月村忍よ」

 艶やかに、と言うのか。そんな笑みを浮かべている月村忍。

 ……何だろう。観察されてる気が。

 という護の疑問も、次の瞬間忍の放った言葉に消え失せてしまう。

 「さ、準備はできてるわ。こっちよ」
 「……はい?」
 「なのは、悪いが護をちょっと借りてくぞ」
 「あ……うん!護くん後でね!」
 「え?え?ちょ、恭也さん、なのは!?」

 突然の成り行きに混乱していると、忍が耳元に口を寄せて囁く。

 「(超能力、楽しみにしてたんだからね?)」
 「なっ…………恭也さんっ!?」
 「安心しろ。行くぞ」

 そのまま両脇を持たれてズルズルと引きずられてしまう護。

 安心しろって……何をどう安心すればいいわけーっ!?

 …………テレパシーですらない悲痛な叫びは誰にも聞かれることなく消え去るのであった。










 「……ねえなのは、恭也さんと忍さん、護に何の用があるの?」
 「えっと多分、護くんの親戚関係じゃないかな」
 「そっか。だからお姉ちゃんなんだね」
 「…………親戚、見つかったのかしら?」
 「見つかってるといいね。でもそうしたら……何処かに行っちゃうのかな」
 「例えそうだとしても、また会えるわよ」
 「……うん。そうだよね」

 (……い、言えない。こんなに真剣に心配してくれてる二人に、本当のことなんて絶対言えない……!)

 残された三人の間でのそんな遣り取り。










 「明快な説明を要求します」

 応接間らしきところに連れてこられた護が、ふかふかの椅子に腰掛けて対面の恭也たちに放った第一声だ。

 「……目が据わってるぞ」
 
 貴方が原因でしょうが、と即返す護に肩をすくめる恭也。
 ……いささか声に険が混じるのも当然であろう。
 いくら恋人でも自分の力を話すとかどういう了見をしてるのだと、護は憤懣やる方なしといった様子。
 そんな護の反応を見て、忍さんが何やら不思議そうな顔で恋人に尋ねた。

 「恭也、護くんにちゃんと説明した?」
 「いや、少し驚かしてやろうと思っていてな」
 「だめよ。こういうデリケートな問題で遊ぼうとしちゃ」
 「そうか?それは……まあ……すまん」

 ……謝ればいいって問題でもないと思うけどなー。
 忍さんは、恭也さんよりも常識人みたいだ。

 反省してるみたいだからジェットコースターは話を聞いた後で考慮してあげよう、と護は判決を保留する。

 「それで?なのはたちに聞かせたら拙い話ですか?」
 「なのはちゃんは別にいいのよ。でもうちのすずかとファリン、それにアリサちゃんには聞かせられない話ね。まだ」

 ……まだ?
 まだって、いつかはいいってこと?それにノエルさんはOKなんだ?

 「恭也が君の超能力について私に話したのはね、これの手配を頼むためだったの」

 忍から茶封筒を受け取る。取り出された中身を確認して、護が頓狂な声を上げた。

 「戸籍謄本!?」
 「そ。これで解ったでしょ?口の堅い恭也が何故私に話したのか」
 「で、でもこれって公文書偽造……」
 「月村家当主を舐めないでね」
 「…………」

 ……ただの金持ちとは違うらしい。ここに来た時からそんな気はしていたが。

 む、恭也さんが僕を見て笑ってる。あれはしてやったりの笑みか。僕が驚いてるのがそんなに楽しいのか。

 「ありがとうございます」
 「別にいいわ。代わりに超能力見せてもらうから」
 「……解りました」

 それぐらいで済むなら安い買い物だ。
 ……ついでに、仕返しもさせてもらおう。
 恭也さんをジロリと睨むと、表情を強張らせた。気づくのが遅い。僕で楽しむつもりなら、それ相応の覚悟をしてもらわないと。

 サイコキネシス発動を発動。思念の力が現実に反映され、巨大な手のイメージが恭也を捕まえようと伸ばされる。
 そして護が見ている前で、高町恭也の姿が消えた。

 「……え?」

 そして耳に届いたのは、自分自身の間の抜けた声。漏らした直後に、ズン、と脳髄に響く衝撃が頭頂部を襲う。

 「っ~~~~~~~!!」

 洒落にならない鈍痛に頭を抱えてうずくまる。

 「ふん、二度も喰らってたまるか」
 「………………」

 背後で、消えたはずの恭也が手刀を振り下ろした体勢で、溜飲を下げたように笑っているのを護は見上げた。
 そこに何を感じたのか、またも姿を掻き消す恭也。
 ……忍が最後に見た恋人の表情は、妙に引きつっていたように思えた。

 「あの……護くん?恭也も多分悪気があったわけじゃないと――」
 「…………ふ、ふふ……」

 奈落の底から這いずり上がってくるような声に、月村家当主はフォローを中断する。
 何となく、本能に訴えかけてくるものがあった。それが夜の一族でなくとも、今の護の、その、何と言うか、“とても綺麗なのに背景に暗雲が見える笑顔”を見て、危機感を煽られない知的生命体はこの世のどこにもいないだろう。

 「ふふ、ふ……恭也さん、今のは僕が怒る場面ですよ?空気読まない人ですね…………」

 ゆら~り。立ち上がった護の幽鬼のような気配に、忍はダラダラと冷や汗を流す。
 恭也にしてみれば恐らく、先日の意趣返し程度の意味しか持たなかったのであろう。
 普段の護であれば、毒を吐いて終わり。
 ただ、少々間が悪すぎた。

 ふふふあはは。

 応接室に黒雲撒き散らす笑い声。
 自動人形たるノエルでさえ、戦慄を禁じ得ない。

 「どういう原理でその高速移動が成り立っているのかひどく興味をそそられるけど…………後でいいよね」

 うん、うん、と一人納得し、一瞬で空間に呑まれて護も消える。

 「「………………」」

 黒雲の発生源がいなくなって、心底疲れた調子で忍は顔を覆った。
 恋人の無事を祈りたくはあるが、今回ばかりは自業自得な気がしてならない。

 「……………………ノエル、お茶淹れてくれる?」
 「畏まりました」

 障らぬ神に祟りなし。










 「…………逃げ切ったか」

 広大な月村家の、一室。
 普段は使わないような部屋でさえ、ここでは綺麗に掃除が行き届いている。
 だからこうして、恭也は一息つくことができていた。
 ノエルには感謝をしなければならない。

 「……あそこまで怒ることはないだろう」

 先手必勝、とばかりに恭也は手刀を入れた。
 さもなくばあの地獄を再び味わっていたこと必然。
 ……多少どころではなく頑丈な相手なため、『徹』を使用してしまったが。
 実際十秒と経たず復活したので、そこに問題はない。
 問題は……

 「…………」

 予想以上に、天海護を怒らせてしまったらしいことだ。
 一体何がそんなに気に障ったのかはともかく、
 あの 眼
 攻撃を加えた自分を見上げた、“紫の瞳”。
 それは刹那に満たない一瞬で、元の翠に戻っていたが。

 ……体が、芯から凍えた。

 心胆寒からしめる極北の色合いは、即座に暖色を帯び。
 途方もない“殺気”から、“怒気”へとランクダウンした。
 ……その僅かな間が、『神速』を用いる隙となったのは、恭也にとって僥倖だ。
 こうして、考えを纏める時間を与えてくれている。
 ………純粋に怖かったというのもあるにはあるが、さておき。

 「あの殺気は…………反射だ」

 戦いに身を置く者が、自身への不意打ちに対して見せる過剰なる反応。
 命を奪ったかもしれない一撃を許した、自分への怒り。
 そんな油断をしてしまったことが“信じられない”という、表情。

 「…………ふー……」

 らしくもなく、溜息を吐いてしまう。
 浅はかな行いをなかったことにできないものか。
 平和に慣れてきた護に、“戦場を思い出させてしまった”。
 ……戦場に居たかはともかく、少なくともそれに近い環境を。
 最早どうしようもない。
 また、時を置くしかない。
 憤激も、もっともな話だった。

 「……参ったな」
 「それは諦めたということですね?」

 ビシッ、と恭也の思考から全身まで余さず凍りつく。
 ギシギシ軋ませ背後を顧みると、春を思わせる笑顔の護が顔の高さに浮かんでいた。
 春と言っても、永久凍土のそれだが。
 とっさに逃げ出そうとするも……既に体が動かない。
 激しく拙い状況だった。

 「お、落ち着け護!さっきのは俺が大人気なかった!せめて弁明と謝罪をさせてほし――」
 「嫌です。よって強制連行」

 どこにだ!?と叫ぶ前に視界が変わった。
 月村の邸宅その一室から、渦巻く何かが見える広大な空間に。

 ……何だ、ここは。

 一瞬護のことすら忘れて異様な世界に見入る。
 光源、上下、重力の有無。全てが曖昧な混沌とした世界。
 それらは一秒も置かずに失せ、目の前に広がったのは、

 「……空?」

 空である。
 真っ白な雲海とその下には町並みが見える。高度がどの程度か見当もつかない。

 …………。

 先刻の悪寒より遥かに凶悪な予感に襲われる。

 「人生一度はやってみるべきだと思うんですよ」
 「待て、それは待て!」

 悟った恭也が制止するも虚しく、

 ポイッ、と。

 抗い得ぬ重力の網に恭也は捕らわれた。

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!」

 恐怖がふんだんに織り交ぜられた恭也の絶叫をバックミュージックに、護はニコニコとどこから出したかハンカチを振る。

 「パラシュートなしのスカイダイビング……心ゆくまでお楽しみを」










 ――――――ぁぁぁぁぁぁ…………

 「?」
 「なのは、どうかしたの?」
 「う~ん……何だか、お兄ちゃんの悲鳴が聞こえた気がしたの」
 「あの恭也さんが悲鳴?……ちょっと、想像つかないなぁ」
 「にゃはは、それもそうだよね」

 知らぬが仏とは良く言ったもので、水差されることなく少女たちの歓談は、続く。










 ……その後。
 僅か十秒ばかりのフリーフォールを体験した恭也は、
 地上に激突する寸前で護に救出されたらしい。
 護に支えられる恭也と再会した忍は、
 恐怖にげっそりと頬を痩かした顔に、そっと目頭を拭うのだった。











<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


 『奴らの動向はどうだ?』
 『南西に待機したまま動きなし』
 『……よし、バイオボーグ三個小隊出撃。奇襲を仕掛け、あの化け物を討ち取れ!』
 『了解!ルート選別後、A隊は正面、B隊は右方、C隊は左方より進軍してください』

 次々とバイオボーグ各人に指令が告げられる。
 3Dに立体化した地図を囲んで意見を交わす幹部とその参謀。
 綿密に練り上げた作戦とその進行状況。
 …………それら全て、僕は“視て”いた。










 『――――以上が、“透視”の結果になります』
 《独力での撃破は?》
 『可能です』
 《……そうか。せいぜい頑張ってくれたまえ、天海特尉殿》

 横柄な指揮官のセリフに通信士である私は、消えた画面に向かって思いっきりしかめ面しました。

 『何ですかあの態度……特尉に向かって……!』
 『……嫌われてるからね』

 疲れたように、吐息混じりで特尉は言います。
 ……でも、ああ言う上層部の態度は理解できません。

 『……怖いのかな』
 『怖い……?』
 『僕みたいな子供が、一応とは言え尉官だ。自分の地位が脅かされるかも知れない……手柄を立てられるのを、多分怖がってると思う』

 ……馬鹿みたいですね。
 本当に特尉が名誉を欲しがってたら、とっくに上に行ってます。
 だから……天海特尉も、うんざりした顔をしてるんでしょうね。
 う……どことなく空気が重い。話題を変えないと。

 『そ、それにしても凄いですね!遠隔透視で敵の情報が全部解るなんて!』
 『ああ……ゾンダーや原種と違って反応は追えないから、ある程度特定した場所しか覗けないよ』
 『それでも、です。事前に敵の内情を知れるなんて、普通じゃ考えられません!』
 『…………そうだね』

 ……何故でしょう。素直な賛辞なのに、天海特尉は余り喜んでくれません。

 天海護特別尉官。その名前は、私のように平和を胸に抱いて戦う人にとって、伝説に等しい名前です。
 生まれのことも関係ありますが、八歳の頃から戦いに臨み、時には矢面に立って最前線を経験しています。
 かつてのGGG機動部隊最後の一人。機界大戦と遊星主との激戦を潜り抜けた生きた英雄。
 そんな彼に憧れているのは、私だけじゃありません。
 同期や後輩だけでなく優秀な先輩やベテランの中にさえ、彼を慕う者は大勢居ます。

 ……特別な力を持っているからじゃありません。

 絶望に在って挫けず、常に勇気を持って戦い、奇跡と共に勝利を掴み取る。
 その目に映るのは平和な世界。
 だから、私たちは憧れるのです。

 …………悲劇に見舞われて尚食らい付く、私たちの小さな勇者を。

 『みんなは防御態勢を敷いてここで待機。僕一人で片付けてくる』
 『『『了解しました』』』

 ……ああ、感謝いたします人事の方。

 あの天海特尉と一緒に戦えるなんて望外の幸運。
 例えそれがオペレーターの身であっても、それだけで同僚に自慢できます。
 …天海特尉が出撃しました。
 特尉の戦闘力は、勿論超能力のおかげでずば抜けて高いのですが、攻撃よりも防御と補助に長けているそうです。
 実際そのバリアフィールドは、全力で展開すればICBMさえ防げる強度を持っています。
 ……だからと言って、攻撃が劣っているというのは間違いですが。

 っ……爆音がここまで届いてきました。どうやら戦闘に入ったようです。
 サテライトにリンクして、天空からの俯瞰映像を映し出します。
 奇襲をかけようとしていた部隊が、逆に奇襲を受けて大混乱に陥っているのを、特尉の攻性エネルギー弾が更に混乱に拍車をかけています。
 敵はバイオボーグ。
 以前はフェイクGSライドを動力源としていましたが、敵がGSライドβを得てから改良が進み、前と比較して遥かに人間らしいボディを使っています。
 当然、武装はGS兵器。
 ……はっきり言って従来の火器では相手になりません。
 こちらがGS兵器を使ったとしても、楽な敵ではないでしょう。

 …………けれど。
 天海特尉はそれを小隊単位――およそ五、六人――を相手取って、“無力化”するのです。
 具体的には、四肢と武装を破壊しての物理的な行動停止。
 もしくは、その場で敵にハックを仕掛け、電子的な活動停止。
 ……仮にもサイボーグなので、そこまでしなければ動きを封じられないのです。
 とと、仕事をしなければ。
 今の内にジャミングジャミング、っと。
 …………危ない危ない。ギリギリで成功です。

 《……こちら天海、グループA無力化》
 『了解です。続いてグループB、お願いします』
 《了解》

 よしよし……通信網を絶って続けざまに奇襲、上手く行ってるようですね。
 ああ、やはり特尉は素晴らしいです。
 この映像は後で観賞用にダビングして、それからそれから…………










 ――ゾク。

 『……?』

 丁度同じ頃、何とも知れない悪寒が背筋を這い上がり、護は首を傾げた。










>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

えー、お知らせ、と言う程のものではないですが、アンケートです。
ヘル&ヘブン……使うのは護と、護の操るガオガイガー。
どっちがいいですか?
出せる構想が決まりましたので、清き一票をお待ちします。

ルファイトさん 離脱フラグ……最終的には出奔する予定です。

sinさん あらら、そう見えますか。まあ確かに護に凱の役は性格的にも無理があるかと。

らぶデスさん ……思うに、ディバイディング・ドライバーって目立つのが前提なので、使うのは無理があるかと思います。単純に空間的な意味でも、次回話の中で載せるつもりです。

a-23さん すいません、フェイトは次になります。お待ちください。

クギヌーさん あはは、これはまた辛辣ですね。さすがに殺しては拙いですけど。




[5916]       第三話 発覚と遭遇と決断と
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:b0a9bf96
Date: 2009/06/08 21:49

 「一つ聞いてもいいですか?」

 お仕置き終了により椅子の上でぐったりしている恭也を見向きもせず、対面に座った少年が訊ねてきた。
 天海護という名のこの少年、見かけはそこらの子供と変わらないと言うのに、異世界人らしい。しかも二十歳。加えて超能力者。最初聞かされた時は何の冗談かと思ったが、世界って広いなー、と今は達観気味。
 ……それとあの恭也をここまで憔悴させるお仕置きが気になって訊ねてみたのだが、

 『似非投身自殺って、怖いと思いません?』

 …………おおよその推測が成り立ってしまいそれ以上聞くのが躊躇われた。自分だったらトラウマ確実だ。

 「いいわよ。内容にもよるけど」
 「……ノエルさんって、何ですか?」
 「――――」

 ……驚いた。
 ノエルの正体に初見で気づくなんて。
 これも、超能力の賜物?

 「……何のことかしら?」

 その上でとぼけるのは勿論だけど。

 「えと………そんな睨まなくても」

 先刻の羅刹降臨が嘘のように眉根が下がって、何だかとっても困った表情を見せてくれる護くん。……う、お姉さん心をジャストミートでくすぐらないで。

 「無理に聞く気はないんです。僕の世界には、ロボットもサイボーグも居ましたから」
 「本当にっ!?」

 身を乗り出した私にちょっと引きつつも、目の前の異世界人は肯定を示す。

 「護くんはそういうの詳しい?」
 「えっと……はい。ハードは適当ですけど、ソフトならそれなりに」
 「…………ふ、うふふふふ♪」
 「忍さん?忍さーん。……あれ、聞こえてない?ノエルさん、これって一体……」
 「……忍お嬢様は、こう言っては何ですが、俗にマッドと呼ばれる嗜好の持ち主でして」
 「……………あ、僕そろそろなのはたちのとこに」
 「ダメよ」

 ガシッ!と腰を上げかけた護くんをがっちりホールド。

 「捕っ獲~♪さ、心ゆくまで語り明かしましょ?」
 「は、離してくださいっ!――って何この腕力?!外れないっ!?」
 「ん~、慌てた顔もいいわねー。でもそれはまた今度にしましょうか。今はじっっっくり語り合いましょうね?」
 「い、嫌です!ノエルさん助けてっ!」
 「申し訳ありません。私は忍お嬢様のメイドですので」
 「恭也さんっ!」
 「撃沈中です」
 「……こっ、こんなところで裏目に出るなんて……!」
 「ノエルー、私の研究室開けておいて」
 「畏まりました」
 「畏まらないでっ!って忍さん、当たって、当たってます!」
 「このこの~、純情小年め」
 「僕はこれでも二十歳ですーーーっ!」
 「でも戸籍上は九歳なのよねー」
 「そんなっ……」

 うふふふふ♪
 赤くなって悶える護くん、すっごくイイ。
 抵抗はしてるけど、直接攻撃しないのは紳士的ね。

 「くっ……こうなったら……!」

 あ、テレポートで逃げる気ね?
 そうはさせないわよ!

 ちゅっ

 「ふぇ……?…………きゅう」

 一瞬硬直した後、護くんの身体からカクンと力が抜ける。
 あらら、目回しちゃった。
 今時の男の子にしては、驚く程免疫がないわねー。ほっぺたにキスしたぐらいで気絶するなんて。
 純情少年って冗談のつもりだったのに……嘘から出た真ってこのことね。
 ま、これはこれでチャンスよね?

 「さ、今の内に運んで」
 「はい、忍お嬢様。……護様、悪く思わないでくださいね」

 ……さて、あの様子じゃしばらく目覚めそうもないわね。
 今の内に恭也励まそっと。
 んー……それにしても。

 「すずかの相手に丁度良くないかしら?」

 自分にはもう恭也が居るし……戸籍上は同い年だし。
 何より護くんなら、私達のことを知っても怖がったりしないと思うのよね。
 夜の一族の異能より、超能力の方が遥かにとんでもない代物だもの。
 これは私の推測だけど……あの子も、自分の力で悩んだことがあるんじゃないかしら?

 「そういう意味でも、ここは狙って然るべきよね……?」










 「ユーノくん、どう?」
 「……ダメだ。全然通じない」

 どうしたんだろう。こんな近くでジュエルシードが発動してるのに、護と連絡が取れないなんて。
 性格から考えて、気づいてたら放ってるはずはない。念話に応じないと言うのもおかしい。
 だとすると……まさか、意識がない?

 「……仕方ない。なのは、ボクたちだけで封印しよう」
 「…………護くん、どうしたのかな」
 「解らない。でも、ジュエルシードをどうにかするのが先だ。手早く封印して護を探そう」
 「……うん。行こう、ユーノくん!」

 ……そう言えば。
 二人で封印するのは初めてだっけ。
 今まではいつも護が居て、どんな失敗も完璧にフォローしてくれたけど。
 今日は居ない。

 …………。

 ……護には頼りっ放しだ。居ないだけで、こんなに不安を感じてしまうのがその証拠だよ。
 でも大丈夫。ほとんど活躍できてないボクだけど、これでも総合Aランク魔導師なんだ。
 何が来たってボクとなのはならきっと封印できる!
 さあ来いジュエルシード!ボクたちが相手だ!





 ……と、息巻いてたのがさっきのボク。
 正直、現実を舐めていたとしか言いようがないです。

 「うわぁあああああああっ!!」
 「にゃぁあ~~~っ♪」

 ズシン! ズシン!

 「おっ、お、お、追ってくる~っ!?」
 「それで良いんだよユーノくん!そのままもうちょっと引きつけて!」
 「無理ぃぃぃぃぃぃっ!」
 「にゃあ!」

 バクン!

 「ひぃっ!」

 っ……く、喰われるところだった?!
 ボク嫌だよ!巨大子猫なんていう矛盾存在に食べられて死ぬなんて嫌だよ!?
 いくら子猫が塀の外に出そうだからって、エサ(ユーノ)で釣るなんてあんまりだっ?!

 「護くんも言ってたよ!その場所で戦えないなら、戦えるフィールドを用意するんだって!」
 「意味曲解してるーーーっ!?」

 いやしてない、してないんだけど、何か違うっ!上手く言えないけど!でも絶対違うよそれぇっ!
 ――ってもう後ろに!?まず、拙い!ホントに食べられるーーっっ!!

 ドゥン!

 「にゃあっ?」
 「あ……!」

 ボクを追いかけていた偽子猫に、金色の光弾が直撃した。
 それがミッド式の魔法だとか、何でこんなところに魔導師が?とか思う以前に。
 不覚にも、ボクにはその金髪の女の子が、救いの女神に見えてしょうがなかった。

 ……綺麗だ。

 後光が差しているように見えたのは、気のせいではないと思う。










 「……護の奴遅いわね。何やってるのかしら?」
 「なのはちゃんもユーノくん追って何処かに行っちゃったし……」
 「案外その辺でばったり出会って、一緒に追いかけてるのかもしれないわね」
 「……私たちも探す?」
 「……そうね。なのはは大丈夫だって言ってたけど、人手が多いに越したことはないわ」

 携帯で連絡も取れるから、行き違いになっても問題ない。
 それにただでさえあの子は人に頼ろうとしないんだから。
 ちょっとぐらい強引に行かないとどうにもならないのよ。
 ……それで解決するなら、私たちも心配しなくて済むんだけど。愚痴ってもしょうがないわね。
 とにかく行動あるのみ。行くわよ、すずか!





 十分ぐらい二人して回って、結局戻ってきた玄関ホール。

 「……居ないね」
 「居ないわね。……どこ行ったのよあの二人は」

 ファリンに聞いても解らないって言うし、忍さんたちも見つからないし。
 ……恭也さんだけはソファでぐったりしてるのを見かけたけど、何があったのかしら?
 余りに憔悴してるから声もかけられなかったわ。

 「そもそも携帯が繋がらないってどういうことよ!」

 持ってない護はともかく、何でなのはも忍さんも出ないわけ!?

 「……電池切れ?」
 「二人とも切らすような性格だと思う?」
 「そうだよね。だったら――……?」
 「すずか?どうかし――」

 た?と言いかけて、気づいた。
 遠くから聞こえてくる、ドドドドドっていう……足音。
 いや、でも、ちょっと待って。足音にしては大きすぎない?そして速すぎない!?

