チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18853] 【リリカルなのは】数の子って言うな!【習作】
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/15 18:36
「――ドクター、次の行動の指示を」

「・・・・・・ウーノか」


毒々しい紫の髪をした青年がゆっくりと目を開く。


「No.2の培養は順調。No.3の作成に取りかかるべきです」


青年に進言するのは薄い紫色の髪をした女性。


「・・・・・・わかったよ。やればいいんだろう、やれば」

「ドクターの素晴らしい頭脳があれば、最高評議会を出し抜き、ドクターの夢を実現することも可能です」

「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


女性は思考する。
自分は世辞などではなく、純然たる事実を述べただけだと。

青年は思考する。
そんな夢を実現するよりも微睡みの中で夢を見ていたかったのにと。


――最近はどうも働き過ぎた。
戦闘機人について革命的な技術革新を起こしたのはつい最近のこと。

最高評議会からは大した指令も来ず、この広くて暗いアジトに一人というのが悲しくて、自作機人No.1、ウーノを作成したのが発端だ。
・・・・・・戦闘機人としてつくった覚えはない、一緒に過ごしてくれる美人のおねいさんが欲しかっただけなのに、先天固有技能なんてものが発現してしまうし、ウーノは何を勘違いしたのか自分の体を戦闘用に作り替え(尤も制作者は戦闘など考慮していないので付け焼き刃にすぎないが)、生みの親の生みの親である最高評議会をぶっ潰そうと言い出した。

しかも理想のおねいさんの記憶を複写する為に考えていたプロジェクトFの用途を変更し、勝手に制作者である私の遺伝子を自分の体に埋め込んでしまった・・・・・・これは私が責任を取らねばならないのだろうか?
私も彼女に私自身の因子(制作時点なので、これはノーカウントだろう)を埋め込んだが、それは私に似た性格のおねいさんなら気兼ねしなくていい、という発想が元だ。


「No.3は肉体増強レベルを大幅に引き上げ、“ナンバーズ”の実戦部隊のリーダーとするのが得策です」

「ああ、じゃあそんな感じで」

「はい」


ナンバーズ。
プルシリーズでなければ時の番人でもなく、ましてや宝くじでもない。

No.1が、No.2以降の“戦闘機人”の作成を推奨。
1を表すウーノを自称し、自分たちをナンバーズと名乗ることを決めた。

・・・・・・ウーノやドゥーエはまだいい。
だが5番の娘などどうだろう。
名付け方の法則に従えば、チンク。
・・・・・・チン●。
学校に行かせてみろ、絶対にイジメられる。

次に8番、オットー。
オットットー・・・・・・これもどうかと思う。

問題なのはウーノが何番まで私につくらせるつもりなのか。
3番をリーダーに、というぐらいなのだから余裕で5番まではつくらせそうだ。
すまない、まだ見ぬ我が子よ。私にはウーノを止めることはできないだろう。


「私たちナンバーズはドクターの夢のために」


彼女の勘違いはマッハ。
ウーノの頭の中での私は世界征服を企む悪の科学者みたくなっている。


「――ところでウーノ」

「なにか?」

「そのスーツはどうにかならないのかい?」


ウーノの身を包むのはなんだかエロいスーツ。


「私たち戦闘機人は魔導師のように防護服を展開できないため、こうして常に防護服を着用しておかなければなりません」

「戦闘能力の低い君がそれを纏ったところで大した効果は期待できない。頼むから以前渡した服を着てくれ。私のサポートならアレの方がいい――主に私が」


仕事している横にそんな格好で居られたら集中などできやしない。


「・・・・・・ドクターの命令であればそのように」

「助かるよ」


男子の無限の欲望に勝つのはいくつになっても大変なのだ。


「それじゃあ、着替えたら仕事を始めようか」

「はい――ですがその前に」


白衣に袖を通す私の髪をウーノがどこからか取り出した櫛で梳いた。


「寝癖ができています。ドクターの髪には癖がありますから」


二、三度梳いて寝癖を直すと、着替えのためにそそくさと踵を返し出て行ったウーノ。




「・・・・・・これはこれでありかもしれないな」


献身的な女性は私の好みだ。











あとがき
勘違い系・・・なのかな?
ナンバーズがドクターのために奮闘するおはなしです。



[18853] 第1回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/16 08:57
No.2、ドゥーエが稼動を開始したのは新暦0052年の春のことである。
偽りの仮面という先天固有技能(ウーノ曰わく諜報・暗殺に最適らしい)を発現した彼女を一言で表すなら――――


「ドクターの開発したピアッシングネイル、実に素晴らしい私向きの武装です」


――なんかエロい金髪のねーちゃん。この一言に限るだろう。

ピアッシングネイル(元はピンセットを改造したものなんだが気に入っているようだ)を眺める姿は妖艶。

そしてあのエロいボディスーツが実によく似合っている・・・・・・くっ、治まれ私の無限の欲望!
ドゥーエは私(とウーノ)の作品、つまりは我が子だ。
そんな目で見ているなんてドゥーエに知られてみろ、白い目で見られるのは必至ッ。

洗濯物はドクターと別にしてねとか、ドクターの入ったお風呂になんか入りたくな~い、とか言われるに決まっている。
・・・・・・だが、他に彼女に合った服などないし、このボディスーツで我慢してもらうとしよう。


「ドクター?」


そして問題の5番、チンク。
男の子がチン●と言われるのと女の子がチン●と言われるの、どっちが嫌なんだろうか。
いやどちらにしてもそんな名前をつけるなんて最低!→それはウーノが→うるちゃいうるちゃいうるちゃい! となるだろう。


「ドクター・・・・・・?」



ああ、父親というのは娘に嫌われる運命にあるのか・・・・・・母親のいない彼女たちは愛に飢え、非行に走り、管理局のお世話に・・・・・・まさかウチの子に限って!


「――ドクター、もう次の目的に向かって思考しておられるのですね」

「・・・・・・教育だけはしっかりしておかなければな」


私、無限の欲望の娘というだけで世間の目は冷たい。せめてどこに出しても恥ずかしくないように教育しよう。


「! はいっ、(ドクターの)夢のために全力を尽くします!」

「――ああ、真っ直ぐに育ってくれよ」


将来的には私のようないつ切り捨てられるともしれない仕事ではなく、公務員、管理局に就職してもらいたいものだ。
いや、教会というのもいいな。見た目とは裏腹に信仰と慈悲の心に溢れた女性になれるだろう。
教会と言ったら、


「やはり聖王教会か・・・・・・」


この十数年後(つまり大学あたりまでの教育を積ませた後)、ドゥーエが本当に聖王教会に勤めることになるとは今の私は知る由もなかった。





◇◆◇◆





「プロジェクトFの論文データがない、だと・・・・・・?」


ドゥーエがナンバーズに加わってからしばらくしてからのこと。
ウーノが自分と同じように、勝手に私の遺伝子をドゥーエに埋め込むという大事件も過去のこととなったある日。

少々肉体増強に手間取っている(“戦闘”機人をつくるのは初めてなのだ)が、No.3の制作も順調に進み、私はなんとなく再びプロジェクトFの研究に取りかかろうと思い、端末を起動した。
だが、データがない。


「ま、まさか一昨日の扇風機の実験でブレーカーを落とした時に消えてしまったのか――!?」


そ、それとも有線で繋いでいたらそのケーブルにドゥーエが引っかかって抜いてしまった時か・・・・・・!?


「――ドクター? どうかなさいましたか?」

「ウーノっ」


そうだ、メインコンピューターと繋がっているウーノならデータがどうなったかもわかるはず!






