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2008-11-01
続・金利平価の初歩的な解説、あるいは円キャリーに係るリフレ政策主犯説への反論。
先日のエントリについて池田先生からご批判をいただいたので、管見を述べたいと思います。
きょうの日経の「経済教室」でも、矢野誠氏が円キャリーがサブプライムバブルの原因だと書いています。これについて、財務官僚だと思われるbewaad氏がおかしなことを書いているので、訂正しておきます:
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20081028/p1
<円キャリーで儲けるためには、ヘッジをせずにリスクをとるしかありません。ここで取るリスクとは将来の円ドルレイト。つまり円キャリーとは金利差ではなく、将来は円安になるとの見込みに基づいて為替リスクを取ることで儲けを狙う取引なのです>
これは間違い。為替レートを(通常の経済理論のように)ランダムウォークと仮定すると、決済するときの為替差益の期待値はゼロなので、円キャリー(金利裁定)は為替レートに中立です。「円安に賭ける」必要なんかない。現実にもここ数年、円安が続いたので、為替リスクは無視できたから、1兆ドル以上も円キャリーが積み上がったのです。
また最後に「購買力平価」について変なことが書いてあるけど、金利平価や購買力平価というのは概念であって、現実に成立しているレートではないし、貿易財のレートが(国内財も含めた)購買力平価に収斂する理論的根拠もない。貿易財の購買力平価を比べるBig Mac Indexでは、7月現在で1ドル=78.4円。これぐらいが「均衡レート」である可能性が高い。実質実効為替レートでみても、ここ数年の「円安バブル」は明らかです。
「ゼロ金利政策の罪」(@池田信夫 blog10/28付)における2008-10-30 13:08:00に投稿された池田先生のコメント
前段の指摘は、webmasterの愚昧ゆえかまったく意味がわかりません。「円キャリー(金利裁定)は為替レートに中立です。『円安に賭ける』必要なんかない。現実にもここ数年、円安が続いたので、為替リスクは無視できたから、1兆ドル以上も円キャリーが積み上がったのです」とのことですが、そもそもwebmasterは円キャリーが円安の原因となったなどと書いていない(逆に円安予測がむしろ円キャリーをもたらした、と書きました)ので、何に反論されているのか認識できません。
また、「円安に賭ける」という表現が誤解を招いたのかもしれませんが、円安になるだろうと見込んで円キャリーをし、実際に円安になったので手仕舞いもされないにとどまらず我も我もと参入があったというのが「円安に賭け」たということ。「現実にもここ数年、円安が続いたので(略)、1兆ドル以上も円キャリーが積み上がったのです」というのがなぜwebmasterの所論の「訂正」となるのか、これも認識できません。
#本筋ではありませんが、「円安が続いたので、為替リスクは無視できた」っていうのはどのような意味なのでしょうか。円安が続くとヴォラティリティがゼロになるとでもおっしゃるのでしょうか?
念のため前回書いたことを別に表すなら、円キャリーとは円ショート・他通貨ロングポジションを取るということ。ショートは売り、ロングは買いですが、売りから入るのは今後下がると思うから(=安くなってから買い戻して儲けを得る)、買いから入るのは今後上がると思うから(=高くなってから売り抜けて儲けを得る)。最近だとアイスランド・クローナやハンガリー・フォリントが金利が高いにもかかわらず下がり続けたというのは、それぞれにショートポジションがはいったゆえ。やはり金利差ではなく今後の価格動向が投資判断を左右するわけで、円キャリーもまた、円安予測によってもたらされたものなのです。
後段の指摘は、まず金利平価については、webmasterが触れたカヴァード金利平価は「現実に成立しているレート」ですが? もし成立していないというのであれば、そのような為替予約を受け付ける銀行をひとつでもいいから挙げていただきたいものです。アンカヴァード金利平価と混同されているのでは?