 「す、すずか?これ何か解る!?」
 「え、あ、えっと、ノエルが全力で走ってる音……だと思う」
 「……ノエルさん?あの人、こんな凄い脚力持ってたの!?」
 「い、一応恭也さんと張り合えるぐらいは……」

 充分化け物じゃない。何よそれ。

 「……待って。そのノエルさんが、全力で走らなきゃいけない事態ってこと?」
 「………た、多分」
 「一大事じゃないの!こうしちゃいられないわ、すぐにでも士郎さんか美由希さんに連絡して――」



 「追ってこないでよノエルさん!」
 「申し訳ありません」



 「「……………………」」

 ビュンッ!と目の前を横切った二つの人影に、私もすずかもらしくなく目をこすった。

 「………ねぇ、アリサちゃん、今の」
 「言わないですずか。幻、幻よきっと!」

 とか言った矢先に、どこをどう通ってきたのか、二階の扉が開いて護が躍り出た。
 即座に閉鎖。近くの調度品を引っ張ってきて扉を塞ぐ。

 「……よし。これなら少しは時間が稼げる」

 ふう、と汗を拭いながらほざく護に、すずかは唖然として、私はこめかみをヒクつかせた。

 「……あんた、何やってんの?」
 「え?……あれ、二人とも、そんなところで何してるの?」
 「こっちのセリフよそれは!何でノエルさんに追いかけられてんのよ!?何したわけ!?しかもあんた何でそんな足速いのよっ!」
 「一度に聞かれても……それに今ちょっと手が離せなくて――」

 遮るように、今し方封鎖した扉にトラックが正面衝突したような音がズガシャンと。

 「わっ、わっ、追いつかれた?月村さん、ここのメイドさんってあれが基本スペック!?」
 「わ、私に聞かれても~!?」

 ……うん、そうよね。そういうの知ってるのは忍さんだものね。
 今更ながらこの家が普通じゃないって思えてきたわ。……正確には、忍さんが。
 なんて話してる間に扉が破られた。塞いでた調度品も巻き込んで、爆発したように吹き飛ぶ。

 ――私たちに向かって。

 …………あ、マズ。

 そんな風に思ったのは、一瞬のこと。その一瞬が引き延ばされて、護が大きく目を見開いたのと、すずかが私に抱きついて飛んでくる色々な破片から護ろうとしたのと、壊れた扉の向こうでノエルさんが蒼白になったのとが、一度に知覚できた。

 だから。

 突然護の全身が翠色に発光して、背中に大きな羽が八枚も生えて、瞬く間に破片を追い越して私たちの前に立ち塞がったのも、一から十まで、逃さず、見た。

 そして。

 「はぁっ!」

 一喝。宙を殺人的な速度で飛来していた危険な破片を、余さず“受け止めた”。
 少なくとも、私にはそう見えた。
 一瞬の沈黙を挟んで、バラバラ、ガラガラ。破片が、落ちる。
 その頃には護の姿はとっくに見慣れたものに戻っていたけど。
 幻想的で、超越的でさえあったあの姿は、しっかりと私の目に焼き付いていた。

 …………。

 嘘のような静寂。触れれば切れそうな、張り詰めた空気。
 その中で、護は両手を空中に向けたまま、破片を“何か”で受け止めた体勢のまま、凍り付いていた。
 どんな表情をしているのか、こちらからは解らない。
 でも…………

 「…………護」

 名前を呼んだ瞬間、ビクリ、ってその肩が震える。あ、と掠れたような、声が。
 けれどそれも、少しのことで。
 頭を振って、振り返った護は、苦笑と自嘲を入り混ぜらせた複雑な顔で、微笑して。
 また顔を背けて、一歩護が踏み出し。
 思わず、服の裾を掴んでいた。
 歩みが、止まる。
 振り払われは、しない。
 顔も……見えない。
 何を思って服を掴んだのか、凝固した脳味噌は有効な答えを出してくれなかった。
 ただ、このまま行かせたら、もう戻ってこないような、漠然とした不安だけが胸にあって。

 「に――――」

 に……何だろう。何だ。私は、何を言おうと?

 「――逃げるなっ!!」

 言ってしまって、何を言ってるのかと激しく混乱しながら自分を罵る。
 だけど。

 「……!」

 本当に心から驚愕したような顔で護が振り返ったもんだから、ああ、なんだ。これで良かったのかと安堵した。
 そこでとうとう、精神的な限界が来たようで。
 ふっ、と真っ暗闇な世界に意識が落ちた。
 慌てたように、自分を抱き留める護の顔が、ちょっと滑稽だった。










 「……………………」

 別に頭を打ったとかではないようで、護は心底から安堵の息を吐く。

 「…………逃げるな、か」
 「護、くん……?」

 安全な床に寝かせる護を、見ていないすずかは不思議そうに見上げた。

 「月村さん、僕ちょっと野暮用があるんだ。バニングスさんが目を覚ましたら、後で話そうって伝えておいて」
 「う、うん」
 「ノエルさん、片付け、お願いしますね?」
 「…………了解しました」
 「じゃあ、ちょっと行って来る」

 そのまま並列空間に移動したから、二人の目には消えたように映ったことだろう。

 「……忍さんのせいだからね」

 説明の時は巻き込ませてもらおう。絶対に。
 さておき、あちらもあちらで、大変なことになってるようだ。
 目を覚ました後、そのままノエルさんとの追走劇に移ったおかげでテレパシーの余裕すらなかった。
 ……檻が降ってきたりゴム弾乱射にドアノブに高圧電流…………こうして無事なのが不思議なくらいだよ。
 その後もバニングスさんに見られるし……今日は厄日だ。
 何にせよ。

 「自分の不始末ぐらい、自分でけり付けないとね……」

 ……忍さんにしてやられたのは僕の責任だから。……で、でもあんな、キスとか!無理!
 大人の女性なんだからもっと恥じらいを持ってよ!
 ただでさえ僕は“女性とは縁がない”んだから。

 「……あ、ユーノ結界張ってるんだ」

 封時結界。通常空間から一定の空間を切り取って時間信号をズラすことで、視える人以外から隠蔽する魔法。
 ……つくづく思ってたけど、魔法ってすごく便利だ。攻守自在に補助も万全。適性は要るらしいけど……僕も習ってみようかな。
 そうそう、結界と言えばこの間ちょっと実験したっけ。
 封時結界は隠蔽用だけど、そこでの被害は現実空間に残るらしいから、ディバイディングフィールドと併用できないかを試してみたんだよね。
 ………結果は散々。専用機器がないからゾンダ―パワーで簡単な装置を作ってやってみたら、一発で結界が壊れた。……まあ、どっちも三メートルくらいのサイズだったから実害はないけど。
 考えてみれば、空間を切り取るなんてデリケートな魔法に、空間反発と空間拘束を同時に発生させようなんて無茶もいいとこだ。
 より正確に言うと、空間反発が良くなかったらしい。アレスティングフィールドだけなら問題なく使えた。結界強化ぐらいしか意味ないけど。
 ……レプリションフィールドは使った瞬間に結界が粉微塵。もちろん、彼我のエネルギー差によって結界が壊れないようにはできる。まあ、無意味だよね。
 …………そろそろ並列空間を抜ける。
 二人とも、待っててね。










 ……よし。
 予定外の邪魔があって少し手間取ったけど、上手く封印できた。
 まさかこんな管理外世界に魔導師がいるなんて思わなかったな。
 それも私と同じで、使い魔を持った魔導師が。デバイスもインテリジェントだったし。
 ……それにしても、あの使い魔ほとんど働いてなかった気がする。ずっと私の方見てるばっかりで。

 「バルディッシュ」
 『Yes sir』

 封印したジュエルシードにバルディッシュを近付ける。格納領域に収納――しようとしたのに。
 ぬっ、と現れた腕がジュエルシードを掴んだ。

 「!!」

 異様な光景に咄嗟に飛び離れる。
 腕は肩に繋がって、すぐに全身が出てきた。
 て……転送魔法!?――違う……魔力は、感じない?

 「横取りって趣味じゃないんだけどなー……」

 出てきたのは、私やあの子ぐらいの男の子。
 茶系の髪。翠の目。デバイスは………ない?
 けど、そんなことより。

 「あなたは……あの白い魔導師の味方ですか?」
 「白い魔導師……ああ、なのは?うん。手伝ってる」
 「……そのジュエルシード、渡してはもらえませんか?」
 「……何に使う気?」

 ………あの子と、同じことを。

 「答えたところで、意味はありません」
 「不合格。会話の仕方から勉強してきなさい」
 「え……え?」

 ふ、不合格って、いきなり何!?

 「対話で解決しようしたのは君なのに、自分からその機会を潰したらそれこそ意味がない。ほら、渡してほしいなら僕を納得させてみなさい」

 な、納得?対話って、え?
 お、落ち着こう。うん、相手のペースに乗っちゃダメ。
 深呼吸……深呼吸……

 「落ち着いた?」
 「はい……って違います!」

 ……ど、どうしようリニス。こんな相手の対応方法、習ってないよ!
 どうすれば、どうすれば……

 「ジュエルシードを何に使うの?」
 「知りませんっ!……あ」
 「何だ、知らないんだ」

 や、やられたっ!?誘導尋問?!言うつもりなかったのに!!
 う……うぅ…………こ、こうなったら……!

 「ち、力づくで、いただきます!」
 「ごちそうさま」
 「ごち……え?」
 「あれ、知らない?この国ではね、食べ終わったときにごちそうさまって言うのがマナーなんだよ」
 「そ、そうなんですか――……だから、違いますっ!!」

 ううう…………助けてアルフーっ!










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 パワーに任せた大振りなパンチがバリアに突き刺さった。薄く、目をそばめる。
 軋みかけたバリアにエネルギーが補填され、鞠のようにあっさりと弾く。
 つ、と指を差し向け、

 『ブレイク』

 砕く。狙うは、足。
 破砕の音を木霊させ、最後のバイオボーグが倒れた。

 《お疲れさまです天海特尉!回収部隊を向かわせますね》
 『……うん、お願い』

 無事任務を終えたというのに、護の表情は晴れない。胸の前で拳を握り、確かめるように開け閉めを繰り返す。

 『…………力が、落ちてる』

 ぽつりと吐き出した嘆息には諦観が滲んでいた。原因など、解りきっている。
 ドロドロとした赤黒い堆積物が胸の奥で降り積もり、澱み、腐臭を撒き散らす。
 最近、自分の感情が解らなくなっていた。
 バイオネットが憎いのか、喪失を哀しんでいるのか、戦いに喜悦を見出したのか、怒りをぶちまけたいだけなのか。
 何も何も、解らない。暗闇しか見当たらない。
 特にそれは、戦闘中に顕著となる。
 “力”でへし折り、叩き壊し。銃口に刃を向け、相手の理念も思考も感情も顧みず、押し潰す。
 私怨だとは思う。だけど、戦ってる内に本当に憎いのかも、判然としなくなった。
 ただ。
 勇気では、ない。それだけは確か。
 もがき足掻く命の力は、擦り切れた心で使用するに能わない。
 ……薄々、予想されていたことだけに、覚えるのは諦めだけだった。

 『……いつまで戦えるのかな』

 力の減少は緩やかなれど、着実に落ちてきている。
 バイオネットとの決着までに、保つかどうか。

 『…………』

 ……いや。
 保たせなければならない。
 求め望んだ決戦の時に戦えないなど、これまでの行いが無為となってしまう。
 それだけは、絶対に――

 『う、ぐ……』

 聞こえた呻きに思考が妨げられた。
 最後に壊したバイオボーグ。四肢を砕かれて、まだ意識があるのか。
 ……苦鳴が耳障りだったから、側に寄ってβにエネルギーを注いだ。
 目に見えて、その表情が安らぐ。
 そこに何かを感じるわけではないけれど。

 『……は、俺達を壊した手で、俺達を癒すか…………偽善者が』
 『最初に投降は呼びかけたよ。向かってきたのは、貴方たちだ』
 『言ってろ、反則みたいな超能力者が。もっと手加減しやがれ』
 『……』

 ……何だろう、この人。
 ボロボロなのにすごく元気だ。

 『……おい宇宙人』
 『何?地球人』
 『…………話に聞いてたより余程スレてんなぁ……俺達の言える義理じゃあないが』
 『聞いてたって……誰に?』
 『特定個人じゃねーよ。噂とかデータとか、まあ色々だ。昔はあんな可愛らしい子だったのに……おじさん悲しい』
 『分解していいですか?』
 『すまん、俺が悪かった』

 土下座しそうな勢いで謝ってくるバイオネットのエージェント。
 本当に、何なのだろうか……

 『あーそうそう、仮にも敵に情けなんざ掛けるもんじゃないが、いちおー忠告だ』
 『……話半分に聞いてあげます』
 『結構結構。――手加減はもうやめとけ』
 『?!』

 前振りなしに入った会話に着いて行き損ねるが、持ち直して頭を切り換える。

 『平和維持軍は防衛隊でも自衛隊でもねぇ。“軍隊”だ。……ガキの理想追いかけてぇならGGGに戻るんだな』
 『……自分の意志で殺したことは、あります』
 『“いいや、ねえ”』
 『レプリジンだからですか?あれは人間と何の変わりも――』
 『ちげーぞガキ。そうじゃねえよ。……お前、“殺したい”って思ったこと、ないだろ?』
 『殺さないで済むなら、それで良い筈です』
 『良い悪いの話とは違うんだよボーヤ。お前には、“殺す覚悟”がねえ』
 『……そんな覚悟、要りません』
 『そうかよ………忠告は、したからな?後で後悔するのはお前だ。“力”が足りてる内は、良いけどなぁ?』
 『……!何、を………言って……』
 『殺さなかったのは、お前だぜ?』

 直後。
 バイオボーグの内側から光が滲みだし、

 『あばよ、ガキ』
 『!!』

 ――大爆発。

 それに連鎖して、倒れていた全てのバイオボーグがエネルギー臨界に到達。
 続けざまに大爆発を撒き散らした。

 『……危なかった』

 咄嗟に張ったバリアは、危機感が強かったせいか、ここ最近で最大の出力。
 ……自分の現金さに少し呆れてしまう。

 《特尉、特尉?そちらは大丈夫ですか!?》
 『……うん、大丈夫。……待って、もしかして他のところでも爆発が?』
 《は、はい。回収部隊が……その、直撃を受けました。どうやら、時限式で暴走するよう仕組んでいたようです》

 ――殺さなかったのは、お前だぜ?

 まさ……か、あの人が、全部……?

 『そんな……』
 《辛うじて即死者はいませんが……部隊の七割が致命傷か、重傷です。もう……助かりません》
 『っ……!』

 ――忠告は、したからな?

 『こういう、こと……』
 《特尉?》
 『……詳しい報告は、戻ってから聞くよ』
 《特――》

 言いかけの通信機を切った。
 話をする気分じゃ、なかった。

 『……殺す、覚悟……?』

 そんなものが、本当に必要なのだろうか?

 『……違う』

 そう、違う。殺しなど不要。殺すための“力”など不要。
 必要なのは、

 『……救うための、“力”』

 だけど――

 『……また今日も、救えなかった』

 “力”が、足りない。
 全力であっても、足りない。
 自分にできるのは、防御か、補助か、破壊。
 治す力は……弱い。

 『…………治す?』

 治す、癒し、回復、治療、修復…………“再生”。
 だが、だがそれは――

 『っ……』

 禁忌。だ、けれど、

 『救う、ために……!』










 救済を免罪符に、壊れかけた護の心はZへと手を伸ばす――










>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

両方という意見が多いので両方行きます。H&H。

俊さん 本当に毎度毎度推敲すいません。おかげで恥が最低限で済んでおります。夜の一族関連は以前から考えていました。まあ、今回アリサにばれたのは書いてるうちの成り行きなので、構想が少し壊れましたが。ノープロブレムですが。

ノリさん どれでもないとしたらどうします?確実に四代目はありませんが。で、ご考察の通りエネルギー低下です。熱き勇気?……さあ?今後に期待?

2さん ……ああ、過去編ではガオガイガー出ませんので悪しからず。すいません。というか、ガオガイゴーはなんか語呂が悪いので使いたくありません。なんとなく。

ルファイトさん ご期待通りフェイト登場!Gストーンでの蘇生は、無理です。ガオガイガーはぜひとも見てください。前にも言いましたがyoutubeで視聴可能です。

a-23さん ついでに護も大人げなかったり。……なんとなく使いやすいんですよね、恭也。まあこれで他の人も超能力知ったので、このパターンは今後少なくなる、と、思う。

ハイン2さん はい、了解です。ガオガイガーでも使いましょう。

ナーナシーさん ……?ポルコートはもう意思があるだけの車ですし、マイク兄弟は有人コスモロボ。……海の勇者って何ですか?

らぶデスさん こういう用語は詳しくないんですけど、Mスレッドって何でしょう?それと……スケール比ですか。ふむ。よろしい、でかくして差し上げましょう(予定)。

sinさん そうですね、後はどんな形で丸く収めるかなんですよね。レアスキルは前々から考えてました。具体的な形になっていませんが。

かんぱちさん 言われてみて確かにと思いました。別に限定する必要ないですからね。



……さて、ようやくフェイト登場。ここまで来るのに十話以上使うとか、思いもよらなかったり。
過去編がなければ早かったんでしょうが、それだと護の能力と性格との折り合いに齟齬が生じますし。
一応、第二幕で無印終了予定。何話になることやら。

では、またいずれ。



[5916]       第四話 次元世界への不審
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/07/18 21:57
 フェイトから緊急の念話が繋がった。一人で大丈夫と言っていたのに……やっぱり何か問題が起きたんだ。

 ≪ア、アルフ、助けて!≫
 ≪落ち着いてフェイト、何があったんだい!?≫

 フェイトが助けを請うなんて……よっぽどの事態に違いないよ。
 一体何が……

 ≪せ、説得って、どうやるの?≫
 ≪……は?≫

 予想外すぎる言葉に面食らう。……ご、ご主人様? どこでそんな高等ギャグを覚えて……

 ≪ろ、論戦とか、そういうの、習ってないし……≫
 ≪あの……フェイト? 何でまた、説得を?≫
 ≪え……あ、あれ? 何でだろ?≫
 ≪フェイトは純粋だから、きっと騙されてるんだよ! 説得なんてしなくて良いから、ジュエルシードを! あたしも、すぐに行くから≫
 ≪……うん、解った!≫

 ………フェイトを口先で丸め込もうだなんて。
 どこの下衆の仕業だい! このあたしが、噛み殺してやる!










 金色の、多分敵の少女が誰かと連絡を取っている隙に、ユーノにテレパシーを。

 ≪なのはは?≫
 ≪落ちた時に少し怪我しちゃったけど……大丈夫、今回復魔法使ってるから≫
 ≪怪我? ……後でちゃんと治さないと恭也さんに殺されるかも≫
 ≪さすがにそこまでは…………あるかもしれない≫

 ユーノと恭也さんへの共通認識を新たにして、更に問う。

 ≪戦闘スタイル報告≫
 ≪えっと……近接から射撃魔法も使える高機動万能タイプ。 速い分、防御が薄くなってる。 それに……多分、電気の魔力変換資質を持ってる≫
 ≪魔力変換、資質? ……言葉通りと考えて、合ってる?≫
 ≪合ってると思う。 護の凄さは知ってるけど、気を付けて。 その子、きっと戦闘訓練も受けてるから≫
 ≪……こんな子供が?≫
 ≪ミッドチルダじゃ珍しい事じゃないよ。 就労年齢が低く設定されてるから≫

 珍しく……ない?
 十歳になるかどうかの子供が、戦いの技を身につけるのが?

 ≪………気に入らない≫
 ≪護?≫
 ≪ユーノはなのはを護って。 頼んだよ?≫
 ≪あ、うん、解った≫

 ……戦うにしても、どう戦う?
 子供を……ましてや女の子を叩きのめすなんて、そんなの最低の大人のすることだ。
 僕が子供で女性だったら、ただの喧嘩で済むんだろうなー……
 ぼやいても、仕方がないけど。
 やる気のない溜息を吐いて、少女を観察する。
 黒い戦斧型のデバイス。金色の長いツインテール。
 ルビーのように赤い真摯な……いや、真剣な瞳。
 純粋で汚れない、真っ直ぐな目。
 ……逃げても、はぐらかしても、きっとこの子は追ってくる。
 自分の信じるもののために、どこまでも。
 傷を恐れず、疲労を厭わず、その手にジュエルシードを掴むまで。

 「………はあ」

 ガシガシと苛立たしげに髪を掻き回した。
 相手にしてられない、というのが正直な感想。
 偶然にもたどり着いた異世界で、約半分はなし崩し的に始めたジュエルシード探し。
 そこに現れた、発掘者のユーノとは異なる探索者。
 まず間違いなく次元航行艦とやらを襲って海鳴に危険物をばらまいた張本人だが、目の前の子は一つの駒に過ぎず、裏で糸を引く者が垣間見えている。

 「陰謀とかそういうのはもうたくさんなのに……」
 「?」

 呟きに金髪の子が首を傾げたが、こっちとしては捨て去ったはずの過去が追いついてきた気分で鬱まっしぐら。
 いつになったら本当の意味での安息が訪れるのか。
 少しばかり神様を呪いたくなる。

 「……よし、帰ろう」
 「え……だっ、ダメです! ジュエルシードを渡してください!」
 「キミに意見は求めてないから」
 「バ、バルディッシュ! フォトン――」
 「ばいばい」
 「あ――」

 背後の空間に沈むように消えた護に、少女は反射的に片手を伸ばし、

 「――ごめんね」

 不意に背後から聞こえた声と、首筋に触れた違和感を最後に、意識が落ちた。










 ≪っ!? フェイト、フェイトっ!!≫

 ……そんな……まさか、一撃で落とされた?
 庭か森かも定かでない中を、最後に反応があった場所へ全速で向かう。

 「フェイト……っ!」

 捉えた視界の先にぐったりと横たわる主人と、その脇に立つ下手人の姿を認めて、一気に血が上った。

 「てんめぇえええええっ!」
 「!」

 勢いのままに魔力を上乗せして、激昂に任せて飛びかかる。左右の爪撃が切り裂かんと打ち振るわれて、

 (堅い……っ!?)

 鋼鉄の如き円球状の障壁に阻まれ、歯噛みし、己の得意とする障壁破壊のためプログラムへ割り込みをかけて、

 「っ!?」

 それが一切の魔力を用いてない――つまり、“魔法ではない”ことに気づいた。
 一瞬、思考が止まり。
 障壁の向こうで、翠色の目が怪訝そうに細められ、少年の指が地を差し、上に跳ね上がる。

 (……!)

 本能的にそれだけを悟って全速退避するアルフの眼前を、ゴッ、と鼻先をかすめるギリギリさで、一抱えはある土塊が弾丸のように過ぎ去った。
 知らず、じっとりと冷や汗を覚える。激していた頭が、瞬間的に冷却された。
 目の前の未知な力を使う少年は、これといった感情を感じさせずに、けれど感心したように口を開く。

 「……今のを躱すんだ……野生の勘かな?」
 「何なんだいアンタ……魔力もなしに、どうやって……」
 「挨拶もなく襲いかかってきた礼儀知らずに答える義理はないよ。……そこの女の子に怪我はさせてないから、好きに持って帰って」
 「………礼儀知らずへの対応じゃないね」
 「降りかかる火の粉は払うけど、その過程で子供を傷つける趣味はないから」

 額面だけ取れば何とも気障なセリフだが、どうにも背伸びしているように聞こえてしまう。
 
 「アンタも充分子供じゃないか……」
 「失礼な。これでも僕は二十歳だ」
 「……はあ?」

 自信満々にそう言うので、思わずあんぐりと。
 その反応がお気に召さなかったのか、少年はむっと顔をしかめて腕組みする。

 「もういいから早く行ってよ。これでも僕は忙しいんだ」

 遊びに、だろうか?

