三菱自動車は、エンジンやステアリングなど「走る、曲がる、止まる」にかかわる重要部品の新車保証(特別保証)を国内最長の「10年または10万キロメートル」に延長する。現行は5年または10万キロメートル。自動車の保有が長期化する中「丈夫な三菱車」をアピールする狙い。まず6月に「コルト」「デリカ」に適用し、発売から日が浅い「i―MiEV(アイ・ミーブ)」と「RVR」も新保証期間に切り替える。ただし、アイ・ミーブの駆動用バッテリーは5年または10万キロに据え置く。秋までに全車種の移行を完了する計画だ。
新車保証は品質に対する消費者ニーズの高まりとともに拡充され、1989年には国内の全メーカーが特別保証を5年または10万キロメートルに延長。その後は横並びが続いている。三菱自の保証期間の見直しは国内メーカーとしては21年ぶりで、他社は顧客の反応などを見て追随するか決めることになりそうだ。
三菱自は経営悪化を招いた00年代初めの品質問題をきっかけに、品質保証体制の強化に集中して取り組んできた。年数延長にも品質、ワランティコスト(製品保証費用)面で十分耐えられると判断し特別保証の拡充に踏み切った。
新車保証には重要保安部品を対象とする特別保証と、それ以外の部品が対象の一般保証があり、一般保証は3年または6万キロメートルに据え置く。
三菱自は6月から「愛着プロジェクト」の名称で三菱車を長く愛用してもらうための営業施策を開始する。10年10万キロメートル保証はその中核に位置付け、他社にない特色として前面に打ち出す。クーポン券による割安な用品・サービス提供なども用意する。
保証延長を打ち出す背景には、経営資源の関係から新型投入が限られ、保有台数減を招いているという苦しい事情がある。2月に発売したRVRは、フリート向けから発売したアイ・ミーブを別にすれば08年12月の「ギャラン フォルティス スポーツバック」以来14カ月ぶりの新車だった。今後も投入間隔が開くのは避けられない。
ラインアップの鮮度が薄れる状況では、新型車が途切れないトヨタ自動車、ホンダや今年新型車攻勢をかける日産自動車などに顧客を奪われる恐れがある。新車市場が伸びない中で保有規模の維持は、サービス、中古車、保険などバリューチェーン収益の生命線といえる。
品質問題で存亡の危機にひんした三菱自は、品質回復活動の成果を保証延長の形で消費者に示し、顧客の増加につなげたい考えだ。
10年10万キロメートルの特別保証は、日本市場から09年に撤退した現代自動車が07年に導入したことがある。現代自動車は米国での10万マイル(約16万キロメートル)保証の実績をもとに日本で起死回生を狙ったが販売増には結びつかず、国産メーカーは追随しなかった。
[2010年5月24日 6時38分 日刊自動車新聞 ]