米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり、23日に再来県する鳩山由紀夫首相に対し、県内では反発と警戒が強まっている。鳩山首相が掲げる「5月末」決着に向け、名護市辺野古沿岸部へ回帰する政府案の取りまとめを加速させているためだ。21日にクリントン国務長官と鳩山首相、岡田克也外相が会談したほか、4日連続で日米実務者協議を行い、28日発表予定の合意文書に向けて、既成事実を積み重ねる。一方、仲井真弘多知事や稲嶺進名護市長、連立を組む社民党、国民新党は、はしごを外されたまま進む「日米合意」に反発を強めており、首相がもくろむ局面打開への道筋は険しい。
19日、読売新聞が1面トップで、辺野古沿岸部を埋め立てる現行案に近い案で政府が調整し、非公式に県に伝えた模様だと報じた。
仲井真知事は「場所も特定しないで工法というのは意味がない。杭(くい)打ちだか何かはエンジニアの話で僕らの知ったことじゃない」と政府からの伝達を否定。知事周辺は口々に「何も中身がないまま、政府はどんどんこちらを追い込んでくる。信じられない」とあきれかえる。
仲井真知事は、今月10、11日に都内で会談した前原誠司沖縄担当相、北沢俊美防衛相、平野博文官房長官からも政府案の詳細を伝えられず、「食事はしても、協議は一切していない」と不信感を増幅させた。
4日の首相来県時には「県民大会の思いが率直な県民の声。公約に沿った解決策を示してほしい」、16日の普天間包囲行動後には「東京との温度差がありすぎる。県民の感覚と乖(かい)離(り)がある」と述べるなど、「県内移設反対」への比重を高めている。
報道される政府案の「辺野古回帰」が明らかになるにつれ、「民主党が反対する候補を当選させておいて、そこへ戻るというのはよほど難しい」と名護市長の反対を理由に、辺野古案は政治的に受け入れられないとの見解も示している(吉田伸)
名護、緊急集会も検討
名護市では、稲嶺進市長が同市移設に断固反対の方針を示す一方、辺野古移設容認派の動きが表面化している。辺野古区行政委員会は21日、現行計画の沖合移動や金銭補償などの条件付き移設容認を決議。大城康昌区長は「政府が条件を飲まなければ(決議を)はねのける可能性もある」と主導権が同区にあることを強調する。
政府関係者が水面下で容認派の有力者と接触したとの憶測も乱れ飛ぶ。ある野党市議は「県外移設を断念した鳩山首相は巨額の振興策を提示し、稲嶺市政をゆさぶってくる」と自信ありげに語る。
「先導しているのは振興策という夢の中にいるわずかな人たちだ」
稲嶺市長は容認派の動きをそう批判する。市幹部と与党連絡協議会は22日に対応を協議。鳩山首相が辺野古を明言した場合は、撤回を求める緊急市民集会を開く案も浮上した。
移設に反対する辺野古区民も、容認決議を「経緯や条件の中身についての説明がなく、総意ではない」と批判する。
「基地とリンクした振興策は虚像だった。市民はもうだまされない」
稲嶺市長は23日、鳩山首相にあらためて直訴する。(具志大八郎)
首相、県民歓迎と認識か
鳩山由紀夫首相は4日の初来県後、周囲に「自分はそんなに反対されたとは思わない」との感触を漏らしている。周辺によると「首相はむしろ歓迎されたと思っている」という。
4日は県庁前広場をはじめ、首相が立ち寄る各地で抗議行動が起きていた。しかし首相は「どこでも、同じ人が集まっている印象がある」と感じ、「車で走っているときは(沿道で)みんな手を振ってくれている。ほかの県を訪ねたときと比べてそれほど嫌われているとは思えない」と話しているという。
このエピソードを聞いた与党議員は「宇宙人にもほどがある。本当に石を投げないと分からないのか」と吐き捨てるように話した。
首相官邸には当初、4日を含めて5月中に3回、沖縄を訪れる算段もあった。政府関係者は「顔見せ―説明―合意という段取りが想定されていた」と明かすが、県民感情の実態を著しく見誤っていた印象はぬぐえない。
結局、23日の再来県を「5月中(の来県)は最後になろうかと思う」(首相の21日のぶら下がり会見)と位置づけたが、仲井真弘多知事、稲嶺進名護市長は態度を軟化させておらず、地元対策も場当たり的に臨んでいる印象が強い。(吉田央)