 「……礼は言わないからね」
 「要らない。もう来るなって伝えといて」
 「……そいつは、無理な話だよ」










 「……逃がして良かったの? 護」
 「捕まえたって意味がないから」

 淡白な答えを返す護は、何事か考え込んでいるようにも見える。

 「でも、先にジュエルシードを封印されたら……」
 「元々の所有者はユーノなんだ。口で言って返してもらえない時は……それ相応の行動に出ればいい」

 ……何だかんだで物騒なこと言ってるよね。

 もう怪我も治療したなのはを背負って、歩く護の隣を進む。

 「……なのは並みの魔力量の魔導師と、使い魔。一体、何が目的でジュエルシードを……」
 「? 願いを叶えるためじゃないの?」
 「確かにジュエルシードは発動者の願いを叶えるけど、それだって凄く歪で不完全な形でしかないんだ。だからそうじゃなくて……多分、ジュエルシードの魔力自体が狙いなんだと思う」
 「……魔力、魔力、また魔力か。……物も人も、魔力ばっかりだ」

 その言い方に、何となく引っ掛かりを覚えて、尋ねる。

 「魔力ばっかりだと、何か悪いの?」

 ちょっと困ったように、護は眉根を下げて。

 「そういう意味じゃないけど……他にエネルギーはないのかなって」
 「ミッドチルダは、地球で言う化石燃料や原子力を全部禁止してるんだ。クリーンで安全な魔力を使って、生活を成り立たせてる」
 「……火薬は?」
 「銃のこと? もちろん禁止だよ。管理局で登録すればある程度は許可されるけど……それもせいぜい護身用程度だし、そんな質量兵器使うよりも魔法を習った方が建設的だから」
 「……? 魔法って確か、リンカーコアが要るんじゃなかった?」

 疑問に、頷く。

 「そう。だから優れたリンカーコアを持つ高ランク魔導師は、管理局で重宝されるんだ。魔力量自体が一種のステータスになってて、昇進もしやすかったり、犯罪を犯した場合も管理局に勤めたら、いくらか減刑されたり……色々特権があるんだ」
 「……魔導師という特権階級と、それ以外の非魔導師……」
 「それが、どうかした?」
 「………ううん、何でもないよ」
 「?」










 ……中世の貴族制に似てるかもしれない。

 ユーノの話を聞いて、何となく、そう思う。
 でも確か、ミッドチルダは民主制じゃなかっただろうか?
 異世界と平行世界の違いで話が盛り上がって……そんな話も、したように覚えている。

 ……もっと詳しいことが聞けないと、はっきり断言はできないけど……

 そのうち大きなクーデターや、革命が起きるのではないかと。
 地球の歴史と比較対照して、漠然とした予感が脳裏を掠める。
 ……さておき、今はそんな遠い世界の思考にはまっている場合ではなかった。
 月村邸の玄関まで戻ってきて、見えた人影に、思わず苦笑を漏らしてしまう。
 そろそろと西日が差しこむ扉の前で、アリサ・バニングスが、威風堂々仁王立ち、見るからに待ちくたびれた態度でこちらを睨みつけていた。

 「……遅いっ!」
 「あー、うん、ごめん」

 誠意の感じられない謝罪に眉を吊り上がらせるアリサ。
 その、“今までと全く変わらない”態度に嬉しさを覚えて、ついつい唇が弧を描く。

 「何笑ってるのよ。――っていうか、なのはどうしたの?」
 「見た感じ転んで脳震盪、かな?」

 すぐさま顔色を変える彼女は、やはり親友なんだなと思う。
 自分の親友は、その程度じゃ眉一つ動かさないだろうけど。

 「脳震盪って……大丈夫なの!?」
 「“僕のやり方で”治療もしたから、心配ないよ」

 含む内容に、理解はしてないが納得したらしく、ひとまずは落ち着きを見せる。

 「……先に礼を言っておくわ。アンタのおかげで私もすずかも怪我一つなかった。だから、その……ありがと」

 ありがとう、に、慣れてないらしい。
 そっぽ向きながら、ちょっと顔を赤らめて。
 ……必死で笑いをこらえた。ここで笑ったら殺されそうだ。

 「……どういたしまして」
 「ふ、ふん! それより、もうみんな待ってるんだから、急いで行くわよ!」

 言って、返事も聞かずにズンズン歩き出す彼女、アリサ・バニングス。
 そのなびく金色の髪を、忍び笑いしながら、護は追う。

 ……ああ、全く。説明が面倒だ。

 そんな風に思いながら、けれど、驚くほど不安は少なく。
 最悪の事態は想定しなくて良さそうだと、護はひっそりと、安堵の息を吐いた。
 何とも言えない、安心感に包まれて。





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 有線無線を問わず外界とは完全に遮断されたコンピューターを前に、護は一人、膨大なる電子の渦に己が意識を沈めていた。
 形見たるGストーンとリンクし、神経細胞に情報を通じ、コンピューターの記憶領域に、少しずつコピー。精査、検閲、削除、改変。
 一言で言って、マスタープログラムは巨大なバグの塊だった。
 視覚情報で表すと、かつて木星で浄解した巨大なコアに、カビのようなものがこびりつき、覆い、奥深くまで侵食しているように見える。

 ……長丁場になるね。

 カビのようなバグを少しずつこそぎ落として、コピーして、一々消していいものかどうか確認しながらデリート。デリート。またデリート。遅々として進まない。
 バグ自体は一種類で、消すのもそう難しくはないのだが、原種核は31個あり、それぞれでファイアウォールが異なるのだ。
 つまり、複雑かつ高度なコンピューター31個の、もう壊れかけなぐらいウイルスに汚染されたソフトを、全て一度に綺麗にするのはまず無理だ。
 よって地道な作業が必要になる。
 が、この程度は苦にならない。
 これで再生の力、癒しの力が手に入るのならば、安いものだ。
 できる限り迅速に、けれど他者には一切悟らせず、護は作業を続ける。
 バイオネットとの戦いの合間を縫い、身体は休め、頭は動かし、そしてある日。

 『あー、天海護特別尉官。貴官に一週間の休養を与える』
 『……はい?』

 何故に?

 『……GGGから働かせ過ぎだという抗議が入った。本人が望んだことだと説得はしたのだが、逆にこっちが諭されてしまった』

 諭されないでよ。

 『労働基準法を持ち出されてはこちらも弱い。関係悪化を防ぐためにも休んでくれ。いや、休め』

 命令形ですか。

 さておき。

 『まあ、そういうことでしたら』
 『ちなみに、その一週間の間パソコンに触れることは禁じる』

 は?

 『天海尉官にパソコンを触らせては休養にならないそうだ』

 犬吠埼さんの入れ知恵か……おのれ。

 『そういうわけで、休め。以上だ』
 『……謹んでお受けします』









 と、いうわけで。
 一週間の労働禁止が言い渡された護。
 マスタープログラムの正常化が、ようやく波に乗り始めたときのことだった。

 ……呪っていいですか? 犬吠埼先生。





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お久しぶりです。ゆめうつつです。筆が乗らずに遅くなってしまいました。

2さん あー、あー、そっかヴァルナーか。サイボーグ?というところで首を傾げていました。

俊さん アリサたちへの説明はもう一個後でした。フェイトは……そうですね。弄りましょうか。

ナーナシーさん GSライドは付いてたと思いますよ。それ以降の有人式は付いてないんじゃないかと思いますが。

a-23さん 手加減なしはなし。どちらかと言うと騙しですが。

らぶデスさん ……もしかするとご心配させてしまったのしれません。更新遅くてすいませんでした。筆が進まなかったんです。この話三回書き直してるんです。もっと細かくしてたんですが、ここはもう少しあっさり終わらないと後が困るなー、ということでこの形に。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。

ノリさん ……いえ、戒道は無印に出す予定はないですよ?以前に書いた気がするのですが……。戦力と言ってもどれも直接的な戦力にはなりませんよね。ディスクXは地球上で使うと地球を破壊してしまう可能性があるそうですし、カーペンターズは補修ロボだし、ポルコートは既にただの車だし……まあ、少し考えていることはあるのですが、ネタバレになるのでその時を楽しみにどうぞ。

sinさん ゆめうつつのこのSSにおける見解を言わせて頂くなら、凱があれほど破壊にGストーンの力を使えていたのは、根底に人々を護る想いが眠っているからだと考えます。今の護は、破壊自体が目的になっているのでダメなのだと、そういう設定のつもりです。ご理解いただけたでしょうか?

ハイン2さん はい、免疫ゼロです。華ちゃんとは健全なお付き合いでしたし、それ以後は色恋どころじゃなかったし。……Zに手は出しても、ちゃんと手に入れるのはかなり先ですけど。




あー、そろそろサイコキネシスが効きにくかった理由書かないといけませんね。……次か、その次ぐらいで書けるかな?



[5916]       第五話 護の、正体
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/08/10 08:31
 コツコツコツ。テーブルを指が叩く。
 頬杖して、ノエルの淹れた紅茶の赤い水面を、ぼんやりと眺めやる。
 傍目何も考えてないようで、月村忍はその天才的頭脳を、一連の現象に対する理解に費やしていた。
 自らを平行世界の住人と称する子供――いや、本人の言を信じるなら大人の、天海護。
 恋人曰く、超能力者。異能の使い手。夜の一族とは異なる超常者が一人。

 ……本当にそれだけ’’’’’’’

 邸内のモニター室で見た光景――八枚の羽持つ翠緑の姿。
 ……震えが走った。
 ただの人間よりも本能に生きる一族の血が、震えた。
 恐怖では有り得ず、歓喜には遠く、畏怖としては生ぬるく。
 上手い言葉は見つからないが…………衝撃、としか言いようがない。

 彼は………何者?

 そればかりに思考が溺れる。答えようのない命題に足を取られる。

 「……戻られたようです」

 隣で静と佇むノエルの言葉に現実へ引き戻された。扉が開かれてもいないのにそう言えるのは、聴覚のセンサーが足音を拾ったからだろう。
 恭也は隣で腕を組み、黙然と考えに耽っていた。ファリンは未だ戸惑いが抜けないのか、それともこの部屋の空気をどうにかしたいのか、とにかくオロオロしている。……調度品にぶつかって壊さないでね。
 既に、あの光景の一部始終は監視カメラから映像をパソコンに落とし、全員に見せている。

 ……もう少し時間をかけたかったわね。

 チラリと、忍は斜め前に座す妹へ視線を投げて、胸中でごちる。できればもっと後、本当の意味で仲良くなった頃に知るのが理想だった上、うっかり開けてしまった箱から出てきたのは、妖精を思わせる八枚の羽。

 普通の人間’’’’’では、絶対に有り得ない姿。

 さっきの映像を見てからというもの、すずかは紅茶に手も付けず唇を引き結んで、じっと何かに耐えているような、思い詰めているような、そんな様子。
 姉として、血の繋がった妹の性格を重々承知している忍は、故に溜息を吐く。

 ……優しさは美徳だけれど、過ぎたるは猶…………いえ、元凶の私が言える立場じゃないか。

 むしろ自分の方が何も考えずに落ち込みたい気分だ。が、ことの張本人としての自覚と責任がそれを許してくれない。
 もう一度溜息。幸せが逃げた。ビタミンが減った。悪循環。ギロチン台を登る死刑囚の気分だ。死にそう。いっそリストカットでもすれば気も晴れるだろうか。

 「……のぶ。忍!」
 「―――え? あ、何? 恭也?」
 「……いくら治るのが早いと言っても自傷はやめろ」

 沈痛な面持ちでそんな事を言ってくる。

 「…………もしかして、声出てた?」
 「バッチリと。何でしたら再生いたしますが」
 「……消去で。ノエル」
 「畏まりました」

 …………鬱だ…………

 「し、忍? さっきの護と違う意味で黒雲が漂ってるぞ?」
 「だって恭也…………いくら私でも、紐なしバンジーは嫌なの!」
 「う……む……」
 「実際体験した恭也なら解るでしょ? パラシュートなしのフリーフォールとか生き地獄としか思えないのよ! それを待たされる身にもなって!?」
 「……席なしジェットコースターかもしれんが」
 「……その時の感想は?」
 「……………………う」

 見る見るうちに顔を青く変える恭也。
 鬱、二人目完成。
 そうしてとことんまでテンションガタ落ちの部屋を、天海護は訪れた。










 先頭に立つアリサの開けた扉をくぐると一斉に突き刺さる視線。
 注目されるのは慣れている。オービットベースだろうが国連軍だろうが、歩けば必ず付いて回るものだった。
 が、何かいつもと違うなと、若干の違和感。すぐにその原因へ思い当たる。

 ――く、暗くて重い………!

 空気が。厳密には部屋の雰囲気が。向けられる視線も好奇とかでなくマイナス思念的な。後ろめたいと言うか罪悪感でいっぱいな気配がひしひしと。激しく予定とズレ過ぎな現状に若干目眩。

 「……なのは!?」

 そのうち飽和&バーストしてしまいそうないやーな空気を打ち破ったのは、兄の義務か妹への愛か、見た瞬間顔色を変えて立ち上がる高町恭也だった。

 「滑って転んで気絶しただけですから心配要りません。治療済みですし」
 「そ、そうか……」

 問答も面倒なので先んじて答える。落ち着かせた恭也に背中のなのはを渡して、テーブルへ。

 「それで……」

 主にすずかとアリサに目を配り。

 「どこまで聞いた?」
 「……まだ、何も聞いてないの」
 「アンタの、その……羽の生えた姿を見ただけよ」

 卓上のノートパソコンを示して答える。やはりと言うか何と言うか、きっちり録画されていたようだ。
 気まずげにこちらを見つめるすずかとアリサ。恐らく自己嫌悪的な暗雲漂わす忍には敢えて目は向けず、なのはをソファに寝かせた恭也の険しい視線と、ノエルの感情が読み取りにくい目。そしてもう一人、こちらは逆に感情を表し過ぎているようなメイドの、オロオロハラハラと言った視線を受けて、護は一息。吐き出す。

 「それじゃ……二人が知らないことから話そうか――」










 ………………。

 「………超能力者?」
 「………異世界人?」

 二人、顔を見合わせて。

 「それに――」
 「しかも――」



 「「二十歳っ!?」」



 「綺麗にハモッたね……」
 「ちょ……ちょっと待って。整理するわ!」
 「えっと、えっと………護くんは平行世界の超能力者がこことは違う地球人だから羽が生えてて――」
 「すずか落ち着いて! 一回死にかけて再生した地球人だから子供の異世界人の事故がせいで二十歳なのよ!」
 「いや……うん、二人とも落ち着こう」

 あれ? あれ? と常識を木端微塵に粉砕されて大混乱。

 「だから、僕は平行世界の地球から来た超能力者で! 本当は二十歳だけど死にかけて身体を再生したから子供の姿! そしてこの世界に来た理由は全くの偶然! Can you understand? (解った?)」
 「「イ、Yes, I can! (解りました!)」」

 一気呵成にまくしたてられ二人は敬礼でも返しそうな直立不動。いつ立ったっけ? と護はパチクリ瞬き。

 「ほ、本当の話なのお姉ちゃん!?」
 「えー……まあ、うん。色々非常識だけど、論理の穴はないのよ。超能力に目をつむれば」
 「それじゃ、護の世界には超能力者が普通にいるってこと!?」
 「いない。ものすっごく希少種」
 「「えぇっ?」」
 「あ、そうなんだ。それは知らなかったなー」

 いつの間にか復活していた忍。口を挟まず恭也は傍観。寝かせたなのはに膝枕している。……犯罪?

 「……なのはちゃんは、このことを知ってるの?」
 「誰よりも早くね。高町家の人にバレたのは予想外だったけど」
 「へ? バラしたんじゃなくて?」
 「…………光学迷彩で透明になってるのに気配で察知されたんだ……生半可なセンサーなら余裕で潜り抜けられるのに……。絶対、人間として何か間違ってる気がする」
 「人間否定はどうかと思うけど……なんて言うか……」
 「……ご愁傷様ね。それしか言えないわ」

 すずかとアリサの同情するような目が少し悲しい。……それと、恭也さんは生身でバイオサイボーグ倒せると思う。

 「さっき超能力者は希少だって言ったけど、実際のところ地球に現存してたのは、僕を含めて二人だけなんだ」
 「ふ、二人……」
 「いくら何でも、希少すぎない?」
 「……理由はあるよ。それがまだ誰にも話していない、この話の核心だから」

 核心? と全員が疑問の色。大きく息を吸い込み、護は深呼吸して、なるべく平静を保とうと無駄な努力をしてみる。

 「ロボット、サイボーグ、宇宙ステーション……この世界にとってはまだ夢物語の技術が、僕の世界で既に確立されてる」
 「うっ、宇宙ステーションっ!? それにロボットどころかサイボーグ!?」
 「うん。有人スペースシップでの木星探査も成功してるんだ」
 「………平行世界、だよね? 同じ地球なのに違う世界ってだけで、そんなに科学の進歩に差が出るの?」

 神妙な顔のすずかに問われて、護の表情が、僅かに曇った。
 互いの常識が通じない――異文化間における基本事項だけれども、向こう’’’の、あの戦いを知らないという全員が、この世界が’’’’’、少し…………羨ましい。
 それが一方的な想いであるとは理解しているし、この世界で悲しみを背負っている人にはなじられかねない考えなのだと、重々承知している。それでも尚、この羨望を断ち切るのは、そう容易いことでは、ない。

 「同じ地球……確かに、そう。限りなく相似な関係にある、二つの世界。……その、決定的な差異が、どこから来たのか。何が原因で、この違いが生まれたのか……」

 区切って、一度目を閉じる。この話を最後までして、その結果どうなろうと、受け入れる覚悟を、改めて決める。
 張り詰めた部屋の空気。陰鬱さは消え、次の言葉を、固唾を飲んで待つ彼らと、目を合わせて。

 「生じた違いの原因は………………地球外知性体による、地球の侵略です」










 (侵……略……? しかも、地球外知性体……!?)

 護の口から出てきた余りに不穏な単語。ユーノは知らず、密かに、瞠目する。

 「地球外って……エイリアン!? じ、実在したの?!」
 「か、火星人、とか……?」

 アリサ・バニングスの信じがたいという叫び。月村すずかの不安げな問い。
 ふと、脳裏を掠めるのは、護に聞いたヒーローと悪者の話。正義と悪に分かれた、とても解りやすい構図の戦い。
 当てはめると、しっくり収まる。侵略者とそれに立ち向かう者。話に、誤差がない。

 「信じられないかもしれないけど……僕にとっては現実なんだ。それに、火星人みたいに生易しい敵でもなかった」

 ただの言葉に圧力さえ感じてしまいそうな、重苦しい声音。翳りのある表情。
 否応もなく、それが真実であると、思い知らされる。

 「そう……そういうことなのね………」

 そこへ口を開いたのは、この屋敷の主である女性、月村忍。顎に手を当てて。

 「戦争はこの世で最も大きな科学の発達する理由……。それも、未知の文明との戦いともなれば尚更」
 「確かに戦争は戦争だけど……地球にやってきたのは知性体であれ、生命体ではなかった」
 「え……それじゃ、ロボットみたいな?」
 「うーん……正解でもないし外れでもない。タコ型やグレイみたいな生物と違って……ええと、極端な例え方をするとね、有機物と無機物を原子レベルで融合させてしまうウイルス……かな?」
 「アンタが疑問系使わないでよ……。つまり、生物とその辺の石ころとかが、細胞単位で癒着するって考え方でいいの?」
 「…その表現の仕方の方が解りにくいよ、アリサちゃん。……護くん、もっと解りやすい具体例はないの?」

 確かに、具体的な例を出してもらった方が百倍理解できる。
 話に加われないユーノは、スクライアの好奇心が逸るのを感じながら、耳に神経を集中する。人並み以上な好奇心がなくば、考古学者は務まらない。

 「……少し引くかもしれないけど」

 護は、そう前置きして。

 「そのウイルスは人間に寄生し、その数秒後には人体の構造を書き換え終って、自我も無意識も残さず支配される。細胞の一つ一つが髪の先まで変異して、近くの機械や建物と融合……その身体を苗床に、ウイルスを体内で増殖させた後、最終的に何百キロという範囲に大量にばらまき、ウイルスを拡散させてからようやく、生物としての死を迎えるんだ……」
 「「「怖っ!」」」

 青白い表情で肩を抱きつつ上がる悲鳴の唱和。
 いやでも……本当の話、体験談であるだけに、下手な怪談よりよっぽど怖い……。
 護は、そんな敵と戦ってたのか……ボクたちと、同じ歳で。……護の強さの理由が解った気がする。

 「って言うか無事だったのそんなことあって……あ、無事だったから護がここにいるのよね」
 「それが実はそうでもなくて……一時、地球の七割強がウイルスに侵蝕されたことがあって……」
 「は? 七割? ……え、七割!? アンタ何してたのよ?!」
 「で、でででも最後は元に戻ったんだよね? ね!?」

 お願いだからそう言ってと懇願しそうな勢いのすずかに、護はちょっと身を仰け反らせ。

 「う、うん。ギリギリで間に合ったから。それとバニングスさんの質問だけど、その時地球の全戦力はウイルスの母体を叩きに行ってて……」
 「母体? よそに攻め込む時は拠点防衛を怠っちゃダメじゃないの」
 「……何事にも不測の事態っていうのがあるんだよ。まさか原種がクリスタルから復活するなんて思わなかったし、Zマスターのことは知らなかったし……」
 「意味不明な固有名詞使われても困るんだけど? 私たちにちゃんと解るように言って」

 その言い方に、何かカチンと来たらしい。
 むっ、と護が視線に険を込めて。

 「じゃあ解りやすく言うけど、母体を含めた敵全部が木星で力を蓄えてるっていう情報が入ったから、それにこちらの全戦力を投入して一大決戦に持ち込んだの! そしたら倒したはずの敵が生き返って、合計三十一種ある母体が合体融合巨大化! 木星とほとんど同じサイズの巨人になって反撃されたんだよ!」
 「合体に巨大化? どこのアニメよそんなの! いくら何でも信じられることと信じられないことがあるわよ!」
 ≪え、信じてたんじゃないの?!≫

 思わず念話で突っ込んでしまったユーノだが、魔導師でないアリサに届くはずもなく。また、今まさにヒートアップの真っ最中の護にも聞こえることはなく。

 「どうせバニングスさんには別世界の無関係な話だから信じろ何て言わないけどね! でも僕にとっては過去の一部で絶対不変の事実なんだ!」
 「事実だろうが何だろうが荒唐無稽にも程ってものがあるわよ! アンタ実は異世界の超能力者ってだけで、二十歳だとか宇宙人と戦っただとかその辺全部嘘なんじゃないの!? よくあるでしょ、子供がくだらない作り話して自分はこんなに凄いんだよって自慢するやつが!」

 あああああ、とこちらも多分ヒートアップして血圧上昇中っぽいアリサの不用意発言に頭を抱えるすずか。
 親友同士三人の中で一番苦労性な気がするなとユーノは若干逃避な気分。こんなギスギスした空気は肌に合わないなのは早く起きて一緒に逃げよう。

 「嘘? 作り話だって!? ――ふざけるな!! 一歩間違えたら地球はとっくに滅んでたんだ! 僕のよく知ってる人も死んじゃったし、僕自身も死にかけた!」
 「何同情でも誘いたいわけ? そもそもアンタの話前提がおかしいのよ! 仮に言ってることが本当だとして十一年前のアンタはたったの九歳よ!? そんな生き残るかどうかも解らない戦場に連れてってもらえるわけないじゃない!」

 能力があったら子供でも戦場にでるのは普通――と思いかけて、ここが管理外世界であることを思い出す。
 常識や慣習の違いから来る認識の誤差だ。

 「敵はウイルスだって言ったよね?! 僕の超能力の真価はそのウイルスに対する抗体なんだ! 全宇宙探しても治せるのは僕だけしかいないんだ! 第一僕の超能力を元に開発されたGストーンがなかったら、いくら強力な兵器を造ったところで吸収されて利用されるのがオチなんだからね!!」
 「何よそのGストーンって!」
 「このペンダントがGストーンだよ!」

 凄絶な罵り合いとも付かない舌戦に口も挟めなかった面々であるが、その言葉に、はっと護の示す一見大きなエメラルドにしか見えない宝珠へ、釘付けとなった。
 数限りない言葉の乱射から一転、落ち着かなくなるような沈黙が、満ちて。

 「……形見だって言ってなかったかしら?」
 「形見だよ。僕の生まれ故郷の物で、手元にあるのはこれ一つっきり。僕が生まれて、その抗体としての特性を調べて、対策をみんなで練って………でも、一年もしない内に……お父さんもお母さんも、故郷の何もかもが、ウイルスに滅ぼされた……」
 「……滅ぼされた? 地球は無事だったんでしょ? 話が矛盾してるじゃない」
 「………少し、言い換えるよ。僕が生まれて一年も経たない内に、僕の生まれた星は滅んで’’’’’’’’’’’僕は地球へ送られた’’’’’’’’’

 一瞬、意味が解らないような顔をする、アリサと、すずかと、忍と、恭也と、ユーノと。
 そして、言葉の意味を、違えることなく理解し、呑み込むにつれて。
 絶句、を表す表情を、強張らせた。

 「……………………まさ、……………か………」

 掠れた声を、しぼり出すアリサへ向けて。もう躊躇をせず、護は、頷き。

 「僕はそのウイルスと同じ星系で生まれた、地球外知性体……」

 苦笑のような、寂しげな微笑で。

 「……宇宙人、だよ」

















 









<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<

 海に浮かぶ人工島、Gアイランドシティを取り巻くような小高い丘。
 晴れ渡った空の下を、海に背を向けて階段へ足をかける。
 初めてここを訪れたのは、木星決戦の後だな、思い出を振り返り。
 この階段を登ったメンバーで、今まだ地球に残るのは自分だけだ、と、しこりのような寂しさに、哀惜を。
 カツン、カツン。登り切って、広がるのは一面の石柱群。平日の朝だからか、都合良く、人影はまばらだ。
 砂利を踏む音、風の鳴る音だけを共にして、一つの石柱の前で足を止める。

