きょうの社説 2010年5月27日

◎郵政改革法案 選挙対策が透けて見える
 参院選に向けて、全国40万といわれる「郵政票」がのどから手が出るほど欲しいのだ ろう。民主党の小沢一郎幹事長が全国郵便局長会(旧全国特定郵便局長会)の総会で、郵政改革法案を今国会で成立させると約束した。

 野党の反対や残る国会会期を勘案すれば、特定の業界団体のために「強行採決」をやる と公言したも同然ではないか。

 米軍普天間飛行場移設や、鳩山由紀夫首相と小沢幹事長の「政治とカネ」の問題、世界 的な金融市場の混乱、口蹄疫の拡大防止といった喫緊の政治課題より、選挙対策をにらんだ法案を優先させる政府・与党の態度は、国会軽視も甚だしい。選挙対策が透けて見える法案を審議不十分なまま、ちからづくで成立させてはいけない。

 郵政改革法案は民間と対等な立場で競争し、より効率的なサービスを目指す「官から民 へ」の流れに逆行する。民営化でサービス低下が懸念される過疎地の郵便局網を守るという主張は、要するに「官営」の高コスト体質を容認し、保護に要する負担を、最終的には国家・国民に回すことを認めよという主張にほかならない。

 内閣支持率や政党支持率が急落した民主党にとって、郵政票は魅力的に映る。全国郵便 局長会は国民新党を支持しているが、小沢幹事長の狙いは、国民新党が候補者を立てない選挙区での支援獲得にあるのは明らかだ。

 政府・与党が今国会会期を延長しない方針を固めたのは、野党の追及をかわすためであ る。下げ止まらぬ内閣支持率に危機感を持ち、早めに選挙戦になだれ込むことで、鳩山首相や小沢幹事長への不満がこれ以上拡大するのを抑える狙いだろう。多くの重要法案の成立を断念せざるを得ない状況下で、郵政改革法案を優先する動機は、不純としか言いようがない。

 欧州発の信用不安で、世界的な景気悪化が懸念され、北朝鮮情勢もきな臭さを増してい る。国内では普天間移設の迷走が続き、口蹄疫が深刻な被害をもたらしている。残り少ない会期を、問題山積の郵政改革法案などに費やすのではなく、目の前にある重要課題の集中審議にこそ使ってほしい。

◎建設業の複業化 意欲ある企業の後押しを
 石川県が建設業者を対象に実施したアンケートで、今後の経営見通しについて96%が 「厳しい状況が続く」「悪化する」と答えたのは、浮上のきっかけさえつかめない建設不況の深刻さを浮き彫りにしている。

 民主党政権で大幅に削減された公共事業を補うため、自治体では独自に工事を増やした り、入札制度で落札価格を落とさない仕組みを講じて業者支援に動いているが、長い目でみれば、建設業界が公共投資に依存する体質から抜け出さない限り、将来展望は容易に開けないだろう。

 石川、富山県は初期投資の助成やコンサルタント派遣などで新分野進出を促しているが 、アンケート結果は経営多角化が業界と行政にとって、より重要な課題になってきたことを示している。調査では新分野進出を検討しているのは約2割だが、意欲ある企業については起業から軌道に乗るまで継続的に支援してほしい。複業の流れを定着させるには、二の足を踏む企業の背中を押すような成功例を着実に増やすことが大事である。

 石川県が1985社を対象にしたアンケートでは、1340社から回答があり、新分野 進出を検討する262社の希望業種は、「農業」がトップで、「環境・リサイクル業」「卸売・小売・飲食業」「介護・福祉」と続いた。調査は県の相談窓口「建設業サポートデスク」の設置に合わせて実施されたが、広範な希望業種をみれば、支援策も縦割りの弊害を排したオール県庁の態勢が求められている。

 災害復旧や防災、除雪などの公的役割も担う建設業は地域に欠かせぬ産業であり、雇用 の受け皿にもなっている。だが、市場が限られる地方で公共事業の抑制傾向が続けば一つの業態で会社を営むのは一層難しくなる。建設と農業、あるいは介護、環境ビジネスといった組み合わせで「複業経営」を成り立たせることは建設業が生き残るための重要な選択肢である。

 建設業の再生は、地域経済を安定化させる点でも自治体の大きな課題である。成長産業 を支援する取り組みのなかで、建設業をそこに誘導する戦略も問われている。