事実上の「非実在青少年」表現規制か──都条例改正案に批判相次ぐ
5月20日14時45分配信 ITmedia News
Ustライブも行われた会場。ちょうど3年前には「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が開かれた |
「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」(代表・藤本由香里 明治大学准教授、山口貴士弁護士)が主催。漫画家の竹宮惠子さん、山本直樹さんや、宮台真司 首都大学東京教授、出版社や同人誌即売会、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、谷岡郁子参院議員(民主)、都議らが出席し、改正案の問題点や現場からの報告、社会学的な考察、マスメディアによる報道のあり方までさまざまな発言があり、会場の豊島公会堂(池袋、定員800人)は満員だった。
●焦点の6月議会
都が今年2月に都議会に提出した青少年育成条例の改正案では、漫画やアニメなどの登場人物のうち「18歳未満として表現されていると認識されるもの」を「非実在青少年」と定義。非実在青少年による性交などを「みだりに性的対象として肯定的に描写」し、かつ「強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもの」を不健全図書に指定できるようにした。
これに対し「漫画・アニメに対する表現規制だ」と反対する声が高まり、里中満智子さんや永井豪さん、ちばてつやさんら漫画家も多数が反対意見を表明。携帯電話のフィルタリング強化も盛り込まれていることから、ネット企業からの反対も相次ぎ、都議会は「議論が十分ではない」として継続審議を決めた。
改正案の審議は6月の定例議会で改めて行われる。5月18日には、都議会総務常任委で参考人招致が行われ、宮台教授ら2人が反対の立場、前田雅英首都大学東京教授ら2人が賛成の立場から意見を述べた。(TOKYO MX「都議会 性描写規制案めぐり参考人招致」)。
●市民の“悪書狩り”を奨励?
イベントはこうした状況の中、「マスコミの誤った報道もあり、情報が錯綜している。正しい情報、現場からの具体的な声を伝えるために」と企画された。藤本准教授は「賛成かではなく、この条文に問題がないのかというところに着眼点がある」と説明する。
山口弁護士は、都が公表した改正案についてのQ&A集について、「担当者は誠実に回答しているのかもしれないが、法的拘束力はなく、担当者が変わっても後任者への拘束力もない。あくまで重要なのは条文の中身だ」と指摘する。
改正案では、不健全図書指定に加え、非実在青少年による「性行または性行類似行為」を「みだりに性的対象として肯定的に描写」することで「青少年の性に関する健全な判断能力を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれのあるもの」(8条の2)について、出版社に対し「青少年が閲覧し、または閲覧することが適当でない旨の表示」(いわゆる「成年マーク」など)をするように「努めなければならない」としている(9条の2)。
山口弁護士は「18歳未満に見えるキャラクターは『非実在青少年』。設定上、18歳以上であっても18歳未満に見えれば非実在青少年になる。BL(ボーイズラブ)を含め、ベッドシーンなどがあれば十分該当する。性交について『やっちまったー』などと後悔していない限りは害してしまう(苦笑)」として、「18歳未満に見えるキャラクターが性交・性交類似行為をする作品はすべてゾーニング対象になる可能性がある」と指摘する。
加えて、山口弁護士は「都は条例の本当の意図を隠している」とみる。注目するのは「児童ポルノの根絶および青少年性的視覚描写物のまん延防止に向けた都の責務」を定めた18条の6の2だ。「青少年性的視覚描写物のまん延防止」という文言は今回の改正案で追加された。「青少年性的視覚描写物」には、「非実在青少年」が性的対象として扱われているものを含む。
山口弁護士によると、「まん延」という語が使われている法律を探したところ、狂犬病予防法など、伝染病などの感染防止・撲滅を目指す法律だという。「なんとなく都の意図が見えてきた。青少年性的視覚描写物をなくすことが目的ではないか」
さらに18条の6の2では、「都は、事業者および都民による児童ポルノの根絶および青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援および協力を行うように努める」としている。山口弁護士は「つまり規制推進派は、都のお墨付きを得た上で表現弾圧運動ができるということだ」と指摘し、都が直接手を下さず、いわば市民による“悪書狩り”を進めるのが本当の狙いではないかとした。
「児童ポルノと同様に、存在してはいけないものとみなしている。よほど気骨のある出版社ではないと表現は萎縮することになる」
●出版社・同人誌イベントは自主的に取り組み