「プロジェクトFのデータはプレシア・テスタロッサという魔導師に流しました」

「な、なぜそんなことを・・・・・・」

「プロジェクトFが完成すれば、保険がより強固なものとなります。しかしドクターは多忙の身ですから、ドクター以外に完成させることのできそうなプレシア・テスタロッサに」


多忙だと思うなら少しは休ませてほしい。


「私以外にプロジェクトFに興味を持つものがいたのかい?」


アルハザード時代ならいざ知らず、今の時代にクローンを造って記憶を転写するなどという発想をするものはそうはいないと思っていたが。


「プレシア・テスタロッサは事故で娘を失っています。その娘を生き返らせるためならなんでもするはずですから」


娘を・・・・・・。


「――ウーノ、プレシア・テスタロッサと通信できるかい? プロジェクトの基盤を作った私となら彼女も話してくれると思うんだが」

「可能ですが、何のために?」

「プレシアの娘を生き返らせるのに協力したいんだよ」

(このドクターの表情は・・・・・・何か考えが?)


くっくっくっ、ここで私がプレシアの娘を助けるために協力すれば・・・・・・

ウーノ:ドクターは悪の科学者→ドクターは良い科学者

ドゥーエ:ドクターと洗濯物別→ドクター、背中流してあげる


となる!
完璧じゃないか。

娘(ナンバーズ)が生まれた時から変わらずに揺らめいていた私の願い。

娘の誤解を解きたい&娘に慕われたい。
叶えてみせようじゃないか。



――プレシアとの対話で私がアルハザードの技術で造られた存在だと教えてしまうのは、もう少し後のことだ。










あとがき
一言。
私はチンクのことが大好きです。
というかナンバーズ全員大好きです。
後、接続詞が所々変なのは仕様です。



[18853] 第2回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/18 20:47
やあ、ごきげんよう。
私は開発コード 無限の欲望。
最近の趣味はジョギング。戦闘機人の宣伝マン、ジェイル・スカリエッティ。

ドゥーエが生まれてから少し間を置いて新暦0055年。No.3、トーレが稼動を開始した。

ウーノをおねいさん。
ドゥーエをねーちゃんと評した場合、トーレは――――


「ドクター、私やこれから製造される姉妹たちの訓練のための戦闘シムのスペースの確保は必須。その設置許可をいただきたい」


――お尻に目がいくおっかない姉御、と言ったところだろうか。


「戦闘なんてまた物騒なことを・・・・・・」


私の因子が含まれているはずだがウーノといいトーレといい、どうも私の性格が反映されているとは思えない。


「ウーノやドゥーエとは違い、私は直接敵と対峙することが多くなりますから」

敵って誰さ。
一度決めたことに突っ走るあたり、やはり私に似ているのかもしれないな・・・・・・。


「まあいいさ。運動するスペースは必要だからね」


私も科学者とはいえデスクワークばかりでは体によくない。
この体に衰えなんてものがあるのかは分からないが。


(運動・・・・・・私の訓練は児戯に過ぎないということか。確かに自分のISに振り回されている今の私ではその程度、だが必ずモノにしてみせる)

「――ところでトーレ」


用件を終えたらすぐに帰ろうとするのはこの子たちの悪い癖だ。
もう少しスキンシップを取るべき、そうするべき。


「此処での生活にはもう慣れたかい? ウーノもドゥーエも、今は自分のことで手一杯であまり話せていないだろう」

「――問題ありません。No.1 ウーノもNo.2 ドゥーエも、志を同じくする仲間であり姉妹ですので」


ふむ・・・・・・ところでトーレのように背の高く、武人のような性格の娘に敬語で話されると少々気後れしてしまうな。
向き合っていると、我が娘ながらまるでおやじ狩りをされているような感覚に陥る――わかるかね? 全次元世界のおやじ諸君――なのに敬語。
違和感バリバリである。
ついでに言えば父親としての威厳を守るために大仰な手振りに尊大な態度で振る舞っている私にも違和感バリバリである。
正直、研究の時以外は真面目になんてなりたくない。

最高評議会のワケの分からない話などより時折プレシアが話す親馬鹿トークを延々と聞いていたいし、最高評議会の脳味噌などよりも娘たちの成長を眼に焼き付けたい。
最高評議会の嗄れた声よりも可愛い娘たちの声を聞きたいし、くだらない数字の羅列と顔を突き合わせているぐらいなら培養槽に顔をぺったりとくっつけて製造途中の娘と顔を合わせていた方がいいに決まっている。


「姉妹仲が良好なのは結構。私ももう少し顔を出せればいいんだが」


ウーノ曰わく、戦力の充実は急務。
ナンバーズの完成を急ぐと共に、古代ベルカの遺産“ゆりかご”の防衛機構の一つである機械兵器の研究に追われる今日この頃である。
プレシアの持つ時の庭園のようなものが私も欲しくて研究していたのだが、これまたウーノは勘違いしてしまったようで“プランⅠ−A”としてゆりかごの復活に向かって動いている。

ああでも、管理外世界にあるという父の日に娘からゆりかごプレゼント、なんてされてみたいものだ。


「ウーノもドゥーエも――無論私も、ドクターの夢のために動いています。お気になさらず」

「そうかい?」


勘違いが元とはいえ、このように尽くされるのは父親冥利に尽きるというものだ。
よし、おとーさんも頑張っちゃうぞ。





◇◆◇◆





作業記録 新暦0055年 10月3日


我らが創造主 Dr.ジェイル・スカリエッティは和食と呼ばれるものを好む。
私、No.1 ウーノは諸説ある和の発祥地のうちの一つ『地球』の料理への挑戦を決意。
ドクターに満足していただける食事の提供をここに誓う。

また疲れを和らげるマッサージをNo.3 トーレに実行。それなりの評価を得られたのでこれも明日、ドクターの肉体洗浄後に実行予定。
すべてはドクターのため、最高評議会の排除と自由な世界を奪い取るために。

明日も頑張ります。
ウーノ










「ふふふ、君の娘にも負けないこの愛らしさ。やはり彼女たちは私の最高傑作だよ」

『ふん、そんな業務的な記録になんの意味があるのかしら。見なさい、このアリシアのたどたどしい字で書かれた日記を!』


ジェイル・スカリエッティ、今夜もプレシアが根を詰めすぎないようガス抜きをしています。

しかしプレシア、お酒もほどほどにした方がいい――――そう言っても、モニター越しではプレシアを止めることは叶わないのだった。


ああ、いつかプレシアが再び娘と笑い合える日が来ればいい。
ついでに私も未だ感情の乏しいナンバーズたちと笑い合える(悪役的高笑いにあらず)日が来ればいいのだが・・・・・・。









あとがき
敬語のトーレに違和感。
次回は問題の5番が登場。もしかしたら4番もセットかもしれません。



[18853] 第3回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/18 20:49
この物語は私たち十二姉妹(予定)の平凡な日常――――ではなく、


「・・・・・・ウーノ、クローン培養に使う遺伝子は本当に彼女のでなければならなかったのかい?」

「はい。拠点破壊に特化したスキルを発現させるには、彼女が最も適切でしょう」

「・・・・・・そうか」


培養槽に浮かぶのは銀髪の、5番目の姉妹。
4番の娘はもう少し調整に時間が掛かるため、最初に5番、そう問題の5番を稼動させることになった(とはいえもう数年先のことだが)のだ。

さて、ウーノを初めとしたナンバーズ、彼女たちの培養方法は大きく分けて2つ。
複数の遺伝子を掛け合わせた純粋培養、ドゥーエとトーレはこの方法だ。
そしてウーノや5番のこの娘のように、ある一人の人間の遺伝子を利用したクローン培養。

ウーノには私的理想のおねいさんイメージに近い人物の遺伝子を選んで使ったのに対し、5番の娘に使われている遺伝子はウーノが選んだもの・・・・・・単刀直入に言おう、その遺伝子の持ち主は――――少女なのだ。

歴史上の人物というわけではないが、優れた魔導師の遺伝子。
その魔導師、敢えて言うならば魔法少女には一つの欠点(美点ともとれるが)があった。
それが少女であること。
年齢が、ではない。
見た目が少女なのだ。

要するにロリババアを地で行った魔導師。
――言いたいことがわかっただろうか?

