宮崎県で家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が多発している問題で、国の特例措置で西都市に避難していた「宮崎牛」のエース級種牛6頭のうち1頭が口蹄疫に感染した疑いがあることが、21日分かった。2回の遺伝子検査でいずれも陽性を示したという。6頭は、県家畜改良事業団(同県高鍋町)が宮崎牛ブランドを守るため生産している人工授精用の冷凍精液の約9割を賄っており、仮に感染が判明すれば、宮崎牛ブランドに致命的な打撃となるのは必至だ。
県はこの1頭を殺処分する方針。残り5頭の扱いについては、農林水産省と協議している。
県が避難させた種牛は「福之国(ふくのくに)」、「勝平正(かつひらまさ)」などの6頭。6頭を管理していた県家畜改良事業団は、感染農家から半径10キロ以内の移動制限区域内にあるが、県は13日、ブランド保護の観点から、事業団から北西に約24キロ離れた西都市の簡易畜舎に、特例で避難させた。この時点で県は6頭について「感染の疑いがないことが確認された」としていた。
だがその2日後、同事業団で感染が確認され、次代を担う種牛49頭を含む308頭が殺処分された。
また21日には、6頭が避難した西都市でも感染疑いのある牛が発見された。この牛が発見された農家は、種牛が避難している簡易宿舎から約20キロ離れており、県は当面、6頭を簡易宿舎にとどめる方針だった。
6頭は避難から1週間後の経過観察では感染を確認できなかったが、その後に感染疑いが出た形だ。ただ、農林水産省によると、6頭は1頭ずつ隔離された状態で管理されており、1頭の感染がただちに6頭全体に拡大するとは限らない。
宮崎県の東国原英夫知事は21日夜、県庁で記者会見し「農家の思いを考えると沈痛だが、強い決意のもと、国の決定に従う」と述べ、政府の追加支援策とワクチン接種を受け入れた。22日から接種を開始する。
追加支援策は▽殺処分する家畜の農家に支払う奨励金は、家畜を個別に評価し評価額の全額を支払う▽飼育再開までの生活支援費や処分までの飼育コストを国が負担--など。山田副農相から支援策の提示を受けた東国原知事は、地元町長らとの協議の上、ワクチン接種と殺処分を受け入れた。
知事は会見で「農家の皆さんに負担をかけ断腸の思いだが、ぜひ理解と協力をお願いしたい」と強調。さらに「補償については懸念も残っている。今後も国と協議していかなければならない」と述べた。
ワクチン接種後に殺処分--。家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)問題で、宮崎県は21日、国の新たな防疫対策の受け入れを表明した。健康な家畜も含めて処分するという「苦渋の決断」。記者会見した東国原英夫知事が、記者会見で思わず声を詰まらせる場面もあった。
普段は明るい「宮崎のセールスマン」が涙ぐんだ。午後9時20分過ぎから県庁で始まった記者会見。東国原知事は「必死になって努力されている農家の皆さんに、極めて大きな負担をかける。本県、ひいては日本の畜産を守るために断腸の思いでありますが、ぜひとも理解と協力をお願いしたい」と訴えた。
ワクチンを接種された家畜は、全頭が殺処分される。対象となる「口蹄疫発生地から10キロ圏内」には、牛だけで約7万9000頭もいる。東国原知事は「農家の思いを考えると沈痛だ」と思いを寄せる一方「強い決意の下、国の決定に従ってワクチン接種を実施したい」と強調。自ら接種の現場に立ち会う考えも示し「お礼とおわびを申し上げたい」と神妙な表情で語った。
地元自治体の首長らとの協議で「さまざまな意見が示された」とあえて披露し、地元の苦しみを強調した知事。会見では鳩山由紀夫首相に対し「農家の思いをしっかり感じて、国民にメッセージを発してほしい」と、切々と訴えた。会見に同席した山田正彦副農相はワクチン接種と殺処分に「お許しいただきたい」と神妙な表情を見せつつも「ここは思い切ってやらなければ封じ込められない。一刻も早く(接種を)という気持ちだ」と、農家側の協力を求めた。【古田健治、、石田宗久、小原擁、澤本麻里子】
2010年5月22日