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【たけくまメモ 出張版】マンガ雑誌創刊の裏側 パチンコ連携で元を取る

5月21日15時22分配信 産経新聞

 今年の4月、新しい出版社である株式会社ヒーローズが設立された。現在、同社では新しいマンガ雑誌の創刊準備が進められている。編集長に予定されているM氏は私の知人だが、先日会った際、雑誌もマンガも売れない今の時期、新たなマンガ雑誌を創刊することに勝算はあるのか? という疑問を率直にぶつけてみた。

 M氏の答えはあっさりしていた。ヒーローズは小学館の子会社(小学館クリエイティブ)とフィールズ株式会社の共同出資でできた会社であり、フィールズ社は大手のパチンコ機メーカー。すなわちヒーローズが創刊する新マンガ誌では、最初から「パチンコ化」を目的とした作品が掲載されるのだという。最近はパチンコ・パチスロ機におけるマンガ・キャラクターの使用が一巡して、業界は深刻な「原作不足」に陥っているとか。今回は、フィールズ社からの出資を受けられたので実現した話だという。

 それを聞いて思い出したのは、2006年にリイド社が創刊した「月刊少年ファング」だった。この雑誌はやはりパチンコ・メーカーの山佐がメーン・スポンサーとなって作られた雑誌だが、翌2007年9月に休刊している。部数の低迷を受けて、山佐がスポンサーから手を引いたためである。

 今回もパチンコ・メーカーと出版社の協力でマンガ誌を創刊するという意味では「ファング」と同じなのだが、共同出資で出版社まで作るというのだから、パチンコ会社の本気度は「ファング」の比ではない。

 M氏からは「採算」に関する詳しい話が聞けなかったが、この事業の前提には、当然パチンコとの「連結決算」で元を取る目算があるはずである。仮に雑誌が赤字であっても、そこからパチンコ化して最終利益につながればいいのだ。

 これはマンガ雑誌の編集者なら当然出てくる発想である。なぜならマンガ業界では雑誌を赤字覚悟で出し、そこから生まれる単行本との連結決算で利益を得るビジネスが一般的だからだ。

 週刊連載マンガは、1回18〜20ページを描くとして10週で1冊の単行本になる。年間だと4冊。これまでは、単行本の売れ行きが好調だったので、1作品あたり年3〜4冊の単行本が出せれば雑誌の赤を補填(ほてん)してもなお、あまりある利益を出すことができた。

 マンガ出版は、基本的には広告や出資者に依存しない自己資本オンリーで自らを維持してきた歴史がある。これは映画やアニメシリーズなどと違って、制作コストが圧倒的に安上がりだったからである。たとえば30分物のテレビアニメ1本は、平均して1200万円ほどの制作費がかかる。マンガなら、1200万あったら週刊連載が1年間はできる。

 ここ10年の出版=マンガ不況で、雑誌ばかりか単行本も売れなくなり、版元の維持費用ばかりがかかって、「安くあがる」はずのマンガですら維持できなくなってきたことが、こうした異業種連携の裏にあるのだと思う。

 しかしマンガのキャラクター・ビジネスはなお有効である。パチンコ業界に関していえば、ここ数年のヒット機種はほとんどがマンガやアニメのキャラクターを使った機種であり、人気マンガにはパチンコ化の申し込みが殺到する。当然、今回のようなマンガとパチンコの連携による事業は、これからも出ると思う。

 パチンコ=ギャンブルのイメージから、こうした動きを危惧(きぐ)する声は当然ある。『ドラゴンボール』の作者・鳥山明氏のもとには、10年も前からパチンコ化の申し込みが殺到しているが、頑として首を縦に振らないという。今回の小学館クリエイティブとフィールズの合同事業に関しても、インターネット上で多くの人間が議論を戦わせている。しかし出版社もマンガ家も、霞を食べて生きているわけではない。今後もこういう話はたくさん出ることだろう。(竹熊健太郎)

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最終更新:5月21日15時31分

産経新聞

 

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