西日本新聞

「ごめんね」頭さすり薬剤注射 豚7万4000頭処分 宮崎・川南町ルポ

2010年5月17日 01:23 カテゴリー:社会 九州 > 宮崎
家畜の埋設処分をするため掘られた穴に石灰を入れる重機(宮崎県提供)

 宮崎県で猛威を振るう家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」。感染、または感染が疑われる施設は100カ所を超え、殺処分の対象は牛と豚で計約8万2千頭に及ぶ。手塩にかけた家畜を目の前で処分し、忍び寄るウイルスの影におびえる‐。被害が集中する川南町は、豚だけで約7万4千頭が処分対象となり、農家の間に絶望的な空気も広がっている。胸を裂く叫びを聞いた。

   ■   ■

 子豚が吸い付くと、周りの水泡がつぶれて乳房が黒く染まる。痛いはずだが、それでも母豚は、つめがはがれた足で立とうとし、乳を飲ませようとする‐。

 「もう、こんなつらい光景は見たくない」。養豚場経営者(63)は、感染した母豚の様子がまぶたに焼きついている。

 最初は小さな異変だった。鼻と足から血を流している母豚2頭を見つけ、家畜保健衛生所に連絡した。そこから爆発的な速さで広がった。抵抗力が弱い授乳中の子豚は、前日の元気がうそのように翌朝はあちこちに転がっていた。

 数日後に殺処分される豚たちに手渡しでえさをやり、腹いっぱい食べさせた。処分が始まるまでの8日間をとても長く感じた。約700頭がいた豚舎は今、骨組みだけが残る。

 「疲れた。今後のことも考えんといかんが、今は希望が持てない」

   ■   ■

 「畜産は人の命をつなぐために動物の命を奪う仕事。でもこんな形はいやだ」。別の養豚場経営者(61)は、数日前に約600頭を処分した。

 殺処分は鎮静剤、薬剤の順番で注射する。若くて経験の浅い獣医師は、針が血管にうまく入らず「ごめんね、ごめんね」と豚の頭をさすりながら2本目を打った。眠るようにしゃがみ込み、息絶える豚を見ていて、涙が止まらなかった。

 「これでもうウイルスを出す心配はない。迷惑を掛けんですむ」。すべてが終わり、悲しみと奇妙な安堵(あんど)を感じた。埋めた場所は自宅から歩ける距離。しばらくは毎日、お参りに行くという。

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 「きょうも何とか生き延びたか」。豚約7千頭を飼育する遠藤威宣さん(56)は毎朝の観察結果を聞き、こんな思いを繰り返す。「あの農場が検査に出したそうだ」。感染疑いを調べる遺伝子検査の情報が入るたびに身を削られるようだ。

 遠藤さんは町内のJA尾鈴(おすず)の養豚部会長。世話役として動き回る立場上、ウイルスを持ち帰る危険があり、自分は農場に立ち入れない。子豚は乳を飲んでいるか、熱はないか…。観察を任せた長男の太郎さん(33)が日ごとに憔悴(しょうすい)していくのが分かる。もし感染した場合に、従業員8人をどう処遇するかも悩む。

 遠藤さんは、振り絞るように言った。「今一番大切なのは農家を安心させること。私たちは『早く終息させるためにこうする』という国や県の方針を聞きたいんだ」

=2010/05/17付 西日本新聞朝刊=

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