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特集:きょう「国際生物多様性の日」(その1) ケリー・フォウラー氏に聞く

 ◇「自然の恵み」後世へ 豊かさ、見つめ直そう

 5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」だ。地球上では多様な生物が存在し、それぞれがつながりを持ち絶妙なバランスをとりながら生態系を保っている。10月に「国連生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が名古屋市で開催されるのを前に、国内でも関心が高まりつつある。しかし、国連は最新の報告書で「2010年までに多様性の損失速度を顕著に減少させるとの国際目標は達成されなかった」と結論づけた。今後、私たちは生物多様性をどのような視点でみつめ、問題解決に向けてどう対処すべきなのか。現状を踏まえながら、国内外の有識者に聞いた。

 ◇「種子バンク保存50万種に」--ケリー・フォウラー、グローバル作物多様性トラスト事務局長

 気候変動の影響が考えられる干ばつや高温によって、アフリカや南アジア、中南米で農作物の不作が続いている。こうした中、乾燥や気温の変化に適応できる品種を後世に残すため、世界中の農作物の種子を永久凍土下の地下施設で保存する「種子バンク」と呼ばれる取り組みがノルウェーの極北の島で進められている。保存する種子はアジアやアフリカをはじめ、世界各地から集められ、すでに50万種を超えたという。同バンクを運営する非政府組織「グローバル作物多様性トラスト」(本部・ローマ)のケリー・フォウラー事務局長に話を聞いた。【山本建、写真は山田茂雄】

 ◇種子バンクを作ったきっかけは。

 同じ遺伝子資源を持つ商品作物が世界中で栽培されるという農業分野のグローバリゼーションは、作物の多様性を損なっていることが、国連食糧農業機関(FAO)での植物遺伝子資源に関する議論で明らかになった。

 近くのスーパーに置いているリンゴをご覧いただければ分かるように、消費者の嗜好(しこう)に合わせて品種のブランド化を進めた結果、ごくわずかな品種しか栽培されなくなっている。全世界的に進行する気候変動のような変化が起きた時に現在の品種では適応できないのではないか。いま絶滅の危機にある品種が、変化に適応できるかもしれない。そう考え、08年に種子バンクを設立しました。

 ◇実際に、どのぐらいの品種が減っているのですか。

 例えば、1880年代の米国では、農家や園芸家が自分の名前を冠した7100種のリンゴを育てていました。ところが、今ではそのうち6800種が絶滅してしまった。私が米国で講演した際、その絶滅したリンゴのリストを示して「この中に自分や家族の姓がある人は手を挙げてください」とお願いしたら、ほとんどの場合3分の2程度が手を挙げました。実は私の姓、フォウラーもその中に含まれています。それぐらい品種が絶滅する速度は深刻なのです。

 ◇種子バンクの仕組みは。

 各国政府や国際機関を通じて入手した在来種の種子500粒程度を乾燥させ、保管庫に収めています。保管庫の内部は温度が一定に保たれ、気候変動や災害などが発生しても後世に遺伝子資源を残すことができる。いわば、植物の〓ノアの箱舟〓のようなものです。現在保管している品種は50万件を超えて52万6000件となっており、最終的にはこれまでの農作物の品種を合計した450万種に増やしたい。

 ◇これまでに収集した品種はどのようなものですか。

 気候変動に対する脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されているサハラ砂漠以南のアフリカや南アジア、中南米でこれまでに栽培された豆類や麦類、トウモロコシはかなりの品種を保存することができました。最も多くの品種を収集できたのはアジアで、19万品種を収集しています。アジアで広く栽培されているコメは20万~40万品種もあり、とても品種が多様です。これは温暖で多湿な気候に加え、多様な文化がはぐくまれてきたからです。

