iPad の意義は何か? パソコンとケータイの中間であることか? 電子書籍が読めることか? 私の考えでは、読むことに特化していることだ。
──
これは「 iPad の本質は何か?」という問題だ。それに対して、私はこう考える。
「形状的には、キーボードがないことが特徴だ。そのことで、読むことに特化している」
読むことに特化しているというが、読むことならばパソコンだってできる。だから、「読める」ということは、本質ではない。かわりに、「書けない」ということが本質だ。
( ※ ソフトウェア・キーボードを使えば、画面上で打つことはできる。だが、ブラインドタッチは困難だから、能率は著しく劣る。書くことは本来の目的に入っていない。)
では、「書けない」というのは、どういう意味か? こうだ。
「 iPad は、知的生産の道具ではない」
これは非常に重要だ。これまでのパソコンやワープロは、知的生産のためにあった。大量の情報処理や、文章作成や、表計算など、実務的な知的生産において、多大な効果を発揮してきた。(そこでは情報が生産された。)
しかし、iPad は、そうではない。知的生産をしようにも、キーボードがないのだから、(ろくに)できない。
では、何ができるか? 自分で何かを生産することはできなくても、他人が生産したものを受容できるのだ。次のように。
・ ネットサーフィン
・ 電子書籍をダウンロード (読む)
・ 画像や動画をダウンロード (見る)
・ 音楽をダウンロード (聞く)
これらは、生産する活動ではなく、受容する活動である。そして、そのためには、キーボードが必要ない。必要ないから、省略できる。そのことで、どうなったか? ミニノートならば、(キーボードのある)「本体」と(画面のある)「蓋」という、2枚が重なっていた。だが、iPad では、1枚だけで済むようになった。
つまり、「書く」という機能をそぎ落とすことで、携帯性を大幅に向上させたのだ。
これはいわば、「固定電話から携帯電話へ」という移行に似ている。
・ 固定電話 = デスクトップパソコン (携帯性がない)
・ 自動車電話 = ノートパソコン (携帯性はあるが重たい)
・ iPad = ケータイ (とても軽量で、携帯性は十分)
単純に軽量化するだけなら、Net Walker のような超小型パソコンもあるが、キーボードが小さすぎて、まともに打てない。読むのも書くのも、中途半端だ。ポメラ というのはあるが、メモ書きができるだけで、他の能力は皆無だ。
その一方、iPad は、「読む」能力においては、パソコンに遜色ない。それどころか、部分的には上回っている。(操作性の良さで。)
というわけで、「読む」(見る・聞く)ことに特化するのが、iPad の特徴だ。そして、それは、パソコンの本来の使い方である「知的生産のため」という目的を、あっさり捨てたことによって実現した。
──
当然ながら、iPad は、知的生産のためには役立たない。(臨時的にソフトウェア・キーボードを使うことはできるが、それだけだ。)
したがって、知的生産を主たる目的とする人には、あまり評判がよくないと思う。特に、ポメラが大好きだ、というような人には。
その一方、知的生産ななんかしない人(世間の大部分)にとっては、iPad は「これこそ待ち望んでいた商品」と思えるだろう。
「キーボードなんか、あまりいらないんだよ。メールさえ打てれば十分」
という人が多いはずだ。(だからケータイでメールを打ったりする。)
そういうわけで、一般大衆に iPad が受けるのは、当然のことだろう。そして、そのことは、 iPad が従来のパソコンの使用法の枠外で発想されたから、できたことだ。
アップルは、iPad の目的を、「知的生産」からはずした。だから、その低価格と相まって、爆発的な人気を博した。
マイクロソフトは、タッチパネル式の操作ができるシステムを用意したが、そこではあくまで、「知的生産」が目的となっていた。だから、それは失敗した。
