漫画児童ポルノ規制 アグネス・チャンさん、里中満智子さん
5月21日7時56分配信 産経新聞
【金曜討論】
アニメや漫画での児童ポルノ的描写が蔓延(まんえん)しているとして、東京都が規制の強化を目指す青少年健全育成条例改正案。青少年に健全な環境を与える“子育て条例”として改正案を支持する日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンさんと、条文のあいまいさを指摘し表現の自由への侵害を懸念する漫画家の里中満智子さんにそれぞれ意見を聞いた。
≪アグネス・チャンさん≫
■子供の手の届かない所に
−−今回の東京都青少年健全育成条例改正案をどのようにとらえたか
「この条例は“子育て条例”です。どうしたら子供に健全な環境を整えられるのか、というのがポイントになる。現行の条例では、今までの“成人指定”の枠に入りきらない児童の性的虐待もあるので、定義を明確にして、子供の手の届かない所に置いておきましょう、ということ」
〇表現の自由の規制ない
−−表現や創作活動の自由をめぐり、議論が紛糾しているが
「表現の自由は、今回は問題外です。規制もしていない。論点をすり替えられているのではないか。有害図書に指定されたとしても、もし親が教育上必要だと判断すれば、買って読ませることもできる」
−−“二次元児童ポルノ”と呼ばれたりするが、漫画などに登場する「非実在青少年」を対象にするのは難しい、との声もある
「子供に対する性的虐待を描いた漫画などを規制する際は、外国でも相当な議論があった。しかし、2つの問題点が浮かびあがった。まず、子供を性的虐待の対象にしていいという誤ったメッセージにつながること。そして、読んだ子供が、強姦(ごうかん)や虐待されても応じなければいけない、といった間違った認識を吸収してしまう危険性がある。それで、二次元でも規制が必要、という結果になった国がある」
〇悲惨な性的描写が対象
−−反対の声は多い
「『ドラえもん』のしずかちゃんの入浴シーンの可否などが取り上げられているが、それは対象外。対象は、子供を暴行する場面が詳細に繰り返し描かれているなど、悲惨な性的虐待が描かれたものだけ。私も表現者であり、自由を奪われたら困る。でも、表現の自由には責任が伴う」
−−漫画やアニメなどにおける児童ポルノ拡大の背景は
「インターネットの普及とともに、売買、入手が容易になり、このネットワークが、子供を性的虐待する人の行動を正当化してしまった。日本が漫画大国であることも背景にある。漫画には多くのすぐれた作品がある一方、海外で禁止されている児童ポルノ漫画も含まれている。漫画=児童ポルノという印象が世界に広まっては困る」
−−今後の議論は
「条例改正案は、子供を性的な道具として虐待しているポルノを、子供から遠ざけましょう、ということ。そういう作品が、書店など子供たちの手の届くところに置かれている現状を多くの人に知ってもらいたい。責任ある大人が、子供の権利、自由と責任について早急に考えていかなければ。児童ポルノの問題は、子ども手当、公立高校無料化と同じくらいの重さがある」(宮田奈津子)
≪里中満智子さん≫
■誤解生むあいまいな条文
−−今回の東京都青少年健全育成条例改正案のどこが問題か
「子供を守りたいという目的自体にはまったく異存はない。問題は、“非実在青少年”に代表される、表現規制にかかわるあいまいな条文だ。石原慎太郎都知事自身が、今月の定例会見で『誤解を受ける文言が悪い』と言っている。都の青少年課は、条文への懸念はすべて誤解だと『質問回答集』で説明しているが、それは担当者の解釈にすぎず、法的拘束力はない。たくさんの誤解を受けるような条文を通すべきではない」
●現行策の実効性高めよ
−−都側は「子供に成人指定の本を見せないための改正で、表現規制ではない」と主張している
「それなら、現在とられている方策の実効性を高めればいい。過激な性描写の本は、現行条例でも指定の対象だし、ゾーニング(成人指定などによる販売規制)が店によっては不十分ということなら、個別に対応できる。どうして創作物の性表現規制について、どうとでも解釈できる危ない条文を加える必要があるのか。対象を漫画やアニメなどに限り、小説は含めないとしている点もおかしい」
