2010年5月17日10時36分
各地の劇場や音楽ホールの自立を促す動きが、国レベルで進んでいる。文化庁は予算16億円で、全国80地域の劇場・ホールによる独自企画を支援する新規事業を発表した。しかし、人材や設備を整えるための議論がないままでは、現状の地域格差をより広げるだけでは、との指摘もある。ビジョンが見えぬままのかじ取りに、現場に混乱も広がっている。
■文化庁支援事業、「突然」と現場混乱
「こんな短期間で、いきなり数千万円単位の企画をと言われても……」「今から演奏家やオーケストラを押さえられるんやろうか」「とにかく、今ある企画との落としどころを探さないと」
12日に文化庁が開いた新規事業「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」の説明会。申請の締め切りが今月31日とされ、自治体やホール関係者から動揺の声があがった。昨年末の事業仕分けでの議論を受けたもので、地方発の公演を支援するのが狙い。個別の団体ではなく各地に「拠点」を育てる、という施策の方向性も反映している。
これまでは芸術性の高い企画が対象に選ばれる傾向が強かったが、新たな助成は「地域の人々に支えられ、なおかつ地域の特色を生かした自主企画を応援したい」と小松圭二・文化活動専門官。
ただ、地域で専門家をどう育て、寄付控除の仕組みをどう整えるか、などといった議論を置き去りにしての突然のスタート。5年を限度とする継続支援のため、「ホールなどの企画・運営を委託している指定管理者が代われば方針も変わる可能性がある」と申請に二の足を踏む団体もある。この日参加していた関西のホール担当者は「県での予算はすでに固まっている。いまさら新たな財源を確保できるかどうかが一番の不安」と漏らした。
「地域性と芸術性、両輪で文化の土壌を育てるには、公演の質を見極めて適切に指導する、英国の『アーツカウンシル(芸術評議会)』のような政府の外郭団体を早急につくる必要がある」と昭和音大オペラ研究所の石田麻子准教授は指摘する。