年齢、見た目共に少女であったならば問題はない。
機人と言えど成長はする、つまり未来がある。

だがロリババアの遺伝子を使った5番には――――未来はない。
永遠のロリータボディが約束されているのだ。
ナンバーズNo.5、チンクには。
・・・・・・ロリなのにチン●。
ロリにチン●!


「――この罪悪感の中にある甘美なる感覚は・・・・・・」


――それはそれでありじゃね?


まさか、私の無限の欲望はロリチン●を肯定するというのか!?


「くッ、くくくっ! 刷り込まれたものなのかもしれないが、これも私の欲望。いいだろう、証明してあげようじゃないか!」


――父性は欲望を超越することができるということを!


「この私が!」

「はい、ドクター」


こんなことの繰り返しがウーノの勘違いを酷くしていったことなど、この頃の私は知らなかった。



――――この物語は私、無限の欲望 ジェイル・スカリエッティとその娘たちの一大叙情詩である(嘘)。





◇◆◇◆





新暦0060年 冬


「――ドクター」

「ドゥーエ、どうかしたのかい?」

「お茶をご用意しました。少し休憩なさってください。ドクターの身体は私たちほど丈夫ではないのですから」


私はドゥーエに気づき、『5年ほど前から研究を初めたゆりかご防衛兵器を基につい最近やっと完成した試作機』を拭く手を休める。


「ああ、そういえばここ51時間ぐらい休憩をとっていなかったな・・・・・・ふふ、科学者という人種は自分の限界など頭になくてね。君たちがいなければ私は死んでしまっていたかもしれない」

「御自愛ください」


尤も、こんな風に研究に勤しむことは君たちがいなければ滅多にないのだろうけど。


「いつもの場所に用意してあります――今はチンクも居ますし、いい気分転換になるでしょう」

「ああ、ありがとう」


むしろ気が滅入ってしまいそうな気もするが(私限定で)。










「お疲れ様です、ドクター」


ガタンと音を立ててチンクが椅子から立ち上がり、私に一礼する。
・・・・・・ちっちゃいなあ。


「――チ、チンクは今まで何をしていたんだい?」

「トーレと訓練です。私のIS、ランブルデトネイターは未熟な私には過ぎた力ですから、一刻も早く使いこなせるようにと」


座り直したチンクが淡々と答える。
そういえばまた物騒な能力が出たんだったね・・・・・・トーレももう自分の能力を使いこなしているし、ウーノの言う戦力の充実は確実に進んでいる。
さて、ウーノは私に何を見せてくれるのかな――。


「――君は今のところ唯一、私の因子を埋め込んでいない。そんな君から見て、今の生活はどうだい?」

「・・・・・・? 質問の意味がよくわかりません」

「うーん・・・・・・家出したい、とか、反逆したいー、とか・・・・・・洗濯物は別に、とか」


最後はぼそりと聞こえないように呟いた。


(洗濯物・・・・・・?)


が、戦闘機人であるチンクの耳には届いていた。


「ドクターの因子を持っていない私にはドクターの真意を完全に理解することはできませんが、ウーノたち上の姉妹を見ていれば創造主であるドクターに反逆する気など――」


起こりません、とチンクは言った。


「ウーノたちは私によく尽くしてくれている」


ズレてはいる。ズレてはいるが――それでも娘に尽くされて悪い気はしない。


「あの姉たちが目指す、ドクターの夢を私も見てみたい」


・・・・・・名前に負けず、真っ直ぐに育ってくれているっ。
私の夢なんて三大欲求とちょっぴりの好奇心が満たせる生活ぐらいだというのに・・・・・・まあ、それすらも難しいのが私の立場であり、今の世界なのだが。


(・・・・・・私には分からない、ドクターの目指す夢が。ウーノたちの語るドクターのように、本当にただ欲望に従っているだけなのか・・・・・・戦闘機人である私が考えても意味のないことなのだがな)

「――――ドクター、ウーノとトーレを連れて来ました」

「ん、ご苦労様、ドゥーエ」


ちっちゃい姉御、チンクの言葉に感動していた私に、戻ってきたドゥーエが声をかける。
お茶ぐらいみんなで飲みたいので呼んできてもらっていたのだ。


「ドクター、お茶は私が・・・・・・」

「気にしなくていい。茶にはこだわりがあってね、まだウーノやドゥーエには負けていないさ」

「・・・・・・ドクター、何故何も訊かずに私の紅茶に砂糖を?」

「え゛・・・・・・すまない、つい」


流れるような動作でチンクのカップに砂糖を入れている私がいた。


「う、ウーノたちはストレートでいいね」

「はい・・・・・・」

「お任せします」


仕事を取られてしょんぼり(´・ω・`)しているウーノと一家の主のごとく構えているトーレのカップに紅茶を注ぐ。


「はい、ドゥーエ」

(お砂糖・・・・・・)



外の時間はあまり注意していなかったが、今日は全員揃ってのアフタヌーンティーとなった。















――同じ頃、プレシアは私の代わりにプロジェクトFを完成させ、アリシアのクローンを生み出した。
・・・・・・それから少し後のことだ、プレシアとの連絡が途絶えたのは。




「――嫌な予感がする・・・・・・」


私は科学者らしからぬことを呟いた――――科学者、ね。











あとがき
下ネタばかりでごめんなさい。チンクのスカさんに対する好感度が原作(アニメ)よりも多少上がりました。
スカさんのナンバーズに対する好感度は振り切れてます。



[18853] 第4回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/19 20:31
新暦0065年 春
後にPT事件、またはジュエルシード事件と呼ばれることになる、ロストロギアを廻り争う二人の少女と、その背後にある壊れた母親の物語――――を語る前に、その少し前の話をしよう。


新暦0064年 秋


「プレシア・テスタロッサ・・・・・・ふぅん、ドクターの捨てたプロジェクトを完成させるだけの頭はあるのね、このオバサン」


口の悪いメガネが一人。


「クアットロ、情報処理の仕事の手伝いだと言って私を引っ張って来たんだろう。それが何故ドクターの端末の中身を覗いているんだ」


しっかり者のロリが一人。


「でもでもチンクちゃんも気になるでしょう? 私たちの主が何を考えているのか。最近は待機ばかりだものねぇ」

「それは・・・・・・」


メガネ――No.4 クアットロは自分の行動を正当化するために、下の姉妹たちも気にしていることを口にした。
とはいっても、No.1からNo.4までの姉妹はジェイル・スカリエッティが何を考えているのか(見当違いではあるが)理解している。

