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忍びよるアルコール依存症

2009年度 第15回 2009年10月9日放送

酒を飲む量をコントロールすることができなくなる病気・アルコール依存症。
自殺や飲酒運転の背景にもこの病気が隠されていることが多いことが最新の調査で 明らかになっている。
最近増えているのが定年退職後に幻覚や手足の震えなどの症状があらわれアルコール依存症と診断されるケースだ。
そのほとんどが普通に 仕事していた時から依存症が始まっていたことが明らかになった。
症状がでないまま、ひそかに進行するアルコール依存症。医療機関の中には早期発見・治療を する取り組みも始まっている。知られざるアルコール依存症の実態に迫る。

あふれ話

MC 近藤泰郎

ひと仕事を終えたとき、仲間と集まってワイワイやるとき、大事な記念日を祝うとき…お酒はいつもその場をより楽しく演出してくれますよね。
そんな盛り上げ役のお酒ですが、人生を盛り下げるどころか、台無しにしてしまう場合がある。
それが、今回のテーマ「アルコール依存症」です。

れっきとした病気

かつては「アルコール中毒」などと言われた「アルコール依存症」ですが、どうしてお酒をやめられないんでしょう?
「意志が弱い」から?「だらしない」から?いえいえ、そうではないんです。
性格上の問題ではなく、お酒を飲む量がアルコールのせいでコントロールできなくなってしまう、まさに“病気”だからなんです。
厚生労働省によると、疑いのある人は全国に440万人もいるそうなんです。

飲酒運転や自殺とも関係が

しかも、このアルコール依存症が、いまの社会が抱える深刻な問題とも密接に絡んでいることが、最近、明らかになってきました。
今年8月にアルコール依存症の治療を専門に行う病院が発表したところ、なんと飲酒運転で検挙された人のうち48%、ほぼ半数の人たちにアルコール依存症の疑いがあることがわかったんです。
それだけではありません。年間3万人を超える自殺者の問題との関わりも見えてきました。
先月、国の専門機関が発表したデータによると、自殺した人のうち23%、およそ4人に1人がアルコール依存症などの飲酒に関わる問題を抱えていたということなんです。

依存症の始まりはいつ?

では、どういう人がアルコール依存症になりやすいんでしょうか?高知市にはアルコール依存症専門の病院がありますが、定年退職後、病院に駆け込む人たちが年々増えています。
そのほとんどは、幻覚やけいれんなど、症状が表面化して初めて病気だと気づき、訪れるそうです。
しかし、院長の山本道也さんは、身体の異常が現れる以前から依存症は始まっていると考えています。
では、いつからか?山本さんは“明るいうちから酒を飲み始めた時期”に注目しています。
去年、患者165人分のカルテを分析したところ、病院を訪れ依存症と診断された時の平均年齢は50歳。
一方、朝や昼から酒を飲み始め、依存症が始まったと推定される年齢は43歳。実に7年もの間、依存症が放置されている実態がわかりました。

アルコール依存症の境界線は?

そこで気になるのが、どこからがアルコール依存症で、どこまでは大丈夫なのか?
ゲストでご出演頂いた、アルコール薬物問題全国市民協会「アスク」代表の今成知美さんによると、出発点は“習慣飲酒”、毎日毎晩欠かさず飲むという生活を続けることから始まるそうです。
そこから次第に量が増え、「飲んだ気がしない」「物足りない」と感じるようになったあたりが境界線。
そこで引き返すことができれば大丈夫、思うがまま飲み続けると依存症…という結果に。

壊れたブレーキは直らない!

今成さんによると、アルコール依存症に一度、なってしまうと、回復はあっても完全に治ることはないそうです。
例えると、ブレーキのない自動車に乗っている状態で、そのブレーキはもう2度と直らない。
つまり、10年、20年お酒を飲むのをやめていたとしても、飲み始めたらコントロールすることができずにまた大量飲酒に戻ってしまう…。
そうなると、治療の方法は断酒のみ。
好きだったお酒をもう2度と口にすることができなくなってしまう、それがアルコール依存症という病気なんです。

早期発見・治療のためには社会全体で組織的に

アルコール依存症は「否認の病気」とも言われています。
精神病院に対する抵抗感の強さもありますが、自分がそうであることを認めたがらないため、どうしようもなくなってから初めて病院に行くケースが多いそうです。
そのためにも家族や職場など身近な人が気づくことが大事なんですが、早い段階でお医者さんに発見してもらえたら言うことないですよね。
県内のある総合病院では内科のお医者さんが、訪れる患者の中からアルコール依存症の人を見つけて治療につなげる取り組みを進めています。
というのは、依存症の患者というのは酒の影響で内臓疾患を同時に起こし、内科などの病院にかかるケースが多く見られるからなんです。
とはいっても、こうした取り組みを行っているお医者さんは日本では数えるほど。
今成さんによると、アメリカではこうした仕組みが整っていて、内科だけでなく外科も参加しているそうです。
酔って階段から落ちたり、飲酒運転で自損事故を起こしたりする人も多いので、そこで早期発見ができるというわけです。
また医療機関だけでなく、裁判所も、酒気帯び運転の検挙者に対して依存症の治療を命じるなど社会全体で組織的に取り組んでいるそうです。

そもそも依存症にならないためには?

「アルコールの量に関する知識を知ることが大切」と今成さんは話します。
では、どのくらい飲んでしまうと危険なんでしょう?気になるその量は…ビールなら中ビン(500ml)3本、日本酒なら3合、焼酎なら300ml(25度のもの)。これ以上の量を飲むことが習慣化してしまうと依存症になるリスクが大幅に上昇すると言います。
となると、毎日飲んでも問題のない量も気になりますよね?
健康的なのは、それぞれ3分の1の量。つまり1本、1合、100mlということになります。
ただし、女性は男性よりも依存症になりやすいので、さらに半分くらいの量にした方がいいそうです。
それはなぜか?女性ホルモンがアルコールの分解を阻害し、また、身体は男性よりも小さい上に脂肪は多いので、これまたアルコールを分解しにくくさせているということなんです。
「男性に比べて短い飲酒期間でなりやすいのも女性の特徴」と今成さんは指摘しています。

(おわりに)

今回のゲストの今成さんが代表を務めるアルコール薬物問題全国市民協会「アスク」では、去年から飲酒運転を切り口にした予防活動に取り組んでいます。
その名も「飲酒運転防止インストラクター養成講座」。 受講した人は職場や地域で研修を行い、アルコールの基礎知識と節酒の方法を伝えるということで、これまでに全国で800人以上が受講したそうです。
私自身もお酒は好きですが、これ以上は危険!という量にしても、女性が男性よりもなりやすい!という話にしても、知識として全く知らないことばかり。
「だらしがない」とか「意志が弱い」とかいった性格上の問題ではなく、アルコール依存症がちゃんとした病気であるということ、そして、それと一緒に予防するための知識を広く伝えていく必要性を感じました。
“酒は飲んでも飲まれるな!”改めてこの言葉を肝に銘じた今回のとさ金でした。

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