◆介護業界は今後も失業者の受け皿になる?
医療・介護分野で働く人が増えている。総務省の労働力調査によると、今年3月は1年前からの純増数が02年1月の調査開始以来、最高を更新した。資格取得を後押しする政府の支援策が浸透している様子もうかがえる。それでも長らく人手不足が続き、未経験者の参入が相次いだ介護分野では、業界側が即戦力を求めるようになっており、必ずしもかみあっていない。
5月中旬。東京・池袋のハローワーク池袋で、昨年12月に建築会社の営業職を解雇されたという58歳の男性は、求人票を見ながら「もっと求人は多いかと思った」と肩を落とした。「体が動くうちは人の役に立ちたい」。そう考えてホームヘルパー2級の資格を取ったが、今のところ就職には役立っていない。
介護分野は、求職者1人に働き口がいくつあるかを示す有効求人倍率(3月)が1・24倍と、全産業平均(0・49倍)を上回ってはいる。しかし、ハローワーク池袋の石井克枝・統括職業指導官は「資格だけでなく、実務経験のある人を求める傾向が強まっている」と指摘する。
医療・介護分野で働く人は今年3月に約650万人に達し、前年より51万人増えた。全体的に給与が低いとされる介護業界は長い間人手不足に陥っていたが、08年秋のリーマン・ショック後は失業者の受け皿になった。業界側も人材の補充を優先し、経験や資格をそれほど問わなかった。
それが08年度末時点で約284万人だったホームヘルパー2級の有資格者が増えるにつれ、資格がなければ就職は難しくなっている。さらに最近は「教育係」の職員を置くコストがかかるとの理由で、有資格者でも未経験者は採用しない事業者が増えているという。資格を取るため勉強中という37歳の男性は「実務経験が求められると聞き、仕事が見つかるか不安だ」と話す。
ホームヘルパー2級は2~3カ月の研修で取得でき、有資格者はさらに増える見通しだ。石井さんは「未経験者の受け皿がどれだけ増えるかが懸念材料」と指摘する。
リーマン・ショック後、政府は次々と就業支援策を打ち出したが、いずれも失業対策の側面が強い。成長分野に絞って民間に事業委託し雇用を生み出す「重点分野雇用創造事業」(09年度2次補正予算)などは11年度までの時限措置だ。今後は着実に就業に結びつける仕組みが必要になる。
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男性が介護職に就くのは、女性より難しいという問題もある。今年3月の1年前と比べた就業者数の増加幅は、男性16万人に対し、女性は35万人。ハローワーク池袋でも女性は4~5件当たれば就職できるのに、男性は10~15件は必要という。
女性限定の求人は違法でも、事業者は女性を希望するケースが多いという。男女とも女性による介護を希望する利用者が多いからだ。料理が上手な男性でも、お年寄りが「息子にもしてもらったことがないのに……」と抵抗感を示す例もあるという。「介護は女性の仕事」という職業観も影響しているとみられる。【鈴木直】
毎日新聞 2010年5月24日 東京朝刊