先日、ナンバーズのオリジナルとも言える――言うなればタイプゼロ――戦闘機人の姉妹が管理局に保護された。
今、情報担当のウーノとクアットロはそのタイプゼロの情報を集めている。言うまでもなく、これからつくられる姉妹たちにそのデータを反映させるためにである。
ドクターはそれを反映させる姉妹たちの素体の培養に追われている。つまり稼働年数も短い下の姉妹たちには単純にやることがないのだ。
そんな事情を知らないNo.5以下の姉妹たちは思考する。ドクターは何を考えているのかと。


「チンクちゃんのドクターに対する忠誠心を強くすれば他の妹たちにもそれは伝染していく・・・・・・人間味なんて邪魔としか思えない、けどあるものは仕方ないのよねぇ――なら、せいぜい利用するだけ利用させてもらいましょ」


ドクターの因子を埋め込まれていない姉妹たちは裏切ることはしないだろうが、クアットロたちのようにドクターに心からの忠誠を誓っているわけではない。

長女ウーノや次女ドゥーエ、三女トーレ、四女クアットロとは違うのだ。


「ドクターの、私たちの夢を阻害する可能性は潰しておかないといけないわ。たとえ妹でも」


No.4 クアットロ。ナンバーズの中で最も“夢”への執着が強い者。
そして同時に、ドクターからの影響(本来在るべき姿からの逸脱)が最も強い者である。


「そうすればドクターも喜んでくれる・・・・・・うふふ、ごめんなさいねチンクちゃん。これもドクターのためなのよ・・・・・・」

「クアットロ。さっきから全て声に出しているからな」


そんなクアットロ。ドクターは彼女をこう評した――――


「それと此処のCPUは全てウーノと繋がっているから、覗いたことはすぐにわかるよ」

「ド、ドクター、いらっしゃったんですか」


――妹たちに対して素直に慣れないメガ姉。
尤もそれは彼の勘違いであり、クアットロは姉妹たちをドクターの夢のための道具程度にしか思っていない(自分も含めて、だ)・・・・・・今の時点では。


「みんなに話しておきたいことがあってね、君たちを探していたんだ」

「・・・・・・もしかして新たな任務ですか?」


クアットロの言葉にドクターは頷く。


「先日管理局に保護された“タイプゼロ”について話がまとまった」

「タイプゼロ――私たちのオリジナルに当たる戦闘機人ですね」


稼働年数はチンクたちより短いが、製作が開始されたのはドクターが機人の研究を始めてすぐの頃、戦闘機人の技術革新が起きるよりも以前。
それを考えると、タイプゼロの製作者は完成こそ後に回った(ドクターのように最高評議会に設備と資金を与えられたわけではないのだ、当然だろう)がドクターよりも早く戦闘機人の理論を完成させていたとも言える、だからこそドクターやナンバーズはその二人の戦闘機人をタイプゼロと呼称した。


「制作者は最高評議会によって処分され、姉妹は管理局・・・・・・とはいえ私の最高傑作である君たちナンバーズがいるんだ。最高評議会には彼女たちに手を出さないように約束させたよ」


大仰に手を広げ、ドクターは自らが製作したナンバーズに絶対の自信を表した・・・・・・彼なりのナンバーズに対する最大限のほめ言葉である。
見るものによってはその芝居がかった動作に胡散臭さしか感じないだろうが。


「流石、ドクター。私たちがいるんです、他人が製作した戦闘機人なんて必要ないですものね」


ドクターがタイプゼロに手回しをしなかったのは自分の娘たちが完成していないのに他人の娘に手を出す気はないからという、それだけの理由だ。


「彼女たちは管理局に預けておくさ――今日の議題はそこではなく、私の盟友プレシア・テスタロッサとその娘についてだ――――場所を移そう、みんな集まっている」





◇◆◇◆





「プレシアの動向についてはウーノが一晩で調べてくれた」


No.1 ウーノ、流石できる女は違う。その優秀さには私も鼻高々だ・・・・・・他人に褒められることがないのが悔しいが。
お宅のウーノちゃん立派ね~とか言われてみたいよ、私も。


「科学者である以上、研究に夢中になって他が疎かになることは珍しくない。彼女の場合は娘の命がかかっていたんだからね」


だからプレシアのことはそこまで心配してはいなかった。事実私も最近までは研究に夢中だったのだから・・・・・・だが、ウーノの報告を聞いて目が覚めた。
ウーノが今のタイミングで私に報告したのは私の研究の邪魔をしないためなのだろうが、できればもっと早くに教えてほしかったよ。


「彼女の生み出した娘のクローンは、彼女にとって失敗作だったようだ」


――プロジェクトFは死人を蘇らせる技術ではない。
私が基礎理論を構築した時点では、生きた人間の記憶を保存、転写して再生することを目的としたもの・・・・・・プロジェクトFではプレシアの望みを叶えることはできなかった。





「チンク、セイン、頼みたいことがあるんだが、いいかい?」

「私たち姉妹にドクターの命令を断る理由はありません」

「チンク姉だけじゃなくあたしも?」


――確かめなければならない。


「あまり他人の家庭に首を突っ込むべきではないのだがね」


もしも彼女が道を外れたのなら、ナンバーズの親としてプレシアには言わねばならぬことがある。


「プレシアがドクターの意図から外れて動いている以上、万が一にも私たちの情報が漏れることにもなりかねないわ」


・・・・・・ウーノ、私には別に何の意図もないのだが。
って、チンクたちも神妙に頷かないでくれ。












あとがき
説明とシリアスが多くなってしまいました。
ドゥーエとクアットロは若干ドジっ娘仕様。
喋っていませんが、ディエチも完成しています。



[18853] 第5回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/20 07:10
新暦0064年 秋

あれからほんの少し時が流れたが、今はまだ準備期間だ。
プレシアと話をしたいが次元空間を移動する庭園を補足するのは困難極まりない――彼女が娘 アリシアを生き返らせることを諦めるはずはない。プロジェクトFが失敗した今、プレシアが頼るのは・・・・・・おとぎ話として語られているアルハザード。
彼女は私を知り、アルハザードの存在を知ってしまった――躊躇はしないだろう。
虚数空間に消えたというアルハザード、行くことが不可能ではないだろう。
可能性が高いとは言えないが。
だがどんな方法であれ、アルハザードに行くためには虚数空間を開く必要があり、そのためには膨大な魔力が必要だ。

大魔導師とはいえ、そんな膨大な魔力を個人で運用することなどできない。
であれば頼るものは膨大な魔力を秘めた、何らかのロストロギア。

ロストロギアが絡めば話は簡単。
まさか自分で発掘などできるはずもなく、盗むしかない。
ならロストロギアを輸送する次元航行船やロストロギアを管理する研究機関に注意を払っておけばいいだけだ。


プレシアが行動に出るまで私は出来る限りの準備を進める。
万が一にも娘たちにもしものことがないように――――


「お邪魔するよ」


――というわけで、特殊なISを持つセイン用の装備を開発した私はセインを探してナンバーズの訓練スペースに足を運んだ。


「っ、ドクター?」

「やあ、お疲れ様、ディエチ」


其処に居たのはNo.10 ディエチ。タイプゼロ――今はギンガとスバルという名前の少女たち――のデータを反映するために完成が遅れているNo.9や適性遺伝子の見つかっていないNo.7とNo.8よりも早くに完成した、現在の末っ子である。


「どうして此処に?」


その体に不釣り合いな巨砲を携え、額に浮かぶ汗を拭うこともせずにディエチが私に向き直る。


「セインを探していてね」


持ってきたタオルとドリンク(市販品。娘に変なモノを飲ませるわけないじゃないか)を手渡す。


するとディエチは目をパチクリ。


「これは・・・・・・?」

「うん? 身体に機械が含まれているとはいえ、君たちは人間だ。のどは渇くし、汗をかいたままでは気持ち悪いだろう?」


そりゃあ普通の人間よりものどの渇きは我慢できるし、痛覚を遮断できるように汗の感覚をなくすことも勿論可能ではあるが。

今はのどの渇きを我慢する時ではないし、洗浄施設がある此処でわざわざ感覚を遮断する必要もない。


「・・・・・・ありがとう、ございます」


ディエチは何やら微妙な顔をしながら私からタオルと飲料水を受け取った。


(どうしてドクターがわざわざ・・・・・・?)

