【連載企画】激震口蹄疫・川南町の叫び(5)

(2010年5月18日付)

■甚大な被害/「町がなくなる」 再生願い「支援を」

 「この町の将来はどうなるんだろう」。無邪気に遊ぶ3歳の長男を見詰め、30代の父親がつぶやく。野菜農家として、畜産が生み出す強大な経済力を少なからず知っている。数千頭単位で消えていく家畜たち。飼育農家には知人も友もいる。「再建できるのか」。町の行く末を案じる気持ちは日ごとに高まる。

 国策によって食料基地としての役割を託された開拓の町。その使命に沿って農業を基盤に発展し、特に畜産は飛躍的な成長を遂げてきた。おのずと商工業も密接な関係にあり、内野宮正英町長は「町全体を経済的ダメージが覆う」と焦りの色を濃くする。

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 人口約1万7千人の同町にあって農業産出額は年間約200億円。このうち肉牛と乳牛、肉豚が約110億円を生み出す。全飼育頭数約15万頭のうち、約6割(16日現在)が殺処分対象となり、その分の経済の流れが消失。移動制限による経済損失や法人農場の従業員解雇、商工業の減収などを加えると、甚大な被害額となる。町幹部は「正確な数字ははじけていないが、町がなくなる危機を感じている」と事態の深刻さを語る。

 口蹄疫は津波のように多くの町民を巻き込み始めており、町税の減少は避けられない。被害農家は収入が途絶えるため、町税務課は「本年度は税を減免し、来年度以降も同様にせざる得ないだろう」と考える。町総務課財政管理係は「何戸の農家が再起できるのか。再開しても出荷までに最低でも牛が2年、豚は1年。町の経済に活力が戻るのはその後では。そうなると、町は2年と持たない」と最悪のシナリオが頭をよぎる。

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 間接被害が最も顕著な飲食業。週末の夕暮れ時、商店街の人影は数えるほどだ。40代男性は「売り上げは5分の1近くにまで落ち込んだ」と、ゴーストタウンのような静けさに声を詰まらせる。

 50代女性も「宴会はゼロに等しい」。現在は1個500円の防疫作業に当たる数十人分の弁当が収入源だが、「畜産農家を思えば仕事があるだけいい」と、一日も早い町の再生を願う。

 町商工会は「会員の事業所は現時点で3〜7割の減収」と読む。緊急アンケートにも「資金繰りが悪化」「長期化ならば死活問題」と悲痛な叫びが並ぶ。津江章男会長は「農家と商工業は運命共同体。復興には行政の手厚い支援が必要」と強く求める。

 全町民をむしばみながら、ウイルスは拡散する。町内には国の危機意識の欠如が事態の深刻化の一因だという批判が根強い。それだけに、国主導の早急で実効性ある再建策を待ち望んでいる。30代の父親は「助けてほしい。この町が好きだから…」と、心のうめきを上げる。=おわり=(口蹄疫取材班)

【写真】人影はまばらで閑散とする商店街。事態の長期化とともに商工業者への間接的な被害が広がる=川南町トロントロン