ラー油、しょうゆ、バジルソース……。長引く不況などで、自宅で食事をする「内食」が増え、調味料が変わってきた。手軽な節約料理がはやる背景は。【松本光央、中山裕司】
東京・銀座にある沖縄のアンテナショップ「銀座わしたショップ」には毎月1回、行列ができる。目当ては幻のラー油とも呼ばれる「石垣島ラー油」(100ミリリットル、892円)が買える整理券だ。毎月10日に200個限定で販売し、先月も84人の行列ができた。
ラー油は石垣島の辺銀(ぺんぎん)食堂が石垣島唐辛子やニンニクなどから製造。ご飯にかけるだけの「石ラーごはん」も評判だ。数年前から買っているという埼玉県熊谷市の主婦(67)は午前5時過ぎに自宅を出た。「味が深いというか、このおいしさは食べていない人には分からない」と話す。1月も購入した横浜市の無職男性(65)は「1人1個限定で貴重なので、先月買った分は食べていない」という。
桃屋が昨夏発売した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」(オープン価格)も発売2カ月で品薄となり増産体制をとる。揚げニンニクや揚げタマネギを入れた具だくさん。ユニークな商品名と相まって「ラー油だけでご飯を食べられる」と人気に火がついた。
こだわりしょうゆも売れている。第三セクター「吉田ふるさと村」(島根県雲南市)が02年に売り出した卵かけご飯専用しょうゆ「おたまはん」(315円)は、カツオだしとみりんで卵のうまみを引き出す。販売数は210万本を超えた。
洋食用ソースも好調だ。キユーピーが06年から売り出した「イタリアンテ」はパスタや冷菜、魚料理にかけるソース14種をそろえ、簡単に本格的な料理ができるとあって、08年度は前年度の174%の売り上げとなった。
日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査では、昨年の売上高は前年比1・5%減と6年ぶりに減少に転じた。外食の低価格化に加え、内食が増えたことを裏付ける。
節約料理本も登場した。火を使わずに2工程で1食約30円で調理する方法を盛り込んだ「おとなのねこまんま」は1年間で25万部売れた。料理研究家の栗原はるみさんは「『弁当男子』の現象があるように、料理の楽しさを多くの人が分かってきたのでは。背景には食の安全と不況、家族の復権がある。和食は健康食で、四季を通じて食材が豊富で英国や米国、ドイツでも人気。簡単レシピの本を入門編として活用し、その後にいろんな料理を覚えてくれるといいですね」と話した。
毎日新聞 2010年3月9日 西部夕刊