「セインなら今は――」

「んー、やっぱり潜れても外が見えないのはつらへぶっ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

笑顔のまま私は停止。
ディエチは目をまん丸にして驚いている。


ゆっくり、ゆっくりと視線を声の聞こえた下へと向けていく。


「・・・・・・ご愁傷様」


私の足は水色の髪をした少女の後頭部を踏みつけ、水色の少女は顔面が床にこんにちは。
む、娘を足蹴(?)に!
こ、これはDVなのかっ、虐待なのかっ?


「大丈夫かいっ、セイン?」

「あ、あう・・・・・・ド、ドクター?」


私が足をどけると、セインは鼻を押さえながら涙目で私を見上げた。


「――あはは、失敗失敗。せっかく発現した激レア能力なのにまだ使いこなせなくって・・・・・・」


そう言って笑うセインの鼻は赤かった――――くっ、眩しい! 日陰者の私には他の娘にはないセインの笑顔が眩しいっ!


「って、ドクター?」

「あ、ああ、すまない。本当に大丈夫かい?」

「だいじょぶ、だいじょぶ。ドクターのつくってくれたこの機体は、これぐらいじゃ歪みもしないって」

「何を言うんだ。君たちの肌は乙女の肌と変わらない。もう少し気にしたまえ」
(・・・・・・うん? あたし、ドクターに肌のことで心配されてる? なんだか変な感じ・・・・・・でも、なんかおもしろいかも)


この私が娘の肌を妥協するとでも思っているのかい? 肌だけではなく髪も爪も人間と変わらない――というより、機械を身体に埋め込んでいるだけなのだから当然だ――洗浄施設にはそれぞれの髪にあったシャンプーとリンスを用意しているし、ちょこっと弄れば普通の人間のように生理だって来る・・・・・・はずなのだが、ウーノが他の姉妹たちに埋め込んだ私の遺伝子のせいで生理が来なかったら、と考えると恐ろしくてやっていない。


「損傷はないし大丈夫そうだな・・・・・・」


ぼけーっと突っ立っていた私の足元にセインがISディープダイバーで現れたため、彼女は私の下敷きになった。つまり踏みつけたのではなかったので大したことはなかったようだ。


「ドクター、セインに用があったんじゃ・・・・・・?」

「ん、そうだったね」

「あたしにドクターが用事? ま、まさかクア姉の指示で出来の悪いあたしの頭を改造しに・・・・・・!?」


出来の悪いなどとはとんでもない。
私の因子を埋め込んだいたなら、セインのように明るく良い子が生まれることはなかっただろうに。


「君に新しくもう1つの眼を作った。それさえあればISを最大限に活用できるだろう」

「3つ眼?」


指で丸を作って額に当てるセイン。
流石に顔に3つの眼がある娘を可愛がることは・・・・・・いや、できるか。


「じゃあそれを使ってチンク姉をサポートすればいいんだね?」

「ああ。よろしく頼んだよ、セイン」

「よし、任しといて、ドクター!」


――娘を親の事情に付き合わせるというのはいい気分はしないがやむを得ない。まったく、まだ私は何一つ彼女たちに親らしいことをやっていないだけでなく、彼女たちに肉親と認識されてすらいない。


(失敗ばっかのあたしを重要な任務に就かせることをクア姉は反対したと思う・・・・・・でも、ドクターが私に頼んでくれたんだ。これからできる妹たちのためにも、おねーちゃんらしくしっかりしないと)








「――燃えてるね、セイン」

「ん、そうなのかい?」

「うん、すっごく」


ううむ、子の気持ちを理解できないとは・・・・・・この調子ではこれから生まれてくる娘たちも親と認めてくれなそうだ。精進せねば。









あとがき
アニメでセイン空気wwとか言わないであげてください。
スカさんの因子が埋め込まれていない娘たちの方がスカさんの本質(?)を肌で理解しています、ウーノやクアットロ的ドクター像の刷り込みにより、完全に理解するにはまだまだ至りませんが。



[18853] 第6回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/21 06:47
「――すまないね、私の我が儘に付き合わせてしまって。この件が片づいたら、研究を再開するよ」

「お気になさらないでください。私たちはドクターの望みのままに」

「私たちではなくチンクとセインに任せられたのは少々残念ですが」


忙しい君たちに頼むわけにはいかないさ。だからといってチンクたちを使っていい理由もありはしないのだが。


「ドゥーエにはできるだけクアットロについていてもらいたいんだ。君たちはどこか似ている、だからクアットロについては頼んだよ」

「姉妹なんですもの、似ていて当然ですわ――お任せください、クアットロは私がしっかりと教育しておきます」


私も研究が終われば、娘たちと一緒に居られる時間も増える・・・・・・それまでは姉たちに任せるしかない。


「――トーレもすまないね。訓練相手であるチンクに仕事を頼んでしまって」

「いえ。どんな形であれ、チンクたちに実戦経験を積ませられる機会ですので」

特にセインには戦闘経験はありませんから、とトーレ。

・・・・・・戦闘か、そうならないのが一番いいんだが。

セインだけではない、他の娘たちにも戦いなどしてほしくはない・・・・・・だが私が違法研究を続けている以上、時空管理局や研究データを狙う輩との戦闘もある。

娘たちが生まれ、大所帯になり、活動が活発になってきたが故にそういう者たちに見つかる可能性も高くなってしまった。
セインとディエチが生まれてからはまだ戦闘はない、このままの調子でいきたいものだ。


「さて、それじゃあ話はここまでだ。この件に片が付くまでは自由に過ごしてくれて構わないよ」

「それじゃあ私はさっそくクアットロのところへ」

「では私は食事の準備を」


そう言ってラボ内の調理スペースへと向かうウーノは何となく嬉しそう。
私だけでなく、セインが美味しそうに料理を食べてくれるのが効いているようだ。
料理を楽しいと思える女性は魅力的だ、うん。


「私は訓練に戻ります」

「――トーレ、ちょっといいかい?」


ウーノとドゥーエを見送った私は最後に出て行こうとしたトーレを呼び止めた。


「なにか――?」

「今、チンクたちは洗浄施設にいる」

「? はい、それがどうかしましたか?」


ううむ、やはりこれだけではわからないか。


「君は訓練の時以外ではあまりセインやディエチと関わりがないだろう? 親睦を深めてきたらどうかと思ってね」


唯一チンクとはそれ以外の時間も一緒にいることもあるようだが、それも長い時間とはいえない。
そこが気になっていた。
姉妹仲がいいことに越したことはない。
――クアットロにはドゥーエが教えてくれるだろう。クアットロは少々、難しい娘だ。私を慕い、夢のため(勘違いとはいえ)に頑張ってくれるのは嬉しいがね。


「・・・・・・チンクとは違い、セインもディエチも難しい子ですので」

「私からすればみんな難しい娘だよ。頭に脳が詰まっているだけで、機械とは全く違う。生命としての輝きをもっている」


つくりだされた存在である私が新たに生命をつくりだし、育てる・・・・・・機械やデータとばかり向き合ってきたせいか、わからないことだらけだ。


「君たちは姉妹で家族なんだ。仲良くしてくれれば、生みの親としては嬉しい」

「・・・・・・了承しました」


トーレのそういう不器用なところは私に似ているなかもしれないな。





◇◆◇◆





(・・・・・・む)


No.3 トーレは悩んでいた。一糸まとわぬ姿で、しかも男らしく仁王立ちで。


創造主であるDr.ジェイル・スカリエッティの言葉を聞き、彼女は考えた。
自分は戦うこと以外に何も、姉として妹たちに教えていないのだと。
長女であるウーノのようにナンバーズの頂点にいるわけでもなく、ドゥーエのように教育についているわけでもなければ、チンクのように妹と普段から一緒に過ごしているわけでもない。


(ドクターに諭されるまで気づかなかったとは・・・・・・私の目は節穴かっ!)


