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所長
神浦元彰
軍事ジャーナリスト
Director
Kamiura Motoaki
Military Analyst

English Column of This Month!VOICE OF Mr.KAMIURA

Re:メールにお返事

日本や世界で現在進行形の最新の軍事情報を選別して、誰にでもわかるような文章で解説します。ホットな事件や紛争の背景や、将来の展開を予測したり、その問題の重要性を指摘します。J-rcomでは、日本で最も熱い軍事情報の発信基地にしたいと頑張ります。(1999年11月)

2010.05.24

 魚雷のメインは艦底起爆式です 

届いたメール
>魚雷のバブルジェットは、魚雷が目標を外れた場合、敵艦の磁気を感じて爆発させる装置が働いたもの。あくまで魚雷は命中した方が威力が桁違いに大きい。機雷や爆雷は最初から水中爆発のバブルジェットで攻撃するが、魚雷はまず命中させることを最優先される。

根本的に魚雷のメカニズムを誤解なさっておいでです。

魚雷は命中した場合、爆圧の大半が上方に逃げてしまい(これが「水柱」を形成します)、十分な効果を上げません。

そして成形炸薬は水上魚雷には用いません。なぜなら成形炸薬のメタルジェットは、わずかな空隙で効果が激減するからです。

HEAT弾対策はスペースドアーマー、というのは戦車防御の常識ですが、第二次大戦中には金網程度で大きな防御効果が得られることがすでに判明しており、ドイツ軍戦車がそういう防御を施してある写真は多数存在します。

さて話を艦船に戻しますが、艦船は戦車よりずっとスペースに余裕があります。防水区画一つあれば、それがスペースドアーマーの役目を果たすため、成形炸薬の効果は極めて限定的なものになってしまうのです。

それに比べれば爆圧の大半を破壊に結び付けられる艦底起爆式(=磁気信管)の効果は非常に高く、第二次大戦中には直撃ではなく艦底起爆をメインに考えた魚雷が多数実用化されています。

日本海軍も水中で「凧」を引っ張り、この凧が敵艦に接触=魚雷本体が敵艦の艦底をくぐりぬけた瞬間に起爆するシステムを開発しています。現代の魚雷は、艦底起爆がメインで直撃=接触信管がサブ、というのが主流ですよ。
さらにもうひとつ、成形炸薬では破壊力が一方向に収束するため、巨大なバブルの形成には向きません。つまり艦底起爆と成形炸薬は本質的に相容れないものです。

では神浦さんがなぜ魚雷は成形炸薬を用いるもの、と誤解なさったかというと、おそらく短魚雷で採用されているからでしょう。

短魚雷は対潜が主任務であり、この場合は目標が潜水艦であるため、成形炸薬のモンロー効果が非常に有効です。

孔が一つ空くだけで潜水艦には致命傷ですから。

いわゆる複殻式の潜水艦については複殻がスペースとなるため威力が減殺されますが、それでも内殻にわずかでも傷がつけば、そこに水圧が集中するため潜航能力は激減します。対潜水艦に関しては成形炸薬弾は非常に有効なのです。
コメント
私は逆に考えていました。船体から離れた場所の艦底(水中)爆発では爆発エネルギーが外部に拡散し、空母のような大きな艦艇では致命的な被害が与えられない。しかし成形炸薬ならモンロー効果で船内の隔壁やキールなどに直接ダメージを与えることができる。

敵艦の機械音やスクリュー音に追尾する音響魚雷なら、敵艦の船体に命中弾を与えやすい。しかし敵艦がソナーで魚雷の接近を探知し、機関を停止し、スクリューを停止し、さらに船首(水上艦)を魚雷の方向に向ければ、魚雷は目標を見失ってしまう。あるいは偽音源の放出などの対抗策を取られた場合。それで磁気信管を組み合わせ、魚雷が敵艦の下を通過した際に爆発できるようにセットした。

そのように私は考えました。

1発の魚雷の炸薬250キロで、大型艦に致命的な損傷を与える魚雷であるなら、浸水口を開いて内部の隔壁やキールにダメージを与える方が魚雷の目的に向いていると考えました。

ご指摘ありがとうございます。

もう一度、魚雷のことを調べ直します。
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