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児童ポルノブロッキング 「方式」「管理団体」決定これから

 ◇効果発揮へ課題多く 業界内、くすぶる不満

 児童ポルノの「速やかなブロッキング」を盛り込んだ政府の児童ポルノ排除総合対策案。年度内の実施に向け、今後は遮断方式や、対象となるアドレスリストを作成し、プロバイダー(接続事業者)に提供するアドレスリスト作成管理団体の運用などが焦点になる。インターネット業界内で不満がくすぶるなか、ネット上での画像のはんらんに歯止めをかけることができるのか。児童ポルノ対策では「途上国」とされる日本。真に効果のあるブロッキングに向け、課題は山積している。【鮎川耕史、丹野恒一、望月麻紀】

 「ピンポイントでブロッキングできる方式を取っていただきたい」。27日の記者会見で中井洽・国家公安委員長は今後の課題について発言した。警察庁幹部は「ハイブリッドフィルタリング方式のことだ」と推測する。特定の画像に対して直接遮断できるため「精度の高い方式」と評価されている。

 これに対して、インターネット業界はホスト全体を遮断する「DNSポイズニング方式」導入に傾斜する。前者に比べ、設備投資の費用が安く、技術的にも易しい。だが画像単位での遮断はできない。ホスト内に児童ポルノ以外の画像がある場合、過剰遮断になる。避けるためには遮断を断念するしかなく、実効性への懸念が指摘されている。

 18日に総務省の有識者研究会に出席した大手プロバイダーなど4社のうち、2社が後者の導入を検討する方針を示した。前者を挙げた事業者はなかった。

 中井氏は会見で「(方式選択を)業界が自主的にやることは大変結構。ただホスト全体に対するブロッキングでは焦点がぼやける」と述べ、業界にくぎを刺した。一方、ネット事業者などで作る「安心ネットづくり促進協議会」幹部は「社会的な要請もあり、ブロッキングはやむを得ないというのが業界の考え方だ。積極的な立場ではない」と話す。

 また、アドレスリスト作成管理団体のメンバーの選定、運営方法も今後の課題となる。「官民連携」を重視する警察庁と、「民間主導」を主張する業界。協議会の20日の会合では「リストの作成に民間の意思を100%反映できる団体が必要」との意見を受け、リスト作成団体を研究するグループの設立を表明した。あるプロバイダーは「過剰な削除範囲の拡大を招かないための方法など議論が必要」と話す。

 一方、児童ポルノ問題に詳しい後藤啓二弁護士は「ブロッキングに関して事業者が『民間』という時、子供を守る視点に立つ層を含んでいるかどうかが問題だ。費用やリスク負担の軽減を重視するあまり、子供の被害防止が置き去りにされては本末転倒になってしまう」と指摘する。

 今回の対策案について、問題点を指摘する声もある。

 あるプロバイダーは「憲法や電気通信事業法が定める『通信の秘密』を侵害する行為だけに、違法性を問わないと定める『緊急避難』としての整理が前提だった」と話す。法的な整理を見送る政府の結論に「事業者に訴訟リスクを負わせるのか」と不満を募らせる。

 日隅一雄弁護士は「ブロッキングはサイトの運営者の表現の自由と、アクセスしようとする閲覧者の通信の秘密にかかわる大きな問題だ。慎重な運用が求められる」と指摘する。

 一方、画像を個人で楽しむ目的で所有する「単純所持」の処罰化については国会の対応に委ねられた。日本の児童ポルノ対策で国際社会から強く要請されてきた問題だ。

 民主党は26日、法務議員政策研究会に法改正に関する分科会を設け、初会合を開いた。「芸術性のある作品とそうでない作品を言葉でどう区別するのか」「小学生と高校生の画像を同じ法律でくくるのは無理がある」などの意見はあったが、単純所持処罰化の是非までは議論が進まなかった。会長の今野東参院議員は「長々と時間をかけるつもりはない。問題点を洗い出したら、どこかで線を引くしかない」と話すが、先行きは判然としない。

 ◇世論の支持受け「成功」--04年から実施の英国

 英国では幅広いインターネット関連企業が自主的に資金を出し合い、96年に独立組織・インターネット監視財団(IWF)を設置した。IWFは検察、警察当局との覚書に基づき、国内法に基づく違法サイトのリストを作成し、プロバイダーの全面協力を得て、04年からブロッキングを実施している。

 IWFは自らのウェブサイトにホットラインを設け、市民やIT専門家から情報を受け付け。警察から訓練を受けた民間分析官5人が違法性を判断する。違法性の基準は司法当局が規定している。英国内の違法サイトについては、IWFが警察に通報し迅速に削除される。このため、違法リストに掲載されるのは国外サイトのみだ。IWFは当該国の連携する民間組織やICPO(国際刑事警察機構)にも通報する。

 IWFが09年に受理した児童ポルノの通報は3万3682件で、うち実際に違法と判断したのは8844件。英国内では40件の違法サイトを検知した。

 IWFは1日に2回リストを更新するが、常時500~800のアドレスが掲載されている。ロンドン大学クイーンメリーのイアン・ウォールデン教授(情報・コミュニケーション法)はリスト掲載の効果を「英国内サイトによる違法な児童ポルノの流通を排除した」と評価する。

 ブロッキングの導入に際し「通信の秘密」などを巡る目立った法律論議はなかったという。ウォールデン教授は「IWFは児童ポルノの取り締まりという世論の支持がある問題に限定して取り組んでいるから成功している。これは例外ととらえるべきで、自殺サイトなどにも管理を広げれば、論議を呼ぶだろう」と指摘する。【ロンドン笠原敏彦】

毎日新聞 2010年5月28日 東京朝刊

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