姉には妹たちを導く義務がある。
それが今の世界に背く道であったとしても。


――などと言ったところで、トーレが全裸で仁王立ちしているという事実は隠しようがなく、詰まるところ彼女は一体どうやって妹たちと仲良くなればわからない、不器用な姉であるというだけなのだ。


「――――トーレ?」

「チンクか」


そんな彼女に声をかけたのは銀髪の少女、No.5 チンク。
見た目とは裏腹にナンバーズの中で現在最も姉らしい人物である。


「どうかしたのか? 何故入り口で仁王立ちしているんだ?」

「いや・・・・・・どうしたらいいのか悩んでいてな」


悩むなら脱ぐ前に悩むべきだった。トーレ、痛恨のミス。

だがこの状況を打破できるチンクが声をかけてくれたのは僥倖だった。









「ふぁ~~~~やっぱり温水洗浄は至福だなぁ」

「そうだね」


気持ちよさそうに間の抜けた声を出すセインと言葉は短いものの、気持ちよさ気に目を細めるディエチ。
戦闘機人であってもやはりお風呂は気持ちがいい。


「早くチンク姉も来ないかな?」

「すぐに来るって言ってたから、もうすぐじゃないかな」


セインのチンクを待ちわびる言葉。
それは姉妹仲良く湯に浸かりたいという気持ちもあるが、


(チンク姉のあたし以上に絶壁な胸が待ち遠しい・・・・・・)


No.6 セイン、性格的にも身体的にも中々姉扱いされないことが小さな悩みであった。

そんな彼女の願いは届いたのか、湯煙の向こう側に人影が見えた。



「待たせたな」

「チンク姉、もう少しでのぼせちゃうところだった、よ・・・・・・?」


湯煙の中から現れたのはチンクだけではなく、もう一人。


「・・・・・・」


ぺたぺた。


「・・・・・・」

「ん、あっ・・・・・・」


むにゅむにゅ。


「・・・・・・」

「セイン・・・・・・?」


ぺちぺち。


「・・・・・・」

「ん?」


もにゅもにゅ。


「――はんっ、羨ましくなんてないし!」

「お前が何をやりたいのか私には分からんのだが・・・・・・」


本当に困ったというような表情を見せるのはトーレ。

音で分かるとは思うが上からセイン、ディエチ、チンク、トーレの順である。何の音とは言わないが。


「うぅっ、チンク姉だけが頼りだよ!」

「どこを見て言っているっ?」


無遠慮なセインの視線から隠すようにチンクは両手で自分の体を抱きしめた。






「トーレと一緒に入るの初めてだね」

「そうだな・・・・・・たまには悪くない」


トーレはディエチの隣でセインとチンクの会話を眺めていた。


「セインはいつもみんな誘おうとするけど、トーレやクアットロたちは忙しいから誘えずに終わっちゃうんだ」

「・・・・・・そうか」

(確かに訓練中にセインを見かけることはあったが、そうだとは気づけなかったな・・・・・・)


妹の気持ちにも気づけないとは、確かに私は関わらなすぎたようだ――とトーレは反省する。


「――トーレ姉の胸なんて高速機動の邪魔になるだけでしょっ? 少しでいいから分けてよぅ・・・・・・」

「ボディスーツのおかげで不便はない。そしてデリケートな胸部をそんな気安く触るな」

「あう゛っ!?」


チンクから標的をトーレに変えたセインだったが、おっかない姉御の拳骨を受けて湯の中に沈んでいくのだった。








あとがき
前回に引き続きセイン活躍。ドクターの因子を使っているトーレに対してもセインは相性がいいようです。
次回から無印スタート・・・・・・とはいえあまり長くはありませんが。



[18853] 第7回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/22 10:35
新暦0065年 春
後にジュエルシード事件またはPT事件と呼ばれることになる物語が幕を開けてから少し経った頃、月で言えば5月の初め。



「彼女がアリシア・・・・・・いや、フェイトと言うべきなのかな」


巨大なモニターに映し出されるのは第97管理外世界『地球』その極東に位置する島国、日本――にある街、海鳴市――プレシア・テスタロッサが撃墜した次元航行船、それに積まれていたロストロギア ジュエルシードの落ちた場所である――で起きた二人の少女の戦闘。


――この少女はプレシアの求めていた愛娘、アリシアではない。生みの親であるプレシアがそう断じたのであれば、彼女はアリシア・テスタロッサではなく、アリシアのクローン・・・・・・プレシアが便宜上付けた名はフェイト。
プロジェクトFの名を冠する金色の少女。


名前は自分自身を世界に位置付けるために親が与えるものではあるが、個人的な意見としては名前などあればなんでもいい。
私の名が最高評議会に名付けられたものであるように(何を思って名付けたのかは知らないが)、娘たちの名前が番号であるように。


私は“ドクター”であり、ナンバーズは私の“娘”である。
だから、プレシアが彼女をフェイトと名付けたのならば、その名で呼ぶべきだろう。
たとえどんな名であろうとフェイトはプレシアの生み出した作品であり、アリシアの血肉を分けた人間であることに違いはない。


「・・・・・・時空管理局も動いている。彼らと接触するのは得策ではないな」


今回任に就くチンクとセインを含め、娘たちの存在は管理局に知れてはいない。
私の我が儘で、娘たちまで管理局に追われる存在になどしてたまるものか。

となればやはり鍵はフェイト。フェイトが時の庭園に転移するのを待つか、或いはプレシアがフェイトへ接触するのを待つしかない。


「しかしこの様子ではね・・・・・・」


管理局の介入から数日。
フェイトとジュエルシードを廻って争っていた少女(民間協力者。平均魔力発揮値が127万という才女)は管理局に協力するため管理局の艦に乗艦。
対するフェイトは使い魔と共に現地に潜伏しながらジュエルシードの探索を続けているようだ・・・・・・この状況ではフェイトは時の庭園に戻ることはないだろう。転移の際に管理局に補足されるとも限らないのだから。



「――やはり、チンクとセインを現地に送るしかないか」


できるなら時の庭園に直接送り込み、すぐ帰って来るようにしたかったんだが・・・・・・。





◇◆◇◆





「今回の任務の目的はプレシアとの接触。チンクとセインにはフェイト・テスタロッサを探索、発見後はフェイト、管理局双方に見つからないように監視を続けてほしい――必ずプレシアに辿り着くはずだからね」


「はい」

「了解っ」


大丈夫、彼女たちにとっては難しい任務じゃない。
だが、この不安はなんだ・・・・・・?
ただ単純に娘を外の世界に送ることに対するものなのか?


