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らせんの真実−冤罪・足利事件− <第4章・弁護>
<1>接見 「犯人に間違いないと…」 先入観から「自白」信用(3月8日 05:00)「警察で弁護士と最初に会った時、『君は(足利市の連続幼女殺害事件)3件のうち1件もやってないってことはないよな』と言われたんです」 3月4日、冤罪事件の原因究明をテーマに東京都内の弁護士会館で開かれた市民集会。足利事件で再審無罪が確実な菅家利和(すがやとしかず)さん(63)が、1991年12月2日の逮捕後に接見で訪れた弁護士の当時の対応を非難した。 「どういう仕事をする人なのか分からなかった。これはもう、信じられないと思った」 市民集会前の2月下旬。菅家さんの逮捕直後から一審宇都宮地裁判決の93年7月まで主任弁護人を務めた県弁護士会の梅沢錦治弁護士(79)は、栃木市内の事務所で苦渋の表情を浮かべた。 「犯人に間違いないと思ってしまった。再審無罪が確実となった今、『(弁護士としての)腕が悪い』と批判されても仕方ない」 ■ ■ 「当時は足利に事務所を構え、県南を中心に刑事弁護を相当やっていた。親族が突然、依頼に来た」。弁護料は50万円。梅沢弁護士は知人の県弁護士会の奥澤利夫弁護士(62)に協力を求め、2人で弁護活動に入った。 拘置先の足利署。2回目の接見で「やったらやったで、はっきり言ってくれないか」と強い口調で切り出した。うつむき押し黙る菅家さん。その姿を間近にし、梅沢弁護士は「『自白』をためらってるんだな」と疑う。 逮捕から2週間後。「やりました」。菅家さんが梅沢弁護士にも「犯行」を認める。3回目の接見だった。 「警察官もいない2人だけの接見で素直に認めた。何の抗弁もなかった」。梅沢弁護士は当時の記憶をたどりつつ、こう悔やんだ。 「確かに(菅家さんは)『こうだな』と聞くと、『そうです』という受け答え方が多かった。人の意見に迎合しやすいタイプだった」。梅沢弁護士が頬(ほほ)に手を当て目を閉じた。 「『やってないよな』という聞き方をすれば、もしかしたら『やってません』と答えたのかもしれない」 ■ ■ 90年5月に松田真実ちゃん(4)が殺害された足利事件の起訴から3日後の91年12月24日。79年8月の福島万弥ちゃん(5)事件と84年11月の長谷部有美ちゃん(5)事件(いずれも未解決)も「自供」したとして、県警は万弥ちゃん殺害容疑で菅家さんを再逮捕する。が、この2事件をめぐる菅家さんの「自白」には梅沢弁護士も疑問を募らせた。 「万弥ちゃんの遺体を遺棄現場に運ぶ途中、ごみ捨て場を8カ所も歩き回り遺体を入れるリュックを探した」−。接見時に非現実的な説明を繰り返す菅家さんに、梅沢弁護士は宇都宮地検の起訴は無理だと直感する。予想通り93年2月、地検は「嫌疑不十分」で2事件を不起訴にした。 捜査段階の接見回数は奥澤弁護士と2人で十数回。梅沢弁護士は別の2事件は嘘の供述だと判断する一方、足利事件では菅家さんの「自白」を信用した。なぜか。 「2事件は否認したものの、足利事件は一貫して認めていた。自白しているから何度も接見に行かない。(DNA型一致などの報道で)犯人じゃないのかという先入観があったのも、事実だ」 [写真説明]全国各地で次々と明らかになる冤罪事件。足利事件でも弁護活動の在り方が厳しく問われている=宇都宮市小幡2丁目、県弁護士会館 一覧
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