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[11108] なんかこう、なのはの短編集
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:444d3758
Date: 2010/05/26 23:23
魔法少女リリカルなのはの短編集です。
なのは×オリキャラ物が多いので、苦手な方はご注意を。

後、基本的にシリーズの違う話同士は関係性がありません。

五月二十六日、チラ裏から移転。

五月二十七日、かぶってることに気づいたのでタイトル変更。先方様、申し訳ありません。



[11108] 魔“砲”少女彼女。
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:af504f98
Date: 2010/04/28 19:46
 ──突然ですが、僕には彼女がいます。
 同い年で、可愛くて、優しくて、お仕事もできる……そんな、理想的な彼女。
 そんな女の子と付き合えて、僕は本当に幸せです。

 ──ですが。
 その女の子は、魔“砲”少女だったのです。



 ──そうあれは、二年前のこと。
 時空管理局の新人平武装局員(今も平ですが)だった僕は、初めての教導を受けることになりました。
 教導といえば、教えに来られるのは鬼のように強い教導官の方々です。さぞや恐ろしげな方がいらっしゃるのだろうな、と僕はビクビクしていました。
 そして、当日。そんな僕の前に現れたのは──

「皆さん、初めまして! 皆さんを今日から三週間の間教導することになりました、高町なのは三等空尉です! 私も今回が初めての教導なのでご迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします!」

 ──天使でした。エンジェルでした。美の女神でした。

 ええ、惚れました。一目惚れです。運命感じちゃいました。優しい笑顔に心奪われました。
 ……まあ、厳しかったんですけどね? 教導。何人か脱落しましたけどね? だけど、その程度で僕の恋の炎は鎮火しません。バッチこいです。なのはさんLOVEなのです。
 ──そうして僕は、

 なのはさんの下で教導を受け──

「ねぇ……今夜は帰さないし、寝かせないよ……」

「ええ。分かってます。ところで……」

「何かな?」

「ここの修理費って、誰がだすんですか……?」

「…………(サッ)」

「…………(汗)」

 ──とかいう会話をしながら二人、徹夜で昼間なのはさんの砲撃でぶっこわれた訓練場を片付けたり、

「ねー、やっぱり男の子っておっぱいおっきいほうが好きなの?」

「な、何でそんなことを!?」

「はやてちゃんが……私達の胸を狙いながら、男の子はみーんな巨乳好きなんやでー、って……」

「……セクハラですね」

「うん。……でも、最近おっきくなってきたフェイトちゃんはすっごい綺麗になってきたし、やっぱり……」

「いやいや、人それぞれだと思いますよ? ちなみに僕はバランス重視です」

「……そこは嘘でも、私も大きいって言ってよ……」

「……未来が、あります」

「ちょっと!?」

 ──こんな、しょうもないことを話し、

「な、なのはさんこれなんですか……? 何か、生魚みたいな……」

「うん、そうだよ。お刺身って言ってね、私の故郷の料理なの」

「……高いんじゃないですか? ここ……」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。いつも訓練場の修理手伝ってくれてるお礼だよ。それに……」

「それに?」

「……私、趣味とかあまりないから……」

「……そ、そういえば、これどうやって使うんですか? 初めて見る食器なんですが……」

「あ、それはお箸って言うの。初めての人には難しいよね……うん、使い方、手取り足取り教えてあげるよ!」

「…………」

「……ほぇ? 顔真っ赤だよ?」

 ──時には食事に連れて行ってもらったりもしました。
 ……情けないことに、緊張しまくってたので味なんて覚えてませんが。

 ……仲の良い教導官と教え子。
 そんな関係が終わったのは、例によって訓練場の整理を終えた、月がきれいな夜でした。

「うわー、月がキレイ」

「ほんとですね……。──あの、なのはさん」

「うん? なあに?」

「手、つなぎませんか?」

「へ? ……手?」

 一瞬、きょとんとするなのはさん。

「はい、手です。……ダメですか?」

「……いいよ?」

 遠慮がちに差し出された、彼女の小さな手。
 指と指を絡ませ、しっかりと握る。

「……なんか、緊張するねこれ」

「そうですね」

「……ねぇ、手、つなぐの好き?」

「はい、好きですよ」

「そっか」

「でも、それより──」

 立ち止まる僕。
 一歩遅れて、彼女も足を止める。
 振り返り、僕を見上げるなのは。
 ──目が、合う。

「……うん?」

「──なのはさんのことが、好きです」

「……え?」

「キスしても、いいですか?」

 空いている左手を、彼女のほほに添える。
 ──そして、彼女が、瞳をとじる。

 数瞬後。
 重なっていた唇を離すと、再び彼女と目が合う。

「……ねぇ、一個だけ言っておきたい事があるの」

「……何です?」

「私、──魔“砲”少女なんだけど、それでもいい?」

「……はい?」

「だから、魔“砲”少女なんだけど……あの、引いた?」

「……それが、どうしたんですか?」

「え?」

「……僕がなのはさんの事が好きなことと、なのはさんが魔“法”少女であることに、何の関係があるんです?」

「えっと……」

「……安心してください。なのはさんはずっと僕の中では魔“法”少女ですし、そんななのはさんが僕は好きです」

 うん、この気持ちに嘘はない。
 魔“法”少女だろうがなんだろうが、関係ない。

「……うん、ありがと」

「──僕と、付き合ってくれませんか?」

「…………うん、よろしくお願いします」

 活字で見れば一目瞭然ですが。

 ──僕はこの時、魔“砲”少女って、いったい何のことか分かっていませんでした。

 ──もちろん、“砲”が何をさすか分かってからも彼女を好きな気持ちは変わりありませんが──



「──〇〇くん、もっとカートリッジロードしないと! そんなんじゃ敵艦墜とせないよ!」

「いやいや、こんなロングレンジからバリア抜けて墜とせるの、なのはさんくらいですからね!?」

「むぅー、根性が足りないの! 夜の時みたいに頑張るの!」

「何言ってくれちゃってんすかなのはさぁぁぁん!?」



「──〇〇、君。このアドレス、誰のかな?」

「な、何で僕の携帯を……。……え、ええと、その娘は……」

「少し、頭冷やそうか……」

《──Divine buster》

「みぎゃあああぁぁぁ!?」



 彼女と僕の紡ぐ未来は、

 ──そりゃもう、砲撃一色ですよ?(色々な意味で)



────────────

 ……遅ればせながら映画化記念、です。今日の講習中にふと降りてきました。

 そう言えば、イギリスでは前菜のことをstarterと言うそうです。こうして考えると、なのはさんが

「……ふっ。フェイトちゃんなんて、私にとってはメインディッシュの前菜に過ぎないの」

 ──と言ってるような気がします。二期オープニングの『無限の地獄』と同様に、なのは主題歌は非常に興味深いですね。

 ……しかし、更新も勉強もせずになにやってんですかね、私。二浪はいやだなあ……。

 修正しました。



[11108] 魔“砲”少女彼女。パート2(R15)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:49d8ad59
Date: 2009/09/20 01:56

 ──僕の彼女は、とっても美人です。
 付き合い出したころにはまだ美“少女”だったのですが、ここのところめっきり女性らしい体つきになって、まごうかたなき美人になりました。

 ……ええ、それはいいんですよ。GJです。喜ぶべきことですし、実際喜んでます。

 ですが……“大人”になったってことは、“パワーアップ”したってことで……会う人会う人から可哀想なものを見る目で見られるのは、正直辛いです……。



 それは、ある日の午後のこと……。
 僕は本局にある武装隊員用の休憩スペースで、同僚と一緒にコーヒーブレイクをしていました。
 丁度一仕事終わったところで、やれやれ終わったー! といった空気が流れています。

 ──ビンポンパンポーン♪──

 ……そして、そんな弛緩した空気を破る不吉なチャイム……。

 ──本局武装隊員の○○一等空士。本局武装隊員の○○一等空士。機動六課の、八神二等陸佐がお呼びです。至急、機動六課隊舎、部隊長室に行ってください。繰り返します……──

 ──ブゥ───────ッ!?

 吹きました。
 ええ、そりゃ盛大に吹きました。
 ……正面にいた同僚に、嫌な顔されました……。

 ……もう一度言いましょう。
 僕が今いるのは本局にある休憩スペースで、本局は“次元空間”に浮遊しています。
 そして機動六課隊舎は、地上本部のある“ミッドチルダ”に建っています。

 ……いやいや、何で!?
 普通に考えて、遠過ぎでしょ!?
 それに転送ポートの使用許可と勤務時間中外出許可取らないといけないから、すぐには行けませんよ!?

 ──……尚、ミッドチルダへの転送ポート使用許可と勤務時間中外出許可はすでに取ってあるので、可能な限り早く来てほしい、とのことです──

 ……あ、そうですか。
 逃がしはしない、そういうことですか。

 ……まあ、いいです。
 実のところ、何で呼ばれたのか、おおよそ察しはついています。

 ……行きますよ、行けばいいんでしょう!?

「……○○、頑張れよ……」

 僕を見送る同僚からの言葉が、やけに優しく聞こえました……。



「……ごめんな。でも、あんたしかおらんのや、適任者が……」

「……いえ、慣れてますので……」

 機動六課、部隊長室。
 はやてさん(八神二等陸佐のこと)からの依頼は、やっぱり想像通りのものでした。

「……でも、どうしてこんなことに?」

 機動六課の部隊長室には、大きな窓があります。
 その向こうには、ぬけるような青空が広がっていました。
 ……時々、ピンク色の光線とかズタボロの人が視界に入りますが。

「……禁断症状、らしいで」

「……はい?」

「せやから、禁断症状。……リミッターかけられとって全開砲撃撃てへんから、フラストレーション溜まってもうたみたいで……『質が無理なら、量を撃つの!』……らしいで」

「……それは、また……」

 ──はやてさんは、ここではないどこか遠いところを眺めていました。
 ……きっと、何か辛いことがあったのでしょう。

「……分かりました。とりあえず、止めればいいんですよね?」

「……そうや。頼むで○○君、あんただけが頼りや……!」

 ……はあ、参ったなあ……。
 でも確かに暴走したあの人を止められるのは僕くらいだし……しかたない、か。

「……暴走してもうたなのはちゃんを、どうにかして止めてくれや……!」



 ──青い空、白い雲、阿鼻叫喚の地獄絵図……。

 ……そんなアッパー入った前衛芸術家が描いた風景画みたいな世界が、目の前には広がっていました。

「ディバイィィィン……バスタァーッ! バスタァーッ! バスタアアアァァァッ!!!」

「もう……もうやめてくださいなのはさん! いつもの優しいなのはさんは、どこに行ったんですか!?」

「うるさいの、これでも食らってるの……っ!」

「う、うわああああああっ!」

「スバル─────ッ!? ──っ、私はもう、誰も傷つけたくないから、涙を流させたくないから……だから──!」

「……ふふ、ティアナ? あなたが私に勝てるの?」

「やってみせます、勝ってみせます! ──モードスリー、ターゲットロック、エネルギーチャージ開始……!」

「……そう、残念だよティアナ……。……少し、頭冷やそうか?」

「──行きます! ファントムブレ……キャアアアアアアッ!?」

「ティアナ─────ッ! ……もう、やめてよなのは……。……こんなのなのはじゃない、こんなのなのはじゃないよ……!」

「──アハ、アハハ、アハハハハハハッ!!! 砲☆撃、サイコォ─────ッ!!!」

「──な、なのは……っ! ……止めるよ。止めてみせる。それが私の、親友の仕事だから……!」

 ……何ですか、これは。

 もう一度言います。
 何ですかこれ、どこの戦争映画ですか。
 友の仇をうつため、気が狂った親友を止めるために命がけで戦うとか……あはは、これ僕にどうしろと?

 ──あ、フェイトさん(最後の人)バインド食らった、砲撃食らって墜ちた。

 ……さて、そろそろ何とかしますか。
 幸いなのはさんは空を飛んでませんし、こっちに気付いてもいません。
 ここは、“あの手”を使いますかね。

 ──そー、っとなのはさんの背後に移動した僕は、そのままゆっくりとなのはさんに近づき……、

「アハハハハハ! 何、もう終わりなの!? 歯ごたえがなさすぎるの! どこぞに我こそはという勇者は──ッ!?」

 いきなり抱きついて、ついでに胸を思いっきり揉みました。
 ええ、遠慮何かしません。
 一応、非常事態ですし……十八禁の要領で、揉みしだきます。

「──あっ、はぁ、んん……っ!」

 ……フフフ、どうですかなのはさん。
 これが彼氏の力です……そう、“彼女の体の隅々まで知っている程度の能力(チカラ)”なのです!

「──パクッ」

「んきゃあっ!? ──ん、ああ、んああああああっ!!」

 トドメとして、彼女の耳をパクリ……なのはさん、耳弱いんですよねー。
 軽く達しちゃったなのはさんは、その場にへたりこんでしまいました。

 何はともあれ、なのはさんの無力化に成功!
 ちょっとアダルトな光景を見た周りの方々は若干顔を赤くされてますが……しかたがないじゃないですか!
 魔導師ランクBの中堅どころの僕がリミッターついてるとはいえSランクオーバーのなのはさんを止めるには、こうでもしないと無理なんですよ!

「……ふぁ、○○、君……?」

 とろんとした目のなのはさんが、僕のことを見上げてきます……うわぁ、めっちゃかわいいです……!

 ……なのはさんの目は快楽の余韻に濡れてはいますが、先ほどまでの狂的な光は見えません。
 どうやら、元に戻ったみたいです。

「……立てます? なのはさん」

「……ううん、ちょっと無理かも……」

「さいですか。んじゃ、肩貸します」

「ありがと……でも○○君、久しぶりなのにちょっと乱暴過ぎるよ……」

 よろよろ、といった感じでなのはさんが僕の手を取り、ゆっくりと僕に体重を預けてきました。

「はいはい、ごめんなさいね」

「むぅー……。……○○君、いつもは優しいのにエッチの時は意地悪だよね……」

 先ほどまでの冥王チックな暴走っぷりはどこへやら、かわいらしく唇を尖らせるなのはさん。
 とってもかわいらしいです。

 ……ええ、今もそこら辺でプスプス言ってる隊舎だったモノとか訓練場だったモノとか人だったモノをそんな姿にした人とは思えないくらいにかわいらしいです。

「……そうですかね?」

「そうだよ! ……この間だって、私嫌だって言ってるのにあんな恥ずかしい格好させて……」

 ……あれ?
 何かヤバくないですか、この空気……。

「……まさか、(ピー)を(ピー)して、その上(ピー)を温めてから(ピー)するなんて……。……そ、そりゃ確かに最初に(ピー)を挿れて欲しいって言ったのは私だけど、まさかあんなに太い(ピー)が……」

「う、うおおおおおストップ! ストップですなのはさん! ここ公共の場! 皆聞いてますって! ──ああこらそこの子達、『まさかなのはさんにそんな性癖が……』とか興味深々に聞かなくていいから! はやてさんも録音しない!」

 ……実はこういう騒ぎ、結構よくあるんですよねー。
 んで、そのたびに僕が事態を収めさせられるっていう……。

 ……うん。

 ──不幸だ─────────────っ!!!





────────────

 はい、Marl様からのリクエストで、“起動六課でNANOHAさん大暴走!〜その時、○○が動いた〜”でした。リクエストしてくださったMarl様、こんなんでよろしかったでしょうか? 一番最初の投稿であるということと、そもそもMarl様発の企画であるので今回はこれが選ばれました。

 ……え、エロい? 別に……いいじゃないですか! 作者は男です、まだ十九歳のエロいオッサンです! ……ちょっとくらいエロくったって、いいじゃないですかぁ……(泣き)。

 ちなみに作者の頭の中でのなのはさんと○○君の関係は、手乗りタイガーと高須君です。周囲から見ても一緒、可愛いけど超危険物ななのはさんと、それをなぜか御すことができる人類唯一の希望、○○君……そんな感じです。

 ちなみに、リクエストは幸せなのはさんに限りません。他のリクエストも、(作者のスキルが追い付く限り)受け付け中です。

 ではでは、また!

 ……しかし、ぺんたぶさんのノリはちゃんと出てるかなあ? あれブログだし完成度高いから、かなり難しい……。




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート3
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:233e58d9
Date: 2009/09/21 12:57

 ──“幸せ”って、何なんでしょうか。
 最近、ふとそんなことを思いました。

 人は皆、何かを得るためには何かを犠牲にしないといけません。
 何も犠牲にせず、すべてを得ることができるのはフィクションの世界でだけ……いえ、フィクションの世界ですらそんなことは不可能です。
 フィクションの世界で主人公が全てを得ているように見えても、それは敵方の“幸せ”の犠牲の上にあるものなのですから……。

 ……これは、なのはさんと付き合い出したころに起こった、ちょっとほろ苦い物語……。



「○○君、一緒に無限書庫に行かない?」

 本局の廊下を歩いていると、ばったりとなのはさんに会いました。

「……無限書庫、ですか?」

 ちなみに無限書庫とは、本局にある管理局の万能データベースのことです。
 その広大な敷地内には古今東西あらゆる世界の書物が納められている、らしいのですが、あまりにも書物集積能力が高過ぎるために整理ができず、管理局のデッドウェイトと化してました。

 しかし、ここ数年は新しく配属された司書長の活躍で、ちゃんとデータベースとしての仕事が果たせているようです。
 ……まあ仕事がきついらしいので、今も昔も管理局配属されたくない部署ランキング一位をぶっちぎりでとってますが……ちなみに、昔は窓際族の住みかでした。

「そう、無限書庫。今度艦隊の指令さん達と戦術会議することになったんだけど、そのための資料が欲しくって……○○君、今ヒマなら一緒にどうかな、って思ったの」

 ──ああ、なるほど。
 なのはさんの言いたいことが、やっと分かりました。

 ──教導は三ヶ月ほど前に終わったので、最近はなのはさんと毎日会っている、というわけではありません。
 むしろ年がら年中忙しい教導隊に所属しているなのはさんと、しょっちゅう次元世界の四方八方へと飛ばされる武装局員の僕は、よほどうまくスケジュール調整をして二人の休日を合わせないと会えませんので、ここ二週間くらいはご無沙汰でした。

 ……つまり、これはデートのお誘い。
 仕事が忙しくて仕事場から出られないのなら、せめて仕事場でちょっとしたデートをしよう、ということなのでしょう。

 幸い、今僕はオフシフト。
 さすがに本局から出ることはできませんが、無限書庫は本局の中にあるのでお誘いを断る理由はありません。

「いいですよ、行きましょうか」

「……うん! 行こ、○○君! 無限書庫には私のお友達もいるから、紹介してあげる!」

 ニコニコと笑いながら僕の手を引いて歩くなのはさん。
 この笑顔だけでも、彼女の提案を受け入れた甲斐があったというものです。

 ……ところで、なのはさんのお友達で無限書庫にいる人って……誰なんでしょう?
 なのはさんの先輩の武装隊か教導隊で前線から退いた人が、司書をやってるんですかね……?



「──どうも、無限書庫司書長のユーノ=スクライアです」

 ──超VIPの方がいらっしゃいました。
 無限書庫についた僕達を柔らかな笑みとともに迎えてくれたのは、無限書庫のトップにして要石の司書長さんでした。

 ──って、えええええ!?

「──ユーノ君は、私の魔法の先生なんだよ? 言ってみれば、○○君はユーノ君の孫弟子だね」

「ははは、もうすっかり弟子には適わない不肖の師匠だけどね……」

「何言ってるのユーノ君。防御魔法の構成の緻密さと読書・検索魔法にかけては並ぶ者がいないって、教導隊でも有名なんだよ?」

 ……ああ、そういえば、なのはさんも超が五つくらいつく有名人でしたよね……。
 有名人は有名人同士仲がいいって言うけど、本当だったんだなあ……。


 ──資料は、他の司書さん達が集めてくれるらしい。
 “司書長は、働き過ぎです! たまには休んでください!”と言われてしゅんとなったユーノさん(せめてそう呼んで欲しい、と言われた)を見て、思わずなのはさんと顔を見合せて吹き出してしまいました。

 ……しばらくの間、ユーノさんが用意してくれたお茶を飲みながら三人で歓談します。

 話に一区切りついたころ、ユーノさんが少し押し黙り、ちょっとうつむきました。
 しばらくして顔を上げた彼の顔は、何と言うか緊張感めいたものに溢れていて、場の空気もちょっと引き締まった感じがしました。

「──ところで、さ」

 静かに、ゆっくりとユーノさんは口を開きました。

「なのはと○○君は──その、付き合ってるん……だよね?」

 ……情けない話ですが、この時僕はユーノさんに返事をすることができませんでした。

 僕は、分かったしまったのです。
 ……ユーノさんの、なのはさんに対する“想い”を。

 ユーノさんの言葉は、何かを期待するような、でもそれをすでに諦めているような、そんな気持ちを抱いた自分を叱責するような……そんな響きがあって、僕はそんなユーノさんに返す言葉が見つかりませんでした。

 でしたので、ユーノさんの質問に返事をしたのはなのはさんでした。

「……うん、そうだよ」

 ──僕は、この時のユーノさんの顔を一生忘れられないでしょう。

 その顔からは、悲しみとか、怒りとか、諦めとか、懐旧とか、納得とか……とても言い表わせないくらいのものが混ざりあった、複雑な感情が感じられました。

「……そっ、か。うん、おめでとう、なのは。○○君も……なのはと、仲良くしてあげてね? 自慢の、一番弟子だから」

 ……そしてユーノさんはそんな顔を一瞬で引っ込め、さっきまでと同じ柔らかな笑みでそう言いました。

 ──その後今にいたるまで、僕がユーノさんのそんな表情を見たのはその時ただの一度きりです。



 ──無限書庫からの、帰路。

 僕となのはさんの間には、会話らしい会話もなくただ沈黙のみがありました。

「……私ね、本当は気付いてたの、ユーノ君の気持ち。……でも、応えることはできなかった」

 唐突に、なのはさんがしゃべりだしました。

「……何でですか?」

「うーん……。……ユーノ君って、私にとっては幼なじみとか親友って言うよりも兄弟って感じで……小さい頃は、同じ部屋で寝たこともあったしね。……きっと、近過ぎたんだと思う」

「──そう、ですか」

 ──きっと、なのはさんとユーノさんはこれからもずっと“友達”でい続けるのでしょう。

 ユーノさんは初恋の苦い思い出を、なのはさんは心のどこかに小さな負い目を抱きながら……。

「──でもね、○○君。だからって、○○君は負い目を感じる必要はないんだよ?」

「……え?」

 ──そんなことを考えていたら、なのはさんが微笑みながらそう言いました。

「幸せになるってことはね……誰かを不幸せにするってことだよ。人は、皆誰かの犠牲の上に生きている……だから私達は、幸せになったなら不幸せにしてしまった誰かの分もその幸せを大事にしなくちゃいけないんだ……」

「……そう、ですね……」

「……そして、それでもできるだけ沢山の人を幸せにしたいから……だから、私は管理局にいるの。できるだけ沢山の人の幸せを、守るために」

 ……大きい。

 この人は、仕事中毒だし、砲撃馬鹿だし、結構頑固だし、そのくせかなり抜けているところがあるし……だけどやっぱりエースの中のエースなんだ、と僕は再認識しました。

「……惚れ直しましたよ、なのはさん」

「にゃはは、ありがと、○○君。……でもね○○君、私も同じだよ」

「……へ?」

 なのはさんの言葉に、僕の目が丸くなる。
 ……僕、何かいいこと言いましたっけ?

「……○○君、優しいから……。さっきからずっと、私やユーノ君の気持ち、考えていてくれたよね。……そんな○○君の優しいところ、私は好きだな」

「……じゃあ、僕達ってお似合いのカップルかもしれませんね」

「ふふ、そうだね……」

 ……こうして、その日は別れました。

 本当の“幸せ”とは何なのか……僕には、まだ分かりません。

 ですが……今ここにある“幸せ”を、なのはさんとの“幸せ”を、僕は信じて護りぬきたい……そう、思っています。

「……幸せになりましょう、なのはさん……」

「……うん。絶対、一緒に幸せになろうね……!」





────────────

 はい、オルタ様のリクエストで“ある恋の終わりと、始まり”でした。……え、シリアス……? はい、今回はシリアスです。ギャグ分ゼロですが……オルタ様、こんなんでよろしゅおますか? ちょい短くて、ごめんなさい……!

 ……え、甘い? いやだって……一応コレ、恋愛モノですよ? むしろこれくらいは甘さがないと……ねぇ?

 ……次回は多分、ギャグになります。実際、ギャグの方が楽なんで……。

 ではでは、あまりにも人気のないちーちゃんを悼んで……(泣き)。

 っつか今感想読み返したらリクエストと微妙に違いますね、コレ……。

 え、ええと、こんなんで本当によろしかったでしょうか(汗)?




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート4
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:6227a8b6
Date: 2009/09/20 17:14

 人はその人生において、幾度も試練を経験します。

 ──初めてのおつかい、帰宅路上での腹痛、エロ本の初購入……。

 これらは皆避けることのできない辛い試練であるとともに、後の自分の人間的成長の起点となる重要なイニシエーションであると言えます。


「……来い。貴様が真になのはを愛していると言うのなら……この俺にその証を見せてみろ!」

「──っ、行きます、お義兄さん!」

「貴様に義兄と呼ばれる覚えなどない!」


 ──そして、“彼女の家族への挨拶”。

 これもまた、幾多の試練の一つなのではないでしょうか?



 始まりは、なのはさんのこんな言葉でした。

「ねえ○○君……私の実家に遊びにこない?」

 ……ぱーどん?
 イマアナタハ、ナニヲオッシャラレタノデスカナノハサン?

 ……なのはさんの、ご実家?

「……え、ええと……、今、何と?」

「だー、かー、らー。私の実家に、遊びにこない? そろそろ付き合い初めてから一年経つし、私の家族にも紹介したいから……」

「……いいんですか?」

「もちろん! ……じゃあ二人とも有休溜まってるし、1週間後にでも一緒に行こ!」

 ……い……よっしゃあああああああ!!!

 彼女の実家……何て甘美なる響き!
 きっとなのはさんの昔のアルバムとか服とか一杯あるんだろーなー、そういえばなのはさんは管理外世界の出身らしいし、珍しいモノを見たり聞いたりもできるんだろーなー。

 ……と、ここまではよかったのです。

「……そういえば前に家族に○○君のことを話した時、やけにお兄ちゃんが興味持ってたなー……」

 ……鬼井ちゃん?
 今鬼井ちゃんと申されましたかなのはさん!?

 ……鬼井ちゃん……古来より数多の哀れなる子羊達を屠ってきた、最強の鬼神の一柱……!
 妹を護る時その力山を抜き、海を干す……そしてそのクールでナイスな笑顔は、妹のためにのみ在ると言う……!

 ……最強にして最優の守護鬼神……まさか、現代に生き残りがいたなんて……!

「……そういえば、お父さんもよく○○君のこと聞いてきたかなー……」

 ……折屠撃さん?
 今折屠撃さんと申されましたかなのはさん!?

 ……折屠撃さん……古来より(以下略)

 ……何てこと、敵は強大だ。
 まさしくこれはなのはさんの世界のことわざで言う、“前門の虎、後門の狼”……!

 鬼井ちゃんと折屠撃さんの二枚盾……さすがなのはさんだ、ガードが固い。

 ……だけど、こっちは腐っても管理局員だ……なのはさんとの幸せな未来のためにも、負けるわけには……、

「……あ、そうだ! うちは実戦剣術の道場やっててね、お弟子さんはいないんだけど……お父さんとお兄ちゃんにお姉ちゃんは、その剣術の使い手なんだよ!」

 ……ふぅ。
 なるほど、なるほど……そういうことですか。

「……よろしい、ならば戦争だ……!」

「え……ちょっと、○○君!? いきなり何言ってるの!?」

「久々の戦場だ……デバイスのセーフティを切れ!」

「○○くぅぅぅぅぅぅん!?」

 僕の全力で……あなたの二枚の護鬼を、叩き潰してみせましょう!



 ──で、今。
 なのはさんのご実家にある道場で、なのはさんの鬼……もとい、お兄さんと対峙中です。

 ……どうしてこうなった(涙)!

 ギャラリー席にはなのはさんの折屠……もといお父さんにお母さん、お姉さん、そしてなのはさんご自身がいらっしゃいます。

 僕はデバイス(官給の量産品と同じもの、ただし私物です)とバリアジャケット(こちらも武装隊の制式ジャケット)を展開しており、対してお兄さんは両手に一本ずつ短めの刀(小太刀、と言うそうです)──もちろん真剣です──
をダラリと構えています。 どうやら、服の中にも暗器が幾つか隠されている様子です。

 ……え、何で僕にそんなことが分かるのかって?
 やだなあ、一応僕は武装局員ですよ?
 管理外世界で妙な力の使い手や達人クラスの武闘家と最初に闘うのは、僕ら下っぱの仕事です……いくらなんでもマンガとかのモブみたいに毎回学習せずに即行で潰されてたら、命に関わります。

 つまり何が言いたいのかと言うと……慣れてるんですよ、恭也さん(なのはさんのお兄さんのことです)みたいなのの相手は。
 暗器を隠し持ってることなんて、次元犯罪者にはよくあること……見れば分かる、くらいでないと武装局員は勤まりません。

 ……まぁ、だから言えるんですけど……、勝ち目はまったくありません(涙)。
 何ですかあの人……理論だけの実戦(笑)剣術家ならまだどうにでもなるんですが、明らかにマジの実戦経験者の空気まとってますよ!

 ……もっとヤバそうなお父さんは昔の怪我であまり動けないから見学すると言ってましたが……正直、ほっとしました。
 達人クラスの武闘家二人なんて、下っぱ武装局員の手には余りますからね!

 ……ちなみにここにいたった経緯は、

1.なのはさんと一緒になのはさんのご実家に到着。
  ↓
2.なのはさんのご家族に挨拶、お土産を渡す。
  ↓
3.お土産を置きになのはさんのお母さんがいなくなった隙に、お二方の殺気がピンポイントで僕に向けて発生。
  ↓
4.頑張って耐える、笑みを崩さないよう耐える。
  ↓
5.必死で耐える僕の姿に何か思うところがあったのか、お二方少し感心の表情、殺気緩む。
  ↓
6.でもまだ認めたわけではない、ちょっと道場こいや!
  ↓
7.お前の覚悟を見せてみろ!(今ココ)

 ……ってな感じなのですが……。

 ははは、何ですかこのテンプレ展開。
 娘や妹が欲しいのなら、この我らの屍を越えていけとか……どんだけ武闘派何ですか、なのはさんのご家族!?

 普通の人っぽいお母さんやお姉さんも、仕方ないなぁ、まったく……みたいな顔してないでお二方を止めてくださいよ!

 ……とは、言っても……、

「負けるわけには……、行きませんからね……!」

 そう、負けるわけにはいかないんです。

 なのはさんとのお付き合いは、僕の方から言いだしたこと……。
 いえ、例えそうでなかったとしても、男の僕が“彼女の家族が恐かったから”何て理由で終わらせるわけにはいかないんです!

「……いい、目をしているな。……なのはが君を選んだのも……分かるよ」

 恭也さんが、僕の目を見てにこりと優しげに笑いました。

 ……きっと、これが本当の彼の顔なのでしょう。
 強く、優しく……家族を守るために、いつも全力全開で。
 その在り方は、使う力こそ違えどなのはさんに通じるものがあります。

 ……できれば、その優しさで僕のことも見逃してくれたらなー、なんて……。

「……だけど、俺は不器用な人間だから、ケジメをつけないと気が済まないんだ……父さんも同じく、ね」

 ……まあ、ですよね。

 しかたありません……この○○!
 愛のため、義のため……お相手つかまつります!

「……来い。お前が真になのはを愛していると言うのなら……この俺にその証を見せてみろ!」

「──っ、行きます、お義兄さん!」

「貴様に義兄と呼ばれる覚えなどない!」

 舌戦による前哨戦の後は、男と男のガチバトル。

 ……そこには、何の言葉もいりません。
 ただ、互いの力を示し合うだけ……僕は躊躇なくデバイスを恭也さんに向けて、速度重視の直射弾をできる限り沢山ばらまきました。

 いわゆる、飽和攻撃です。

「むぅ、これは……」

「卑怯だと罵られてもいい! 大人気ないと言われてもいい! 僕は──負けるわけには、いかないんです!」

 恭也さんは、自分に当たる弾だけを見極めてその二刀で的確に撃墜していきます。

 ……どんな動体視力ですか、一発一発がライフルの弾丸並みのスピードなんですよソレ……。
 ……うん、やっぱり懐に潜られたら即終わりですよね、コレ……。

「……なるほど、それがお前の覚悟か……ならば今度は、俺の覚悟を見せよう!」

「……─────ッ!?」

 ……へ?
 一瞬、恭也さんの姿がぶれ……そして、消えました。

 そして……、

「御神流奥義……虎切」

「──ッ、うわあああああああ!?」

 閃光、衝撃……一瞬の、ブラックアウト。

 ……気が付いたら僕は、道場の壁に叩きつけられていました。

 ……い、今……何、が……?

「……立て」

 ……無茶をおっしゃる。

 気が付いているんでしょう?
 僕の体は……もう、ぼろぼろです、もう、動けないくらいに。

 こんな体で立つなんて、凡人の僕には……。

「立て、○○。お前は……なのはを、“護る”んだろう?」

『○○君も……、なのはと、仲良くしてあげてね』

 ──ドクン。

『絶対、一緒に幸せになろうね……!』

 ──ドクン。

『例え、なのはさんが何であろうとも……』

 ──ドクン!

『──僕は、なのはさんのことが……好きです』

 ──ああ、そうだ。

 何を弱気になってたんだ、僕は。

 僕は……○○という人間は、負けるわけにはいかなかったんじゃないか……!

 ……壁に手をつき、よろめきながらも立ち上がり──恭也さんを、みすえる。

 ……もう本当に言葉はいらない。
 同じく“護る”ものである僕らの間には、言葉なんて無粋なものは必要ない。

 ──視界の向こうで恭也さんが構える。
 僕も恭也さんへとデバイスの切っ先を向けた。

 狙いは一つ──相手の懐に飛び込んでの、全力全開ゼロ距離砲撃……!