「セインちゃん、いつもみたいなうっかりしちゃダメよ?」

「大丈夫だよっ。何たってドクターが直々にあたしを指名してくれたんだからね」

(・・・・・・やっぱり、人間味なんて邪魔なだけね。こんなだからいつも任務に失敗するのよ)


・・・・・・私が娘を信頼しなくてどうする。
大丈夫。私の娘はそれぞれ個性的だが、優秀であるということは共通だ――多少、親馬鹿が入ったかもしれない。


「チンク、セインのことを頼んだぞ」

「ああ。だがそんなに心配せずとも、セインはちゃんとやってくれるさ」

「だといいがな・・・・・・」


そら、チンクは妹を信頼しているじゃないか。
トーレ、大丈夫。セインはできる子なんだから。


「私もついて行きたいけど、私の武装は隠密にはあんまり向かないから・・・・・・頑張ってね」

「おねーちゃんに任せとけっ!」


むむむ、私としてはヘヴィバレル自体がディエチには向いていないと思うんだが・・・・・・女の子にあんな物騒なもの持ってほしくはないよ。





「――それでは行って参ります、ドクター」

「行ってきます、ドクター」

「ああ。気をつけて」


・・・・・・娘を嫁に出すというのは、こんな感じなのだろうかっ?











作業記録 新暦 0065年 5月2日

No.5とNo.6は任務のため、第97管理外世界『地球』へ。
ドクターは新たなナンバーズの製作、“ゆりかご”の機械兵器の研究を並行して継続。
No.2は――――




「クアットロに教えられることは全て教えた――とは言えないけど、足手まといにはならないはずよ」

「そう・・・・・・予定通り、No.5とNo.6が任務から帰還次第、あなたには聖王教会に潜入、聖王の遺伝子を入手してもらうわ」

「親父も所詮は人の子。地位や名声、金や女、必ず欲望を秘めているもの――すぐに盗って戻って来ることにするわね」


――潜入準備はほぼ完了し、後は時期を待つだけ。


「ドクターの、私たちの夢のためにも――――妹たちのためにも、ね」

「時間を掛けすぎると、妹たちも戦闘機人とはいえあなたの顔を忘れてしまうかもしれないわね」

「あらあら。ならなおのこと急がなくちゃ・・・・・・クアットロにも、妹たちを大事にするってことを教えなきゃいけないし」


優しげな表情でそう言う彼女はただの人間の姉のように見えてくる。


「――いけないいけない。偽りの仮面を持つ私としたことが、仮面を付け忘れていましたわ」


私の視線に気づき、ドゥーエはそう言って悪戯な笑みを浮かべたのだった。


「ドクターや姉妹たちの前で仮面をつけるのは失礼よ。気をつけなさい」


・・・・・・何故、私はこんなことを言っているのだろうか。


「うふふ、そうね」


ほら、ドゥーエが楽しげに笑ってしまった。
・・・・・・まったく、ドクターが私たちに優しくし過ぎるのがいけない。
だから御側にいる私まで、姉妹たちを愛しく思ってしまう。



――戦闘機人は思えない思考の異常さに、私は気づくことはなかった。
それが当然のように思えてしまっていたのだから。










あとがき
なのはとユーノがアースラに乗艦したあたりからスタート。
この人数でも動かすの大変なのに、ナンバーズ全員揃ったらどうなるんだろうか。



[18853] 第8回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/23 17:19
「ドクター、チンク姉とセインからの定時連絡――――って、わっ・・・・・・」

「それは本当かいっ!?」


No.10、ディエチが姉からの定時連絡があったことを報告にスカリエッティのラボに入った際に見たのは、足の踏み場がないほどに散らばった何かの部品。


「って、おっとっと・・・・・・ああ、すまない。気を紛らわそうと試作機を弄っていたらこんなことになっていてね」


ドクターはそれに二、三度躓きながらも入り口、ディエチの側に歩み寄る。


(危ないなぁ・・・・・・)

「それで、どうだい? チンクとセインは」

「まだ任務開始から20時間。進展は――――」


ないよ、とクアットロやセイン、姉たちと話す時と同じ口調が飛び出しそうになっているのにディエチは気づいた。


「――ありません」

「そうか・・・・・・いや、そうだったね。まだ1日経っていないんだった」

(・・・・・・やっぱり、変な感覚)


ドクターと話しているとまるで姉妹たちと話している時のような、或いはそれ以上に何か、気安い空気が流れている気がすることがディエチには不思議だった。


「しかし少しやりすぎたようだ。ウーノがやってくる前に片付けなければな。忙しい彼女の仕事をこれ以上増やすわけにはいかない」


困ったようにスカリエッティは頬をかく。
――また。
確かにウーノを初めとして、ナンバーズは全員が“戦闘”機人だ。
だが戦闘以外の仕事、ウーノやクアットロは情報処理が主な仕事であるし、ウーノなどはスカリエッティの身の回りの世話をすることが最重要な仕事の一つである。
だというのに、そんなウーノの負担を減らすため、スカリエッティは既に散らばった部品を拾い集い始めていた。


「――おや、手伝ってくれるのかい?」

「これぐらいなら、私にもできます」


できるから、と勝手に動こうとする口を疎ましく思いながらも、ディエチは最早ガラクタにしか思えないソレを拾い集め始める。



(ジェイル・スカリエッティ。愛娘ディエチとの初めての共同作業ですっ!)

(・・・・・・何かまた変な感覚が)



親の心、子知らず。
或いは知らぬが仏。





◇◆◇◆





「――いけないわねぇ、ディエチちゃん。創造主であるドクターと私たちを一緒にしちゃ」

「分かってる・・・・・・分かってるけど」


妹たちの相談役であるチンクが居ない今、ディエチの相談相手はNo.4 クアットロしかいなかった。


(ドクターにはもう少し下の子たちに対して厳しくしてもらおうかしら? ドクターの作品をどう扱おうとドクターの自由だけど、これからの作戦に支障が出たら問題だし――)

「――そもそもディエチちゃんがドクターと話す機会なんてそんなにあったかしら?」


セインやディエチは特に決まった教育担当がいなかったが、チンクを初めとした姉たちが四苦八苦しながらも教育をした。
二人の教育は姉たちに一任され、ドクターはずっと研究。
会う機会など、最近までほとんどなかったはず。


「たまに会うとドクターが話しかけてくるから」

「・・・・・・なるほどね」


ドクターが何を考えているのか。彼の因子を持つクアットロにも彼の全てなど理解できていない――もしかしたら理解した気でいるだけで本当はまったく理解できていないのでは、という感覚に陥ることもある――――その通りである。


(ディエチちゃんがドクターのことを悪く思っていないのは間違いないし、ドクターを意識しているのならそれでいいわ。利用するだけですもの)

「クアットロはどうなの? ドクターと話してると変な感じしない・・・・・・?」


そう尋ねられたクアットロは一考する。
前述の通り、ドクターを理解できていないのではないかという感覚に陥るのはいつものこととして、変な感じ。


(そういえば、チンクちゃんとセインちゃんがいないし、遊ぶ相手が二人ともいないっていうのは変な感じね)


ディエチに言われてから初めて気づいた感覚。
そしてさらに思い出す。
チンクとセインを送り出す前も、送り出した後も心配そうな表情で何かをぶつぶつと呟いていたドクターを。