 『命日には少し早いけど……次は、いつ来られるか解らないから』

 携えた花を捧げて、目の端に涙を浮かべながら、笑って。

 『ただいま……お父さん、お母さん』

 墓碑を前に、両手を合わせた。





 ……バイオネットとの戦いは、まだ続いています。
 お父さんもお母さんも、きっと心配していると思います。子供の出る幕じゃないって、ゾンダーや原種みたいに、僕じゃなくても良いんだから、戦う必要はないんだって、話すことができたら、きっと言うだろうなって、思ってます。
 でも、これは僕の責任です。十五にもなっていない子供だけど、世界がこんな風になった原因の一端は、間違いなく、僕にあるから。誰に何と言われようと、この考えを改める気はありません。全部じゃなくても、僕に責任があるのは確かなんです。
 だけど、赦して欲しいなんて言うつもりはありません。原因はあくまで一端。なのに僕が全部悪いみたいに謝るのは、おかしいと思うからです。
 だから僕は、バイオネットを止めることで、僕なりの贖罪にするつもりです。その後のことは……解りません。でも、困ってる人を助けていけたらいいなって、そう思ってます。
 次に来るのは、いつになるか解りませんけど……また、来ます。
 それじゃ、お父さんお母さん……





 『……行って来ます』

 祈り、瞑目から覚めて、その場を後にした。
 次に目指す場所は、当然。
 重たい足を引きずって、向かう場所は。
 もう一つの、お墓。

 『……………………………………』

 努めて無感情と無表情を装いながら、花を添え、線香をあげ、ひしゃくで水をかけて。

 『…………………っ』

 堪えきれなかった雫がこぼれ落ちる。
 過去は変わらない。
 何を為そうと、それは不変。
 絶対の法則。
 悠久の定理。

 『……………』

 溢れ出たものを拭う。
 今なら、猿頭寺さんの気持ちも理解できる。
 愛する人を失って、その人が、仮初めであれ命を持って、目の前に現れたら。

 『………だけど』

 遊星主の創造を否定した自分には、レプリジンを肯定する権利を持たない。持つことを許されない。
 蘇生は創造に属する生命の禁忌。
 過去を想い、記憶を愛で、思い描いていた未来がどれだけ素晴らしいものだろうと。
 この世の始まりから続く法則にメスを入れては、ならない。
 それが、心を支える大黒柱であっても――――










 でも、










 会いたいよ、華ちゃん。










>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
………はっきり言います。
説明疲れるっ! ものすっごい大変でした! 書き上げましたが。ああ……眠い。十二時前だけど、ゆめうつつは眠いです。


ねろさん これはご丁寧に、ありがとうございます。はい、護病んでます。病みまくりです(笑)しかも組織嫌いに育ててる(?)なので多分管理局とも相性悪いと思います。それとP.Sですが……まだ確定していません。リリカルってヒロイン格多すぎるんですよね……。ハーレムって余り理解できないので苦手なのですが……どうしましょう? といった、困り具合です。はい。

a-23さん 思い出しましたか。別に意図してそう書いたわけもないのですが、言葉の内容と帳尻合わせようとしたら勝手に……。

俊さん あ、やっぱりですか。ですよね、弄った方が面白いですよね! でも自動人形、“新しい”のを造るのは考えてませんでした。

ぺんたさん そんな便利な魔法があったら楽でいいですね……勉強の必要性が消えてしまう。でもそうなると、得た知識や経験をどう応用できるかで社会的立場が決まりそうですね。

sinさん んー……確かに過去編、“今は”きつくないですね。(と、敢えて含みを持たせてみる)無責任艦長は名前だけ知ってます。偶に小説の背表紙を古本屋で見かけてましたから。

もこすさん あー、まあ、そういう意見の方もいらっしゃいますよね。これにお答えするとちょっと長くなりそうですので、下に書いてあるのをお読み下さい。

jannquさん おや、jannquさん。どうもです。水鏡は頑張って書いてます。遅いですが。でも次の番外編は面白くなりそうですよ。(こっそり極秘情報をお教えすると、番外は我愛羅メインの予定♪)TYPEMOONのは出てすぐ読みました。……感想は入れませんでしたが。うん。ネタだけあって大した無茶苦茶加減でした。

らぶデスさん ありがとうございます。そう言っていただけるとゆめうつつも嬉しい限りです。しっかり書いてくださる感想を見ると。喜びもひとしおです。これからも頑張ります。

ハイン2さん フキましたか(^^)どうもです。貴族制は思いつきだったのに、こうも納得してくれる人が多くて驚いています。



……さて、こんな物語をゆめうつつは書いているわけではありますが、このお話の基礎、骨格部分(護の魔改造)を思いついたのはいつだと思いますか?実はテレビ放送があった直後だったりします。当時小学校の低学年だったゆめうつつはその頃から厨二病を発症していたようです(笑)まあそんなわけで、田舎に住んでいるのもあり、しかも情報の収集が苦手だったりして、ドラマCDやFinalの存在を知ったのもここ数年内なのですよ。……ちなみに、スパロボはしたことがありません。アニメは全部見ました。でもディスクZは持ってません。小説は獅子の女王を除いて。マンガも集めてますけど、古本屋でも余り見かけないのが残念……。
とまあ、なかなかに偏っているゆめうつつですが、ガオガイガー好きなので時間かかってもいいから完結させようと思っています。……特に、今夏休みで免許取りに行ってるので遅くなるかもですが。

ではでは皆様、ごきげんよう。また会う日まで。

(修正しました)



[5916]       第六話 心は知れる 心は知れず
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/09/30 20:57
 淹れ直したばかり、香りが湯気と立ち上る紅茶を注いで回る。
 UMA実在以上の衝撃話を聞かされていながら、何事もなかったように振る舞えるのは、メイドという職業のプロ意識故だろうか。

 「ありがとうございます」
 「いえ……、仕事ですから」

 それでも、礼と共に嬉しげな微笑を向けられると、どう返してよいものか困ってしまう。
 人の姿をし、感情や意志があれど、この身は自動人形。
 そして人と変わらぬ姿と心を持つ、外宇宙の高度知性体。
 相似で繋げないこともない彼の目に、自分はどのように映るだろう。
 人として、見てくれるだろうか……?

 「……あ、美味しい」
 「産地直送の、厳選した茶葉です」

 ………色々と時になることはありますが。
 味覚は宇宙人も同じなのですね、と、ノエルはまた一つ、学習する。










 「……信じる信じないは置いといて、もう大分時間が下がっちゃったわ。今日はここまでにしましょ。……ノエル、ファリン、車の手配を」
 「畏まりました」
 「はいっ、了解しました! ――あ、お姉様、待って下さい!」

 先に行く姉をトテトテ追いかけるファリンが、直後何もないところですっころんだ――と思いきや、何故か重力に逆らって空中で停止。ふわりと足から、床に着く。

 「慌てないで、気を付けて」
 「! ……は、はいっ!」

 今度は転ぶこともなく、安全運行を成し遂げるファリンを見送って、アリサはその勝ち気な瞳を興味深そうに護へ向けた。
 忍の言う通り、このまま真偽を確かめるべく議論し続ければ、傾いている夕日は沈んでまた昇るまでかかるかもしれない。ならば、建設的な疑問へ立ち返った方いい。

 「……今のって、P.K? 何にしても便利そうね」
 「便利だけど、人前では余り使えないから……こっそりとしか」
 「ふーん……まあ、いいわ。それより、一つ聞きたいんだけど」
 「?」

 カチャ。味わっていた紅茶を下ろして、アリサが訊ねる。
 見た感じ、頭に血は上っていない。ただ真剣な、面持ちで。

 「丁度なのはが寝てるから聞くけど………最近なのはが元気ないのって、アンタが原因?」
 「っ、アリサちゃん……!」
 「すずかは黙ってて。これは何があっても聞いておかなきゃいけないことなの」

 制止の声を上げようとする親友を、逆に制止して。
 アリサ・バニングスは、天海護を射竦めるように、睨む。

 「時期的に考えて、アンタがなのはの前にやって来た時からなのよ、護」

 確証はない。でも確信はある。違う、と言われても、それはそれで構わない。
 また、親友に聞いてみればいいだけだから。

 「答えなさい。事と次第によっちゃ、とっちめてやるわ」

 三人の中で、一番感情が激しいのは、他ならぬアリサだ。
 感情というのは、何も怒りに限らず、全般に通じる。
 そう……例えば、友情。

 「…………」

 睨め付ける、と言ってもあながち間違いでもない、強烈な視線を、受け。
 発言権のないユーノの、緊迫した気配を、肌で察し。
 護は、

 「ノーコメント」

 茶化しも、冗談めかしもせずに。
 無表情に言い切った。

 「何……ですって……?」

 自然と低く、低く。
 冷え切った少女の、声音が。

 「もう一度だけ、聞くわ。――アンタが、原因なの?」

 答えるボーイソプラノも、また。
 情感の欠片も、消え去って。

 「ノー、コメント」

 同じ単語を繰り返す。

 「っ……!」

 軋むほど、張り詰めた空気。
 先刻と違った意味で、声をかけられない。
 観客は、呼吸さえ憚り、潜め。

 「………僕は、」

 怒りに頬を紅潮させる少女と、対峙する少年の、静かな声に。
 引き込まれ。

 「今……」

 答えではない答えを、待ち。
 射殺さんばかりの、目に、何を感じた風もなく。
 赤い口唇が、本心を紡ぐ。

 「……嘘を、つきたくない」










 バン! と荒々しく、アリサが扉を開けて部屋を出ていった。
 一瞬迷った素振りを見せて、護に頷かれたすずかはそれを追いかける。

 「アリサちゃん!」

 呼び止めるまでもなく、親友は止まっていた。
 散らばっているバラバラの扉と調度品の破片が、一カ所に寄せ集められただけの玄関で。
 より正確には、玄関ホールの真ん中。そこだけ汚れもせずに、綺麗なままの、床の上で。

 「あの、バカ……っ」

 破片一つ見当たらない床を、親の敵でも見るような親友に、かける言葉が思い当たらず。
 その、すぐ後ろまで、歩み寄る。

 「何も知らないって…何のことか解らないって、言いなさいよ……!」

 そうしたら。そうしたら。
 安心して、また笑い会えるのに。
 噛みしめた唇から、そんな想いが見て取れて。
 
 「……嘘、つきたくないって」
 「聞いたわよ……」
 「……言えない理由が、あるみたい」
 「解るわよ……!」
 「……護くんは、ちゃんと、私たちのこと考えてくれてるね」
 「……………」

 返事を寄越そうとしない少女に、すずかはくすりと笑む。
 嘘で固めて、安心させることは、きっとできた。
 でもそれをしなかったのは、後で必ず、嘘はばれるから。
 もう一人の親友との間に、例え小さくても、溝を造りたくなかったから。
 言えない事情があるんだって、はっきり示してくれた。

 「あんなにきっぱり、答えられないって言われたら……もう聞けないね。護くんにも、なのはちゃんにも」
 「……隠し事なんて、されたくなかった」
 「うん」
 「なのはやすずかとは、喧嘩したくない」
 「…うん」
 「でも…………相談ぐらいは、してもらいたいって…思う」
 「……そうだね。でもなのはちゃん……護くんも多分、頑固だから」
 「………ほんっと、あったま来る。これじゃ何もできないじゃないの」
 「だったら――」
 「待つわ。あの二人が話してくれるまで。……首が回らなくなって、泣いちゃっても知らないんだから」

 ……助けては、あげるけど。
 最後にそう付け足す、親友の素直じゃない心根に、すずかは、花のような笑みを咲かせた。
 本当に、なんて人だろう。
 まだ二週間も経たないのに、あの人はちゃんと解ってる。
 金色の親友が、とても優しい女の子だってことを。
 解って、くれてる……。

 「あらら……実際に見てみると酷い壊れようね」

 そんな折、気軽な調子で家主が扉の影から姿を見せる。
 ノエルが全速で掃き集めて尚散乱する木屑と石片とを眺め、あーあと嘆息。

 「…聞いてたの? お姉ちゃん」
 「最悪フォローする必要があったもの。仕事全部、すずかに取られちゃったけど。……護くん、もう耳塞がなくていいわ」
 「「え?」」
 「貴女が無理矢理引きずってきたせいなんですが……」

 襟首掴まれて文字通り引っ張り出された、幾分不機嫌そうな護の姿に、二人して硬直する。

 「――まっ、まっ、護! アンタっ!」
 「聞いてない、僕は断じて何も聞いてない! 安心とか助けるとか一言も!」
 「しっかり聞いてるじゃないのこのバカーっ!! ちょっとそこに直りなさい!」
 「忍さん、連れてきた人が身代わりになるのは当然ですよね!?」
 「待って待って! アリサちゃんその花瓶は時価三百万って言うか振りかぶらないで!!」
 「二人とも同罪っ! 大人しく私の怒りを喰らいなさいっ!!」

 わーわーぎゃーっ!
 俄に騒がしい追いかけっこが勃発し、一人置いてかれた形のすずかはどう収拾すべきかオロオロと。
 だけれど、これでいいのかもしれない。いつまでも堅苦しい空気だと、仲直りのきっかけも掴みにくいものだから。

 「そこ! 逃げるな!」
 「殴らないでくれるなら逃げないよ!」
 「じゃあ話信じてあげるから殴らせなさいっ!」
 「何その不条理!? わっ、とっ!」
 「こら、空中は反則よ!」
 「無茶言わないで!」

 ……うん、仲直りだと思いたい。










 「ぜえっ……はあっ……や、やっぱり………超能力って、反則……よ」
 「そんなこと言われても……」

 息も絶え絶えながら眼光衰えないアリサの気概に、少しばかり拍手を送りたくなる護。途中で奪った花瓶を元の位置に戻す。
 迎えに来た黒塗りの車に寄りかかり、息を整えながらその様子をアリサが見つめていると、護はおもむろに崩れたホールへ左手をかざした。
 その先から紫の光が溢れ、瓦礫が壁へ、木屑が扉へ、瞬く間に、修復していって。

 「な………………何の超能力よそれ?! まさか時間操ったとか言わないでよ!?」

 一同の驚きと疑問を代表したアリサの叫びが。

 「そんな大した物じゃないよ、物質の形状記憶を解析して原子レベルで再結合させただけだから」
 「ご、合金でも繊維でもないのに……」
 「充分大した物だから謙遜するなっ!」
 「これは……凄いわね。修理費が浮いちゃった。恭也知ってたの?」
 「いや、俺も今初めて知った。……護、その力は人間にも適用するのか?」
 「あ、はい。即死でない限り物理的な損傷は一瞬で治せます。病気とか、そういうのには効果がありませんけど」

 やはりとんでもない代物だと、彼らは認識を新たにする。

 「……まあ……いいわ。良くないけど、突っ込みどころ多すぎるけど、まあいいわ。取り敢えず、信じてあげる」
 「無理に信じる必要は――」
 「私が信じるって言ってるのよ、文句ある?」
 「アリサちゃん何で上から目線……?」
 「そんなことはどうでもいいの!」

 ぴしゃりと言ってのけるアリサの目は、護に固定されて。
 これまでの剣呑が嘘のように、落ち着いた声音で告げる。

 「アンタの正体が宇宙人で、異世界人の超能力者だったとして、人の名前を意図的に間違える嫌みな奴であっても、」
 「悪かったね……」

 無視して、続ける。

 「私の挑発に流されないで対等の議論ができた天海護という“人間”を、私は信じられる。その代わり、私たちに隠してる事を護が全部吐くまで謝らないから、そのつもりでいなさい」

 一方的な、命令に近しい断言だった。
 暴言とも取れる、勝手な結論だった。
 でもそれは、つまり。
 宇宙人である自分と、これからも関わり合うということで。

 「……怖がらないんだね。向こうの地球だと、超能力者ってだけで怖がる人が居たんだけど」
 「偏見で怖がるようなクズと一緒にしないで。言ったでしょ?」

 金色の髪をかき上げて、アリサ・バニングスは呆れたように、言う。





 「アンタのP.K、便利そうねって」





 「…………」

 さしもの護も、これには返答に窮した。
 完成された論理思考と言い、“敢えて相手を怒らせる”議論と言い、自分の知る小学三年生とは似ても似つかない。
 なのはからは学力優秀だと聞いてはいたけれど、それでは少し説明が付かない。
 そう、これは天なる才覚。
 幼少より不断の努力を続けた才器。
 もしかすると、将来この少女は。
 世界の一角を、担うようになるのかもしれない。

 「……バニングスさん、プログラミングに興味ある?」
 「プログラミング……?」

 唐突な話題の転換。どういう意味かと、アリサは眉を上げ。

 「良かったら、教えることができるけど」
 「…………あのね、そんなことの前に、なのはが一刻も早く元気になるよう取り計らいなさい」

 今は聞く気にもならないと、一蹴する。

 「それからなら、考えてあげるわ」
 「充分。片付けてから、答えを聞くよ」
 「勝手になさい。……ああそれと、最後に」
 「なに?」

 車へ乗り込む直前で、振り返ったアリサが。

 「バニングスさんバニングスさんって鬱陶しいのよ。これからは私のこと、“アリサ”って呼び捨てにしなさい。なのはみたいに」
 「……え?」
 「鮫島、出して」
 「はい、アリサお嬢様」
 「あ、ちょっと待って! バニングスさ――」

 と、呼び止める間もなく。
 黒塗りのリムジンは発進して。

 「……何で?」
 「ふふふ…」

 訳が解らないといった表情の護に、すずかはこらえきれない笑みを漏らす。

 「今のはね、“ちゃんとした友達になりましょう”って合図なの。ちょっとした知り合いとか、そういうのじゃなくて」
 「友達……」
 「うん。だから、これからは私のことも、すずかって呼んでね?」
 「………」

 どう答えたものか、解らずに。
 今日はそのまま、お開きとなった。










 ノエルの運転する車が、門の向こうに見えなくなってから。
 月村すずかは、今まで張っていた精一杯の笑顔を、解く。

 「……あんまり悩んじゃダメよ、すずか」
 「…………うん」

 元気のない妹の返事に、忍は、だからもう少し後が良かったのだと、後悔を胸に秘める。

 「……すずか。話したいのなら、好きにして良いわ」
 「え…?」
 「私たちも彼のことを知っちゃったし……掟だ何だって言っても、こればっかりは例外に当たると思うの」
 「…………」
 「だから後は、貴女が考えて、貴女の意思で、貴女の思うようにするの。……いい?」
 「……うん」

 他人の力を借りて、解決できないことがこの世にはある。
 自分一人でしか、決着を付けられないことがある。
 悩む妹の肩を抱いて、月村忍は、それが本当に、歯がゆかった。










 「ふにゃ……あれ………私の部屋……?」
 「あ、やっと起きたね」
 「護くん……?」

 ぼやけた視界に、パソコンと向かい合う護くんを認めて。
 何で寝てるんだろう、と記憶をあさった、瞬間。

 「っあああああぁーーーーっ!!!」

 絶叫に家が震えた。

 「まもっ、護くんっ! あの子っ、ジュエルシードはっ!?」
 「ひとまず落ち着いて、なのは。全部問題なく片付けたから」
 「そ………そうなんだ……良かった」

 けれど、口ではそう言って、なのはは溜息を。

 「……また、お世話になっちゃったね」
 「気にしないで。これでも、結構お節介焼きなんだよ? 僕」

 それは、そうかもしれない。
 だからと言って、ずっと頼りっぱなしというのも……嫌。

 「…ユーノから話聞いたよ。実際に僕も、あの子とは少し戦ったけど……多分、また戦わないといけなくなるよ」
 「ジュエルシード…探してたよね。……なのはたち、みたいに」

 護くんの言う通り、きっとまた、出会って、戦うことになる。
 ……そして私は、戦って、負けて…気を失って。
 アリサちゃんやすずかちゃんにも、迷惑かけちゃった……。

 「……護くん」
 「?」
 「護くんは、あの子に勝ったの?」
 「……勝ったと言えば、まあ勝ったけど……」
 「…?」

 珍しい。護くんが歯切れ悪いなんて。
 そしてまた、ばつが悪そうに。

 「その、ほとんど不意打ちで気絶させたから……」
 「……え?」

 ひ、卑怯!?

 「……女の子を傷つけるような真似したくなかったし、時間もなかったし」
 「あ……」

 そっか。そうだよね。優しい護くんが、怪我させたくなかったのは解る。
 時間がなかったのも、他のみんなが心配するといけないからだよね。

 「……正面から戦っても、勝てた?」
 「? ……うん、勝てたよ」
 「それじゃ……護くん」

 ぴしっ、とベッドの上で正座して。

 「なのはに、戦い方を教えてください」
 「絶対ヤダ」
 「――えぇっ?!」

 ま、まさか即答されるなんて……!

 「あのねなのは。魔法を使って戦うという意味が、ホントに解って言ってる?」
 「……?」

 解らなくて、首を傾げると、護くんは指を立てて滔々と。

 「魔法って言う言葉のオブラートに騙されちゃダメだよ。断言できるけど、魔法はミサイルより遥かに物騒な“軍事力”なんだ」
 「ぐ、軍事力?」
 「詳しく説明しても、今はまだ実感が湧かないと思うから言わないけどね……」

 パタン、とノートパソコンの蓋を閉めて、護くんは立ち上がり。

 「魔法を使った戦い方って言うのは、人の“殺し方”っていうのと同義なんだよ」

 部屋から出る寸前で、肩越しにこちらを振り返って。

 「僕は、なのはに拳銃の撃ち方なんて教えたくない」

 酷く冷めた、哀しげな声音で。
 ドアが閉められた。

 「………」

 何も言えずに、呆然としていると。

 ≪……でも、どうしてもって言うなら≫

 やれやれと、そう聞こえるような声が、脳裏に。

 ≪“ケンカ”の心構えぐらいは、教えてあげる≫

 「っ……」

 本当に、捻くれてる。
 でも。
 本当に、思いやってくれてる。

 「………あり、がとう」

 声と、念話と。
 両方で、お礼の言葉を。
 そうして、階段を下りる足音で。
 今日は終わりだって、告げられた。

 「……ユーノくん」
 「……軍事力って言うのは、間違いじゃない。犯罪者は魔法を使って悪いことをするし、管理局は魔法を使って、それを鎮圧して逮捕する。だけど、デメリットばかりでもない。医療魔法のおかげで、この世界じゃ治らない病気の治療もできるんだ」

 小さなベッドで、ハラハラと成り行きを見守っていたユーノに、説明され。
 そういうものなのかと、釈然としないながらも、納得する。

 「でもなのは、すごくよく寝てたね。もう夜八時だよ」
 「え……も、もうそんな時間!?」
 「疲労が溜まってたんだろうって、護が言ってたけど……あ、下でなのはのお母さんが晩ご飯用意してくれてるよ」
 「あ、ありがとユーノくん! 私、ちょっと行ってくるね!」

 ドタドタと、駆けていき。
 しばらく時間が経った後で、悲鳴とも絶叫とも付かない声が、また。

 「……まあ、驚くよね。護が宇宙人だなんて知ったら」

 説明したのは、恐らく恭也さんだろう。何だかんだで、ボクらの次に護と関わってる。

 「……有機生命体に取り憑き、増殖を続けて、最後は星さえも滅ぼしてしまう機械の種子……か」

 二人っきりで、もう少しだけ詳しい話を護から聞いたけど……正気の沙汰じゃない。いや、そもそもプログラムのバグが暴走したものらしいから、正気じゃないのか。
 それのせいで、護の故郷は滅び去った。生き延びた先が並行世界の地球……第97管理外世界と酷似した世界。そこで種子に対して反物質に相当するGストーンを使い、辛くも勝利を得た。

 『その種子が再び暴れ出さないように、生まれついての抗体である僕が、こうして誰の手にも渡らないようにしてるんだ』

 護はそう、説明した。でも、疑問は残る。
 抗体とウイルスを混ぜて、護は平気なのだろうか?
 ……解らない。いくら魔法がプログラムの一種だからって、考古学が専門のボクには知りようがない。
 一つだけ、言えるのは。
 何かまだ、隠しているということ。
 十一年間もの空白が、説明されていない。
 しかし。
 天海護という次元漂流者が明かした過去の断片は、それだけで既に世界規模の話で。

 (ボクだけで片付けられる問題じゃない……)

 飛び散ったロストロギアの回収とはスケールが違いすぎる。妨害さえなければ、なのはのように優秀な魔導師一人で事足りる問題とは、比べるべくもない。
 そこから派生した結論へと、ユーノはイコールで結び。
 護だけに墓守のような役目を押しつけるべきでないと、道徳的善意を以て判断する。

 (そう……例えば護の世界みたいに、管理局へGストーンの技術を提供すれば、管理局がそのウイルスを封印できるはずだ)

 ただの一個人と巨大な法的機関では、どちらが信頼に足るかなど議論も無意味。
 もし万が一護の身に何かあって、抑えられているウイルスが活動を再開したら……果たして、次元世界一つや二つの被害で済むだろうか。
 薄ら寒い、しかし決して妄想とは言えない想像に、ユーノは身を震わせる。

 (使命感みたいな気持ちを護は持ってるけど……それだけじゃダメだって言ったのは、護自身だ)

 だから今度は、自分が説得するべきだろう。
 しかし、現状で護を説得できるとは思えないのも確かだ。人生経験の差はそれだけ大きい。

 (まずは管理局に話をして、向こうの同意を得る。危険なロストロギアの回収は管理局の仕事でもあるし……それから、一緒に護を説得してもらおう。護だって、いつ暴走するかも知れないウイルスを取り除けるなら、きっと賛同してくれるはず)

 あやふやだったいつかの思索に具体案が定まって。
 ユーノはその時に備え、これまで得た情報の整理を始めた。
 知らぬ仏より馴染みの鬼。
 鬼が仏の振りをしていれば、尚更だ。










 「……ここか」

 自室に戻った護は、先ほどから見ていたパソコンに地図を映して、一人得心する。
 断続的に、地図の上を走る光点。それは遠く、山一つ隔てた隣町まで続いていた。

 「いくら戦闘訓練受けてるからって、まだまだ経験不足だね」

 余裕綽々な笑みで、呟く。

 「仕掛けた“発信器”に気づかないなんて……ね」

 最後に消えた光点が示す街は、遠見市。
 歴戦の勇者の小細工に、フェイト一行の隠れ家はほぼ特定されてしまっていた。

 ……小賢しい? 効率的だって言って欲しいな。

 誰にともなく、内心でそうこぼす護だった。





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 親友との再会は、予期しない全くの突然だった。
 夏休みも終わりに近づいた、夕焼け色に染まる小さな公園のベンチで、彼は目深に被ったワークキャップも怪しく、分厚い本を開いていた。

 『…………』

 変装、のつもりらしい。そのくせ首のペンダントを隠しもしないところが謎ではあるが。
 まあ、だからこそ天海なのだろうと、多少失礼ながらも諦める。

 『……あ、戒道!』

 そうこうする内に、気づいた天海が駆け寄ってきた。

 『バイオネットを放ってどうしたんだ? 天海』
 『あはは……それが強制的に休暇取らされちゃって』
 『……君はワーカーホリックの気があるから、強制で丁度いいだろう』
 『あー、戒道ったら酷いんだー』
 『正論とはそういうものだ、天海』

 全く……こういう時の子供っぽさは抜けないな、なかなか。
 ……半分は、無理にそうしているのかもしれないが。

 『何を読んでたんだ? ……“ID5に学ぶ戦術眼”?』

 確か、防衛庁の特殊部隊ではなかったか? かなり昔の。
 どうしてこんな物を?