「「──うおおおおおおおおおっ!!!」」

 僕はデバイスをしっかりと握りしめて、突っ込んでくる恭也さんへと突撃し、そして──、



「──もう、○○君は無茶し過ぎだよ! こんなにボロボロになって……!」

 高町家、なのはさんの部屋にて僕はなのはさんから治療を受けつつ、お小言を頂戴していました。
 一年前は全然だめだった治癒魔法も、ここ一年の特訓の甲斐あってかなかなかに上達していて気持ちいいです。

 ……でも、

「ソレ……なのはさんが言えるセリフじゃないです」

「みゃっ!? ……ふ、ふーんだ。そんなこと言う○○君は、もう治癒してあげない!」

「ああ! そんなひどいこと言わないでくださいなのはさん!」

 必死で謝ったら、何とか機嫌を直してくれました。

 ……恭也さんとの決闘は……結局、勝てませんでした。
 最後まで種の分からなかったあの瞬間移動で渾身の一撃を回避され、そのまま意識を奪われました。
 しかもデバイスは僕の込めた魔力に耐え切れず、大破してしまいました。

 ……しかし、目を覚ました僕に対して恭也さんとなのはさんのお父さんは『お前の心意気、しかと受け取った』と言い、交際を認めてくれました。

 これで……よかったのだと思います。
 一昔前の少年マンガみたいなノリは確かにきつかったですが、結果なのはさんのご家族とは良好な関係が築けそうですし……オーライ、です。

 ……何気に、女性の方々がまとった黒いオーラが恐かったのは秘密です……(ブルブル)。

「……でもね。ちょっと、かっこよかったよ……」

「……はい? 何ですか、なのはさん?」

「な、何でもない! ……そ、そうだ○○君、デバイス壊れちゃったんだよね!? 私が新しいの買ってあげる!」

「ええ!? そんな、悪いですよ……」

「……ううん、いいの。私の……気持ち、だから」

 ……そう言って、優しく微笑むなのはさんを見て。

 僕は、ああ、幸せだな……、と、そう思いました……。





────────────

 はい、細川様のリクエストで“護るための、戦い”でした。細川様、こんなんで良かったですか?

 ……今回は後少しで“来る”んで、一言だけ。──熱血展開は、漢の浪漫!

 ……では、また〜。




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート5(R15)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:db8fb24b
Date: 2009/09/21 16:41

 昇進しました。

 ……って、いきなり言われても分かりませんよね……。

 この度、僕は三等空士から二等空士に昇進いたしました。
 入局二年目にして、初めての昇進です……まあ、同い年の彼女はその数段上の階級なんですが。

 なのはさんは二等空尉……僕のような平凡な人間では、まだまだたどり着きようもない階級です。

 ……一応僕も管理局では数少ない空戦ができる魔導師なんで、出世コースに乗ってはいるんですよ?
 ただ……たかが空戦Bランクの身の上では、十六歳で尉官になったりはできません、不可能です。

 ……なのはさんいわくこんなランクで空戦ができるのは魔力運用が上手い証拠、らしいですが、どちらにせよオーバーSランクの彼女なみの昇進ができるクラスの話じゃないわけで……。

 ……まあとにかく、初昇進です。

 優しいなのはさんはそのことに僕以上に喜んでくれて、ミッドにある僕のアパートで祝賀会を開いてくれることになりました。



「──○○君、お皿出してくれない? 平べったくて、おっきいの」

「あ、はーい」

 彼女が、自宅のキッチンで料理してくれている風景……。

 ……ああ、その何と麗しいことよ!
 男の家のむさ苦しいキッチンも、一瞬の内に“遥か遠き理想郷(アヴァロン)”に早変わり!

 ピンク色のかわいらしいエプロンをつけたなのはさんの姿は……正直、たまりません。

「……○○君、どうしたの? 私見たまんま固まっちゃって……」

「──っああ! す、すみません……」

 ……ふう、いけないいけない。
 現状のあまりの素晴らしさに、一瞬我を忘れてなのはさんに見入ってしまいました。

 ……別に、初めての体験ってわけでもないのに……、不覚!

「……もしかして、私に見惚れてた? やだなーもー、なのはさん困っちゃうなー」

 ……むう、その様子では自覚していませんね、その姿の破壊力を。
 一般的男子に与える“彼女のエプロン姿”の破壊力を……!

 ……これはいけません、何事もまずは自覚することから始まります。

 ってなわけで……ちょっと、自覚させてあげましょう。

「……見惚れてましたが、何か?」

「……へ?」

「そのうっすらと見える胸の隆起に目を奪われ、チラチラと揺れるエプロンの裾に興奮し、素晴らしき全体像に今世の極楽を見ましたが……何か?」

「……え、えっと……。……○○君の、えっち」

 ……うぼぁ!?

 な、何ですかその萌えワードは!
 “H”でも“エッチ”でもなく“えっち”……嗚呼、平仮名の持つ魔性の力!

 ……ふいぃ……危うく、死んだ婆ちゃんに再会するところだったぜ……。

 高町なのは……恐ろしい子!

「……でも……」

 僕が一人なのはさんのセリフのかわいらしさに悶絶していると、もじもじしながらなのはさんが話しかけてきました。

 ……ま、まさか、さらなる追い討ちを!?

 もうやめて、○○のライフはゼロよ!?

「……今日は○○君のためのパーティーだから……この格好がいいなら、エプロン着たまま“ご褒美”あげるよ……」

 ……あ、婆ちゃん……俺、幸せだよ……。



 ……まあ、何だかんだで。

「ごちそうさまでしたー」

「はい、おそまつさまでした」

 思わぬところで臨死体験(死因:幸福過多)した僕はなのはさんの必死の蘇生によって何とか一命をとりとめ、その後は普通に食事の流れとなりました。

 ……え、“蘇生”って何したのかって?
 そうですね……僕に言えるのは、“やーらかかった”、そして“ごちそうさまでした”……これだけです。

 ……あ、もちろんさっき言ったごちそうさまはなのはさんの作ってくれた食事に対するものですよ?

「……あ、そうだ! ちょっと待っててね、○○君!」

 食後の一服とばかりに力を抜いてだらーっ、としていた僕に、食事の後片付けをしていたなのはさんは一声かけるとエプロンを外して部屋の外に出ていきました。

 ……どうしたんでしょう?
 そういえば、家に来た時なのはさんやけに大きな紙袋を持ってたような……?

 ……まあ、それはともかく、です。

 目の前には、無造作に脱ぎ捨てられたピンク色の宝具。
 其の真名は、“男狂わす魔性の装束(彼女のエプロン)”……その名の如く数多の男達を魅了し、骨抜きにしてきた恐るべきシロモノ……!

 ……右よし!
 左よし!

 ……え、えと……触っていいよね?
 ていうか……抱きしめていいよね?
 いやいや……嗅いでいいよね!?

 答えは……聞いてないっ!!

「……なーに私のエプロン手に取りながら決意を秘めた表情してるのかな〜?」

 ……はっ!

 危ない危ない……一瞬の激情に身を任せて、とんでもないミスをしでかすところだった……。

 前に似たようなことやった時は、大変だったもんなぁ……。
 ……まさか、リアルに黄色い太陽を見ることになるとは思わなかった……。

「……安心してください、なのはさん……邪悪なる意志は、今消えました」

「いや、普通に現行犯逮捕何だけど……、まあ、いいや。狙ってやったことだし──はい、○○君。昇進祝いの、プレゼントだよ」

 今、何か不吉なセリフが聞こえたような気がしましたが、あえてスルーしまして……、あ、昇進祝いのプレゼントですか。
 なるほどなるほど、これは嬉しいことをしてくれるものです。

「ありがとうございます、なのはさん」

「ううん、ほんの気持ちみたいなものだし……」

「いえいえ、その気持ちだけでも──って重っ!?」

 なのはさんから受け取った紙袋は、妙に重量たっぷりでした。
 あらかじめ気づいていればどうということはないくらいの重さなのですが……何も知らされていないと、ちょっとバランスを崩してしまうくらいの重さです。

 ……嫌な、予感がします。

 “なのはさん”からのプレゼント……そして、重量たっぷり……。

「なのはさん……中、開けてみてもいいですか?」

「うん、いいよ! ……気に入ってくれるといいなあ……」

 そう言ってはにかむなのはさんですが……僕は、騙されませんよ?

 紙袋の中には、綺麗に包装された包みが十二個。
 その内の一つを手に取り、丁寧に包みを剥がします。

 瀟洒な包装紙の中から出てきたのは……、

「……六連装カートリッジのバナナ弾装タイプ、十二ダース何だけど……」

「やっぱりかあああああああ!!」

 ……さて、一応説明しましょう。

 僕のデバイスは、管理局で制式採用されている型のものを自費で買って使用していたのですが、一年前、なのはさんのご家族に挨拶に行った時に色々あって大破してしまいました。
 その後、なのはさんが新しいデバイスを買ってくれたのですが……。

 ……結論から言いましょう、砲戦使用特化型デバイスでした。

 全体像としては質量兵器のバズーカ砲、なのはさんのレイジングハートと互換性を持たせるためのバナナ弾装給弾によるカートリッジシステム、使用者のサポートをそつなくこなす高性能AI……。
 “トワイライト”と名付けられたそれは完全エース仕様のオーダーメイドで……いや、まあ、一応砲戦適正高いですし、なのはさんの口座数字がえらいことになってましたからお金の心配はいりませんし、実際高性能デバイスもらえて嬉しかったんですけどね……。

 ……このデバイスをもらったころあたりから、なのはさんが僕のことを砲撃仲間(うちとも)にしようと画策してまして……。

「どう、○○君! これで好きな時に思いっきり全開砲撃が撃てるよ!」

「いやいや、無理ですから。好きな時に撃ったら逮捕されますって」

「むぅー……じゃあ、次元犯罪者を逮捕する時に始末書を気にせず好きなだけカートリッジロード……」

「しませんから、しませんからね!? オーバーキルで普通に始末書書かされますから!」

 ……やけに自信満々に胸を張るなのはさん……。

 ……実際、彼氏へのプレゼントにカートリッジ送る彼女ってどうなんでしょう?
 バレンタインデーにお母さんからチョコもらうなみのションボリ感なんですが……。

「……もしかして、迷惑、だった?」

 ……まずいです。

 なのはさん、目に涙を一杯ためておられます。

 もしここで正直に『いや、迷惑っていうか……ションボリです』などと言えば、何気に傷つきやすいなのはさんのことです……。
 『私のプレゼントは……私のプレゼントは、ションボリだったんですねー!?』などと叫びつつ寒空の下に駆け出しかねません。
 もしもそうなれば、僕はそれを追いつつ『俺は大好きだー!!』と叫ばないといけないのですが……さすがに近所迷惑ですし、なのはさんを泣かせたくもありません。
 さりとて、喜んだふりをしても察しのいいなのはさんのことです、たちどころに嘘に気づいて状況はさらに悪化するでしょう。

 ……しかたがありませんね。

「……なのはさん……」

「──キャッ!? ……○、○○君、一体何を……?」

「すみません、僕、もう……」

 ……まあ、あれです。

 いわゆるイイ事にかこつけて、すべてうやむやにしてしまいましょう!

 ……場当たりだとかその後どうすんだとかのツッコミは、禁止です。

「……もう、乱暴なんだから……」

「すみません……」

「でも……うん、いいよ……。……きて……」

 ……その後のことは、もう言う必要はありませんね?

 翌日の太陽が黄色く染まっていたことと、なのはさんの肌ツヤがやけによかったことをご報告しておきます……。

 ……ちなみに、カートリッジはちゃんと受け取りましたよ?
 あって困るものではないですからね……。





────────────

 TAO様からのリクエストで、“或る空士の出世記念日”でした! ……今回、ネタに走り過ぎたような……、TAO様、こんなんでよろしかったですか?

 ……さて、今は連休中らしいのですが……職業:浪人の私には連休などありません! ……てか存在すら知らなかったよ、ナンテコッタイ……。

 ちなみに今回もR15指定です。昨今厳しいですからね……。ま、別に小学生が読んでも問題ないレベルですが。

 最後に、尊敬すべき漫画家、臼井儀人先生に哀悼の意を捧げつつ……今年こそは大学生にジョブチェンジするため、頑張って生きてきたいと思います!

 では、また〜。

 ……何気に、サブタイ考えるのが一番辛い……。

 修正しました。




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート6(病み注意)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:ecef790b
Date: 2009/11/16 00:35

 ある日のこと。
 僕は部隊の皆に誘われて、とある居酒屋に飲みに行きました。

 なにせ僕らは明日も知れない平武装局員、縦はともかく横の結束は親兄弟の絆より固い節があります。
 下士官以下の武装局員の損耗率、特に艦船に付いていない派遣系武装局員の死傷率は年々高まる一方です。

 どうして派遣系は死傷率が高くなるのかと言いますと、これがまた簡単な話。
 弱いからです。

 艦船付きの武装局員って言わばエリートなんですよ。
 例えばL級次元航行艦“アースラ”の艦船付き武装隊は、隊長であるギャレット三等空尉を始めとして全員空戦のできるBランク以上の魔導師です。

 ……え、普通だろって?
 ハハハ、じゃあ僕の所属する部隊……0562部隊の内情を教えてあげましょう。

 まず、部隊長のメルセデス二等空佐。
 彼と副隊長のダイムラー一等空尉がウチの部隊の最高ランク保持者なんですが……双方、空戦A+です。

 ええ、ダブルとかトリプルとかつきません。
 シングルに+がついただけです。

 そして次にランクが高いのがアクアダ陸曹長の陸戦A、四位がビーマー三等空尉とハマー空曹、ウーズレイ一等陸士でそれぞれB+ランク。
 次が僕(空戦B)と言えば、我々がいかに雑魚集団なのか分かっていただけるかと……ちなみに件のギャレット三等空尉は空戦AAランク、さらに艦長のクロノ=ハラオウン提督は空戦Sランクの猛者と比べるのも馬鹿らしい話です。

 ……ちなみにこれ、次元航行艦付きの武装局員についてだけ見たら大してすごい話ではないんですよね。
 もちろんランクが全てではないのは理解していますが……なんともなんとも、です。
 陸士部隊の気持ちがよく理解できます。

 さて、閑話休題。

 とにかくそういうわけで、明日生きてるかも分からない僕達の結束はかなり固いんですよ。
 ですからその日飲み会に誘われた時も、僕は何も考えずにほいほいと付いていってしまったんです。

 ……そう。

 思えば、これが悲劇の始まりでした。



 飲み会終了後、僕はほろ酔い気分で帰り道を歩いていました。
 普段はあまりお酒を飲まないタイプの僕ですが、今日という日は別……仲間達との楽しい宴会中にミルクばかり飲んでても場が湿気るだけです。

 いつもよりも沢山のアルコールを摂取した僕の頭はとても幸せな感じにふわふわしていて、夢見心地の僕は何度も街路樹に頭をぶつけかけながら何が楽しいのか終始笑顔でした。

 ──と。

「……あれ、メールだ。差出人は……うん、レイジングハート? なのはさんじゃなくて?」

 僕のデバイスに、一通のメールが届きました。

 差出人は、なのはさんのデバイスレイジングハート。
 高度なインテリジェントデバイスであるレイジングハートならば僕にメールを送ることも可能ではありますが、どうしてなのはさん本人からのメールじゃないんでしょうか?

 ……なんだか、不吉な予感がします。
 このメールを開けたら最後、元の平穏な日常に帰れる保障はない、みたいな……。

 ですが、だからといって無視するわけにもいきません。
 僕は意を決してメールを開きました。

‘Where are you?’

 題名はなく、本文もまた簡潔なメール。
 レイジングハートというデバイスの人(?)柄をよく表しているそのメールを見て、僕の背筋に冷たいものが流れました。

 ……しまった。


 今日、なのはさんが家に来て夕食作ってくれる約束でしたああああぁぁぁぁっ!!


 レイジングハートは、主人であるなのはさんに忠実なデバイスです。
 多分これはなのはさんとの約束を破ってしまったことに対するお叱りのメールなのでしょう。

 酔いが一気に醒めた僕は、あわててレイジングハートに返信で、『ごめんなさい、約束を忘れて部隊の皆と飲んでました』という旨のメールを送り返しました。

 ……この時点で、気付くべきだったんです。
 どうしてお叱りのメールがなのはさん“本人”ではなくてなのはさんの“デバイス”から届いたのか、を。

 レイジングハートからの返信は、彼女(?)にしては珍しく少し長めのメールでした。

‘All right,I have a liking for you...but you are too late.The only thing I can say to you is...Good Luck’

 ……………………。

 ……なんですかこの不吉な文面は!?
 グッドラックって……まるで死地に向かう親友に贈るかのような言葉じゃないですか。

 ええと、これは、つまり……。

 なのはさん、かなり怒っていらっしゃる!?

 その事実に思い当たった僕は、顔を青くして自宅へと駆け出しました。


 ……そう。

 このメールが、文字通り死地へと向かう僕へのエールだとは気付かずに。



 息を切らせながら自宅のあるアパートに着いて最初に見たものは、明かりの消えた自室の窓でした。

 きっとなのはさんは、帰ってこない僕に痺れを切らして帰ってしまったのでしょう。
 そう思った僕は酷く沈んだ気分で階段を上がり、自室の鍵を開けました。

 そこで僕は、不可解なものを発見したのです。

「ただいまー……って、あれ? これ、なのはさんの……」

 それは、玄関先に綺麗に並べられたなのはさんの靴でした。

 ミッドチルダにはそういった習慣はないのですが、なのはさんのご実家がある地域では皆靴を脱いで家の中に入ります。
 僕の家もその程度なら簡単な話なので彼女に合わせ、玄関先の土間にて靴を脱ぐスタイルに切り替えました。

 なので、なのはさんの靴がここにあるのはなんの問題もないのです。
 ないのですが……しかし、そうなるとなのはさんはまだ家にいるということになります。

 しかし、思い出してください。
 そもそも僕がなのはさんが帰ってしまったと判断したのは、自室の窓に明かりがついていなかったからです。
 現に今、中にいる自分の目で見ても家の中は真っ暗……人のいる気配なんてまったくしないのですよ。

 ──カラ……カラ……カラ……──

 耳を澄ましてみると、なんだか変な音が聞こえてきました。
 しかしそれ以外はいたって静か……室内に人間がいるとはちょっと思えません。

 ……が、なのはさんがいないとなると大きな矛盾が生じてしまいます。
 なのはさんには合鍵を渡してありますので、玄関の鍵が閉まっていたことはなんの問題にもなりません。
 しかし、まさか靴を履かずに家を出たはずはなく……やっぱりなのはさんはまだ家の中にいるのでしょう。

 そう結論付けた僕は、とにかく家の中に入ることにしました。

「……なのはさーん? どこにいるんですかー?」

 パチパチと電気を点けつつ、なのはさんを探しながら家の奥へと進みます。
 寝室、バスルーム、トイレ……なのはさんの姿は、ありません。

 ──カラ……カラ……カラ……──

 そして、奥へと進むにつれて大きくなっていくこの異音。
 一定のリズムで金属と金属をぶつけているような……そんな音です。

 ……なぜだか、じっとりと汗ばんできました。
 まるで水の中にいるみたいに体が思うように動きません。
 たった数歩の距離が、いやに長く感じられます。

 そんなこんなやっとの思いで、僕はリビングにまでたどり着きました。

 ……そしてやっと、僕は異常に気がついたのです。
 リビングはキッチンとつながっているのですが、そのキッチンの明かりだけがついていました。

 ──カラ……カラ……カラ……──

 そしてそのキッチンに、人影が一つ。
 件の異音もその人影からしているよう……で……。


 ──カラ……カラ……カ……

「……あれ、○○君……。遅かったね……」


「──────ッ!!」


 ……そこにいたのは、なのはさんでした。
 そう、なのはさんだったんです……髪はほつれて目は虚ろ、なぜか空っぽの鍋の中でお玉を回していましたが……それは、間違いなくなのはさんでした。

 いつの間にか僕の目の前まで来ていたなのはさんは、魅力的に微笑みつつ……ってヒィッ!?

「……い、いつの間に……?」

 ……あり得ない。

 目を離した記憶は(というか余裕は)ないのに、気がついたらなのはさんが目の前にいる……。
 愛用のエプロン装備にサイドではないポニーテールのなのはさんが、この時ばかりは人間じゃないモノに見えました。

 僕の悲鳴を聞いたなのはさんはいつものどこか幼さの残る笑顔ではなく艶のある大人の女性の微笑を浮かべ、僕の頬に手を当て見上げてきました。

「……○○君? どうしてこんなに遅くなったのかな?」

 底冷えしそうな、その声。
 明らかに、普段のなのはさんとは違います。

 しかし、言っていることは極めてまとも。
 約束をすっぽかしたのですから、その理由を問うのは当たり前の話でしょう。

 ですから僕は、誠意を込めて謝ることにしました。

「すみません、なのはさん。部隊の仲間に飲み会に誘われて、ついつい着いて行ってしまいました」

 嘘も虚飾もない、純度百パーセントの真実を語ります。
 こういう時は、下手に嘘をつくよりもこうした方がいいのです。

 ……それに、申し訳ないと思う気持ちは……本物ですから、ね。

「……うん、嘘は言ってないみたいだね。でも、私との約束は……忘れてた?」

「……ごめんなさい」

「もう……でも、まあ、許してあげる。次からは気をつけるんだよ?」

 なのはさんは苦笑いしながらそう言って許してくれました。

 ……やれやれ、これで一安心です。
 いつもと違う様子やレイジングハートのメールにはかなり驚きましたが、なのはさんはやっぱり優しいなのはさんでした。

 僕の腰に空いた手を回し、抱きしめてくれるなのはさん。
 そんな彼女を見ながら僕は、今後絶対約束を破らないようにしよう、と心の中で誓ったのです。

 こんなに優しい彼女を、もう悲しませないようにしよ──


「ネェ、○○クン?」


 ──思考が、一瞬フリーズしました。

 僕の胸に顔を埋めたなのはさんから、妙にフラットなイントネーションの言葉が向けられたのです。
 一瞬で極度の緊張状態に陥った僕は、なのはさんの変貌に対して何もリアクションがとれませんでした。

「○○クンノフクカラホカノオンナノニオイガスルノ……ナンデカナ?」

 ……うん、心当たりはあります。

 ミッドチルダでは性差があまり就職に影響を及ぼさないので、当然管理局には男性とほぼ同数の女性局員がいます。
 つまり……部隊の仲間の内にも、かなりの数の女性がいるのですよ。

 彼女達は異性と言うよりも性別関係ない友人みたいなものなので、当然飲み会なんかだと肩を抱き合って騒いだりすることもあります。
 ですから、彼女達のつけていた香水かなにかの匂いが僕の服についていた可能性も、あるのです。

「フーン、ソッカ」

 そういった事実を必死で説明すると、なのはさんは少ししてから一つうなずいてくれました。
 まだ変なままの発音に若干不安を感じますが、どうやら分かってくれたみたい──

「……ウン、ウン……デモ、ヤッパリユルセナイナァ……ソノオンナ……」

 ──じゃなかったあ!?

「……ワタシノ○○クンカラベツノオンナノニオイガスルンダヨ? ウフフ……ソンナノユルセナイヨ、ウン、ソンナノユルセナイ。○○クンニニオイヲツケテイイノハワタシダケナノニ……ユルセナイナァ……」

 ミシミシ、と音がして、僕の背骨が悲鳴をあげます。
 逃げようと身をよじってみるも、膨大な魔力によって強化されたなのはさんの腕力に身動き一つできません。

「な、のはさ……。苦、し……!」

「……マズハ、オシオキナノ……」

「な……に……、アッ──────!」


 ……その日。
 僕は、大切なものを喪いました。





────────────

 H.Kさんのリクエストで、「平武装局員○○の受難」
 病んは、難しいです。




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート7
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:dbb24b74
Date: 2009/11/22 03:36
 それは、突然の告白でした。

「……ええと? い、今なんとおっしゃいました?」

 目の前には、真剣な表情のなのはさん。
 顔面蒼白な彼女の発言に驚愕した僕は、思わずもう一度聞き返してしまいました。

 ……さっき聞こえてきた言葉が幻聴でありますように、という願いを込めて。

「だから……、来ないの」

 ですが、その願いは叶いませんでした。

「来ないって……や、やっぱり、アレですか?」

「……うん。ここ二ヶ月ずっと、女の子のアレが来ないの。どうしよう○○君、まだ教導も始めたばっかりなのに!」

「お、落ち着いてくださいなのはさん! とりあえず落ち着いて……レイジングハートを起動状態にしないで!!」

 ……これが、今回の騒動の発端だったのです。



「……ごめんな、ちょい疲れとるみたいや。悪いけどもう一回言ってくれへんか?」

 翌日。
 朝一で機動六課に出勤したなのはさんと上司に頼んで有給を取った僕は、そのまま機動六課の部隊長室へと向かいました。
 機動六課の部隊長は、八神はやて二等陸佐。
 “歩くロストロギア”の異名を持つ才媛で、なのはさんの親友でもある彼女ですが……さすがにこの事態は予想できなかったみたいです。

 額に手を当てつつ僕達に問い返すはやてさん……その心中、とてもよく分かります。

「うん……ごめんね、はやてちゃん。私、できちゃったみたい……」

 が、現実は非情です。
 突き付けられたリアルの重みに、はやてさんはカエルの潰れたような声をあげて倒れ伏してしまいました。
 対するなのはさんは、困ったような、でもどこか幸せそうな顔をしつつ頬を赤く染めています。

 その仕草はとても可愛らしい。
 可愛らしいのですが……残念ながら、今の僕には可愛いなのはさんをじっくり鑑賞する余裕がありません。

 え、なぜかって?

 それはですね……。

「……○○君、この大事な時期によおもまあやってくれたのぉ……。この落とし前、どないする気ィや……?」

 ……もう現実に復帰された部隊長閣下から、もの凄くドスの効いた視線と言葉が現在進行形で向けられているからですよ……。

 流石は若干十九歳で二等陸佐にまでのしあがった才女、そのリカバリー能力もさることながら身に纏う空気と言うかオーラと言うかそんな感じの物も凡下の輩とは一線を画しています。

 率直に言うとですね……黒いんですよ、空気が。
 はやてさんの背景が真っ黒にベタ塗りされてて、『ズゴゴゴゴゴゴ……』って書いてあるみたいに見えるんですよ……っ!

 頼りになりそうななのはさんは、いつの間にか遠いお国に旅行中。
 既に三人目の子供が男の子であることまでは決定済みのようでして、今名前を考えておられます。
 ぶっちゃけ、役にたちません。

 焦っている内に、はやてさんから濃密な魔力の気配がしてきました。
 彼女が構えている十字槍型デバイスの先端に、なにやらよく分からないパワーが集っていく感じがします。

「は、はやてさん? お、おおお落ち着いて……ここ部隊長室、攻撃魔法使用はご法度ですよ?」

「──彼方より来たれ、寄生木の枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け……!」

「って既に詠唱に入っていらっしゃる!?」

 やばいです、これはかなりやばいです。

 なにせ彼女はオーバーSランク……単独で戦術級大魔法が使用できる数少ない魔導師の内の一人(なのはさんもですけど)。
 彼女の出力ならば、ひ弱な僕の体なんて張った障壁ごと一瞬で原子レベルにまで分解されてしまいます。

 慌てて何か手はないかと周囲を見回す僕。
 しかし部隊長室には僕達三人以外誰もいず……しかしそこに僕は活路を見つけました。

「ふふふ……はやてさん、いいんですか? リインさんは、今おられないのですよ?」

 それは、はやてさんのユニゾンデバイスリインフォースⅡ空曹長の不在。

 他者を圧する魔力の持ち主であるはやてさんは、しかし以外なことに理系の学問が多少苦手です。
 ですから単独での魔法行使は不得手なので、普段魔法を使う時はユニゾンデバイスであるリインフォースⅡ空曹長の補助を受けています。

 つまり、今の彼女はただの魔力タンク……フハハハハ、さあはやてさん、なにかやれるものならやってみ──!

「……なぁ、○○君。確かに私は魔法を使うのが下手や……やけどな、私には無理矢理にでも魔法を使うことのできる膨大な魔力がある。そしてこの距離……、○○君。いくら私が精密魔力操作が苦手やとして、この短い距離で外すと思うか……?」

 ──ンノオオオオオオオウッ!!

 ガッデム、そう言やそうでした!

 ……ならばやはり最後の手段、目覚めよなのはさ……!?

「……えへへー、それでね○○君、私五人目は女の子がいいなぁ」

「ええっ、なのはさん誰もいない空間に向かって誰と話してるの!? 僕は今ここにいますよ!?」

「そうだね、名前は優姫にしようか。優しいお姫様……うふふ、ホラこの子も喜んでるよ? 可愛いね」

「わあい、会話がまったく成立していない! これが会話のデッドボール……ってちょ、は、はやてさ、ちょっとタンマ! な、なのはさんなのはさん、早く正気に戻ってください! あなただけが頼りなんですよ!!」

「んもう、またそんなこと言って……。○○君ってばぁ……」

「カカカ……、キキキ……、コココ……。もう限界や、もう限界なんや……。お局様ルート驀進中と裏で揶揄されとる私の目の前で、暇さえあればイチャイチャクチャクチャ……ククク、もう駄目や、もう駄目やわ……。おまけにこの大事な時期に、妊娠やて……? ……アカンわ○○君、それはアカン……二重の意味で私に大打撃……。……ええんよ、○○君。○○君がそのつもりなんやったら……剛速球のビーンボール、プレゼントしたるさかいにな……!」

「ってこっちも既に正気ではいらっしゃらない!?」

「ウケケ、ウケケケケケケ……。穿て石化の槍、ミストルティン……!!」

「それでね○○君、六人目は……」

 早朝の部隊長室、既に僕以外正気の者はおらず。

 疲れ果てた僕は、もうなんだか悲しくなってきて天を仰ぎました。

「……もう、誰でもいいから誰か助けてください……」



 ……そして結局、僕は助かりました。

 理由は簡単……はやてさんの魔法が不発に終わったからです。
 そもそもすっかり忘れていたのですが、はやてさんには魔力リミッターがかけられています。
 これは部隊毎保有魔導師ランク制限というものがあるからでして、詳しいことは省きますが現在はやてさんの魔力量はAランク相当にまで落とされているのです(ちなみに、六課の他の前線隊長陣……つまりなのはさん達もリミッターをつけています)。

 ……まあようするに、はやてさんが使おうとしていたごり押し魔法は使用不可と言う話でして……こうして魔力エンプティになったはやてさんは停止、めでたく僕の命は助かったわけです。

 そして今、僕達は病院にいます。

 その後出勤してきた部隊長補佐のグリフィス准陸尉から、なにをするにせよ一度病院で検査をした方がいい、というありがたいご指摘を頂いたからです。
 彼の理知的な説得にさしものなのはさんも正気に戻り、僕達二人は時空管理局と契約している病院にやってきました。
 ちなみにこの時点でなのはさんの有給はグリフィス准尉が勝手に取ってくれています……後で聞けばその日の教導のシフト変更も彼がやっていてくれたようで、それを知ったなのはさんは土下座せんばかりの勢いで謝っていました。

 それはともかく、もうなのはさんの検査自体は終わりまして今もう結果を待つだけ。
 そわそわと落ち着かなく医師を待つ僕とは対照的に、なのはさんの表情はさっき医師と話してから微妙に暗いです。

 そんななのはさんが少し気にはなりましたが、何か大切なことなら彼女の方から話してくれるだろう、と僕は黙って待つことにしました。

 カチ、カチ、カチと時計の針が進む音がやけに大きく聞こえます。
 一定のリズムで病院の廊下に響くその音は、まるで催眠術のようで……昨日からかなり気を張っていた僕は、浅い眠りへと誘われました。

「ねぇ、○○君?」

 どれくらいの時間が経った後でしょうか、なのはさんの声がして僕は微睡から覚めました。
 隣を見ると、なのはさんが少し固い表情でこちらを見ています。

「……なんですか?」

「あ……うん、えっと……先生、遅いね……」

「そうですね」

 時計を見れば、待ち初めてから既に二十分。
 院内の空き具合から考えて、もう結果が出ていい時間です。
 しかし、医師か看護師が部屋から出てくる気配は全くしません。

 ……ですが、それは違うでしょう。

 なのはさん、僕にはあなたがなにについて悩んでいるのかは分かりません。
 しかし、

「……それで、なのはさんは僕になにが聞きたいんですか?」

 先程からなにかを僕に聞こうとしていることくらいは分かります。

 どうせ、これから話してくれようとしているんです。
 ちょっとくらい背中を押したところで、バチは当たらないでしょう。

 そんなことを考えながら言った言葉を聞いたなのはさんは、目を丸くして驚きの声をあげました。

「ふぇ? ○○君、どうして私の考えてること分かったの?」

 ……やれやれ、この人は……。

「……分かりますよ。付き合い初めてから、もう四年ですよ? それだけ経ってまだ、相手の考えてることが少しも分からないはずはないでしょう。……世界で一番好きな人のことは、余計に」

 そう僕が言うやいなや、なのはさんの頬は真っ赤になりました……あれ、そんなにクサいセリフかなこれ?

