野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
【第71回】 2010年5月22日
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野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]

破綻確実の年金が清算できない理由は、
国の財政赤字さえ超える年金債務のため

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現在の保険料支払い者に関する清算

 現在の保険料支払い者のグループに属するのは、20歳から65歳までの人で、現在厚生年金に加入し、保険料を払い続けている人たちである。

 厚生年金制度をいま止めるとすれば、これまで支払った保険料に相当する部分を返却する必要がある。それがいくらかを評価するには、つぎの2つの考え方がありうる。

 第1は、過去に支払った保険料の現在値とすることだ(この場合、雇用主負担分も含めるか否かが問題となるが、雇用主負担分は賃金の変形と考えられるので、含めるのが適切だ)。

 第2は、将来受給できると期待できる年金額の割引現在値とすることだ。

 ここでは、第2の考えを用いることにする。

 この人たちは、65歳になったとき年金を裁定され、それを22年間受給する。裁定額がいくらになるかは、今後の賃金の動向に影響される。ここでは、簡単のため、現在の受給者の平均額が期待できるとしよう。

 現在の厚生年金の老齢退職年金受給権者総数は1200万人である(2006年度末)。他方、給付総額は、上で見たように34.9兆円だ。したがって、1人当たりでは、年間290万円である(*1)

 ただし、現在時点で年金を止めた場合に、すべての人がこれだけの年金を得られるわけではない。なぜなら、保険料納付年数が少ないからだ(*2)

 ここで、簡単化のため、加入者は20歳から65歳まで一様に分布しているものとしよう。その場合には、すべての加入者を、20+(65-20)/2=42.5歳の人で代表させることができる。そして、290万円の半分、すなわち145万円を、21年間受給できると考えればよい。したがって、1人当たりの額は、割引率をゼロとすれば、145×21=3045万円である(ちなみに、これは、普通の家計が保有する最大の資産だ)。

 ところが、加入者の総数は3379万人だ(06年度末)。したがって、割引率をゼロとすれば、総額では1029兆円になる。

 割引率がゼロでない場合には、つぎのようになる。

 現在42.5歳の人は、いまから22.5年後に年金を裁定されて受給者となり、43.5年後まで受給する。

 割引率が2%の場合、22.5年後の1の現在値は0.64であり、43.5年後の1の現在値は0.42である。したがって、この人の受給総額の現在値は、3045×{0.42+(0.64-0.42)/2}=3045×0.53=1614万円となる。

 したがって、加入者全体では、545兆円だ。

*1 繰り上げ繰り下げを除く厚生年金の老齢、退年相当の平均年金額は200万円とされている。

*2 制度上は、20年間保険料を支払わないと受給資格が発生しない。しかし、ここで想定しているのは通常の受給ではないので、支払い年数のいかんにかかわらず、支払い年数に応じた額の年金が支給されるものと考える。

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野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『「超」整理法』シリーズ、『資本開国論』『モノづくり幻想が日本経済をダメにする』等がある。 野口悠紀雄ホームページ

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