救急患者や医師を搬送する「ドクタージェット」の実用化を目指す「道航空医療ネットワーク研究会」が発足し、8月に1カ月間の研究運航を行うことになった。小型ジェット機を使用した救急搬送は日本で初めて。道内で現在3機が運航しているドクターヘリと併用し、ぜい弱な道内の救急医療体制を改善することが狙いだ。
研究会には北大病院や札幌医科大など医療機関のほか、羅臼町など自治体、民間企業の計約70団体・個人が参加。19日に札幌市内で開かれた設立総会では札医大の浅井康文・高度救命救急センター長を会長に選任した。
道内では現在ドクターヘリ3機が、道央▽道北▽道東の3圏域で運航しているものの、宗谷地方や道南圏域はカバーできていない。また、ヘリは夜間や悪天候時には運航ができず、運航時間も短いなどの短所がある。
医療機関までの運搬時間が患者の生存率や治療の成否に直結することに加え、道内航空路線が減少する中、地方都市への医師派遣や医薬品搬送への悪影響を懸念する声もあることから、同研究会はヘリよりも夜間や悪天候に強い小型ジェット機の可能性や課題を検証することにした。
8月の研究運航は中日本航空(愛知県)が8人乗り小型ジェット機を提供。内部を改造し、搬送台(ストレッチャー)1台を設置する。札幌・丘珠、旭川両空港を拠点とし、奥尻、利尻など道内12空港に乗り入れる。丘珠空港から各空港への所要時間は20~55分だという。
1カ月間の研究費用は2000万円。大手清掃会社の寄付のほか、プロ野球・北海道日本ハムの稲葉篤紀選手が年間安打数に応じて医療機材購入費用を積み立てる「イナバ・ジャンプ・プロジェクト」からも寄付されるという。
ただ、ドクターヘリは年間1億7000万円の経費が必要とされるが、ドクタージェットはその1・2倍が必要とされる。実用化には資金面が最大の課題だが、浅井会長は「ジェットはヘリのカバーしていない離島から患者を搬送したり、逆に医師を派遣できる。ジェットにも行政の補助が適用されるよう働きかけたい」と話している。【鈴木勝一】
毎日新聞 2010年5月28日 地方版