 顔を赤くして俯くなのはさんを鑑賞するのは楽しいのですが、らちがあかないので話を先に進めます。

「で、なのはさんの聞きたいことってなんですか?」

 僕の再度の問いに対してなのはさんは、まだ頬を赤らめつつも姿勢を正し、真剣な瞳で僕の目を見据えました。

「……あのね、○○君。私って……重い?」

「……いえ、むしろ軽い方だと思いますけど」

「い、いやその重いじゃなくてね……。……ほら、精神的に」

 ……ああ、なるほど。
 そっちの重いですか……うん、なら答えは一つですね。

「重いですよ」

「ッ!! ……そ、そうだよね……。私、やっぱり──」

「──ですが」

 迷いも逡巡もなくあっさり重いと告げた僕の言葉に、なのはさんは少なからずショックを受けた顔をしました。
 そのまま自虐に走ろうとした彼女のセリフを、しかし僕はぶった切って続けます。

 まだ、僕の話は終わっていないのですから。

「ですが……その重さが、心地いいんです。一途で、天然で、嫉妬深くて……そんななのはさんの重みが、僕は好きなんです。ですから……この重さを手放すつもりは、ありません」

 僕のセリフを最後まで聞いたなのはさんは顔を赤くしたり腕をばたつかせたり忙しなく動いた後、僕の右腕にぎゅっ、と抱きついてきました。

「……え、えっと……あ、ありがとう?」

「どういたしまして」

「こ、これからもよろしく……お願いします」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします」

 僕達の間に、穏やかな空気が流れました。
 なのはさんとなら、この先ずっと一緒にいられる……そんな僕には気がします。

 そしてそんな僕らを祝福するかの如く目の前の扉が開き──。

「……そんなキミ達に、非常に残念なお知らせだよ」

 ──出てきたカエル顔の医師が、そんな空気を粉砕してくれました。



 結局、なのはさんの妊娠は彼女の勘違いでした。
 医師いわく、月一のアレがなかったのは心因性の話らしいです。

 しかし、この騒動が誘発した騒動は物凄いことになり……“なのはさん懐妊騒ぎ”が勃発したのでした。

 おしまい。





────────────

Marl様からのリクエストで、『妊娠と彼女の重み』。

難産でした。



[11108] 魔“砲”少女彼女外伝1 「その日、機動六課」
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:70e1dd4b
Date: 2009/11/24 00:23
 注:今回は外伝と言うことで、いつもの○○君語りではなく三人称です。ご了承ください。

────────────

 ○○となのはが病院にいた頃、機動六課は大騒ぎになっていた。

 まず、魔力エンプティで機能停止していたはやてが再起動。現役キャリアウーマンなめんなとばかりに復活した彼女は、仕事を肩代わりしつつ看護までしてくれていたグリフィスの静止も聞かずに部隊長室を飛び出した。ちなみに、これが後のはやて×グリフィスフラグの先駆けであったとその時パーペキスルーされたリインは語る。
 部屋から飛び出したはやては、しかし三秒後に帰ってきた。館内放送機器が部隊長室にもあることを思い出したからだ。逆に言えば、そのことを忘れてしまうほどに気が動転していたとも言える。
 部隊長室に帰ってきたはやては神業的速度で放送機材をSet Up。なおも彼女の暴走を止めんと必死の突貫を行うグリフィスをリインと融合して凍りづけにするやいなや、マイクを握りしめた彼女は伝説的とも言えるソウルフルな演説を六課隊舎内に向けぶちまけた。

「──諸君。勇猛果敢なる機動六課職員諸君。諸君は今日も、一心不乱にその職務に励んでくれていることと思う。
 そんな諸君らの仕事に水を差すのは私としても本意ではないのだが……やんぬるかな、そうは言ってられない事件が起きた。
 そう、事件だ。これは大事件だ。我々六課職員の根幹を、アイデンティティを揺さぶり崩壊させかねぬ大事件なのだ。

 そう、実は──、高町一等空尉が、妊娠したらしい。

 ああ、落ち着きたまえ諸君。突然このような事実を突き付けられた諸君らの混乱、もしくは困惑……私にはよく分かる。なぜなら、私もそうだったからだ。

 ──諸君、私は高町一等空尉を親友だと思っている。
 その相方である○○一等空士についても、良き友人だと認識している。
 本来ならば……そう、あくまで本来ならばこの知らせに対し私は祝福をもって応えていたであろう。

 ──だがしかし、しかしだ!!

 皆、胸に手を当てて考えてみて欲しい……我々は、何だ?
 機動六課という鉄の要塞に集いし我々は……一体、何物だ?

 ……決まっている。
 我々は──機動六課、職員だ!
 その魂に熱き正義の炎を灯し任務を遂行する、誇り高き機動六課職員だ!!

 ……今、機動六課は冬の時代である。周辺部隊からの風当たりは強く、新造の部隊内部は粗雑で、おまけに敵は強大だ。
 春、栄光の季節は遠く、我々は一致団結してこの苦難を乗り越えていかなくてはならない。

 ……そんなこの時期に、妊娠? ──ッハ、笑わせてくれる!
 それはなんだ、寿退社フラグだとでも!? どちらにしても産休は免れまい!

 ……諸君。もう一度言おう、これは大事件だ。この時期に高町一等空尉に抜けられること……それはすなわち、機動六課事実上の崩壊を意味する。
 諸君らは、許すことができるか? 今やっと動き始めた、我々の部隊──それが今、最大の危機に晒されている。しかも、それを起こしているのは内部の者だ。諸君らは、許すことができるのか?

 ──怒れ、怒れよ皆!!
 怒りの炎で、○○を……高町一等空尉をこの時期に妊娠させた大馬鹿者を燃やし尽くせ!!

 確かにこれはただの八つ当たりなのかもしれない──だが、だがしかし! それが許されないのならば、我々の怒りは──慨嘆は、悲しみは、一体どこに持っていけばいいのか!?

 我々は──誇り高き機動六課職員一同は、この事態に大いに怒る権利があるのだ!!

 ──そう、今日があいつの命日だ!!」

 ──その日、機動六課は激震した。

 その演説は、演説としては短いものであった。しかし、演説とは長ければいいものというわけではない。
 明々朗々たる弁舌が、巧妙なレトリックが、そしてなによりその言葉に込めた熱い魂があれば──その演説は、人の心を動かせる。

 事実、はやての演説は機動六課に大きなうねりを巻き起こした。
 まず高町なのは至上主義者のスバルやはやての演説に妙な感銘を受けてしまったヴォルケンリッター女性陣を筆頭とした陣営は、直ぐ様六課ミーティングルームに集合。
 血走った目で殺意のオーラを弾けさせる狂戦士達の寄り合い所帯に、仕掛人であるはやて満足気にニヤリと黒笑を浮かべる。
 危うし○○、彼の命ももはや風前の灯火か……そう思わせるに不足ない殺伐とした空気がそこにはあった。

 だが、しかし。
 天はまだ、○○を見捨てていなかった。そう、未だいたのだ。はやての妄言に惑わされずに正気を保っていた、光の勇者達が。

 筆頭は、なんとか部隊長室から脱出したグリフィス。そしてライトニング分隊隊長フェイト。なのはの妊娠を素直に喜ばしいこととして受け止めた二人……とりわけグリフィスは過去なのはの件で何度も○○に世話になっている恩返しにと、どうせ私怨にまみれたエゴイズムの塊であるはやての野望を阻止すべく立ち上がった。
 さらに、スバル以外のフォワード陣もそれぞれの理由から○○擁護派に。彼によく差し入れを貰っていた機動六課の食堂のおばちゃん達と、なのはを落とした彼のことを年下とは言え兄貴と慕うヴァイス率いる整備班の一部もグリフィスの軍門に下った。
 そして、ザフィーラ。ヴォルケンリッターの中で唯一冷静な者として、彼は主であるはやてに反旗を翻した。主の愚挙を諫めるも、また騎士の責務だと信じて……彼は、長年の盟友と敬愛する主に牙をむく。

 ……そして始まった、機動六課の敷地全域を使った盛大な内部紛争。
 『シーサイドベースの擾乱(別称:なのはさん懐妊騒ぎ)』と後年名付けられることとなるこの戦いは、熾烈を極めた。

 かたや六課隊舎を根城とし、はやてを指揮官としたはやて勢。かたや訓練施設上に即席で組み立てたプレハブ小屋を根城とし、グリフィスを指揮官としたグリフィス勢。ちなみに訓練施設のシュミレーターを弄って要塞化する案も出たが、メカニックであるシャーリーが面白がってはやて側についたため廃案となった。

 この戦闘において、グリフィス勢は開戦当初押されっぱなしであった。
 当然である。いくらグリフィスの側にフェイトとザフィーラがいるとは言え、あちらにはザフィーラ以外のヴォルケンリッターが揃っているのだ。さらに、数も圧倒的にはやて側が上……はやてとグリフィスの指揮官としてのキャリアの差も相まって、一方的な戦いが展開された。
 スバルはティアナが、シグナムはフェイトが抑え、ヴィータはザフィーラが迎え撃つ。エリオは持ち前の機動力を生かして敵の前線を引っ掻き回し、キャロは彼のブースト兼話を聞いて駆けつけてきた妹ラグナに叱咤激励されて再び愛銃ストームレイダーを手に取ったヴァイスと共に後方からの援護射撃。崩れかけた前線を整備班のスパナアタックが強襲し、大打撃を与えた。

 ──それは、ベストな指揮だった。グリフィスは、現状己に可能な最高の采配を行い、また勇者一同は見事にそれに応えた。
 だがしかし……それでも、数の差は分厚かった。しかも、はやて側には機動六課唯一の医務官と言えるシャマルがいたのだ。アンリミテッドドライバーワークスやスーパーイナズマスケールキックの直撃を受け後退した狂戦士達に次々と治癒魔法をかけ、戦場へと送り返す慈愛の死神……彼女がその仕事に専念していたために最大の脅威とも言える旅の鏡は封じられたものの、回復役の少ない勇者達は苦戦を強いられた。
 途中、キャロがどこかに連絡を入れて救援を要請したが芳しい返事は得られず……戦況はグリフィス勢不利のまま、昼食時を迎える。

 ──だがここで、勇者達に神風が吹いた。

 食堂のおばちゃん達が、動いたのだ。いや、既に動いていたと言うべきか……彼女達は戦闘開始前に機動六課食堂に存在した食材を全てクーラーボックスに入れて持ち出し、また簡易調理器具を用いて戦闘中ずっと炊き出しを行っていたのだ。
 さしものはやてもこれには参った。何せ、食材がなければ食事は作れない……しかし朝からの戦闘で、いくら狂戦士達と言えども腹が空いている。出前を取ろうにも、それは機動六課の体面──引いては管理局全体の体面に関わる問題が生じる恐れがある。
 じゃあこんなしょうもない話を起こすなという話なのだが、それはそれ。彼女もかなり色々なものが溜まっていたのである。折り悪しく月一のアレ中でストレスが限界値を超えた、とも言う。
 何はともあれ、腹が減っては戦はできぬとは昔から言われてきた真実。やむなく非常用のブロック型バランス食品を各自に供給したものの、グリフィス勢陣地から香る芳醇な食事の匂いにはやて勢の士気はだだ下がりであった。

 昼食後、再びぶつかり合う両陣営。しかし士気の下がった狂戦士達の動きは精緻を欠き、反対に十分な体力回復ができた勇者達の勢いは凄まじく彼らはこれまでの不利を覆すかの如く一気に盛り返した。
 この事態を重く見たはやては、後方担当であったシャマルをついに戦場へと投入。精神的支柱の一つであるフェイトへのリンカーコア直接攻撃を敢行し、これを撃墜せよとの指令を下す。

 ……だが、これは軽挙であった。彼女は失念していたのだ……グリフィス勢がシャマルの特殊な攻撃方法を知っており、また当然それを警戒しているであろうことを。
 戦場へと出てきたシャマルは宇宙戦艦ヤマトのゲームにおけるヤマトの如く集中砲火を受け、止めに整備員Aのギガレンチブレイクの直撃を食らって撃沈。回復役を欠いたはやて勢は、さらに劣勢になってゆく。
 対照的に、優勢になってゆくグリフィス勢。その時、彼らは勝利を確信していた。

 ……だが神は、常識人達に冷たかった。しかし非常識人達にもまた冷たかった。

 ──一陣の風が、戦場を駆け抜けた。その風は行く手にあるもの全てを吹き飛ばし、打ち砕き、蹂躙した。
 それは、一人の女性だった。高町美由希、二十七歳。高町なのはの姉。完成された当代最強の御神の剣士。──彼氏いない歴=年齢の売れ残り。

 なぜ彼女がここにいるのか? 根本的原因は、実は午前中にキャロが“クロノ=ハラオウン”に対し行った救援要請である。他の六課後見人達よりも確実に常識的人物であり、また個人的に自分の後見人であるフェイトの兄であることもあってか比較的親しみを感じていたこともあってキャロは彼に助けを求めたのだが──残念ながら彼が艦長を勤める戦艦クラウディアは航海中だったため、クロノ自身は助けに来ることができなかった。
 が、ここで終わらないのがクロノのクロノたる所以……彼はとにかく手当たり次第の信用できる部署に連絡をとり、事態を収束させようと尽力したのだ。これは、クロノが如何に常識的かつ良心的な人間かを示す好例であろう。

 ……そう、その最中にいらん気を回して高町家になのはの妊娠を伝えなければ、完璧であった。

 なのはの妊娠を聞いた高町家の人々は、皆歓喜に湧いた──たった一人を除いて。
 話を聞いた美由紀は、まず自分と妹の現状を比較しその差に愕然とした。そして、何やら腹が立ってきた──なんでなのはばっかりいい目を見ているのか、と。
 困ったことに、美由希にはミッドチルダに気楽に行ける友人が一人いた。その友人に頼み込んだ彼女はミッドに来訪し……戦場に降り立った彼女はその破壊衝動を全開にして、まさしく狂戦士と化した。
 降って湧いた第三勢力。ますます混沌を極める戦場。そこへ──

《Divine Buster》

 ──今、神の鉄槌が振り下ろされる。
 ピンク色の砲撃は過たず美由希に直撃し……誰も手を付けられなかった彼女を一瞬で無力化。さらに頭上からする膨大な魔力のうねりに、皆一様に青ざめた顔で空を見上げた。

「……どうしちゃったのかな、皆? ……少し、頭冷やそうか……」

《Starlight Breaker》

 星砕きの極光が地へと墜ち、紛争は物理的に終了させられた。

 ……これが、なのはの想像妊娠から始まった大騒ぎである。

 この話から我々は学ばなくてはならない……つまり、戦争は良くない、と。

The End



[11108] 魔“砲”少女彼女外伝2 「ジェラス・ガイ」
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:7c70e43d
Date: 2009/11/25 13:41

 注:今回も外伝と言うことで、いつもの○○君語りではなく三人称です。ご了承ください。

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 ホテル・アグスタは、次元世界の交差点ミッドチルダにおいてもかなりのグレードを誇るホテルの一つである。手入れの行き届いた豪奢な客室、厳しい訓練を積んだ優秀なスタッフ、二十四時間内部の人々を見守り続ける水も漏らさぬ警備システム、その上で各客室内においては確約される絶対のプライバシー……そして勿論、客人達の無聊を慰める多種多様なエンターテイメント施設。
 そんな施設の内の一つ、ホテル地下一階にあるショット・バー。『VAULT』と名付けられたそこのカウンターに、今一組の男女が並んで腰掛けている。
 仕立ての良い緑色のスーツに、クリーム色の長髪をスーツと同じ色のリボンでまとめた男性。美しいブロンドのロングヘア、その先を黒の大きなリボンで縛った管理局陸士隊の制服に身を包む女性。見目麗しい二人の人間が薄暗いバーで酒を酌み交わす様は、さながら映画のワンシーンかの如き情景だった。

「……フェイト、最近皆はどうしてる?」

 男──ユーノ=スクライアは、手に持つグラスを傾けつつ傍らの女性に問う。その穏やかな口調と控えめな物腰からは、彼が実は時空管理局のメインデータベース無限書庫の司書長であり、尚且つ現役の高名な考古学者であろうとは予想できない。
 琥珀色の液体が彼の喉へと吸い込まれて行くのを見つめつつ、フェイトは口を開いた。

「うん……皆、何とかうまくやってるよ。こないだ、ちょっと凄いことがあったりしたけど……」

「ああ……クロノから聞いたよ、大変だったね。僕は忙しくって動けなかったんだけど……大丈夫だった?」

「うん、まあ……、ね。施設がかなり損傷したのと始末書を大量に書かされたこと……後、三ヶ月減俸はかなり痛かったけど……」

「ははは、御愁傷様……君、これをもう一杯。それと彼女にも同じものを」

「かしこまりました」

 ガックリ、と肩を落とすフェイトの肩をぽんぽんと優しく叩きつつ、ユーノはバーテンにお代わりを注文した。ついでにフェイトの分まで注文するユーノに、彼女は慌ててユーノを見る。

「ユ、ユーノ? 別に私、お金がないってわけじゃあ……」

「まあまあ、ただのお節介だから気にしないで。……だけど、クロノによればいいこともあったんだって?」

 フェイトの遠慮を笑って受け流すユーノに、フェイトはもう、と唇を尖らせた。そしてやれやれ、とも言いたげに頭を振ると、優しげな笑みを浮かべてユーノの問いに答える。

「ユーノは、いつもそうなんだから……。……うん、そうだね。部隊の皆、特に新人の皆と壁みたいなものがあったんだけど……それが、あの騒動の後はなくなった、かな。なのはも、教導がかなりしやすくなったって言ってたし……」

「……そっか。……それにしても、結局○○君は大変な目に会ったんだろう? なのはの彼氏ってのも、大変だね……」

 なのはの話題が出た瞬間、ユーノの表情が少し強ばった。しかしすぐ彼の顔は元の柔らかな笑みに戻り、顔の強ばりは一瞬にして覆い隠される。
 それでも“なのはの彼氏”の発言に若干の違和感を感じたフェイトは、ユーノに苦笑いを向けた。

「……やっぱり、なのはのこと……まだ、好きなの?」

 その問いかけに、ユーノは弱々しい笑みを浮かべ頷く。
 無表情のバーテンからお代わりを受け取ると、彼は一息にそれを呷った。その翡翠色の瞳を物憂げにひそめ、彼は静かに独白する。

「……僕だってね、本当は分かってるんだ……なのはの隣にいるべきなのは、僕じゃなくて○○君だってことは。もう四年……そう、もう四年さ、僕は彼女達を見てきた。だから、分かる……なのはの隣に○○君がいる、この今こそがなのはにとって一番いい状態だってことが。
 だけど……だけどさ! ……忘れられないんだよ……なのはの、笑顔が! 温もりが! ……あの、太陽みたいな綺麗な笑顔が……優しく抱き締められた時のあの温もりが……忘れられないんだよ……!
 ……どうしてなのか、自分でも分からないよ……。……ただ……彼女の傍にいるのが自分じゃないのが……彼女の心の中にいる人間が自分じゃないのが……、堪らなく、悲しいんだ……」

 血を吐くかのような、ユーノの言葉。好きな人に幸せになってもらいたい、しかし自分では幸せにすることができない……その、ジレンマ。初恋の残滓は色濃く、未だユーノの心をギリギリと締め付ける。
 だが……ユーノの頬は、乾いたままだった。その瞳に、湿り気は微塵もなかった。
 そんな彼を、フェイトは複雑な表情で見つめていた。彼女の知り合いの中でも、ユーノともう一人……彼女の義兄は、彼女とは比較にならない程の要職に就いている。かたや無限書庫という地味ながらも立派な管理局の一部門の長、かたや次元航行隊の提督……その責任故か、それとも男の矜恃なのかはフェイトには分からない。
 ただ一つ、フェイトが事実として知るのは……彼ら二人が、ここ数年人前では一度も泣いていないと言うことだけだ。例えこのような酒の席であろうとも。

 しばしの間、沈黙がその場を満たす。
 聞こえてくるのは、他の客のひそひそ囁き合う会話と粘りつくような歌声のBGMのみ。息苦しさはないものの、何かが胸につかえたような感覚にフェイトは形の良い眉をひそめる。
 彼女は、静かな酒が好きなタイプだ……しかし、この状況は嫌だ。一人で飲んでいるのならともかく、友人と共に飲むのならば明るい酒が飲みたい。それは騒がしい酒である必要はないが、こんな風に気分の滅入る酒ではないことは明白だ。
 ……そう、隣にいるのがこの男ならば……それは、余計に。

「──こんな所にいたのか。探したぞ、ユーノ」

 沈黙を破ったのは、知った男の声だった。後ろから響く声に二人が振り向いてみれば、そこにいたのは管理局高官の制服を着た若い男。フェイトの義兄、クロノだ。
 思ってもみない人間の登場に、フェイトは目を丸くしながら疑問の言葉を紡ぐ。

「お兄ちゃん……、どうしてここに?」

 そんな彼女の言葉に対し、クロノは頬をポリポリと掻いた。照れているのだ。この男、兄妹関係が始まってもう十年近くの歳月が経っていると言うのに、未だ彼女に“お兄ちゃん”と呼ばれることに慣れていない。最も、そんな朴訥さが彼の魅力でもあるのだが。
 とはいえ、今この場でそれを口に出す程彼も空気を読めない男ではない。つまり、悪友であるユーノがいる前で分かりやすい弱みを見せる程阿呆ではないということだ。さらに言えば彼は少し疲れてもいたので、その点については指摘をせずにフェイトの質問に答えた。

「……ついさっき、航海任務から帰って来たばかりなんだけどね……。上層部に報告書を提出するために本局を歩いていたら、通りすがりの司書に野暮用を頼まれたのさ……予定の時間を大幅に過ぎているのに帰って来ない司書長を引っ張って来てください、とね。まったく……、僕だって早く帰宅してエイミィの手料理が食べたいってのに」

「……ああ、そういえば忘れてた。ここの所スケジュールが修羅場だから、今日も仕事入れてたんだった」

 肩をすくめて呆れを全身で表すクロノに、ユーノはどこか遠い目をしてそういえばと頷いた。そんな彼のことを、フェイトは仕事し過ぎ何じゃないかと心配そうな目で見つめる……が、はっきり言って彼女を含めた仲間内にそんなことを言う権利がある人間は一人もいない。よく言えば真面目、悪く言えばワーカホリック……彼女達が皆若年にしてそれなりに高い地位にまで上り詰めたのは、優秀な才能は勿論のことその仕事へ向かう姿勢が評価されたからだ。勿論クロノも。
 それにしても、と、クロノは珍種の動物でも見るかのような視線をユーノへと向けた。

「仕事熱心なだけが取り得のフェレットもどきが、まさか仕事を忘れるとは……明日は、雨でも降るかな」

 そんな彼の軽口に、ユーノは頭を振りつつ半目を向ける。これももう十年近く、出会った当初から続いてきた一種のお約束だ。
 十年前はユーノもムキになって怒っていたが、もういい加減年をとった。

「……だから、僕はフェレットじゃないと何度も……。それに、僕だって人間なんだからミス位するさ」

「まぁ、それもそうか。……それに、こんな場所に人の義妹を引っ張り込んでくだを巻いていた理由も、想像がつくしな。──大方、なのはに会ってセンチな気分にでもなったんだろう? ふん、諦めの悪い奴め」

 ユーノを嘲笑うかのようなクロノの語調に、フェイトは眉をひそめた。親しい仲とは言え言っていいことと悪いことがある、と柳眉を逆立て口を開きかけた彼女を、ユーノは苦笑いしつつ制止する。
 そのままクロノに顔を向けたユーノは、ため息をつくように口を開いた。

「──よく分かったね、クロノ。その通りだよ」

 その答えにクロノは満足気に一つ頷くと、クルリと体を半転させバーの出口へと歩きだす。

「……過去に縛られることを、否定はしない。だが、もしもお前が幸せになりたいのなら、幸福を掴みたいのなら……過去に縛られることを、僕は薦めない。何故ならば、過去は変わらずただそこに在るだけのもので……重要なのは、その過去を現在に、そして未来にどう生かすかだと僕は信じているからだ。傍らにいる幸せの青い鳥は、現在と未来にしか存在し得ない──ユーノ、先に行ってるぞ。地下二階のB−28だ、早く来いよ」

 そう言って、クロノはバーから出ていった。残されたユーノとフェイトの間には、またしても沈黙の帳が降りる。
 一人目を閉じ、何事か考えているユーノ。彼はしばしの間黙考していたが、やがてその目を開いて立ち上がった。
 その顔は苦笑の形に歪んでいたものの、フェイトはそこに先程までの心の歪みを見いだせない。ユーノはバーテンに頭を黙礼をすると、次いで彼女に別れの言葉を告げる。

「……クロノの奴、言うだけ言って行きやがって……はぁ、まあいいか。後で文句を言ってやれば──ああ、フェイト。ごめんね、僕が誘ったのに……」

「……ううん、今日は楽しかったよ。……またね、ユーノ」

「うん、また。今日会えなかった皆にもよろしくね」

 ……そしてユーノも去り、バーにはフェイト一人が取り残された。
 カウンターに置かれた自分のグラスを見て、そう言えばまだ飲んでいなかったなと彼女は手を伸ばす。しかしふとユーノが飲んでいたグラスの中にまだ少し酒が残っていることに気がついた彼女は、無意識にそれを手に取った。
 バーテンに目で確認を取れば、無言のまま肯定の意を返してくる。彼のグラスに目を落としたフェイトは琥珀の鏡面上からこちらを見つめ返す自分に苦笑を返しつつ、そのルビーのような瞳に諦念の輝きをともした。

「傍らにいる幸せの青い鳥、ね……。クロノが言った時は心臓が止まるかと思ったけど……まったく、ユーノは鈍いんだから……」

 そう言いつつ、フェイトはグラスの酒を呷った。唇と舌に軽い痺れと苦みを残しながらどろりとした液体が喉を通り抜ける感覚に、彼女は軽い酩酊を覚える。
 だが、今日の彼女はもっと酔いたい気分だった。意識が無くなる程の痛飲をして、記憶をなくしてぶっ倒れたい……つまり、そう言う気分。この程度の酔いでは、今夜の彼女は納得できない。

 改めて自分のグラスに手をのばしながら、フェイトはぽつりと呟いた。

「……ユーノの、ばか」

 ──まだまだ彼女は、眠れそうにない。



 ……ちなみにフェイトはこの後本当に意識がなくなるまで飲みまくり、連絡を受けて飛んできたなのはとはやては気絶した彼女を隊舎まで持ち帰るのに大層苦労することになるのであった。





────────────

 こたつ様からのリクエストその二、のつもりです。時期的にはホテル・アグスタ直後。リクエストと内容にかなり差異が見られるのは……私の力不足であります(陳謝)。

 ガイじゃなくてレディであったと言うのがオチですが……このネタ、何人に分かるんだろう?




[11108] 魔“砲”少女彼女。パート8(R15)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:8985ce85
Date: 2009/11/27 22:16

 先日、娘ができました。

 ……いえ、なのはさんとのアレがとうとう成功してしまった、とかそういう話ではありませんよ?
 僕としてはそういうのは結婚後の方がいいと思ってますし……まあ、男としての責任感と言うか、そんな感じの話です。

 ……最近、結婚情報誌や主婦雑誌をこれ見よがしになのはさんが見ていたりするのは……いやしかし、時間がなぁ……。
 男としては、やっぱりムードある感じにプロポーズしたいですし……。

 ま、まあ、それはともかく。

 ですから娘と言っても義理の、それも手続き上はまだ娘でもなんでもない子なんですが……いやまぁ、『パパ~♪』なんて呼ばれたらもう笑顔で抱き締めちゃいますけどね!

 名前はヴィヴィオ、綺麗なブロンドに赤と緑のオッドアイがチャームポイントの女の子です。
 実は色々と事情持ちの女の子なのですが……なのはさんやそのご友人、そして以前お世話になった医師の尽力で今はもう元気そのもの。
 ただ傍にいてあげることしかできなかった僕としては少し複雑なんですが……そんなことは気にせず懐いてくれるヴィヴィオに、僕はもうあれです、メロメロでございます。

 ……本当、滅茶苦茶可愛いんですよねぇ。
 ですから僕も、ついつい甘やかしちゃって……。

 ──まあ、だからなのはさんがスネちゃったんですけどね……、ははは……。



「──なのはさーん。おーい、なのはさーん?」

 ここは、なのはさんとその親友のフェイトさんがシェアしている部屋。
 クラナガン中心部からちょっとだけ離れたところにある、超好立地条件の高級マンションです。

 ……どれくらい高いかと言えば、僕の現在住んでいるアパート(築四十年木造風呂付き3LDK、日当たり良好ただし廃棄都市部近郊のため若干治安悪し)の家賃とここの家賃を比べてみると僕のアパートの家賃一年分が一月でぶっ飛ぶくらい。
 教導官と執務官、二人がかなりの高級取りなのもさることながら二人共趣味らしい趣味を持っていない(あえて言えば仕事)こともあって、その保有資産数は空恐ろしいものがあります。
 ……まあ、趣味は仕事なんて管理局員の中じゃ大して珍しい話じゃないんですけどね。

 それはともかく。

 今日、なのはさんと同居している二人……フェイトさんとヴィヴィオはこの部屋にいません。
 たまには恋人同士水入らずで過ごさないと、とフェイトさんが気を使ってくれたからです。

 現在二人は遠くの遊園地に遊びに行っています……なぜか、ユーノさんと一緒に。
 出発直前に僕となのはさんがついて行かないことについてヴィヴィオがぐずったりしましたが、三人がかりの説得でなんとか納得し出発しました。
 ……ヴィヴィオ、フェイトさんがユーノさんも一緒と告げたとたんに泣き止んだんですが……謎ですね。

 と、言うわけで色々ありましたがつつがなく二人は出発し、部屋にはなのはさんと僕の二人っきりになったんですが……。

「なのはさーん……。いい加減機嫌直してくださいよー……」

「…………(つーん)」

 ……玄関のドアが閉まったとたんにそれまでの笑顔から一変、不機嫌そうな表情になったなのはさんは僕のいかなる問いかけにも耳を貸さず、リビングの隅っこで壁に向かって体育座りを始めてしまいました。

 まあ、こうなった理由は……なんとなくなんですが、分かります。
 いえね、こないだ言われたんですよ。
 最近ヴィヴィオにばっかり構ってるね、って。
 その時は当のヴィヴィオがいたこともあってか冗談めかした口調だったんですが、やっぱり気にしてたんですか。
 ヴィヴィオがいなくなってお母さんの仮面を被る必要がなくなると、すぐコレです。

 とりあえずさっきから後ろから呼び掛けてるんですが……全然効果が見られませんね。
 仕方ない、ここは物理的手段を行使することにしましょう。

 ゆっくりとなのはさんに近づいていき、その華奢な背中を抱き締めます。
 僕の手が触れた瞬間彼女はぶるりと震えましたが、逃げ出したりすることなくその身をこちらに預けてきました。

 ……依然、視線は壁の方を向いたままですが。

「なのはさん、こっち向いてください」

「…………(ぷいっ)」

「なのはさーん?」

「…………(ぷいぷいっ)」

「はぁ……まったく、なのはさんは子供だなぁ。……そんなんじゃ、ヴィヴィオのこと笑えませんよ?(ナデナデ)」

「…………(つ、つーん)」

 ……あ、このナデナデってのはなのはさんの頭を撫でてる音です。

「本当にヴィヴィオは偉いなぁ、あんなに小さいのにちゃーんと人の言うこと聞いて……」

「…………(汗)」

「まったく、それに比べてなのはさんは……」

「……○、○○君?」

「はい、なんですかなのはさん?」

 焦ったようにこちらを見るなのはさんを、満面の笑みで迎えます。
 僕にはめられたことを知った彼女は頬をぷくっと膨らませると、ぽすん、と音をたてて頭を胸に預けてきました。

「……○○君の、いじわる」

 ……グッ!!
 こ、これはさすがに大ダメージです。
 長年なのはさんの傍にいた男として彼女の無自覚に撒き散らすこの可愛さと言うかいわゆる一つの“MOE”と言うかそんなオーラには耐性がついているのですが……これはさすがに、不意討ち過ぎました。

「やっぱり、○○君はヴィヴィオの方が好きなんだね……。いいもんいいもん、私はママなんだからそれくらい我慢するもん」

「……いや、なのはさん? 我慢するとか言いながらおもいっきり甘えてませんかあなた?」

「……ふん、だ。○○君がいけないんだもん……、最近私のこと全然構ってくれない○○君がいけないんだもん……」

 胸にグリグリと顔を押し付けながらぶちぶちと不平不満をたれるなのはさん。

 ──ですが、ちょいと待ってください。
 なのはさんにそこまですねられる程僕ってヴィヴィオに構いっぱなしでしたっけ……?

 そう尋ねると、グリグリ攻撃をやめたなのはさんは顔を上げ、責めるかのように僕の目をじっと見つめてきました。

「……三ヶ月前の、日曜日。三人で買い物に出かけた時、私のじゃなくてヴィヴィオの服ばっかり選んでた」

「ぅぐっ!」

「一月前の火曜日、テレビのチャンネル争いで私じゃなくてヴィヴィオの味方をした」

「がっ!!」

「先々週の水曜日、皆でケーキ食べに行った時私にわけてくれた分よりもヴィヴィオにわけた分の方がちょっと大きかった」

「べほまっ!!?」

「こないだの金曜日、お風呂で……」

「……スミマセン、謝りますからもうこれ以上は勘弁してください……」

 な、なのはさん……なんでそんな細かいところまで……。

 ……とりあえず、このまま言わせ続けると永遠に糾弾が続きそうなのでストップです。
 てか、こないだのお風呂って……なのはさん、やっぱり怒ってたんですかあれ……。

 いや、まあ、ね。
 確かにこれは、僕も悪かったような……いや、ぶっちゃけこれただのなのはさんのわがままな気がしないでもないんですが……いやいやしかし、やはり僕が悪かったのでしょう!

 ……べ、別に若干潤んだなのはさんの瞳にやられたわけじゃあ……あ、ありませんからね!?

 なんとなくなのはさんの頭を撫でながら、ゆっくりとした口調で彼女の名を呼びます。

「なのはさん……」

「……ふんっ。今さらそんな優しい声出しても、遅いんだからね……」

 とか言いつつ体を反転させて僕に抱きつくなのはさん。
 ……率直に言いまして可愛さがマーベラス、愛しさがエクストリームです。

「なのはさん、許してくれませんか……?」

「……許さない」

「そこをなんとか頼みます、なのはさん。……僕にできることなら、なんでもしますから……」

 そう言った僕の首筋に、なのはさんが顎を押し付けて来ました。
 表情を見る垣間見ることのできなくなった彼女の声が、耳元から聞こえてきます。

「……なんでも……。……本当に、なんでも……?」

 ……その擦れた声が、妙に色っぽくて。
 僕はその時、なのはさんが身に纏う空気が明らかに変質したことに気がつきました。

「……ええ、なんでも」

 さらに強くなのはさんを掻き抱きつつ、僕は彼女の耳に口を寄せてそう囁きます。

「……うん。なら、まずは……ちょっと、このままでいたいな……」

「……分かりました」

 なのはさんを抱き締めつつ、十分、二十分。
 心地よい沈黙と腕の中の温もりに、思わず眠くなってきます。

 そんなわけで少しだけうとうとしていると……不意に、なのはさんが呟きました。

「──ねぇ、○○君。私ね、今とっても欲しいものが一つあるの」

「……なんですか?」

 耳に響くのは、なのはさんの甘い声。
 彼女の欲しがっているものには大体の想像がつきますが、あえてそれは何かと問い返します。

「……もう、意地悪。分かってるくせに……」

「いいえ、分かりませんよ。僕となのはさんは所詮他人に過ぎませんからね……言葉に出して言ってくれないと、分かりません」

「……本当に、意地悪。○○君の、ばか、変態、ドS」

「はいはい、馬鹿でも変態でもドSでもいいですよ。馬鹿で変態でドSのやり方で、なのはさんを愛すだけですから」

 なのはさんの腕の力が増し、その柔らかな体がより一層押し付けられました。 そんな彼女の背中を撫でつつ、僕は続きの言葉を促します。

「それで……結局、なのはさんはなにが欲しいんですか?」

「…………輪」

 ぼそっ、と小さく呟くなのはさん。
 その可愛さに思わず愛を囁きたくなるのをぐっと我慢して、僕はすっとぼけた声を出しました。

「ん? 聞こえませんよ、なのはさん……もう一度言っていただけませんか?」

「~~~~ッ!! ……ゆ、指輪っ! 左手の、薬指にはめる……指輪が、欲しいの……ッ!」

「はい、よくできました」

「…………ッッッ!!(グリグリグリグリ)」

 抗議の意味を込めて、可愛らしい顎がグリグリと押し付けられます。
 そんななのはさんをゆっくりと引き剥がし、頬を真っ赤にしてちょっと涙目の彼女の顔を僕の目の前に持ってきました。

 ……彼女にここまで言わせて何もしないのは、これはもう男として失格でしょう。

 突然の僕の行動に、驚いた顔をするなのはさん……その唇を、一息に奪います。

「……ん、んちゅ、ちゅ……」

 ……いえ、別にディープな方をするつもりはなかったんですが……まあいいや。

 キスを終え、蕩けた瞳でこちらを見つめるなのはさん。
 若干湯気がたっている湿った唇と合わせて大変エロティック……なのですが、ここは抑えます。

 ……何より先に、彼女に言うべき言葉がありますから。

「なのはさん。今週末、一緒に食事に行きませんか? ……二人っきりで」

 その言葉に一瞬なのはさんは首を傾げましたが、すぐに理解されたのでしょう。
 元々赤い顔をさらに真っ赤にしたなのはさんは、目線を下に向けてしまいました。

 ややあって、しぼりだすような言葉がこちらに向けられます。

「……期待して、いいんだよね?」

「さて、なんのことやら。……それでどうですか?」

「……私が、断るわけないよ……」

 そう言いつつ、また顔を胸に埋めてくるなのはさん。
 その声は、なんだかとっても幸せそうで……。

 ……そこで僕は、当初の目的を思い出したのです。

「ねぇ、なのはさん。……結局、許してくれるんですか?」

「……そうだね、どうしよっかなー」

「……この期に及んで、まだ許さない……と?」

「ふふっ。……まあ、○○君の心がけ次第……かな?」

 そう言って、頭を上げるなのはさん。
 その顔には、悪戯っぽい……だけど、優しげな笑みが浮かんでいました。

 ──to be continued.






