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日米安保体制による平和と安定を享受しているのは日本国民全体なのに、在日米軍基地の75%は沖縄に集中している。そんないびつな構造をいつまでも放置していていいわけがない。
鳩山由紀夫首相の要請で、米海兵隊普天間飛行場の移設問題を主議題とした臨時の全国知事会議が開かれた。
鳩山政権はすでに名護市辺野古周辺への移設方針を固めている。しかし、ヘリ部隊の訓練の一部を鹿児島県徳之島など、本土に分散したい考えで、首相は各知事に理解と協力を求めた。
そもそも首相は、普天間飛行場そのものを県外に移す方針を掲げていた。本来なら日米合意の見直しに乗り出した最初の時点で、こうした会議を開き、沖縄の負担軽減を日本全体の問題として考える基礎を築くべきだった。
日米共同声明の発表前日の開催は、迷走の末の「決着」に向けたアリバイづくりかと勘ぐられても仕方がない。
しかし、米軍基地の負担を日本国民全体がどう分かち合うべきなのかという問いそのものは重い。今回の知事会議を国民的議論の出発点にしたい。
沖縄は太平洋戦争末期、熾烈(しれつ)な地上戦の舞台となり、戦後も長く米軍支配が続いた。首相の公約違反に、県民の間から「沖縄差別」という言葉が噴き出すのも、そんな歴史があるからだ。
むろん米軍基地や訓練を受け入れているのは沖縄だけではない。三沢、厚木、横須賀、岩国、佐世保などにも重要な基地がある。しかし沖縄本島に占める米軍基地の面積は18%という。他の12都道県では最大でも1%である。
2月の朝日新聞の全国知事アンケートでは、米軍基地を新たに受け入れていいと答えた知事はいなかった。
騒音や事故の可能性を考えれば、住民の安全に責任を持つ首長が二の足を踏むのは無理もない。しかし、それは沖縄にとっても同じことだ。
基地のない大阪府の橋下徹知事はきのう、「府民は安全をただ乗りしている」と語り、知事会としても政府から具体的な提案があれば真摯(しんし)に対応するとの見解をまとめた。こんな機運の広がりは望ましい変化である。
長い目で見て、日本の安全保障を支える沖縄の負担を全国でどう分かち合っていくのか。普天間が突きつけた不可避の課題だ。
この課題を前に進めるためにも、政府が安保の運用について米国との間でしっかりとした構想を協議し、固め、国民的な理解を形作っていかなければならない。在日米軍の運用を考えれば、移転先はどこでもいいというわけではない。軍事、安保戦略と国内的な調整を一体で担いうる政府が必要だ。
そのうえで、負担をお願いする地域との丁寧な対話を始める。大変な手間と時間を要する作業だが、それがこの国の政権に問われ続ける。
「言論の府」という言葉は、はなから頭にないのだろうか。そう首をかしげたくなる。郵政改革法案をめぐる与党の対応がひどい。
衆院総務委員会で、先に審議していた放送法改正案の修正協議を打ち切って可決させ、改革法案の審議入りを急いだ。その委員会審議をたった1日で切り上げ、衆院を通過させる構えだ。
小泉政権下で成立した郵政民営化法は衆院で100時間以上審議し、参院で否決された末に衆院解散・総選挙を経て産み落とされた。その路線を百八十度転換する内容である。あまりにも拙速と言わざるを得ない。
日本の金融システムに禍根を残しかねない、問題だらけの法案である。
巨大なゆうちょ銀行とかんぽ生命に政府の間接出資を残し、「暗黙の政府保証」を後ろ盾にして、さらに大きくする。新規事業への制約も大幅に緩和する。また、貯金と保険の限度額をざっと2倍に引き上げる。いずれも郵便事業と郵便局ネットワークの維持のためだが、これらの事業の収益性を高める具体的手だてが含まれていない。
法案の内容以外にも問題点は多い。
原口一博総務相は、郵貯資金10兆円を海外インフラ事業などに投資する案を示している。これは、資金を特殊法人経由で公共事業にあてた財政投融資の事実上の復活ではないのか。
亀井静香郵政改革相は郵政グループ内の取引にかかる消費税を減免する特別扱いを打ち出しているが、金融界の公正な競争に差し障りが出ないか。
こうした点も含めた郵政改革の全容を、慎重な国会審議を通じ解明しなければならないはずである。
与党の強硬姿勢は郵政だけではない。労働者派遣法改正案の成立も急ぎ、強行採決も辞さない構えだ。
民主党の小沢一郎幹事長は全国郵便局長会で、郵政改革法案の今国会成立を約束した。改革法案は国民新党が、派遣法改正案は社民党が強くこだわっている。何のことはない。参院選を前に選挙対策や選挙協力に役立つ法案の成立を急いでいるということだ。
一方で、国家戦略室を局に格上げする政治主導確立法案や、副大臣や政務官の増員を含む国会改革関連法案は断念する方針だ。政権の金看板である「政治主導」の体制づくりが、またしても先送りされることになる。
重要法案の審議時間が足りないなら会期を延長すればいい。しかし、延長すれば「政治とカネ」で追及を受ける。早く参院選の準備に専念したい。そんな底意から延長を避けるのなら、職務放棄というべきだ。
国会は多数派による機械的な法律製造工場ではない。少数派の異論にも耳を傾けながら、法案や政策を議論し、内容をよりよくしていく場だ。その基本を思い出すべきである。