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障害等級訴訟:顔やけど労災補償、男女差「違憲」 国の認定取り消し--京都地裁判決

 金属を溶かす仕事中の顔面のやけどを巡り、京都府内の男性(35)が、労災補償給付で女性より低い等級の障害認定しか受けられないのは男女平等を定めた憲法に反するとして、国がした認定の取り消しを求めた訴訟の判決が27日、京都地裁であった。滝華聡之(たきはなさとし)裁判長は、障害認定の基準となる障害等級表について「著しい外見の傷跡についてだけ性別で大きな差が設けられているのは著しく不合理で、違憲だ」と述べ、国の認定を取り消した。

 原告側弁護団は「障害等級表を違憲とする初の判決。画期的だ」と評価している。

 判決によると、男性は精錬会社に勤めていた95年11月、溶けた金属をかぶってやけどを負い、胸や腹、ほおに傷跡が残った。労働者災害補償保険法は精神的苦痛を考慮して、顔などの傷跡は女性の方が高い等級になると規定。園部労働基準監督署は04年4月、男性を障害等級表で11級と認定したが、男性側は「女性なら7級を受けられたはず。男女差別だ」と主張していた。

 判決は障害等級表について「年齢や職種、利き腕、知識などが障害の程度を決定する要素となっていないのに、性別だけ大きな差が設けられている」と指摘。「この差を合理的に説明できる根拠は見当たらず、性別による差別的扱いをするものとして憲法14条違反と判断せざるをえない」と結論付けた。

 弁護団によると、11級だと1日の平均賃金の223日分の一時金しか受け取れないが、7級は同131日分が年金として毎年支給され、大きな格差があるという。【古屋敷尚子】

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 ■解説

 ◇大きすぎた格差決め手

 労働災害で顔などに受けた傷の補償給付額に男女差を設けた労働者災害補償保険法の障害等級表について、京都地裁は「違憲と判断せざるをえない」と述べた。障害の影響の男女差に一定の理解を示しつつ制度を「著しく不合理」とした決め手は、格差のあまりの大きさだったと言える。

 制度の基礎となる同法の施行は戦後間もない1947年。当時の就労事情などを反映し、女性に有利な補償制度を設定したとみられる。判決は現状についても「精神的苦痛や就労機会の制約、それに基づく損失補てんの必要性は女性の方が大きい」と認めた。

 一方で、判決は実際の給付の男女差が補償の「必要性」の差を大きく上回ったと判断した。日常露出している部分の障害の等級は女性が7級、男性は12級で、他部位の障害との併合となる原告でも11級。年金を受け取れる1~7級と一時金の8~14級では大きな差が生じるからだ。

 憲法14条の男女平等に反するとの司法判断は、賃金差別訴訟や交通事故被害者の逸失利益を巡る訴訟でも出されている。しかし、国の制度を違憲と認定したのは極めて珍しく、今後の対応が注目される。【古屋敷尚子】

毎日新聞 2010年5月28日 東京朝刊

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