宮崎県で感染が拡大している家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」は、アジアをはじめ世界各地で発生、流行を繰り返している。その経験をその後の封じ込めに生かした国・地域もある。英国、韓国、台湾の実例を紹介する。
■英国 失敗で学び封じ込め
【パリ高木昭彦】英国では2001年に口蹄疫が猛威を振るい、約2030施設が感染した。殺処分された家畜は600万頭を超え、損害額は80億ポンド(約1兆円)にも達した。翌02年の調査機関報告書は「政府の危機管理の失敗」として、初動対応の遅れやワクチン接種を見送ったことなどを挙げている。その教訓は、07年の発生時の感染拡大防止につながった。
報告書によると、政府は01年の発生当初、感染規模を見誤り、移動禁止決定が3日間遅れた。これにより殺処分の家畜頭数が「2倍に増えた」。1967年発生時の報告書で既に、殺処分などに軍隊を早期に動員するよう提言していたものの、最初の感染確認から軍動員まで4週間を要した。
英国はそれまで、殺処分が家畜伝染病の主な対応だった。ウイルスを弱毒化したワクチンをいったん導入すれば、輸出禁止措置を受けない「清浄国」への復帰に時間がかかることから、当時の政府は畜産農家団体から圧力を受け、ワクチン接種を見送った。こうした対応が重なって感染は7カ月間続くことになった。
また、感染が短期間で一気に広がった背景として、家畜処理場の集約化や畜産農家の大規模化により、家畜の移動が長距離かつ頻繁になったことも指摘された。
英政府はその後、感染の早期発見体制の確立や感染発生時の政府の権限強化などを進め、07年8月の発生時は政府が即座に移動禁止措置を導入。ほぼ1カ月で感染を終息させること成功した。
■韓国 処分迅速 拡大を防ぐ
【ソウル神屋由紀子】韓国では今年4月8日に北西部の仁川市で牛の口蹄疫感染が見つかって以降、ソウル周辺の京畿道や中部の忠清道に感染が拡大。ただ5月6日の報告例を最後に新たな感染は出ていない。ワクチン接種を決めるまで、殺処分対象を発生農家に限定していた日本と異なり、当初から感染が確定した段階で周辺農家も対象としていたことが功を奏した格好だ。
韓国農林水産食品省によると、家畜伝染病予防法に基づく殺処分の対象は、発生農家から半径0・5-3キロ以内の全家畜。これまで牛や豚など計約5万頭を処分した。
さらに全国82カ所の家畜市場を一時閉鎖したほか、家畜輸送で使われる道路に約千カ所の消毒ポイントを設け、発生地域以外でも防疫態勢を強化した。同省は「素早い対応が感染拡大防止につながった」とみている。
殺処分の対象となった農家86戸には所得補償を実施。約600億ウォン(約45億円)と概算し、すでに支給を始めている。
■台湾 遅れ響き豚輸出壊滅
【台北・小山田昌生】台湾では1997年に口蹄疫が広範囲で発生し、豚380万頭を含む家畜500万頭が殺処分された。行政院農業委員会動植物防疫検疫局の許天来局長は「あの時は第1例の発症から感染確認まで時間がかかり、その間に感染が急速に広がった。今回の宮崎の例とよく似ている」と語る。
それまで台湾は豚肉輸出地だったが、日本などの主要輸出先が禁輸措置をとり、養豚業は深刻な打撃を受けた。農家のほか、飼料や食肉加工、運輸、販売などを含めた関連産業の被害総額は1800億台湾元(約5040億円)。台湾の養豚総数は口蹄疫発生前からほぼ半減した、現在の飼育頭数は約600万頭で、輸出産業としての豚肉は成り立たなくなった。
97年からの流行後、台湾ではワクチン接種を基本に感染防止に努め、いったん沈静化した。しかし2009年2月、中部の二つの養豚場で8年ぶりに口蹄疫感染を確認、約700頭が殺処分された。発症したのは口蹄疫の撲滅を確認するためにワクチン接種をしていなかった「おとり豚」だった。現在は豚と牛全頭にワクチン接種を再開している。
=2010/05/23付 西日本新聞朝刊=