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 ルファイト様のリクエスト、『嫉妬するなのはさん』でした。
 ……しかし、このシリーズは執筆が辛い……。



[11108] 魔“砲”少女彼女。パート9
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:15236eea
Date: 2010/03/02 06:21

 どうも、です。
 まあなんやかんやありまして、なのはさんとの結婚が正式に決まりました……ええ、ようやっと決まりました。

 ……え、何やら疲れてる様子だけれども一体何があったのかって?

 いいですか……なのはさんは僕から言わせて頂ければただの(?)可愛い女の子ですが、世間的にはそうではありません。
 何せ容姿端麗、武官としての能力は高く教育者としても優秀、さらには管理局発祥の地であるミッドチルダを壊滅の危機から救ったヒーロー部隊機動六課の幹部クラス。
 要するに彼女は民間の方々や一般管理局員からしてみればスーパーアイドル的存在であり、上層部のお歴々からしてみれば良い広告塔なわけですよ。
 事件後昇進を断ったことやら娘である(最も、正確に言えば当時は娘ではありませんでしたが)ヴィヴィオが捕らわれの身であったことも、彼女の英雄譚に華を添えています。

 ……まぁ、ですからね。
 良くありますよね、結婚した芸能人とかに呪いの手紙やら悪戯電話やらがかかったりと言う……嫌がらせが来ること。
 ……ええ、まぁね、それが……やばかったのなんの。
 上層部の説得はフェイトさんのお母様やクロノさん達が全部やってくれましたので僕は何も苦労していないんですが、こればっかりは……。

 でもなのはさんの凄い所は、こんな状況でも彼女自身へのネガティブキャンペーンはほぼゼロだったってことですかね。
 お陰様で、被害と言えば僕が少しばかりSUN値をすり減らしたことだけなのは……まぁ、感謝してますよ?

 ……ああ、そう言えば……一度だけどこかのゴシップ紙に叩かれてましたね、なのはさん。
 確かあれは、『尻軽美人教導官、純情な男を弄ぶ~無限書庫司書長はこうやって捨てられた~』とか言う見出しの記事で……たまたま一緒に見ていたフェイトさんが凄い形相になっていたことを良く覚えています。
 ちなみにその記事を書いた記者、数日後に管理局に捕まってました……風説の流布やらなんやらかんやらの罪状で、懲役四十年食らってました……。
 ……なんだか間違っている気がしなくもないですね、しかし気にしてはいけないのですよ……ティアナさんもそう言ってました。

 ま、ともかく。
 なんやかんやで婚約指輪も渡し終わり、悪質な悪戯もなりを潜め始め、いよいよ幸せな新婚生活に向けて日常が動き出した……。

 これは、そんなある日のお話です。



「わぁっ! なのはママ、この指輪すっごくきれい!」

 夕食の後片付けも終わり、後は寝るだけとなった夜の一時。
 今日も今日とてなのはさんの家にお邪魔して夕食を頂いた僕は、今日も今日とて航海任務で家にいないフェイトさんの椅子に腰掛けつつ(本人の許可は取ってあります)膝の上にヴィヴィオを乗せ寛ぐなのはさんをのんべんだらりと見ておりました。

 ……そう言えば、ここ最近自宅に帰っていないような気がします……が、気にしないことにしましょう。

「……ねぇヴィヴィオ、この指輪はなのはママに似合ってるかな?」

「うんうん、似合ってる似合ってる! すっごく似合ってるよなのはママ!」

「えへへ~、ありがとうねヴィヴィオ。お礼になのはママ、ヴィヴィオのことギュ~ッとしちゃう!」

「キャーッ! ヴィヴィオもなのはママのこと、ギューッ!」

 ……女性陣は元気ですねぇ。
 昼間仕事したり遊んでいたり、とにかく体を動かして色々していたわけですから仕事量的にはさほど変わりは無いはずなのに……このテンションの差は、一体……?
 手を伸ばせばそこにある新聞に手を伸ばすことすら億劫でできない僕では、今の彼女達にちょっとついていけません。

 ちなみに、先程から話題に上がっている指輪とは僕がなのはさんに渡した婚約指輪のことです。
 シンプルなプラチナのリングに小粒ながら美しいステップ・カットのブルーサファイアをあしらった、中々の価格の一品……本来ならもう少し低価格で済むところを天然石にこだわったため法外な値段となってしまい、給料三ヶ月どころか五ヶ月分くらい(各種手当て含む)がぶっ飛び預金がすっからかんになったのは秘密です。
 ……まぁ、お優しい我が両親からの仕送りやなのはさん家での食事とかで何とか食いつないでおりますが。

「この指輪はね~、この間パパがなのはママにプレゼントしてくれたものなんだよ」

「えええっ、あのパパがぁ!? いつもいつもお金が無いお金が無いって言ってるのに、こんなに高そうなものを……凄いねなのはママ、愛されてるね!」

「ふ、ふにゃあっ!? ……う、うん……そうだけど、そうストレートに言われるとちょっと……」

「キャーッ! 照れてるなのはママ、かわいーッ!」

「ヴィ、ヴィヴィオ!? ななな、何を言ってるの、まったくもう!」

 おお、何やらなのはさんピンチのご様子。
 これは珍しい光景……でも無いのですがその前にヴィヴィオ、ちょっとその発言はどうなんだ。
 パパだってママよりお給金が(かなり)少ないことを結構気にしてるんだから、そんな酷いことを言わないでくれよ。

 ……はぁ、哀しい。
 悲しいじゃなくて、哀しい。

「……でも……」

 ……と、ここで空気が変わりました。
 それまで楽しそうになのはさんを弄っていたヴィヴィオの纏う空気が、おませな女の子モードから駄々っ子モードにコンバートします。

 現状を端的に説明しましょう。
 敵部隊が急速に接近中、各員は可及的速やかに現地から撤収、交戦は避けろ、です。

 ……まぁそんなことが分かったとして、逃げる体力も場所も無い僕にはどうすることもできないのですが。

「ずるいなぁ……」

 そしてそれは、つい先ほどまで弄られていてちょっと涙目のなのはさんも同じなわけで。

「……へ?」

「いいなぁ、なのはママ……ヴィヴィオも、パパから何かプレゼントしてもらいたいなぁ……」

 じいっとなのはさんの左手薬指を見つめつつ、そんなことを言い出したヴィヴィオ。
 それを言われたなのはさんは、非常に焦った顔になります……そりゃそうでしょう、そんなことを言われたところで僕ならぬなのはさんにはどうしようもないのですから。

「……あ、あげないよ!? いくらヴィヴィオでも、これは、絶対!!」

 で、いい感じにテンパる、と。

「そうじゃないの、別になのはママの指輪はヴィヴィオ欲しくないの! だってそれはなのはママがパパからプレゼントしてもらったものなんでしょう!? ヴィヴィオが欲しいのはパパからのプレゼントであって、別に指輪は欲しくないの!」

「そ、そんなことを私に言われても……と言うか、いやに抽象的なものを欲しがるんだねヴィヴィオは……」

「子供が欲しがるのは大体抽象的なものなの、具体的に何かを欲しがる子供は近年になって急増した知識だけは大量に持ってるこまっしゃくれたガキ共だけなの! ヴィヴィオは純粋でピュアな可愛い女の子だから概念的に価値のあるものが欲しいの!」

「ごめんヴィヴィオ、そんなセリフを言うピュアな女の子はいないと思う」

 まぁあちらはあちらで大変なことになっていますが、それはさておき。

 皆様、今現在最もテンパっているのは誰だと思いますか?

 はい、もうお分かりですね……僕に決まっているでしょう!
 いいですか、自分で言うのもなんですけど僕は薄給なんです……それこそもう、悲しくなるくらいに!
 上層部へのコネクションがあってもあまり昇進することができない程度の能力しかない僕……そんな僕の給料が沢山あるわけないでしょう!?
 しかもなのはさんへの指輪を買った(プラス受け渡しの際見栄張って高級レストランを予約し、二人分払った)おかげで生活費除けば所持金は限りなくゼロ……ぶっちゃけその生活費すら苦しいこの現状!

 さらに……このお嬢さん、いつも中々に良いものをご所望になられる。
 なにせ二人いるママが二人とも高級取り、さらにはその他知り合いは皆高所得者層やその家族で(実際問題、ティアナさんぐらいしか貧乏人がいないのですよ……後ヴァイスさんやアルトさんあたり?)、通っている学校は朝の挨拶が「ごきげんよう」がディフォルトな超お嬢様/お坊ちゃま学校。
 近所の駄菓子屋で百円で売ってるようなベーゴマやメンコじゃ満足していただけないのです。

 ……ご存知ですか?
 高いぬいぐるみはね、本当に高いんですよ……?

「むぅー、ズルいズルいズルいー! ヴィヴィオもパパからのプレゼントが欲しいよぉー!」

「いや、あのね……、君、黙ってないでどうにかしてよ……」

 げ、矛先がこっち向いた。

「……あのねパパ、ヴィヴィオは別に高いものは欲しく無いんだよ……そうじゃなくて、パパの愛情と言うかそんな感じの目に見えない抽象的概念が具体的に感じられる物質的何かが欲しいの。例えばこの間三丁目の角のぬいぐるみ屋さんで売ってたすっごくかわいくてすっごく大きなイルカさんのぬいぐるみとか!」

「ヴィ、ヴィヴィオ? それって確か、結構高いものだったような……?」

「あんなのこないだフェイトママが買ってくれた大きなトラのぬいぐるみに比べれば微々たる金額だよっ! それにママの指輪と比べても!」

「え、あ、でも、それとこれとは話が……え、ええと……た、助けてよ君~!」

 瞳をキラキラさせながらこちらを見つめる娘と困り果てた顔に涙目でこちらを見上げる年上の彼女を見つめつつ。

 僕は、幸せってなんなんだろうと言う哲学的命題を考えながらメランコリックに現実逃避を続けたのでした。
 まる。



 追記。

 結局プレゼントについては僕が選んだものをなのはさんが出費してプレゼントする、ということで一応の決着を得ました。
 最初はヴィヴィオもぶーぶー言っていましたが、僕がプレゼントした物品が思いの他ヒットしたらしく許す気になってくれたようです。

 ちなみに許しの言葉をおっしゃる際に、我が家のお姫様は次のようにコメントされました。

「まあ万年ヒラのパパに対してそう高いものをねだるだけ、時間の無駄だもんね!」

 ……娘よ、パパは悲しいぞ……。





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 ルファイト様からのリクエスト(?)で、「ヴィヴィオの欲しいもの」でした。久しぶりの投稿ですがいかがでしたでしょうか。
 ……後半ヴィヴィオを壊し過ぎた感が否めない……。短いのは、リハビリ的な意味で許してください。




[11108] 魔“砲”少女彼女外伝3 「He can't stop loving her...but」
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:444d3758
Date: 2010/05/26 02:48

 注:今回は外伝なので、○○君語りではなく三人称です。ご了承ください。

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 ミッドチルダという次元世界の主な特色のひとつに、この世界がおおまかに言ってひとつの巨大な大陸とそれを取り囲む海によって構成されているということがあげられる。であるからして、古来よりミッドチルダ南部、北部といった風に大陸中心部を起点とした方角による地域の指定というものが存在した。
 その中でもミッドチルダ南部は四季がはっきりしていることで知られており、ほぼ一年中温暖湿潤な気候である中心部や寒冷地である北部、その面積の半分以上を砂漠におおわれている西部に比べて風光明美に富んだ景勝地として知られている。自然南部にはレジャー施設や宿泊施設も多くなり、ミッドチルダ最大手の鉄道会社では「そうだ、南部行こう」という標語が作られたほどである。
 そんなミッドチルダ南部にある地域、メーヴェ。他の場所同様に観光が住民の主な収入源の地域であり、また人口密集地である中心部ともほど近いため休日の片道旅行先としてよく利用されるそこには巨大なアミューズメントパークがあった。
 名を、「トメィトピューレランド」。真っ赤なトマトケチャップを握りしめたディフォルメネコがメインキャラクターの……平たく言えば、遊園地である。



 現在気温は42度。体感気温はそれ以上。太陽は容赦なく燃え盛り、足元のアスファルトは鉄板のように熱い。このままじゃあ、溶けたチーズになりそうだ、なんて、ひねりもないことをユーノは思った。目の前にあるはずの遊園地の門が、果てしなく遠い。

 そんな、暑さにぼぅ、とした意識の中で、ユーノはふと考える。そう言えば、自分が遊園地に最後に来たのはいつだったかな? と。
 別に、彼は、遊園地に来たことが無いわけではない。一度や二度、なのは達に連れられて来たことはあるのだ。なのはに恋人ができ、個人的にあまり会うことがなくなっても、例えばフェイトなんかが、遊びにユーノを誘うことはあった。

(……いや、改めて考えてみると、フェイトがほとんどか。なのはと疎遠になってから、遊びに連れてってくれたのは。まったく、彼女には迷惑かけっぱなしだなぁ)

 そんな、すれすれな事実には気付く癖に、核心にユーノは気付かない。なぜ、フェイトが彼を誘うのかには、気付かない。

 とにかく、ユーノが遊園地に来たこと自体はあった。だが、そう何度も来たことがあるわけではなかった。
 なぜなら、彼自身が、あまり遊園地が好きではなかったからだ。お化け屋敷は前人未踏の遺跡に比べればスリルに欠け、空戦可能な彼にとって各種絶叫ゲームも同上。かと言って、メリーゴーランドやコーヒーカップでキャッキャウフフできるほどに乙女ではない。結局ゲームセンターでヒマを潰すしかないのだが、固定か携帯ゲーム派であまりアーケードの雰囲気が好きではないユーノは、ゲーセンに行くのもなんか嫌だった。そもそもユーノが好きなゲームはじっくりするタイプの戦略ゲーだ、アーケードとは絶望的に相性が悪い。
 そんな彼が「遊園地、行こうよ!」と言われた時にまとう、なにも言わないし笑顔なんだけど、なんか嫌そうな雰囲気に気付かないなのは達ではない。実際思い返してみれば、一緒に遊園地に行った時、ユーノはいつも所在無げにぼうっとしていた。自然、「遊園地に行くときにはユーノを誘わない」という暗黙のルールが完成していた。
 と、いうわけで、ユーノはあまり遊園地に来たことがない。それどころか、苦手意識すらある。

 だが、しかし、今回の遊園地はいつもとは違った。

「──ユーノさーん! 早く来ないと、置いてくよー!」

「ユーノ、大丈夫? 後もうちょっとだから、頑張って」

「……ああ、ごめん。ちょっとぼうっとしてただけ。──ヴィヴィオー! すぐ行くから、ちょっと待ってー!」

「分かったー!」

 ……なぜならば。

 今日は、親友達の愛娘の保護者として……同じく(ユーノ的にはただの)親友であるフェイトと共に、来たのだから。



 数刻後。園内のとあるベンチには、ヴィヴィオに振り回されてぐったりとしたユーノと、かいがいしくその世話を焼くフェイトの姿があった。ちなみにヴィヴィオは今、そのベンチの正面にある絶叫系アトラクションの順番を今か今かと待っている。ちなみに、ミッドでは安全機構がよりしっかりとしているのでアトラクションの身長制限がなく、また初等科の生徒以上の年齢なら一人での利用が許可される。
 改めて、ユーノはへばっていた。無限書庫の仕事は激務であるが、それは筋肉を使うものではない。内部は無重力空間ゆえに積み上げられた本の重さを感じることはなく、長時間その中にいれば自重すらも忘れてしまう。ようするに、体力がないのだ。
 そんな彼にとって、本日の業務は地獄だった。子供のパワーとは恐ろしい、大人への第一歩とはすなわち“疲れ”の自覚だ。子供のころ、本当に小さかった子供のころを思い返してみて欲しい。……あのころ、“疲れ”を感じたことはあっただろうか? 一日中そこらへんで遊び回って、夜になっても遊び足りなくて、うるさいと母親に叱られて……突然、電池が切れたように眠りだす。そんな子供時代。
 それまっさかりのヴィヴィオに対して、日々の激務で疲労したユーノ(お父さん)は無力であった。

「はい、濡れタオル。これで顔拭くといいよ」

「ありがと、フェイト。……うん、気持ちいい。デジタル全盛の世の中とは言え、最終的に頼りになるのはこういうアナログなものだよねえ……」

「ユーノ、じじむさい」

「はいはい、どーせ僕は老けてますよー」

 いつものような会話にも、なんだか力が感じられない。
 無理させちゃったかな? と、フェイトは少し後悔した。

「……ねえ、ユーノ。お仕事、大変?」

 だから、ふと、気になった。
 自分の想い人が、普段どのような仕事をしているのかが。

「ううん……大変と言えば、大変かな。でも最近は整理が進んで、司書の数も増えたし、最初ほどは大変じゃないかも」

「そっか。でも、検索魔法とか読書魔法とか、脳に負担がかかる魔法をいつも使ってるし……やっぱり、心配だよ」

 検索魔法(広義で言えばエリアサーチ系魔法)や読書魔法は、他の魔法に比べ脳の損耗率が高い。計算機械としてのみ利用する他の魔法と違い、“情報を脳に焼きつける”という工程もあるからだ。
 そんな魔法を多用する仕事場で働くユーノを、フェイトはとても心配していた。

 のだ、が。

「……ゴメン、フェイト。最近は、あまりそういうの使わなくてもいいんだ」

「……へ?」

 フェイトの目が、点になる。今のユーノの言葉は、彼女にとって、カツ丼を頼んだら「ウチのカツ丼はタマゴで勝負! だからカツは入れてません!」という言葉と共にタマゴ丼が出てきたかのような衝撃だったのだ。

「えええ!? じゃ、じゃあ、どうやって仕事してるの!?」

「そもそも無限書庫は、古代ベルカ時代にとある聖王が始めた私文書館なんだ。後に“文王”とも言われるようになった彼は、書物の収集家として有名だった。ベルカの覇権の及ぶ地域だけではなく、交流があった地域からも、彼は書物をかき集めたんだ。その文献資料は、数百万とも数千万とも言われている。彼の時代は、古代ベルカの文化がもっとも華開いた時代とも言われているんだよ。
 そして彼の死後も、その膨大な書物は残った。彼は書物の保管についてもかなり明るくて、その書物庫は紙媒体を保管するのに適していたんだ。だから、そこには公文書が運びこまれるようになった。税の取り立ての記録とか、各地域の風習や気候を記録した冊子とか。そういったものも無限書庫に収められたんだ」

「へええ」

「でも、それらの資料は整理されていなかった。雑多に放り込まれていたんだ。フェイトに分かりやすく言えば、地球でもこの傾向が……っておーい、フェイト? なに目をそらしてるのさ?」

 ギギギ、と音を立てるようにして、フェイトの首がそっぽを向く。
 彼女の首筋に、冷や汗がたらりと流れた。

「ゴメンナサイ、レキシハニガテナンデス」

「……うん、まあ、いいんだけどね。地球でも、今現在使われているような文書整理基準ができたのはごく最近。そもそも、“本を整理する”という概念が生まれたのもここ3~400年くらいの、ごく最近の話なんだよ。それまでは、買った順とか、大きさ順とか、そういった至極テキトーに本は本棚に納められていたんだ。
 話を無限書庫に戻すね。さすがに後期古代ベルカ時代になれば分類分けはされるようになっていたけど、無限書庫はその膨大な書物の数もあってか手つかずのままだった。そしてベルカが滅び、無限書庫は閉ざされたんだ。
 かなり経って、それを、管理局が発見した。当時まだ出来たばかりだった管理局の上層部は、知識の宝庫とも言える無限書庫を発見して狂喜乱舞した。なにせそこには、既に忘れ去られてしまったロストロギアの詳しい資料や、アルハザードの技術の断片と思しきものなんかが大量に保管されていたわけだから。だけど、いざ接収してみて、上層部は落胆した……そこは知識の宝庫と言うより、“知識のゴミ溜め”だったんだ。かと言って捨てるには惜しく、結局、無限書庫は管理局の公文書保存庫になった。それくらいしか使い道が無かったからね」

 そこまで言って、ユーノはううんとのびをした。首をゴキゴキと動かして、凝り固まった体をほぐす。

「膨大な資料の整理……僕が無限書庫に来て最初に取りかかった仕事は、まさにソレだった。最初の一年は、もっぱらそれに時間を費やしたね。そのかいあってか、今の無限書庫には未踏地域は存在しない。フルパフォーマンスで利用できるようになったんだ。
 ……で、ここからが質問の答えだよ。書庫の整理をする時、僕は二つの“仕掛け”をしたんだ。その一つ目が、これ」

 そう言って、ユーノはズボンのポケットから白いカードのようなものを取りだした。
 はい、と言ってフェイトに渡されたそれには、黒い線で変な模様が描かれている。よくよく見ると、その線は全て、中心部に埋め込まれたなにかから、クモの足のように伸びていた。

「それ、シールになってるんだ」

「え? ……あ、ホントだ」

 試みにフェイトが引っ張ってみれば、シール部分がペリペリとはがれていく。

「たまたまポケットに入ってたんだけど……それ、なにか分かる?」

「……IC、チップ?」

「そう。書籍情報が記載されたICチップ、それをアンテナと一緒にシールにしたものだよ。
 それはまだまっさらなままだけど、整理の過程でそこに書籍情報を入力して、各書籍に貼っていくんだ。それに加えて、書架や各司書もアンテナを装備。こうすることで、例えばA書架には今現在何の本が収められているのか、とか、今この資料はあの司書が持っているんだ、ということを、リアルタイムで知ることが出来るんだ。本の迷子やブッキングのリスクが減らせるし、なにより、そうやって位置情報が掴めた資料は、自分で取りに行く時簡単なのはもちろん、その情報を基にデータを入力すればブックマシンが取って来てくれる。ちなみに、一応、防犯対策でもある。これが一つ目の仕掛け。
 二つ目は、無限書庫に納められた情報の全電子データ化」

「……へ?」

 先ほどから、驚き顔しかしていないフェイト。
 彼女の中での無限書庫のイメージが、今、ガラガラと音を立てて崩れていた。

「ブックマシンがあるとはいえ、やっぱり検索魔法を使った方が仕事は速い。でも一々魔法を使っていたら魔導師しか司書として雇えないし、負担も馬鹿にならないからね。検索の効率化もできるし、電子データ化は必要な措置だったんだよ。
 シールを貼ると同時に、書籍の内容を全てスキャン。無限書庫に設置されたコンピューターに、データを取り込む。そうやって作った電子空間の無限書庫に専用の端末でアクセスすることで、魔導師非魔導師問わず仕事の高速化が図れるようになったんだ」

「じゃ……じゃあ、もう、検索魔法とか読書魔法、使う必要無いの?」

「……ところがどっこい、現実は甘くない。まず、無限書庫には純粋な書籍以外に闇の書みたいなデバイスとの複合書籍が存在する。そういった書籍はスキャンできないものが多いし、そもそも検索魔法や読書魔法にすら引っかからないものもある。そういうのは、自力で取りにいかないといけない。
 問題点その二、機械には限界がある。フェイトは、翻訳サイトとか使ったことある? あれと似たようなことが起こったりするから、単純な依頼ならいいけど複雑な依頼はどうしてもマンパワーに頼らざるを得ない。これは個人的な話だけど、クロノの依頼はこういうのが多いからいつも大変。
 問題点その三。その二とちょっと被るけど、機械の処理速度には限界がある。非魔導師や2~3冊程度が限界の司書ならともかく、一遍に5冊は検索/読書魔法が使える司書ならむしろ自分がやった方が早い。しかも、下手するとコンピューター本体がオーバーヒートしてクラッシュするから、仕事が戦争の時とかはそういう魔法に頼らざるを得ない。
 問題点その四。電子データは脆いし、そもそも電気が無ければ閲覧できない。つまり、本局が停電になったり、その上無限書庫の非常電源までストップしちゃうと、電子データに依存してたら仕事ができない。ちなみに、無限書庫の本を絶対に処分しない主な理由もこれ。
 ……まあ、以上のような問題があってだね。アナログとデジタル、その両方を駆使して、色々な手法で僕たちは仕事をしているんだ。だから、司書になる魔導師は検索魔法や読書魔法が使える方がいい。
 まあ、でも、昔に比べたら、脳に負担がかかるような魔法の使用は減ったしね。これでも、楽なもんだよ」

「……無限書庫も、便利になったんだねえ……」

 昔、執務官試験の勉強をするために無限書庫に日参していたフェイトとしては、時代の変化にただただ溜息をつくしかない。昔の無限書庫は、それはもう、地獄としか言いようがなかった。
 新しい資料請求が来る度に人が一人倒れ、また一人倒れ、死屍累々の阿鼻叫喚、無限地獄の末に現れる黒い衣の執務官。そこまで思い出したフェイトは、帰ったらとりあえず、義兄とちょっと“オハナシ”しようと思った。

「……まあ、便利になったよ。便利になったから、セキュリティも面倒臭くなったけど」

「そう言えば、今は無限書庫、司書以外は原則立ち入り禁止だったっけ」

「そ。閉架図書館化することで、機密保持力を上げたわけ。ちなみに、僕が正式な局員じゃないのも、一種機密保持の一環なんだよ?」

「え、そうなの?」

「無限書庫は、時空管理局司法局、時空管理局査察部と一緒で、時空管理局と名はあるけれど別系統の組織だからね。管理局の階級には縛られないし、最高責任者は一応僕だ。……まあ、だから、無限書庫の司書って局員じゃないんだよね。実は。」

 変えてないから制服一緒だし、あんまり知られてないんだけどね……と、ユーノはぼやく。その姿は、疲れた中年サラリーマンのようだった。
 ……と、言うか、と、フェイトは思う。この男、サラリと流したが……今、かなりの衝撃発言をしなかったか? これまでフェイト達はユーノのことを一部門の長だと思っていたのだが……それはつまり、彼は、“一組織の長”だということか? クロノやリンディなど通り越し、伝説の三提督や、時空管理局局長クラスともタメで話すことが許されている地位にいる……、そういうこと、なのか?
 改めて、目の前の友人が実はすごいん人なんじゃないか、と、フェイトは思った。

 ……だが、まあ、それはさておき。

(ユーノの、こんな面見たの……初めて、かな?)

 ユーノはあまり、“自分語り”をするタイプではない。彼女の友人達もそういう人間が多いのだが、彼は特にそういうタイプだ。だから、いつも一人で無理をして、それを一人でため込んで、ある日いきなりぶっ倒れる。余談だが、撃墜前のなのはも、そんなタイプだった。
 だから。

(……なんだか、嬉しい)

 自分が、特別扱いしてもらったような気分になって。
 自分のことを、見てくれているような気がして。
 自分を、彼が、頼ってくれているような気がして。

 だから、自分のことを、彼が……。

「──でも、フェイトは優しいね。こんなどうでもいい話、ちゃんと聞いてくれて……なのはなんて、半分も聞かないうちに『難しい話は、苦手だよ~』とか言って転がり出したのに」

「……え?」

 今、ユーノは。

 なんと、言った?

「だから、なのはさ。昔、まだ墜ちる前に、無限書庫の来歴を教えてあげたことがあるんだけどね? なのはったら自分から聞いてきた癖に、半分もいかないうちにぐずり出して……まったく、困ったもんだよ」

「……そ、っか」

 困ったものだと言いながらも、ユーノの表情は楽しげで。

 全てを悟ったフェイトは、俯く。

(……ねえ、ユーノ。私は──)

 ──あなたの特別に、なれないのでしょうか?



 結局その日、フェイトの憂鬱は晴れなかった。
 ヴィヴィオやユーノには笑顔で接するものの、時折顔に出ていたようで。ユーノが席を外した時、ヴィヴィオから「フェイトママ、元気ないの?」と聞かれた時にはかなり焦った。

 そんなアンニュイな気分のままに、日が暮れて。自前の車でユーノを転送ポートにまで送ったフェイトは、自宅への帰り道、後部座席にちょこんと座るヴィヴィオに問いかけた。

「ねえ、ヴィヴィオ」

「なーに? フェイトママ」

「ヴィヴィオはさ、どうして……今日、こっちに来たの?」

 なのはと○○をたまには二人きりにしてやろう、と言うのは、大人の事情である。だからこそ、最初、ヴィヴィオは愚図っていた。
 だが、ユーノが来ると聞いた瞬間に、ヴィヴィオは泣きやんだのだ。

「だって、フェイトママも、ママだもん」

「……え?」

 質問に対する答えは、簡単なものだった。

「だって、フェイトママも、ママだもん。なのはママは大好きだし、パパも大好き。だけど、私は、フェイトママも大好きだもん。フェイトママも、幸せになって欲しいもん」

「ヴィヴィオ……」

「フェイトママがユーノさんのこと好きなのは、知ってる。だから、上手くいって欲しい。
 ……ユーノさんなら、フェイトママのこと、幸せにしてくれるから」

「…………」

 フェイトの頬に、一筋の涙が流れた。

 嬉しかった。本当に、嬉しかった。自分の娘が自分のことを心配してくれているのが、愛してくれているのが分かって、本当に嬉しかった。
 だから、フェイトは笑った。笑って、こう、言った。

「……そうだね。ありがとう、ヴィヴィオ……フェイトママ、頑張るよ!」

「うん、がんばってねフェイトママ!」

「待っててユーノ! 目に物見せてやるんだからね!」

「うぉ~~~~~~!」

 真っ赤な夕日の中で、黒い車がハイウェイを駆け抜ける。

 そのハンドルを握る女性は、底抜けに明るい顔で笑っていた。



 ……余談だが。

 若干テンション高めで帰宅したフェイトとヴィヴィオは、自宅の扉を開けた瞬間冷や水をぶっかけられた。
 なぜなら……。

「なのはさん、気持ちいいですか? ……ほら、こんなに大きいのとれましたよ」

「ああ、○○くぅん……。恥ずかしいから、見せないでぇ……」

「だめです。大体、ちゃんと定期的に耳かきしないから、こうなるんですよ? 外耳炎とかになったらどうするんですか?」

「うにゃあぁ、ごめんなさぁい……」

「はいはい、可愛い声出してもだめです! ほら、反対しますから、首回してください」

「…………」

「…………」

 そこには、一日中いちゃこらしていた男女の桃色オーラが充満していたからである。




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 やっとできたよ! でもこれ、「ゆぅのくんの、わかりやすいむげんしょここうざ」的なものになってるよ! 作者ノリノリで書いてたよ!
 ……いちゃいちゃを期待した皆さん、本当にすみませんでした!




[11108] Mr.&Mrs.FULLSWING
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:ef57a550
Date: 2009/09/12 01:35
 フェイト=T=ハラオウンは最近困っていた。その原因は、ここのところよく組んで仕事をするようになったとある執務官だ。

「……それで、どんな人なの? その男の人。私達と同い年ってことは知ってるんだけど……」

 時空管理局本局大食堂。一般局員から上級士官まで幅広い客層が食事をとる場所に、今三輪の花が咲いていた。特別捜査官の八神はやて三等陸佐に戦技教導官の高町なのは二等空尉、それに件のフェイト=T=ハラオウン執務官だ。
 なのはの質問は、最近フェイトがよく話題に出すある執務官について。年頃の女の子としては、親友が気にしている異性ということで常々気になっていたのだ。
 そしてそれは、より(本人は否定しているが)下世話な感性を持ったはやても同じであった。

「そうやそうや、最近のフェイトちゃん、いつもその人の愚痴ばっかりやんか! ──まさかフェイトちゃん、その男のこと……」

「ええ! ……フェイトちゃん、まさか……!」

「ち……違うよ二人とも! 〇〇君は……えっと、その……デタラメな人、かなぁ……?」

「デタラメ?」

「そういやなんや、エラい変人って話やなぁ、その人……」

「……うん。そう、この間も……」



「……ち、ちょっと〇〇君! 何でこんなに警備ロボが……」

「いやー、メンゴメンゴ。ちょっぴりミスって、警備装置に引っ掛かっちまったい」

「ちょっぴりって……まだまだ増えてるよ、後ろの! どうするの、アレ!?」

「任せて下さいフェイトさん! この俺が万物に等しく死を与える最強魔法、“ヘルファイアー”で奴らを火の海に沈めてご覧に入れましょう!」

「ヘ、ヘルファイアー? 何だかすごそうな名前だけど……」

「火の精霊イフリートよ、いまこそ地獄の業火をここへ。エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」

「おお、何かすごそう……!」

「(ざばっざばっ)」

「…………え? 灯油?」

「ヘルファイアー(火炎呪文)!(カチャ)」

 ゴアアアアア!