出版各社の業界団体・日本書籍出版協会の西谷隆行さんは、現行条例に基づき業界で自主規制に取り組んだ結果、不健全指定される図書は毎月2〜3種類程度にとどまっていることを紹介。「過激化している事実も、野放しになっている事実もない。強姦などの表現への対応も現行の条例で十分可能だ」として、「今以上の規制は必要ない」と話した。
「都は『販売規制であって表現規制ではない』というが、販売規制されるものを出版社が作るだろうか」と都の見解にも納得できないとした。出版労連(日本出版労働組合連合会)からは、異議申し立ての方法がないことについて批判があった(出版労連は藤本准教授らを招き、25日に集会を開く)。
同人誌即売会イベントの主催者らで構成する全国同人誌即売会連絡会の中村公彦さん(コミティア実行委員会代表)は、同人誌即売会はサークル(売り手)による対面販売を原則としており、同人誌の内容によっては買い手に対して年齢を確認できる身分証などを見せてもらっているなど、ゾーニングに注意を払っている現状を話した。
改正案について同人誌ファンの関心は高く、5月の連休中に開かれた「SUPER COMIC CITY」では、アンケートに対し約2万サークルのうち7割から回答があったという。「関係者は高い意識を持って関わっている。どうして規制を増やすのか、疑問に思っている」とした。
●「有害ではないものも遮断しかねない」
改正案では、青少年のインターネット・携帯電話の利用についても規制の強化しており、事業者らにフィルタリングの強化などを求めている。
民間で携帯向けサイトの審査を行うモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の岸原孝昌さんは、フィルタリングの強化を定めた条文が「有害ではないものもフィルタリングしかねず、デメリットが大きい」と指定する。「北野武さんの映画も該当しかねない。検閲にもなりかねない大きな問題だ」と批判。「表現の自由の問題だと思っている。青少年のためなら権利を侵してもいいということになりかねない」と話した
EMAの吉岡良平さんは、携帯電話事業者らが子ども向けにネットを安全に使うための教室を実施するなどの取り組みが、都が一定の指針を決めてしまうことで自由に行えなくなり、こうした取り組みが後退する恐れがあると指摘する。「努力しているところも、努力していないところもひとからげでは、努力しているところは萎縮してしまう」
●「PTAは賛成している」のか
新宿区で子育てをする漫画家の環乃夕華さんは、条例改正について個人的にネットで調べ、「東京都小学校PTA協議会」(都小P)が改正案に賛成していることを知った。子どもの学校に連絡したところ、少なくとも学校には知らされておらず、子どもの学校のPTA役員に聞いても誰も改正案のことは知らなかった。都小Pに問い合わせても返事はなかったという。
元日本テレビ記者で、小説「夏のロケット」などで知られる作家の川端裕人さんは、世田谷区でPTAに関わった経験から事情を解説する。都小Pは都内の小学校PTAの最上位団体だが、実際に都小Pに参加しているのは世田谷区など5区と檜原村、大島など4島の小学校PTA団体にとどまるという、全国的にも珍しい状態になっているという。「その意味でも、都小Pの代表者性は疑わしい」(都のPTAについて解説した川端さんのブログ記事)
小学校のPTAは各校−各ブロック−各区−都小Pというヒエラルキーを構成しており、「末端が意見を言っても届く可能性がない」。改正案についても区レベルのPTA連合に相談した形跡はなく、「形式的にやって形式的に決まっている可能性はある」とみる。
だが、行政が「保護者の声」として聞くのはこうしたPTAの上部団体の意見。上部団体の役員だけで決めたものが、賛否どちらであれ「保護者代表」の意見として採用し、主張の根拠となることについて「そこをはき違えるとモンスターと化す可能性もある」と話した。
●規制強化を求める“外圧”とは
翻訳家のダニエル兼光真さんは「まるでオーストラリアやカナダの話かと思うくらい」と改正案の厳しさを評しながら、「海外から批判がある」という“外圧”が規制強化の主張を補強していることについて、海外の声を紹介しながら考察する。
例えば「日本の性犯罪は少ない」と説明しても「女性専用車両があるくらいだから性犯罪があふれているに違いない」と反論されたり、BLなどを女性が愛好していることに対しても「日本の男性社会で抑圧された女性が現実の恋愛を回避している」と“分析”されることもあるという。
ポケットモンスターなど一部の日本製コンテンツに人気が集中し、日本の漫画・アニメ文化の全体が理解されていないことも背景にあるという。「『外圧があるから』ではなく、外圧の中身を見極めなければならない。一部が非難しているからといって全てがそうではない。日本のコンテンツを楽しんでいる人もいる」
最終更新:5月20日22時36分
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