−−児童ポルノ対策の一環として、規制強化に賛成する人もいる
「当然ながら、児童ポルノ自体は絶対にいけない。ただ今回は、児童ポルノ規制の枠内で、“非実在青少年”も扱っているのが問題だ。そもそも規制推進派が使う“二次元児童ポルノ”という言葉がおかしい。本来の児童ポルノの問題は、実在の子供という明らかな被害者がいる点にあるのだから。漫画やアニメの架空のキャラクターに対する性表現規制とは分けて考えられるべきだ。混同した議論では、かえって被害にあった子供の救済という児童ポルノの問題点をあいまいにしてしまう」
●子供信用せぬ悪影響論
−−有害図書が現在子供たちに蔓延しており、悪影響を与えているというのが改正の根拠だが
「簡単に規制強化する前に、蔓延や悪影響のデータなど科学的根拠を示してほしい。“見たら子供がマネするだろう”という悪影響論は、あまりにも子供を信用していない。男親の方は、自分の少年時代を思いだしてほしい。昔から“有害図書”はあり、読まれていた。そういう本を見て、興奮して、それで実行しましたか?」
−−子供は“健全な環境”でこそよく育つという発想がある
「十数年前の有害コミック問題のときに、有害とされたたくさんの本を一通り読んでみたが、感動するものもあり、やはり人気もあった。一方でえげつないだけのものは、ほとんど売れていなかった。当時有害とされたいくつかの作品は、どれだけ当時の少年たちを勇気づけたかわからない。とにかく規制だと慌てる前に、冷静に考えてほしい」(磨井慎吾)
【プロフィル】アグネス・チャン
歌手・エッセイスト・教育学博士。昭和30(1955)年、香港生まれ、54歳。47年、「ひなげしの花」で日本デビュー。芸能活動以外にも、ボランティアや文化活動など幅広く活躍。平成10年から日本ユニセフ協会大使。カナダ・トロント大学を卒業。米国スタンフォード大学で博士号取得。
【プロフィル】里中満智子
さとなか・まちこ 漫画家。昭和23(1948)年、大阪市生まれ。62歳。16歳のとき「ピアの肖像」で第1回講談社新人漫画賞。代表作に「アリエスの乙女たち」「天上の虹」など。日本漫画家協会常務理事、「コミック表現の自由を守る会」世話人を務め、漫画家の権利を守る活動にも取り組む。
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≪アグネス・チャンさん≫
■子供の手の届かない所に
−−今回の東京都青少年健全育成条例改正案をどのようにとらえたか
「この条例は“子育て条例”です。どうしたら子供に健全な環境を整えられるのか、というのがポイントになる。現行の条例では、今までの“成人指定”の枠に入りきらない児童の性的虐待もあるので、定義を明確にして、子供の手の届かない所に置いておきましょう、ということ」
〇表現の自由の規制ない
−−表現や創作活動の自由をめぐり、議論が紛糾しているが
「表現の自由は、今回は問題外です。規制もしていない。論点をすり替えられているのではないか。有害図書に指定されたとしても、もし親が教育上必要だと判断すれば、買って読ませることもできる」
−−“二次元児童ポルノ”と呼ばれたりするが、漫画などに登場する「非実在青少年」を対象にするのは難しい、との声もある
「子供に対する性的虐待を描いた漫画などを規制する際は、外国でも相当な議論があった。しかし、2つの問題点が浮かびあがった。まず、子供を性的虐待の対象にしていいという誤ったメッセージにつながること。そして、読んだ子供が、強姦(ごうかん)や虐待されても応じなければいけない、といった間違った認識を吸収してしまう危険性がある。それで、二次元でも規制が必要、という結果になった国がある」
〇悲惨な性的描写が対象
−−反対の声は多い
「『ドラえもん』のしずかちゃんの入浴シーンの可否などが取り上げられているが、それは対象外。対象は、子供を暴行する場面が詳細に繰り返し描かれているなど、悲惨な性的虐待が描かれたものだけ。私も表現者であり、自由を奪われたら困る。でも、表現の自由には責任が伴う」
−−漫画やアニメなどにおける児童ポルノ拡大の背景は
