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きっと、だいじょうぶ。:/3 お互いさま=西野博之

 たくさんの親子連れでにぎわう大型連休中の川崎市子ども夢パーク。2、3歳児が穴掘りに熱中している。子どもたちは穴を掘るのが大好き。おひさまをいっぱい浴びながら、シャベル片手に、なんとも楽しそう。

 「そうだ、この穴にお水をいれましょう」。一人の女の子がそうつぶやいて、じょうろで水をくんで戻ってくると、さっきまで使っていたシャベルがない。別の子がそれを使っていて、さっそく取りあいのけんかが始まった。

 子どもの遊びにはよくある光景だが、近くにいた親たちがあわてて飛んでくる。「とっちゃだめでしょ」「『ごめんなさい』は」。子どもの話など全く聞かず、わが子に謝らせようとしている。「そういう時は『かして』って、やさしくお願いしてごらん」「○○ちゃん、ごめんね。ちょっと、かしてあげてね」「『ありがと』でしょ。はい、言ってごらん」。芽吹いたばかりの遊び心の芽は、すっかりしぼんでしまっている。

 大きな声でしかっていたお母さんは「他のお母さんたちの目線が気になって、ついわが子にきつくなってしまう。ちゃんとしつけができない非常識な親だと思われたくない」と話していた。

 先日、全国国公立幼稚園長会が実施したアンケートの調査結果が公表された。国公立幼稚園に通う子を持つ保護者を対象に、「理想の子ども像」を尋ねた項目がある。複数回答にしたところ「人に迷惑をかけない」「礼儀作法をわきまえる」「ルールや決まりを守れる」などに「そう思う」「ややそう思う」と答えた保護者が合わせて98~99%にも上っているのである。ほぼ全員といってもいいほどの高い数値に驚いた。

 「人に迷惑をかけてはいけない」と、幼児のころから厳しく教え込まれた子が、思春期を迎えて問題行動に走ったり、生きにくさを抱えているケースにたくさん出合ってきた。他人の目線ばかりを気にする子どもたち。幼児期はまず自分の中の「やってみたい」を大事にしたい。自分の快・不快がちゃんと主張できる環境の中で、初めて他者の「やってみたい」にも共感できる力が宿るのだと思う。

 迷惑かけあってお互いさま。誰かの弱いところ、足りないところを誰かが助けて、支えあえばいい。

 迷惑をかけない子どもを育てるのが理想なのか、多少の迷惑をかけあいつつ生きられる社会を目指すのか。後者のほうがずっと豊かで、生きやすい。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は23日

毎日新聞 2010年5月9日 東京朝刊

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