ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン秋田> 記事

ギャンブル依存症ある主婦の裁判から下

2010年05月27日

写真

ギャンブル依存症の女性専用リハビリ施設「ヌジュミ」のミーティング風景=横浜市保土ケ谷区、田上啓子さん撮影(個人が特定されないようぼかし加工しています)

写真

 「水道、電気……公共料金が払えなくても続けた」
 「君は借金が1千万? おれは1億さ」
 パチンコなどのギャンブル依存症に悩む男女が週に1回集まる自助グループ「GA(ギャンブラーズ・アノニマス)秋田」の会話風景だ。それぞれ名前や経歴は秘密。だから、家族にも話せない体験を打ち明けられる。非を責めず、「言いっぱなし、聞きっぱなし」がルールだ。

 パチンコ中に長男を約3時間車内に放置して死亡させた保護責任者遺棄致死罪に問われ、裁判員裁判で実刑判決を受けたにかほ市の無職堀淳子被告(32)は公判で、自助グループでの再起を繰り返し訴えた。「自分の弱い部分をさらけ出し、当事者ならではの真実のアドバイスを聞きたい」

 米国生まれのGAは、国内でも各地で定期的にミーティングを開いている。記者は秋田市の会場を訪ねた。

 迎えてくれた仕切り役の会社員男性によると、GA秋田は2007年に始まり、これまで20〜60代の男女約20人が参加したという。

 男性も10年ほど前まで、仕事が終わると「1年で365日」パチンコに通っていたギャンブル依存症だった。ちょうど管理職になった頃で、仕事のストレスを抱えていた。給料日に負けて帰ると、妻や子どものいる家に居づらく、再びパチンコ台に向かう。

 借金は数千万円にふくらんだ。「家族よりパチンコを優先していた。現実が苦しくて、たばこの煙と騒音が充満している台の前が唯一安らげる場所だった」

 GA秋田に参加して、依存症から抜け出せたのは3割程度。再び、ギャンブルにはまる人がほとんどだ。

 パチンコをやめて8年になる男性は、今も決してパチンコ店に近づかない。試しに打ってみて、はまってしまうのが怖いからだ。「ギャンブル依存症に特効薬はないし、完治はない。一生付き合っていく病気だ」
    ●   ●    

 横浜市保土ケ谷区のマンションの一室には主婦ら数人が集い、「回復プログラム」を指針にして悩みを打ち明けあっている。07年に全国で初めてできた女性専用のギャンブル依存症リハビリ施設「ヌジュミ」だ。

 20〜70代の主婦ら十数人が1回1時間半のミーティングに参加する。介護や育児、性の問題など異性には話しにくい経験を女性同士で分かち合う場だ。代表の田上啓子さん(61)は「女性のギャンブル依存症は、家族が世間体を気にして表面化しにくい。裁判員裁判で取り上げられたことで注目が集まり、理解が深まれば」と期待を込める。

 田上さん自身、20年ほど前までギャンブル依存症だった。パチンコなどにのめり込み、つぎ込んだ額は2千万円を超える。その間、精神科病院に入院したこと4回。離婚は2回。自殺未遂を繰り返した。

 日本で発足したばかりのGAに通い、過去の自分に向き合った。幼いときにギャンブルに明け暮れていた父親の会社の倒産に家族が巻き込まれたこと。保育士になる夢をあきらめ、初めての夫との間には子どもができなかったこと――。次第に心が整理されていった。

 「ヌジュミ」を始めて気づいたことは多い。女性たちの大半は「家族機能の不全」であり、性的虐待を受けた者も少なくない。そして、誰かが自分を幸せにしてくれるという受け身の人生を送っていた。田上さんは言う。「過去をやり直すことはできない。立ち直るには、人生を捨てず、『今』を大事にすること。仲間と適切な治療を受けながら、生まれ変わる意識が必要だ」

 施設を立ち上げて3年がたった。「ヌジュミ」は沖縄の方言。「希望」を意味する。(笠井哲也、田中祐也、矢島大輔)

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり