【連載企画】激震口蹄疫・川南町の叫び(1)

(2010年5月13日付)
■ウイルスとの戦い/「今は生き地獄」 情報不足にいら立つ

 「ウイルスは、いつ来るか分からない。感染したら地獄だろうが、今は生き地獄」。川南町で肉用牛を生産する40代男性は、口蹄疫の脅威にさらされている現在の心境を苦しげに語る。百数十頭を養う広大な牛舎に1日2回、消毒液を600リットルずつまく。自分と同じように、消石灰を散布し、消毒マットを敷き、懸命に防疫していた隣の農家にも感染疑いが出た。「半分は腹をくくった。気が狂いそう」と吐露する。登校前に「学校に行っていいと?」。帰ってくると「大丈夫やった?」。中学生の次女が自分と家業を案じる言葉が胸を貫く。

 繁殖牛農家の50代男性は朝晩、症状が出ていないか30頭の顔を1頭ずつ確認する。眠れない夜が続き、胃薬と精神安定剤が手放せない。感染拡大を恐れて自宅に閉じこもる毎日。「農家は無人島にいるような状態。隣で発生しても教えてもらえないから、どの道を避ければいいか分からない」と、情報不足にいら立ちを隠せない。

 「川南はもう手遅れ。犠牲は自分たちで十分。私たちにとって牛や豚は家族だけど、川南の家畜全頭を殺処分してでも感染拡大を食い止めて」。せめてもの願いだ。

 乳牛、肉用牛約500頭を飼う吉松孝一さん(53)も朝起きたら、まず牛の顔を眺めて「ああ、今日は大丈夫だ」と確認する日々に疲れ切った様子。「発生農場に行かなくても、周りを一般車両が行き来すれば一緒」と思い切った防疫を行政に迫る。

 「また畜産の町を盛り上げる方法を考えないといけないが、今は自分の農場を守るので精いっぱい」と香川雅彦さん(52)。みやざき養豚生産者協議会の副会長を務め、本来は仲間を励ます立場だが、言葉には悲壮感が漂う。「もう、川南は見捨てられているのでは」。国や県への不信感が頭をよぎる。

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 「消毒に最大限の努力をしていれば、感染しても牛や豚は納得してくれる」。情報に飢え、苦悩する仲間を電話で慰め、励ますのは発生5例目となった繁殖牛農家の森木清美さん(61)。多いときは1日20〜30回も電話が鳴る。

 「手塩にかけた75頭の牛に申し訳ない気持ちは残したくない。できるだけ初期で発見すれば、隣家に感染が広がる可能性を減らせる」。その思いで自身も夜の11時、12時まで牛舎を見回った。先月下旬、自らの農場の感染疑いを知らされた森木さんは「これで解放された」と奇妙な気分を味わった。

 感染疑いが確認されていない農家が「いつ来るか」と恐怖に神経をすり減らす一方、発生農家は張りつめた糸が切れたように安堵(あんど)する。皮肉な構図が県内有数の畜産地帯を覆っている。

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 畜産の町、川南で口蹄疫の感染・感染疑いの拡大が止まらない。防疫によって閉ざされた町で今、何が起きているのか。畜産農家や関係者の「叫び」を伝える。

【写真】感染拡大を防ぐため防疫作業に当たる川南町の農場関係者。情報不足へのいら立ちと心身の疲労が増す中、ウイルスとの戦いが続く(養豚農家の遠藤太郎さん提供)=12日午後

【地図】川南町における口蹄疫感染・感染疑い地点(11日現在)