 『パソコンも休暇にならないからって禁止されちゃったから……いい機会だし、色々考えてみたんだ』
 『P.Cの禁止は妥当だが……何故戦術眼?』

 訊ねながら、ある日の思考が蘇る。

 『僕の力は強力だけど、局所的な一兵士の力でしかないんだ。電子戦で役に立っても、やっぱり駒としてしか働けない。だから自分で作戦を立案、実行できる能力を手に入れるべきだと思って』
 『…………』

 ……ある日の思考、指導者の考え方。
 予想していたことが、現実になっただけ。
 さしたる驚きはなく、けれど“血”の有り様に、感慨を覚える。

 『それは……軍の中で出世するということか?』
 『そう…なるね。身分とか、お給料とかどうでもいいんだけど、そうじゃないと指揮権限が持てないから。……昇進の話は、結構前からあって、今までは断ってたんだけど……』
 『………気を付けろ、天海。組織の中は、どこも汚濁にまみれた醜い権力争いがひしめいている』
 『言われなくても、解ってるよ。もう十ヶ月、僕はその中に居たんだから。……嫌ってる人が居ることぐらい、知ってるよ』
 『……そうか。なら、僕から言えることは何もない。応援するよ』
 『…ありがと、戒道』

 はにかむ天海の足元。
 バケツとひしゃくに目をやって。

 『……墓参りには、もう行ったみたいだな』
 『………………うん』
 『………今日、泊まる場所は決まってるのか? 何なら、うちに泊まっていくといい。母さんもきっと喜ぶ』
 『……それじゃ、お言葉に甘えようかな。戒道のおばさんと話するのは、久し振りだね』
 『ああ……そうだな』

 ……天海の、微笑。
 繕っては、いない。
 両親の方は、吹っ切れたのだろう。
 ならば。
 先ほどの、返事の間は。

 『……………………』
 『戒道?』
 『……何でもないさ』

 ……心の傷は、未だ癒えず………か。

 ………。

 治療薬はこの世のどこにも……ないのかもしれない。





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こーんばーんわ~……ゆめうつつにございます。
今日はちょっと、皆様に質問が。
や、そんな大したことじゃないですよ?ただ物語の進行上、夜の一族の掟とやらを具体的に知る必要が出てきまして。
……とらハ詳しくないのでネットも調べたのですが、具体的な言葉を見つけられずに断念。
どなたか、浅学なゆめうつつに御教授下さいませm(_ _)m

では、感想返信を。

ルファイトさん、ユーノ密告してしまいそうです。大真面目に。ホントどうしようかと。

俊さん、いつも誤字報告ありがとうございます。修正されてない部分は、そういう仕様です。ご容赦下さい。……パソコン使っての映像を見せるのは一案にあったのですが、書き進める途中で没にしました。長すぎるんです、はい。でもそのうちやる可能性は大。後……ノエルの改造でちょっと面白い遣り取りが浮かんでいたり……

無音さん、スレまくりですよー。過去も酷いですよー。原作だったら明るいんですけどね。……以前その方向で考えたこともあったのですが、どうも活躍できそうにないので没に。

jannquさん、なのはの説明は流しました。二度ネタは面白くないので。……衛宮のジェネシック?うーむ……鞘のアヴァロンでどうにかならないでしょうかね? もしくは剣を生やして装甲化(笑)

sinさん、前話で大体の方向性が決まったおかげで今回は早かったです。……自戒は知りませんが。……まあ、護の思考は若干幼くなっているということでご容赦を。

a-23さん、大人気ないはないですけど、ちょっと精神年齢が下がっちゃってるので……平にご容赦願います。

良さん、……まあ、今のところ護はそんなに話すつもりがないんですがね。きっついから、色々と。過去話が最後まで行ったらお涙物かも……

らぶデスさん、いつも好意的に解釈して頂き感謝の念も絶えません。勇者伝説は、この話の……というかガオガイガーとしての根幹を為すストーリーですので、いずれ必ず話すことになると思われます。……愚痴めいたゆめうつつの言葉にも耳を傾けてくださり、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。


(再再度修正しました。度々すみません)



[5916]       第七話 雨天凝地とスニーキングミッション
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/10/30 16:27
 ばったり。そんな擬音が相応しい状況で、朝のジョギングから帰ってきた護は、洗面所でなのはと出くわした。

 「――あ、おはようなのは」

 一日の始まりの儀式にも似た、朝の挨拶を交わそうと、声をかけて。
 なのはの様子がおかしいことに気がつく。

 「……なのは?」
 「………え、あ、えと、おっ、おはようっ?」
 「…おはよう」
 「あ、あの私、朝ご飯のお手伝いしないといけないからっ!」

 それだけ言って、脇目も振らずに護の横を抜けてリビングへ、全力疾走。
 途中、盛大につまずきすっころんだような、なにがしかの騒音が聞こえてきたけれど。
 挙動不審にも程がある。

 「……何か、あったのかな?」





 朝食時。護がやってきて椅子が一つ増えた食卓。席位置はなのはの対面で、いつもの通り素晴らしい味付けの料理を堪能していると、どうしてか、じーっとなのはがこちらを見ていた。

 「……どうかした?」
 「ふぇっ? う、ううん、何でもないよ!」
 「…?」

 恭也さんと士郎さんがそれぞれ隣で溜息を吐いてたけど……なんだろう?





 「なの」
 「行ってきまーす!!」
 「…………………」

 声をかけた瞬間、玄関で靴を履いてたなのはが、それこそ脱兎の如くに大慌てで外に飛び出していった。
 またこけないといいけど……と心配しながら、言えることが一つ。

 「……僕、避けられてる?」

 そんな、気がする。なんとなく、経験則で。
 理由は……、………………あ。
 昨日の――だとすると、なのはは……、

 「結論を急ぐなよ、護」
 「……恭也さん?」
 「あの子たちと違って、なのはは聞いたばかりだ。……まだ混乱してるんだよ」
 「…………そう、でしょうか」

 見るからに沈んだ、落ち込んだ雰囲気を醸し出す護に、恭也は嘆息一つ。
 強いとか、超能力とかは関係なく、護は、メンタル面の弱さが偶に露呈する。
 繊細で壊れやすい、ガラス細工のような。
 トラウマがあるのかも知れない、と、恭也は思う。精神性だと言っていた頭痛にしても、あの痛がり様は尋常じゃない。
 昨日の様子から、戦う事への精神的脆弱性ではなく……日常的な、人との繋がりそれ自体を、失うことに怯えてるような……そんな、印象。
 裏付けるように、護はなのはに……一時的であれ避けられて、不安がっているように見えた。
 嫌われたんじゃないか、怖がられてるんじゃないか――と。

 「………全く」

 手頃な高さにある頭に手を乗せて、くしゃりと髪を撫でる。

 「……子供扱いしないでください」
 「子供だろ。少なくとも外見はな」
 「……………」

 無駄に抵抗しない辺りが、本当、子供で。
 何かを思いだしているような護の表情に、恭也は薄く笑って、目を細めた。










 「アリサちゃん……すずかちゃん……!」
 「な、なのはちゃん!?」
 「どうしたのよ? 今にも泣きそうな顔して」
 「……護くんとどんな顔して話せばいいか解んないよぉ……」
 「は?」
 「え?」





 周りに人が居ては詳しい話ができないからと、お昼休みまで待って、屋上。
 ベンチに座ってお弁当をつつきながら、詳しい話を聞く。

 「だって……宇宙人なんだよ?」

 そう切り出した、なのは。
 言葉の意味を先取りし、アリサは絶句する。すずかも、信じられないような顔をする。
 高町なのはは、そんな、偏見を持って人に接するような少女じゃ、ないはずだった。少なくとも二人が知るなのはは。
 悪いこと、悲しいこと、してはいけないこと。それらを心から理解して、赤の他人ですら思いやれる、優しい少女の――はず。

 「なのは……あんた、それ本心で言ってるの?」
 「本心って言うか……どうしたらいいか、分かんなくて……」
 「その……なのはちゃん、人間じゃないと…怖かったりとか……き、嫌いだったりとか、する?」

 恐る、恐る。すずかが訊いて、なのはは首を横に振る。

 「怖いとか嫌いとか、そういうのはなくて……」
 「……?」

 言葉を探して、少し間を置いて。
 やがて、意を決したように、言う。

 「地球人の皮を被ってるとか、実は地球人そっくりのロボットで顔の部分がパカッて開いてこんにちはー! なんて言われたりしたらどうしようって……!」

 「「…………」」

 眉根を下げて、悩む姿は真剣なのだけれども。
 壮絶な勘違いだった。
 死ぬほど意見が噛み合っていなかった。

 「あー……」

 そう言えばなのはは、護のあの姿を見ていないことに、今更ながら思い至るアリサ。
 取り敢えず、ただの誤解であることに安堵した。

 「……なのは、あんた最近、メン・イン・ブラックかエイリアンでも見た?」
 「宇宙人としての護くんの姿はね、羽の生えた……何だろう。妖精?」
 「そう……ね。天使じゃないし、綺麗な翠色に輝くピクシーって感じだったわ。あんなグロテスクな虫とか、イカみたいな無脊椎動物が本当の姿だったりしないわよ」

 でも、となのはは反論し。

 「左手から触手みたいなの出すのは見たの……」

 「「………え?」」

 しょくしゅ? しょくしゅってナニ? え、触手? 
 そんな思考がしばし頭を巡って。

 「「えぇえええええっ?!」」

 可愛い悲鳴。

 「ちょ、なのはそれ詳しく!」
 「え? えと、あ、えと――そう、ダンプカー!」
 「……ダンプ?」

 小首を傾げるすずかへ、なのはは必死にカバーストーリーでっち上げ開始

 「お酒呑んでた運転手のダンプが突っ込んできた時にねっ、超能力じゃ壊しちゃうって、ズリャーって感じで左手から触手生やしてぐるぐる巻きにしたのっ!」

 慌てたせいで『みたいな』が抜けてることに気づかないなのは。

 「「っ…!!」」

 生々しい不気味な触手がぐねぐねわらわら這い出しているのを想像してしまい、少女二人は生理的嫌悪におののくのだった。










 少し時間を遡って、早めの昼食を済ませた護はなのはの案件をひとまず棚に上げ、発信器の信号元を訪れていた、のだが。

 「――っくしゅ! うー…誰か噂してるのかな?」

 寒くもないのに出てきたくしゃみに理由付け。回数で意味が違ったような……と、どこかで聞いた雑学知識が浮かぶに任せる。
 遠見市。海鳴市と同じ県内にある隣街。こんな名前の市は聞いたこともなかったが、だからと言って問題があるわけでもない。 市内の、人通りの多い場所で、護はキョロキョロと辺りを見回した。

 「えーと……反応によるとこの辺りのはず……」

 開いたノートパソコン上で一直線を描く光点。隠匿性を考慮し、五分刻みに発信された道筋は中途で途切れている。気づかれたのではない。がらくたの寄せ集めで作った物だから、それなりの妨害措置を取られると簡単に遮断されてしまうのだ。
 例えばそう、ユーノが張る結界のような。

 「魔法的な探査は当然警戒してるだろうから、結界があるのは当たり前だよね」

 魔力探知は索敵用のプログラムが完成前だから、自前の感知能力に頼るしかない。が、それも大雑把に巨大なエネルギー反応を捉えているだけなので、細かい作業には不向き。
 これがゾンダーエネルギーの感知であれば、地球の裏側だろうと察知できるのだけれど。
 よって護は、憩いの場として作られた広場の休憩用のベンチに座り、法律を気にする素振りもなく無線から手慣れた操作でハッククラック大侵入。

 「こういうのはばれなきゃいいの」

 言い訳しながら目指すのは、この近辺を一手に預かる警備会社。監視カメラの映像を逐一確認流し見て。

 「――発見Bingo♪」

 弾んだ声でエンターキー。ウィンドウ画面に黄金色の髪をツインテールにした、黒いワンピース姿の少女が映る。片手には、買い物帰りなのかビニール袋が提げられていた。。

 「発信器は……部屋の中に落ちた? それともバリアジャケットにまとめて収納されたかな……?」

 大通りを歩くフェ……フェ、何だったか。微かに聞いたような覚えがあるけれど、どうも微かでしかないらしい。

 「まあ後はこっそり尾行すればいいだけで…………って……あー……」

 画面の変化に、どうしたものかと頬を掻く。
 可能性としては十二分に有り得たわけだが、ちょっとこの状況は想定してなかった。

 「………どうしよ」

 恐らく画面の少女の比ではないだろうけれど、弱った声で護は呟く。
 現在進行形のウインドウで、濃紺の制服を着た青年が少女に質問をしていた。
 ズバリ言うところの、補導である。










 「そこの君、待ちなさい。……こら、君だ」
 「……? 私、ですか?」

 自分が呼び止められたと思わずに、素通りしかけたフェイトが止まる。
 誰だろうこの人。少なくとも知り合いではないし、管理局にも見えない。
 困惑するフェイトをよそに、ペンと手帳を取り出しながら、真面目な国家公務員は仕事に励む。

 「上手な日本語だね。名前は?」
 「? フェイト・テスタロッサです……けど、あの、何か用でしょうか?」
 「私は警察だよ、警察。解るかい?」
 「……その警察さんが、私に何の用ですか?」

 この国の治安維持機関の人間らしい。
 でも本当に何の用だろう? 早くしてくれないかな。アルフにお昼買って帰らないといけないのに。

 「ちょっと質問に答えてくれればいいんだ。……そうだね、この辺りに住んでるのかい?」
 「……住んでる場所は、近くですけど」
 「それじゃ、お父さんかお母さんは? 今家にいるのかな?」
 「いえ……父は顔も知りませんし……母は、遠くに住んでて……」
 「……ごめんよ、悪いことを聞いたね」

 だったらもう聞かないでほしいな。

 「……君は家に一人で?」
 「えっと……アルフがいますけど」
 「アルフ? お姉さんかな」
 「お姉さんじゃなくて、私の使い………ペ、ペットです」
 「ペット? じゃあ君は、ペットと二人っきりで住んでるのかい!? お金や学校は?!」
 「お金は、母さんから預かってます。……学校は行ったことがありません。勉強はリニスが見てくれました」
 「リニス? 誰だい?」
 「母さんの……ペット? です」

 若い警官のペンが止まる。いよいよ胡乱げな顔をされる。
 ……私、変なこと言ったかな?

 「……日本在住で学校には行かせず、幼い子供の一人暮らし……ペットを飼えることから貧しいというわけでもない……」
 「あの……もういいですか? アルフが待ってるんです」
 「……いや、すまないが署まで一緒に来てくれるかな? 上司に報告しなければならないようだ」

 手を取られそうになって、反射的に振り払う。

 「……大人を困らせるものじゃないぞ」
 「大丈夫ですから……ホントに、心配されなくても」
 「心配の問題ではなくてだね……ここで君を見逃しては、私が上司に職務怠慢で叱られてしまうんだ」
 「で、でも」
 「いいから、来なさい。ほら」
 「あ……」

 捕まって、引っ張られる。連れて行かれる。管理外世界の人間に魔法は使えない。身をよじって逃げようにも、自分以上に訓練されているようで、腕力でも勝ち目がない。
 ……ど、どうしよう……この人倒してもいいのかな? 非常事態だし、手から電流を流し込むぐらいなら……
 逃げる算段していると、風斬り音と共に上空に影が。
 ん?と警官は見上げ、あ、とフェイトは間の抜けた声を出し。
 空から金ダライが降ってきた。

 「のがっ……お……おぉ……!?」

 痛々しい音にびくっとフェイトが思わず身を竦ませる。そろりそろりと目を開けると、くわんくわんと回る金ダライ。そして顔面を押さえて呻く警官の姿。
 ヒューと続く新たな音にフェイトは焦りを浮かべながら飛び退き、ふらつく警官の頭上へピンポイントで重そうな袋が直撃した。
 表面には、ひのひかり(10Kg)、とあった。

 「…………………………えと……帰っても、いいですか?」

 地に伏しぴくりともしない警官にフェイトは訊く。

 「………」
 「………」

 ただの屍みたいだから、帰ることにした。





 「……国家権力は、嫌いだよ」

 その上空で、透明化した護がふわふわ浮いていた。
 フェイト、という名の少女が見えなくなるまでそこに留まり。

 「機界法則プログラム、“幻想の檻”……解」

 落とした二つの物体を回収して、幻の帳を解き。
 尾行開始。










 「ただいま、アルフ。ご飯買ってきたよ」
 「待ってました~! お帰りフェイト、お帰りあたしのお昼ご飯!」

 ……ご飯の方が強調されてたのは気のせいかな。
 その他日用雑貨の袋を置いて、早速パクつく使い魔に今日あったことを話す。

 「この世界って平和に見えるけど、結構危険な場所なんだね」
 「うん? 何でだいフェイト。色んな世界や国の中でも、こんなに平和ボケした国はなかなかないよ?」
 「さっき帰ってくる時にね、空から重たい物が降ってきて人に当たったのに、周りの人はみんな平然としてたんだ。倒れてるのに全然見向きもしなかったから、多分それが普通なんだよ、この世界では」
 「へぇ~……そりゃ、危険って言うか、怖い世界だね……でも、さっすがあたしのご主人様、慧眼だよ!」
 「よしてよアルフ……偶々だよ」

 珍しくはにかむご主人様が見れて、アルフはぶんぶんとしっぽを振った。





 「……これ、天然って言うのかな……、それとも、ただの勘違い……?」

 不法侵入者天海護は、主従の盛大な間違いにつっこみたいのにつっこめず、ウズウズするのを隣の部屋でじっと耐えるのだった。

 「――世界と言えば、昨日の、あの変な奴だけどさ」

 しばらくどうでもいい話が続いて盗み聞きにも飽きてきた頃、アルフという名の使い魔が切り出して、はっと護は耳をそばだてた。





 「あの男の子……だよね?」

 アルフが頷くのに合わせて思い返す。胸にかけた翠色の宝石と、同じ色の瞳をした……ちょっと意地の悪い男の子。

 「次に会ったら、負けない……!」

 両手の平をぎゅっと握ってやる気満々の主に、従僕はそっと目尻を拭う。悔しかったんだろうな、でもこんな元気になってくれて、あいつには後でお礼をするべきだね。

 「負けないのは良いけど……どうするんだいフェイト? 事前調査じゃ、この世界にあんな能力を持った人間は居ない筈なんだけど」
 「……魔力を使ってないのは、間違いない。それなのに空間転移が物凄く速くて……私のが薄いのもあるけど、バリアジャケットを簡単に抜く攻撃ができる」
 「加えて、防御がメチャクチャ堅い。……しかもそのバリアが、オーバルプロテクションみたいに全身を囲ってた。あたしの攻撃を防ぐには一方向だけで良いのに、だよ? だから多分、あいつのバリアはあれが基本なんだと思う」
 「………魔法じゃなかったら、どういう力なのかな」
 「……一度、報告に戻るかい? こっちに来たばっかだけど、相手の力が不確定すぎる。一回相談した方が……」
 「ダメだよ、アルフ」

 己が使い魔の提案を、フェイトはピシャリとはねのけた。

 「まだ、一つもジュエルシードを集めてないんだ。それで帰ったりしたら、母さんはきっと怒る」
 「そう……だね。あの鬼婆のことだから、きっとまたフェイトにムチを振るうに決まって――」
 「アルフ、母さんのことを悪く言わないで」

 どこか張り詰めた空気を醸し出す主人の言葉に、アルフは、身を強張らせ、項垂れる。

 「……分かったよ、フェイト。あたしのご主人様……」










 「…………」

 無言で、護はその場を離れた。
 盗聴器の設置は忘れずに、壁と同化して屋上へ出る。

 「……That sucks最悪

 口汚く、悪態。

 「母親が……自分の子に、ムチを………?」

 ざわ、と髪が一瞬翠に輝き、波打つ。

 「親は、子供を護らなきゃ、いけないのに……!!」

 そう、言いながら。
 現実として、必ずしもそうでないことを、護は知っている。
 見ている。
 紛争地帯で、食うために子を売る親。
 気に入らないからと、それだけで殺してしまう親。
 逆に、一時の感情で親を殺してしまう子供も、居る。
 それが、悲しい。
 それが、悔しい。
 いくら仲良くしたくたって、叶わない子も居るのに……!