「ちょ……それ魔法違う! それ魔法違うよ!」

「何言ってんすかフェイトさん! アレこそ怒れる神々が地に落としたとされる“インドラの炎”……かの“エターナルコフィン”に匹敵する火炎魔法ですよ!」

「違う、違うからね!? ソレ放火魔の出す火と一緒だからね!?」



「……いや、なしやろソレ。質量兵器やし」

「うん……。なぜか彼、高ランク魔導士なのに魔法使わないの……。使えば使うで、お通じの良くなる魔法“コーラック(回復呪文)”とか変なのばっかりだし……」

「そ、それは一回かけて欲し……じゃなくて、大変だね……」

 心底同情の声音でフェイトを慰めるなのは。彼女は、でも、と不思議そうな顔で言った。

「その人……執務官、なんだよね? 何か話を聞いてる限りでは、とても執務官試験に通るようには思えないんだけど……」

「そやそや。いくらなんでもそんな人間が、執務官試験なんて難関突破出来るとは思えへん。フェイトちゃんやって二回、クロノ君やって一回落ちとるんやで?」

「……優秀だよ」

「ほぇ?」

「優秀なんだよ、〇〇君。いつもはダメダメだけど……でも締めるところはちゃんと締めるし、すごくいい人だし、この間捜査中にアクシデントがあった時も──」



「……フェイトさん、逃げて下さい。ここは俺が抑えときますから」

「む、無茶だよ〇〇君! 私と二人でようやく持っているのに、あなた一人じゃ……!」

「大丈夫ですよ、フェイトさん。男って奴ぁ、美人を守る時はすごいパワーを発揮できるんです。それに……」

「で、でも……!」

「それに! ……奴ら、二手に分かれやがった。先に逃がした奴らが危ない」

「…………!」

「……分かりましたか? なぁーに大丈夫ですよ、この〇〇、簡単に死にゃあしません。フェイトさんを泣かしたくもありませんしね」

「……分かった。気を、付けてね」

「了ぅ解! よっしゃやるぞモンキーズへブン! ──一・球・入・魂ぉん!」

《Bamboo breaker》



「──って感じで、すっごくかっこよかったんだぁ……」

(……顔! 顔にやけてるよ、フェイトちゃん!)

(あかん、あかんで、フェイトちゃん! それはもうフラグ立てられてるで!)

(……でも、)

(……なんや、)

((負けたような気がする(で)……))

 ……高町なのは、八神はやて、共に思春期真っ盛り。
 男っ気が全くない灰色の青春に、思わず目の前が暗くなった。



 ……ちなみに、余談であるが。
 後にJS事件と呼ばれる事件においてフェイトが犯人確保をした映像を、彼女のデバイスの協力で見たとある執務官は、

「おいおいフェイト……いくら何でも、人は打っちゃいけねぇよ! バックネットに打ち込んでいいのはボールだけだぜ?」

 と笑いながら言った、らしい。



────────────

 調子に乗ってまた書いちゃった。今回は短めです。

 ちなみに、作中に出てきたモンキーズヘブンはナムアミバット型アームドデバイス、オリ魔法はヴィータのシュワルベの「一発・非誘導・大火力」バージョンです。

 ……しかし、〇〇君って……夢小説じゃああるまいしねー。何やってんでしょうかね、私……。



[11108] 魔導武闘伝Gメイガス
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:2aa66ab3
Date: 2009/08/20 13:29
 ──注意!

 今回のお話は、某劇場版風に言えば「最初から最後までクライマックス」です。それ故に、ノリがよければなんでもあり的な話になっております。

 過度な期待はしないで下さい。



 ──それでは皆様、ご一緒にぃぃぃぃぃぃ!



 メェイガスファイトォォォゥ! レェディィィィィィッ、ゴォォォォォォォゥ!!!



 ──ある、少年がいた。

 彼は、ごく普通の少年であった。ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の学校に通い、ごく普通の人生を歩んできた。
 だが、彼の隣人は、そのごく普通が無かった。彼女──八神はやては家族を早くに亡くし、また自分自身も足に障害を持っていた。そしてそれらの不幸を、仕方ないことと笑って流せる程に成熟してしまっていた。まだ九歳にもなっていないのに、だ。
 少年は、無愛想だが心優しい人間だった。だから、そんな彼女が歪んで見えたし、何とかしてその歪みを正してやりたいと思っていた。そして、何も出来ない自分が情けなかった。

 ──そんなある日、彼は魔法と出会う。

 なんやかんやあって魔法の力と新たな友人達を得、日常に帰ってきた彼。平穏な日常は、しかし長続きはしなかった。

 ──ロストロギア、『闇の書』の覚醒。

 これまたなんやかんやあって闇の書から出てきた守護騎士達、ヴォルケンリッターと友情を育み、静かだったはやての周辺は一気に賑やかになった。少年も、はやての自然な笑みをよく見ることができるようになって、嬉しかった。

 ──だが、そんな幸せは長くは続かなかった。

 『闇の書』の侵食ははやての体を蝕んでおり、このまま放っておけば間違いなく彼女は長くは持たないことが分かったのだ。そのことに気が付いたヴォルケンリッター達と少年は、はやてに禁止されていたリンカーコアの収集をし、未完成の『闇の書』を完成させる決意をする。

 ──それは、茨の道だった。少年ははやてを助けるために、以前にできた友人達を裏切り、危険を承知で新たな力──カートリッジシステムを求め、幼き身には厳しすぎる敵との戦いを重ねた。

 少年は、ある時自問した。なぜ、はやてのためにここまでするのか? 、と。答えはすぐに己の内から返ってきた。好きだからだ、他の誰よりもはやてのことを愛しているからだ、と。

 ──今、彼の前には闇の書と一体化したはやてがいる。卑劣なる謀略によって目の前で守護騎士達を失ったはやての心は悲鳴をあげ、彼女は願ってしまった。この世の全てが、夢であったらよかったのに、と。

 闇に囚われてしまった想い人を救うために、今、少年が吶喊する──!



「──闇の書……。いや、夜天の書の管制人格……! はやて達を、返してもらうぞ……!」

 灰色のマントをまとった少年が、はやてと合一化した闇の書に向けて吠える。少年の怒気を真っ正面から受けた闇の書は、しかしその言葉に対して悲しげに眉を落とすだけだった。

「我は、闇の書……。主の願いを叶えるために生まれた、ただの魔導具……。主の願いは、この世界が夢であること……。主の願いを叶えることが、私の使命だ……」

「例えはやてがそんなことを望んだとしても、俺には関係ない! 優しい夢だろうが叩き起こして、俺の前に引き摺り出してやる!」

「……分からない。おまえは、主はやてが大切なのだろう? どうして主の意志を無視して、わざわざ悲しい現実を見せようとする?」

「ふん……どうして、だと? ──決まっている!」

 叫んだ瞬間、少年の体から真紅の光が迸り、深夜の街を真昼の如く照らしだし始めた。

「はやてぇ! 聞こえているんだろう! いいか、よく聞けぇ! 俺は──、

 ──俺は、お前が欲しいぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」



「──馬鹿、やね。こんなとこで、あないな大声で、そんな恥ずかしいこと言って、ホンマに……、馬鹿……、なんやから……」

 闇の書内部。優しいまどろみの中でたゆたっていたはやては、少年の叫びで完全に覚醒した。

「──主はやて……」

「大丈夫、大丈夫やよ……。うん、そうや、大丈夫。私にはいつも、〇〇君がおった。いつもいつも無愛想やけど、ホンマはすごく優しい、〇〇君……。……こんなとこでモタモタしとったら、フラれてまうな、私……!」

「しかし、主……」

「……あかんで。優しい夢や楽しい夢は、確かに醒めて欲しゅうない。せやけど……

 ……せやけどそれは、ただの夢や」



「──〇〇君!」

 少年が壮絶な告白をした後の夜空に、少女の声が響く。八神はやてと言う名の少女の声は、確かに闇の書の中からした。

「どうした、はやてぇ!」

「ごめんな〇〇君、何とかしてその子、止めてあげてくれへん!? 魔導書本体からのコントロールを切り離したんやけど、その子が外に出てると、管理者権限が使えへん! 今そっちに出てるのは、自動行動の防御プログラムだけやから!」

「分かった! ──だが、どうすれば……」

 困惑する少年に、状況の推移を見ていた友人ユーノから声がかかる。

「聞いて〇〇! 今から言うことを実行すれば、はやてもフェイトもなのはもきっと助かる!」

「──どうすればいい!?」

「簡単さ! 目の前のそいつを、魔力ダメージでぶっ飛ばすんだ! 全力全開、手加減無しで!!」

「なるほど、了解した! ──行くぞ、シャイニングハート!!」

《All right,my master.Load cartridge and C.C.M.S stand-by》

 少年の叫びに合わせ、彼の右手に装着された手甲型インテリジェントデバイス“シャイニングハート”が唸りをあげ、さらに輝き始める。その光はすでに真昼の太陽を越え、彼本体の視認を困難なものとするほどだ。
 天に向けて右手を掲げ、少年は吠える。

「俺の右手が真っ赤に燃える! おまえを掴めと轟き叫ぶ! 爆ぁく熱、ゴッドフィンガァー!!!」

《Remarkable passionate breaker》

 振り抜かれたのは、全力の拳。打ち出されたのは、迸る赤光。

 赤き魔導拳撃は闇の書を瞬く間に包み込み──、

「ヒィィィィィトォ、エンドォォォォォッ!!!!!」

《Explosion》

 ──爆散した。



「──夜天の主の名に於いて、汝に新たな名を送る。強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール、──リイン……フォース……!」

「──新名称、リインフォースを認識……管理者権限の使用が可能になります……。ですが……防御プログラムの暴走は止まりません……。管理から切り離された膨大な力が、じき暴れ出します……」

「ん……、まあ何とかしよ……あっちには〇〇君もおるし……。──ほなら行こか、リインフォース……!」

「はい、我が主……!」



「──ごめんな、待ったかいな……?」

 今、名実共に夜天の主となった少女が、少年の前に舞い降りた。黒き六翼の翼を背に白銀の甲冑をまといし少女に対して少年は、

「何、気にするな。──待たせた分は、これから取り返してくれればいい」

「……うん、そやね。ほなら、ちょっとその前に……」

「「──防御プログラムを……叩き潰す(で)!」」

 ──後の世にて「世界最強のバカップル」と呼ばれるコンビが、今ここに爆誕した。



 ──十年後。機動六課、部隊長室。

「──ふんふんふーん……」

「ん? はやて、そんなに楽しそうに何見て……っておい! その映像は!」

「ん? 〇〇君の告白シーンやで?」

「や、やめろぉぉぉぉぉ! 見るな、見ないでくれ、見ないで下さいお願いします!」

「いくら〇〇君の頼みでもそれは聞けへんなー。ほい、リピートっと」

「もうやめろぉぉぉぉぉ! てか何でそこばっかり見るんだ、その後にも俺とヴォルケンの合体技とか、色々見るとこあるだろ!?」

「………………だって………………」

「?」

「だって……ラスト、あれやん……」

「…………あー…………」

「…………(ポッ)」

「…………(ポリポリ)」



「──なのはさん、部隊長と前線部隊長の言ってるあれって、何のことですか?」

「……はやてちゃんと〇〇君、最後は二人の合体技を撃ったんだけど……」

「だけど?」

「その時の技名とか掛け声が……こう、色々アレで……分かるでしょ?」

「……あー……」

「……それにしてもなのはさん、どうしたんですか? 何だか、複雑そうな……」

「……いや、まあ、その、ね……」

「「?」」

「〇〇君に……出番を、取られたような気がするの……」

「「…………」」



────────────

 ……やっちまいました。ええ、やっちまいました。

 ええと、三人娘終わったんでネタは一旦ストップして、執務官の方書きます。てかその前に勉強! チミは受験生ネ!

 ──ちなみにシャイニングハートはレイジングハートの姉妹機。C.C.M.SはCalmly and Collectedly Mind Systemの略……ようするに、“明鏡止水システム”です。内訳はただのブラスター(弱)&魔力による超感覚神経強化ですが。

 ……疲、れた……

 修正しました。

 作者的にものすごく気になる点があったので、微修正しました。




[11108] とあるオリ主ととあるオリデバイスの物語(嘘予告)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:1d4b27b8
Date: 2009/09/12 11:09
 転生物、というジャンルのSSがこの世には存在する。簡単に言うと、ある既存の作品に一度その作品がフィクショナルな作品として存在する世界で死んだ存在がその存在の記憶を受け継いだまま誕生し、一般的に言うところの原作知識を利用してその作品のストーリーに介入する、もしくは介入しないにせよ第二の生を生きるという実に興味深く、また面白いエンターテイメントだ。
 だが、私はここで転生系SSの魅力について論じたいわけでも、ましてやそれの批判をしたいわけでもない。多少メタな発言ではあるが、ここはそんな話をする場所ではないし、やったらやったで感想版にグレートなファイアボールがあがるのは必定であるからだ。もっとも、ウチの作者はそれでも、感想版が盛り上がるのなら……! と、馬鹿なことを始めそうではあるが。
 そうだ、私はそんな話をしたいのではない。私がしたいのは……、

《……少年。我々は、果たしてメタ存在なのであろうか?》

「はぁ? 何また変なこと言ってんだプルート」

《ふぅむ……だが、真の意味におけるメタ存在とは原作者であるからして、我々はメタ存在ではないのだろう。しかし、原作者のいる場所をメタ次空と仮定すれば、同一次空に存在していた我々もメタ的な存在であり……》

「……おーい、プルートさーん? どうしましたー?」

《……つまり、作家は必然的にその作品世界に対するメタ存在であるが、転生系の二次創作の作者は一種のメタ=メタ存在であるということか? ──いや、そうすると……》

「……もう、やだ、このデバイス……。メタだかメタ=メタだか知らないけど、むしろ俺の心がメタメタだよ……」





 現実世界で、わりと平和なオタクライフを満喫していた佐藤 博道君(21)。モラトリアムサイコーッ! リリなのマジオモシロ、フェイトは俺の嫁! いやむしろ妹だぜ! と随分なハッピーライフを送っていた博道君を、空気の読めない二トントラックが強襲、彼はあえなく空のお星さまになった。
 ──が、天は博道君を見捨ててはいなかった。轢かれた瞬間彼のポケットには“魔法少女リリカルなのはシリーズ”が全話入ったiPod、そして彼を轢いたのは二トン“トラック”……っ! もはや誰かの陰謀としか思えないテンプレ展開に、天界のお歴々もまたかよ、最近多いなぁ……、手続きめんどいからあんまやりたくないのに……、と言いつつ渋々博道君を転生させてくれた。行き先はもちろん、“リリカルなのは”の世界っ!
 やってきたリリカルなのはの世界で、彼は何とフェイトの兄貴分として誕生する。プレシアによって創られた、“本来生き返るはずだったアリシア”を護るために生まれた存在……プロジェクトG(ガーディアン)の遺産から造られた人造生命体、アイギス。それが、博道君の新しい名前だった。
 その性質上アリシア=フェイトの命令を絶対遵守という制約があるものの、それ以外はいたってフリー。身体スペックは高く、主(フェイト)は優しい少女だし、リニスやアルフとも仲良くやれてるし、フェイトと違ってプレシアからそこまで冷たい感情を向けられることもない……まあ心情的には色々思うところあれど、そこそこ楽しい二度目の人生を送っていた。

 ──そう、“とある”デバイスと出会うまでは……、



《やあおはよう、少年。私の名はプルート。見たところキミが私のマスターなようだが……フム、キミはいわゆる“オリキャラ”というやつかね?》

「……リニス?」

「し、知りません! 私はこんな愉快に饒舌なAI、組んでません!」

「じゃあなんなんだよコイツ! 明らかにタバコでルーン書いたりさらりと外道発言しつつ尻を撫でまわしそうな性格してんじゃねぇか!」

「ほ、本当に知りませんって! AIのプログラムはバルディッシュと同じもののはずです!」

「え……じゃあ、バルディッシュもお喋りさんなの?」

《……いいえ。申し訳ありません》

「そ、そっか……」

《何、落ち込むことはないぞ美幼女。私はキミの兄のデバイス、バルディッシュはキミのデバイス。シリアスキャラには寡黙な執事を、ネタキャラには陽気な思索家を……ほら、世界は今日も不都合なく回っている》

「出会って間もないデバイスにネタキャラ扱いされたっ!?」

 ──“奴”はいきなりやってきた……

「つまり、お前も転生者?」

《そうだ。転生直前にデバイスになってみたい、などと言えばこの姿。正直、ちょっと早まったかなー、何て思ってたり》

「ふーん、珍しいこともあるもんだなぁ。ちなみに俺は大学生だったけど、お前は?」

《私は文系の大学院生だった。──しかし、だ》

「ん?」

《銀髪ロングの中性的美形に、原作のなのはやフェイト並みの魔力資質とか……厨二だな。もとが大学生なら、もう立派な厨二と言って差し支えあるまい》

「い、言うなよ! 大体容姿は産まれた時勝手に決まってたんだ、これでも気にしてんだぞ!」

 ──容赦ない言葉に、ゴリゴリ削られていくアイギス(博道君)の精神──

《やあやあ御母堂殿、御機嫌うるわしゅう。ところで最近ネグレクトやらDVやらが世間を賑わしているが、キミはどう思うかね?》

「…………」

《フム、だんまりか。いかんよそれは、活発な意見交換あってこその斬新なアイディアだ、たまには新しい風を入れねば部屋の空気が悪くなってしまう……そう! 言うなれば一般的男子中学生の自室のようにっ!》

「…………るさ……ね……」

《んんん? 聞こえないぞっ! 意見はもっと大きな声で、はっきり、明確に! ワンモアセッ!》

「──ッ! うるっさいって言ってんのよ、この糞デバイス! 廃棄処分にして欲しいの!?」

《ぬぉぉ、こ、こら、そこはそんなに曲がらない! ら、らめぇ、ヒ、ヒンジ折れちゃゆーっ! た、助けてくれ少年っ!》

「……聞こえない、よし聞こえないぞ……! 俺は何にも聞こえていない……っ!」

「……お兄ちゃん、何で遠いとこ見ながらぼーっとしてるの?」

「……辛いことがあったんですよ、彼にも」

 ──性格がどんどん愉快になっていくラスボス(プレシア)──

「ロストロギアは……この付近にあるんだね……」

「……フェイト、一人で大丈夫か?」

「うん。……形態は、青い宝石。一般呼称は、ジュエルシード……」

《──ところで、前々から思っていたんだが……》

「……何だ? プルート。今、いいところなんだが……」

《……いや、フェイト嬢のバリアジャケットだが、やはり、こう、何だ……うむ、エロいんじゃないかと》

「え、えええっ!? ……そ、そうかな……?」

《ああ、実にGJ。そら、そこの朴念仁も先程からチラチラ横目で……》

「み……見てない! 見てないからな!? 何てこと言うんだこの(ピー)デバイス、俺がそんなことするわけないだろ、妹に欲情するか馬鹿! ──だからアルフさんその牙をしまっていただけないでしょうかお願いします!!」

「……お兄ちゃんの、バカ。マスター権限使用、四肢の運動機能、並びに魔法使用禁止……やっちゃえ、アルフ(グスッ)」

「いよっしゃあっ! ──やいやいアイギス、よくもフェイトを泣かせたねぇっ!?」

「な、何故にーっ!?」

 ──シリアスになりきれず、終始コミカルに進んでしまうストーリー──

「──待って!」

「出来るなら、私達の前にもう現れないで。もし次があったら……今度は止められないかもしれない」

「……な、名前! ……あなたの名前は!?」

「──フェイト。フェイト=テスタロッサ」

「そう、私の名前は──」

《──唐突だが、テスタロッサと聞くとミカエルを思い出す私はマンキン厨なのだろうか? もちろん、フェッラ〜リテスタロ〜ッサのセリフ付きで》

「……いや、知らんがな」

「──お兄ちゃん!? どうしてここに……」

「いやぁ、実は物陰で出待ちしてたんだが……、」

《大体な、少年は小心者過ぎるのだ。介入するなら介入する、しないならしない、中途半端は余計な傷を作るぞ? ……もっとも、微妙に介入する、という方針ならば別だが》

「黙れ無機物。──フェイト、さっきから見ていたが……自分の名前を名乗って相手の名前を聞かないのは、マナー違反だぞ?」

「……え? で、でも……」

「アイギス、こいつらは敵だ! 敵に名前を教える必要なんて……!」

「それでも、だ、アルフ。お前だってフェイトが礼儀知らずの人間になって欲しくないだろう? ……ホラ、そこの子の話を聞いてあげなさい」

「……分かつた」

「──! ありがとうございます、フェイトちゃんのお兄さん! あのね、あのね、私の名前は──、」

 ──二人(?)のイレギュラーが加わった世界は、果たして原作より悲しい世界か、それとも優しい世界か──

 全ての判断を下すのは、デスクトップの前のあなただ!

 魔法少女リリカルなのは二次創作、とあるオリ主ととあるオリデバイスの物語。

 始まりま──せん。




────────────

 It's joke.いきなり模試が入ったりばーさんが急死して実家にとんぼ返りしたりしてストレスがマッハなので書いたネタ。ネタですので続きませんが、誰か書いてくれると嬉しいかも。あれですよ、ありそうでない、“オリジナル”デバイスに転生(憑依?)ネタです。

 削除依頼掲示板にこの作品が載っていた→ビクッ!ε=w(°O°)w いや、後で間違いだと分かってホッとしましたが……あー、恐かった。

 ではでは、執務官も二話くらいストックがあったりして……。ちなみにネタも十個くらい思いついてる(けど書けない)、そして感想数上昇を心の底から願っている、実は某国立O大学志望な浪人生の作者でした! また次回〜!(←勉強しろや馬鹿)

 微修正しました。度々ですみません。




[11108] リリなのに仮面ライダー風の主人公を入れる妄想をしてみた。(嘘予告)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:f619fa38
Date: 2009/11/16 21:35

 皮張りのソファー、木製のテーブル、ビロードの絨毯。
 最低限の調度を整えてはいるものの、賓客を迎えるには簡素すぎる応接室。研究以外には興味がない主の性格を体現しているそこで、今一組の男女が向かい合っている。

「……さて、私が教えられることはこれで全部だよプレシア=テスタロッサ。とはいえ、人間のクローニングそのものはあまり難しい話ではないんだ……キミほどの研究者ならば、後は簡単だろう?」

 紫色の髪を乱雑に伸ばした白衣の男が、にやにやと趣味の悪い笑みを浮かべる。理由もなく顔をぶん殴ってやりたくなるような、嫌みったらしい笑みだ。
 その笑顔に心中眉をひそめつつも、対面の女性は鷹揚にうなずいた。知っているからだ。この白衣の男は、他人に嫌な顔をさせるのが大好きなねじくれた性向の持ち主だということを。

 一刻も早くこの性格の悪い男の城から出ていきたかった彼女は、溢れてきそうな嫌みを全て腹の内に収めるとにこやかな顔で立ち上がった。

「ありがとう、ジェイル=スカリエッティ。参考になったわ」

「なぁに、同じ魔導研究者としてキミのように高名な大魔導師の手助けが出来たことを誇りに思うよ。願わくば、キミの本願が叶わんことを」

 心にもないことを、と内心毒づきながら女性は微笑して右手を差し出した。男性も右手を差し出し、二人はしっかりと握手をする。

「ありがとう。それじゃあ、私はそろそろ──」

「──まあ待ち給え。私もキミに、一つ尋ねたいことがあるのだよ」

 用は済んだとばかりにそそくさと帰ろうとする女性を、男性が呼び止めた。とっとと帰って手を洗おうと考えていた女性は、もはや不機嫌さを隠そうともせずに振り返る。
 そんな彼女の顔を見て、男は愉快そうに唇をゆがめた。

「……何かしら? 言っておくけれど……」

「ふむ、心配する必要はないよ。別に私が聞きたいのは、キミがその技術を何に使うつもりなのか、ということではないからね」

 そこまで言うと、男は少しだけ口を閉じ暝目した。
 しばらくして目を開けると、男は大仰に両腕を広げ時に、と口を開く。

「キミは、正義の味方というものをどう思う?」



 戦闘機人、という存在がいる。生命操作技術の雄ジェイル=スカリエッティによって開発された改造人間だ。
 不思議なことに、現存の戦闘機人は女性タイプのみである。口さがない人間はその理由をスカリエッティの特殊性癖、もしくはハーレム願望によるものだと言うが……果たして、本当にそうなのだろうか?
 結論を言えば、それは“NO”だ。スカリエッティは知的欲求にのみ自分の生き甲斐や存在理由を見いだすタイプの男であり、逆に言えば性欲や食欲にはまったく関心がない。彼の開発した機人達が全員見目麗しい女性ばかりなのはただの偶然でしかなく、No.5チンクが成長しないのはただの遺伝子的欠陥、ようするにスカリエッティの失敗でしかないのだ。

 ……では、なぜ男性型戦闘機人が存在しないのだろうか?

 単純な話だ。戦闘機人は体内に機械を入れてその戦闘力を大幅に引き上げているのだが、生身の肉体と機械が拒絶反応を起こすことを防ぐために胎児の段階から調整を行う。この調整に、男性の胎児は耐えきれないのだ。
 生物学的に考えれば、女性は男性より遥かに強靭な生命体である。しかしその女性をもってしても胎児段階からの機人化適合手術は大きな負担となり、失敗すればNo.5チンクのように遺伝子的欠陥のある機人が誕生してしまう。いわんや男性の胎児にそんなことを行えば、死亡するのは当たり前の話だ。
 ここで、普通の科学者ならば諦めたであろう。しかし彼は、スカリエッティは諦めなかった。別アプローチによって男性の胎児に機人化適合手術を耐えさせることに成功したのだ。

 ……それこそが、プロジェクトC。

 人に別種の生物の遺伝子を組み込んで素体そのものの生命力を上昇させようという、悪魔の研究である。



「やあおはよう、気分はどうだい? 人類の新たなる可能性として生み出された気分は」

「……最悪だよ、親父殿」

 ──この日、一体の魔物が産声をあげた。

「なるほど、確かに個人戦闘力には目を見張るものがある……」

「……しかし、コストが高すぎだの。一体作成するごとにこれだけ費用がかかっては、量産化など夢のまた夢じゃわい」

「……では、このプロジェクトは……」

「うむ、凍結じゃ。被検体も廃棄しておきたまえ」

 ──生まれ落ちてすぐに貼られた“不良品”のレッテル。

「……あなたは、死ぬのが恐くないの? 生まれてきた理由も果たせず、何も残すことができない……あなたは、それでいいの?」

「クアットロ姉さん、そいつぁ長く生きた奴の台詞だよ。うまれたばっかりの俺にゃあこの世に未練もへったくれもねぇのさ」

「だけど……!」

「……まぁ、でもさ。一応、一つはある気もするんだよ。未練って奴が」

「──興味深いね。なんだい? それは」

「っ、ドクター!?」

「おいおい、盗み聞きたぁ趣味が悪いぜ親父殿? ……ま、いいか。俺の未練ってやつはね……」

 ──彼が生きることを許されたのは、制作者の気紛れだった。

「あばよ親父殿、精々長生きするこった」

「ふむ、キミもな。……一つ教えてくれ。もしも私達がキミの言う“悪”になったら……キミは、どうするんだい?」

「あー、そうだな……。ま、そん時ゃそん時で──するさ。それが俺のやり方だからな」

「ふむ、なるほどね。……ククク……参ったな、まさか私の作品にこんなイレギュラーが生まれるとは……いや、本当に恐ろしい。キミこそが、私の悲願を打ち砕く牙なのかもしれないな」

「馬鹿言え。そいつを野放しにしようとしてんのはどこのどいつだって話だ。わざわざダミーの死体まで用意してよ」

「それもそうか。……では、達者でな。“ゴート”」

「おうよ」

 ──名を与えられ野に放たれた獣は、己が心の導くままに戦い続ける。

「やれやれまったく……何してくれてんだかね、お前達は。いくら俺が頑丈でも、鉛弾は普通に痛ぇぞ?」

「……てめえ、何者だ?」

「俺の名前は、ゴート=スカリエッティ。

 ……一応、正義の味方だ」

 ──彼は問う、正義とは何か?

「正義を語るならば、なぜ我々に敵対する! やはり貴様も管理局の傀儡かぁっ!?」

「傀儡でもどうでもいいけどな……、正義の味方が人質をとってどうするんだよ!」

「黙れ! 目的の為の尊い犠牲を人質などと貶めるとは……言語道断! 貴様らの騙る正義の名において、断罪してやろう!!」

「──ッ、てめえが正義を語るんじゃねぇよ、このド腐れが! もういい、消えろ……■■!」

 ──我こそは正義と叫ぶ、テロリスト達との対立。

「ゴート=スカリエッティ! お前には市内における無断魔法使用や他諸々の余罪で広域指名手配がかかっておる、神妙にしてお縄につけい!」

「げ、また面倒な奴が来たよオイ……。とっととトンズラすっか」

「フハハハハ、逃げようとしても無駄だ! 見よこの包囲網、水も漏らさぬとはこのことよ!」

「……よっと」

「な……た、隊長! マル被が、マル被が!」

「こんなこともあろうかと、親父殿に緊急脱出装置を作ってもらってたのさ! あばよとっつぁん、もう諦めな!!」

「ぐぐぐ……またしても、またしても……! おのれゴート、次こそは捕まえてやるぞ!」

 ──法の守護者、管理局との邂逅。

「やあ、怪人君。君の噂は聞いてるよ、一度話をしてみたいと思っていたんだ」

「ああ? 誰だてめえ、見ねぇ顔だな」

「ああこれは失敬、自己紹介がまだだったね。うん、僕の名前は……」

 ──そして、彼は──

「……クライド。クライド=ハラオウン。ま、好きなように呼んでくれ」

 ──黒衣の一族に、出会った。



「──彼は、少々特殊でね。機人化適合手術をすることはしたんだが、機械化はしなかったのさ。……なぜなら、素のままの状態の方が機械を入れた状態よりも強かったからね」

 目の前で得意気に話す男を、女性は苛立たし気に睨んでいた。男の研究成果自慢になど興味はなく、早く研究室に帰って研究を進めたかったからだ。
 そんな彼女の様子をまるで意に介さず、男は言葉を続ける。

「彼はそのままでもかなりの戦闘力を発揮するのだが、全力を投入するには擬態を解除……いや、変身と言うべきだな。そう、変身しなくてはならない。……変身後の彼の力ならば、例えSSランク魔導師だろうと互角以上に戦えるだろうね」

「……そう、それはよかったわね。それじゃあ……」

「まあまあ、待ち給えよ」

 今度こそ帰ろうと動いた女性の腕を男は掴み、強引に彼女を引き止める。
 思わず男に殺気を向けた女性に対し男は愉悦に満ちた狂笑を向け、言った。

「なあ、プレシア=テスタロッサ。キミがあの技術を使って何をするのか、私は知らない。もちろん、興味もない。……だけどね? もしも“悪”だと思えることをするつもりならば、少し覚悟をした方がいいよ?

 ──なぜなら、ゴートは……私の息子は“正義の味方”で、“悪を叩き潰す者”だからね」



 ──こうして、“正義の味方”の物語は幕を開けた。

「なあゴート、キミはこの世界に“絶対的正義”なんてあると思うかい? 正義なんて、人の数ほどあるだろうに……そんな世界に、正義の味方は存在し得るのかい?」

 ──正義とは、何か?

「甘いなクライド、正義の味方は正義である必要はねぇのさ。お前達管理局が十を切り捨てて九十を救うのなら、俺みたいな正義の味方はその捨てられた十の内一を切り捨てて九を救えばいい」

 ──人はなぜ、正義を追い求めるのか?

「そんでその切り捨てられた一に俺がなれば……ほら、これで俺が救えなかったやつは一人もいないだろ? 正義の味方ってのは、こういうモンさ」

 ──今、正義と言う名の狂気に取りつかれた獣が、鎖から解き放たれる。

 異形の怪人の出現は、少女達の物語をいかにねじ曲げるのか……。

『魔法少女リリカルなのはTHE MOVIE ZERO〜Chimaira based on Justice〜』

 ──近日、非公開。




────────────

 ……近日、非公開。

 にしても、なんで皆さんなのはさんばっかリクエストするんだろう……?