 ◇2月に来日し、日本政府に支援を要請しました。

 10月に名古屋市で開催されるCOP10に向けて、日本は生物多様性に関する課題について国際社会に対し、アピールする機会を与えられています。里山の生態系を大切に守ってきた日本人の自然観や生き方を考えれば、私たちの活動を理解してもらえるでしょう。自然の恵みが豊かな日本では、作物が絶滅することについて想像しにくいかもしれない。しかし、作物の多様性は気候変動をきっかけとした水や食糧をめぐる紛争を解決するためにも必要で、国際平和に貢献できるということを理解してほしい。

 ◆いきものにぎわい企業活動コンテスト 来月19日に表彰式

 森や里山、棚田などの田園環境や河川、海などの水辺環境の保全・再生活動に、地域住民や市民団体と協力して取り組む企業を顕彰する「いきものにぎわい企業活動コンテスト」の1次審査を通過した84企業・グループがこのほど決定した。受賞企業は最終審査によって5月下旬に決定し、6月19日に東京都港区の環境学習施設「エコプラザ」で表彰式が開催される。

 同コンテストは、10月に名古屋市で開かれるCOP10を契機に、持続可能な企業活動を推進するのが狙い。経団連自然保護協議会、社団法人国土緑化推進機構、社団法人日本アロマ環境協会、財団法人水と緑の惑星保全機構の4団体が主催し、環境省と農水省が後援している。

 1次審査を通過した企業の取り組みを一部紹介する。

 ◇森をつなぐヤマネの通り道

 道路や鉄道などにより森林が分断され、ニホンヤマネ(準絶滅危惧(きぐ)種)やヒメネズミなど木の上にすむ小動物の採餌や繁殖行動に支障が出るため、大手ゼネコンの大成建設ほか3社が自然保護活動で実績のある財団法人「キープ協会」の協力を得て分断された森林をつなぐ「アニマルパスウェイ」を研究開発した。

 07年7月に最初のパスウェイを山梨県北杜市の道路上に高さ6・4メートル、長さ13・5メートルにわたって設置、3カ月で800回以上の利用を確認した。これまでの類似の施設にかかった費用の10分の1程度で設置することができたという。今年3月には2号機も完成している。大成建設は今後、このアニマルパスウェイを国内各地に普及させる予定だ。

 ◇国産竹を使った紙で竹林整備

 旺盛な繁殖力で周辺の里山を覆ってしまい、森の多面的機能や生物多様性を低下させる竹を資源として有効活用し、竹100%の紙を作ることに中越パルプ工業が成功した。

 鹿児島県薩摩川内市にある同社川内工場では、手入れがされないまま荒れている放置竹林対策として鹿児島県の要請で、98年から竹を素材とする紙の開発に取り組んできた。竹林を定期的に伐採することにより、その周辺にある里山も保全できるという。

 同社は、さらに自社製品の売り上げの一部を里山の整備を担うNPO法人「里山保全再生ネットワーク」に寄付することにより、地域住民とともに経済的負担を分かち合いながら竹資源の有効活用に取り組んでいる。【山本建】

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 ■ことば

 ◇グローバル作物多様性トラスト

 国連食糧農業機関(FAO)や国際農業研究協議グループ(CGIAR)などの協力の下に設立された。理事の一人にノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイさんがいる。将来の食糧安全保障に向けて作物の多様性を確保し、その利用を可能とすることを目的としている。ノルウェーの最北部にあるスピッツベルゲン島の永久凍土に覆われた山の中腹にトンネルを掘り、08年から種子を保存している。公式ホームページはhttp://www.croptrust.org/

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 ■人物略歴

 ◇ケリー・フォウラー氏

 ノルウェー大学国際環境開発学部教授を経て現職。30年以上にわたって環境保全の研究にかかわる。90年代には国連食糧農業機関(FAO)の植物遺伝子資源に関する会議の議長を務めた。フォウラー氏による種子バンクの説明は、http://www.ted.com/speakers/cary_fowler.html

毎日新聞 2010年5月22日 東京朝刊

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