 「……ホント、世界が違ったところで、人間の醜さは変わらないよ………戒道」

 親友の名前を、口にして。
 く、と自嘲の笑みが浮かぶ。

 「最後の最後まで、見捨てられなかった僕の言うことじゃ、ないかもね。……あんな目に遭っても、僕のお人好しは治ってないんだから」

 昨日今日で随分と減ってしまった電力を補給しながら、高町家へと帰宅の道を行く。
 その途上で、決心するまでもなく、決める。
 ――救ってみせる、と。





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 星の瞬く夜空に、飛行機でも、人工衛星でも、ましてやUFOとも違う光が二つ、飛び交っていた。
 淡い翠と、淡い紅色。
 二つの光は、空間を自由自在に泳ぎ回る。
 慣性を感じさせず、鋭角的に飛行し。
 螺旋を描いて降下し、また上昇し。
 また幾つもの小さな同色の光が、それぞれから直線、曲線と放たれ、ぶつかり合う。
 赤と翠の爆発が、数十、花開く。

 『はぁあああ!!』
 『やあああぁっ!』

 一際巨大な光が空を翔け――閃光、暴音。
 花火の美しさとはかけ離れた、けれど畏れにも似た気持ちに虜とされそうな、爆光。
 人など、軽く消し飛ぶ。
 物など、易く消し去る。
 それほどの威力を見せながら、しかし、彼らは未だ、全力に程遠い。
 そして勿論、今この場において全力を出す気は、ない。

 ……強く、なっている。

 胸中に浮かんだ言葉を、いや、とすぐさま否定する。
 戒道幾巳が見る限り、天海護の能力制御、行使技術は、最後にあった数ヶ月前より遥かに、

 ――巧く、なっていた。

 『…………』

 言い知れない寂寥感のような、けれど違う、何か。
 自分は、置いて行かれたのだろうかと。
 意味はなく、詮もない、感傷のような思考。
 それとも、彼が置いて行かれたのか。
 平和と、日常と、安穏に。
 自ら勝ち得た平穏に。

 『……ここまでにしようか』
 『うん……戒道、ごめんね。いつも付き合わせちゃって』
 『そう思うなら、謝罪ではなく感謝がほしいな』
 『…うん。戒道、いつもありがとう』
 『…………いつものことだからな』

 正面から、てらいもなく言われると、こう、気恥ずかしさが込み上げるのは何故だろう。
 どうしてこうもぽんぽんと謝意を口にできるのか、不思議でならない。

 『明日で……休みも終わりだな』
 『結構、リフレッシュできたよ。戒道のおかげだね』
 『……また君は、戦場に戻るんだな』
 『うん……そのつもり』

 そのまま、しばらく沈黙が漂う。
 どこか居心地の悪い、停滞した空気。
 振り払うように、口を開く。

 『君が能力使用を禁止されてるから、僕が代わりに調べておいた』
 『……何を?』
 『国連の内情と、現在の情勢』
 『…………ファイアウォール、僕が手がけてたはず何だけど』
 『時間をかければ何とかなったさ』
 『………』

 それでも破られたことに変わりなく、護は不満げだ。
 しかし戒道にしてみれば、この結果は順当だった。
 自分は天海に才能で劣る。けれど、造られ強化されたが故に、性能では勝っているのだ。

 『……ともかく、国連の方だが』

 悔しそうな護を尻目に、地面に降り立った戒道は、家に向かいながら話を進める。

 『少し、きな臭い動きが見えた』
 『……いつものことじゃないかな。政治ってそもそもがきな臭い物だし』
 『そうじゃない。天海の言うことは正論だが、そういう意味じゃない。……GGGが三十連太陽系に行くべきだと主張した時、反対した評議員が居たのを聞いたことは?』
 『確か、宇宙収縮現象を過小評価して、木星開発を進めようとしてた人たちだよね………まさか、またその計画を?』
 『いや、違う。ラウドGストーンがある今、ザ・パワーは然程重要視されていない』

 それでなければ造った意味がない、と言って、途上にあった自動販売機に硬貨を入れた。

 『彼らの影に、君を排除しようとする動きが見え隠れしている』
 『…え? 排除って……!』
 『……そんな顔をするな、生命がどうのこうのと言ってるわけじゃない。前線で君に活躍されっぱなしでは困る人間が居るということだ』
 『あ、何だ、それだけか。だったらほたっとこう。指揮官講習を受ける良い機会だよ。楊指令にも何か教えてもらおうかな……ラウドGストーンの技術提供のお礼として』
 『………つくづく君も、染まりつつあるみたいだな』

 あはは、照れちゃうなー。褒めてない。そんな会話をしながら、ドリンクに口を付け。

 『そうそう、この間国連のデータベースをこっそり覗いてたらね』
 『……どうどうと見せてもらえば良いじゃないか』
 『うん、まあそうなんだけど……そこでフツヌシの設計データ発見しちゃって』
 『ぶふぉっ!?』

 炭酸飲料が気管に入りかけ咽せた。げほげほ咳して、いきなりトンデモ発言してくれやがった親友に目を向ける。

 『まさか……けほっ、創世炉も?』
 『うん。電子的にブラックボックス化したデータ群をあさってたら、その中に暗号処理されてるの見つけちゃって』
 『……見つけちゃってじゃない。下手をすれば機界文明と同等の機密データだ。……他の人間に言ってないだろうな?』
 『それはもちろん、戒道だけだよ。きちんと元あったデータは抹消してるし、僕が教えない限り誰も手に入れられなくなってる』
 『不幸中の幸いだ……もしまた創世炉が造られるようなことになっていたら、新たな火種が生まれたに違いない』
 『……だよね。何でみんな、今ある現状で満足しないのかな』

 より一層の利便を求め続けて、人類は今や宇宙にまで進出している。
 それはどこまで行くのか。
 それはどこまで続くのか。
 勇者たる彼らにも、解り得ない。





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 蒼穹で、脇に抱えたパソコンから、電子音が。
 白い雲の狭間に留まり、開く。

 ≪わっ、何これテレビ携帯?≫
 ≪なのはちゃんどこで買ったの!?≫
 ≪えへへ……これ、護くんが改造したの≫
 ≪改造!?≫
 ≪そんなレベルじゃないよ……!≫
 「……何か用事があるなら早くしてくれないかな」

 もしものことを考えて、念話テレパシー以外の連絡手段を取るために、なのはの携帯電話は地球の反対側にいても届き、なおかつ映像も送れるスーパー仕様になっていた。同じ技術をパソコンにも施し、こうして話ができるわけだ。

 ≪あ、そうだった。なのはから聞いたんだけど、あんた触手出せるってホント?≫

 真っ正直というか、躊躇なくそういう話題に踏み込めるのはアリサの美点だろうが、それで空回りすることも多い。
 しかし今回は最良手だった。

 「触手? や、そんなの出せないけど………あ、もしかしてケーブルのことかな?」

 大体の事情を察した護は、すぐにそれらしい言い訳を捻りだした。

 ≪ケーブル?≫
 「そ。僕の左手、微妙にサイボーグ化してて、そこに収納してるんだけど……本来の使用方法は電気ムチ。危ない人を簡単に無力化できて便利だよ」
 ≪……へー。ってことはなのは、あんたの早とちりじゃない!≫
 ≪え、あ、あれ?≫
 「前に一回説明した筈なんだけど……」
 ≪この、無意味な心配させてぇ……!≫
 ≪い、いふぁいいふぁい! いふぁいよっ、アリファちゃん……!≫

 ウィンドウの向こうでじゃれる三人を微笑ましく見つめて、通信をアウト。

 「……ふふ、恭也さんの言った通りかな」

 心配も不安も、不要な物と知って。
 なのはにどんなことを教えようかと、頭の中で考えて。
 高町家へと道を進む。
 今ある家に、自分を想ってくれる人たちの家に。
 護は、帰宅する。










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
……一月以内に間に合わなかった~!と、嘆いてみせるゆめうつつです。無意味に。
早く書きたいです。何がって、バトルとか、管理局の対応とか。19話もかけてこれだけしか進まない作品も珍しいんじゃないかと思ってしまいます。……まあいいや。どうせのんびりやるしかないんだ……。
次は海鳴温泉ですよー。

今回感想が多いので、返信は感想掲示板にて。

(修正しました、jannquさん申し訳ないです)



[5916]       第八話 Go to Hot Spring!
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:80c1420b
Date: 2009/11/28 10:42
 [怪奇! コンクリートジャングルに現れたジャングル!]

 [夢か幻か? 市街再生の瞬間!!]

 [エイリアン襲来!? 極太桃色光線の謎]

 [今週の不思議ニュース。若き警官を襲ったド○フ!? 事務所は関連を否定……]



 「う~ん……まだ一ヶ月経たないのに盛りだくさん」

 自重するべきだろうか? いやでも全部必要に迫られてのことだし。この間の警官には悪いことしたかもしれないけど……それでちょっと胸がスッとしたのは置いておくとしても。
 ……とにかく削除削除! こっちも削除。これはいい。これも消さなくていい。あ、このブログ拙い。軽く炎上させて、と。ふう……情報操作も楽じゃない。

 「護くーん、そろそろ出発するよー!」
 「今行きます美由希さーん!」

 ……バニングスさんはもう月村さんの家に向かってる頃かな。僕たちも遅れないようにしないと。
 旅行なんて本当に久しぶりだ。でもそこまでお世話になっていいのか、金銭的に申し訳なく思ってたんだけど……忍さんが費用を持ってくれるらしい。玄関ホール修復のお礼だって。
 それなら仕方ないよね? ここまでされたら断るほうが逆に失礼だからね、うん。間違っても僕が行きたいからじゃないよ? そこのところはハッキリさせておかないとね。うんうん。それにしても温泉かぁ……何年振りかなぁ……。










 アリサちゃんとお姉ちゃん、それにノエルとファリン、五人そろって門の前で待っていると、なのはちゃんの家の車が見えてきた。
 今日はみんなで、護くんも一緒に旅館にお泊まりする予定。ほとんど丸二日、お友達と過ごせるのは嬉しいけど……私はまだ迷ってる。例え成り行きでも、護くんの秘密を知ってしまって、自分だけ黙っているのは不公平で、卑怯な気がして。
 でも、口に出すのは……怖くて。
 ……天海、護くん。
 私と同じで……嫌な言い方だけど、人間じゃない男の子。
 そう考えると、すごく変な感じ。奇妙で不思議な、仲間意識じゃないけれど、感慨みたいな気持ちが。
 話したい。でも話したくない。勉強と違って、心は簡単に矛盾してしまう。

 ……これじゃ、逆に心配かけちゃうな。

 車から降りてくるなのはちゃんたちを見ながら、自分を鼓舞する。
 しっかり、しないと。










 門の前にすっかり集合している様子を見て、少し遅れたかな、と護は思う。

 「待った?」
 「五分ちょっとくらいよ。そ・れ・よ・り!」

 浮き浮きと両手を差し出され、苦笑しながら預かっていた物をその手に落とす。

 「はい、月村さん……すずかのも、ちゃんとできたよ」
 「…うんっ、ありがとう!」

 一瞬悲しそうな顔をされて、慌てて言い直す。すずかは嬉しそうに、大事そうに、受け取る。

 「……もうできたの? 昨日渡したばかりじゃなかった?」
 「頼まれたのは五日も前ですよ、忍さん。片手間ですけど色々オプションも先に造ってましたし、大変だったのは機能の追加とプログラムの書き換えぐらいで……一個に一時間かかりませんでした」
 「…………ソフトがどうのこうの言ってたけど、ハードも相当いける口でしょ、絶対」

 ジト目を向ける忍の言及を、護は視線を逸らして適当にごまかす。

 「……恭ちゃん、私もあれ欲しいかも」
 「……実は俺も少し」

 後ろで兄妹二人は羨ましげにそれを眺め。

 「どうだい母さん? 護くんに翠屋の設備を手直ししてもらうアイディアは」
 「………最近、オーブンの調子が少しだけ悪いのよね」

 永遠不朽の新婚夫婦エターナルヴァースハネムーンは店舗の改造計画に余念がなかった。
 そんな彼らの羨望を独り占め――三人占めする少女たち。
 正確には、三人が一個ずつ所持する携帯電話……否、それは最早携帯電話などという狭義の言葉で括れる凡庸な既製品とは根底から種を異にする、最先端技術ハイテクを超えた異世界技術ウルテクの塊。

 「四千万画素にテレビ電話機能、充電なしで丸一年間使用可能な高性能バッテリーを搭載して、ネット環境も完備。容量は約三テラバイトで、もちろん写メや録音録画も長時間フリー。月……すずか、ネットモードにしてカメラに目を近づけて」
 「え……こう?」
 『……Pi、網膜認証完了しました』
 「わっ?」
 「喋った!?」

 驚く間もあらばこそ、機器の周りに半透明の淡く緑に光るキーボードとディスプレイが現れ、いよいよ驚嘆。
 キャーキャー言って弄くり始める彼女たちに更なる説明をしようとするのだが。

 《護……あのバーチャル機能ってレイジングハートの》
 《僕には何のことか解らないなー》

 ユーノからの念話にすっと惚けた。

 《…………管理外世界への技術流出は重罪なんだけど》
 《つまり、ユーノは僕の世界にあの技術がないって証明できるんだね?》
 《あうう……》

 ほとんど屁理屈なのに反論が封じられるユーノ。無理を通せば道理は引っ込むその事例。

 「量産型の簡易AIを組み込んで操作性は従来と比べるべくもなく向上。後はまあ……適当にチュートリアルでも読んで。ちなみに名称はお楽しみ機能が盛りだくさんという理由で、携帯型個人遊園地ポータブルプライベートパーク…」

 つい、と指を立てて自信たっぷりに。

 「略して、3Pスリーピー!」

 スパァン!!
 無表情に振り抜いたノエルのハリセンが、無防備の後頭部に直撃した。

 「――っっ~…! いきなり、何するんですか!?」
 「何、ではありません。すずかお嬢様の情操教育上、問題ある発言者には相応の処置です」
 「情操教育? Three Pの何がむ、むーっ、むーっ!」

 すかさず神速まで用いた恭也と士郎に拘束され、護はじたばた。

 「うちのなのはに変な言葉を教えないでくれないか?」

 普段から温厚な高町父は笑顔だったが、目が冷えていた。恐竜も滅ぶ凍度だった。

 「むー?」
 「……ねぇ恭也、もしかして、意味解ってないんじゃないかしら?」

 口を塞がれながらも首を傾げる護に、忍は半信半疑で言ってみる。

 「それは…ないだろう。こんななりでも俺たちより年上だぞ、一応」
 「まあそうなんだけど……護くん、一つ聞くわね?」

 忍は耳元に口を寄せてゴニョゴニョ。

 「…!!」

 途端護はリンゴもかくやと真っ赤になって、首を横に全否定。

 「……見たことも読んだこともないみたいね、この様子だと」
 「な…嘘だろう!? ……もしや護、実は不の――うぐっ!」

 赤い顔の護に足を踏まれてうずくまる恭也。そっちの意味は知っていたらしい。
 何かを思いついたらしき忍が、嬉々とした笑顔で護に近づく。

 「そんなピュアでプラトニックな護くんに耳よりの情報♪」
 「?」
 「いい? 3Pっていうのはね……」

 ヒソヒソ、ヒソヒソ。ゴニョゴニョゴニョ。

 「?!っ!??!!!っ!?」

 湯気が立つほど顔は赤く赤く、皮膚体温三十七度六分ですねと目をキュイキュイさせながらノエルがぼそりと。
 内心の羞恥が目に見えて、忍はマッドにサッドに微笑みを。

 「うふふふ……ついでに6と9の意味も教えてあげようかしら……?」
 「し、忍お嬢様? そのあたりでやめてあげた方が……お、お姉様も止めて!」
 「……そうですね。お嬢様、それは少々行き過ぎかと」
 「あらノエル、私に意見する気?」
 「はい。事はデリケートな問題ですので、まずはフレンチキスのやり方を手取り足取り」
 「………それもそうね」
 「あぁあああ! 護くん気をしっかり! 食べられちゃいますよぅっ!!」

 それは止めの一撃じゃないのかと、ガックンガックン揺さぶるドジっ娘メイドに美由希は冷や汗タラタラ。

 「あのー……そろそろ出発しない? 時間も限られてるし」

 その提案が受諾されて、騒ぎはひとまず静まった。
 そう……ひとまず。










 「なのはたち今頃楽しんでるのかなぁ……」
 
 車窓を眺めながら美由希がぼやき、桃子はバックミラー越しに悪戯っぽく言う。

 「なんだったら、次の休日にでも連れて行ってもらえばどう? 二人っきりのデートなんて素敵よ?」
 「……冗談よしてよかーさん。そりゃもちろん行ってはみたいけど、デートなんかじゃないって」
 「はは、そうだな。戸籍上は九歳だ。子供に手を出すと……ショタと呼ばれるんだったか?」

 運転しながら士郎があっけらかんと妻に便乗する。親二人にからかわれて美由希は少々不満げだ。
 名案を思いついたように、高町桃子はぽんっと両手を叩いた。

 「それだったら、今度私がデートしようかしら?」

 ――ギュキィッ! ……と、車が蛇行した。

 「も、桃子?」
 「冗談よあなた。運転中は前を見てね?」
 「…………そ、そうだな。冗談だよなぁ!」
 「うふふ、ええ勿論よ♪」

 両親の乾いた笑いが車中に響き、美由希はユーノを抱きしめ現実逃避。

 (何か問題が起こる前に、なのはとくっつけちゃおうか……)

 最近特に仲の良いように見える二人を思い、相性は悪くないだろうと、主に自分の精神的平穏のため画策を始めるのだった。










 空は好い。
 ことある毎に呟いていたとある戦士の口癖を思い出す。
 どこまでも広がる蒼穹。たなびく白い雲。遥かな眼下には雄大な自然。
 彼が気に入っていたのも頷ける。ふと上空を見上げて、目的もなく空を飛び回りたくなる時が護にもある。
 それはもしかすると、種族としての本能なのかも知れない。
 大地を駆ける足を持ち、天空を翔ける翼を持ち、天地二つに暮らす種の性質。

 「――景色は、どう?」

 四対八翅を背に広げ、全身を翠緑に染めて、護は訊いた。

 「…………すごい」
 「うん…………すごい」

 アリサ・バニングス。
 月村すずか。
 日本でも、いや世界でも有数な大富豪の娘。
 大抵のことは望めば叶えられる彼女たちにも、凡そ不可能なことはある。
 ほんの一週間前までは、実際問題不可能だったのだ。





 ――空を飛んでみるなんてことは。





 圧倒された。
 空の広さに、大地の勇姿に、海の青さに。
 飛行機ではなく、こうして直に飛んで、初めて解る人間の小ささ。
 足元には何もない。掴まる物も何もない。その果てしない不安を、親友と手を握り合って抑え込む。
 雲のたゆたう内側を、護の操るバリアに包まれて移動する。
 真っ白な雲海をかき分けて、突き抜けた先は更なる高み。地上の丸さが、知れる高さ。

 「アリサちゃんあれ……!」
 「…エベレス、ト……?」

 遠く、遠く。湾曲する大地の果てに、天を突くばかりの巨大な山。
 それすら置き去りにして、ぐんぐんと、地上が小さく。

 「まっ、護くんどこまで行くの!?」

 予定と違う、となのはが叫ぶ。
 せっかくの旅行、ただ車で行くだけではつまらないと、遊覧飛行を提案したのは護だ。
 誰が行くかで最初は揉めに揉め、大人組が子供に譲った形になる。
 海鳴の周りを飛んで、温泉宿に直行する手筈だったのだけど。

 「行けば解るよ。ちょっと飛ばすから、みんな目を閉じて!」

 他にどうしようもなく、ぎゅっと瞼を閉じて、一分も経った頃だろうか。

 「……もう、開けていいよ」

 護の声に、三人は目を開き、真っ暗なそこがどこだか解らずキョロキョロと辺りを見回す。

 「ほら、下を見て」

 下? と疑問符を浮かべたなのはたちが視線を下ろし、





 ――青い惑星が、暗闇に浮かんでいた。




 「あ……!」
 「………うそ」
 「ほん、とに?」

 三人が、三様に口を開けて。

 「とても、綺麗だよね。地球は、いつ見ても……」

 護の呟きが耳に入ってるのか、いないのか。
 青と緑で、大半の占められた宇宙のオアシスに、少女たちはそれぞれの視線を注いでいた。
 呆然と、しかし確かな感動を心に刻んで。

 成層圏。

 生身の人間では生存不可能な、オゾンの壁。紫外線に対する最大防壁。
 宇宙空間において宇宙服なしの行動を許される護のエネルギーフィールドだからこそ、辿り着ける地球の最果て。
 これ以上行けないこともないけれど、普通の人間を連れて大気圏離脱をやるわけにもいかない。
 実際に眺めていたのは何分か。十分に満たないだろう。
 だが、その青く青く真空に浮かぶ無比なる蒼さを、巨大な奇跡の産物を、彼女たちは一生忘れないだろう。
 自分たちがどこに住み、人間の生活が何を壊しているのか。
 それを理解し、肌で感じ続ける限り。
 永久に。





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 『GGG出向天海護、貴官を特別左官少佐待遇に任じる』
 『謹んでお受けいたします』
 『こちらが、辞令である』
 『拝見させていただきます』

 決まり文句のような受け答えを済ませて、内容に目を通した。

 『…………後方待機、ですか』
 『貴下の能力と安全を考慮した結果である。異論は?』
 『ありません』
 『……では、退出を許可する。行って良し』










 即答したのは拙かったかもしれない。同じ隊の仲間に辞令内容を伝えながら、頭の別の部分でもう少し不満そうに見せた方が良かったかと考える。

 『後方の支援部隊に異動って……何でですか!?』
 『落ち着けサ-シャ、サーシャリーナ。隊長殿に近寄っても仕方がないだろう』
 『違うんだよスカルド。詰め寄ること、それ自体が目的なのさ』
 『……成程。しかしそれも程々にしろ。年の差も考えてだな』
 『クソやかましいぞ男二人! 特にライティてめぇその口縫いつけんぞっ!』
 『サーシャ口調、口調戻ってる』
 『あえあ!? …そ、その……しっ、支援部隊に異動って何でですか!?』
 『……流したな』
 『流したねぇ』
 『そこっ、静かに!』
 『……三人を見てるとホント退屈しないよ』

 くすくす笑うと、三人揃ってばつが悪そうな顔をする。

 サーシャはロシア出身の通信士。ブロンドヘアーで背が高くて、結構過保護な一面もあったりする紅一点。前線に出るとジャミングや盗聴を担当してくれる。ちなみに言うと、食事に誘われることが多い。三回に一回は一緒に食べてるかな……後は忙しかったりで余り付き合えてないけど。

 インド出身のスカルドは暗号解析のスペシャリスト。そのくせ筋骨隆々の熊みたいな体格してるから、部隊部署を問わず引く手数多らしい。そんな有望株が、僕みたいな若輩が隊長の部隊に真っ先に志願してくれたのは嬉しかったな。

 ライティは、一言で言うと色男。バラくわえたら似合いそうな、アメリカ出身の元ハッカー。趣味は可愛い子供の写真を男女問わず集めることだって前に聞いたことがある。……そう言えば被写体を頼まれたこともあったっけ。その直後にどこからか現れたサーシャに殴り飛ばされてたけど、あれって何だったんだろう。写真ぐらいいつものことなのに。

 『……上にどんな思惑があったとしても、僕はただ前に進むだけだよ。それに支援部隊だったら勉強時間が前より多く取れて、僕的には大助かりだし』
 『隊長は頑張り屋さんですねぇ』
 『言葉に敬意が足りませんよライティ』
 『君に口調のことであれこれ言われたくないなぁサーシャ』
 『その舌を千切って犬に喰わせて差し上げましょうか?』
 『プライベートを全国に生放送されたいようだね?』
 『いい加減にしろお前ら。隊長殿を笑い死にさせたいのか』
 『…っ……いや……いいよ。続けて?』

 口元を手で覆ったところで肩の震えは隠せない。そもそも顔の上半分は丸見えだから、本気で隠すつもりもないわけだけど。
 サーシャリーナ、スカルド、ライティ。それに自分を加えた四人一組。
 特殊装甲車一つで索敵諜報殲滅全てをこなす無敗の小隊。
 かけがえのない、大切な仲間たち。

 『隊長殿のお許しが出た。死ぬほど笑える漫才をやれ』
 『……つくづく思うけど君も大概だよねぇスカルド』
 『第一漫才じゃありませんし。呼吸停止は冗談にしても……いえ、その場合はもしや接吻のチャンス……?』
 『せめて人工呼吸と言おうねサーシャ。本音だだ漏れだからさ』
 『あはははは……!』

 楽しい。ただの雑談がこんなにも。
 とても貴重な時間だ。いつまでもこんな風に過ごせればいいのに。
 そしてそれは叶わないからこそ一層、輝ける瞬間なんだろう。

 『残念だけど……僕呼ばれてるからもう行かないと。みんなは通常待機しててね』
 『呼ばれてる? 誰にでしょうか』
 『総長さん。それじゃ、また後で』

 パタパタ手を振る護を名残惜しげに見送って、サーシャは同僚に疑問をぶつける。

 『総長さんって……どなたでしょう?』
 『どこかで悪い遊びでも覚えたのかもねぇ。族の総長ヘッドがお友達、とかさ』
 『……本気で言っているんだったら馬鹿だぞお前ら。ここがどこだか言ってみろ』
 『ああ……言われてみれば確かに。全くもってその通りだねぇ』
 『しかし……さすがにあの呼び方では』

 うむ、とスカルドが巨体を重々しく頷かせた。

 『国連事務総長を総長さん呼ばわりできるのは、世界広しと言えども隊長殿ぐらいだろう』





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 《あ、なのはどうだった? 遊覧飛行》

 旅館の部屋でくつろいでると、ようやくなのはがやって来たから聞いてみた。
 と言っても、もうなのはは自力で飛べるから目新しい感動とかはなかっただろうな。
 こっちは士郎さんと桃子さんの笑い声が冷たくて冷たくて……本当に旅行なのか疑いたくなったよ。恭也さんの方の車に乗ればよかった……うう。

 「……すごかった」
 《ああやっぱ…り……?》
 「地球って……あんなに青いんだ……」
 《え……地球……え?》
 「またいつか見たいなぁ……」
 《なっ、なのはそれちょっと詳しくーっ!》

 感動に浸ってるなのはからどうにかこうにか聞き出して、その結果。
 ……護のでたらめさが改めて良く解った。
 話に聞く限りだと最低でも成層圏……もしかすると熱圏まで行ってたのかも。
 魔導師じゃ絶対行けないよ……酸素ボンベ持ってたらバリアが耐えられるところまでは行けるかもしれないけど、そこから地上に帰還しなきゃならないからどっちにしろ自殺行為だ。
 ……海中や真空中でも普通に行動できるっていうのは聞いたことがある。だからって、大気圏離脱や突入ができるなんて想像もしないよ。
 あれ? ということは護のバリアって、それだけの熱や衝撃に耐えられるってこと?
 やっぱりでたらめだ……規格外だ……そのバリアだけでレアスキル扱いされそう。
 これに護の技術が加わったらどうなるんだろ? ……いや、そっちはある意味デバイスと一緒だから……でも使えるのが護だけだったら結局同じことだし……
 うーん。解らない。やっぱり管理局の意見を聞かないことには始まらないか。もう戸籍があるって言っても、時空漂流者として届け出はしないといけないし。

 《……護のことだけで論文が二つ三つ書けそうだよ……はあ》





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とうとうオリキャラ出してしまった……過去編ですが。
それも結構重要な位置を占めるキーパーソン的な……まあいっか。
それでは告知、と言うかお知らせ的な何か。

――第二幕で終わりそうにありません。

余裕で三幕食い込みました。本当に遅々として進まない……護の戦闘シーンとか書きたいのに。最終決戦のあたりも構想できあがってるのに。
筆の進まなさが呪わしいですねぇ……。


jannquさん 土下座いたします。素で入れ忘れてました。もう見られたかもしれませんが、追加しときましたのでどうぞ。……触手プレイってエロいとは思うけどなんとなく微妙なゆめうつつです。

俊さん はい、しっかり改造いたしました。やりすぎなほど。……フェイトはむしろ突っ込ませるとゆめうつつは思います。

風見さん ライダーでしたか。これは失礼をば。……ええ、補導されるのが見たことないので、それなら自分で書いてしまえと。過去話はまだまだ続きます。多分最終決戦ぐらいまで。スパロボは機会があり次第見させていただきます。

a-23さん ……見たような、見てないような。……クロス倉庫にあったような?

