放送法の改正案が衆院総務委員会で可決された。「強行採決」と野党が批判する中での可決である。
法案はネット規制強化になりかねない点など「言論の自由」に照らして問題をはらむ。無理押しはやめていったん取り下げ、国民の声に耳を傾けながら議論し直すべきだ。
現行法が定められて以来、60年ぶりの大幅な改正である。その割に中身の論議は足りなかった。
法案には初め、電波監理審議会が放送の「不偏不党」や「真実」などの重要事項について調査し、総務相に意見を述べる規定が盛り込まれていた。
電監審は総務相の諮問機関で、事務局を総務省に置く。委員は総務相が任命し、人選には国会の同意が要る。政府、与党の力が及びやすい仕組みである。
その電監審が放送内容に口を挟むようになると、政府による介入が強まる−。こんな批判が学会や放送界、野党などから上がったため、政府は国会審議の途中でこの条項を削っている。
こんなどたばたぶりを見ても、法案は生煮えのまま国会に提出されたことが分かる。
放送の定義について法案は「公衆によって直接に受信されることを目的とする電気通信の送信」と定める。これではネット配信に対し、放送法の規制が新たに加えられる心配が否定しきれない。
NHKの経営委員会メンバーに会長を加える規定もある。
NHKの運営は、意思決定は経営委員会、業務の執行は会長、と役割が分けられてきた。会長への権限集中を避け、運営を透明にするための工夫である。
会長が経営委員に名を連ねるようになれば、意向はより強く反映されるようになるだろう。そのことが国民全体の利益につながるかどうか−。こうした問題について深く議論した形跡はない。
暮らしの安定と民主主義の発展のために、公共放送はどうあるべきか−。60年ぶりの改正を目指すなら、こうした観点からの吟味が必要なはずである。
民主党は昨年発表した政策集では、放送行政について「国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督する矛盾」を指摘、政府から独立した第三者委員会に委ねる方向を打ち出していた。放送法の改正は本来なら、放送行政の政府からの分離こそが主要テーマでなければならない。
肝心な点を素通りした法案は支持できない。練り直すよう、原口一博総務相に求める。