口蹄疫(こうていえき)の猛威は、高校生が大切に飼育していた牛や豚にまで及んだ。移動制限区域内の高鍋農業高校(高鍋町)で、実習用に飼育している乳用牛1頭から感染疑いが確認(24日)され、牛53頭と豚281頭は25日、殺処分された。生徒らには動揺が広がった。【蒔田備憲、小原擁、川上珠実】
4月20日以降、同校では敷地内にある畜舎への生徒の立ち入りを禁止し、今月24日からは全面休校にした。
しかし、寮生活を送る生徒も多く、24日午後に岩下英樹校長が寮生約100人に口蹄疫の感染を報告した。生徒たちのショックは大きく、「どうして」というざわめきと、すすり泣く声が漏れたという。
殺処分される25日朝、学校は作業に携わる県の関係者に千羽鶴を託した。
「処分される牛たちに届けてほしい」と生徒たちが一晩で織り上げた。
「家畜にとって大変な時に、生徒たちに『触らせられない』という思いをさせてしまった。本当に触らせてやりたかった……」と岩下校長は取材に涙を流した。
しかし、彼らが県の畜産を担う希望の灯であることを岩下校長は信じて疑わない。
「防疫は地域を守ることなんだということを学んでほしい。地域は若い後継者を待っている。だから君たちが必要なんだ」と。
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25日。殺処分の鳴き声を聞かせないよう、生徒たちを体育館に集め、県から派遣されたカウンセラー2人が心のケアにあった。
全校生徒の7割近い240人が寮生活を送っている。口蹄疫発生以来、多くの生徒は土日や大型連休中も実家に帰らず、寮にとどまった。実家が畜産農家という生徒も多い。これ以上の被害は出したくないとの思いからだった。
畜産科3年の小野田有心(ゆみ)さん(17)は「放課後は毎日のように牛舎に遊びに行って牛の面倒を見ていた。大切な家族のような存在」と話す。
同校で飼われ、07年県畜産共進会(県畜産振興協議会主催)の肉用種種牛の部でグランドチャンピオン(農林水産大臣賞)に輝いた「みねこひめ3」も殺処分された。
同校は明治36(1903)年の開校で、県内の農業を支える人材を輩出してきた。
県教育委員会は「授業実習用の家畜なので授業もできなくなる。まずは生徒の精神ケアに努めたい」と話している。
毎日新聞 2010年5月26日 地方版