[11108] ライトノベル風リリカルなのは(嘘予告、厨二万歳)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:22b0b364
Date: 2009/11/28 10:52

 草木も眠る丑三つ時。泰然にして自若たる深き森は、その子宮に大いなる“物の怪”を孕んでいる。
 そも、物の怪とは何者か。今は昔、平安の世にありてさえ太古の者と言われしその存在。その正体は、人の恐怖の具現である。
 『幽霊の正体見たり枯れ尾花』と言う有名な川柳がある。枯れ尾花とは穂の枯れたすすきのことであるが、深夜、たった一人で夜道を歩いている時ぼぅっと目の前に現れる影……それを幽霊だと思って驚き慌てるも、よくよく見ればただの枯れすすきであったと言う笑い話。
 この川柳からも分かるように、物の怪とは人の畏れが生み出した虚像である。件の男(だと思われる)にしても、“暗闇の向こうに何かいるのではないか”と言う恐怖が枯れたすすきを幽霊だと錯覚させた、ただそれだけのこと。
 もう一度言おう。物の怪とは、人の畏れが生み出した虚像……そう、虚像でしかない。現実には存在しない、儚き幻像。

 ……だが、しかし。

 仮定の話をしよう。もし……もしもだ、その幻像を現像に──現実に質量を持つ実体に変える力があるとすれば、だ。
 ……それはきっと、こんな存在なのではなかろうか。

「──ハアッ、ハアッ、ハア……ッ!」

 漆黒の帳が降りし森。月明かりだけを頼りに、一人の青年が獣道を駆ける。
 その色白の頬に垂れる汗は止まるところを知らず、吐く息は飢えた獣のように荒い。翡翠の瞳には血管が浮き出ており、これらは青年が長時間肉体を酷使していたことを端的に表していた。
 彼の必死で見つめる先、すなわち進行方向にあるは一つの異形。いる、ではなくあると言ったのはそれが果たして生物であるか否かの判別がつかないからであり、故にそれは完膚なきまでに異形であった。
 例えるならばそれは漆黒の化け物。あるいは夜の怪物。全てを食らう、深遠の闇。物の怪の名を冠するにふさわしい、“なんだかよく分からない恐怖”……それが確たる形をしていないからこそ、人はそれを畏れ、敬い、信仰する……そう、“それ”は一種の神とも言える。
 しかし、“それ”を追う青年にとって“それ”はもはや神ではない。種を知る彼にとっては、“それ”から溢れる威圧などただの幻影。張り子の虎に恐怖する人間などいないように、彼は“それ”に恐怖を覚えない。彼は狩人であり、“それ”は兎。それは絶対に覆らない相互関係だ。
 “それ”はいわゆる人の願いの塊であり、人の畏れの塊であった。表裏一体、願いとはすなわち恐怖。“こうであって欲しい”とは“こうであって欲しくない”の裏返しでしかない。虹は集いて漆黒となり、指向性のない願いの塊である“それ”は人の恐怖の具現となる。
 それは、本来ならば人の天敵。人の恐怖の具現者に、人は対抗する術を持たない。それは、シマウマがライオンに勝てないのと同じ絶対の真理。
 だが、青年は違う。金の長髪を翻し“それ”を追う彼には、“それ”を打ち倒し屈服させる力が……文字通り、“魔法”の力が存在する。
 だから彼は“それ”に向けて右腕を振り上げ、ここまで走ってくる中で練り上げた術式を行使すべく力ある言葉を絞り出した。

「──妙なる響き、光となれ。許されざる者を、封印の輪に!」

 右手に握るは、赤き宝玉。青年の祝詞に応じ、その眼前に緑色の円陣が浮かび上がる。
 先にいく“それ”は、背後からのただならぬ気配に足を止め──しかしその正体を目視した瞬間、元以上の速度で逃げ出した。“それ”は、理解したのだ。青年の行使する力が、己が身を封ぜんとする浄化の力だということを。

 ──だが、少しばかり……遅すぎた。

「ジュエルシード……、封印……っ!!」

 ライトグリーンの円陣から同色の閃光が弾け飛び、“それ”の総身を叩きのめす。光に打ち据えられた“それ”は不様な悲鳴をあげながらその身を構成する何かをそこら中に撒き散らしつつ、青年から遠く離れた地面に叩きつけられた。
 ……が、“それだけ”だ。そもそも青年の術は、“それ”を完全に消滅させるべくして放たれたもの……しかし結果はご覧の通り、彼の攻撃は“それ”に大きな痛手を負わせたものの存在の抹消にまでは至らず、深手を負った“それ”はずるずるとこの場から離脱していく。
 それを追う力が、彼にはもはや残っていなかった。極限まで続けた無酸素運動、その最中に身を削って行った多重並列思考、何よりも彼の体に合わないこの世界の魔力……この圧倒的に劣悪な労働環境下で一体のみとは言え先の存在の同類を封印できたことは、真に僥倖と言う他ない。
 とは言え、彼にとってしてみればここで倒れるなど以ての他。重要なのは過程ではなく結果であり、彼の知るかぎりこの世界にあのような化け物に対抗する術がない以上、原因を作り出した自分があの化け物を全てなんとかしなくてはならない……だが彼の体は既に限界に達し、感情とは裏腹に指一本動かせそうになかった。
 だから彼はその身が崩れ落ち気を失う間際、苦汁の決断を下す。

『……誰か……僕の声を聞いて……。力を貸して……魔法の……、力を……ッ!』

 それは木霊。青年の意思を遥か彼方に届ける言霊にして、危急を知らせる救難信号。彼の最後の力を振り絞った言葉は潮騒の響く緑多き町、神護る剣を伝う家系の末子の元へ。

 ──そして不屈の心が目を覚まし、物語はようやくその重い腰を上げる。



「……え、あ、あの……。なんて言うか、今さら魔法少女……? ……う、うーん……、嬉しい、のかなぁ……?」

 ──ごく普通の女子高生、“不屈の心”高町なのは。

「ジュエルシードをこの町にばら蒔いてしまったのは、僕の責任だ。……だから、この事態を収束させるのは僕の義務だ! ユーノ=スクライアの名において、これだけは譲れないんだよ……っ!!」

 ──責任感の強い若手考古学者、“堅固なる緑壁”ユーノ=スクライア。

「……目標、捕捉。障害確認……、排除開始」

 ──ただ母のためだけに感情を殺し戦う少女、“閃光の戦乙女”フェイト=テスタロッサ。

「フェイトは……あの子は、本当は優しくて、温かくて……。だけど、あのクソババアが振り向かなかったから、たった一人の肉親だってのに優しい言葉の一つすらくれてやらずに鋭いムチばかりフェイトに向けて……! ……頼むよ、もうあんたらしかいないんだ……アタシじゃ、だめなんだ……。あの女の呪縛から、フェイトを解放してやってくれよ……ッ!!」

 ──主を愛する優しき狼、“猛き赤色”使い魔アルフ。

「アラアラ、なのはが男連れてるなんて……明日は雨でも降るのかしら? ──で、どこで知り合ったのよこんなイケメン教えなさいよこの裏切り者ッ!!」

「ア、アリサちゃん落ち着いて……。──でもね、なのはちゃん。私も……、教えて欲しいかなぁ……?」

 ──日常の象徴、アリサ=バニングスに月村すずか。

「──なのは。あなたが今何をしているのか、何に悩んでいるのか、私は知らないわ。だけど、一つだけ約束して。例えどんなことをしようと、それがどんな結果を引き起こそうと……自分のしたことには、胸を張ること。高町家の──高町桃子の娘として、あなたにはそうあって欲しいから」

 ──優しき賢母、高町桃子。

「……執務官として、そして何よりクロノ=ハラオウン個人として……あなたの所業を見過ごすことは、できない。何故なら──人とは現在と未来に生きる者であり、その人を護ることこそが僕が僕自身に課した使命だからだ!!」

「アラアラ、クロノはまた気張っちゃって……と、言いたいところなんだけどね。その使命、リンディ=ハラオウンの名前も連名で入れてるの。悪かったわね、オ・バ・サ・ン?」

 ──司法の守護者、時空管理局執務官“質実剛健”クロノ=ハラオウンとその母にして時空管理局提督“アースラの化け物”リンディ=ハラオウン。

「いよぉっし、今日も元気だご飯がうまい! エイミィさんちょいと頑張っちゃうよぉーっ!!」

 ──お茶目な通信士兼クロノの相棒、エイミィ=リミエッタ。

「アハハハハハハハッ!! もう遅い、遅過ぎたのよぉあなた達はぁ……。既にジュエルシードは臨界ィ、時の庭園の魔力炉もじきにオーバーロードォ……そう! もはや! 誰にも! 止められないッ!! 次元震の発生……そして次元断層の出現ンッ!! ……そして私は旅立つの……そう! こんなはずじゃなかった過去を……あるべき未来を取り戻し、幸せになるために……失われた都、“アルハザード”へェェッ!! ──ああ、アリシア……ようやく、あなたを……」

 ──そして、優しき故に狂い咲いた“大魔導師”プレシア=テスタロッサ。

 ……それぞれの“思い”を胸に、ぶつかり合う二人の魔法使い。

 果たしてなのはの願いは叶えられるのか、それとも否か……。

 忍び寄るが如きゴシックホラーと加速し続ける超速のハイスピードアクション、変幻自在のコラボレーションが織りあげるは未知のエクスタシー!!

「……ずっと、考えてた。ユーノ君と会って、私に魔法の力があることを知って、ジュエルシードを集めて……そして、フェイトちゃんと出会った。始めはただ襲われて、訳も分からずに戦って、負けて……それが悔しくて、悲しくて、ユーノ君と特訓して……。
 だけど……、分からなかった。どうして、こんなにも……あなたに、フェイトちゃんに執着していたのか。戦って、負けて、特訓して、また戦って……ずっとずっと繰り返して、フェイトちゃんの背中ばっかり追って……ジュエルシードを無視してまで、私は何がしたかったのか……今の今まで分からなかった。
 ──でも、分かったんだ! もう遅いのかもしれないけど、止まることはできないのかもしれないけれど……だけど、後悔したくないから! 意味はあると信じてるから! ……それが、私の“母さん”の教えだから……!!
 ……だから、言うよ。あのねフェイトちゃん、私は──」

 そして、あなたは──。

「──私は、あなたの友達になりたかったんだ……!!!」

 ──一人の魔法使いの、慟哭を聞くことになる。



 『魔法戦記リリカルなのは』第一巻。

 2×××年○月△日、刊行予定。







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 と言うわけで、またやっちまいました……っか始めっから十七歳位なら魔法戦記で始まったよね、と言う妄想の産物。二つ名っぽいのも何もかもノリさ! フハハハハァーッ!!

 業務連絡:教導官モノはプロッティング完全終了。公開時期は未定ですが、とらハ板にてあげる予定です。

 ……え、短い? ごめんなさい……。




[11108] お憑かれさまですクロノさん
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:444d3758
Date: 2010/04/28 19:48

 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウン。管理局史上最年少で執務官資格を取得した、才気溢れる少年だ。また母親は次元航行隊の重鎮リンディ・ハラオウン提督であり、その他にも人事部のレティ・ロウラン提督や元執務官長ギル・グレアム提督等上層部等管理局上層部とのパイプを保有する将来有望な男でもある。
 だが、それゆえ彼には敵も多く、悩みも多い。これは年若くして社会の荒波に飲み込まれた少年、クロノ・ハラオウンの成長物語……

「ねえクロノ、ここ三年くらいのあなた、おかしいわよ? いきなり不機嫌になったり、誰もいない場所をどなりつけたり。……なにか、あったの?」

「……別に。いつもどおりだよ、母さん」

「ねえ、クロノ……クライドさんが死んだ時は、本当に迷惑をかけたと思っているわ。そのあとも、もちろん。……だから、お母さんのこと……嫌いに、なった?」

「──ッ、そんなわけないだろ!? グレアム提督の所に行ったのも、執務官を目指したのも、今ここにこうしているのも、全部僕が決めたことだ! 僕が母さんを嫌いになるなんて、そんなことあるはずが──」

「ヅアッ!? お、俺の足の小指があっ! ちくしょうこの糞自動ドア、俺にケンカ売ってるんだな!? そうだな!? よっしゃそのケンカ買ったぁ!」

「──はずが、無い!」

「グボォッ!? ……ふっ、いつもながら見事な右ストレー……オーケイオーケイ。落ち着けクロノ、まずはその物騒な杖を下ろそう! 対話! 対話重要! お話しようぜクロノさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

「うるさい! 黙れこの馬鹿幽霊! ……おまえのせいで僕は、僕はぁ……って、か、母さん!」

「ク、クロノ……、やっぱり……?」

「ああ、違うんだ! これは違う、これは違……ああもう! どうして世界は、いつもいつもこうなんだ!?」

 ……ではなく。

 クロノと彼に取り憑いた幽霊、そしてその周辺の人々が織り成す、なんか良く分からない物語である。



 そもそも、話はクロノが執務官試験に合格したその日の夜にまでさかのぼる。
 正確には合格発表のあった、その日。一浪していたこともあって普段からは考えられないくらいにはしゃいだクロノは、本局内にある自室のベッドですやすやと眠っていた。
 そんな彼の枕元に、一人の男が現れた。

「……クロノ、クロノ……」

「……むぅ、もう食べられないよぉ……」

「そんな一部客層にしかウケないセリフを言ってないで、とっとと起きるんだクロノ! こちらも時間が無いんだよ!」

 口の端からよだれをたらしつつむにゃむにゃと寝言を言うクロノの脳天に、男から容赦の無いチョップが振り下ろされる。脳髄に走る激痛に一瞬で目を覚まさせられたクロノは、しばし悶絶したのちに男をキッとにらみつけた。

「……っ、エイミィか、アリアか!? 寝ている人間に攻撃するなと、一体何度言えば分か……、る……?」

 若干涙目になりながら放たれた糾弾の言葉は、男の姿を認識した瞬間急速にしぼむ。
 代わって膨れ上がるのは、困惑。なぜ、どうして? の感情が、クロノの心を支配していく。

「父、さん……?」

「そう、父さんだ。正真正銘クロノ・ハラオウンの父親、クライド・ハラオウンだよ」

 枕元に立ちにこにこと笑う父、クライドの姿にクロノは絶句する。なぜなら、クライドは既に過去の人であったからだ。クロノの母親が事務職から現場に移ったのも、クロノが執務官への道を本格的に志したのも……なにもかも、クライドが死んだことから始まったことだ。逆に言えばクライドが死ななければ自分達の今は大きく違うものになっただろう、ということであり、その大前提をゆるがしかねない、しかし目の前にいるクロノを成長させて微妙にワイルドにしたらこうなるだろうな、と思わせる姿の男は自分の記憶と過去の資料を鑑みてもクライドそのもので……。
 ようするに、目の前に立つクライドはクロノを大きく動揺させた。そう、少なくとも、さっきクライドから痛烈なチョップをもらったことをきれいさっぱり忘れるくらいには。

「父さん……、どうしてここに?」

「なぜ、か……そこは気にしないでくれると助かる。第一に面倒で、第二に時間が無いからだ。いいかクロノ、死んだ人間を依り代もなく現世に呼び寄せるというのは、冥府の住人でも難しいことなんだよ?」

「あ、えっと……ゴメン父さん、よく分からないけど分かったよ」

 クロノは迷った。この人、本当に自分の父親なのか? と。自分の父親はもっと、こう、まじめで堅物だったんじゃないか? と。
 だがしかし、まあ別にいいか、とも思った。思い出は美化されるものであるし……そもそも自分の母親の伴侶が堅物に務まるはずないじゃないか、と。
 ……なぜか自分も将来そうなる気がして寒気を感じたクロノは、あわててその思考を打ち切った。

「クロノ……とりあえず、執務官試験合格おめでとう。親として、お前のことを誇りに思うよ」

「え……あ、ありがとう父さん」

「ついては、父さんからクロノにプレゼントがあるんだ」

 そう言って笑うクライドがどこからともなく取り出したのは、白いノートパソコンだった。ディスプレイの裏にメビウスの輪のようなマークと『F○V BI○LE』という文字が書かれたそれは、空間モニタが一般化された管理世界ではもはや過去の遺物と言ってなんら差し支えのない存在である。
 当然、クロノは困惑した。なにせ敬愛する父親からのプレゼントだ、なにであろうと大切にするつもりではあるが……組み込めば全能力値が飛躍的に下がるアイテムではあるまいし、これをどうしろと言うのか? と。
 そんなクロノの視線に全て分かっている、とばかりにうなずくと、クライドは口を開く。

「この中にはね、クロノ、お前を見守ってくれる人がいるんだ。クロノはこれからたくさんの壁につきあたることになるだろう……そんな時に、きっと、多分、おそらくは、お前の味方になってくれるはずだよ」

「僕を、見守ってくれる人……父さんじゃ、ないの?」

「ごめんな……この世界の住民は、死後、原則的にこの世界に介入することはできなくなる。今回のこれだって特例中の特例なんだ……だからこの中にいる人は、次元も、時空も、何もかも違う世界から来た人だ。それでも……」

 そこまで語ったところで、クライドの体が光に包まれる。時が、来たのだ。死人が、闇に帰る時が。
 それを悟ったクロノは、あわててクライドの右手をつかむ。つかんだその手は冷たく、しかし奇妙に温かった。

「父さん、まだ行かないで! まだ話したいことがたくさんあるし、母さんにだってまだ……!」

「いいんだ、クロノ……リンディと会えないのは心残りだが、こうしてお前と話すことができた。それだけ……、でも、ここに……来た、価値は……」

「父さ……、父さあぁぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁぁぁん!」

 光の粒子となって、消えてゆく父を前にして。
 クロノは一人、慟哭の声をあげた。

 ──クロノ、その中にいる人を信じなさい……。

 ──その人は、未来すらも見通すことができる人だ……。



 そして、翌朝。
 目覚めたクロノの枕元には、一台の白いノートパソコンが鎮座しており。

「オッス、オラ小林! ワクワクすっぞ!」

「……なんだ、こいつ……?」

 その横にはオレンジ色の武術服っぽいものを着た人間が、適当な感じで立っていた。

 のちに、クロノは語る。
 クライドが言っていたように……味方にはなってくれるが、見守ってくれるだけの人だった、と。



 小林博之、享年34歳。生前は高校教師。科目は国語。独身。
 基本的にオープンなオタクであり、その類にもれずオタクとしては中途半端、一般人にしてはオタク寄り。どちらかと言えば一般人のコミュニティに所属することが多く、性格は内行的内罰傾向があるものの十分社交性はあり。生徒からはいてもいなくてもどうでもいいけどどっちかと言えばいたほうがいい人間、例えるなら「本屋にある椅子」とか「登校時間にだけ上がることしかできなくなる屋外エスカレーター」的な存在として見られていた。
 とりあえず、そんな人間。普段は上下ともに紺色のスーツ姿であるが、任意で服を換えることが可能であるらしい。物理法則には縛られており、触れたり聞いたり食べたりすることは可能なのに(もっとも、本人いわく幽霊なので食べなくてもやっていけるらしい)、クロノ以外の人間には見えない“はず”の存在。
 そして……「リリカルなのは」を知る者。
 それが、クロノのに取り憑いた男の全容だった。

 ……もっとも、

「どうした博之、いつになくまじめな顔だが……なにか、あったのか?」

「……いんや、なにも。ただ……」

「ただ?」

「エイミィさんの白く眩しい太ももを鑑賞していただけ……ってクロノ、ストップ! 冗談、冗談だからな!? 冗談だからその物騒なモノを下ろせ!」

「……ミディアムでいいか?」

「やるならできればウェルダンで! 痛覚神経ごと焼き切って──」

「──悪いな、火加減は一択だ」

 博之自身に、それらを伝える気は無い。所詮は幽霊、ふわふわとした虚像に過ぎないからだ。
 過去の自分と、今の自分。容姿は変わっていないものの、それは別物だと博之は考えている。過去の自分の記憶と経験をツールとして保有しながらも、幽霊である自分というスタンスを崩さない。それが、彼がこの世界に来て一番最初に決めたことだった。
 理由はある。まず最初に、彼が、この世界をフィクションとして知っていたこと。生前この作品がわりと好きだった彼は、おぼろげながらもこの先起こるであろうことや、宿主であるクロノの過去などを知っていた。しかしながら、それはそれ、これはこれである。推論だけで話を進めることほど恐ろしいことはない。そのために彼は一端「リリカルなのは」という作品について知っていたことを脳内からフォーマットし、色眼鏡を外す必要があった。だからこそ、「小林博之という名の人間であること」を捨てたのだ。もちろん多様な理由から「小林博之というそんざいであること」までは捨てなかったが。
 第二に、彼の体が他人から見えなくなっていたこと。彼自身物を触れたり食べたり出来ることは前述の通りだが、彼の声はクロノ以外の誰にも聞こえない“はず”であるし、彼の姿はクロノ以外の誰にも見えない“はず”なのである。食事をしても、それが美味であることを伝えることができない。それは元来おしゃべり好きな性格であった博之にとってはとても虚しく、耐えがたいことであり……ゆえに、心の均衡を保つためにも彼は自分を幽霊であると定義したのだ。

「あーもう、クロノ君! 艦内での無許可魔法使用は御法度だよ! 小林さんも、わかっててクロノ君ちゃかさない!」

「…………」

「…………」

 ……そう、本人的にはかなりの悲壮感をともなって決意したの、だが。

「……なあ、博之」

「なんだクロノ」

「お前の姿は、僕以外の誰にも認識できない……そう、初めて会った時に言ったな?」

 しら~、という感じの横目を、クロノは博之へと向ける。
 向けられた側の博之は、う~ん、とうなりながら頬をぽりぽりと掻いた。

「そのはず、なんだけどなあ……」

「……そのわりに、エイミィにはしっかり見えてるわけだが。これはいったいどういうことだ?」

 実は最初、クロノは博之のことをドッキリかなにかだと思っていた。グレアムかエイミィかが仕掛けた、執務官就任祝いのジョークかなにかなのではないかと。クライドの夢は偶然の産物であり、皆が彼をからかっている……そう考えた方が、なにもかも納得がいったのだ。
 その疑いが晴らしたのが誰あろうエイミィだった。彼女は博之を見ることができたのだ。そして彼女は友人兼弟分の自室内に突如現れた不審者に対して狼狽し、大騒ぎを引き起こした。
 エイミィは、ドッキリ企画なんていう面白そうなものに口を突っ込まない女ではない。ゆえに彼女が知らなかったという事実は、博之が本物の幽霊であることの証明になった。
 のは、いいのだけれども。

「……生き物には皆、バイオリズムってやつがあってな。それは個々人で微妙に違って、似通っている人間はいても、それがまったく同じ存在なんてゼロに等しい。よしんばいたとして、両者がであう確立はそれこそ天文学的だ。だから、お前のバイオリズムに合わせて調整された幽体である俺が見えたり俺の声が聞こえるのはお前だけのはずなんだが……」

「しかし、実際見えてるぞ。しっかり、くっきり、はっきりと」

「だから変なんだよ。この世界は重層的に重なり合ってて、この世界も冥界も天上界もみんな同じ空間の異相平面上に存在する。俺やクライドさんみたいな冥界の住人は本来こちらに存在できないんだけど、こちら側の存在とリンクした上で寄り代を用意すればこの世界に干渉できる。例えば俺の場合はリンク先がおまえで、寄り代がパソコン」

「だが、原則的に幽体の行動はリンクした先の人間の行動と寄り代に縛られる。寄り代が壊れれば幽体は徐々に力を失って消滅していくし、リンク先の人間の状態が悪化すれば幽体の状態も悪化する。そして、その副作用で幽体の声や姿はリンクした人間にしか聞こえないし見えない……だったか」

「そ、そ。……まあなんだ、だからこの現状は……」

「……異常、な、わけだ」

 男二人、顔を見合わせてはぁ、と肩を落とす。
 なんだかんだで三年以上付き合いのある二人だ、普段はいがみ合っていてもそれなりの関係ではある。お互いに、相手が苦しむのは忍びない。
 ようするに、二人ともツンデレだということだ。

「まあまあ、二人とも! そう暗い顔しない!」

「あたっ」

「うわっ」

 すっかり暗い雰囲気になった男衆の肩を、エイミィがばあん、と一発ひったたいた。すっかり蚊帳の外にされていた彼女は、しかしそれを気にする風もなく呵々大笑と笑顔を見せる。

「結局、バイオリズム……だっけ? 私のそれと、クロノ君のそれが一緒だってだけの話でしょ? 別にいいじゃない、それくらい」

「いや、まあ……」

「それはそう、なんだが……」

「まったく……二人とも、難しく考えすぎ! そんなんじゃ幸せになれないよ?」

 呆れたような表情のエイミィに、二人はしゅんと小さくなる。大の男が二人して女性の前で小さくなる様は、哀愁というかなんというか、そういったものを感じさせた(もっとも、博之の姿はエイミィとクロノ以外には見えず、クロノはとても大とは言えない小柄な男子であったので、傍目には美人のお姉さんに叱られている弟にしか見えないわけだが)。
 ふと、なにかに気がついたのかエイミィが口にてを当てる。

「あ、でも……」

「? どうしたエイミィ、なにか気がついたことでもあるのか?」

「……いや、さ」

 クロノに問われたエイミィは、若干頬を赤くしながらぽつり、と言った。

「それって、つまり……クロノ君と私、相性ピッタリってこと……だよね?」

「……ん、んなっ!? な、なななにを……」

「……あー、まあ、確かに。そうともとれる、よなあ」

 その場に、気まずい沈黙の帳が下りた。



「まあ、なんだ……ちょっと、試してみるか? そこのベッドで」

「……クロノ君?」

「了解だ……スティンガー!」

「──ギャピイッ!?」



────────────────────────────────────────────

あれだけなのユーフェイって言ってたのに……。すみません、あともうちょっと待ってください(何回言ってんねん)。
現在リハビリ中です。それと、これがパソコン初投稿作ですね。……なのに残念クオリティっていうね……。
ちなみに、一応「中国の壺」という短編漫画がネタ元です。知ってる人いるかなぁ……。
連載予定は、ありません。






[11108] Dr.スカリエッティの超☆科学的青春
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:444d3758
Date: 2010/05/16 21:07

 新暦75年、ミッドチルダを大いに騒がせたJ.S.事件の主犯格にして、稀代の科学者ジェイル・スカリエッティ。実は当時、既に五十歳を回っていた彼は、素晴らしいアンチ・エイジング技術の持ち主でもある。なんなら、本でも書けば良かったのに。
 だが、もちろん、彼にも青春時代というものがあった。これは、彼があまり普通ではない方法で生まれて、あまり普通ではない環境で成長するその過程、いわゆるジェイル・スカリエッティの青年期(っぽいもの)に焦点を当てたお話し。
 ……端的に言えば、いつも通りのバカ話である。



 新暦51年。それは、スカリエッティが後に彼の有能な秘書となる戦闘機人、ウーノを造り出した年として知られている。
 もっとも当時彼の技術は未だ稚拙であり、生み出されたウーノは、ミッドチルダでの五歳児程度の知能しか与えられていなかった。それが果たして本当に稚拙であるのかどうかはともかくとして、そして既に体は成熟した状態で生まれてきた彼女に若干犯罪的臭いを感じることもともかくとして、その頃のウーノは、未だ純粋かつ純真かつ純潔なる乙女であった。純粋に、スカリエッティを敬愛していた。
 そんな時代。スカリエッティ自身も未だ若く、科学と未来への青くて素晴らしい理想を抱いていた時代。
 彼の研究室では、管理局最高評議会から送られてくる依頼と並行して、日夜どーでもいい研究が続けられていた。



「──バナナの皮、ですか?」

 朝食をサーブした後に食後のコーヒーを持ってきたウーノは、スカリエッティの言葉に首を傾げた。ちなみに食事の作り方も、コーヒーの淹れ方も、皆スカリエッティの協力の下に彼女が鍛練し、身に付けたスキルだ。彼いわく、娘がしたいことならばさせてやるのが父の甲斐性、らしい。
 ……もっとも、舌足らずだった口調は、独力で矯正したのだが。それを知ったスカリエッティは無言で微笑みつつ娘の頭を撫で、頭の中で絶妙なる様式美の崩壊に涙した。

「そう、バナナの皮だ。……この間仕入れた情報によれば、とある管理外世界では、バナナの皮を踏む=滑って転ぶ、という方程式があるらしい」

 それはともかく。
 今のスカリエッティの脳内は、バナナのことでいっぱいのようだ。バナナ、バナナ、バナナナナ……とにかく、バナナフィーバーなのである。その瞳は光り物を見つけたカラスのように純粋な光を湛え、脳ミソはG級の激昂ラー○ャンのごとき速度で回っているのだが、いかんせん、議題はたかがバナナのことなのが、悲しいところだ。
 そんな、敬愛する父の体たらくに対して、ウーノは……

「それは……しかし、=を付けるには、いささか確率が低すぎる気がするのですが。バナナの皮を踏む≒滑って転ぶ、とした方がより正確なのではないかと」

 ……普通に食い付いた。さすがメンタルは五歳児、後のウーノの冷静かつ的確な情報分析能力が、ひとっかけらも感じられない。スカリエッティの暴走を止めるブレーキング能力は、いったいどこに行ったのか

「ちちち……やはりまだまだ甘いねぇ、ウーノ。もちろん、数学的に言えば百パーセントでない限り=記号は使えない。しかしだね、これは一種、文学的表現とでも言うべきものなんだよ」

「文学的表現、ですか?」

「然り。燕が低く飛べば雨が降る、夜爪を切れば親の死に目に会えない、風が吹いたら桶屋が儲かる……これらは皆、百パーセントそうだというものではない。虫が低空にいなくても燕が低く飛ぶことはあるだろうし、昨今の明るい灯の下では深爪で大出血もしないだろう。最後のは言うに及ばず。だがねウーノ、これはそんな物理学的、形而下的な話ではない……言わば、一種のフラッグなのだよ」

「フラッグ……? 旗がご入り用なのですか?」

 はて、と首を傾げたウーノは、懐からミッドチルダ国旗を取り出した。しかも、結構でかいのを。

「……君は時折、とんでもないボケをかます時があるね」

「お褒めにあずかり光栄です」

「いや、褒めてない。ところでソレ、どこにしまってたんだい?」

「懐の中に」

「いや、物理的に……」

「形而上学的概念による旗なので。これ以上は、乙女の機密です……それで、フラッグとは結局なんなのですか?」

 なんだかんだで、いつのまにか旗は姿を消していた。忽然と、まるで、最初からなかったものかのように。
 そのことに気がついたスカリエッティは、とりあえず、思考を放棄することにした。

「……あー、うん、ごほん。フラッグとはねウーノ、言わば指標だよ。縮めてフラグと言うのが一般的呼称だが、これは、次に起こる物事の導入的役割を担う。前フリとも言うね。これを行うことによって、次になにが起こるのか? ということを、婉曲的に、情報の需要者に伝えることができるんだ」

「なるほど。しかしドクター、それとバナナの皮の間には、どんな関係性があるのですか?」

「落ち着きたまえウーノ、話はまだ終わっていない。つまりだね、フラッグ、いやフラグは、極めて文学的かつ形而上学的表現である、と言うことさ。現実の事象を、完全に定義することは不可能だ。なぜなら定義を行うには言葉が必要であり、しかして言葉は不完全な物だからね。つまりフラグが成り立つのは形而上学的な空間、いわゆる“作品”の中だけということになる」

「つまり、バナナの皮とは滑って転ぶという行動が創作物内で行われる場合の論理的理由付けであり、それゆえ現実に百%の確率でなくとも=記号を使うことができる。それが、件の方程式が文学的表現であるということなのですね、ドクター」

「その通り。すなわちそれが、“お約束”だよ、ウーノ。……考えてみると、燕の例は良くなかったな。それはお約束云々ではなく、自然現象の延長であるわけだから」

 そこまで話したところでやっと、スカリエッティはコーヒーのカップに手を付けた。ウーノ、緊張の瞬間である。
 ごくり、と、スカリエッティの喉が動く。そして、彼の口の端が、満足気に歪められた。

「……うん、いつもながらいい仕事だ。さすがだね、ウーノ」

「ありがとうございます、ドクター」

 表面上は平静を保ちながらも、若干頬を紅潮させるウーノ。
 そんな愛娘の姿に、スカリエッティの頬は知らず緩んだ。

 ……が。

「──まぁ、ここまでが一般論、なんだが」

 彼の瞳は、すぐに輝きを取り戻す。悪戯を思いついた少年のような、純粋で狂的な輝きを。

「ふとね、思ったのさ。……作ってみるのも、面白いんじゃないかな? と」

「と、言うと?」

「つまり、足を乗せれば百%、滑って転んでしまうバナナの皮さ! ……もちろん、百%という確率を弾き出すことは不可能だ。だが、しかしねウーノ、もしも99.9999%、すなわちシックス・ナインズの確率で滑って転んでしまうバナナの皮ならば……それを作ることができれば、なんとも面白いのではないか? 私は、そう思った。そして……」

 言いつつ、スカリエッティは、懐から一房のバナナを取り出した。それは、黄金に光り輝く、いわゆる一つのバナナであり、またバナナ以外のなにものでもなかった。
 簡潔に言えば、それはバナナだった。

「これが、その研究成果だ。私の持つ遺伝子工学の知識や生体操作技術をフルに活用して品種改良した、“皮を踏んだらほぼ確実に滑って転ぶバナナ”……ふむ、そうだね、黄金バナナとでも名付けようか」

「……ドクター、研究費はどこから?」

「ああ、件の話が伝えられている管理外世界には、バナナとラズベリーで武装した相手との戦闘をする訓練があるようでね。訓練があるということは、当然、それを用いた効果的な戦闘方法があるということだ。そういったレポートを最高評議会に提出したら、簡単に予算が下りたよ。……なにせ果実だ、質量兵器とは間違っても言えないだろう」

「さすがです、ドクター」

 頷いたウーノは、件のバナナ、黄金バナナをじっくり観察してみた。だが、どれだけ観察してみてもただのバナナにしか見えない。
「……ドクター、解説をお願いします」

「む、すまない。まあ、見てるだけではこれがどんなものか分からないだろう……ちょっと、持ってみたまえ」

「分かりました。……む、これは……?」

 スカリエッティから手渡されたバナナを持ったウーノは、すぐに違和感を感じた。彼女は、バナナの皮を覆う剛毛をまじまじと見つめる。
 ……そう。黄金バナナは、毛深かったのだ。皮の表面に、びっしりと黄金色の毛が生えていたのである。

「驚いているようだね、ウーノ」

「はい。……ドクター、これはいったい? これでは、滑るバナナを作る、という前提条件と矛盾してしまいます」

「いや、これはこちらの説明不足だよ。実は、件の話には、もう1つ条件があってね。事後、バナナの皮は、蹴り足……つまり踏んだ足が向いている方向に飛ばなくてはならないんだ。その条件を満たすために、皮の外側の摩擦係数を大きく、内側を小さくしたのさ」

「なるほど。つまり、様式美ですか」

 心得たり、とばかりに頷いたウーノ。
 彼女の返事を聞いたスカリエッティは、手を打って喜んだ。

「まさにその通り! ……では、剥いてみたまえ」

「はい。中身は、廃棄いたしますか?」

「いや、なんにせよバナナであることは変わらないからね。勿論、味にも気を使った。是非食べて、感想を聞かせてくれ」

「了解しました」

 バナナの皮を剥き始めるウーノ。その皮は、さして抵抗もなくズルズルと向けていく。

「ズル剥けですね」

「ズル剥けだね」

「そして、バナナにしては……汁気が多い。まるで、桃のようです」

 皮の内側にあるバナナは、果汁が従来のものに比して格段に多かった。この汁気が皮を剥きやすくすると同時に、皮の内側を滑りやすくするのだ。
 口を大きく開けてバナナを頬張ったウーノは、まぐまぐと口を動かしてそれを食べた。食後、果汁で汚れた口の周りをティッシュで拭い、彼女はスカリエッティを見上げる。

「……おいふぃいです」

「そうか、それは良かった」

 満足気に頷いたスカリエッティは、ウーノの手からひょいとバナナの皮を取り上げると、それを床にセットした。そのまま少し離れたところに移動し、大きく1つ深呼吸をする。

「では……」

「──お待ちください、ドクター。……その、それを……私がやっても、よろしいでしょうか」

 いざ、と足を踏み出したスカリエッティを、ウーノの一言が制止した。呼び止められたスカリエッティは、少し驚いた表情で振り返る。

「君が? いやしかし、この実験には、多少なりとも危険が……」

「やって、みたいんです。……だめでしょうか、ドクター」

 じっと、無表情に、しかしやりたそうな雰囲気を醸しながらスカリエッティを見上げるウーノ。
 それに否と返すことは、隠れ親バカたるスカリエッティにはできなかった。

「……よかろう。やってみたまえ」

「ありがとうございます。では……」

 許可を得たウーノは1つ頭を下げると、床のバナナをきっと見据えた。
 彼女はゆるゆると足を上げ、バナナの皮を踏みしめ、そして……。

「……あ」

「……あ」

 つるり、と、ひっくり返り。
 ゴン、と鈍い音がして。 そのまま、ウーノは、気を失った。



 ウーノが目を覚ますと、彼女の体は調整ポッドの中にあった。ふと頭を巡らせれば、スカリエッティがコンソールの中で何事かやっている。
 しばらくして、スカリエッティはウーノに気付いた。

