きょうの社説 2010年5月26日

◎株価9500円割れ 景気の先行きに募る危機感
 日経平均株価が3営業日連続で年初来安値を更新し、日本株の下落が止まらなくなって きた。円高ユーロ安で、輸出関連企業の業績に下ぶれ懸念が生じているほか、オバマ政権の新たな金融規制や中国の金融引き締めが嫌気されている。さらに朝鮮半島情勢の緊迫化という地政学上のリスクが追い打ちをかけているとの見方もあり、景気の先行きに暗雲が広がり始めた。

 政府・日銀は強い危機感を持って、金融市場の動向に目を凝らし、必要な手を効果的な タイミングで打ってほしい。場合によっては、円売り・ユーロ買いの為替介入を視野に入れておく必要もある。

 6カ月ぶりに9500円を割り込んだ日本株の下値は、限定的との見方もある。短期間 での下落で割安感が台頭し、リバウンドの買いが入りやすい局面との見立てである。だが、ギリシャからスペインに飛び火した欧州の信用不安は解決の糸口がつかめず、先が見通せない。この結果、円高ユーロ安が長期間続くならば、景気回復をけん引してきた外需が急速にしぼんでしまう可能性がある。

 日本の金融機関は3月期決算で、軒並み業績を回復したが、これには金融市場の安定が 大きく寄与した。もし株価が9000円を割り込むようなら、金融機関の含み益が吹き飛び、株式の減損処理を心配しなければならなくなる。

 欧州の銀行は、財政危機に陥ったギリシャやスペイン、ポルトガル、イタリア、アイル ランドなどの国債を約250兆円保有しているという。金融危機の引き金になりかねない「爆弾」であり、金融システムの信頼性回復にはある程度時間がかかるだろう。

 日本の懸念材料は、円独歩高のリスクである。今回の株価急落局面では、欧州への輸出 比率の高い企業の株式が真っ先に売られ、下落幅も大きかった。

 韓国では25日、北朝鮮の金正日総書記が戦闘準備をとるよう命じたという報道を受け て株式市場が急落し、韓国ウォンも対ドルで一時4・5%下落した。韓国当局はウォン防衛のため、ドル売り介入を実施したという。時にはこうした「実力行使」も必要ではないか。

◎加賀友禅の海外展開 美と技の可能性追求を
 加賀友禅の事業が、世界に通用するブランドづくりを支援する中小企業庁の「JAPA Nブランド育成支援事業」に採択された。加賀友禅の技法や美意識を欧州諸国のインテリアや日用品などに取り入れることで、産地振興を目指すという。

 着物の需要が頭打ちとなるなか、加賀友禅の生産額はピーク時の4分の1になっている 。新たな需要拡大策として、業界は着物のほかに、伝統的な柄を生かしたドレスなど新たな分野の商品開発や販路開拓に力を入れており、産業基盤の強化へ本格的な海外展開にも活路を見いだしたい。金沢の伝統工芸への潜在的需要は国際的に高いとみられているだけに、海外市場に通用する伝統の技と美の可能性を追求してほしい。

 今回の支援事業で石川県内から採択されたのは協同組合加賀友禅染色団地のほか、県味 噌工業協同組合、中能登町商工会、特定非営利活動法人金沢九谷倶楽部(くらぶ)の計4団体の事業で、それぞれが海外への販路拡大や商品開発などに取り組む。加賀友禅はまず海外の消費者を調査し、嗜好(しこう)などを探ることにしている。

 金沢市内の伝統工芸の工房などを巡る「クラフト・ツーリズム」でも、加賀友禅の職人 技に対する海外からの参加者の関心は高い。他の産地がまねのできない加賀友禅の良さを新商品に注ぎ込むことで、販路拡大の可能性が広がるだろう。市場調査を参考にしながら、加賀友禅の新たな魅力を引き出す商品づくりにつなげてもらいたい。

 和装文化を盛り上げるため、昨年は石川県和装文化協会が発足し、金沢市は加賀友禅技 術振興研究所を設立した。「おしゃれメッセ“かなざわごのみ”」では加賀友禅の着物が披露され、「金澤きもの小町」では約1100人が中心部をそぞろ歩くなど、和装と加賀友禅のよさを見直そうという機運が高まっている。加賀友禅の愛好者のすそ野を広げるなかから、官民が一体となった活性化策のアイデアも出てくるだろう。金沢を訪れる外国人にも加賀友禅の魅力に触れる場を多く設けていきたい。