ついで購買力平価についてですが、ビッグマック指数との比較を含め、下記をご覧いただければ。
本稿では、為替レートの長期的トレンドを説明する購買力平価に関する研究について直観的に紹介する。1990年代半ばまでの研究により、(1)長い目でみると為替レートは購買力平価が提示する均衡値へ戻ること、(2)均衡値からの乖離が半減するまで3〜5年かかること(PPPパズルと呼ばれる)がコンセンサスとなった。
藪友良「購買力平価(PPP)パズルの解明:時系列的アプローチの視点から」、日本銀行金融研究所/金融研究/2007.12、pp75-106
第1の例として、英国『エコノミスト(The Economist)』誌が、毎年、世界主要都市でビッグマックの価格を調査・公表している結果を用いる。表1には、2007年1月31日時点のビッグマックの現地通貨価格、ドル建価格を載せている。表1を見ると、ドル建価格は米国で3.22ドル、中国で1.41ドル、日本で2.31ドル、スイスで5.05ドルと国によって違いがあるのがわかる。このように、ドル建価格が異なる理由は何であろうか。ビッグマックを作るのに必要なビーフパティ、チーズ、レタスなどは貿易可能な財であり裁定取引が可能である。しかし、ビッグマックを調理・販売するには、現地で店舗を借り、店員を採用する必要がある。これらは非貿易財であり、これらの非貿易財は裁定取引が困難である。以上から、ビッグマックのように生産・販売に非貿易財を多く必要とする財については、一物一価が成立しにくいことがわかる。
ibid.(webmaster注:強調はwebmasterによります。また、原文の注記は略しました)
蛇足ながら、「実質実効為替レートでみても、ここ数年の『円安バブル』は明らかです」とのご指摘について論じておきます。なぜ「明らか」かはご説明がありませんが、当サイトでも何度か触れている話題なので推測すれば、実質実効為替レイトがプラザ合意前の水準になっていることを指しているものと考えられます。
実質為替レイトとは何かといえば、物価水準の変化を調整した為替レイトです。といってもわかりづらいでしょうから数値例を出せば、ある年に100円/米ドルでその翌年も100円/米ドルだったとして、その1年間に日本が物価上昇ゼロ、アメリカが2%のインフレだった場合、100円の購買力は変わりませんが1ドルの購買力は2%落ちているにもかかわらず、その購買力の落ちたドルで購買力の落ちない円を買えることから、円安・ドル高になったものと観念することです。
ここで、前回エントリでも参照させていただいたecon2009さんの分析を思い出していただきたく存じます。購買力平価と名目為替レイトととが交わったのが1985から6年にかけて、そして最近になって両者は再び近接しました。購買力平価の変動とはすなわち物価水準の変化の差分の反映、それと名目との乖離がなくなったとはすなわち実質為替レイトは同じになったということ。つまり、池田先生とecon2009さんは同じ事象を取り上げていらっしゃるわけです。
#したがって購買力平価なんて基準にならないとおっしゃりつつ実質実効為替レイトを持ち出すのはwebmasterには自家撞着にしか見えないのですが、おそらくwebmasterごときでは見逃してしまっている何か深遠な理由があるのではないかと察します。
同じ事象を池田先生は円安バブルといい、econ2009さんは円高バブルという、その違いはバブルの定義によります。世間的に通用する定義としてバブルをファンダメンタルズからの著しい乖離とするなら、池田先生はここ数年のファンダメンタルズは名目相場よりも高い水準に想定し、econ2009さんはそれを低い水準に想定したからこそ、このような違いが生まれたわけです。日本はアメリカから見れば西、中国から見れば東と、日本の位置が変わらなくとも相対関係は変わるようなものです。
少なくともecon2009さんは、ファンダメンタルズのひとつの案として購買力平価を示し、それはすなわちプラザ合意前の水準がファンダメンタルズを反映していたということと同じことを指します。他方で池田先生は妥当とお考えになるファンダメンタルズの水準を示していらっしゃいません。たとえばプラザ合意後の水準を妥当とお考えならば確かに実質実効為替レイト基準で「円安バブル」と称するにふさわしいでしょうけれども、いずれにせよ池田先生におかれましては、「明らか」とされる根拠をお示しの上で、実りある議論につなげていただければ幸いです。
- 1081 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo
- 667 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/686c6120516a2f4a7b30a6c23131a885
- 299 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/
- 237 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo?sess=c1fe33e1a35c22142b7b07343c319d99
- 77 http://reader.livedoor.com/reader/
- 47 http://b.hatena.ne.jp/entrylist?sort=hot
- 46 http://b.hatena.ne.jp/
- 32 http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20081101/p1
- 30 http://blog.livedoor.jp/y0780121/archives/50198667.html
- 28 http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4GGLG_ja___JP215&q=円キャリー+