樹海さん 一気読みですか、ありがとうございます。どこのアニメも現実を加味したら大抵は暗いものが出ると思うのですよ。……まあ、それを存分に刻み込んだ作品もありますが。

sinさん 今回も一応ほのぼの展開。でも三幕入ったら加速すると思う。悪い意味で。……護は少し反省しています。あくまで少し。ユーノとのすれ違いは……まあ、不可避事項ですかね。


……次回はもう少し早く投稿したいなぁ。ああでもナルトも進めなければぁ~…。



[5916]       第九話 その魂は
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d
Date: 2009/11/28 10:41

 日本の宿泊施設と言えば旅館である。旅館と言えば温泉である。
 一概にはそうも言い切れなかったりするが、日本の文化を味わうにあたって不可欠の要素ということは間違いない。
 広々としながら木材や岩を巧みに使い、訪れる人々にある種の安心感を与えるのだ。
 故に、生まれはともかく育ちは日本な護にとって、温泉とは心落ち着く憩いの場……なの、だが。

 「Shit……!」

 現在護はついつい口汚い言葉が出るぐらいに追い詰められていた。件の温泉旅館から程よく離れた山中に隠れ、頭の中でアラートが鳴る。それに従い身を隠していた山林の幹から離れる。バシュッ……とガスの抜ける音。ミサイル状の物体が護の退避した直後に樹上で弾けた。
 雨霰と降り注ぐ――――投網の数々。
 さながら網の散弾か。効果範囲は段違いなのでクラスター爆弾の方が例には正しいかもしれないが。

 「くっ……いい加減にしてくれないと、こっちも反撃しますよ!?」
 「申し訳ありません。メイドなもので、主人の意向には絶対服従が義務づけられているのです。――常識の範囲内でですが」
 「軽く常識飛び出てますから!」

 護はノエルの担ぐ筒とそれに取り付けられた帯状の何かを指差して。

 「グレネードランチャーをばかばか撃つメイドのどこが常識なんですか!?」
 「――申し訳ありません。しかし訂正をさせて頂くならばこれはグレネードなんたらではなく、忍お嬢様が対護様用に開発した捕獲用機器……連発式散弾網Running Web Shotです」
 「う……ちょっとカッコイイ名前」

 こんなやり取りがかれこれ四十分以上続いている。不毛だと思うが捕まっては護の尊厳に関わるのでかなり必死だ。
 密かに戦慄する護の前で、有能美人メイドはガシャコンとランチャーを構え直す。

 「まあ、3Pよりは余程良いかと」
 「さっ…3PじゃなくてThree P! それに僕は知らなかっただけなのっ!」
 「過去というものは変えようがありませんので。護様の失言は私のメモリに永久かつ正確に記憶保存するようお嬢様にも仰せつかっております」

 That sucks……と天へ向かって嘆く護にノエルがトリガーを容赦なくカチリ。網が正しく開かれるようその頭脳を無駄にフル活用した特殊弾頭が、目標へと煙を――

 「吹か、ない?」

 動作不良? お嬢様にしては珍しい、と無表情に驚愕するノエルの元へふふふふふ、と不気味な笑いが木霊する。

 「ふっふっふ……まんまと引っかかりましたねノエルさん! 何のために無駄話を続けてたと思うんですか」
 「っ! ……ま、まさか!」
 「そのまさかです。忍さんの発明品には驚かされましたけど、特殊なのは弾だけでランチャーの内部機構そのものは変わっていません。ですから使うのに不可欠な部品をこっそり壊させてもらいました!」
 「これは……迂闊でしたね。超能力とはそこまで精密に扱えるものなのですか」
 「鍛えましたから」

 少しばかり得意げな護に、ノエルは目を細めつつ砲を地に落とす。

 「……仕方がないですね。先日の焼き直しですが、武力行使に訴えるしかないようです」
 「来るならどうぞ。その瞬間にハックしてプログラム強制停止させてあげますから」

 自動人形と呼ばれるらしいが、ロボットの知り合いはたくさん居るので護にとって、そんな彼ら彼女らを物扱いすることは到底無理な話だった。そもそも外見からして目の前のメイドさんは人間と遜色ない精巧さなので、どう見たって年上の女性としか思えない。

 よって攻撃は論外にして縛るのも何か倫理的にアレな気がする。何とは言わないけれど。となると痛みなく気絶させるのが最善なのだが、中身ロボットだから外的衝撃などで気絶するはずもない。

 以上の理由からプログラムの一時停止が上策だと判断した護。
 が、しかし。

 「ハ……ハッキング……?」

 情緒豊かなメイド人形は狼狽も露わに、どうしてだか身体を隠すように抱きしめて。

 「ダ、ダメです! そんな、いきなり……」
 「……はい?」
 「いえ護様の人格や能力からすると必ずしも否ではありませんがそれは忍お嬢様の望むところではないですし確かに私はそういったこともできるよう創られておりますがだからと言って出会いから一週間も経たない殿方に私を触れさせるなど――」

 一息だ。一息でそこまで言ってまだ続いている。そうか呼吸が要らないからか成る程成る程。
 ではなくて。

 「ノエルさん、何を言って……?」
 「………ご存知の通りこの身は自動人形です。しかしそれは同時に私という存在の外装に過ぎないとも言えます」
 「はあ」

 適当に相づちを打つ護。そこから何に繋がるのかが良く解らない。
 ノエルさんは、何故か頬を赤らめもじもじと顔をそむけてしまう。

 「ですからその……私にハッキングすると言うことは……あの、私の身体の中を直接弄られるということと同義でして――」
 「解りましたっ! いいです、もう言わなくて結構ですっ!」

 理解した護も顔を真っ赤にして片手を壁のように前へ、もう片方で恥ずかしさから目元を覆う。
 ああ、女性に対してなんて事を言ってしまったのだろうと後悔。馬鹿だバカだ、僕は莫迦だ。

 「――捕まえました」
 「はぇっ!?」

 と、そんな声が耳元に届いた途端。
 今の今まで離れた位置で顔を赤らめていたはずの女性が、腕を捕らえてにっこりと間近で微笑んでいて。

 「隙有り。さあ、忍お嬢様がお待ちですよ」
 「待って待って待って下さい! 今のハッキングのお話はもしかしなくても囮!?」
 「正直に申し上げますと、ハッキングされたことがないので道理に基づいた作り話を一つ」

 うわ謀られた、と顔を引きつらせる護。そんな話をされた後でハッキングを強行する低俗な倫理観は持っていない。そして自動人形の腕力は前回捕まった忍の比でなかったことも現状悪化の一因。

 どうしよう。抜け出す手が思い浮かばない。
 いや手はあるのだ。でもそれは反則染みた裏技であって、日常のじゃれあいに使うようなものでは断じてないはず。危機にこそ用いるべきものなのだ。説明もしたくないし、第一あれは嫌いだし。
 がっちりと逃げられないよう腕を掴むノエルが、にこにこと業務用というかプロの笑顔で宣告する。

 「ではお嬢様のご命令通り――――婦人の湯へお連れします」
 「っ……!」

 危機だ。これはもう間違いなく地震雷台風以上の危機だ。否、EI01に捕虜とされた時でさえこれほどの危機感は覚えなかった。
 だからまあ仕方ない。これは、仕方がないことなのだ。
 と、内心で自己弁護。独自解釈。無能な政治家というある種護の大嫌いな連中に等しい言い訳の数々を並べ立て。

 「……機界法則プログラム
 「?」
 「――“機界存在”」

 その直後に起きた現象に、ノエルは対処する術を持たなかった。理解するのに精いっぱいで、反応する暇もなく。
 掴んでいた護の腕が、軟化する。腕だけではない。身体が、衣服が、物質としての形を失い奇妙なグラデーションを描いた一つのオブジェへと変じ、地面に呑み込まれるようにして消えてしまう。

 「………………………………え?」

 握っていたはずの手は空を切り、ノエルは一人呆然と立ち尽くした。










  「……疲れた」

 無機物に同化しての高速移動。慣れない感触に精神疲労も多大。それに全身を一時的とは言え生機融合させた後で元に戻すため、エネルギー消費が冗談にならない。しばらく戻らないならともかくだけれど、あの状態は精神衛生上有害なので出来得る限りは元の身体でいたい。
 隠密性にとてつもなく優れるから、重宝はするのだが。

 「それはそれ、これはこれとして……忍さんに見つかる前に温泉に入ろう」

 でなければここまで来た意味がなくなってしまう。
 気付かないうちに遠くまで鬼ごっこを続けていたらしく、護が旅館まで戻ってきた時と同じくして、三人に渡した携帯が移動を始めるのを感じ取った。GPS機能。正確に言うならゾンダーの出す電波を研究して創り上げた、護か戒道にしか探知不能な発信機。

 誰も見ていないのを確認しながら空間に手を差し入れ、目的のノートパソコン改造済みを取り出す。身の安全を護るためにも三人の携帯から音を拾わせてもらおう。忍さんがどこにいるか解らないのは果てしない脅威だ。

 「ねぇ、そこの坊や」
 「……何でしょうか」

 廊下の先から現れたオレンジ髪の女性に渋々パソコンを畳む。ちょっと今はそれどころじゃないんですが。

 「悪いけど、温泉はどっちか教えてくれない? どうも迷ったみたいでさ」
 「温泉ならこの道を右に曲がって渡り廊下を過ぎて左に真っ直ぐ行けば着きますよ」
 「そうかい、助かったよ。ところで綺麗な宝石だね、凄く大きなエメラルドだ」

 エメラルドとは違うのだが、ここは適当に頷いておく。
 ……それにしてもどこか声に聞き覚えが。

 「それじゃこいつはお礼だよ。またね‘‘‘、坊や」
 「え? いえそんなお気になさらず」
 「遠慮しない遠慮しない。美味いから」

 そう言って女性は護の手に袋を押し付けて、何故か上機嫌で去っていく。困惑の色でそれを見送り、護は一方的に渡された袋を覗き、

 「美味しいってこれドッグフード……」
 「あーっ! 護くん見つけた!」

 思い悩む暇もなく、さりとて返事を返す時間も惜しく、月村忍の声が聞こえた瞬間に猛ダッシュ。
 息を切らしながら安全地帯である男風呂に到着し、どうにかこうにかゆっくりお風呂を楽しんだ。
 ドッグフードは、上がった後でアリサにあげた。怪訝そうな顔をされたが、ありがたくもらってくれたので助かった。










 「先ほどのアレは超能力の一種と考えても?」
 「そうですよ」
 「嘘ですね。脈拍が一瞬乱れました」
 「不整脈ということで」

 表面上にこやかなのに、護くんとノエルさんが交わす会話の端々から寒気が伝わってくる。仲良いのかな、それとも悪いのかな、となのはは山の幸をつつきながら、アリサちゃんたちと会話しながら、そしてユーノくんと念話もしながら、更には愛杖とイメトレしながら考えてみる。

 ……すぐにパンクした。マルチタスクが崩れて頭の中がしっちゃかめっちゃかになる。

 「はうぅ………!」
 「どうしたの?」

 急に頭を押さえたなのはにすずかが疑問の目を向けるのを、なのはは何でもないとごまかした。
 マルチタスク、並列思考、分割思考……呼び方はともかく、魔法使いにとって基本中の基本。これがなかなか、難しい。

 (レイジングハートとの仮想戦闘を常時って……護くんスパルタだよ)

 それでも文句は言わない。頼み込んだのはなのは自身だから。
 だけど護くんがなのはに示してくれたのはほんの僅かなことだった。宣言通り、戦い方は教えてくれなくて、

 『本気でなのはがあの子に勝つつもりなら、これくらいしなきゃ無理だよ?』

 そう言って差し出されたのは、無茶ではあっても無理ではない仮想訓練の大盤振る舞い。AIとのイメージトレーニングを教えてくれたのはユーノくんだけれど、それを四六時中やれと笑顔で言い切る護くんは鬼だと本気で思うなのはだった。

 加えて叩き込まれた、“ケンカの心構え”。………こっちはもう思い出すのも嫌だった。

 「はい注目注目~! 護くんのスーパー隠し芸大会、始まるよ~っ!」
 「忍さん聞いてないですよ!?」

 いつの間にかそういう流れになっていたらしい。護くんは一応反論の構えを取って、でも改めてお願いされると渋々といった感じで引き受けていた。みんなに期待の目を向けられたのもあるはず。かくいうなのは自身も、興味があった。

 《何するのかな?》
 《……護なら何したっておかしくないけど》

 うん、それはよく解る。これまでだって護くんの超能力には驚いてばかり。
 ちょっとしたお食事の部屋、十五畳ぐらいの広さを持つ宴会場の端に立って、浴衣ではなくいつもの服を着てる。
 どうしてか、護くんは黒っぽい服が好き。今着てるのだってそう。お母さんはもう少し明るい色を着せようとしてるみたいだけど、護くんは頑として聞かない。意固地なぐらいに。喪服みたいだ、とお兄ちゃんに笑われた時、

 『そう見えるなら、それで良いんです』

 ……今考えても変な答えだと思う。

 《なのは?》
 《ふぇ? な、何?》
 《えっと………何でもない》
 《?》

 ユーノくん、何を言いたかったんだろう?
 そう思っても、膝の上のお友達はもう護くんの方を向いている。問い詰める気にもなれなかったから、なのはも護くんのスーパー隠し芸を楽しむことにする。

 「えーそれじゃあ……3、2、1!」

 カウントダウン。ゼロと同時に、護くんがパチリと指を鳴らす。するとそこには一輪の赤いバラ。
 おおっ、と小さくどよめきの声が上がり、

 「ってそれ普通のマジックじゃない!」

 アリサちゃんに突っ込まれてた。……えと、うん、それでもマジックはマジックで、凄いのは凄いんだけど……ちょっと期待はずれ、かも。

 「まあまあ、これからだから」
 「ホントに?」
 「うん。はいパス」

 ひょい、と投げられるバラ。綺麗な放物線を描いて、反射的に受け取ろうと伸ばしたアリサちゃんの手に落ちる寸前。
 ポンッ、と軽い音と共にバラが破裂した。

 「わっ、きゃぁっ!」

 驚いたアリサちゃんがひっくり返るのを、慌ててすずかちゃんと一緒に支える。あ、危なかった。

 「ちょっと護何す――――」

 クルッポー。

 「…………へ?」
 「あ」
 「わぁ…!」

 クルッポー、ともう一鳴き。
 破裂したバラから……真っ白いハトが、生まれて、今度こそ大きなどよめきが。

 「あははははっ!」

 目を点にするなのはたち面々を楽しげに笑った護くんが、両手を叩く。
 次々と連続して、一斉に護くんの全身から色とりどりのバラが咲いたかと思うと、両手の指を弾いた瞬間全てがハトに変わる。

 「えっ、あ、ハト? ど、どどどうやったの!?」

 拍手喝采が鳴り響く中で詰め寄ったアリサちゃんが訊ね、

 「マジックは、タネを聞かないのがマナーだよ?」

 体中にハトをまとわりつかせた護くんは、まるで取り合わないのでした。
 最後にもう一度指を鳴らした途端、ハトさんたちは光の粉になって消えてしまって、またまた喝采。
 ……護くんの超能力って、幾つあるんだろう?










 ――日は、沈み。
 静寂の降りしきる月夜。風にざわめく森の声を聞く。そこに混じる自分は異物だと、フェイトは金色の髪をなびかせ虫の音を耳に、時折通り過ぎた後で怒るように鳴く動物たちへ心の中で謝りながら、そう思う。
 光も雷も、夜の静けさに必要ないものだから。

 《フェイト、そっちは見つかった?》
 「ううん、でもこのあたりにあるのは確かなんだ。……できれば、活性化する前に封印したい」

 ほんの一週間ほど前の、虚空から前触れなく、何の反応もなく現れた少年を思い出す。魔法では有り得ない、あってほしくないその転移スキルは、ジュエルシード数個をまとめて相手にするよりも遥かに脅威的で、危険で。
 思いついた対抗策はたったの二つきり。そのどちらも実際試してみなければ、通じるかどうか。

 「そう言えば、昼の間にアルフは会ったんだよね? あの男の子に」
 《そうだよ。二十歳だとかこないだは言ってたけど、やっぱりガキにしか見えなかったね》
 「……他に何か、解ったことは?」
 《能力に関しては全然。一応魔力持ってる感じはするのに、リンカーコアはこれっぽっちも動いてないし……それだけで判断できるなら、なのはとか呼ばれてた白いお子さまの方がよっぽど危険だよ》

 ……でも、実際の危険度は逆。魔力を使わない男の子をより警戒しなきゃならない。なんて矛盾。

 ――ジュエルシードを何に使うの?

 ふと思い起こされる、彼の言葉。
 あの時知らないって答えた私は、今もまだ知らないまま。
 ……今度、母さんに聞いてみよう。こんな犯罪紛いのことまでして、どうしてジュエルシードを集めるのか。
 聞いてみよう。それがきっかけで、もしかしたら昔みたいに話せるかもしれないから。

 《――! フェイト!》

 喜色が滲んだアルフの声。

 「こっちも、感じた」

 天を焦がす青白い光を視界に収める。爆発的に膨れ上がった、魔力の波動。

 「―――見つけた。ジュエルシード」










 ドクン、と身体の奥に響き渡るような脈動。
 ジュエルシードの、発動した気配。

 《護くんっ!》
 《先に行ってて。僕もすぐ追いつく》

 廊下を隔てた隣の部屋で寝ているなのはたち三人。そこから気配が一つ離れていく。二人はしっかり眠っているみたいだから、そこは問題ない。なのはは起こされたのか、起きていたのか、それは解らないけど。
 問題は……

 「王手」
 「……待った」
 「往生際が悪いですよ、恭也さん」
 「諦めが悪いのは御神の剣士として誇れることだぞ」
 「屁理屈です。却下」
 「…………ならもう一戦だ」

 既に三度目の敗北を経て尚食い下がるその姿勢は、剣士ではなく棋士としては褒められたものなのかも知れない。あくまで棋士ならば。騎士でなく。
 お土産コーナーで買った菓子一箱(賭けの賞品)を手に取り無言で離れる。怨みがましい視線が背中に突き刺さるけれど、飽きた以前に緊急事態なので勘弁して欲しかった。
 それを説明できないのが手間過ぎる。ユーノに秘密にしてと頼まれてなかったら、とっくに話してるのに。

 「あら、護くんどこへ?」
 「ちょっと夜風に当たってきます。お饅頭でも食べながら」
 「風邪には気を付けるんだよ」

 桃子さんと士郎さんに断りを入れて廊下に出る。目に付く灯りは非常灯ばかり。例え真っ暗でも、機械法則を使えるから歩くのに苦労はしない。
 だけど、影法師のように闇に佇む人影を見つけた時は、さすがにギョッとした。

 「――どちらへ、おいでですか」

 自動人形、ノエル・K・エーアリヒカイト 。
 いつも浮かべる柔らかな笑顔は消え、そこにあるは人形の仮面。無機の表情。

 「ちょっと屋根の上で月見でも――」
 「なのはお嬢様が、見当たりませんが」

 一息に核心を突かれ、弁明も効かず、押し黙る。
 明滅するその瞳に、サーモグラフィかと推測を巡らせた。

 「護様。貴方が何をしようと、何者であろうと、私の関与するところではありません」

 昼間のアレを言っているのだろうか。
 睨むような、きつい視線。ノエルは口を開く。

 「ですが、これだけは約束して欲しいのです。すずかお嬢様を、ひいては恭也様やその他の皆様方を、決して悲しませないと」

 ――忠誠。
 曲がることなき、忠誠。

 それは、造物主への?
 それは、自分を修理した主への?

 違う。そんな機械的な思考じゃない。
 ノエル・K・エーアリヒカイト は、機械でありながら、かつての仲間と同じなのだ。
 プログラムされた命令さえはねのける、ただの機械では有り得ざるそれは、自我の発露。

 ――――魂を持った機械。

 「………………みんなが好きなんですね、ノエルさんは」

 くすりと微笑む。硬い表情を崩さない自動人形は、寡黙に返答を待つ。
 ……この人が人形のままでいるのは、勿体ない。
 奇妙な確信。でもだからこそ、奇跡の申し子はそれを押し通す。

 「忍さんに伝えてください。一科学者として、協力しますと」

 ここで予想されるべき返事と違い、ノエルは虚を突かれたような表情をする。
 虚を突かれる人形。なんて不自然。

 「それに、その約束はするまでもありません」

 廊下の先へと歩を進め、振り返る。

 「僕の名前は、“護”」

 首元のGストーンを、握り締める。

 「大切なものを護れるよう……そう願って、両親が付けてくれた………僕の宝物」

 ――大切な物を、護る。
 ――大切な者を、護る。

 「僕はこの名前に誓って、二度と...大切な人を傷つけさせたりしません。絶対に」

 行って来ます――と、護はなのはの元へと、急ぎ。
 自身は、気づかない。幸いにも、偶然にも、無意識に漏れた言葉故に、その意味を理解せず、その意味を回顧せず、記憶の封印は反応を示さず。

 「二度と………?」

 自動人形は、ただ呆然とそれを反芻する。優秀なメモリに、刻みつけて。





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 その部屋は彼女のプライベートルーム。正確には執務室。装飾よりも実務性を重視した内装は、彼女の性格を如実に再現するよう。
 ロゼ・アプロヴァール。国連事務総長であると同時に大国首脳陣が集う最高評議会議長をも務める世界政治のカリスマ。彼女の誇る深謀遠慮は今なお健在で、振るわれる手腕に衰えは見られない。

 『来たね、悪ガキ小僧』

 そんな現代の傑物である彼女が、相好を崩して迎え入れる人物は限られている。手ずから紅茶を淹れる相手など、両の指よりなお少ない。

 『もう……いつまでも悪ガキじゃないですよ』

 にんまりと笑うロゼに唇を尖らせるのは、GGG出向天海護特別隊員。現在左官待遇。
 敵味方から様々な異名で呼ばれているが……多すぎるので割愛。良くも悪くも目立つ存在である上、自身を戦いの渦中に放り込みながらも広告塔の役割まで果たし、世論を仲間に引きずり込んだ弊害だった。……実害はゼロだが。

 『あたしから見ればね、男なんてみーんな悪ガキだよ。特に――前科がある小僧なんかはねぇ?』
 『う……それはその…………返す言葉もないですけど』

 まだ護がハッキングを習い始めて幾月かが経った頃。
 遊び感覚で国連のコンピューターに侵入を仕掛けたのが拙かった。それが成功してしまったのが尚更。電子を手足の延長のように操る護から見れば、国連のファイアウォールも穴だらけだったのだ。
 結果としてあらゆるパソコンがエラー状態と化し大混乱に陥った国連なわけだが、慌てた護がファイアウォールをより強固に再構築し事なきを得た。公的には意味不明の未解決事件と処理されているが、個人的に謝罪に行った護から話を聞いたロゼは呵々大笑し、以後悪ガキと呼ばれるようになってしまっている。

 『久し振りに愉快だったよ、あれは。完璧だと謳っていた防壁が次々突破された時の議員たちの顔と言ったら』
 『…………帰ります』

 踵を返した護の背後で、ロゼは愛用の杖を床に打ち付けた。細腕とは思えない音が反響し、驚いた様子で護が振り返る。

 『どんな種類の会話でも――――席を立った瞬間、そいつの負けだよ。良く覚えておいで』

 席に着けと指差されて、気まずげに護は腰を下ろした。
 よろしい、としわくちゃの顔に微笑を湛え、国連事務総長は透明なビニールカバーに包まれた幾つかの真新しい書籍を、対面に座る護へと押しやった。

 『頼まれていた指揮官用のマニュアルと、その手の参考書だよ。前線だけじゃ飽きたらず、後方指揮までするつもりのようだね?』
 『あの、どうして総長さんが? 僕が頼んだのは……八木沼長官のはずなんですけど』
 『あたしの方が確実だからね、色々と。………そら来た、小僧宛の通信だよ』

 部屋の壁に大写しとなる映像通信。そこに見知った顔を見つけて、護は目を丸くした。

 『――楊司令?』
 《久し振りだね、天海護特別隊員。……その節は済まなかったと言っておこう》

 常の冷笑を一瞬潜め、謝罪の言葉を口にする楊龍里ヤン・ロンリー
 ラウドGストーンのことだと瞬時に悟る護だが、苦笑のような、自嘲のような微笑みで、首を横に振った。

 『楊司令の責任じゃありません。ザ・パワーを軍事利用されるより、状況はまだマシですから。……最善、とは言いがたいですけど、人類にとって最悪の結果にはなってません』
 《良く解っているな。だがそれだけ感情を排し客観的に物事を見られるのなら、この仕事を引き受ける価値もあるだろう》

 仕事? と疑問を口の中で呟く護るに、ロゼは言う。

 『国連宇宙軍司令には、小僧の家庭教師を務めるよう打診しておいた』


 ……………………………………………………は?


