きょうの社説 2010年5月24日

◎能登本まぐろ ブランド化に弾みつけたい
 石川県がブランド化を進める「能登本まぐろ」の天然ものの出荷が始まった。通常の相 場を上回る卸値が付き、水産石川の新たなブランド魚誕生への期待の高さがうかがえた。

 「能登本まぐろ」は、昨年10月に初出荷された蓄養のクロマグロと今年からの天然も のとを合わせて、ブランド化の取り組みが本格化することになっていた。しかし、漁獲低迷などから今季の蓄養事業が見送られ、県が想定していた通年販売は仕切り直しの状態になっている。それだけに、天然ものを大いに売り込んで、今後のブランド化に弾みをつけたいところだ。

 今年は「能登本まぐろ」の天然ものが初めて市場に出回る年であり、その評価が今後の ブランド化を左右する。市場での評価が高まれば、蓄養事業再開に向けての追い風にもなろう。あらためて今年を「ブランド化元年」ととらえて、品質の保持と知名度アップに努めてほしい。

 「能登本まぐろ」の対象は能登半島周辺を回遊し、県内の港に水揚げされた40キロ以 上の天然または蓄養のクロマグロとなっている。定置網からの捕獲の際に船上で血抜きと冷却を行い、体表に傷みのない高品質のものに限るとしている。

 厳しい基準をクリアすることで商品価値が高まり、産地間での競争力も強まる。逆に1 度、評判を落としてしまえば、回復するまでに長い期間がかかってしまう。鮮度保持や船上での処理技術の習得など課題は多いだろうが、丁寧な処理とともに高品質を維持する技術の向上が求められる。万全の出荷態勢で臨んでほしい。

 昨年出荷された蓄養マグロは計画を大きく下回る出荷にとどまったものの、売れ行きは 好調で、手応えを感じさせた。天然マグロの漁獲はこれからシーズン本番を迎え、7月上旬ごろまで続く。漁獲量や価格の推移に影響され、ブランドの確立は決して容易ではないが、人気の高いマグロは地域おこしや観光振興につながる可能性もある。能登沖の好漁場を生かし、石川を代表する水産物の一つとなるよう大きく育てていきたい。

◎英でMOX燃料加工 検査体制の一段の強化を
 北陸電力など原発を持つ国内の電力10社が、英国で行うプルトニウム・ウラン混合酸 化物(MOX)燃料の加工について、英原子力廃止措置機関(NDA)と大枠で合意した。英国で製造されたMOX燃料については、検査データの改ざんという苦い記憶があり、燃料の品質保証に万全を期してもらいたい。

 英国側との合意では、NDAの生産能力が不十分なため、電力10社が費用を負担して 燃料棒の製造ラインを改造するという。そうであればなお、燃料の品質保証について日本側の関与を強めてしかるべきであり、製造過程や完成した燃料の監査・検査体制を一段と強化してほしい。

 一方、経済産業省は青森県でのMOX燃料加工施設事業を許可した。北電はプルサーマ ル(使用済み核燃料の再利用)を2015年度までに導入する方針であるが、国内外で進むMOX燃料供給体制の整備に合わせて、電力各社は燃料調達を適正に進めるため、社員の監査・検査能力を高める取り組みを強める必要もある。

 日本の電力各社は現在、使用済み核燃料の再処理と、再処理で発生したプルトニウムを MOX燃料に加工することを英国とフランスに委託している。英国でのMOX燃料加工は、1999年に旧英国核燃料会社によるデータ改ざんが発覚して以来停止し、国内の原発のプルサーマルにはフランスのMOX燃料が使われている。

 データ不正事件も教訓に、電力会社がMOX燃料を輸入する場合は、社員を燃料加工施 設に派遣して製造システムを監査したり、第三者機関の評価を受けるなど、さまざまな品質確認措置が取られている。英国での燃料加工を再開するNDAとの合意は、そうした品質保証の取り組みを再確認し、強化するよい機会である。

 電力10社の費用負担額などNDAとの具体的な合意内容については公表されていない 。商業上の機密ということのようだが、原発事業は国民の安心感や信頼確保のため情報公開を原則とし、経営の透明度を高める努力が大事なことを指摘しておきたい。