親の感情の変化に、子は敏感に反応する。
親が嬉しければ子も嬉しいし、逆に親が悲しんでいれば子も悲しくなる。

今のクアットロは気づいていないだけでまさしくそれと同じだった。

本人は絶対に認めないし、気づくこともないだろうが。


「クアットロ?」

「・・・・・・つまらないわね、なんだか」


今、クアットロが感じるのはただそれだけ。





◇◆◇◆





第97管理外世界『地球』 遠見市にあるとあるホテルの一室。


「・・・・・・なんだか寒気が」

「奇遇だな、姉もだ」


どうしたんだろう、と顔を見合わせ首を傾げる二人。


「――はっはーん、さてはドクターとクア姉あたりがあたしたちがいなくて寂しがってるんだっ」

「いや、それはない――――と思うぞ」


何故か自分たちを心配して狼狽えるドクターの姿が容易に想像できたが、そんなはずはないと一蹴する。


「慣れない環境なのだ。そういうこともあるだろう」

「ドクターやウー姉たちの所から離れるってのも初めてだしね」


なんだか新鮮だ、とセインは呟く。


「でもやっぱりドクターや姉妹みんなで一緒に居れた方がいいな」

「そうだな」


No.6 セイン。姉と違い、育った環境からは考えられないほど素直で明るく良い子であった。


「時空管理局が動いている以上、そう長くはないさ」

「犯罪者予備軍のあたしたちが言うのもなんだけどね」

「違いない」


いずれ戦うことになる組織が近くにいる。
だがそれを大して意識することなく、出張任務1日目は概ね平和だった。










あとがき
とりあえずこれで今居るナンバーズのことはそれぞれ書けました。
次回からチンク&セイン本格始動。
スカさんの影響を結構受けてる二人なので、あまりシリアスに偏らないでいけるかと。



[18853] 第9回
Name: アラスカ◆0e5b3aa7 ID:f6242140
Date: 2010/05/24 12:49
「ど どどど童貞ちゃうわ!」


そう、全てはドクターのその一言から始まった――――なんてことはなかった。
















「思っていたよりも早くフェイトを補足できてよかった」

『狼の使い魔の結界が厄介でしたが、戦闘機人システムに対応したものではなかったので対処は容易でした』


皮肉なものだ、君たちを戦闘機人としてつくったことが役に立つとは。


『予定通り、発見されぬように監視を続けます』

「ああ。よろしく頼むよ――――ところでセインはどうしてるんだい?」


モニターに映し出されるのはチンクだけで、セインは見当たらない。
できれば顔を見て、話したいんだが・・・・・・。


『セインは――――っと、今、終わったようです』


・・・・・・?


『――あ、ドクター。60時間ぶり~』

「元気そうだね――洗浄してたのかい?」


モニターに現れたセインの頬は上気し、水色の髪には水が滴っていた。
私の言葉にセインは恥ずかしそうに笑って、


『IS解除して上がったのが泥の上で・・・・・・』


ぐちゃぐちゃ、と溜め息を吐いた。


「ふふふ、君らしいな」

『・・・・・・うぅ。どうせあたしはまだ末っ子気分が抜けない駄目姉だよ』


そうは言ってないのだが・・・・・・何処に行ってもいつものセインと変わらないのが嬉しくなっただけだ。


「まだナンバーズが揃うには時間が掛かる。少しずつ、姉らしい君になっていけばいい。焦る必要はないさ」


ゆっくりと。
決して娘たちに大人にならざるを得ない状況に置きはしない。
ウーノやトーレも見た目こそ成熟した女性だが、ウーノは年齢でいえば14、トーレはまだ10なのだ。
まったくそんな彼女たちに私は何を求めていたのだろうか。
おねいさんが欲しいなどという理由でウーノを生み出して・・・・・・だが今はどうだ? 状況は一変した。出来たのは姉ではなく、娘。

だがそれでよかったと私は思う。
娘たちがいなければ私はきっと――――





『おっと、あんまりターゲットから目を離してもいけないや・・・・・・ドクター、ありがと』

「私は当たり前のことを言っただけだよ。根を詰めすぎないで、休む時はちゃんと休むように」

『うん――じゃあね、ドクター』


チンクにもよく言っておいてくれよ、とだけ伝えて私は通信を切った。







「・・・・・・ふ。今のはかなり父親らしかったはずだ」


思わず笑みが零れる。
今の私はまさに父親だった。
これなら腹を痛めて子供を産んだ母親であるプレシアとも対等に渡り合えるはず。
私の準備も整った・・・・・・未だに娘たちに父と呼んではもらえないがな!
ウーノたちに下の娘のことを頼んだの失敗だったかなあ・・・・・・全員、私のことはドクターだもんなあ・・・・・・はぁ。





◇◆◇◆





「ほとんど休息もとらずにジュエルシードの捜索とは・・・・・・これでは効率が悪くなるだけだ」


嘆かわしい。
彼女、フェイトが最後に食事を摂ったのは18時間前。
睡眠は10時間前に30分ほど。
戦闘機人である我々とて、効率良く動くためにエネルギーは必要だというのに。





「チンク姉、牛乳買ってきたよ~」

「ああ、ありがとう」

(あたしたちの身体的成長ってほとんど止まってるし、意味あるのかな・・・・・・? いやでも食べ過ぎたらあたしたちも太るし、身長ももしかしたら・・・・・・)


うむ、やはり栄養摂取は大事だ。
あまり長くこちらにはいられないのだから、出来るだけ今の内に飲んでおかなければ。


「――ところでセイン、ソレはなんだ?」

「えへへ、アイスクリーム。しかも三段っ」


・・・・・・ウーノに叱られそうだな、これは。
セインのことでクアットロが嘆くわけだ。
だがこれも個性、よいことなのだろう。


「ささ、チンク姉、一番上をパクッといっちゃって」

「あ、ああ・・・・・・」


初めて見るそれに少し戸惑いながらも少しだけ舐めてみた。
――甘い。それに、冷たい。


(せめてこのアイスぐらい胸に膨らみがあれば・・・・・・くぅっ、あたしも牛乳飲もうかなぁ・・・・・・)

「あっ、ほらチンク姉、アイスついてるよ」

「む・・・・・・」

(・・・・・・こんなチンク姉、ディエチやこれから稼働する子たちには見せられないかも)


姉としたことが・・・・・・いや、あまりセインを妹扱いし過ぎるのも可哀想か。
自分が姉らしくないのを気にしているようだしな。




「はむ・・・・・・それにしても頑張るね、あの子」

「今朝見つけたのでジュエルシードは漸く一つ。管理局の目を掻い潜りながらということを考えれば大したものだが・・・・・・」


まったく無茶をする・・・・・・ただの人間の少女でも、母親のためにならここまで頑張れるということか。


「・・・・・・ディエチには見せられないね。あの子、こういうのは嫌だと思うから」

「――お前も姉らしくなったな」

「そう?」


姉から見れば、お前もまだまだ可愛い妹のままだが。おそらくそれは永遠に変わらないよ、セイン。





「だが、まずは頬についたアイスを拭うことからだ」

「うっ、不覚・・・・・・」


それにやはりまだまだ一人前とは言えない。
この任務で少しでも成長できればよいが・・・・・・。








出張任務3日目。
ターゲットの補足に成功。
現地のモノに触れる。
アイスは甘くて冷たい。


相変わらず、平和な任務であった。









言い訳
今更ですが、原作ではドゥーエはセイン以下の妹と面識がなかったことに気づく。
この作品ではディエチまで面識がある、ということで御容赦ください。

あとがき
うちのチンクとセインの関係はこんな感じです。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.90974187851 / キャッシュ効いてます^^