ヒマラヤ山脈のふもとで1人の日本人柔道家が奮闘している。熊本県荒尾市出身で、福岡県警OBの前田政博さん(69)。国際協力機構(JICA)のシニアボランティアとしてネパールで柔道を指導する。競技人口がわずか500人の国で、教え子たちと五輪出場への夢を膨らませている。
前田さんは福岡県警で30年間、柔道の指導者を務め、2001年に退職。募集広告を見てJICAに応募した。昨年1月からネパールの首都カトマンズで、同国代表チームや警察官などを指導。以前にもトルコとケニアで教えた経験がある。
ネパールは南アジア地域で最貧国とされ、用具の入手も困難だ。柔道着は日本から中古を寄付してもらい、畳はわらとスポンジを縫い合わせて代用。代表選手を招集しても、収入が滞るため来ないことも。そのたびに、前田さんは「メダルを取るのは自分自身のため。頑張ろう」と励ます。
キラリと光る存在にも出会った。4月末から1カ月間、一時帰国したのに合わせて連れてきたジャーナ・ナピットさん(17)だ。「まじめで運動神経も抜群。のみ込みも早く、日本でもまれれば伸びると確信した」。福岡県太宰府市の太宰府少年武道会や久留米大に連れて行き、同世代の選手とけいこを積ませた。
柔道歴1年半のナピットさんの得意技は「払い腰」。150センチ、57キロと小柄ながら水くみなどで鍛えた足腰の強さが持ち味で、ネパールでは異例の10代の代表候補だ。「日本で学んだ高い技術をネパールのみんなにも教えたい」と意識も高い。
帰国前最後の練習となった19日には、モントリオール五輪金メダリストの二宮和弘九州柔道協会理事長から「福岡」の刺しゅうが入った柔道着も贈られた。ナピットさんは「将来はオリンピックに出たい」と世界の舞台への思いを強くした。
25日に再びネパールへたち、来年1月に任期を終える前田さん。「地方の道場を巡回して、指導者のレベルアップも図りたい」と情熱は高まる一方だ。
=2010/05/24付 西日本新聞夕刊=