- 第7章・報道
再審無罪が確定した菅家利和さんの足利事件は、捜査当局を犯罪報道の取材源の一つとしているメディアにも重い課題を突き付けた。なぜ、記者は黎明期だったDNA型鑑定の精度に疑問を持たなかったのか。「自白」から全面否認に転じた菅家さんに、どうして真正面から向き合おうとしなかったのか。下野新聞が報じた足利事件を当時の担当記者らの証言などから検証し、冤罪事件を教訓にした今後の事件報道の在り方や姿勢を探る。
- 第6章・誤判
DNA型鑑定の証拠能力が否定され、「自白」も虚偽だったとして3月に再審無罪判決が確定した菅家利和さん。足利事件の逮捕状発付から公判を担当した裁判官は、一審宇都宮地裁から再審公判まで20人を超える。なぜ、法の番人たちは検察や警察の誤捜査をチェックできなかったのか。どうして菅家さんの真実の訴えに耳を傾けなかったのか。固く口を閉ざす現職や元職の判事らを追い、菅家さんの17年半を奪った誤判の原因や背景、司法界の体質に迫る。
- 第5章・鑑定
足利事件で再審無罪が確実な菅家利和さんをめぐる鑑定は、捜査段階のDNA型鑑定をはじめ菅家さんを「犯人」に導く補強証拠にもなった。一審公判中の精神鑑定は菅家さんの「心」を本当に解明したのか。法廷供述の分析から菅家さんの「自白」を疑問視することはできなかったのか。刑事鑑定の課題や可能性を探った。
- 第4章・弁護
26日の足利事件再審判決公判で無罪が確実な菅家利和さんには、1991年12月の逮捕直後から弁護人が付いていた。捜査・一審公判段階の弁護活動にどのような問題があったのか。菅家さんが第1回公判から全面否認した控訴審でも、DNA型鑑定が絶対視されることはなかったのか。菅家さんをめぐる弁護活動の功罪を検証する。
- 第3章・自白
足利事件で再審公判中の菅家利和さんの取り調べ録音テープが21、22日に宇都宮地裁で再生され、一審公判中の検事調べに否認そして「自白」へと揺れた当時の生々しいやりとりが法廷で再現された。なぜ、捜査段階で菅家さんはやってもいない犯行を「自白」したのか。どうして捜査当局は虚偽自白を見抜けなかったのか。冤罪の温床とされる「密室」の取り調べやずさんな裏付け捜査の実態を検証する。
- 第2章・妄信
足利事件で無期懲役刑が確定し服役中だった菅家利和さんが、6月に釈放される最大の要因となったDNA型再鑑定。菅家さんの無罪が確実な再審公判で再鑑定人は科警研の旧鑑定の証拠能力を否定した。黎明期だった「科学捜査」の問題点や捜査当局が旧鑑定結果を妄信した背景を検証する。
- 第1章・捜査
足利事件発生から1年半後の1991年12月、殺人・死体遺棄容疑で菅家利和さんが県警に逮捕される。菅家さんはどのように捜査線上に浮かんだのか。捜査当局はなぜ、「犯人」としたのか。冤罪の温床とされる見込み捜査の実態や組織捜査の課題を検証する。
- 序章・発生
1990年5月、足利市で松田真実(まつだまみ)ちゃん(4)が殺害された「足利事件」。黎明期のDNA型鑑定結果と「自白」で逮捕された菅家利和(すがやとしかず)さん(63)は無期懲役囚となり、再鑑定による不一致で今年6月に釈放されるまで17年半も自由を奪われた。なぜ、誤鑑定は起きたのか。虚偽自白はどのようにつくりだされたのか。誤判を繰り返す刑事司法のあるべき姿とは。DNAの二重らせん構造のように、捜査や裁判のミスが複雑に絡み合い悲劇を生んだ冤罪事件。その全貌の検証と再審初公判を前に、短い生涯を終えた真実ちゃんと家族の足跡をたどった。