きょうの社説 2010年5月25日

◎新幹線の停車駅 これでは信頼関係が築けぬ
 北陸新幹線の停車駅をめぐる問題で、泉田裕彦新潟県知事が石川、富山、長野県を悩ま せ続けている。各県に一つずつの全列車停車駅を求めるという同県の主張に賛同するよう3県にたびたび迫るだけならまだしも、21日付で送付した文書では、それができないなら、2014年度開業についても足並みをそろえることは難しいと、「開業遅れ」もほのめかしている。

 3県と新潟県は、今年1月に国土交通省やJR各社を交えて開いた関係8者の会議で、 14年度の開業を確実にすることを確認した上で、停車駅などの課題解決に向けて協議していくことで合意したはずである。あの場には泉田知事もいたのではなかったか。それから半年もたっていないのにこれでは、3県との信頼関係はいつまでたっても築けないだろう。泉田知事には、あらためて常識的な対応を望みたい。

 過日、停車駅問題を話し合うために開かれた新潟県と3県の担当部局長会議で、3県は 新潟県の主張に対し、そろって「理解はできるが、8者会議で訴えるべき」との認識を示している。その前後に新潟県から送られてきた文書にも同様の答えを返している。新潟県の主張への賛否こそ明確にしていないものの、現時点でできる範囲で、精いっぱいの回答をしていると言ってよい。

 泉田知事が8者会議の確認事項をほごにし、開業時期を人質にとって強引に3県の協力 を取り付けようとしても、共同戦線が実現するどころか、かえって距離が広がるだけである。もし、泉田知事が本気で3県の後押しを得たいと考えているのであれば、信頼関係をもっと大事にしてほしい。

 「地元負担に見合った新幹線効果を取り込むため、新潟県内の駅に1本でも多くの列車 を停車させたい」という泉田知事の気持ちは分からぬでもないが、効果が本格的に沿線地域にもたらされるのは開業後である。停車駅問題がこじれて開業が遅れては元も子もないと考える新潟県民もいよう。3県には、各種会議などを通じて泉田知事に早期開業の利を説く努力を重ねて求めておきたい。

◎中国とガス田協議 問われる日本の主権意識
 中国の温家宝首相が30日に日本を公式訪問し、東シナ海でのガス田開発などについて 鳩山由紀夫首相と話し合う予定である。先の日中外相会談では、ガス田共同開発の条約締結交渉を早期に開始するよう求めた日本側に対して、中国側は「まだ環境が整っていない」と応じなかった。鳩山首相は、日本の主権意識が鋭く問われる問題であることを銘記して会談に臨んでもらいたい。

 中国側の主張で看過できないのは、日本企業の出資で合意したガス田「白樺」(中国名 ・春暁)の主権は中国にあり、「共同開発」ではないという点である。

 東シナ海は、日中の排他的経済水域(EEZ)がぶつかり、境界線がまだ画定していな い。日本は境界線として両国沿岸からの中間線を主張している。白樺は中間線の中国側海域にあり、中国企業が単独で開発してきたが、地下で日本側の権益を吸い取る可能性があるため、日本企業も開発に出資することで両政府が合意した。

 しかし、主権がからむEEZの境界線画定を棚上げして両政府が歩み寄った結果であり 、日本側も権益確保の実を取ることを優先するとして、共同開発であるかどうかについてはあいまいにしてきた経緯がある。中国側が白樺の主権を主張をしても、日本側は明確に否定してこなかった。

 白樺の北方にある日中中間線付近海域のガス田については「共同開発」で明確に合意し 、文書にも記されている。が、これも主権問題は別である。白樺の主権の根拠が日中中間線より中国側にあるからというのであれば、中間線を日中のEEZの境界線と定めてもよいはずだが、中国政府は日中中間線を認めてはいない。

 今後の協議では、白樺の出資比率で日本が譲歩を余儀なくされることがあるかもしれな いが、主権まで認めてはなるまい。それを容認すると、共同開発で合意した他のガス田も、中国の主権下の開発ということになりかねない。

 日中中間線付近の海域で続く中国艦船の最近の「挑発行為」も、日本政府の主権意識を 試しているといえる。