「インターネットの普及とともに、売買、入手が容易になり、このネットワークが、子供を性的虐待する人の行動を正当化してしまった。日本が漫画大国であることも背景にある。漫画には多くのすぐれた作品がある一方、海外で禁止されている児童ポルノ漫画も含まれている。漫画=児童ポルノという印象が世界に広まっては困る」
−−今後の議論は
「条例改正案は、子供を性的な道具として虐待しているポルノを、子供から遠ざけましょう、ということ。そういう作品が、書店など子供たちの手の届くところに置かれている現状を多くの人に知ってもらいたい。責任ある大人が、子供の権利、自由と責任について早急に考えていかなければ。児童ポルノの問題は、子ども手当、公立高校無料化と同じくらいの重さがある」(宮田奈津子)
≪里中満智子さん≫
■誤解生むあいまいな条文
−−今回の東京都青少年健全育成条例改正案のどこが問題か
「子供を守りたいという目的自体にはまったく異存はない。問題は、“非実在青少年”に代表される、表現規制にかかわるあいまいな条文だ。石原慎太郎都知事自身が、今月の定例会見で『誤解を受ける文言が悪い』と言っている。都の青少年課は、条文への懸念はすべて誤解だと『質問回答集』で説明しているが、それは担当者の解釈にすぎず、法的拘束力はない。たくさんの誤解を受けるような条文を通すべきではない」
●現行策の実効性高めよ
−−都側は「子供に成人指定の本を見せないための改正で、表現規制ではない」と主張している
「それなら、現在とられている方策の実効性を高めればいい。過激な性描写の本は、現行条例でも指定の対象だし、ゾーニング(成人指定などによる販売規制)が店によっては不十分ということなら、個別に対応できる。どうして創作物の性表現規制について、どうとでも解釈できる危ない条文を加える必要があるのか。対象を漫画やアニメなどに限り、小説は含めないとしている点もおかしい」
−−児童ポルノ対策の一環として、規制強化に賛成する人もいる
「当然ながら、児童ポルノ自体は絶対にいけない。ただ今回は、児童ポルノ規制の枠内で、“非実在青少年”も扱っているのが問題だ。そもそも規制推進派が使う“二次元児童ポルノ”という言葉がおかしい。本来の児童ポルノの問題は、実在の子供という明らかな被害者がいる点にあるのだから。漫画やアニメの架空のキャラクターに対する性表現規制とは分けて考えられるべきだ。混同した議論では、かえって被害にあった子供の救済という児童ポルノの問題点をあいまいにしてしまう」
●子供信用せぬ悪影響論
−−有害図書が現在子供たちに蔓延しており、悪影響を与えているというのが改正の根拠だが
「簡単に規制強化する前に、蔓延や悪影響のデータなど科学的根拠を示してほしい。“見たら子供がマネするだろう”という悪影響論は、あまりにも子供を信用していない。男親の方は、自分の少年時代を思いだしてほしい。昔から“有害図書”はあり、読まれていた。そういう本を見て、興奮して、それで実行しましたか?」
−−子供は“健全な環境”でこそよく育つという発想がある
「十数年前の有害コミック問題のときに、有害とされたたくさんの本を一通り読んでみたが、感動するものもあり、やはり人気もあった。一方でえげつないだけのものは、ほとんど売れていなかった。当時有害とされたいくつかの作品は、どれだけ当時の少年たちを勇気づけたかわからない。とにかく規制だと慌てる前に、冷静に考えてほしい」(磨井慎吾)
【プロフィル】アグネス・チャン
歌手・エッセイスト・教育学博士。昭和30(1955)年、香港生まれ、54歳。47年、「ひなげしの花」で日本デビュー。芸能活動以外にも、ボランティアや文化活動など幅広く活躍。平成10年から日本ユニセフ協会大使。カナダ・トロント大学を卒業。米国スタンフォード大学で博士号取得。
【プロフィル】里中満智子
さとなか・まちこ 漫画家。昭和23(1948)年、大阪市生まれ。62歳。16歳のとき「ピアの肖像」で第1回講談社新人漫画賞。代表作に「アリエスの乙女たち」「天上の虹」など。日本漫画家協会常務理事、「コミック表現の自由を守る会」世話人を務め、漫画家の権利を守る活動にも取り組む。
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最終更新:5月21日8時53分
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