突然の訃報に愕然とする
携帯の着信履歴に気付き、表示される名前を見てみれば...ずいぶんと久しぶりの名前。
やけにたくさんの着信履歴。深夜2時だけど、何か急用かも。遅い時間だけど、1時過ぎにも着信してるし大丈夫かな。
「よう、どうしたよ!」
私のその言葉に返って来たのは...本人ではなく奥さんの声。すすり泣きまじりの、冷たい声...
事故ではなく、過労死か。職場で倒れて、そのまま亡くなったと。
会わない間に何があったのか。私が知らない時間、彼が何をしていたのか。
毎日終電で帰宅しては、朝6時に家を出る生活だったと聞いて、携帯を落としかける。何だってそんな状態に。去年、昇進して課長になったってうれしそうに言ってたじゃないか...だからか...課長になって、残業代が出ない立場になったから、追い込まれたか。組合員じゃなくなったから、やられちまったか。
ストレスを抱え続けて、家族のために踏ん張り過ぎちゃったか。
聞きたくても、もう彼はいないわけで。
奥さんが話す「事情」も耳に入るものの、言葉が出てこない。乾いた声で相づちを打つだけ。
ともかく、上辺だけの励ましをかけて、電話を切る。通夜と葬式には行くけれど...たまらない。なにより...我慢がならない。
彼の勤め先は私も知っている会社。ぶっちゃければそこの社長も上司も全て知ってる。そこで起こった出来事。何があったのか。何が起こっていたのか。
通夜の前に、確認しようと思います。ただ、想像はもうついちゃってますけれど。
「仕事が出来る。そして仕事を頼みやすい人柄」それが彼の特徴でした。
そして、あそこにはともかく仕事を他人に振ろうとする同僚達がたくさんいる。上司ですらそう。責任は取りたくないけれど、給料はたくさん欲しい。管理はしたくない。目の前のことだけこなしてすませたい。そんな上司のはず。昔、その上司を殴ってやめた私です。想像はつくのです。もう、ずいぶん前の話だけれど...
もう取り返しはつかないけれど。
せめて労災がおりるように...会社への交渉には顔を出そうと思います。奥さんだけだと押し切られるかもしれない。けれど一緒に辞めたやつらに声をかけて、なんとか...こっちはどうも思ってなくても、向こうからしてみれば「弱みを握ったまま辞めてった最悪なやつら」のひとりが私のわけで。
せめて、そんな嫌な立場を利用してでも。
残された家族のための一助はしてやりたいと思います。グチのひとつも聞いてあげられなかった、ふがいない先輩の...せめてものお詫びとして。
そんなになる前に、会っておけば。私が転職するってバタバタしてたのを知ってて遠慮したのか...彼の優しい性格ではありえる。けれど...残された方はたまらない。
通夜の場で、その上司を殴ってしまわないように。冷静に。仕事で交渉に臨むときと同じく慎重に。
せめて...酒でも飲んでたむけとしたけれど。...俺より先に行くなんて、本当に...馬鹿だよ...俺より10年は長生きしなきゃ勘定が合わないじゃないか...奥さんと子供どうすんだよ...
本当にきつい時。本当にやばい時。悲鳴も上げずに死ぬのは駄目だ。死んじゃだめだ。恥ずかしくてもいい、情けなくてもいいから周りにすがって欲しかった。
デスマーチの業界だけれど...過労死はきっとなくならない。なくならないけど、もう少し...ましにならないとだめだな...