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社説

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ネット選挙解禁―次の大きな一歩につなぐ

 踏み出した歩幅は小さい。だが、大切な一歩である。

 インターネットを使った選挙運動の部分解禁に各党が合意した。この夏の参院選から、候補者や政党は公示後の選挙期間中も、ホームページやブログを更新できるようになる。

 「ネット選挙」が持つ利点と、その可能性は大きい。

 まず、候補者が発信する情報が充実する。基本的な政策や考え方は、これまでも公示前に書いておくことができた。だが、公示後の選挙運動の様子や、翌日の演説場所など、その時にならないと発信できない情報が、ネット上を流れていくことになるだろう。

 有権者は夜間でも海外にいても、情報に接することができる。どんな政策を望むか、演説を聞いた評価はどうか、有権者から発信もできる。その声に候補者は敏感にならざるをえない。

 こうしたネットの能動性と双方向性は、政治家と有権者の距離を縮める。それは、政治参加を促すことになるだろう。しかも、ネットに親しんでいるのは、政治に縁遠い若い世代である。この利点を生かさない手はない。

 もちろん、光があれば影もできる。候補者になりすました偽の情報が流れたり、根拠のない中傷が書き込まれたりする懸念はある。だがそこは、弊害を減らす対策を周到に講じながら歩を進めるしかあるまい。

 残念ながら、今回の解禁は、弊害への対策が間に合わないこと、各党の合意を優先したことなどから、まだまだ範囲が狭く不十分である。

 メールの禁止やツイッターの自粛もそうだが、最大の問題は一般の有権者がネットを通じて選挙運動をするのを認めなかったことだろう。自分の支持する候補への投票を呼びかけることはできないのである。だが虚偽記載や中傷はともかく、支援の呼びかけのどこに問題があるのか。次の段階として、参院選後にはそうした運動を含め解禁の範囲を広げるべきである。

 当面、参院選に向けて心配なのは、どんな書き込みが選挙運動に当たるのか、普通の人にはわかりにくい点だ。違反をおそれて書き込みをためらう人が出てくる。それではネットの効果も十分に表れないだろう。どんな書き込みは許され、どこからが違反なのか、わかりやすい指針づくりを急いでほしい。

 そもそもの問題は公職選挙法が世界にまれな「べからず法」であることにある。文書の配布禁止などをはじめ、あれもだめ、これもだめの規制を一般の有権者が把握するのは無理だ。みんなが発信できるネット時代、この法をそのままにしていては、有権者が知らないうちに法を犯すことになる。

 時代に合った選挙の仕組みをつくらなければ、政治の進化は望めない。

子ども手当―満額支給にこだわるな

 鳩山政権の看板政策である子ども手当について、来年度から満額の月2万6千円にするという公約を見直す動きが出てきた。当然である。満額支給にこだわるべきではない。

 今年度の手当の支給は来月から始まる。中学生までの子ども1人当たり月額1万3千円。来年度はどうするか。財政状況を見て、どれだけ上積みするかを判断し、保育やワクチンなどの現物サービスに回すことも検討するとの考えを、政府と党の実務者らでつくる委員会が示した。

 党内には抵抗も根強いが、鳩山由紀夫首相や小沢一郎幹事長が出席する政権公約会議で「来年度の満額支給はできない」と、はっきり打ち出すべきではあるまいか。

 公約へのこだわりはわかる。だが子ども手当を満額支給するには年間5.4兆円もの財源が必要だ。歳出の無駄を減らしても必要な財源を生み出せる展望が開けない以上、どうしても満額実施をするというのなら、消費税増税を含む税制の抜本改革とセットで考えるのが筋というものだ。

 満額支給にこだわるあまり、保育所の整備や医療、福祉などの分野に十分な予算が確保できない。しかも子どもたちの世代に巨額のツケを回す。そんなことになれば、本末転倒だ。

 今年度の半額支給さえ借金頼みなのだ。借金依存を一段と強める安易なやり方は、認められない。財源なしには満額支給などできないことを参院選前に率直に認め、現実的な政策へ手直しすることこそ、責任ある政治の姿ではないか。

 子ども手当として配ったお金が本当に子どものために使われるのか。「2万6千円」の根拠は何か。さまざまな疑問も置き去りだ。このまま突っ走っていいはずがない。

 子育て世代には、現金をもらうより保育所や学童保育の充実を進めてほしい、といった切実な声もある。

 現金給付とそうしたサービスのバランスが大事だ、と国会で繰り返し説明してきたのは、ほかならぬ長妻昭厚生労働相自身である。

 初年度、子ども手当が実際にどう使われ、どんな効果が出るのか。状況をよく見定めながら、制度のありようを再検討してはどうだろう。

 日本の将来のために、子育てや教育をもっと支援したい、という考えは国民が共有している。人生前半の社会保障を充実しようという政策は大いに進めたい。

 だからこそ、子どものための政策は、現金を配ることに偏りすぎてはいけないのではあるまいか。

 緊急性、必要性の高い政策は何であり、財源をいかに確保すべきか。そうした政策論議を徹底することで、子ども手当制度の着地点も見えてくる。

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