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沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、政権交代後8カ月の迷走の末、結局、振り出しに戻った。
鳩山由紀夫首相はきのう、沖縄県を再訪し、名護市の「辺野古付近」に代替滑走路をつくると初めて明言した。
移設場所や工法の決定は先送りされるが、環境影響評価をやり直さないという米国政府との大筋合意に従えば、現行案の微修正にとどまるのは確実だ。実質的に現行案への回帰である。
「最低でも県外」という公約との「落差の大きさ」には、仲井真弘多知事ならずとも目がくらむ。
首相の公約に力を得て、国外・県外移設要求でまとまった県民の失望と怒りは察するに余りある。知事が首相に「大変遺憾。(受け入れは)大変厳しい」と言ったのも当然である。
辺野古沿岸部の埋め立て案を「自然への冒涜(ぼうとく)」とまで言って拒否する姿勢を見せてきた首相への県民の信頼は、地に落ちるだろう。
今回の結論を出した理由として、首相はきのうも在日米軍の抑止力をあげた。北朝鮮による韓国の哨戒艦撃沈ひとつとってみても東アジアの安全保障環境は不透明だ。中国の軍拡も進む。
しかし、海兵隊の抑止力の実態ははっきりせず、専門家の評価も一様でない。安全保障の根本の議論抜きに、「あれも無理」「これも駄目」と、移設先探しに行き詰まった揚げ句、現行案に戻ったのが実情だ。今更、抑止力という言葉だけで沖縄県民を説得しようとしても力はない。
首相は基地の負担を引き続き求めざるをえない分、訓練の本土移転や米軍の訓練区域の一部返還などで、トータルとしての沖縄の負担軽減に取り組む方針を強調した。しかし、帳尻合わせに訓練は形ばかり県外で、という逃げの姿勢なら許されない。
首相が本当に語るべきは、沖縄の基地を将来的にどう減らしていくのかという構想と戦略である。それを示し、再度の努力を始めなければならない。
沖縄のこれほどの反発を考えれば、米国と大筋で合意したとはいえ、2014年までの移設完了という日程通りに事が進むかどうか疑問符がつく。
地元の名護市議選や沖縄県知事選が年内にあり、結果次第では辺野古移設への逆風が一層強まる可能性もある。海兵隊8千人のグアム移転が滞り、普天間の継続使用という展開になるなら、沖縄の負担軽減と危険性の除去というそもそもの目的もかなわない。
首相はきのう、仲井真知事に念を押され、「これが終わりとは思っておりません」とはっきり言った。
時間をかけてでも、まず沖縄との信頼関係を築き直す。全国知事会などの場を通じ、負担の分かち合いの必要を全国民に訴える。険しい道のりだが、その先にしか打開の手がかりはない。
高速道路の新料金制度の6月実施を前原誠司国土交通相が断念した。このさい、つぎはぎ細工はやめて問題点を洗い直し、地球温暖化対策という新しい観点も盛り込んで、根本から設計をやり直したらどうか。
「実質値上げ」になる新料金制度に対しては、与党内から「夏の参院選への影響が大きい」との懸念が高まり、国会審議が止まっていた。
前原氏は実施時期をずらしてでも法案成立をめざす考えのようだが、参院選をやり過ごしてから法案を通すようなやり方は許されまい。
前原氏だけでなく、鳩山政権と民主党は、じっくり考え直してほしい。
第一は、民主党が政権公約の目玉の一つとしてきた「料金原則無料化」を見直すことだ。高速無料が多かった欧米諸国でも、近年は財政や地球環境の観点から有料化を選択する例が増えてきた。鳩山政権も無料化へのこだわりを捨て、時代に合った料金政策を模索すべきだ。
6月からは予算1千億円をつぎ込んで37地方路線での無料化の社会実験が始まる。そこでは、温室効果ガスの大幅削減方針との矛盾や、鉄道やバスなど公共交通機関への影響などにもきちんと目を向けてほしい。巨額の予算を投じる価値があるかどうかという財政の視点も欠かせない。
第二に、割引財源を道路建設に回すのはやめるべきだ。これは「無駄な道路建設をやめる」という道路公団改革の趣旨に反している。建設が必要な道路があれば予算案に載せ、堂々と国会で審議するのが筋だろう。
元々は選挙対策を重視する小沢一郎民主党幹事長が要望したことだが、制度をゆがめてはならない。
第三に、高速料金の是正は道路各社の経営努力によって実現する、という原則を確認してほしい。道路公団民営化はそれが狙いだったはずだ。このまま税金投入で値下げを繰り返すやり方を続けるなら、道路会社の前向きな経営努力は期待できなくなる。
その意味では、道路債務を45年間で全額返済するという道路民営化の枠組みを見直すことも考えたい。2050年以降の高速道路は無料という発想を変えて原則有料にすれば、現在の利用者の負担を軽くできる。道路会社の経営の選択の幅も広がろう。
新料金の実施見送りで、当面は「休日上限千円」の割引が続く。それが期限切れとなる来年3月末に向けて、こんどこそ持続可能な新料金体系をつくってほしい。
ETCを活用すれば、地域の実情に応じて渋滞をできるだけ減らすようにきめ細かく設計する時間帯別、地域別の料金体系をつくることもできる。民営道路会社の経営努力は、そういう面でこそ発揮されるべきではないか。