ついでに言うと、タッチパネル式 Windows 機器は、すでに存在している。しかし、とても高価だし、まったく売れていないようだ。おそらく、例によって、「より多くのできる高機能さ」を追究したせいだろう。「より少なくできる」ということを追究した(そして安価にした)アップルとは、方向が正反対だ。だから、アップルは成功して、マイクロソフトは大失敗をした。
( ※ ただしマイクロソフトのことだから、そのうち物まねの機種を出そうとするだろう。軽量の OS を使った新機種が出る。名前は WinPad かな。パッとしないが。 (^^); )
【 追記 】
「読むことに特化する」という点では、「聞くことに特化する」という Walkman とよく似ている。 iPad は形を変えて再来した Walkman だ、と言えそうだ。
[ 付記1 ]
Amazon のキンドルとの比較もしよう。
キンドルもやはり、読むことに特化している。しかし、特化しすぎている。本当に書籍を読むことしかできない。となると、そのための専用マシンとなるから、コストパフォーマンスが悪くなる。電子書籍を安く買えるとしても、回収するまでに相当時間がかかる。(たくさんの電子書籍を買わないとペイしない。)
iPad は、違う。パソコンを兼ねている。汎用性がかなりある。読むための専用マシンではない。これさえあれば、ミニノートを買わなくて済む、とも言える。その意味で、コストパフォーマンスが高い。
キンドルと iPad は、直接の比較には鳴らない。比較するなら、次の二通りだ。
・ iPad だけ。 (1台だけで済む。)
・ キンドルとミニノート (2台必要。価格も重量も。)
もちろん、前者の方がずっと安いし、軽量だ。前者の方が売れて当然ですね。コスト的に。
ま、本当に読むことに特化するなら、電子インクを使ったキンドルの方がいいんだけど、いかんせん、コストパフォーマンスが悪すぎる。
[ 付記2 ]
iPad にも重大な弱点はある。それは、「五十音配列のソフトウェアキーボードがない」ということだ。この件は、前にも書いた。
→ iPad とケータイ
ついでに言うと、ニンテンドー DS では、五十音配列はすでに実現している。
→ 画像 , 説明
ただし、この配列では、「あかさたな」が左手側に来ている。これでは(左利きの人向けであり)、打ちにくい。だから並び方は、左右反転させる必要がある。
→ 参考画像 ,説明
[ 付記3 ]
iPad のソフトウェアキーボードを劇的に使いやすくする方法がある。こうだ。
「キーボードカバー(キーの形の凸凹があるもの)を、ソフトウェアキーボードのうえにかぶせる。これを押すことで、キーを押す触感を得る」
ただし、導電性がないと、うまく行かないかも。その場合には、導電性をもたせるように、うまく工夫する必要があるだろう。(表と裏とを電気的につなぐようにする。)
このアイデアを使うと、特許で金儲けができるかもね。
( ※ iPad には、キーボードドック というものもあるが、そんなものを使うなら、普通の USB キーボード でも使う方がマシに思える。しかし、キーボードを使うのでは、せっかくの iPad の特徴が消えてしまう。一方、キーボードカバーなら、重量はほとんど無視できる。)
2010年05月25日
◆ iPad の意義
posted by 管理人 at 19:33
| Comment(3)
| コンピュータ_04
Walkman との類似性について言及。
タイムスタンプは 下記 ↓
当方仕事でSONY製再生専用レコーダーを使用しているのですが、最新機
種は危なくて使えません。「録音」スイッチが新たに付加されたため、ワー
プロ作業中にうっかり押してしまうと録音媒体が...
実務で(作業中に位置がずれないよう)わざと重く作ってある筐体を録音現
場に持ち込む人なんていないんです。
余談ですが、堀江貴文氏はブログで「Ipadを手にしたら、パソコンを捨てる
かもしれない」と言っていたとか。今回のお話と照らし合わせると、あの方
はやはり事業家であって、技術(生産)者ではない、という事なんでしょうか?
本項の「知的生産・・・」の所から、そんな印象をもってしまいました。
iPhone 向けのソフトはすでに実現している。下記に動画がある。
http://www.youtube.com/watch?v=zsEZY_DfurE