 『考えられる限り最高の教官だよ? もっと喜んだらどうだい』
 『いや、あの…………楊司令は宇宙軍の仕事と、中国科学院の研究が……』
 《そうだな。なら授業料として君にも手伝ってもらおうか。両方..

 何言ってますかこの人、とフリーズした頭で考える護。

 《ククク……まさかノーリスクで教えを請おうなんて思ってはいないだろう? ならばこれは正当な対価だ。安心しろ、脳髄のしわが今の二倍になることは請け合っておく》

 どこをどう取れば安心できるのだろう。不安しかない。

 《ちなみに拒否権はない。事務総長命令だ》

 ついでに、逃げ場もなかった。自分のペースで学びたかったと主張したところで後の祭り。
 二人の最高権力者に逆らえるはずもなく、それなら死ぬ気で実力を上げてやると、前向きな気持ちに切り換えて護は首を縦に振るのだった。










 部隊員に新たな辞令を伝えるべく護が去った室内にて。

 『で、しっぽは掴めたかい?』
 《なかなか戦上手、と言わざるを得ませんな》
 『……そう簡単に馬脚は現さんか。厄介だねぇ』

 くい、と楊龍里は眼鏡の位置を直す。

 《内通者がいることには間違いありません。でなければ―――一年前のテロは、成功していないでしょう》

 ……沈黙。それが数秒。

 『何にせよ、今からがチャンスだよ。小僧の目がないうちに、内々で処理しておくれ』
 《過保護だと……思いますがね。貴女が考えているより、我らが小さな英雄は強いですよ》
 『泥を被るのも、手を汚すのも…………本来は大人の仕事なんだよ』

 そうして、通信は切れる。
 思惑に差異はあれ、両者の抱く想いは等しく。
 ただ護る者か、護られる者かの違い。
 汚濁にまみれた暗闇の闘争は、世界にその実態を知られぬまま、密やかに這いずり回る。





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次でいよいよフェイトと護がまともにぶつかる……かも。
ところで無知なゆめうつつから質問があります。バイオネットのドクター・タナトス……いずれ登場すると思われるので口調が解る方教えてください。誰も知らないと言うか、ほとんど情報がないのなら、半ばオリキャラ化して出演させるのですが。よろしくお願いいたします。

jannquさん あー……スターライトとかは、どうだろう? 多分防げないとは思いますが、その時書いてみないと解りませんね。ゆめうつつ自身のことながら。

ルファイトさん ほのぼのでしたね、前回。そして今回も――まあ過去編を除きますが。そして闇の書事件……ラスト書きたいのがあるのにそこへどう至ればいいのか不明という状況。ぶっちゃけ構成決まってません。始まりと終わりだけ確定してますが。美陰書房のは暇を見て読ませてもらっていますー。

みけぬこさん やー、すいません。ゆめうつつが九州在住なもので、違和感なく書いてました。ご指摘どうもです。

俊さん ……何だか誤字修正が恒例になっております。ありがとうございます。よくこれだけ気づけるなーと感心する次第。……携帯に特殊機能、ありますけれど。何かとは言いませんが。

a-23さん 自爆させるのが難しいと答えておきます。ええ、あくまで難しいと。

sinさん あー……まあおっしゃる通りなのですが、ユーノは危機を身近に置く考古学者であって科学者ではなく、それに戦力分析というか熱も衝撃も大気圏突破の際として書いたつもりなのですが……。さておき、なのは本編はもう少し魔法を日常のことに使っているシーンがあっても良いんじゃないかな、と。ゆめうつつは見たいですね。

雑用さん すいません、実写トランスフォーマーを知りません……特殊機能はありますが。

風見さん 管理局とGGG、確かに治安維持は共通してますけど、GGGに許可されてるのは鎮圧であって逮捕とは違うようですよ。そもそも設立の目的が違いすぎるので比べるのは何かおかしい気もしますが。


……さて、護の恋愛。皆さん結構気にしてます。しかしここには現在落とし穴があったり……なかったり。
では、また次の更新で。



[5916]       第十話 始まりの胎動
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:80c1420b
Date: 2010/05/28 11:57
 速射砲の如き連射速度と弾頭初速をもってズガガガガと障壁に着弾の嵐。持たないと判じた高度AIが主との瞬間の遣り取りののち障壁ごと爆破。重く練られた魔力の防護服はその衝撃をほぼ完璧に吸収し、揚力を生んだ小さな翼が身体を下へ――

 「っ!?」

 下から、回り込んでいた一群が要撃の態勢、これ以上ない待ち伏せで放たれ標的を狙い撃つ。驚きでコンマ五秒遅れた思考は致命的な間となって、ギリギリで張られた即席のプロテクションに阻まれ金属の光を散らす。
 アルミとスチールの破片を撒き散らしながら落ちていく――空き缶の群れ。月光をキラキラと反射させた幻想的な空間の狭間を、一際重い――具体的には500ml――のプラスチック製弾丸がすっ飛び桃色の障壁を貫き、あろうことか真っ白なバリアジャケットの上から肉体へ衝撃を届かせた。

 「あっ……ぐ……!?」

 そして―――解けた障壁の向こうから、金属の大群が顎を開いた。





 ふわふわ浮いていた空き缶が、たった今重力を思い出したみたいにすっと落ちて、ゴミ箱の中で何度か跳ねる。甲高い音が、からからと。

 「魔法と言っても、物理的にはただ頑丈な膜でしかない。過剰な力を受ければ摩耗して、魔力を一切用いない攻撃にだって今みたいに破れることもある。運動量、つまり力は質量に加速度を掛けたもの。威力はそれに物体の硬度や着弾の角度も考慮する必要があるけど、それなりの速度を与えてやれば、ペットボトルでバリアを貫くこともできる。……まあ普通はできないから、空き缶は機関銃、ペットボトルは対物ライフルのイメージでいいよ」
 「は、はい……」
 「それと、空で下方向へのポジショニングはダメだよ。重力に乗って速い初速が得られるけど、重力下だからこそ上から下への攻撃は効果的で、逆はやりにくい。空戦を選ぶなら、できる限り敵の頭上を確保する。これは絶対。OK?」
 「……はい……」
 「うん。じゃあ、今日はここまで」

 西日がとっくに沈んだ星の瞬く夜空を背景に、まるで疲れた様子のない護くんが地面に降りてくる。散らばっていた空き缶やペットボトルが浮かび上がり、続けざまにゴミ箱へ飛んで行く光景は何度見ても見慣れない。
 魔法と全く違う現象操作システムは、魔法の使い方の役には立たないけど、魔法を使った戦い方の参考にはなっている。
 護くんが言うには、魔法も超能力も、そして科学兵器も根本は一緒。扱い方が違うだけで、扱うのは人間。対処の方法が違うだけで、対抗策は存在する――。

 「……僕が言うのもなんだけど、よく頑張るね」

 自覚があるならもっと手加減してほしかった。

 「でも……それだけに解んないな」

 ぜいぜい荒いだ息を整えていると、片付けの終わった護くんが神妙な顔でそう呟いた。

 「あの使い魔を連れた魔導師に……初対面のなのはが、こんなにくたくたになるまでして勝ちたい理由が、解んない。抑えようと思えば僕だけで二人とも抑えられるし、その間になのはがジュエルシードを封印するって作戦が、一番無難で確実で……」

 開いた口を閉じ、護くんは溜息して断念する。それはもう何度かした議論。私が“戦い方”を学ぼうとするのを、諦めさせようと意図した言葉。
 言われなくても解ってる。付け焼刃で戦う力を求めても、得られる力はどこか歪で不完全な物になることは。
 言われなくたって、解ってる。合理性と、効率性から見た視点で間違っていることは。
 ――でも。

 「寂しそう……だから」

 ?と護くんが頭の上にクエスチョンマーク。隣で私と同じく呼吸を整えていたユーノくんも、何事かと見上げてくる。

 「なのはと……昔の私と、おんなじ眼をしてるから……」

 血を透かしたような、赤い眼差し。触れれば切れるような気配をまとった、その奥底で、沈み隠れて今にも壊れそうな……心。
 土の上にへたり込んでその時のことを思い出しながら、力なく笑った。

 「私が小さい頃……お父さんが仕事中に大怪我してね、翠屋の経営も軌道に乗ってなくて……お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、喫茶店のお手伝いやお父さんの看病で手が離せなくて、私はいっつも一人で置かれてて……だから、迷惑かけちゃいけないから、大人しい良い子じゃなきゃいけなかったの。……それがよかったとか、悪かったとか、今さら考えたって解んないけど……」

 星空を見上げて、護くんとユーノくんの視線を感じて。

 「それでもやっぱり、寂しかったなー……って」

 誰が悪かったわけでもない、ただそういう状況になってしまっただけのお話。誰にも責められるべき責はなくて、だからやり場のなかった鬱積とした感情。
 いい機会だから、話してみた。家族の誰にもこんなことは言えないから、その時とは無関係の、今では共通の秘密を抱えた友達に。
 すっかり、とはいかなくても、胸のつかえが少しだけ取れたような気がする。何となく照れ臭くなって、はにかんだ。

 「…………安い同情心は身を滅ぼすよ?」
 「にゃ!?」

 直後友達の一人が沈痛そうな――頭のかわいそうな人を見るような――表情でいろいろと台無しな発言をして、疲れも忘れて詰め寄る。

 「や、安いってなに!? 同情は認めなくもないけど、それちょっと心の人権侵害だよ!?」
 「じゃあしっかり弁護士呼んで裁判所に訴えてね。抗議はそれから聞きます。――妨害するけど」
 「ま~も~る~くぅぅぅぅん?」

 襟首引っ掴んでゆっさゆっさ揺するけどこたえた様子もない。歯噛みしながら手を離すと、護くんは服に付いたしわを伸ばして小さく笑う。

 「でも、本当はそういう気持ちが一番大切なんだって、知ってる人はあんまりいないんだよね」
 「あー、言った傍から前言を翻す!」

 ふくれっ面をしてみせると、護くんはまあまあと両手を挙げて。

 「同情できる人間は優しい心を持ってるんだよ? もちろん、同情を嫌う人もいるし、同情の仕方も気をつけないと、さっきも言った通り両方のためにならない。……僕が聞いた最悪の事例は、戦場で子供を拾って連れ帰って優しく育てたら、実は敵国のスパイで一家惨殺部隊壊滅。挙句の果てに町が一つ滅びたような……」
 「……さ、さすがにそんなことにはならないと思うけど」

 というより、どこでそんな話を聞くんだろう。

 「まあそういうことで、手を差し伸べるなら相手をしっかり見て、最後まで手を離さない覚悟でいないと、なのはも傷つくしあの魔導師の子も傷ついちゃうからね」

 その覚悟があるなら、応援するよ――という言葉で締めくくり、護くんは一歩も動けないでいるユーノくんを摘まんで桜台の登山道を降り始める。まともに運べ―、とぐったりしたまま訴えるユーノくんに、抗議は裁判所で、とまたさっきのセリフを口にする。うっかり笑ってしまう。
 帰り道は飛ばずに歩いて。護くんが最初に決めたルール。このクールダウンが、実は一番きつい。へとへとだから。

 「……心配してくれて、ありがと」

 聞こえないように、こっそりと。
 私は大丈夫。私が立ち直ったのと、同じことをすればいいだけだから。
 名前も知らない金色の、黒マント羽織って空飛ぶ魔導師。

 (……あの子と友達になって、アリサちゃんやすずかちゃん、みんなと一緒にお話ししたら、きっと楽しい)





 ――――そう、きっと楽しいはずだから。





 「……私、高町なのは。あなたの名前を、聞かせて?」









 ☆     ☆     ☆





 翠の眼をした、男の子。自称二十歳な、見た目私と同い年ぐらいの、けれど決定的に異質な少年。
 この世界どころか、次元世界の基準からしても異質と言うよりなかった。
 魔法を使わない非魔導師。使うのは、正体不明のバリアと、転移。そして物理加速魔法にも似た力。隠し玉があるかは不明。でも、あると仮定した方が戦術的に正しい。
 バリアはアルフの突進を受けて小揺るぎもしないほど堅くて、しかも全方位型。その上魔法じゃないからアルフの得意なバリアブレイクも効果なし。……改めて考えてみても嫌味なくらいに強力なバリアだ。
 これを破る案は二つ。力づくでバリアを貫くか、防御反応も取らせない速度で攻撃を当てるか。……そもそも当てさせてくれるかという問題があるから、どっちのプランで行くかはその時の状況で決めないと。個人的な希望で言えば魔力消費の少ない高速打撃が望ましいけど……高望みは、しない。堅実に、破る。
 でも、そんなこちらの思惑を嘲笑いそうな力が、転移。最悪防御も攻撃も全てすり抜けて、ジュエルシードだけを奪われる展開も考えられる。
 そんな危険を冒して、封印の終わったジュエルシードを手に持ったまま離脱しないのは、あの男の子たちがどれだけジュエルシードを持っているか解らないから。
 一つ? 二つ? それとも十?
 まだ幾つか曖昧な反応を感じるけど……母さんが何個必要としているのか、私は聞いていない。できるだけたくさん、持っていかないといけない。

 (そんなことも……私は知らない)

 母さんの目的、ジュエルシードの必要数、なぜ非合法な手段を取るのか、など。その全てを、私は知らない。知ろうとも思わなかった。
 ――けど。

 (ジュエルシードを集めることと、関係はない)

 サーチャーで死角をカバーした、小川に架かった橋の上、アルフと一緒に待ち受ける。
 ……戦い以外に考えた選択肢。あまり期待せず、でもやるだけやってみようと思った第二案。





 『こ……交渉?』
 『うん……多分、成功しない。でももし――成功したら、一度に複数のジュエルシードが手に入る』

 その時のアルフは唖然とした様子で私を見上げていて、実際私も自分が何をやるつもりなのか半分ぐらいは解ってなかった。
 交渉。ネゴシエイト。互いの利益に見合う妥協点を見つける行為。

 『決裂したら、それはそれで予定通り。これまでとやることは全然変わらない。……だけど、あの人たちが何を考えてジュエルシードを集めてるのかくらいは、知ってて損はないと思うんだ』

 頭から離れない、言葉がある。

 ――――ジュエルシードを何に使うの?

 ……そう聞いたあの男の子は、何のために、どうして、集めているのだろう。
 なぜそんなことを聞きたいのか、自問しても答えはでない。
 ただほんの少し……考えようと、そう思った。何にも考えないで言われた通りに動くのは、機械や人形の仕事。

 『私は……母さんの娘だから……』
 『フェイト?』

 何でもない、とアルフに首を振る。玄関から、屋上への階段を上る。

 『行こう、アルフ。あの男の子が来ても、来なくても、私はジュエルシードを手に入れないといけないから』

 吹き抜ける風が黒いマントをはためかせ、空へ吸い込まれていった。
 飛行魔法を起動。従者を引き連れ、青と白が支配する天空に黄金の軌跡を引いて、探査に反応があった方角へ飛翔する。





 ――――名前も知らないあの男の子に、何て聞こうか。と、悩みながら。





 「……私、高町なのは。あなたの名前を、聞かせて?」
 「………………」





 興味も関心もなかった白い魔導師が先に来て、このパターンを想定しなかった自分を激しく呪った。









 ☆     ☆     ☆





 「――で、話を聞きに行ったはずなのに何でバトルに発展してるの?」
 《……ええと、「キミに聞くことは何もない」、「あの男の子はどこ?」、「早く呼んで」……って、なんだかまるで相手にされなくて……怒ったなのはが魔法使って開戦。使い魔もどこかに消えちゃって、今捜してるとこ》

 ユーノの説明に天を仰ぐ。桜色と黄金色の光が弾けては消え、夜空を限定的な花火会場と化している。
 手近な木の頂上付近、折れそうで折れない枝の上に立ちながら小さく吐息を零す。このところ溜息が増えたのは、決して気のせいじゃない。

 (甘いなー……)

 自分が。ひしひしと、実感する。
 戦略的かつ安全面を考慮して、なのはには封印にだけ集中してもらうのが一番手っ取り早い。それ以外の障害は全て自分が引き受けるべきで、実際そう主張もした。けれど、こうしてなのはを矢面に立たせているのは、本人の意思を尊重した結果。
 ひどく幼稚な、感情論。同情に端を発した、自己満足。
 ――そう、切り捨てられたらどんなにいいだろう。
 十年前の自分はどうだったかと、ふと思い。

 (結構無茶やってたかも……)

 腸原種の船に単独で乗り込んだり、ステルスガオーに密航したり、明確な力の自覚もないままゾンダーに相対したり……。
 GGGのみんなを随分と心配させて、迷惑をかけたなと今更ながら。直感に従って、それが正しかったこともあるけど、やっぱり無謀は無謀で、無茶は無茶。
 ズガン! ズバン! と鎬を削る魔力の奔流に、そう言えばユーノ結界張ってないと顔をしかめる。とりあえずその指示を送り、広大な空間が現実から切り取られる様子を眺めた。

 「……学校がゾンダーに襲われた時は焦ったっけ」

 いつも過ごしてる場所がまるで異次元のように感じられて、よくもまあ被害がゾンダーロボの材料にされた理科室だけで済んだなと、後で思いっきり安堵の息を吐いた。

 「あの時も結構、無茶したよね……」

 数納と狐森の活躍で事なきを得たけれど、自分が覚悟を決められないばっかりに、みんなを危ない目に遭わせてしまったのも事実で、苦笑いしたくなる思い出。同じようなことが、何度あったか知れない。

 「下手したら五人ともお陀仏してた」

 かも――と、言いかけた言葉が途切れる。今、見逃してはならないことを、言った。
 五人。自分、数納、孤森、ウッシー。

 あと一人は.....だれ..





 元の世界でもよく勘違いされたことだが、浄解モードを解いた護は、肉体的にはただちょっと鍛えた地球人と何ら変わりない。GS兵器でさえ歩兵装備クラスならほぼ無効化できるバリア故に、肉体強化は効率が悪いと結論付けて、戦闘時における身体の強化をゼロにした。
 時には単身で一部隊、一個師団相当のバイオボーグを相手取らねばならなかった、類稀なる戦闘技能の精粋にして弊害。世界を縦に渡ってからも、一度としてダメージを負っていない我が身への油断と、防壁への過信。
 練り上げられたが故に生じた絶対防御の隙間風。心を保つがための記憶制御が生んだ意識の空隙。
 今の天海護を形作るために講じた手段が、皮肉にも決定的な秒間の空白をもたらし。

 ――――無防備な背中に、獣の爪撃が振るわれた。










 ☆     ☆     ☆




 苦鳴のような無秩序な念話が付近一帯の空域をノイズのように駆け抜けた。

 「! 護くんっ!?」
 『戦闘中ですマスター!』

 相棒たるデバイスの呼びかけにはっと意識を戻し、真横から襲来した大鎌を危ういところで受け止めた。
 図らずとも至近で睨みあう態勢で、フェイトが紅い双眸を側める。

 「アルフが、上手くやったみたいだ」
 「狼の、使い魔さんのこと!?」
 「本当は私がやりたかった。……けど、貴方が来た」
 「護くんに、何を……!」

 ギシギシと純粋な腕力に押され、魔力の切っ先がなのはの喉元へと迫る。
 こういう時は自分の貧弱さが恨めしいなのはだった。

 「上手くいったなら、それでもいい。ジュエルシードのことは貴方から聞く」
 「ナチュラルに人の話無視しないでっ!」
 「貴方たちがジュエルシードを集める理由は?」

 本気でマイペースな魔導師になのはは頭をかきむしりたくなった。
 両手が塞がって、無理だが。それでも問答無用に力尽くよりましだが。

 「私は……私がユーノくんを手伝うのは、ジュエルシードの本来の持ち主がユーノくんだから!」
 「…………」

 聞きたいことは聞くフェイト。邪魔せず傾聴。
 それだけ? と目が問うている。

 「ジュエルシードが発動して、町が大変なことになったことだったあるの。そんなことにならないために、家族や友達を護りたいからっ、私はジュエルシードを集めてる!」
 「……それなら、私も一緒。私は母さんのためにジュエルシードを探してる」
 「そんなのっ……悪いことをする理由にはならないよ!」
 「貴方には関係――」
 「あるっ!!」

 震えるほどの大音声に、気圧されたフェイトの力が緩む。すかさず押し返しながらなのはは叫ぶ。

 「私はっ、貴方ともお友達になりたいっ!」
 「……?」

 きょとん、とびっくりした猫みたいに何度か瞬きしたフェイトが、首を傾げる。

 「……私と貴方は、敵同士」
 「貴方じゃなくて、なのは!」
 「………」

 ぱちぱち。ぱちくり。

 「ほら、言ってみて!」
 「…………。…………なの、は?」
 「そう、そうだよ! 私の名前は、高町なのは! 貴方は?」
 「フェ……フェイト・テスタロッサ」

 思わず答えて、あれ? と思う。

 Q;何で私素直に答えてるんだろう?
 A;そもそも会話に持ち込んだのが間違い。

 なのはの押しの強さは尋常じゃあなかったのだ。

 「えーっと、それでね、フェイトちゃん。私たち、仲良くできると思うの」

 にこにこ。

 「……」

 武器、向け合ってるのに。
 しかも馴れ馴れしい。

 「最初は無理でも、ゆっくり仲良くなればいい。だからフェイトちゃん、友達に、なろう?」
 「…………」

 ね? と語りかけてくる笑顔が。
 フェイトは急に、怖くなった。
 デバイスと魔法を突き合わせて、先日は空から叩き落とされた相手に笑いかけられる精神が、理解できない。
 理解できないものは怖い。理解できない無償の優しさが怖い。
 優しかった母さんが変貌したように、目の前の少女も突然ひどい言葉を投げるんじゃないのかと、疑いが消えない。
 それはフェイトが目を逸らして見ないようにしてきたものと、とてもよく似ていて。
 もしジュエルシードを集めても、元の母さんに戻らなかったら――という恐怖と、相似して、思い出し、眼前に突きつけられて。

 「……ぁ……ぅ」
 「フェイト…ちゃん?」

 力の抜けたデバイスがカチャカチャと震えぶつかる音になのはが疑問を呈した、瞬間。




 ――――極紫色の光が、夜空へ光の柱を打ち建てた。









 ☆     ☆     ☆




 「っ……先日から感知していたロストロギア反応、増大っ!」
 「例の奇妙な次元震を観測した世界……間に合わなかったのか!? ――艦長!」
 「巡航速度から最大戦速へ移行。アースラは引き続き、第97管理外世界へ向かいます。総員、緊急戦闘配備。暴走したロストロギアの即時封印も考えられます、警戒は密に。……エイミィ、予測到達時間は?」
 「9分27秒後には、該当エリアへの次元転送が可能です!」
 「クロノ執務官、貴方も出撃準備を」
 「了解。対象の解析、その他サポートは任せるぞ、エイミィ」
 「任せてよクロノくん、お姉さん頑張っちゃうから!」
 「……空回りしないかが一番の懸念事項だ」










 かくして、始まりの役者は集う。






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……はい、およそ半年ぶりの投稿です。すいません、石投げないで。銃向けないで。アルカンシェルはご勘弁を!
と、おふざけはここまでに。そしてまことに申し訳ないことに、過去編なしな上現在時間がなく感想返しもまた明日です!すみません!でも投稿したから許してほしいです!催促に負けました!
次話は最優先で書かせていただきます。以上!


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