きょうのコラム「時鐘」 2010年5月27日

 宇宙飛行士の野口聡一さんが、来週の帰還を前に会見して「まだ2、3カ月いたい」と話した。狭い宇宙ステーション内で心身ともに元気なのは何よりである

帰還すれば宇宙滞在は160日余となる。その直後にロシアが520日間の宇宙飛行士隔離実験に入る。火星探査を想定して6人が閉鎖空間で暮らすという。個人の滞在記録は700日を優に越すが、グループでどれだけ閉鎖空間に耐え得るか興味深い

20年前、米国で巨大な温室型空間を作り8人が長期実験に入ったことがある。計画はわずか2年で中止された。意外にも、人工の閉鎖施設では植物はまともに育たず空気調整にも難題が発生したとされる

最大の難問は、閉鎖空間内の人間関係ではなかったかとも言われている。今回のロシアの実験も全員男性で「女性はチームを安定させることもあれば破壊することもある」という。壮大な計画の足下に卑近な人間模様がある

意見も異なり個性も違う者同士が閉鎖的空間で仲良くするのは難しい。国ごと閉鎖社会を築いて閉じこもる厄介な例も身近にある。宇宙工学は人間学であり、政治学でもある。