「む……起きたのかね、ウーノ。調子はどうだい?」

「良好です」

「そうか、それは良かった」

 短いやりとりの後、スカリエッティはまたコンソールに向き直る。
 しばらく黙って彼の姿を見つめていたウーノは、ふと、口を開いた。

「ドクターは……」

「? なんだい?」

「……ドクターは、科学とは、なんだと思いますか?」

 それは、ウーノが前々から気になっていたことだった。
 ジェイル・スカリエッティは、古代科学の落とし子であると同時に、現代における最先端科学の担い手である。例えばウーノという存在は、スカリエッティという父親と、科学という母親が、強化ガラスの子宮の中で為した子供だと言うこともできよう。つまり、彼にとっての科学とは、母親であると同時に、生涯の伴侶なのだ。
 なればこそ……ジェイル・スカリエッティ個人にとって、科学とはなんなのであろうか? という疑問がウーノの中には浮かぶ。彼にとってのそれは、己を縛る鎖なのか? それとも、己を支える基盤なのか?
 どちらにせよ、それから離れることはできない。

「ふむ、面白い質問だ。……そう、グッドクエスチョンだよ、ウーノ」

 言って、スカリエッティは目を閉じた。同時に、先程から忙しなく動いていた指の動きも止まる。
 ややあって、スカリエッティは目を開いた。

「ウーノ。君の妹が、じきに完成する。名前は……ドゥーエだ」

「そうですか」

「彼女の設計コンセプトは、諜報活動特化型だ。その性質上、暗殺任務にも優れた機人になるだろう」

 だが……、と、スカリエッティは言葉を切った。

「果たして彼女は、それだけの存在なのだろうか?」

「……どういう、意味でしょうか?」

「私はね、ウーノ。それは違うと考える。他人が彼女に与えた役目がどうあれ、彼女は彼女だけの、他の誰にも無いパーソナリティーを持っているはずだ。……私に言わせてみれば、この世界にいる人間は全て、ただの社会の歯車だが……皆それぞれに、個性があるだろう? 彼女、ドゥーエも、決められた囲みの中からは出られないかもしれないが……それは、彼女が世界にただ一つのパーソナリティーを持つ……いわゆる、個人であることを否定することは、できない」

 もちろん、君も、そして私自身もね、と、スカリエッティは言う。
 そう言いながらウーノを見つめるスカリエッティの目には、どこか温かい色があった。少なくとも、そう、ウーノは感じた。

「……私にとって、科学とはなにか? 面白い……、実に面白い質問だね。確かに、私にとって、科学とは一種の枷だ。私は科学によって生まれ、科学によって生きることを宿命付けられた。そして、その探究の性質すら“無限の欲望”というくだらない言葉によって定義付けられた。……ある意味において、私ほどにくだらない、どうでもいい、没個性的な人間はいないだろう。
 科学は、私を生んだ。反せば、科学がなければ私は生まれなかった。科学の存在こそが私にとっての苦難の根源であり……私の罪の、根源だった。もしも人に、なにかを憎む権利が与えられているのならば。憎しみなんてものに正当性を与えることができるのならば、断言しよう。私には、科学を憎む権利がある、と。
 ……まあしかし、だ」

 スカリエッティは、懐から例のバナナを取りだした。ウーノに踏まれたのとは別の、未だ剥かれていないバナナである。
 そのバナナの表面を見つつ、スカリエッティは呟く。

「これもまた、科学だ。こんなどうしようもない、取るに足らないものであっても、科学であることには変わりない。そう、それもまた否定できない事実……ならば、科学とはなんであるのか? また、私にとって科学とはなにか?
 ウーノ、私は科学者だ。科学者とは、科学によって世界の理を解き明かそうとする者達のことだ。哲学者にとっての言語、数学者にとっての数がすなわち我々にとっての科学だ。
 そう、答えは実にシンプルなのだよ、ウーノ。すなわち……私にとっての科学とは、道具なのだ。ただの道具……魔導師にとってのデバイスと変わらない。若者達にとっての携帯情報端末と、引きこもりにとってのパソコンと変わりない、ただの道具だ。喪えば、大きな喪失感に襲われるだろう。人生の指標、あるいは依りどころを見失い、自殺するかもしれない。それのために命をかける人間もいるだろう。
 だが……それでも、それは、ただの道具なのだよ」

 ウーノは、スカリエッティの話を黙って聞いていた。聞いて、咀嚼し、理解しようと努めた。
 そして、彼女は口を開いた。

「結局……ドクターにとっての科学とは、なんなのでしょうか? 本当に、ただの、道具なのですか?」

「つまり、だ。私にとっての科学とはね、ウーノ……可能性を持った道具、だよ。それはただの道具に過ぎない、しかしただの道具と言うには余る……実に多義的な存在、しかし道具だ。
 そうさ、確かに私にとっての科学とは、ただの道具に過ぎない。だがねウーノ、私は、科学に通り一遍の道具に対するものとしてはあり得ない感情を抱いている。怒り、憎しみ、共感、歓喜……なぜか? 科学のなにが、私を惹きつけるのか? それは……科学が、私にとってひとつではないからだ。私の前で、科学は、数多くの顔をしてくれる。それだけでなく、私以外の誰か、例えばウーノの前では、私の前では見せてくれないような顔をしてくれる。科学とはねウーノ、実に、実に素晴らしいものだ。
 ……だから、私は科学を志すのだよ。他の誰でもない……自分自身の、意志で」



 ──これは、未だスカリエッティが年若く、純粋だった時代の話。

 それから彼がなにを見、なにを聞き、そしてなにをしたのか……その結果、彼はどうなったのか。

 全てを知るのは、彼と……最後まで彼に付き従った、ウーノのみである。



「……私はね、人間という存在もまた、そうだと思う。多義的であり、多面的であるからこそ……その存在は、意味深い。
 ウーノ……キミが、否、全ての戦闘機人が、どうかそれであることに囚われないことを……自分の意志で、自分の道を決められるようになることを、私は願うよ」



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Q:スカさんは好きですか?

A:はい、大好きです。特に最期のセリフなんかは、彼の人生が込められた名台詞だと思います。

 ……しかし、今回のタイトルの元ネタ……分かる人、いるのでしょうか?




[11108] 美の砲撃魔人
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:444d3758
Date: 2010/05/23 07:14

 カランコロン、と、鐘が鳴る。
 お決まりの音楽に、お決まりの定型句。そしてお決まりの儀式を済ませ、教会の外へ。
 お姫様抱っこ、とでも言うべき形で抱いた幼なじみは、微妙に赤い顔をしていて。

「照れてるの? なのは」

「うん、ちょっと……ってあーっ! ユーノ君、笑ったなぁ!?」

「ごめんごめん」

 えー、と、言うわけで。

 このたび僕、ユーノ・スクライアは、結婚しました。



 きっかけは、そう……彼女の、こんな言葉だった。

「最近、さ」

「うん?」

「寂しいって、いうか? そんな気分、なんだよね……」

 お昼時、本局の食堂でたまたま出会った僕となのはは、一緒に食事をしていた。
 ミートソースのかかったパスタをくるくると巻く彼女を見つつ、僕は少し首をかしげる。

「……どこが?」

 まず、なのはには同居中の親友がいる。おまけに、娘がいる。職場に行けば同僚がいるし、教え子なら局中にいる。
 つまり、だ。高町なのはに、寂しいとか、そんな言葉はそぐわないのだ。

「ていうか、それは僕のセリフ。最近なのははかまってくれないし、他のみんなにも会えないしで……ヴィヴィオとアルフ、後はクロノぐらいだよ? 昔馴染みで、ここ一カ月、僕が話したの」

「う……ご、ごめん。お仕事、忙しいから……」

「いや、まあ、分かるけどね?」

 実際、忙しいのだ。彼女達は。
 六課の運用機関が終わって……いや、終わる前から、僕とよく話すのはアルフにクロノ、なのはぐらいだった。
 そして、きっと、なのはは無理をしてくれていたのだろう。ヴィヴィオという娘ができて、僕がなのはと接する時間はさらに減った。

 ……まあ、よく考えればプラマイゼロではあるのだけども。
 “なのは”と接する時間が減ったというのは、個人的に、ちょっと、寂しかったりもする。

「……で、なにが寂しいのさ? フェイトもいる、ヴィヴィオもいる、同僚も沢山いる……なのはは、なにが不満なわけ?」

「同僚は、ユーノ君にもいるでしょ!」

「ノンノン、あれは部下。トップってのは、孤独なんだよ。……で、質問の答えは?」

「……いや、まあ、なんとなく……では、あるんだけど」

 話を聞きつつ、目前のラーメンのスープを飲む。
 うん、美味しい。いい仕事してる。

「ほら、私? そろそろ、二十三じゃない?」

 ……ああ、なんとなく見えた。

「そうだね、プレゼントはもう買ったよ」

「え、ありがとう……じゃ、なくて! ……ほら、ヴィヴィオもいるし、さ……」

「……ようするに、焦ってるの?」

「……はい、そうです」

 いやはや、なんとも……こちらとしては、「ようやくか」としか言いようがない。
 なにせここはミッドチルダ、平均就業年齢が十六歳~十八歳の世界だ。つまり、結婚適齢期というのもかなり早くやってきて、去っていく。
 で、なのはの年齢だが。実は、それ自体は、まだ大丈夫な年齢である。とりあえず、三十歳程度だったら、まだ買い手がつくだろう。十分結婚適齢期……しかし、ここにさらに大きな落とし穴があったりする。
 ようするに、適齢期だということは未婚の男女が多い、と、言うことだ。で、なのはも当然未婚。しかし彼女には、ヴィヴィオという非常に愛らしい、しかし立派な“コブ”が存在するのだ。これがヤバい、つまり未婚の、しかも結婚適齢期の男ってのはなぜか貞操観念が高い人間が多く(エロ本はもってるくせに)、おまけに男はロマンチストだ。なにが言いたいのかというと、そういう輩ってのは義理って言ってるのに「いや、誰かいきずりの男のを孕んだに違いない! 畜生、このアパズレ女!」となりがちなのである。
 言う必要はないかもしれないが、妄想も男の方が酷い。凄いんじゃなくて、酷い。

 まあつまり、彼女が売れ残りになる率はけっこう高い。高給取りだしね。

「……まあ、うん。いっそ、フェイトと一緒になれば?」

 ……うん。
 だから、そう、僕は、軽い調子で言った。
 別に、他意はない。ミッドでは同性婚は認められているし、あれだけ仲がいいんだし、もういっそのこと一緒になれば……少なくとも、最近多くなってきたクロノの愚痴は収まるんじゃないかな、と。そう、思ったのだ。

 ……まあ、言った直後に後悔したけどね!

「……ねえ、ユーノ、くん?」

 ……そこにいたのは、悪魔だった。
 空間が、悲鳴をあげていた。彼女の体を中心にして渦を巻く膨大な魔力素が、視覚化されていないと言うのに目に見えた。彼女の怒りが、嘆きが、悲しみが、感情の渦潮が、僕の視界を一瞬で絶望の黒に染め上げた。
 それは、まさに、悪魔だった。悪魔としか、言いようがなかった。

「おかしいなぁ……、どうしちゃったのかなぁ……?」

「──ヒイッ!?」

 気付いた時にはもう、それなりに込み合っていた食堂から、人はいなくなっていた。
 さっきまで威勢のいい声が飛び交っていた厨房からすら、人の気配がしない。

 ……あー、詰んだね、これは。

「ねえ、ユーノ君……最近ね、私、思うんだ……」

「……な、なにを、かな?」

「あのさ、私……これでも、日本人なんだよ? みんな、それ、忘れてない? やれミッドの法では大丈夫とか、進んだ文化圏では旧来のジェンダーは崩壊してるとか。……私はね、ユーノ君、日本人なの。ごく普通の、日本人の、恋に恋する女の子なの!」

「……ごめん、さすがに最後のは同意できな……」

「ユーノ君、うるさい! 女の子はね、心がキラキラ輝いてたらいつまでたっても少女なの! 偉い人もそう言ってたし! たとえ歳が二十歳回ろうと、娘ができようと、砲撃撃とうと、少女は少女なの! だいたい歳のこと言うんだったら放送年代から考えてさ○らちゃんはもう三十路近くのオバハンなの……やーいどうだ参ったか!」

「いや、そういう話は危ないからやめようよ! 後さく○ちゃんは、僕たちの心の中でずっと少女のままだよ!」

「だったら私も、心の中で少女のままであればいいじゃない!」

 ……いやいや、なのはさん。さっきから話がズレ続けてませんか?
 後、その主張は、続編作っちゃった的な意味で通し辛いのでは……まあ、命が惜しいから言わないけど。

「……つまりね、私は、結婚したいの! 白いタキシードの旦那様の腕に、綺麗なウエディングドレス着て抱きつきたいの! お姉ちゃんみたいな売れ残りとか、両方ウエディングの白百合ブーケな結婚式は……絶対、断じて、本当に、い・や・な・の~!」

 そう、天高く拳を突き上げて、なのはは叫んだ。
 その言葉は、妙に僕を揺さぶって。

 ……多分、だから、こんなことを言ったのだろう。

「……じゃあ、僕と結婚する?」

「……ふぇ?」

 神(悪魔)の答えは三秒後。

「……ああ! それいいね!」

「え……」

 こうして僕は、人生の墓場に入ることが決定した。



 その後は、速かった。
 まず、お互いの家族への連絡。と言っても、スクライアにはしなくてもいい。
 スクライアのありようを一言にまとめれば、「来るものは拒まず、去るものは追わず」だ。簡単に言うと、僕は、管理局に入った時にスクライアから独立した。今の僕と“スクライア”を結ぶものは、僕の姓くらいだ。
 と、いうわけで、高町家に行った。そこではまあ、色々あったのだけど……うん、色々と。一言だけ言えるとしたら、父は強かった。フィジカルではなく、メンタル的な意味で。
 まあそれはともかく、挨拶を済ませたら関係各所に手紙を書く。共通の知人にはクロノとアコース査察官宛ては僕が、後はなのはが書いて、それ以外それぞれの知人にも書く。僕は、司書のみんなと、抜けた後も仲の良いスクライアの友人。そして、学会関係の人々へ。なのはもなのはで、色々と書いていた。
 ……ヴィヴィオ? もちろん、一番最初に教えた。最初、結婚とはどういうことなのか理解していなかった彼女に言葉を尽くして説明すると、彼女は首をかしげてこう言った。

「……それ、今までとなにが違うの?」

 …………。

 次。結婚することを伝えた他の面々も、両方のことを知ってる人々は同じような反応だった。クロノなど、すぐに大量の結婚式場のパンフレットを送って来たくらいだ。
 女性陣は、みな「ようやくか……」と肩の荷が降りた表情をし、リンディさんですら疲れた顔で溜息を吐く始末。さすがにちょっとあれなので、なのはと二人で冷や汗をかきながら「えっと、どうかしましたか?」と尋ねると、答えの代りに疲れきった目線を返された。

 まあ、その後も色々あって。
 なんだかんだで、あれから三カ月もしないうちに挙式。その前に一応、ちゃんとしたプロポーズも済ませ。
 なのはと僕は、無事、結婚した。



 した、の、だけども。

「……ねえ、なのは」

「なに?」

「僕たち、結婚……したんだよね?」

 通信画面の向こうにいるのは、この間結婚したばかりである愛しのマイワイフ。ようするに、なのはである。
 時刻を確認しよう。現在、深夜の二時……良い子は、お家で寝ている時間である。

「うん、そうだよ?」

 スケジュールを確認しよう。昨日今日明後日と有給込みの連休、なのはも一緒。少ない休日を合わせようと、二人で頑張った結果である。

「……じゃあ、じゃあさ……」

 ……最後に、現在地を確認しよう。
 なのはの現在地。ミッドにある、フェイトとシェアした家。庭付き二階建て、わりと高級住宅街にある立派な一軒家だ。
 僕の現在地。本局居住区にある、昔っから住んでる官舎。風呂トイレ付き1LDK、男の一人暮らしにはもったいないくらいの立派な部屋ではある。
 ちなみに、二人ともいる場所はベッドだ。通信画面に映るなのはの向こうには、可愛い我が義娘と抱き合って眠る際どい黒下着の女性がいる。
 ……あ、ごめん、そろそろ限界。

「──なんで、一緒に住んでないのさ!? 結婚直後に妻と子と引き離されて、僕、強制単身赴任ですか!?」

「落ち着いてユーノ君! この不況の世の中、そんなカップルどこにでもいるよ!」

「ああ、そうか……ってそれ、地球の話! 日本の話だよね!? ミッドチルダとはなんの関係もないよ!?」

「私達夫婦にとっては関係大あり! 主に私の実家がね!」

 ……いや、まあ、それはそうだけど。関係あるけど。この間、お義父さん愚痴ってたけど。
 とりあえず、ヴィヴィオとフェイトが寝ているのでヴォリュームを絞ることにする。

「もう、ユーノ君はだらしないなあ……大体これは、結婚前に決めたことじゃない。お互い忙しいし、引っ越しは手間がかかるから、とりあえずは別居しようって」

「うぐ、まあ、それはそうだけど……。やっぱり、ヴィヴィオと会えないのは寂しいよ」

「……ヴィヴィオと、だけ?」

「……なのはも」

「よろしい」

 そう言って笑うなのはは、やっぱり僕が恋した人で。
 ちょっと幸せな気分になった僕は、冗談でなのはに訊いてみた。

「結局さ、なのははなんで、僕と結婚したの?」

「んー、それはねぇ。ふっ、と周りを見回してみたら──。

 ──ユーノ君以外、誰もいなかったから」

「…………」

 なんだそりゃ。



────────────────────────────────────────────

 感想板にあんな感想があったから! 書かざるを得ないじゃないか!
 ……えー、以上です。このシリーズ、ネタ元がお気に入りなんで続くかも知れません。
 まあ、個人的には初なのユー。楽しんで書けたかな、とは思ってます……内容薄いけどね。
 後、一々発掘が面倒になってきたので本板に移したいなあとは思います……が、それについては前に、否定的意見を貰ってますんで。ご意見ある方、感想番に一筆奏上願います。




[11108] Stray cat is never tamed
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:59f3036e
Date: 2009/09/17 09:48

 ──捨て猫は、人間に懐かない。人間が自分を捨てたことを、憶えているから。



 ──蒸し暑い。今は六月、夏はまだのはずなのに、なぜだかとても蒸し暑かった。
 ソファの上で目を覚ますと、タオルケットが体にかかっていた。寝る前にそんなものをかけた記憶はないので、多分家主殿がかけてくれたのだろう、と一人得心する。
 ふと、髪に手の感触があることに気がついた。そういえば、頭の下がなんだか柔らかい気もする。……やれやれ。またいつもの“あれ”をやられているらしい。

「……ん、起こしてしもた? ごめんなぁ」

 頭の上から、聞き慣れた声が聞こえた。家主殿の声だ。彼女の声は歳のわりに大人びていて、その響きはどこか安心させられるようなものなのだが……時折、こんな風にオレをペット扱いしてくる。まったくもって、困ったものだ。

「ちーちゃん、またこんなとこで寝て……、だめやよ? 風邪ひいてまうで?」

「…………」

 頭を撫でられていることへの抗議を込めて、あえて返事をしない。子供っぽい行動であることは分かっているが、何だか面白くないのだからしょうがない。
 第一、自分より十は幼い子供にペット扱いされて、嬉しい人間はあまりいないだろう。少なくともオレは嬉しくない。

「もう、ちーちゃんはまた意地張って。悪い子には、御飯あげへんで?」

「……うるさいな、どこで寝るかなんてオレの勝手だろう。それと頭を撫でるな、背筋がムズムズする」

 ……悲しいかな、こちとら居候の身。食事を引き合いに出されれば折れるしかない。とんがった口調くらいは、許してもらいたいものだ。

「あー、まーた“オレ”何て言うて! “私”言いていつもゆーとるやんか! それに乱暴な言葉使いも、ダメ!」

 後半部分は無視されて、心の声も届いていなかった。さりとて霞を食べて生きていける体はしていないので、無視するわけにもいかないのが辛いところだ。せめてもの抵抗として首を回して家主殿の顔を睨み付けるが、彼女には一向に堪えた様子が見えない。
 ……別に、いいじゃないか。女が自分のことを“オレ”って言ったって。

「……石田先生は、似合ってるって言ってくれた」

「よそはよそ! ウチはウチ!」

「何だそりゃ」

「大体、こんなに可愛いんやから……もっと気い張っておしゃれせな、せっかくの美人が台無しやで?」

「…………」

 そうニコニコと言う家主殿──八神はやてを一層強く睨む。やっぱりこいつ、オレのことをペットか何かだと勘違いしてやがる。この歳でこんなんなんだから、きっと将来のあだ名は“狸”に違いないな。何て奴の被護下に入っちまったんだか。

 ──まあ、そうは言っても。
 こいつと一緒に暮らす生活を、心地よく感じている自分もいるわけだが。



 葛城千早。それがオレの名前だ。枕草子にも出てくる不細工な神様を彷彿とさせる名前ではあるが、幸いなのか不幸なのか、オレは不細工にはならなかった。
 むしろ、人に言わせればオレは美人の類らしい。黒髪に黒目、高くも低くもない身長。髪は肩口でばっさり切ってあり、やったのは自分だ。理由は床屋に行くのが面倒だから。
 化粧なんて、興味もないから全然していない。服装もあるものを適当に。だというのに、なぜか皆オレを美人だともてはやす。まったく意味が分からない。
 大体、美人だったらこれまでの人生、もっと楽に生きられたと思う。美人薄命と言われるがありゃ嘘っぱちで、“美人でいられるのが短い期間”なだけだ。実際は美人ってだけでよく分からない“はく”がついて、そいつの人生は概ねパラダイスだ。
 だから何が言いたいかっていうと、オレは世間的に言えば不幸な人生ってやつを送ってきたんだと思うってことだ。
 まず、親に捨てられた。五歳の時、オレを託児所に預けたまんま二人は行方をくらました。よく分からんが、養育費が払えなくなったらしい。
 んで次に、変なオッサン達が託児所にやってきて、オレを引き取った。いわゆるヤのつく人達だった。どうやら両親は借金も大変なことになっていて、まあつまりオレは売られたわけだ。もちろん、当時はんなこと分かっちゃいなかったが。
 そこでオレは……まあ、なんつうか、まずは普通に臓器をとられた。一応彼らも人の子で、死にはしないようにしてくれたが……まぁそんなわけで、オレは本来二つあるはずの臓器が、皆一つしかない。
 そしてその後は、わりと普通に育てられた。学校も行かせてもらえたし、結構大切にしてくれた。
 ……ま、“商品”としてだったが。十歳位から将来の片鱗が見えた(らしい)オレは、ことさら大切に扱われた。……十二で“始めて”を奪われた時は、ちょっとキツかったが。思えば、オレが“オレ”って言い始めたのはそのころだったような気がする。
 それから十八までは、昼は普通に学校に行き、夜は店で男の相手ってな生活が続いた。世間がどう思うかは知らないが、オレはその生活に結構満足していた。
 生来の怠け者だからかどうかは知らないが、オレは自分の状況にあまりこだわらない性向がある。嫌なのは死ぬこととめんどいこと、オレにとってはメタボリックなおっさんどもの相手よりも、中間や期末の試験のほうがずっと厄介な話だった。麻痺してたのかもしれないが。
 ま、そんなこんなでわりと充実の人生を送っていたオレは、

 ──ある日突然、世界に捨てられた。

 思い返せば半年程前、オレは高校からの帰宅途中だった。そうしたら突然、何だかよく分からない黒い穴がオレの足下に開き、オレはその中に落っこちた。
 落っこちた穴の中で、オレは変な奴に会った。自称神だ。自分で言ってるんだし、多分そう何だと思う。
 まあそいつが神かどうかは置いといて、奴いわく、オレの両親が死んだらしい。それはいいんだが、どうやらオレの両親は結構な人格者だったらしく、奴としてはどうにかして両親を天国にやりたい。しかしオレという肉親を捨てた罪は重く、それだけで地獄行きは必定。逆に言えば、それさえなければ両親は天国に行ける。
 そこで奴は考えた。邪魔なオレの存在そのものを消せば、万事解決じゃないかと。それにオレは姦淫の罪を犯しているし、娼婦だし、神の御加護は対象外なのだからちょうどいいや、と。
 いやはや、何とも言えない。某エクソシストの出てくる映画のような神の愛の適当さに、オレは呆れのため息をもらした。そして、命までは取らん、これが神の愛だ、なんて奴の言葉に送られて、オレは世界に捨てられ、別の世界に放り込まれた。



「──ちーちゃん、お昼パスタでええ? ミートソースの」

 昔のことを思い出しながらだらだらテレビを見ていると(いいともやってた)、はやてがそんなことを聞いてきた。オレが料理できないのもこの家のなかでヒエラルキー下位な原因なのかな、とふと思う。二人しかいないが。

「んー……ん、それでいいよ」

「分かったー。ほなすぐ出来るから待っとりー」

「うーい」

 キッチンで鼻歌交じりに調理を行うはやては、車椅子に乗っていた。何でも、昔からの病気なんだそうだ。だから可哀想だ、とは思わないが、日常を過ごす上で面倒だろうな、とは思う。両親もかなり前に死んじまったらしいし。
 考えてみれば、オレの境遇を詳しく語ったことはない。あの日、降り積もる雪の中でわりと途方に暮れていたオレは、はやてに出会った。金はない。保険はない。家もない。戸籍すらない。さすがに戸籍がなかったことはないオレは、警察に助けを求めるわけにもいかずにかなり困っていた。大体面倒なことは性に合わないのだ。
 現代人は、わりと冷たい。そして小利口だ。オレも含めて彼らは見知らぬ学生服の女が路上に立ち尽くしていたとて、どうせどっかの学生が遊んでいるか帰宅している最中だと勝手に結論づけて、すぐに意識から追い出してしまう。
 ──だから、きっと幸運だったのだろう。あの日、八神はやてと出会うことができたのは。

「──なあ、はやて」

「ん? どしたん、ちーちゃん」

 料理の手を止めずに、はやてが返事をする。どうやら佳境に入っているようで、こちらにもいい匂いが漂ってきた。

「始めて会ったとき……何で、オレを家に招いたんだ? 言っちゃあなんだが、あの時のオレはただの学生にしか見えなかったろ?」

「ああ、あの時? ……んー、何て言うんかなぁ……」

 はやての表情は見えないので推測するしかないが、なんとなく、彼女は笑っている、それも苦笑しているんだろうな、と思った。オレの乱暴な言葉使いをたしなめる時のように、歳不相応に大人びた、けれど可憐と称するにふさわしい笑顔を。

「……ちーちゃんが捨て猫さんみたいな感じやったから、つい、な」

「……捨て猫?」

「そ、捨て猫さん。それも、もう何年も相手にしてもらえへんで、一人の人生にも慣れとって、でもやっぱり寂しいのは嫌で……、ってな、可哀想な捨て猫さん。ちーちゃん、そんな感じやったから……」

 ……なるほど。捨て猫、ね。言い得て妙だ。
 オレは確かに、捨て猫だ。家族に捨てられ、世界からも捨てられた。今でははやてに紹介してもらった良心的な女医からしか治療も診察も受けられないし、気楽に家から外出することもできない。
 はやては、オレと似たような境遇の子だ。だから、直感的にそんなことが分かったんだろう。
 だけどやっぱり彼女は人間で、オレは捨て猫だ。

「……はやて、知ってるか? 捨て猫は、人間に懐かない。一度捨てられてしまったから、もう信じることができないんだ」

「やけど、ちーちゃんはいなくなったりせぇへんやろ? “ここ”が気に入っとるから」

「──クッ」

 ……ああ、だけど本当に──、

「──適わない、な」

「おお、やーっと気がついたん? ペットは飼い主さんに適わへんのやで? ──ほな御飯にしよか、ちーちゃん、お皿出しといてーな」

「はいはい──っと」



 ──捨て猫は、人間に懐かない。人間が自分を捨てたことを、憶えているから。

 でもきっと、捨て猫は人間と共にしか生きられないんだろう。人間の温もりを、憶えているから。




────────────

 ちーちゃん可愛い、と思った人。あなたは私と同じ人種です。

 しかし、書いてて自分で作ったちーちゃん……つかまあ元キャラの両儀さんちのお嬢さんに萌えました。はやての家に転がり込んだ式……が元ネタのはずだったのが、いつのまにか暗い過去持ちに……なぜ?

 サブタイは「捨て猫ちーちゃんとオカンなはやてちゃん」。百合ではない。そしてここから長編が始まりそうだが、始まらない。私の長編は執務官一本である。……でもなんか、ちーちゃん出したくなってきた……。

 ちなみに、時間軸ははやての九歳の誕生日直前。実はちーちゃんには世界に捨てられた時に発現したスキル『Stray Cat』がある(そのまんまやがな)とか、魔力は飛行がぎりぎりできるくらいはあるけど高所恐怖症だから空飛べない、とか色々設定があるけど……まあ、要望があれば上げます。

 それでは、最後に一言。

 ちーちゃんは……、ちーちゃんは、ツンデレじゃねぇぇぇぇぇ!(作者魂の叫び)

 ではまた〜。

 修正しました。

 再修正しました。ちなみに、TYPE−MOON二次にちーちゃん出演は予定しておりませんので、ご了承ください。




[11108] Stray cat gets an empty happiness
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:af504f98
Date: 2009/09/19 00:22

 ──幸せな人間とは、幸せを幸せとして受け取れる人間。不幸せな人間とは、幸せを幸せとして受け取れない人間。



 ふと庭に出てみると、夜風が冷たくて気持ちよかった。しばしそのまま棒立ちになって、火照った体を冷ましていく。今は、七月下旬。夏真っ盛りではあるが、夜八時にもなればうだるような暑さもあまりない。
 見上げれば、夜空には無数の星が瞬いていた。ここ海鳴市は山と海に囲まれている立地条件からか、空気が綺麗だ。だから、毎晩空を見れば満天の星空を拝むことができる。
 あれがおうし座、あれがかに座、あれがオリオン座……などと説明できるような知識は、オレにはない。だけど、これだけ沢山ある中から意味のある図形を見出だしたその眼力は、素直に昔の人はすごいと思った。

「──どうした、千早。考えごとか?」

 ぼうっ、と空を見ていたら、最近よく聞くようになった声がした。振り向けば、庭に出てくるポニーテールの女性がいた。シグナムだ。
 最近、とある事情から新しく四人家族が増えた。シグナムはその内の一人だ。彼女達は最初は固い感じだったものの、次第にはやての母性のようなものにほだされ、今ではもう一人前の家族となっている。
 シグナムは、四人のリーダーとも言うべき人だ。彼女を一言で表せば、侍。昔気質で、不器用で、責任感が強い。個人的には、とても好感の持てる人物だ。……そういや自分達のことを騎士だ、って言ってたし、多分だからなのだろう。

「……いや、別に。ただ、空を見ていただけだ」

「そうか。確かに、今日の夜空はまた格別に素晴らしいものだな」

 実のところ、四人の中でオレと一番ウマが合うのはシグナムだ。真面目を体現したような彼女と自堕落な生活を愛するオレのウマが合う、というのもおかしな話だが……まあ、他のメンバーは若奥様とガキンチョと犬だから、消去法で仲がよくなったのかもしれない。

「腹ごなしでも、しにきたんじゃないのか?」

 オレの隣に立ち、何をするでもなくただ空を見上げるシグナムに、そう尋ねた。この家の夕食は先程終わったばかりで、彼女はいつも食後の軽い運動と称して竹刀を振るうのが日課だったからだ。
 だがそんなオレの問いを、シグナムは首をふるふると振って否定した。

「始めは、そのつもりだったのだかな。……お前の姿を見て、なぜかやる気が失せた」

「そっか」

 話が、続かない。続けるつもりもない。静かな夜に、おしゃべりは不粋な存在だ。
 ふと、シグナムが視線を落とした。凛々しい眉を珍しく落とした彼女は、これまた普段からは想像もつかないような弱々しい声でオレに問いかけてくる。

「──なあ、千早。私達は……本当に、いいんだろうか?」

「……何のこと?」

「この生活だ。私達はこれまで、数多の人の命を奪い、人生を狂わせ、その所業にふさわしいくらいの怨みをかってきた。……そんな私達が、こんなに幸せな生活を送ってもいいのだろうか?」

 ……オレは常々思っているんだが、こいつは真面目過ぎる。もちろんその精神は尊いものだと思うし、羨ましくもあるんだが……。
 正直に言えば、オレみたいな奴にそんなこと聞いたってどうにもならないと思うんだが、そこのとこどうなんだろうか。

「──なあ、シグナム。アンナ・カレーニナって小説、読んだことあるか?」

「……いや、ない」

「ん、そっか。……その冒頭にさ、こんな一節があるんだ。“幸せな家庭は皆一様に幸せであるが、不幸な家庭は皆それぞれに不幸である”……だったっけ?」

 まずい、うろ覚えだ。そもそもその小説を読んだのは元いた世界での話だし、しかもロシア文学のあの華美な修飾語に嫌気がさして、十ページも読み進めないうちに放り投げた……まあ、大要は合ってるはずだ、うん。

「なあ、シグナム。お前は今、幸せか?」

「……ああ」

「じゃあ、それでいいじゃないか。不幸には色々なベクトルがあっても、幸せに貴賤なんかない。これまでにどんなことをしたとしても、どんな風に思われていたとしても……、今、幸せだと思えるのなら、それでいいじゃないか」

 幸せを感じるのに、権利やらなにやらごちゃごちゃしたものはいらない。“幸せ”なんて“痛い”“寂しい”“お腹減った”なんて幼児にでもあるものと一緒で、ただの感情に過ぎないんだからいちいちシグナムみたいに考えこんでいたらキリがない。頭をぶつけたら“痛い”し、一人ぼっちでいたら“寂しい”。食事を摂らなければ“お腹減った”。で、欲しいものが手に入ったら“幸せ”。ほら、何も変わらない。
 ……それに第一、面倒じゃないか。何かするたびに一々そんなことを考えるのは。
 なんてことを考えながら隣を見たら、シグナムが呆れた顔でこちらを見ていた。

