清算には約1400兆円不足
以上で計算した要支払額を合計すれば、366.5+1029=1396兆円となる。
他方で、積立金残高は、130兆円だ(2007年度末。時価ベース)。したがって、差し引き1266兆円の不足となる。
いうまでもないが、上記の結果は、さまざまな仮定に依存する。
まず問題となるのは、割引率だ。上で計算したことから、割引率が2%の場合の要支払い額の合計は、304+547=851兆円となる。割引率を高く想定すれば、要支払額は少なくなる。ただし、現在の長期国債の利回りが1.3%程度であることを想定すれば、割引率としては2%未満の値を用いるべきだろう。したがって、851兆円は、かなり保守的な見通しと言える。
また、今後の賃金がどのように推移するかで、将来受け取れる年金額は変わる。ここで行なった計算は、賃金上昇率がゼロの場合に相当すると考えることができる。
しかし、現実的な値を想定する限り、現在の厚生年金制度をいまの積立金で清算するのが到底不可能であることは間違いない。ここでの計算は仮想上のものであり、厚生年金の清算という事態が実際に生じるわけではない。したがって、細かい仮定に拘泥しても、あまり意味はない。重要なのは、「厚生年金を清算することはできない」ということだ。
できない以上、継続せざるをえない。現在の日本の公的年金は、「止めようとしても止められないから続ける」という(よく考えてみればそら恐ろしい)状態にあるのだ。
そうであるからこそ、長期にわたって財政破綻が生じないように、細心の注意をはらうべきなのだ。これまで見てきたことから明らかなように、財政検証は、その責務を果たしていないと言わざるをえない。
財政赤字にカウントすべきか
現在、国の一般会計の財政赤字が問題とされている。しかし、財政赤字の問題を考える際には、定義が問題だ。国の一般会計赤字が財政赤字であることは間違いないが、政府が抱えている赤字は、これに限定されるものではない。
ここで推計した厚生年金の不足額は、政府が将来支払うと事実上約束している額と、現在保有している資産額(積立金額)との差だ。したがって、広義の財政赤字と考えることができる。
企業年金では、これを「年金債務」とカウントすべきこととされている。日本航空の場合にも、これが問題になった。だから、当然国の場合にも同じ考えでの「年金債務」が考えられてしかるべきなのである。
ここで計算した赤字額は、実際に債務とカウントされている額(国と地方をあわせた長期債務残高は、2009年度末に816兆円)とほぼ同額、あるいはそれを超える額である。