防護服に身を包んで、殺処分した家畜をトラックに乗せる作業員。左手前には二酸化炭素のボンベが並んでいた=21日、宮崎県川南町、朝日新聞社ヘリから、藤脇正真撮影
農場主の男性は、畜舎の外で座り込み、ぼうぜんとした表情で作業を見ていた。県職員が豚の扱いにてこずっているのを見ると、豚の追い込みを手伝ってくれた。「農場主には、豚もおとなしく従った。それが切なくて……」
午前中は50頭を処分するのがやっとだった。食欲はわかなかったが、体力を保つため、弁当をかき込んだ。
午後は効率を上げるため、二酸化炭素による殺処分に切り替えた。2トントラックの荷台に豚25〜26頭を乗せ、シートをかぶせてボンベからホースでガスを送る。10人がかりでシートを押さえた。しばらくすると中で豚が一斉に暴れて、鳴き始めた。シートを突き破ろうと当たってくる豚を、必死に押さえた。シャツも下着も、汗でぐっしょりぬれていた。
午後6時半までに処分したのは約300頭だった。
発生農場での防疫作業を一刻も早く終わらせることが、感染拡大の阻止につながる。「見たくないし、聞きたくないが、目をそらすわけにはいかない」と男性は語った。
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家畜への「医療行為」が伴う殺処分は、獣医師でなければできず、県外からも約120人が派遣されている。
応援に来た40代の男性獣医師は、1日約600頭を薬殺する。必死にもがく豚を2人1組で押さえつけ、注射針を刺す。「仕事とはいえ、生き物を殺すのは、つらい」
作業を終えると、町役場に帰り、全身を丁寧に消毒する。周りは皆疲れ果て、言葉数も少ない。
「終わりが見えない。肉体的にも精神的にも、通常業務の3〜5倍は大変」という。(今村優莉、松井望美)