「……あんだよ」

「いや──、お前に聞いた私が馬鹿だった。そうだな、お前はそういう奴だったな……」

「……おい、喧嘩売ってんのか。折角オレが真面目に答えてやったのに──、」

「いやいや、とても参考になる意見だったさ。そう、とても、な」

 そう言いつつ、シグナムは家の中に入って行った。
 ……ったく、

「前言撤回。……言うじゃねえか、あの女」

 なるほど、オレとウマが合うわけだ。人に苦手な分野の質問した挙げ句、言うだけ言って行きやがって……性悪め。騎士の誇りとやらはどうしたんだ。
 ……しかしまあ、私達は幸せでいいのだろうか、ね。シグナムには悪いが、そんな質問をした時点であいつは幸せ者だ。本当に不幸せな人間ってのは……。
 目を閉じる。頭の中で、いつもの風景を思い描く。ヴィータがアイス食べてて、シャマルがザフィーラにけつまずいて、ザフィーラが迷惑そうに吠えて、シグナムが番茶飲んでて、はやてがそれを優しげに見ている……そんな、“幸せ”な風景を。
 だけどそこに、オレはいない。そこにオレがいるというイメージができない。そもそも、その優しい世界にオレがいる、なんてことを思いつくことができない。
 もちろん、“そこ”にはオレがいるのだろう。ソファに陣取ってテレビを見ているのかもしれないし、ボリボリ煎餅食べているのかもしれないし、冷蔵庫の中を漁っているのかもしれない。どちらにせよ、オレはあたたかな八神家の中にある存在なのだろう。
 だと言うのに、

「──実感が、湧かないんだよな……。明らかに“幸せ”な家庭の中にいて、自分でもそのことをちゃんと分かっているはずなのに……実感が、まったくない。自分が幸せであるということが、今一つ納得できないんだよ」

 きっとこれは、傲慢な悩みなのだろう。“幸せ”を持つ者のみが抱ける、傲慢な悩み。
 だけど、さっきの言葉をもう一度使えば──“不幸せな家庭は、皆それぞれに不幸である”、つまりは、不幸にだって貴賤はない、と言えるんじゃあないだろうか。
 不幸自慢は時間の無駄だ。結局、ある不幸な経験がどれだけ大変だったかなんて主観的な話でしかなく、他人があれこれ言えるものでもそれをネタに他人にあれこれ言えるものでもない。
 ……だけど、“幸せ”なことを“幸せ”と感じられないのは……それは、一番“不幸せ”なことなんじゃあないだろうか。

「──って、何考えてんだかな、オレは」

 くだらない。そんなことを考えたところで、一文の得にもなりゃあしないのに……それでもこんなくだらないことを考えてしまうのは、一体なぜなんだろうか。
 ──きっと、空がこんなにも綺麗だからだ。……いやこれだといささか乙女チック過ぎるから──そう、シグナムの馬鹿があんな質問してきたからだ。まったくもって、許しがたい。
 ──ひゅう、と風が吹いた。
 庭に長居し過ぎたようで、少し寒くなってきた。

「……そろそろオレも、部屋に入るか」

 そうだな、とっとと部屋に入って、熱い番茶でもすすりながらシグナムの煎餅を強奪しよう。手間賃代わりだ、嫌とは言わせない。




────────────

 唐突に始まり、ぶつっと途切れて終わるのは仕様です。どうも、作者です。ちょいリアルで嫌なことがあったんで、またちーちゃんを書きました。

 このスレは、基本私がふと何か書きたくなった時に発表するスレです。ですので何が言いたいのかと言うと……執務官はちゃんと続きます。ご安心ください。

 ちなみに今回はシグナムと仲よさげに話してたちーちゃんですが……彼女は基本八神家のペットですんで、話の本筋にはまったく関わりません。魔法? 何ソレ、てな感じで、魔法が使えても別にしたいことがあるでもなく、今の生活に満足しているため向上心もゼロです。

 ……後、何でロシア文学ってあんなに修飾語が多いんですかね? 読む気失せるっすよ……。

 ではまた〜。



[11108] Stray cat likes blue sky
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:cfa3965d
Date: 2009/09/19 00:39

 ──いつだって、本当に欲しいものは手に入らないものだ。



 ……暑い。ものすごく暑い。鉄板の上のたい焼きのような、陸に上がった魚のような……とにかく、そんな気分だ。
 今は八月上旬、夏真っ盛り。健康と家計に悪いとのことでクーラー禁止令が出た八神家のリビングには、現在二枚の干物が出来上がっていた。オレとヴィータだ。オレはソファでうつ伏せに寝転がり、ヴィータは扇風機の前で頭に氷の入って袋をのせてダウンしている。
 そういえば昔、クラスにいた留学生が日本の夏はとても辛い、と言っていたのを思い出した。そいつは確かオーストラリアからきた奴で、気温にしたらあちらの方が絶対に暑いはずだ。だと言うのにわざわざ“辛い”などと言っていたのだから、きっと日本の夏は気温云々は関係なく過ごし辛いものなのだろう。

「……なあ、千早」

 暑さから少しでも逃れようと無駄なことを考えていたら、ヴィータが話しかけてきた。こいつはさっきまで外見通りガキよろしく外に遊びに行っていたのだが、帽子をかぶっていなかったので真夏の太陽に見事ノックアウトされ、一緒に遊んでいたご老体達に担ぎ込まれたのだ。
 ……どうでもいいが、趣味がゲートボールって……その外見で、それはないだろうと言いたい。いくら実年齢は百を軽く越えるとしても、だ。

「……なんだ?」

 こっちもちょいと余裕がないので、ぶっきらぼうな口調で答える。さっきまで扇風機の風を身体中に受け続けることで何とか暑さを耐えていたのだが、そこをヴィータに奪われ、なおかつ氷嚢作りという重労働をして体力を使ってしまったオレは、正直いっぱいいっぱいだった。

「……他の……、皆は……?」

「……シグナムはいつもの道場。はやては図書館で、シャマルはその付き添い。ザフィーラは散歩に行ってる」

「……そっ、か……」

 どうやら、ヴィータもわりときついらしい。話によれば彼女達は戦闘プログラムで人間ではないらしいが、熱中症でやられるとか下手な人間より人間らしいのはなぜか。
 ……いやきっと、彼女達は人間なのだろう。例えプログラムによって作られ、魔法とやらで現界している存在であろうが彼女は人間なのだ。結局人間かどうかなんて、気の持ちようでしかないんだから。
 ──ふと窓の外を見れば、憎たらしいほどにいい天気だった。どこまでも澄んだ青い空に、紙粘土のような白い雲。村上春樹の小説を読んだ時のような、ある意味グッド・フィーリングに溢れた晴天である。

「──空、飛びたいなあ……」

 ぽつり、とそんな言葉がもれた。きっと空があまりにも青かったからだ。特に含むところなく、本当に自然にそんな言葉がもれた。
 そんなオレのセリフを聞いて、耳聡い赤ガキは氷嚢をおさえながらちょっと体を起こしてこう言った。

「……何だ、空飛びてぇのか? ちょっと待ってくれりゃ、アタシが連れてってやるよ」

「……いや、いい。別に、本気で言ったわけじゃないし」

「はぁ? ……遠慮してるんだったら、気にしなくていいぞ。コレのお礼みたいなもんだし……千早一人の体重なんて、まったく問題にならねぇしな」

「ああ、いや、そうじゃなくてさ……」

 なおも拒否の意志を示すオレをヴィータが訝しげな顔で見つめてくる。その目は理由がくだらないことだったらぶっ飛ばす、と如実に告げていた。
 ……困った。本当は教えたくないんだが……ぶっ飛ばされるのは勘弁なので、正直に話すしかないみたいだ。

「……高いところは、苦手だから……。高所恐怖症なんだよ、オレ」

 種明かしを聞いたヴィータはしばしの間ぽかんと口を開けたまま硬直し、少ししてから口端をニヤリと歪めた。まったく、さっきまでウンウン唸ってたクセに……ガキめ。

「へぇー、ふぅーん、ほぉー、……」

「──何が言いたい」

「べぇっつにー。……ただ、いつもはクールな野良猫ちーちゃんにも弱点があったんだなー、ってさ」

 ……くそ、やっぱりか。いじめっ子の小学生みたいなこと言いやがって……いや確かに見かけは小学校低学年だけど、実年齢百越えてるんだろうが。大人気ないとは思わないのかね、まったく。
 大体、だ。

「空なんて、飛ばなくていいじゃないか。人間は陸の生き物だ、二本の足はなんのためについてると思ってるんだ」

「んん、負け惜しみか? ──空はいいぞお。広々としていて、どこまでも続いている……永遠に尽きることのない、パラダイスだ。解放感も、すごいぜ?」

「……ふん、そうかい」

 ──そうかいそうかい、そっちがそのつもりならこっちにだって考えがある。
 オレはソファのクッションを一つ手に取り、それを抱きしめぎゅうっと顔を埋めた。つまりは無視だ。ふて寝とも言う。

「あれー、どうしたんだ? もしかして、スネちゃった?」

「…………」

「おーい、おーい、野良猫ちーちゃーん。ふててないでこっちをおむきー」

「…………」

「……ち、千早、悪かった……。アタシがちょっと言い過ぎたから……、無視しないで、返事してくれよぉ」

「…………」

 無視無視。こういうすぐに調子にのる手合いは基本的に寂しがり屋が多いので、ムカついた時は無視に限る。実際、ヴィータの口調は目に見えて弱々しくなってきた……が、絶対に返事してやらん。

「──おいコラ千早、てめえなにいつまでもうじうじやってんだ! いいかげんに返事しねぇと、アイゼンの頑固な染みにすっぞ!?」

 ちなみに、こういう手合いには短気な人間も多い。アイゼンというのはヴィータの武器である鉄槌のことで、そんなものの染みになる趣味はオレにはない。せめてもの抵抗として、クッションから少しだけ顔を浮かして睨みつける。
 ……畜生、安易な武力行使に走りやがって。後ではやてに言いつけてやる……って、オレもあいつに毒されたもんだな、おい。嫌な気分ではないが。

「……逆ギレすんな」

「う、うるせぇな、お前が無視するからだろうが! ……まあ、なんだ……一応悪いとは思ってるからさ。何で高所恐怖症なのかぐらい、聞いてやるよ」

 ……つまり、あれか。オレの相談にのるフリをして、理由まで聞き出そうって魂胆か。──まあ、毒を食わばなんとやらとも言うし……いいや、教えてやろう。

「──別にさ、オレは蝋の羽がとけたイカロスみたいにミンチになるのが恐いわけじゃないんだ。オレが恐いのは、空が果てしないものであることだよ」

「……言ってる意味がよく分かんねぇ」

「つまりさ、オレは“落ちて潰れる”ことが恐いんじゃなくて、“永遠に落ち続ける”ことが恐いんだ。イメージの話な? どこに落ちることもなく、ただただ落ち続ける……それが恐い。だからオレは、高いところが苦手なんだよ」

 優しく噛み砕いて説明したつもりなのだが、ヴィータは眉をこれでもかと言うほどにしかめてウンウン唸っている。蒸気が噴き出てきそうなぐらいに頭を使っているようだ。

「??? ……やっぱり、さっぱり分かんねぇ。もっと分かりやすく説明しろよ、千早」

「……普通の人間ってのはさ、地に足がついてないと安心できないんだ。逆に、地に足がついているのがもどかしいと感じるのが天才、あるいは狂人。お伽話の魔法使いや主人公が空を飛ぶことが多々あるのは、まさにそのいい見本だよな。彼らは皆常人以上の“何か”を持っていて、その典型例が“空を飛べる”ことなのさ」

「……で、それがお前の高所恐怖症とどう関係があるんだ?」

「話は最後まで聞けよヴィータ。……“空を飛べる”ということは、“常識を越えた行動ができる”ことのメタファーだ。つまり、その人物の超現実性を表している。また“空”はそれの持つ“悠久”という概念から、“無限”や“真理”、“神”のメタファーたりえる。つまり、“空”という記号は“凡人にとっては恐怖の対象であるが、天才にとっては興味の対象であるもの”をも意味するというわけだ。煎じ詰めれば“曖昧”とか“夜”のメタファーにもなるんだから、“境界のはっきりしない、よほど強い自分を持っていなければ自己同一性が曖昧になるもの”とも結論できるよな。ようするに、オレみたいな凡人にとっては“空”ってのは自分が誰なんだか分からなくなりそうな恐いところで、そんな“空”に近づく“高いところ”はやっぱりすごく恐い場所なんだ、って話だ。──それに、オレは一度“世界”に捨てられたから、“あそこ”の恐さは身に染みてるからな……」

「──やっぱり、全然分かんねぇ……!」

 最後のところは聞こえないようにわざと小さく言ったが、頭をひねってウンウン言ってるヴィータを見るにどうやら企みは成功したようだ。やれやれ、助かった。勢いでついつい口走ってしまったが、あんなセリフ聞かれたら赤面ものだ。また面倒なことになるしな。
 そんなこんなでしばらく一人頭をひねっていたヴィータは、ふと思い出したかのように頭を上げた。

「……そいや、千早。お前高いところ苦手なのに、何で“空が飛びたい”なんてこと言ったんだ?」

 ──ああ、何だそのこと。さっきのセリフが聞こえたのかと思って焦ったじゃないか、心臓が止まるかと思ったよ。
 オレは動揺を隠すためにつと窓から空を見上げた。抜けるように青い空には、真っ白い雲がふわふわと浮いていた。

「主人公願望ってのがあってさ。結局、──オレ達凡人も、主人公になって、空を自由に駆け回りたいんだよ。どこまでも続く、青い空を。……つまりは、そういうことだ」

 ──今日は快晴。ジージー五月蝿い蝉の声に混じって、子供達の歓声が聞こえてくる、夏真っ盛り。

 あの青い空を駆け抜ければ、さぞかし気持ちいいんだろう。





────────────

 目指すは、スヌーピー! 何かもう滑ってる感じがばんばんするのですが、ちーちゃんシリーズ第三段でございます。はあ、いつもながらぐだぐだです。

 今回は、一杯喋ってたちーちゃん。作者としても大満足、読者の方々は「おいおい、何言っちゃってんのコイツwww」ってな感じだったのでは。未だ蒐集を始める前の、ある夏の日、でございます。

 ……で、です。本題なのですが……どうやら、幸せなのはさん再登場の機運が高まってきたご様子。……でもアレ、読んでいただいたら分かると思うのですが、一発のつもりで出したんでクロス元丸パクリなのです。さりとてあのブログは“腐女子”彼女が主題なので、なのはさんを当てはめるのはかなり骨なのですよ。

 そ・こ・で! 皆大好きアンッケーットッ!!! まずそもそも幸せなのはさんをもう一度見たいか、そしてどんなシチュがいいかを感想掲示板にドン! してください! 後は作者が集まった意見から独断と偏見によって選び、何か書きたくなったときに書きます! ……いやね、私も最近色々大変なんですよ……。まあ、年末ジャンボでも買う気分で「当たったらいいな〜」と気楽に投稿してください。

 ちなみにちーちゃんシリーズも気が向けばまた書きます。もちろん、長編も書いてます。今ストック中です。……ちなみに、ちゃんと勉強もしてるし予備校も通ってるのでご安心めされい。

 それでは、また〜。





[11108] とある転生者達の対談
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:b1f471bf
Date: 2009/09/13 04:22

 ──注意! 必読!

 このお話は、チラシの裏に連載されているとある作品を読んでいる最中にふと思いついたネタです。ネタとは言ってもいつものギャグ調のものではなく、スカリエッティ(転生者)と転生オリ主がJS事件終了後に取調室でぐだぐだ転生について語り合うという、よく分からないお話です。
 事前知識として、転生オリ主はチートと原作知識でプレシアやリインフォース(アイン)などの死亡キャラを全て救い、なのは撃墜やティアナの無茶を起こさなかった。そしてスカリエッティは原作知識によって管理局への完全勝利を企図したものの、失敗した。そしてそのことを、お互いに知っている……ということを記憶にとどめておいてください。



【時空管理局本局内、重犯罪者専用取調室】

「──どうして、こんなことをしたんだ?」

 無機質な白い部屋の中で、安っぽい机を挟んで二人の男が座っていた。一人は管理局高官の制服を着ており、もう一人はそれそのものが拘束具となっている白い囚人服を着ている。

「フム──キミが言いたい“こんなこと”とは、一体どんなことのことかな? 戦闘機人に遠隔の自爆プログラムを仕掛けたこと? アインへリアルのコントロールを奪取して、ミッド市街に打ち込んだこと? ああそれとも、とある管理外世界の人間達を使って新型GDの実戦テストを行ったことかな?」

 悪びれた様子もなく自らの悪行を並べ立てる囚人服の男。彼を見据える制服の男の眉が、きつくしかめられた。

「……全て、だ。生まれ落ちてからずっと、お前は非人道的行為を続けてきた……そしてそれは、“原作”を越える程度のものだった」

「そうだね。“原作”のスカリエッティは研究者としては一流だったけど、テロリストとしては三流もいいところだった。言っちゃあ何だけど……みそっかす、だよね」

「──人間として糞もいいところの貴様がそれを言うか、このド外道がぁ!」

 制服の男が激昂し、囚人服の男の胸ぐらを掴んで引き寄せる。その両の瞳には、形容し難い程の怒りが籠もっていた。
 が、それを見返す囚人服の男の両目は、つまらなさそうに細められていた。

「人間として糞もいいところ、ね……。では聞くが、君はどうなんだい?」

「ああ!? どういうことだよ!」

「獅子は子を、千尋の谷に突き落とすという……子の成長を、促すためにね。ところが君は過保護にも今後“彼女達”のトラウマになりそうな事件を全て排除し、結果として苦難を乗り越えてこなかった彼女達は精神的に未熟なまま……。君というチート存在がいたことによるデバイスのチート化や不可思議な魔力ブーストで皆SSランク以上の戦闘力があるが……メンタル的には、皆ハイスクールの学生達だ。全て、君の過保護のせいでね」

「ん、んなこと分かんねぇだろうが! トラウマ何て無いほうがいいし、大体なのは達のいいところはどこまでも真っ直ぐな心だろ!?」

 制服の男の右手が力を失い、囚人服の男の体が自由になる。彼はもう一度椅子に座り直した後、制服の男の目をしっかりと見据えつつ、口を開いた。

「なるほど、確かにそうだ。だがしかし忘れてはならないのは、彼女達のその性向すらもある意味トラウマに起因したものだ、ということであり……いや、すまない。この話は本論ではなかったね」

「……そうだ。俺が聞きたいのは、お前の動機だよ」

 動揺を収めた制服の男が、居住まいを正す。一つ息を吸った彼は、目を閉じてゆっくりと息を吐き出すと、囚人服の男に再度真剣な目を向けた。

「なぜ──お前は原作を知っていて、なおかつファンなんだろう? いやファンじゃなかったとしても……どうして、あんな非人道的行為を行ったんだ?」

 まっとうな人ならば──なおかつ原作ファンならば、ましてやアンチでもないならば、大量殺人をしたり、人間の尊厳を蔑ろにするような研究をするはずがない……そう確信しているかのような制服の男の台詞を、囚人服の男は鼻で笑う。

「……君は、転生とはどういうものだと考えているんだい?」

「前世の記憶を持って、来世に生まれたこと……じゃあ、ないのか?」

「違うね。転生とは、死んだモノが一旦その全てをフォーマットされて違うモノとして生まれること……。しかしね、君。大切なのはそんなことよりも、転生した先の世界が転生したモノにとっては間違いなく“現実”なんだということだ」

「……当たり前だろ?」

 何を馬鹿なことを、とばかりに制服の男が苦笑する。そうであるからこそ原作介入をしてオールハッピーエンドを目指したのだし、彼にしてみれば目の前の囚人服の男こそがその基本を分かっていないように思えたのだ。

「……やはり、分かっていないようだな。いいかい? “ここ”が現実だとするならば、私はここで生きていかなければならない。ここまではいいかい?」

「ああ、いいぞ」

「だがね……私は最初から、人並みの生活を送ることはできないんだ。なぜなら、私はマッドサイエンティストとなるべく、犯罪者となるべくして産み出された存在だからね。始めから自由意志など存在しない……反抗すれば、死、だ。そんな状況下で、それでも私が人並みの生を送りたいと思えば……どうすると思う? しかも黒幕は、体制側の首領だ」

「…………」

 囚人服の男の言葉に、制服の男は黙りこくってしまった。彼は基本善人なので、こういう意地の悪い問題を出されても真面目に解いてしまうきらいがある。
 しかし、やはり彼は管理局員であり、“一般的社会”の構成員であり、“良識人”であった。

「それでも……何か、手があったはずだ! 少なくとも、他人を傷つけるような真似をする必要は──!」

「甘いね。そもそも君は、誰も傷つけないで生きていけるとでも? 分かりやすい例を出すなら、君は自分が捕まえた犯罪者の一人一人にドラマがあることは分かっているのかい? 物語ではモブとして処理されてしまう彼らにも、犯罪を犯した理由があることを……パブリックエネミーになるということはそれだけの理由があるということだ。君は、そんな彼らを傷つけていないと、本当に言えるのかい?」

 畳み掛けるように言う囚人服の男。その気迫に、制服の男は圧倒されてしまった。
 もちろん囚人服の男が言っているのは犯罪者の論理であり、そんなものを一々真に受けて悩んでいたら治安維持活動などできやしない。これは、屁理屈のようなものだ。
 そんなことは、囚人服の男にも分かっていた。だが言わずにはいられなかったのだ。この世界が二次創作などにあるような“転生者にとって都合のいいお話”ではなく、“確かに人の生きているリアル”なのだと、“たった一人の天才の力では覆しようの無いリアル”なのだということを。

「罰は受けよう。悪口も雑言も、甘受しよう。私はそれだけのことをやってきたし、それについて何ら恥じてはいない。生きるためにやってきたことだからだ」

「…………」

「……だが、一言だけ言わせてもらえば……。私もこの光溢れる世界で君のように普通の親から生まれてきて、原作キャラ達と仲良くなりたかったよ。普通に、ね」







 ──一月後。
 広域指名手配重次元犯罪者ジェイル=スカリエッティは、大規模騒乱罪、大量殺人、他諸々の罪科により、ミッドチルダ裁判所から絞首刑判決を出された。そして数日後刑は執行され、彼はその生涯を閉じた。

 ジェイル=スカリエッティ、享年41歳。




────────────
 ……何だ、コレ。ホント何だコレ。書いた私ですら何がやりたいのか分からない……まぁあれです、雑談掲示板での議論に参加できない男(携帯だから)の悲しい叫びだとでも……。

 しかし、これはリリなのでやる意味があったのかな? と言われると、辛いですね……。ま、ネタですし、サラッと流しちゃってください。ちなみに私は、スカさんもなのは達も両方大好きです。

 ではまた〜。




[11108] ネタでしかないリリカルなのは設定(絶対に本気にしないでください)
Name: オヤジ3◆aaab139d ID:f7b08575
Date: 2009/08/21 03:48
■魔法
 あらゆる空間に潜在的に内包されている指向性の無い概念的エネルギーである魔力素というものを、意思のある生物の体内に概念的に存在する器官=リンカーコア内部に吸収し、自分の意思を世界に顕現させるためのエネルギーという指向性を持たせることによって、端から見たら奇跡を起こしているかのような現象を起こすこと、その結果。高位魔導師によるそれは、元来一人の人間には不可能なレベルの運動を可能にする。
 リンカーコアは概念器官であるため、明確に体内のどこにある、とは言えないが、実際にリンカーコアを外的要因によって切除、あるいは減衰させることも可能であり、また観測することも可能(観測した場合、リンカーコアは人間の心臓部に発現しているように見える)であることから、少なくとも体内に“ある”ことは分かっている。またその発現要因にも様々な仮説があり、特に遺伝子の関係が最有力候補として注目されていたが、近年プロジェクトFの発展によってクローン体とオリジナル体の保有魔力量がまったく違う例が発見されたことから、遺伝子の関係は否定された。現在最有力の仮説として、胎児の発生段階における母体の状態(クローン体ならば周辺環境)がキーとなっているのではないかと考えられている。ちなみに理論上無生物にもリンカーコアは存在し得るが、取り込んだ魔力素を運用しようという意思が存在しないので、基本的には無いものと同じである。
 魔力素や指向性を持った魔力はそれ自体エネルギーたりうるが、あくまで概念的エネルギーであるので、それ単体では現実世界に干渉できない(正確に言えばできることはできるのだが、恐ろしく非効率的である。魔力光にしても、人間の網膜を焼けるレベルにまでするには最上位の魔力内包型ロストロギア1つないし2つほどの魔力を必要とする。しかも熱エネルギーはゼロである)。しかし同様に概念的存在であるリンカーコアや精神には効果があるので、魔導師は相手の肉体には損害を与えない魔法=非殺傷設定魔法を使用できる(非殺傷設定で撃たれたはずの魔導師が物理的な影響を受けるのは、バリアジャケットやフィールド系魔法を身に纏っているから)。後、ベルカ式にも非殺傷設定は存在するが、アームドデバイスは普通に現実に存在する武器であるので、刃の周囲に纏わせて斬れないようにする非殺傷設定が一般的である。しかしそれでも撲殺はできるし、何より達人級はその状態で斬ったりできるので、実際はベルカ式相手で非殺傷設定はまったく安心できない。どちらにしてもダメージはあるのだが。
 しかし、それでは魔法を実生活に役立てることができない。それゆえに概念的存在である魔力素をまず自分の意思にそぐう概念的エネルギーである魔力とし、それらを結合させて擬似的に現実世界に存在する物質へと変換する(主に光、炎、氷、雷、パルス。またインクスリータイプの魔法は擬似筋肉やホルモン、神経等を作ることが多い。魔力供給魔法の場合は、一旦魔力を無色の魔素に戻してから供給する)ことによって、現実に干渉する。この時、はた目には熱力学の法則や質量保存の法則をぶっちぎることがあるが、別にそれらを侵していることはない。
 概念的エネルギー故に枯渇する心配がなく、どこにでもあるため(厳密には魔力素の無い空間は存在する。例えば虚数空間はそうであるし、結界魔法によってそういう空間を作ることもできる。ちなみにAMFは魔力素の無い空間を作るものではなく、魔力結合を阻害するフィールド系魔法であるので、この種には該当しない)非常に便利であった魔力は、発見した各国において研究され、その副産物として魔法の存在する世界の科学技術は飛躍的な進歩を遂げた。例えば魔法使用の効率アップの為に人間の脳の研究が進んでAI技術が発達したことや、魔力という概念エネルギー研究による多次元運用技術の進歩(ちなみにこれが、質量保存の法則ぶっちぎりの真実であり、ようするに圧縮保存とはデバイス内にかなりのリソースを割いて展開した仮想空間に保存することで、一見小さく見えるデバイスも、実際は仮想空間が存在するおかげであのコンパクトさを保っているのである)が代表格である。
 最後に余談だが、脳研究がなされる前の杖とデバイスとはまったく違う方向性のものである。後者は魔導師の思考補助システムであるが、前者は先に述べたリンカーコアを保有した無機物によって自己の魔力をブーストするものであり(魔力供給魔法の応用)、マジックアイテムと言ってもよい。それゆえ前者のように自分の魔力量以上の力を使うことは後者には不可能であるが、その代わりに魔力の効率的運用を可能としている。そして戦場においては一発こっきりの粗雑な大魔法よりも正確で確実な精密魔法が必要とされたために次第に“魔法の杖”は廃れ、デバイスが台頭していった。これら2つのいいとこ取りをし、身の丈に会わない大魔力を完全制御するために超高度なAIを搭載し、魔力指向性適合の為に完全個人専用機として開発されたのが、ユニゾンデバイスである。
 ちなみに、魔力指向性が同じ人間はいるにはいるのだが、それはつまりバイオリズムがまったく同じ人間ということであり、会う可能性はゼロに近い。

■マルチタスク
 いわゆる分割思考。しかし本当にいくつもの思考を走らせているのならばそれは病気であり、実際には思考の効率的運用である。
 玄人が料理をする際、一品一品作るのではなく五・六品並行して作るように、予め物事の流れを“無意識的に”予測しておき、効率的な行動ならびに思考を行う様がまるで並列思考をしているかのように見えることから誤解されたのであろう。実際、念話をしながら音声会話をし、さらに仮想空間内で鍛練を行うという話もあるが、これは主婦が夕飯の支度をしながらテレビを見つつ子供を叱り付けるのと同じである。その証拠に、会話中に突飛な発言を相手がしたりちょっと強い敵が仮想空間にて出てきた際に、さながらいきなり鍋が吹きこぼれた主婦の如くそちらに意識が行ってしまい、他の作業がないがしろになるという事例がある。
 重ねて言うが、少なくとも意識領域における並列思考など絶対にあり得ない。なぜならそれは自己を分裂させることに他ならず、多重存在の内在は自己同一性の崩壊を誘発するので、高度な精神を持つ人間がそれに耐えることができるはずがないからである。

■集束技法
 大気中の魔力を“集”めて“束”ねて運用する高難度技法。自分に内在する魔力はトリガー分だけあれば使えるため非常に強力な技法であるが、指向性の無いエネルギーを用いる技術のために暴発の危険性が高く、使用用途も大魔力をそのまま“叩きつける”魔法に限られる(例:砲撃魔法)。過去何度か精密魔法を集束技術を用いて使おうとした事例があるが、ほぼ確実に失敗している。
 ちなみに成功率を高めるため、“直前まで指向性のあった”魔力を集めるのがスタンダードであるが、理論的にはまったく指向性のない魔力素を集めることも可能。しかし、暴発の可能性はより多くなり、“完全集束特化”の魔導師以外に扱える技ではない。

■シューティングアーツ
 首都防衛隊隊員のクイント・ナカジマと、その2人の娘が使う武術。先天性の魔法であるウイングロードの使用を前提とした武術であり、根幹部分はミッドチルダにて広く親しまれている武術であるストライクアーツを元にしているが、実質彼女とそのクローン体である娘達しか使えない武術。つまり、クイント・ナカジマのオリジナル武術。ちなみにウイングロードが先天性の魔法である理由は、その発動に余計なリソースを必要とせず、心に思うだけで形成できるからである。
 元からストライクアーツの才があった彼女は学生時代にはすでにかなりのレベルの武道家であったが、より自分の特性を活かすためにその技法を昇華させた。主な変更点は、絶対的に突っ走ることのできる道・ウイングロードを生成することができるが故のローラーブレードの使用と、それによる突進力、突破力の増加。代わりに小手先の技には向かないが、使用者には類い稀なる格闘センスが要求されるので、足を止めた打ち合いならストライクアーツ高段者並みの技を使用できることが必須。
 ちなみに彼女の夫であるゲンヤ・ナカジマはストライクアーツ高段者で、非魔導師であるにも関わらず、魔導師非魔導師問わず数多の犯罪者を格闘戦にて叩きのめした猛者であり、その荒々しい戦闘スタイルから“ベアナックル”と呼ばれ恐れられていたが、その彼が初めてシューティングアーツを見たときには「タチの悪い冗談だと思った」と話しており、直属の上司であるゼスト・グランガイツは「ずいぶんと……無茶をするものだな」と呟いたと言われている。
 蛇足であるが、“ベアナックル”は古代ミッドチルダにおいて形成された武道の名であり、魔導師適性の無い人間が古代ベルカの騎士に対抗するためにできたものである。詳しい資料は散逸しているため再現は不可能であるが、とある文献によれば「それは基礎に始まり基礎に終わった。拳撃と蹴撃の練りと調息のみが、それのすべてであった。精神の修練による場の支配こそが本懐であり、極めれば魔力の無い者でも騎士や魔導師を圧倒し、一体一であれば聖王すらも屠ることができた。故に彼らはそれを悪魔の業とし、使い手を悪魔と称して迫害した。──アイネイア・マース訳『業魔目録』」と書いてある。
 もちろんここに書いてあることがすべて真実であるとは言わないが、この武道がたどった歴史がこのようなものであるなら、なるほど今この武道の使い手が残っていないことも頷ける。またこの武道を知っていたかどうかは定かではないが、拳1つで魔導師を叩きのめしていたゲンヤ・ナカジマにふさわしい異名とも言えよう。

■戦闘機人
 分かりやすく言えば、サイボーグ。しかし機械と肉体の拒絶反応を避けるために、出生前から調整を行ったもののこと。常人を遥かに越える身体能力や学習能力を持つが、定期的なメンテナンスを必要とする。
 生成法は様々。しかし、生命体的に頑丈である雌型戦闘機人は作れても、雄型戦闘機人は作れない。これは、発生前段階における機械化適応調整がかなり胎児にとっての負担となり、それ故雄型戦闘機人は調整中に百%死亡してしまうから。負担の軽減には制作者であるジェイル・スカリエッティも尽力したが、ナンバーズ五番・チンクの例からも分かるように雌型戦闘機人すら安定して調整できるレベルではなかったので、断念した。彼は、「これが、私にとって初めての挫折だった」と言う。
 ちなみにISは先天性固有技能であり、ジェイル・スカリエッティは遺伝子操作によって“何らかの”技能を戦闘機人に与えることができたが、どんなものを与えられるかは運任せであり、戦闘機人=IS持ちという図式は成立しない。

■時空管理局
 勘違いされやすいが、時空管理局は政府機関ではなく、国際連合のような“複数世界連合機関”である。つまり、正確には“多次元世界連邦機関”と呼称すべきで、その内部ではどの世界の出身者だろうが(一応)出世できる。
 ミッドチルダにはもちろんミッドチルダ政府が存在し、民法・刑法はそこが作成している。また警察権についても基本はミッドチルダ警察が保有し、首都防衛隊等かなり特殊な部隊でなければ警察権限は行使できない(執務官は、各世界の警察権限・弁護士資格を持つ数少ない役職)。またもちろん、現行犯以外のミッド政府発行逮捕礼状無しの逮捕は禁止されている。裁判所は管理局内に存在するが、別系統のシステムで運営される。
 ではなぜ管理局があるかと言えば、それは各管理世界の軍事力統合によって戦争行為を無くすためである。またその歴史故に、質量兵器アレルギー(魔法文化には、一部例外を除き、毒ガスや核兵器レベルの威力・後遺症のある兵器が無いことが大きい)である管理世界が多いがために、質量兵器廃止をうたい、魔導師至上主義的な組織にならざるを得なかったので、人員確保のために連合機関となった。
 ちなみに管理外世界と言っても、主要国家上層部には管理局の存在を伝え、偶には交流を行っている。


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